【隅っこ】無口な女の子とやっちゃうエロSS【眼鏡】at EROPARO
【隅っこ】無口な女の子とやっちゃうエロSS【眼鏡】 - 暇つぶし2ch533:かおるさとー
07/04/09 02:59:57 agh/IXb8
部屋に入ると、静梨は読書中だった。
守の姿を見て、すぐに本を閉じた。顔を上げるが、見ない人間がいるのに首をひねる。
「あ、こっちはいとこの子。同じくらいの歳だし、話し相手にもちょうどいいかな、と思って」
「初めまして、依子です」
静梨はしばらく依子を見つめていたが、やがてメモ帳に文字を書き込んだ。
『水本静梨です。ありがとう、来てくれて』
二人は頭を下げる。
「なるほどね、マモルくんが御執心なのもわかる」
「御執心て……」
「静梨ちゃんが可愛いってことだよ」
「……うん、そうだね」
『あなたもすごく綺麗だよ』
「ありがと。でも『あなた』じゃなくて依子だよ」
『どんな字?』
「依頼の依に子どもの子」
『苗字は?』
守の息が一瞬止まった。
しかし依子は淀みなく答える。
「マモルくんと一緒だよ。遠藤ね」
静梨は何も疑うことなく頷く。
そのまま会話が進んだので、守は安堵した。苗字のことで依子が傷付くのではと思ったが、いらぬ心配のようだ。すらすらと嘘をついたのには驚いたが。
「マモルくんの好きなもの? カレー大好き人間だよ」
いつの間にか、話が余計な方向に進んでいた。
「一週間カレーでもいいっていうくらい好きだし、ライス限定じゃないし。ふっくらふわふわパンにカレーをかけるあのうまさが、なんてどっかの女神に選ばれた魔法使いの英雄みたいなことを言うし」
「依子ちゃん!」
慌てて大声を出すが、依子と静梨は同時に人差し指を立てた。病院内ではお静かに、と無言で注意される。
押し黙った守の姿に、動作がかぶった少女二人は顔を見合わせた。依子がにこりと笑い、静梨はうんと楽しそうに頷く。
参ったな、と守は小さく苦笑した。

「見えた?」
病院を出て、守は依子に尋ねた。
「見えたよ。小さな糸だったけど、まだ残ってる。辿ってみようか」
依子が先導する。守には見えないが、静梨から伸びる縁の糸を辿っていっているのだろう。
「確かに犯人に繋がっているの?」
「静梨ちゃんから伸びる糸で一番ぼろぼろのやつを辿ってるの。そういうのは大抵自分が傷ついたり、相手の心を傷つけたりして出来た糸だから」
「……じゃあまず間違いないわけか」
熱射がアスファルトを熔かさんばかりに強い。守は額の汗を拭い、左手の缶ジュースから水分を喉に入れた。
依子はあまり暑さを気にしてないようで、くるくると元気な足取りだ。交差点を渡り、離れた住宅団地の方へと向かう。
「遠い?」
「そうでもないかな。二、三キロくらいしか離れてない」
静梨の家も比較的近い場所と聞いている。やはり顔見知りの犯行なのか。
「でも、見つけても証拠がないわけだから、逮捕なんて出来ないんでしょ? あまり意味ないんじゃないかな」
「そんなことはないよ。事件の解決はともかく、静梨ちゃんの傷を癒すには誰かが理解しなければならないから」
静梨の声と笑顔を取り戻すためには、彼女自身が事件を乗り越えなければならない。それを間接的にでも助けるには、誰かがトラウマの根っこから理解することが有効なのではないか。守はそう考えた。
一人よりも、二人の方が勇気が出るから。
その根っこに迫るために、守は事件のことをもっと調べようと思ったのだ。解決のためではなく、理解のために。
縁の糸を辿って犯人を見つけるというのは、ほとんど反則級の代物だが、事件の把握のためには有効な手段だった。
しかし、犯人に会う気はまだない。遠目から確認して、相手を知るだけでいい。
「結局、笑わなかったね静梨ちゃん」
「うん。でも楽しそうな雰囲気は感じられるから、今の状態は悪くないと思うよ」
「でも可愛い子だったなー。マモルくんはいい子に出会えたね」
ジュースを噴き出しそうになった。

534:かおるさとー
07/04/09 03:05:29 agh/IXb8
「……あのさ、さっきから勘違いしてない? ぼくは別に、」
「え? 静梨ちゃんのこと好きなんでしょ」
「だから違うって」
「じゃあ嫌い?」
「そんなことないけど、依子ちゃんが考えるようなのとは違う」
「でも向こうはマモルくんのこと好きみたいだよ」
「……」
多分本当なのだろう。縁の糸を通して、ある程度人と人の繋がりを見抜く依子の言なのだ。
静梨に好かれている。それはとても嬉しいことだった。
だが、多分それは『はしか』のようなものだと思う。たまたま守が彼女を助けたから、それがちょっと心に残っているだけなのではないだろうか。
「お似合いだと思うんだけどなー」
依子は残念そうに一人ごちる。
守はジュースを一気に飲み干すと、深々と溜め息をついた。
「お喋りばかりだけど、ちゃんと辿ってる?」
「当たり前だよ。お喋りは好きだけど、やることはきっちりやる女だよ私は」
「自画自賛は大抵説得力を欠くんだよね」
間髪入れずに頭をはたかれ、守は肩をすくめた。

二十分後。二人は住宅街の中心にやって来ていた。
糸はこの辺りまで伸びているらしい。依子がきょろきょろと周りに目を向けている。守はそれを見守る。
探索の視線が止まった。
依子の目線の先を追うと、短髪の少年が一人歩いていた。
彼はそのままマンションの玄関口へと入っていく。こちらには気付いていないようだ。
「あの子だよ。間違いない」
守は頷く。
「どうする? 近付いて顔を確認する?」
「いや、マンションの中には入れないし、今日はもう帰ろう」
依子は意外そうに目をしばたたいた。
「いいの?」
「うん。あの子は前に会ったことがあるから」
「え?」
驚くいとこに守は話す。
「一回だけ静梨ちゃんのお見舞いに来てた。クラスメイトか何かだと思うよ」
「……あの子が犯人なの?」
「まだわかんない。でも、調べる余地はある」
高いマンションを見上げると、太陽が陰に隠れようとしていた。
太陽にも隠れる場所があるのだ。小さい人間の隠れる場所なんてどこにでもあるし、ましてや過去の出来事なんて隠れるまでもなく日常に埋没してしまう。
その破片を拾うことが、今の守に出来ることだ。理解して、安心させる。不安を取り除く。そのために、目の前に現れた手掛かりを離さないようにする。
探偵でも刑事でもないのだ。事件の解決は警察に任せる。だから、決して踏み込んではならない。
「マモルくん……?」
依子が怯えた表情で呟く。
握り締めた右手に、じわりと汗が浮いた。

それからすぐに、守は少年を調べ始めた。
名前は森嶋佳孝(もりしまよしたか)。静梨と同じ学校に通っている同級生だ。
勉強も運動も成績は並。素行よし。普段の行動で目立つ点は特に見当たらない。
ただ一つだけ重要な点があった。彼は静梨に好意を抱いているらしく、夏休み前に告白をしたというのだ。静梨はそれを断ったらしく、彼は結構落ち込んでいたらしい。
「……で、それだけなんだけど」
駅前の喫茶店『フルート』で、守は依子に報告をしていた。
依子に協力してもらってから一週間が経過したが、その間に静梨は退院してしまった。傷の治りが早く、後は通院だけで十分と診断されたからだ。
静梨を見舞う必要はもうないのだが、代わりにメールのやり取りが続いている。現実とは違い、文字盤の彼女は結構雄弁だった。
そう、彼女の失語と能面はまだ治っていない。
起こった事柄と調べた内容を語りながら、一週間もあった割にはちょっと足りないかな、と守は歯噛みする。それに対して依子が首を振って否定した。
「ようやく納得したよ。なるほどねー、だからあんなに好き好きオーラが出てたんだ」

535:かおるさとー
07/04/09 03:11:09 agh/IXb8
妙なことを言ういとこに、守は首を傾げた。
「縁の糸にね、なんだか変な色が出てたの。糸そのものがぼろぼろだったから見間違いかと思ったけど、そうじゃなかった。あれは好意の色だったんだね」
相手をどう思っているか、相手にどんなことをしたか、相手との関係性によって縁の糸は色や形状が変化するらしい。
静梨から森嶋に伸びていた糸は、森嶋に近付くに連れて好意の色が深くなっていったという。
「逆恨みが原因かな」
「そんな色には見えなかったけど。でも糸は傷だらけだったし、そういうことなのかな……?」
それが一番無理のない解釈だと思えた。縁の糸がぼろぼろになる程に相手を傷つける行為なんて、事件とどうしても結び付けてしまう。それともあれは森嶋の方が傷ついていたのか。
また他にも、大きな問題が残る。
「でも、静梨ちゃんは二人に襲われたって証言していた。最低でもあと一人、誰かいるはずなんだ」
襲った人数は最低でも二人。静梨は顔はわからなかったと言った。ならば森嶋は当てはまらないのか。
だが相手は顔を隠していた。それで気付かなかっただけかもしれない。森嶋に他の仲間がいたとすれば、それもありうる。
守は考えをまとめようと必死に頭を動かすが、いかんせん情報が少なすぎる。
それを見かねて、依子が提案した。
「静梨ちゃんに直接訊けばいいじゃない」
守は途端に眉をひそめる。
「事件のことを直接尋ねるのは気がひけるよ。彼女を傷つけたくない」
依子は呆れた。何を言っているのやら。
「警察なんて踏み込みまくってるじゃない」
「それが仕事だからだよ。あの人たちは義務でやっている」
「義務ですらないのに、こそこそ調べものをしているのはどうなの?」
「……」
「前から言いたかったけど、マモルくんはちょっと臆病なところがあるよね。相手を傷つけたくなくて、中途半端になってしまう」
「……」
「そんなの駄目だよ。理解のためには踏み込まないと。私なら踏み込む」
守は押し黙った。
好き放題言われているが、言い分はもっともだった。相手を深く理解するためには、相手に対する気遣いすら邪魔になるのかもしれない。
しばらくして、青年は頷いた。
「……やってみるよ。静梨ちゃんの退院祝いに遊園地に行く約束をしているから、その時にでも」
「えっ、デートなの? 前言撤回、なかなかやるじゃないマモルくん!」
華やいだ声に守はがくっときた。真面目ムードが二秒で一変ですかそうですか。
ふと思いついて尋ねる。
「あのさ、好意の色ってそんなにはっきり見えるものなの?」
急だったせいか、依子の目がきょとんとなった。が、すぐに答えてくれる。
「まあある程度は。ホント言うと、細かいところまではわからないんだけどね」
「と言うと?」
「恋愛と親愛の区別がつきにくいってこと。二つとも確かな愛情だから、差異が出にくいんだ」
「……」
守は安堵したような疲れたような、複雑な顔になった。依子が首を傾げ、
「どうしたの?」
「いや……なんでもないよ」
疲れた気分になったのは夏の暑さのせい。冷房の効いた店内で、守は自分に言い聞かせた。

