06/10/23 01:09:46 f1s6J+fA
やどかり、と呼ばれるその人ならざるものは、その名の由来である甲殻類の生物と同じように、いつの間にか民家に住み着き、いつの間にか去っていくのだという。
詳しくは分かっていないが、住み着いた家を自分の縄張りとし、その縄張りの中にあるものを自らの所有物として守る性質があるらしい。
満月の夜に発情状態になる事から人狼の亜種ではないかと疑う人もいる。
人に好意的なその姿は偽りで、いつかこちらに牙を向くと怯える人もいる。
かと思えば、そのハサミの如く奇妙な形をした手以外は人と変わらぬ様に見える為に、魔物と戦う為に人が進化適応していったのではないかと言う人もいる。
人や農作物を魔物から守るというその性質から、豊穣の神の使いだと崇める人もいる。
「ほら、あーん」
「……」
「どうせその手じゃ食べられないでしょ? ほい、あーん」
「いや、自分でくえる! わ、私を誰だと思ってる!」
「やどかり様です。ありがたや。はい、あーん」
「大体そんな事、一度もしてこなかったじゃないか。もしかして、怒ってるのか? いや、放っておいてすまなかった。このとおり」
「……別にそんな事ないですよ。何人の人に笑われようと、そんな事で怒らないですよ。僕は」
「まったく。……股間の物と同じで心も小さい奴だのう」
「ちょ! おまっ! さっさと食えよ!」
結局の所全ては憶測の域を出ず、何も分からずじまいである。
(了)