妄想的時代小説part2at EROPARO
妄想的時代小説part2 - 暇つぶし2ch45:皇女裏伝説
06/11/20 23:59:09 9IzZvk0Q
 初めは何を言われているのか、全く理解できないでいた。
 ―宮を徳川幕府に降嫁……? この者は、一体何の話をしているの?
 読み上げられている書状は、和宮にとってまるで舞台芝居の口上を聞いている様な、現
実味から程遠い内容であった。
 「お兄様。この者達は何を言っているの? 書状のあて先を間違えているのではなくて?
 宮には意味がわかりませんわ」
 和宮は黙って聞いている熾仁の傍に擦り寄ると、袖を掴んで不思議そうに聞き返した。

「……つまりは、この婚約を解消し、和宮内親王を徳川に下げ渡すから返せ、という事で
あるようだな」
 熾仁はあまり驚いた様子もなく、和宮だけではなく書状を携えた使者にも聞こえる様に、
抑揚の無い声で言い放った。
 御簾の向こう側では、書状を漆塗りの箱にしまった使者が正座し直し、無言で頭を下げ
る事で『御意』という肯定の意を示す。
 和宮は混乱し、熾仁の袖を掴んだまま誰にともなく叫んだ。
「嘘よ! 宮はもうこの有栖川宮家に嫁ぐものと、九年も前から決まっているのです!
 お決めになったのは現帝である兄上様だわ! 兄上様が今更そのような事を仰る筈はあ
りません!」

 しん、と静まり返る室内では 誰もが俯いたまま口を開こうともしない。
 重苦しい沈黙の刻を、和宮の悲壮な声が打ち破った。
「嘘よ……。そんなお話、兄上様とてお許しになられる筈が無いわ……。お兄様だって、
承諾などなさらないでしょう? ねっ!? そうだと仰って!? お兄様!」
 縋り付く和宮に居住まいを正させると、熾仁は漆塗りの文櫃を御簾越しから受け取った。
 文櫃の御紋も、書状に記された印も、確かに帝のものである。

 しばらく書状に目を通した後、黙ってそれを和宮に渡した。
「嫌っ! 宮は信じませぬ! 書状も見ませぬ! 兄上様に……今上帝に直接お会いして
確かめます!」
「和宮よ、それは余りに無礼であろう。落ち着きなさい。この書状も使者も正式なものだ」
 和宮は頭を振って文櫃を床に投げ捨てると、御簾の向こうで平伏する使者を見据えて立
ち上がり、声高に告げた。
「御上に和宮がお会いしたいとお伝えなさい! 急いで戻って伝えるのです! 宮はこの
書状等だけでは、御上のお言葉とは信じかねますと!」
 使者はしばらく平伏したまま無言で佇んでいたが、一呼吸おくと静かに答えた。
「では、そのお言葉を御書面にお書き添えください。某では陛下に口伝などできる身分で
はありませぬ故」
「な、なんと愚鈍なのっ! ……わかりました。書いてあげましょう。その代わり、必ず
きちんとお返事を頂いて来る事を、任として命じますよ!?」
「―御意に」
 半ば癇癪を起していた和宮は女官に筆を用意させると、震える手で意を書き連ねた。
 香を焚き染めた和紙を数枚失敗し、やっと書き上げた書状を女官から使者に手渡させる。
「確かに承りまして御座います。それでは、本日はこれにて失礼仕ります、後無礼をば」


 使者が立ち去ると、和宮は熾仁に縋って泣き始めた。
「お兄様っ! 宮を、宮を離さないで下さりませ! 宮はお兄様以外に嫁ぐ気はございま
せぬ! 宮は『皇女』です! 粗雑な武将への降嫁など、恐ろしくて考えたくもございま
せんわ!」
「和宮。落ち着け。これは『政』なのだ。我らが一存のみでどうにかできるものではない」
「嫌っ! そんな風に仰らないで! お兄様は宮を手放してもいいと仰るの? 宮は……、
宮は……っ!」
 泣きじゃくりながら縋りつく和宮の長く豊かな髪を、熾仁はあやす様に撫で付けた。
 いつもの様に抱きしめてはくれない熾仁に、和宮は自ら衣装を紐解き肌を重ね始める。
「やめなさい、和宮。出礼が下された今、其方はもう慎まなくてはならぬ」
 その瞳に情欲を映す和宮を、熾仁は言葉では制するが強固に振り払おうとはしなかった。
 自分の物ではなくなろうとしているこの少女に、熾仁は名残惜しさと情欲が湧き上がっ
ていた。


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