その日の夜、メールでデートの連絡をした。
二日後に会う約束をして、守は床についた。


天気は相変わらず快晴だった。
十時に駅前という約束だったので、守は十分前に着くようにした。
しかし、そこには既に静梨の姿があった。
長袖ブラウスにロングスカート。薄い生地だが露出の少ない服装だ。ショートの髪を綺麗にピンで留めて、少し大人っぽく見える。
若干季節に合わない服装だが、あんな事件の後では人目に肌をさらしたくないだろう。スカートさえ着るのを躊躇ったかもしれない。

536:かおるさとー
07/04/09 03:17:45 agh/IXb8
殊更に元気な声で、守は話しかけた。
「早いね。ひょっとして待たせちゃった?」
静梨は首を振り、メモ帳に返答を載せる。
『楽しみで早起きしちゃいました。でも今来たところですよ』
笑顔はないが、うきうきした雰囲気は伝わってくる。守の顔に自然と笑みがこぼれる。
「じゃあ行こうか」
が、歩き出そうとしたところで、袖を引っ張られた。
静梨のメモ帳に新たな文が記されている。
『手を繋いでもらってもいいですか?』
守は目を丸くした。少女はうつむいて、身を固くしている。
素直に可愛いと思った。
袖を掴んでいた手を取り、優しく握ってやる。静梨がばっ、と顔を上げた。
「行こう」
その言葉に、少女は顔を赤くして頷いた。

市街地の端にある遊園地は、夏休みということもあって家族連れが多かった。
静梨がコースターに乗りたいというので、最初はそれに乗ることにした。なかなかの人気らしく、結構な列が出来ていた。
待つ間、守は天空にそびえる異形の遊具を見上げた。人を乗せた鉄の塊が高速で動きまくっている。いや、材質が鉄かどうかはわからないが。
『怖いですか?』
横合いからメモ帳が割り込んできた。横を向くと、静梨が気遣うような表情を向けてきていた。
「そういうわけじゃないけど……いや、やっぱり苦手かな」
それを聞いて再びペンが走る。
『私がついてます! 怖かったらしっかり私の手を握っていて下さい』
その文面に守はつい笑った。
静梨が少しむっとした顔をする。軽くにらまれて、慌てて弁解した。
「ありがとう。守ってくれるんだ?」
そうですと言わんばかりに勢いよく頷く。
列が前に進み、二人の番が回ってきた。
静梨に引っ張られるように守はコースターに乗り込む。
繋いだ手にわずかに力がこもった。
暑い気温の中、その手の温かさは快く感じた。

死んじゃうって。マジありえないって。
コースターから降りて思わず守はベンチに座り込んだ。
静梨には悪いが、手の温度なんか一気に消し飛んだ。横を切っていく風の音や自殺ものの落下、竜巻のように回転する自分は間違いなくあの時死んでいた。
静梨は全くの余裕しゃくしゃくで、心配そうにこちらを見つめてくる。ごめんなさい、ヘタレでごめんなさい。
『少し休みますか?』
いきなりそれはないよな、と無理やり気合いを入れ直す。せっかくの退院祝いだ。頑張れ自分。
「大丈夫大丈夫。次行こう次」
その言葉を聞いて、静梨がペンを執った。
『次はあれに乗りたいです』
指先が示したのは、高速回転する巨大なシャンデリアだった。
『オクトパスグラス』という名のそれには、つり下げられた八つの円形台に固定シートがあり、外側に向かって人々が座っている。つり下げている中央の柱と、各台そのものが回転することで不規則な動きが生まれる代物だ。開発者の常識を疑う。
悲鳴が耳をつんざく。汗がめちゃくちゃ冷たい。
静梨は一見無表情だが、目の奥が期待で輝いていた。
「…………」
今日はもう死のう。ため息すら呑み込んで、守は歯を食い縛った。

時間が過ぎ去るのはとても早い。
時計は午後五時を回った。夏の太陽が沈むにはまだ余裕があるが、十分夕方と言える時間帯だ。
観覧車からオレンジに染まる直前の景色を眺めながら、守は今日一日を振り返った。
シャンデリアに振り回された。樽の中でローリングした。百メートル近い壁を垂直落下した。
遊園地というチョイスは静梨の要望だったのだが、正直なめていた。生きているのが不思議なくらいだ。
途中で入ったゲームセンターやお化け屋敷がなかったら、昼食さえ入らなかったかもしれない。
観覧車は心地よかった。少なくとも滑らないし落ちない。回転はゆっくりだし、揺れも微かなものだ。

537:かおるさとー
07/04/09 03:22:15 agh/IXb8
『振り回してしまってごめんなさい』
静梨がメモ帳を広げて頭を下げた。
「静梨ちゃんが楽しかったならぼくは満足だから、そんなに謝らないでよ」
「……」
申し訳なさそうに小さくなる静梨。
そういう態度はやめてほしかった。静梨の笑顔を見たいのだから、そんな顔はしないでほしい。
それに、今から聞かなければならないこともある。
「ねえ、静梨ちゃん」
呼び掛けに顔を上げる。
訊きたいことがある、と言うと、小首を傾げた。
「森嶋君という子、知ってるよね」
静梨の顔が、心なしか強張ったような気がした。

観覧車が真上に差し掛かった。
「君は事件の時、彼と会わなかった?」
目が微かに揺れる。
しばらくの間の後、静梨はペンを執った。がりがりと強い音が響く。
『なんでそんなことをきくんですか』
漢字も、句読点も、クエスチョンマークもない冷淡な文だった。まるで、冷徹に心を閉じているような、色のない文面。
何かある。それを敏感に感じとる。
何がある? それを明確に問いただす。
「ぼくは彼が犯人なのかもしれないと疑っている」
自分の考えをはっきりと述べる。静梨は何を思っているのか、悲しそうに目を伏せた。
「彼が君に告白したことを聞いたよ。君は優しいから、彼に負い目を感じているんじゃないかって思っているんだ」
いやいやをするように頭を振る。聞きたくないように頭を抱える。
守はかわいそうに思ったが、覚悟を決めて踏み込んだ。
「君は彼をかばっているんじゃない? 彼が犯人と知っていて、それを誰にも言わないでいるんじゃ」
乾いた音が密室に響いた。
平手打ちが守の左頬に鳴ったのだ。
泣き出しそうな瞳で、静梨は守をにらみつける。
「……ぼくは、君を元に戻したい」
負けないように見つめ返すと、静梨は僅かに怯んだようだった。
「正直、森嶋君をどうこうする気はないよ。ぼくはただ、君の声を聞いてみたいだけなんだ。……でも、そのために何をどうすればいいのか、皆目見当がつかない」
それは紛れもない、守の本心だった。
声を聞きたい。笑顔を見たい。本心を知りたい。その思いは真剣で、真摯なものだ。
頬が熱い。その痛みは彼女の心の痛みのようで。
きっと、今なら理解出来ると思った。
「ぼくに出来ることならなんでもする。君の声を取り戻せるならなんでもやれる。だから、どうかぼくを信じてほしい。お願いだから、頼ってほしい」
傲慢な台詞だとわかっていた。何も出来ないかもしれないのに、何か出来るようなことをほざいている。
それでも構わなかった。はったりで彼女を救えるなら、いくらでも虚勢を張ってやろう。
不意に、静梨の手が伸ばされた。
赤くなった左の頬を、癒すように撫でる。守は座席に座りながら、呆然と静梨を見上げた。
小さな空中密室の中で、少女は静かに佇む。
ゆっくりと観覧車が下へと下りていく。まだ太陽はオレンジに届いておらず、強い光が二人を照らしている。
静梨の右手が離れ、ペンを執った。さらさらと静かな音が流れる。
少し長い文のようだ。ページに何らかの文を書くと、裏のページにも何かを記した。
書き終えた文面を見せられ、守はそれを丁寧に追っていく。
『あなたのことを信じたいです。だから信じます。ちゃんとあの日のことを話したいと思います。守さんになら話せるから』
真心がこもった文章は、とても綺麗だった。
文章はまだ続いていた。
『それと、守さんにお願いがあります。聞いてくれますか?』
視線を僅かに上にずらすと、静梨の真剣な顔があった。まじまじとその顔を見つめ、守はやがてこくりと頷いた。
静梨はその所作を認めると、おもむろにページをめくった。
そこにあった内容に、守は、
『今夜、守さんの部屋に連れていって下さい』
観覧車が下に下り切る。密室が、消える。
二人が過ごす遊園地の時間が終わろうとしていた。

538:かおるさとー
07/04/09 03:28:08 agh/IXb8
午後八時。
日の光は完全に地の向こうに消えている。窓の外は真っ暗で、仄かに街灯の光が射すだけだ。それさえもカーテンに遮られ、室内を照らすのは真新しく白い蛍光灯だった。
いつもは一人の、守の部屋。
その空間に今、失語の少女が座っている。
イタリア料理店で夕食を済ませた後、守は静梨の要求に応えて自室へと誘った。
タクシーで移動する間、二人は何のやり取りもしなかった。口もメモ帳も開かず、ただ車の揺れに身を任せていた。
そして、今。
静梨はベッドに腰掛けながら、両手でスカートの一片をぎゅっと握り締めている。
守は困惑気味に頭を振る。何でもするとは言ったものの、何を望まれているのかわからない。守にしか出来ないことというのは何なのか。
「静梨ちゃん……?」
名を呼ぶと、少女は文字を綴り始めた。
差し出された紙に、守は息を呑む。
『今日、泊めて下さい』
何を考えているのだろう。あんな事件があった後で、信じられない要望だった。
「……どうして?」
怪訝な表情でつい強く問いかけた。静梨は口を真一文字に結んで動かない。
「……家に連絡入れるよ。どっちにしろ、昌子さんが心配するから」
微かに静梨の体が震えたが、守は構わず電話を入れた。
コール三回で祖母は出た。
『もしもし』
「あ、昌子さん。こんばんは。ぼくです、遠藤です」
『遠藤さん? いつも静梨がお世話になっております』
声質は柔らかく、慇懃だった。しかしその裏には、孫への心配が見え隠れするようで、守は心底申し訳なく思った。
「すみません。こんなに遅くまで」
『いいえ、大方静梨が我が儘を言ったのでしょう? 御迷惑をおかけしてごめんなさい』
「あの、実はそのことなんですが……」
言いかけたところで、横から何かが耳元に迫った。
静梨の右手が携帯電話を引ったくった。守はいきなりのことに反応出来なかった。
そして、
「お……ばあちゃん……」
守は静梨に何かを言おうとして、固まった。
今……喋った……!?
電話の向こう側からも、驚きの気配が伝わってくる。
「わたし……きょうは……かえ、らない……から」
初めて聞いた声は、何かに耐えるように苦しげだった。
守の目は少女の姿に釘付けになる。
「おねがい……この……きかいを、のがし……たく、ないの……」
少女の双眸に涙が浮いている。
「うん……だい、じな……こと……から」
しかし、その目は何かの決意に支えられているようで、強い光を宿している。
「うん……かわ、るね」
筐体が耳元から離れた。その手からそのまま携帯を返される。
「もしもし?」
『遠藤さん。あの静梨を……』
「え?」
『遠藤さんがよろしければ、今夜静梨をお願い出来ますか?』
「な……何をおっしゃってるんですか。そんなこと、」
『一ヶ月ぶりだったんです。あの子の声を聞いたの』
思わず口をつぐんだ。
『このままずっと喋れないままなんじゃないか、何度もそう思いました。でもさっき、あの子の声を聞けて思ったんです。遠藤さんなら、あの子の笑顔を取り戻せるんじゃないかって』
それは盲信なのではないか。口には出さないが、内心で呟く。
『あの子にはあの子なりの考えがあるんだと思います。だから、少しだけあの子の話を聞いてあげてほしいのですが……どうでしょうか』
すぐには答えられなかった。

539:かおるさとー
07/04/09 03:31:57 agh/IXb8
目を瞑り、しばらく黙考する。
「…………」
まぶたの裏に映るのは、先程の静梨の強い目の光。
「……わかりました」
守は承諾した。
「明日の朝には必ずそちらに送り届けますので、一晩だけ静梨さんをお預かりします」
『ありがとうございます。静梨を……よろしくお願いします』
「はい」
はっきりとした返事を出し、守は通話を切った。
そして、床にへたりこんだ静梨に向き合う。
「静梨ちゃん」
「言いたいことはわかってます……なぜ喋れたのか、ですね?」
静梨の声は先程よりも明瞭になりつつあった。守は頷く。
「あなたがいっしょだからですよ……」
「……え?」
予想外の答えに間の抜けた声が漏れた。
「あの日……私は二人の男に襲われました。目隠しをされて、場所もわからないまま、相手の顔も見えないまま、その……お、犯されて……」
声に苦しさが混じる。静梨は我慢して続ける。
「抵抗したら殴られました。暴れたら蹴られました。痛くて、苦しくて、すごく……怖かったです」
「……」
「私、途中からずっと黙ってました。泣きながら、それでも声を殺してました。どうしようもないくらい汚されましたけど、声を出したらもっと酷いことされるから」
「……」
「気付いたら、声を出せなくなってました。口がいうことを聞かないんです。怖くて、怖くて……」
声が微かに震えている。守は静梨の肩に手をやり、無理しないでと囁いた。大丈夫、と静梨はさらに言葉を紡ぐ。
「でも、守さんがそれを救ってくれました。少しずつですけど、恐怖が薄らいでいったんです」
「……」
「さっき、観覧車の中で言ってくれた言葉、多分あれが一番効きました。あれで完全に、恐怖と向かい合えると思いましたから」
「……」
「あと一つです。声も取り戻せました。笑顔も今なら自然と出ると思います。あとは……温もりです」
「……温もり」
「恋も、愛も、誰だって抱きます。異性に体を許すことだってします。なのにあんな……あんな人達のせいで人の温もりを『怖いもの』だなんて思いたくありません!」
魂からの叫びだった。ずっと奥底に溜めていた思いを、恨みを、憎しみを、悲しみを、全て吐き出すような精一杯の咆哮。
静梨は泣きながら必死で訴える。
「だから、一番大切な人から温もりをもらいたいんです。守さん、あなたから」
零れる涙の雨の中、少女は美しく微笑んだ。
「大好きです、守さん。あなたを誰よりも愛しています。だから、私をどうか抱いて下さい」
少女は自身の心を込めて、愛と願いの告白をした。
守はその真剣な言葉に、ごくりと唾を呑んだ。
重かった。
しかし逃げるわけにはいかなかった。
自分はこの少女に言ったのだ。出来ることならなんでもすると。ならば、受けてやるべきだ。
たとえ、この少女を愛せなくても。
「……わかった」
守は静梨を真正面から見つめる。
「でも、ぼくは……」
「言わないで。わかってますから」
唇に指を当てられ、守は戸惑う。
「え?」
「あなたの目が他の人に向いてることはちゃんとわかってます。わかってて告白したんですから、あなたの本当の答えもわかってます」
少しだけ淋しそうな笑み。
「でも今日は……今日だけは私を愛してくれませんか? 今夜だけ、あなたの心を私に下さい」
ずっと聞きたいと思っていた声が耳を打つ。
ずっと見たいと思っていた笑みが目に映る。
それは恋ではなく、親愛の類だった。それでも青年は青年なりに、少女のことを愛していた。
守はひざまずき、少女の体を優しく抱き締めた。
静梨はとても幸せそうに、青年の胸に体を預けた。

540:かおるさとー
07/04/09 03:36:31 agh/IXb8
裸になった二人は、互いの体に目をやり、同時に恥ずかしそうに笑った。
「あ、あの、私、初めてではないんですけど、実質初めてというか、その」
「気にしないで。ぼくも初めてだから」
静梨が目を丸くする。
「意外だった?」
「は、はい、少し」
「うまく出来ないかもしれないけど、頑張るから」
「私も、頑張ります」
守は静梨を抱き寄せると、ぎこちなくキスをした。
始めはソフトに唇を合わせる。ついばむように、何度もタッチする。
頬や鼻、額、耳と、頭の至るところにキスをした。くすぐったそうに目を瞑る静梨に、至近で微笑みかける。
今度は長く接吻を続ける。深く押し込むように口唇を合わせると、静梨の腕が強くしがみついてきた。
二人は抱き合ったままベッドに倒れ込む。勢いでスプリングが軋んだ。
唇から舌を伸ばし、静梨の口中に潜り込む。すぐに相手の舌を見つけ、つがいのように絡みつく。
守は上から息を奪うかのように覆い被さる。静梨はそれを受け入れ、震える体を下から密着させるために、抱きつく腕に力を込めた。
「んん……んむぅ……んちゅ、はぁっ─ひゃぁ!」
唇が離れた瞬間奇声が上がった。
「ど、どうしたの? どっか痛かった?」
「い、いえ、その……脚に固いのが、」
言われて下を見る。勃起した逸物が柔らかい太股の肉を押し潰していた。
「あ……あの、これは」
「こ、興奮してるんですよね」
「えっとまあ……うん、そういうことみたい」
顔がほてる。互いに慣れてないのもあるが、女の子相手にこんな直接的な話題は、結構恥ずかしい。
「続き、しましょう」
「……うん」
下半身を気にしながら守はまた唇を重ねる。
柔らかい肉感は頭を揺さぶった。果実のような甘い匂いが鼻孔をくすぐり、若い情欲を昂らせる。
互いの唾液が混じり合い、生々しい温度が伝わってくる。口の中は二人の液でぐちゅぐちゅで、たまらなく意識を陶酔させた。
「また大きく……んむぅ……」
相手の口を塞いで、言葉を途切らす。体を寄せ、逸物を押し付けた。それだけでも十分気持ちいい。
長いディープキスを終えると、今度は彼女の胸に目を向けた。視線に気付き、静梨がうめく。
「あんまり大きくないですけど……」
確かに大きいとは言えなかった。ないとは言わないが、膨らみは控え目で小振りだった。
「……がっかりしました?」
不安な声で下から窺ってくる静梨に、守は行動で返した。
「きゃうっ」
両胸を左右の掌で鷲掴む。それだけで乳房は手の中に収まってしまったが、餅のような弾力感が皮膚に返ってくる。
薄くても柔らかいものは柔らかい。ほくろ一つない綺麗な柔肌の中でも、おとなしい双丘の柔らかさは群を抜いていた。
「ん……あっ」
こそばゆいのか、静梨は体をもじもじさせる。
「柔らかい」
「そう……ですか?」
「ちょっと我慢出来なくなりそう。早く入れたい」
「あう……」
真っ赤になる静梨。
左の乳首に唇を這わせた。
「ふあっ!」
強張る肩を押さえ込み、口の中でちろちろと舐める。舌に固い感触が伝わり、さらに興奮を煽った。
左だけでなく右の方も指先で摘み、押し潰す。柔らかい感触が徐々にこりこりと硬くなる。
「ひ……ふうん……、あっ、うんっ……」
可愛らしい喘ぎ声が口の隙間から漏れ出し、少女の体が悩ましげにくねる。
「気持ちいい?」
「はい……頭がぼうっとしてしまいます」
「じゃあここは?」
守の手が静梨の股間に伸びた。

541:かおるさとー
07/04/09 03:41:55 agh/IXb8
が、
「やっ!」
大きな悲鳴とともに、守は突き飛ばされた。
無意識だったのだろう。静梨本人がショックを受けた顔で呆然となっていた。
「ち、違うんです。今のは」
「わかってる。……怖い?」
尋ねると、静梨はうなだれた。
「守さんなら大丈夫だと思ったんですけど……やっぱり、ちょっと……」
「じゃあしばらくこっちに集中していて」
え、と上げたその顔の口に、守は唇を寄せた。
急なキスに少女は驚いたようだが、すぐに集中して目を瞑った。
もう一度、股間に手を伸ばす。
触れた瞬間静梨の体に緊張が走ったが、今度は暴れたりしなかった。恐怖感を与えないよう慎重に秘所を探る。
秘唇は既に濡れていた。
唇や胸をさんざんなぶったせいだろうか。愛液が割れ目から漏れ出ている。
急速に繋がりたい衝動に駆られた。しかしそれはまだ早い。せめて局部をいじられても抵抗しないくらいには慣れさせなければ。
表面の割れ目をなぞる。縦に指を往復させると、静梨はびくりと震えた。
唇を離し、守は訊いた。
「どう?」
静梨は顔を上気させ、
「変な……感じです。でも……嫌じゃありません」
「気持ちいいんだ?」
「それは……あっ」
人差し指を中に侵入させた瞬間、短い悲鳴を上げた。しかしその響きに不快の色はない。
内襞を指先で擦り上げる。狭い膣の中に指を入れるだけでもきついが、第一関節を折り曲げて側襞を擦ると強烈な締め付けが生じた。
「あっ、あっ、あっ、ダメ、そんな、ぁっ」
色っぽい叫声が部屋に響く。
それでもやめずに擦り続けると、愛液が次々と溢れ、下のシーツを濡らした。
もう十分ほぐれたようだ。これなら挿入しても問題ないだろう。多分。
守は指を抜くと、耳元に顔を近付けた。
「静梨ちゃん、いいかな?」
静梨は潤んだ瞳を愛しい相手に向けて、小さな声で呟いた。
「どうぞ、来て下さい……」

ゴムに包まれた肉棒を秘所に当てる。
静梨の顔に怯えの色が浮いた。
「大丈夫」
一言だけ囁く。
「……はい」
信頼に満ちた笑顔。
綺麗な笑顔だ。昨日まで知らなかった顔がそこにある。
静梨は言った。守のことが大好きだと。守の目が他の人に向けられていることを知っていて、それでも好きだと。
確かにそうだったが、守は静梨のことも好きなのだ。だから今日だけは優先順位を忘れて、この娘を真剣に愛したい。守はそう思った。
腰を深く突き出す。うまく入らない。
二度失敗して守は焦った。まずい。これ以上待たせたらまた怯えさせてしまう。
「守さん」
その声にどきりとしたが、静梨は微笑んだままだ。
「あなたが目の前にいるだけで、私、怖くないんです。だから、焦らず来て下さい」
「静梨ちゃん……」
息を吐く。焦った気を落ち着かせる。
三度目の挿入。今度は大丈夫だ。ちゃんと入っていく。
入り口が切り裂かれるように開いていく。亀頭を愛液と肉襞の感触が包む。
「ん……くぅ」
静梨の顔が歪む。痛むのか、苦しげな呼気が生まれては消える。
締め付けが、敏感な性器を強烈に刺激する中、守は一息に奥まで突き入れた。

542:かおるさとー
07/04/09 03:47:44 agh/IXb8
「ふああっ!」
静梨の一際高い悲鳴が虚空へと放たれた。
「い、痛かった?」
涙目で首を振る。
「い、いえ、いきなりだったから……痛くはないです」
「……しばらくこのままで」
「遠慮しないで。おもいっきり、来て」
健気な言葉を守は嬉しく感じた。
腰をゆっくり引いていく。襞々が引っ掛かるように擦れて、体験したことのない気持ちよさが意識を襲った。
次は逆に押し進める。熱い肉の締まりが先端から中ほどまでを圧迫する。
なんと不思議な行為なのだろう。守は陶酔感に満ちた頭で、自らが夢中になっている行為を思う。腰を前後にセンチ単位で動かすだけの単純な動作に、どうしてこれほどの快楽がありうるのか。
「ん……ん、んうっ、あ、あんっ」
抽挿が激しくなるに連れて、静梨の喘ぎが大きくなった。苦痛ではなく、快楽に染まった声。その声が一層守のギアを上げる。
「やっ、はげし……っ、あんっ……あっ、あっ、んっ、んうっ、あっ、あんんっ!」
声が理性の外に飛び出すように乱れる。守は一心不乱に腰を打ち付け、これでもか、これでもかと膣内を蹂躙する。
「静梨ちゃん、好きだ」
行為の中で口をついた台詞に、静梨は掠れた声を返した。
「ありが……とう。でも、んっ、わたしはいち、ばんじゃな、あっ」
「順番なんて関係ないよ」
静梨は呆気に取られる。
「今は、今だけは、ぼくは君のものだし、君は……ぼくのものだ。誰にも渡さない」
「……嬉しいです」
「ぼくも嬉しい。君に想われていることが」
また一段と腰の動きが速くなった。子宮の奥にまで突き入れるかのように逸物をひたすら往復させる。
静梨は守の体にしがみついて、快楽の波にひたすら耐えている。頭の中を巡る脳内麻薬は通常量の遥か上だった。
「まもるさ、わたし、もう─」
「ぼくももう限界だよ……」
ゴム越しに伝わる蠕動が終わりへと導く。射精感が一秒ごとに高まっていく。
そして、
「や、あああ──っっ!!」
絶頂を迎えた静梨が、苦痛にも似た歓喜の声を上げた。
そのすぐ後に、守も果てを迎える。
「ううっ、くっ」
低いうめきとともに、薄い膜の中に白濁液を吐き出す。
次々とぶちまけられる精液。その勢いが衰えるに連れて、虚脱感が全身を包んだ。
静梨は口を半開きにしながら、呆然と虚空を眺めている。
視線が合い、二人はこの世の何よりも近しく笑い合った。
連帯感と満足感がベッドの上を温かく覆うようだった。


「守さん……」
静梨の呼び掛けに守は振り向いた。紅茶を注ぐ手を止め、裸の少女を見つめる。
「何?」
静梨の顔には疲労の色が濃い。今日はゆっくり休んでもらって、明日の朝、家に送ろうと思う。
「事件のことなんですけど……」
「え? ……ああ、もういいよ。静梨ちゃんの声も笑顔も戻ったし、あとは警察に任せて、」
「違うんです。私、まだ誰にも言ってないことがあるんです」
「?」
真剣な口調の静梨に守は首を傾げた。
「森嶋くんのことなんです」
「……彼が、どうしたの?」
静梨は一つ息をつくと、ゆっくりと話し出した。

543:かおるさとー
07/04/09 03:54:00 agh/IXb8
森嶋佳孝は、休みの間ずっと後悔していた。
彼は休みに入る前、同級生の水本静梨に告白をした。静梨はかなり戸惑った様子だったが、結局告白は失敗に終わった。
だからといって諦められるものでもなかった。
それで彼は、休みに入って静梨に迫った。
その結果、静梨は三週間も入院することになった。
自分のせいだった。あんなことをしてしまって、さらに佳孝はその後何もしていない。様子見にお見舞いに行っただけで、謝ることも出来ていない。
彼女は佳孝のしたことを、誰にも言っていないようだった。
それが逆に、佳孝の罪悪感を強くするのだった。

その日の夕方、外出しようとした佳孝は、マンションの玄関を出たところで呼び止められた。
「森嶋君だね」
佳孝が声の方向を向くと、二つの人影が立っていた。
一人は青年で、人のよさそうな顔をしている。歳は佳孝よりも三つほど上だろうか。どこかで会ったような気もしたが、よくわからない。
もう一人は浮き世離れした美少女だった。歳は佳孝と同じくらいに見える。ポニーに結った髪が、清流のように美しく映える。こちらはどう見ても初対面だった。
佳孝は怪訝に二人を見やる。
「なんですか? 何か用が、」
「水本静梨さんのことについて」
その名前に佳孝の口が固まる。
「静梨ちゃんが襲われた日、君は彼女に会ってたんだね」
「……水本が言ったんですか?」
嫌な感じだった。なんなのだこの男は。
「ぼくは最初、君が犯人だと思っていた。顔見知りの犯行だと思い込んでいたから。でも違った。あれはただの通り魔的犯行で、本当に運が悪かっただけだったんだね」
「……」
「でも、君は最初から彼女を狙っていた。あの日、彼女は二回も襲われていたんだね」

森嶋佳孝は顔面蒼白になっていた。
「俺は……俺のせいで水本は……」
守は小さく首を振る。
静梨に聞いたあの日の出来事は、かなり意外なものだった。
静梨は家を出てから、佳孝に呼び止められた。話があると誘われて、近くの公園に行き、そこで急に抱き締められたという。
唇を奪われ、そのまま押し倒されそうになったが、なんとか跳ね退けた。佳孝は力なくごめんと呟き、座り込んでしまったという。
友達との約束があったのですぐにその場を離れたが、佳孝の様子に動揺していた静梨は、背後に迫ったもう一つの危険に気付かなかった。
結果、見知らぬ男達に簡単に拉致され、そのままレイプされてしまった。
直接的に佳孝の行動が原因になったとは言えないだろう。しかし、まったく影響がなかったわけではない。彼が何もしなければ、静梨は無事に過ごせただろうから。
「俺のせいなんだよ……俺が馬鹿な真似をしなければ、あいつはあんな目に遭わなかったはずなんだ」
その声は後悔に満ちていた。
「そうかもね」
守は意識して冷淡に答えた。佳孝はびくりと体を強張らせる。
「でも、静梨ちゃんは君のことを憎んだり、恨んだりしてなかったよ」
諭すように守は続ける。
「君は自分の行動をちゃんと受け止めて、その上で彼女と向き合うべきだ。一回様子見に行ったみたいだけど、ろくに言葉も交わしてないだろう。閉じこもって自分を責めるだけじゃ何の意味もない」
佳孝は急に顔を上げると、苛立ちをぶつけるように叫んだ。
「なんなんだよあんた達は! 何も知らないくせに、偉そうなこと言うなよ!」
「……確かに君のことはよく知らない。でも君も、静梨ちゃんのことを知ろうとしてないんじゃないかな?」
口ごもる少年。

544:かおるさとー
07/04/09 04:03:06 agh/IXb8
そのとき後ろに控えていた依子が口を開いた。
「向き合った方がいいと私は思うよ」
明瞭な声が涼やかに響いた。
「静梨ちゃんはあなたのこと嫌ってないし、あなたはとても純粋に静梨ちゃんのことを想ってる。だったらこれからより強く想えるように、向き合った方がいいんじゃない?」
「……」
佳孝は何か言い返そうとしたが、少女の無邪気な顔に毒気を抜かれ、押し黙る。
「決めるのはあなた自身だから、よく考えてみたらいいんじゃないかな。あ、この人の言ったことは無視していいから」
「……ちょっとひどいんじゃない依子ちゃん?」
守のぼやきに依子はぺろりと舌を出した。
佳孝は力が抜けたのか小さな声を漏らした。
「あんたたち、そんなこと言うためだけに来たのかよ」
守はいや、と首を振った。
「君に聞きたいことがあって来たんだ。事件の日、君は現場の近くにいたはず。そのとき、怪しい車を見なかったかな?」
「車……? ……憶えてないよそんなの」
「じゃあ事件の犯人のことをイメージしてみて。どんな奴とかわからなくていい。憎んだりするだけでいい」
「は、はあ?」
佳孝はわけがわからないといった表情になる。
だが、後ろにいた依子が何かに反応した。
「マモルくん、見えたよ」
守は目を見開いた。
「どう? 追える?」
「行けると思うよ。この子の気持ちが予想以上に深いから、縁が強くなってる。」
「そう、わかった。犯人を直接見たとは思えないから、縁が繋がっているのは車の方かな。……急に訪ねてきてごめんね、森嶋君。君のおかげでどうにかなりそうだよ。ありがとう」
守は頭を下げると、依子とともにその場を後にする。
後ろから佳孝の声がかかった。
「あんた、水本とどういう関係なんだ?」
守は振り返り、答えた。
「……友達だよ。大切な」

男達は暇だった。
何か楽しいことはないか。何かスリルがあってワクワクすることはないか。それを適当に模索し、辿り着いたのが女だった。
ナンパとかではなく拉致して楽しもう。相手も選んで狩っていこう。
最初は女子高生だった。上玉で、そそる相手だった。
呆れるほど簡単に成功した。
自由を奪って、ひたすらに犯し、なぶる。殺しさえしなければ何をしてもいいと思った。
たまらない快感だった。
しかし、そう頻繁に実行するわけにもいかないので、一ヶ月おきに犯行を重ねることにした。
メンバーは三人。前と同じように後ろから女を襲い、車に連れこむ。
たむろしているマンションの部屋を出て、三人は駐車場へと向かった。
すると暗がりの中、駐車場に小さな人影があった。
外灯の光の中で見えたのは、息を呑むほどの美少女だった。
三人はほくそ笑んだ。話はすぐにまとまる。あとを尾けて拉致ることに決めた。
一人が車を運び、二人で少女のあとを尾ける。少女は駐車場を出て、うまい具合いに人気のない小道へと入っていく。
夜の闇の中、二人はそろり、そろりと少女へと近付いていく。
そしてあと五メートルという距離に迫ったとき、標的がいきなりこちらを向いた。
立ち止まってぎくりとした二人に向かって、少女は場違いに微笑んだ。
「マモルくん、GO!」
瞬間、少女の背後から何かが飛び出し、二人に襲いかかってきた。

545:かおるさとー
07/04/09 04:07:27 agh/IXb8
守は暗闇の中、夜目を効かせて右の男の顎に狙いをつけた。下からの掌底アッパーで顎を打ち抜き、意識を刈り取る。
混乱したもう一人の男に左のハイキックをぶちかまし、勢いに乗せて三メートルほど吹っ飛ばした。
当然というべきか、立ち上がれない。完全に失神している。
「ふあー、相変わらず凄いね」
依子が歓声を上げる。
守は気絶した男二人を引きずり、依子に応える。
「術者を守るためにぼくらがいるんだから、これくらいは出来なきゃね」
本家に生まれる術者は人間離れした霊能を有するが、霊能とて万能ではない。
西洋の魔術もそうだが、彼らは物理的手段に非常に弱い。霊能は精神的作用に偏るため、単純な暴力を防げないことが往々にしてあるのだ。
そこで本家を支えるために物理的能力に特化した分家が現れた。
守の家もその一つで、彼はある程度その業を修めている。免許皆伝には遠く及ばないが、素人の暴漢程度なら軽く捻ることが出来る。
「でも、こんなことはもう絶対に駄目だよ。いくらこいつらを捕まえるためとはいえ、囮なんて」
「いいじゃない。うまくいったんだから」
軽口を叩く依子。
だがすぐに真面目な顔になり、
「だって、静梨ちゃんがかわいそうだよ。こんな奴らに弄ばれるなんて。マモルくんだって本当は悔しいでしょ」
「そうだけど、君が囮になる必要なんてないよ」
「大丈夫。マモルくんが守ってくれるから」
その言葉に胸が高鳴る。
「信用してるの?」
「信頼してるの!」
依子は柔らかく微笑んだ。
守も照れ臭そうに笑う。
だがすぐに笑いを収め、後ろの気配に素早く振り返った。
ナイフを持った男が立っていた。仲間だろうか、苦々しい表情で睨みつけてくる。
ナイフと言っても刃渡り四十センチ近くある、ナタのような軍用ナイフだ。通販か何かで手に入れたのだろうか。いずれにせよ完全に銃刀法違反だ。
「依子ちゃん、警察に連絡して」
「うん」
男が中腰にナイフを構えて突っ込んできた。理性が飛んでいるのか、考えなしの殺意がこもっている。
守は呼吸なしで飛び込んだ。間合いに自ら入る。ナイフが守の胴を、
「ふっ!」
ずっと溜めていた呼気を刹那で吐き出し、ほどよく弛緩した体の横を、熊手で捌いたナイフが抜けた。かわすのではなく、脱力やタイミングなど諸々の動きを併せて『反動なく』捌く、一門の業。
相手は何が起こったのかまるで認識していなかった。守は密着状態から男の喉に頂肘を放ち、その肘で一挙動に顎を打ち抜いた。
三十センチくらいは浮いたかもしれない。確かな手応えを覚えると同時に、男がその場に大の字になる。
後ろでお見事、という声が響いた。
守は高揚した気持ちを抑えるために、深く息を吐いた。


始業式の日、静梨は夏休み前と同じ笑顔で登校した。
一部の事情を知っている友達は明るい様子に唖然としたが、立ち直った静梨に気を遣うことなく触れ合った。
いとも簡単に、静梨は日常へと戻ることが出来た。
午前中だけの式も終わり、静梨は帰宅の途に着く。
校門を抜けようとしたところで呼び止められた。
「水本」
振り返ると、同級生の森嶋佳孝が小さく手を上げていた。
少しだけ、心拍が上がった気がした。
「森嶋くん」
声は普通に出た。
佳孝は少し緊張しているようだった。
「あの……」
「ここじゃ目立つから、隅に行かない?」

546:かおるさとー
07/04/09 04:46:41 agh/IXb8
人気のない校舎裏で二人は向き合う。
「ごめん、水本」
最初の言葉は謝罪だった。
「……何が?」
なんとなくわかっていたが、一応尋ねる。
「事件のことだよ」
「やめて」
予想通りの答えに静梨は言葉を遮る。
「あれはあなたのせいじゃない。あなたに謝ってほしいのはもっと別のこと」
「え?」
瞬間、静梨は右手を振りかぶり、無防備な佳孝の左頬にたたらを踏むほどのビンタを叩きつけた。
女の子らしからぬと自分でも思う一発に、佳孝は反射的に打たれた箇所を押さえる。
佳孝は絶句したまま固まっている。
「はい、これでおあいこ」
静梨はにっこり笑って言った。
「おあいこ……?」
「そう。これ以降あの日のことを蒸し返したら、二度と口利かないから」
「……わかった」
静梨は楽しそうに笑む。
「なんで叩いたかわかる?」
「え? ……いや」
「森嶋くんが私の大切なものを奪ったからだよ」
「……?」
人差し指を立てて静梨はゆっくりと答えを教えた。
「ファーストキスだったんだ、あれ」
「!」
「だから私は怒った。おもいっきりひっぱたいた」
「……」
呆然となっている佳孝に、静梨はまた笑う。
「なんてね」
あんまり深刻に考えない方がいいこともある。
「そういうことにしとこ? 私は森嶋くんにファーストキスを奪われたから怒った。それでいいじゃない」
佳孝は目をしばたたかせていたが、やがて小さく微笑した。
「うん。そういうことにしとこうか。でも、俺は諦めないよ」
「何を?」
「これからも水本を好きでいるってこと」
いとも簡単に二度目の告白をしてくる同級生を、静梨はまじまじと見つめる。
守は静梨の想いを認めてくれた。一番じゃなくても、想いを寄せたり寄せられたり、それは決して悪いことじゃない。
そんなたくさんの想いが、その人を支えてくれると思うから。
だから私も認めてやろう。静梨は胸の裡で呟く。佳孝の想いも守の想いも、それぞれで認めてやろう。守がそうして見せたように。
だからといって、
「私には他に好きな人がいるんだけどなぁ……」
困ったように静梨は一人ごちる。簡単には割り切れないのも確かだ。
「でもその人も他に好きな子がいるし……片想いって切ないね」
片想いの相手からそんなことを言われて、佳孝は小さく苦笑した。
「まったくだ」
その同意に、静梨はおかしそうに笑った。

547:かおるさとー
07/04/09 05:15:33 agh/IXb8
おまけ



「マモルくん」
スーパーを出たところで守は依子と出くわした。学校帰りなのか制服姿だ。
「……またカレー?」
買い物袋の中身を見て、依子は呆れた声を出す。
「作ってくれる?」
「いいけど……今から?」
「学校終わったんでしょ」
依子が頷き、守は嬉しそうに微笑む。そのまま並んで歩き出す。
長い八月はもう終わってしまった。これから長い冬へ向けて、季節は移ろいゆく。まだまだ残暑は厳しいが。
「今度さ、実家に帰ろうと思うんだ」
「実家……緋水の家に?」
「うん。一応跡取りだから、色々話し合っておく必要があるんだ」
「そうなんだ。いつ?」
「冬」
「なんだ。まだ先だね」
「一緒に行かない?」
依子は目を見開く。
守は微笑み、
「依子ちゃんはさ、将来どうするの?」
「……まだわからない。私は本家にいられなくなったから、でも……」
「結婚とかは?」
依子はおかしそうに笑った。
「いきなりどうしたの?」
「興味あるから」
「相手がいないよ。……でも、それもいいかもね。私をもらってくれる人いないかなー」
「じゃあ尚更実家に来てもらわないと」
「? どういう意味?」
「うちの親に挨拶してもらいたいから」
「何それ? マモルくんと私が結婚するみたいじゃない」
「イヤ?」

「…………え?」

守が笑って何かを囁いた。それを受けて依子が珍しく慌てふためいている。
夏の終わりを告げる風が、空を駆け抜けていった。
季節はもうすぐ秋を迎えようとしている。
草むらでバッタが一匹、キチキチと音を立てた。

548:かおるさとー
07/04/09 05:31:47 agh/IXb8
以上で終わりです。題名を考えるのが意外と難しい……。
>>367のシチュエーション無口に類するでしょうか。あと筆談も。
今回も微妙に『縁』がからむ話です。前二回に比べてちょっと特殊要素が多いです。
一応依子の話はまだ続きます。
というか応用が利くオムニバスなので、いくらでも話を広げられますね。無口スレ以外でも。

549:名無しさん@ピンキー
07/04/09 11:46:42 TQmJv7V0
グッジョブ!

ただ個人的には片思いセクロスはせつなすぎて勃起しない俺

550:名無しさん@ピンキー
07/04/09 12:31:49 SR5MZTlI
GJでした

551:名無しさん@ピンキー
07/04/09 15:33:04 01S7bXUA
いやー、いい感じに切なくなったよ
GJ!

552:名無しさん@ピンキー
07/04/09 17:22:13 6AsVThDK
>>548GJです
俺も感動して勃起する暇がなかった

553:名無しさん@ピンキー
07/04/09 21:54:06 6uTJJ01d
GJ!
レイープが出てくる話はあんまり好きじゃないけど、最後で救われた。
よかったyo!

554:名無しさん@ピンキー
07/04/09 23:45:54 9s8AqhID
4人とも複雑だなぁ。
これからも、色々とあるんだろうなぁ…

しかし、依子さんが霊能者だったとは…
>一応依子の話はまだ続きます。
いや、楽しみですね。依子さんは予想してたより明るい感じでいいですね。

あぁ、私は依子さんの話も読みたいと催促した人間です。

555:名無しさん@ピンキー
07/04/10 00:15:19 hIjP3cG2
>>548
GJです

貴方は神か?

556:名無しさん@ピンキー
07/04/10 00:52:15 ool/0dVc
上手すぎる、神GJ!
続編も心から楽しみにしてる

557:名無しさん@ピンキー
07/04/12 00:41:32 ALibNTv2
保守

558:名無しさん@ピンキー
07/04/15 02:19:27 9lHv5CgP
さすがネ申
GJ

559:名無しさん@ピンキー
07/04/18 19:45:30 V+lvdJWR
ほす

560:名無しさん@ピンキー
07/04/21 01:05:34 iKVPgzsL
ほし

561:名無しさん@ピンキー
07/04/22 23:33:29 7ZhuPxXd
保守します

562:名無しさん@ピンキー
07/04/24 20:51:06 m/+yFPzO
保守

563:名無しさん@ピンキー
07/04/27 01:33:56 njymcz/s
圧縮回避保守

564:名無しさん@ピンキー
07/04/27 15:00:40 LrM9lJqU
名作の後は過疎るの法則
いや、過疎じゃなくて書き込むのがはばかられるっていうか…。

565:名無しさん@ピンキー
07/04/27 15:02:39 dDueKPN4
そして名作を書いた人を叩くという、
スレの根ぐされを呼ぶ方向に誘導するつもりだな?
そうはいくか!死ね!

566:名無しさん@ピンキー
07/04/27 20:24:16 n+GlrmVZ
(´・ω・`)

567:名無しさん@ピンキー
07/04/27 22:20:20 KHaVK1Jh
>>564-565
反応早すぎワロタww
まあ人がいることがわかっただけでもいっか。連休に期待。

568:名無しさん@ピンキー
07/04/29 11:19:14 L1eBz4V7
ほふ

569:名無しさん@ピンキー
07/05/01 00:14:30 58uYvJUv
保守

570:今更だけど
07/05/02 19:39:06 ZnuLyMqA
>>109
       ∧  ∧
       |1/ |1/
     / ̄ ̄ ̄`ヽ、     
    /        ヽ    あの・・・何と言うか・・・
   /  ⌒  ⌒    |   
   | (●) (●)   |   「おし」は蔑称なので使わないほうが 
   /          |  
  /           |   いいのではないか・・・と
 {            |   
  ヽ、       ノ  |   
   ``ー―‐''"   |   
    /          |






571:名無しさん@ピンキー
07/05/03 07:27:46 jscOHqTZ
>>570
別にマスコミでも商業出版でも政治家発言でもないんだから
言葉狩りしてもしょうがなかろう

572:名無しさん@ピンキー
07/05/03 23:34:16 31wySTw0
だいたい商業系にしたって自主規制だし。


気になって調べてみたら、未亡人が差別語になることもあることを知ってびっくり。
個人的には寡婦の方がなんか見下したような言い方だと思うんだがなぁ~。

573:名無しさん@ピンキー
07/05/03 23:40:54 /MxeK9/e
「後家」ってのが差別的だと聞いた記憶があるが、どうなんだろう

574:名無しさん@ピンキー
07/05/03 23:47:11 4W4+HFvP
『お嬢ちゃん』『ボク』という子供に対する呼びかけの言葉も、
某人権擁護団体によれば差別用語らしいです><

使用層のメインが小学生・中学生の掲示板なんかだと、
『障害者という言葉をなくそう!』とまじめに書き込んでいる人がいます><

もうすぐ、日本終わりますねww

575:名無しさん@ピンキー
07/05/04 00:17:29 MXSkFmIx
『障害者という言葉をなくそう!』だって? 馬鹿だなぁ。
どうせ無くすなら「差別」という言葉を無くしてしまえばいいのにww

576:名無しさん@ピンキー
07/05/04 02:40:42 7tTnt6lj
予想外な話題での盛り上がりワラタwいや、興味深い話題だけどな
無口の話もしようぜ。無口じゃ話すのは難しいが

577:名無しさん@ピンキー
07/05/04 03:02:31 ecbUFNYu

みんな無口なら差別用語はなくならないか?
……いや冗談ですおこry

578:名無しさん@ピンキー
07/05/04 05:49:45 Ecxk5yvF
「障害者という言葉をなくそう」って言葉が差別じゃんかww

579:名無しさん@ピンキー
07/05/04 11:23:33 0kP/BxtY
エロなくせば小説化できるんじゃない?
『縁』シリーズ

580:名無しさん@ピンキー
07/05/05 03:13:28 0n1aE8mE
「縁シリーズについてどう思う?」
「…」
「そうかすごくおもしろいか…」
「…」
「早く続きが読みたい、か…
 わかったからパソコン使わしてくれないか?」
「…」
「え、使わすとこういうの見るから駄目?
 いいじゃないか別に」
「…」
「私じゃ満足できないの?って満足できてるに
 決まってるだろ?」
「…」
「じゃぁなんでこういうの見るのってお前なぁ
 こういうの見て実際に付き合えてる幸せを噛みしめてるんだが駄目か?」
「……///」
「うわぁすげー可愛い…ってちょっと待て!こんな昼真っか…」
ちゅ~


反省はしてませんてか誰か文才プリーズ!!

581:名無しさん@ピンキー
07/05/05 08:52:49 wzKq4gzg
いや、GJ

582:名無しさん@ピンキー
07/05/05 14:18:39 uPyMhPcz
無言版の天野美紗緒っちで書こうと思ってる・・・・。

583:名無しさん@ピンキー
07/05/06 19:03:40 ptyOohwn
…ほ…しゅ

584:名無しさん@ピンキー
07/05/06 23:17:39 pNMQWNVy
再び地文なしでの投下

「…くっ……」
「…?」
「どうしたのってお前どこでそんなこと覚えてきた?」
「…」
「パソコンからって何か家に来ては熱心に何かやってると思ったら
 そんなこと見てたのかよ…」
「…」
「とどめって、うわ!」


K.O 2P WIN!!


「ああくそ負けた~」
「…(ガッツポーズ)」
「全く、で、お前勝ったら一つお願い聞いてもらうって
 言ったけど何させるつもりだ?」
「…///」
「はぁ?今日は寝せない?それってどういう…
 おい…まさか…」
「…(ジリジリ)」
「おいちょっと、待て今からなのか!?」
「…」
「今は夜だけど?ってまだ7時だろうが!
 無理だっておい、待て待て!人の話を…」
ドサッ
ちゅ~



地文なしだとひたすら書きやすい
ってか軽くはまってしまいました
でもやっぱり誰か文才プリーズ!!


585:名無しさん@ピンキー
07/05/06 23:35:46 2oiwsbkJ
GJ。文才は求めるものじゃなくて育てるものだぜ。

586:名無しさん@ピンキー
07/05/06 23:52:49 m3Mz5nHu
GJ
読者の想像にまかせっきりってのも面白いかも

587:名無しさん@ピンキー
07/05/07 19:32:53 +Mmkd3A7
>>584
いや、もうその路線で行ってもいいくらいだぞww
それにしても、その彼女は無言だが積極的だなww


588:名無しさん@ピンキー
07/05/07 20:46:28 eG/1FG0P
だ が そ れ が い い !

589:名無しさん@ピンキー
07/05/07 22:32:10 J9JZ6EdU
ちゅ~がいいな、ちゅ~が!!

590:584です
07/05/07 23:22:35 YJxhg7G/
好評なようで何よりです
>>585
その文才が育たんのですorz
地文ありでエロシーン書こうとすると悲惨な目に会います
普通のシーンも何かおかしな感じがする・・・
だから地文なしで書くことに


まぁ神が現れるまでの息抜きと考えて読んでいただければ
幸いですってことでもう一個投下


「なぁ、たまには声聞かせてくれないか?」
「…?」
「いやどうしてって…お前の声が綺麗だから」
「…///」
「やだってどうして?」
「…///」
「そんなこと言われた後だと恥ずかしい?
 ふ~ん、なら意地でも出させてやる」
 コチョコチョコチョ
「…(ジタバタ)」
「むぅ中々やるな」
「…」
「諦めたらって、嫌だね」
コチョコチョコチョ
「…(ジタバタ)」
「…お前って本当に意地っ張りだな」
「……」
「息も絶え絶えに諦めたらって言われてもな~
 …よしならこっちを攻撃~♪」
「…ひぅ(ビク)」
「お、やっと出したな~」
「…///」
「えっ?そこは反則だ?ふふん♪、じゃぁ声聞かせてよ」
「…」
「絶対やだ?…へ~そういうこと言うんだ~」





591:584です
07/05/07 23:24:20 YJxhg7G/
「…」
「ん?もうただ触りたいだけでしょ?
 …そうかも、まぁいいか」
「…!」
「そんな目されたら逆効果なんだけどわかってる?
 てことで~♪」
「…ひぁ(ビク)」
「うん、やっぱりこういうことしたほうが早かったな~」
「…///」
「エッチって言われてもな…お互い様だろ?
 お前もそうとうエッチだと思うぞ?」
「…///」
「そういうことは女の子に言わないのって言われてもな~
 事実だし」
「…」
「えっ?ちょっうわぁ!」
ポフ
「…///」
「もうエッチな女の子でいいもんって…
 なんか…立場が逆転してる?」
「……///」
「コチョコチョした逆襲だ覚悟しろ!?わかった、謝るからちとまて」
「…許さない(ボソッ)」
「何だって?」
「…///」
「私が満足するまではなさない?
 それってまさか…またこのオチか!」
 ちゅ~



以上です
お粗末さまでした

そのうち名前も決めましょうかねぇ

592:名無しさん@ピンキー
07/05/07 23:42:10 P0oUb2QO
GJなんだが…
あまり台詞を繰り返させるのは違和感を感じないか?
そういう技法といえばそれまでだが。

593:名無しさん@ピンキー
07/05/07 23:57:14 OqpgpbqY
地の文を敢えて排した技法はあるにはあるが、
あれはかなり難しかったはず。一歩間違えると作文レベルになっちまう。

俺としてはなかなか果敢だと思う。地の文を入れたシーンもちょっと見てみたいけどね。

594:書く人
07/05/08 18:48:22 0Ou1ibN8
 野生動物の餌付けを連想すればいい。飼いならされた犬などと違い、相手はこちらに意思を伝えようとする努力を放棄し、そもそも求めて来ることも極端に少ない。
 彼女との関係もそんな感じだ。
 彼女はハトと言うより鷹に近い。自立していて依存しない。基本的に人間社会に寄生し養われているハトとは違い、鷹は人がおらず餌付け餌がなくとも生きていける。
 彼女の在り方はそんな感じだ。
 だから彼女とのスキンシップ―気取った言い方はよそう。いちゃこら乳繰り合うのは難しい。
 まずは気分を害さないように近づくところから始める。
 幸いなことに獲物は集中を要する趣味を持っていない。音楽が好きではあるが聞き入るのではなく、音楽が流れる空間でぼうっとしているのが好きなのだ。
 そう言う時こそ好機。
 隣に座る。口に出して許可を取るのがベスト。この時点でわずかでも乗り気でない様子が見えたらあきらめることだ。
 ちなみに最善の反応は、無視。それは拒絶の意味ではなく、是非もなしという意味。いやなら無言でiPODを手にして自らどこかに行くのが彼女の流儀。そこも野生動物に似ている。
 座るポイントは両者が手を伸ばさないと触れあえない距離。いきなり接近しようとし、取り逃がした経験も数多い。
 しばらくして、彼女がこちらをまったく意識ていない瞬間を見計らって、手を伸ばす。
 直接触れるのではない。彼女が気付いた時には、自ら触れれる範囲内にこちらの手があるといった状況を作るのだ。
 急に、彼女がそわそわし始める。こちらの手に気付いた証拠だ。
 こちらの手を見て、つぎにこちらの顔を見て、それから思い出したかのように、コンポや歌詞カードを見て、再びまたこちらの手を見る。
 ここで注意するべきなのは、彼女を注視しないことだ。あくまでさりげなく。
 彼女と野生動物の違いの最たる点は、余計なプライドと羞恥心の有無。こちらが見ている、彼女が手を出すのを期待していると知られれば、羞恥心とプライドが比重を増す。
 一番難しいのはこの時だ。こちらの我慢はこの時点でかなりの長期にわたり、加えて挙動不審の彼女は愛くるしい。そんな状態で愛しい彼女を見ないなど、苦行だ。
 だがその苦行は、果たすだけの価値がある。
 報われるのは、彼女の中の天秤が気恥ずかしさとプライドの反対側に傾いた時だ。
 彼女が、こちらの手にそっと、その柔らかな手を載せる。
 こうなれば、もはやこちらのもの。無言で微笑んでやるもよし、彼女を見ずに手を握り返すもよし。
 彼女は陶器のような白く動きの少ない無表情な顔を、僅かに恥ずかしげに歪んだ赤いものに変えてうつむく。
 ここで辞めるのも乙だが、多くの場合次のステップに進む。
 キスをする。少し強引に、されど乱暴にしない。それが彼女の好みだ。
 押し倒すのではなく、引き寄せて抱きしめて。
 キスを終えたら撫でてやる。性的な刺激を求める愛撫ではない。まるで猫にしてやるように頭や背中をなでてやる。
 初めはこちらの暴虐に対する、無言の抗議である視線を発射してくる瞳も、だんだんととろけて来る。
 やがて、こちらの心音を聞くかのように方耳を胸に寄せ、その全身を預けてくる。
 ここまで来れば、もはや何をしても、彼女は応えてくれる。
 しかし、多くの場合そういしない。なぜなら、あと少し待てば彼女の声が聞けるからだ。




「………シよ?」

 恥ずかしげに、遠慮がちに、蕩けた瞳と真っ赤な顔で彼女が言う、たった二文字。
 それがたまらなく耳に心地良く、心音を加速させる。
 顔を上げさせ、唇を近づけ――


 ――後はお気に召すままに。

595:書く人
07/05/08 18:50:16 0Ou1ibN8
 逆に男も女も、徹底的に会話を省いたタイプを作ってみました。
 三十分程度で作った即興品の上、寸止めですが……どうかご勘弁を。

596:名無しさん@ピンキー
07/05/08 20:08:08 0Ou1ibN8
追伸:無口会話オンリー系の究極は>>24だと思う件について。


597:名無しさん@ピンキー
07/05/08 23:57:26 uH29vr2s
究極認定してしまうと後が続かない件について。

598:名無しさん@ピンキー
07/05/09 11:10:16 bU0nmSLJ
究極でなくても至高になれるんだぜ

599:名無しさん@ピンキー
07/05/09 13:04:04 BG7h2ev/
つまりはアレか。
究極の無口っ娘VS至高の無口っ娘ということか。

究極の方は、普段はぐーたらしているがやる時はやる娘、至高の方は何でもこなせる万能選手でツンデレという
設定かな。

600:名無しさん@ピンキー
07/05/09 15:00:47 Drn2HWwB
でも実際猛禽はあんまり頭よくないって、むかしローレンツ博士が言ってた。

601:名無しさん@ピンキー
07/05/09 17:20:06 W/Q426gb
つまりまったく正反対の性格の無口っ娘二人が主人公を奪い合うという展開ぞな!?

602:名無しさん@ピンキー
07/05/09 17:20:39 Ti9j3yZO
究極だとか猛禽がどうだとかはどうでも良い
要は萌えるか萌えないかだ

603:名無しさん@ピンキー
07/05/10 21:21:11 YWvkWwP4
今、>>602がいいこと言った

604:名無しさん@ピンキー
07/05/10 23:12:39 0jHVUDfh
一日も前だけどなw

605:名無しさん@ピンキー
07/05/10 23:34:59 4W58ez7E
それを言ったらお終いじゃない?w

606:名無しさん@ピンキー
07/05/11 00:05:12 MKmsaOax
みんな萌えつきてhighになろうぜ?

607:名無しさん@ピンキー
07/05/11 13:27:02 0HFLRdwk
萌え尽きる前に止まれ
と助言してみる

608:名無しさん@ピンキー
07/05/11 14:59:02 9tA3t540
そうだな。
尽きてしまったら、そこで終わりだよな。

609:名無しさん@ピンキー
07/05/11 15:04:45 dHErxTD5
いやいや、灰から芽吹き再び萌え上がる者こそ本物だ。

610:名無しさん@ピンキー
07/05/11 17:49:23 8ixMnvwP
>>609
花咲か爺さんに萌えるのか?www

611:名無しさん@ピンキー
07/05/11 20:14:06 N8Li3SvF
爺さんwうぇww

612:名無しさん@ピンキー
07/05/11 22:27:39 0HFLRdwk
そういやそろそろ450KBいくなぁ
誰が次スレ立てる?

613:名無しさん@ピンキー
07/05/11 22:40:12 QDc3pt5C
480KB超えたらでいいと思われ
次スレのテンプレでも考えとくか

614:名無しさん@ピンキー
07/05/11 22:51:44 dHErxTD5
とりあえずこのスレを立ててみて、無口=引っ込み思案ではないということが分かったので、
隅っこは×だな。

615:名無しさん@ピンキー
07/05/12 00:53:59 q94VZt6C
スレタイもテンプレもはシンプルなものの方がいいと思う。
某スレなんかはスレタイのナンバリングで荒れてたし。
テンプレに以前のスレのアドレスと保管庫しか張ってないところもある。

URLリンク(yandere.web.fc2.com)の保管庫をテンプレに入れて、あとは適当でいいんじゃない。

616:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 03:46:02 PvoU1Cmj
こんばんは。トリップつけました。一ヶ月ぶりです。

以下に投下します。
今回は縁シリーズではなく短編です。ちょっと思い付いたので書いてみました。
楽しんで頂ければ幸いです。

617:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 03:50:42 PvoU1Cmj
『隠し事』



梶谷壮(かじやそう)が藤村都古(ふじむらみやこ)に初めて会ったのは九月の末だった。

まだまだ日射しの強い放課後の屋上。
「えーと……」
壮は多少弱まった西日を横に、一人の少女と相対していた。
小さな少女である。壮よりも三十センチは小さい。短い髪を小さくまとめ、心なしかうつむいている。スリッパの色は藍色なので、一年生ということになる。一つ下だ。
ここに来たのはクラスメイトに呼ばれたからである。しかしいざ来てみれば、この縮こまった下級生がいるだけで、他に人影はない。
(ヨシの奴……)
壮は困惑して軽く頭を掻く。
少女が顔を上げた。
「あ……の、」
「うん?」
「私……その……」
随分と小さな声だ。顔を真っ赤にして懸命に言葉を紡いでいる。
これはひょっとして、よくテレビや漫画でやっているあれだろうか。壮は他人事のように思う。まさか自分がこんな場面に立つとは。
いやいやと居住まいをただす。相手は見た感じ真剣だ。こちらも真面目に、
「好き、です。付き合って……下さい」
真摯な眼差しを向けられて、壮は一瞬たじろいだ。が、すぐに持ち直して、
「えっと……藤村さん、だったね」
「は、はいっ」
予想外に大きな声が返ってきた。少女ははっとなってうつむく。まるで自分で出した声に驚いたかのようだ。いや、実際そうなのかもしれない。
おとなしい印象は悪くない。というか結構好みだ。
しかしこれが初対面なのである。軽い気持ちで応えるのは、少しかわいそうだと思った。
「気持ちは嬉しいんだけど、俺、まだ君のことをよく知らない。だから、その……申し訳ないんだけど……」
少女の体がびくりと震えた。
「……まずは友達からでいいかな?」
震えはすぐに止まった。
「……?」
「いや、その……急に付き合うのはちょっと早いかなって思うんだけど……ダメかな?」
ぶんぶんと首を振られた。
「よ、よろしく……お願い……します」
蚊の鳴くような小さな声。
「う、うん。こちらこそ」
少女はぺこりと頭を下げると、足早に階段へと駆けていった。壮はそれを何とはなしに眺めていた。
無難な答えを返したが、よかったのだろうかと壮はしばし悩んだ。告白なんて初めての体験だったから、緊張もした。
これが二人の馴れ初めだった。

618:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 03:53:54 PvoU1Cmj
井上至統(いのうえよしつな)は壮の中学からの友達である。
気のいい男で、多くの友人関係を築いている。容姿、成績共に並。多少運動が得意なくらいで、履歴書には平凡な経歴しか記されないだろう。
しかし、なぜか印象に残る男だ。なんというか、振る舞いや言葉に自信が満ち溢れているようで、人を惹き付ける力がある。面接で強いタイプだ。
壮は少し苦手にしていた。嫌いではないが、常にペースを握られているような気がして困る。
だからこの日の昼休みも、壮は正直至統との昼食に乗り気ではなかった。
「カジ、どうしたの?」
至統は弁当箱から顔を離し、壮に問いかけてきた。
「いや、別になんでもない」
首を振り、ごまかすように焼きそばパンを頬張る。
至統は肩をすくめ、
「僕に気があるとか?」
「何でそうなるんだよ。そんな趣味はない」
「じゃあなんで僕とメシ食ってんのさ?」
「お前からこっちに来たんだろ」
「そうじゃなくて、藤村と食べればいいのに」
壮は言葉に詰まった。
至統は首を傾げ、
「最近どうなの?」
「どうって……」
「藤村とさ。うまくいってる?」
「まあ……それなりに」
言われて壮は都古のことを思い浮かべる。
告白から一ヶ月。二人はそれなりの関係を続けている。
何度か一緒に帰ったり、休日にデートもした。あまり喋りが得意ではないらしく、必要最低限な会話しかしなかったが、壮は、おとなしく控え目な娘がタイプなので、むしろ好ましかった。
まだはっきり返事をしたわけではないが、壮の心は八割方付き合う方向に傾いている。
至統が都古の相談を受けて、一ヶ月前のあの場を作ったわけだが、それに関しては壮は何も目の前の友人に言っていない。礼の一つでも言うべきなのだろうが、至統はあまり気にしないようにも思える。
代わりに言ったのは別のことだ。
「あの子、普段どんな感じなんだ?」
これを訊くためにわざわざ昼食を共にしているのである。壮は己にそう言い聞かせた。
至統はきょとんとした。口の中の唐揚げを噛み潰し、ゆっくりと呑み込む。
「何?」
「だから、普段の様子だよ。何か他と違ったりとか」
「趣味とかかな。本人に聞けばいいんじゃない? ていうか、聞いてないの?」
「テレビドラマが好きらしい。他には特に聞いてない」
至統の目が細まる。
「……何やってんのさ。君ら本当に付き合ってるの?」
「まだ付き合ってるわけじゃない」
「まだ、ってことは付き合う気はあるんだね」
「……」
即返されて、壮は押し黙る。やっぱり苦手だこいつは。
「……なんか、わからなくてな」
「相手のことが?」
頷くと、至統は肩をすくめた。
「わかり合うのはこれからじゃない?」
「いや、そうなんだけど……あの子、なんか隠してるように見えるんだ」
そうなのだ。
壮は都古の振る舞いに小さな違和を感じていたのだ。
話すとき、触れ合うとき、都古は極端におとなしい。というより無口になる。聞けば答えるし、話を振れば合わせてくれる。しかし基本的に口数は少なく、物言いもはっきりしないことが多い。
そういう性質だと言えばそれまでだし、それだけなら壮にとって別に気にかかることではない。
しかし、都古の所作はどこか変だった。
どこがと訊かれると、はっきりとは答えられない。
ただ、例えば会話の途切れた後にふと見ると、なぜか顔を曇らせていたりするのだ。疑問に思って尋ねてみると何でもないとばかりに首を振るだけで、答えてはくれない。
あまり心眼は鋭くないが、その表情は何かに悩んでいるように思えた。
始めは自分に問題があるのかもと自己を省みたが、特に思い至ることはない。
ならば都古自身の問題か。彼女に何か悩みがあって、それは知られたくない類のものなのかもしれない。
あくまで想像内の話だ。
それでも気のせいと言うには、あの表情は深刻に過ぎるように見えた。

619:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 03:57:03 PvoU1Cmj
「あんまり好きでもないの? ひょっとして」
言われて壮は眉をしかめた。
「なんで」
「嫌ってはいないけど、決定的に好きになるほどの理由がない。そういう風に見えるよ」
「……」
全てを見抜かれているような気がした。壮は諦めたように溜め息をつく。
自信家というわけでもないのだろうが、至統はこの言い切りの力が強い。自身の直感的な眼力がおおよそ見誤らないことを、自信ではなく事実として捉えているのかもしれない。
それは、おそらく正しい。
苦々しく思わないでもないが、壮は素直にそれを受け止めていた。
付き合う方向に八割傾いた理由。それは多分に都古自身には関係ないのかもしれない。なぜなら、それは都古そのものを見てのものではないからだ。
おとなしい性格。控え目な態度。かわいらしい容姿。そういったものがたまたま自分の好みにマッチしただけで、壮はろくに相手のことを知らない。
それは少し恋愛とはズレているのではないか。もっと本質的な部分で相手を好きになる、そんな深さが足りない。
別にそれがなしだとは思わない。海のように深い愛情がなくても、浅瀬でパチャパチャ遊ぶ恋愛も存在する。どちらかというと児戯やごっこに類する。往々にして楽しかったりする。
しかしそれでは相手の本気に応えられない。本質に関わる残りの二割は決して軽くない。
ならばはっきり断った方が彼女のためなのかもしれないが、その選択肢は壮の頭の中にはなかった。結論を出すためにまずは理解しようと思ったからだ。
今のところ理解は深まっていない。
「違和感を覚えているのか……」
至統は一人ごちると、水筒からコップにお茶を入れた。落ち着いた動作でそれを飲み込むと、気楽な口調で言い切った。
「カジ。君はとてもいい奴だから、藤村とも絶対うまくいくよ。保証する」
「な、なんだよ急に」
「そのうち違和感なんて綺麗になくなると思う。喉に引っ掛かった魚の骨みたいなものだ」
「……そうだといいけどな」
壮は曖昧に答える。
「藤村が仮に何か隠し事をしていたとして、それは多分君に許せないことではないんじゃないかな。君は優しいから」
「……気持ち悪いな。何か知ってるのか?」
どうにも含みのある言い方に、つい疑念が生まれる。実はこいつはその隠し事とやらを知っていて、自分に黙っているのではないか。
壮は悪人を見るような、疑いの目を向ける。
至統は少しも動じなかった。
「今日は帰りどうするの?」
「さあ。向こうが誘ってきたら付き合うけど」
「たまには自分から誘ってみたら? きっと喜ぶよ」
それは、考えの一つとしてあった。
「そうしてみるよ」
「頑張れ。実際さ、好きかどうかは別にして、藤村のこと結構気に入っているんでしょ」
また言い切られた。
「他の人なら簡単にOKするところだけど、君は変に真面目だから、真剣に向き合おうとする。今は気持ちを整理してる段階かな」
「おい」
「ホントいい男だなー。藤村もそんなところに惹かれたのかな?」
この男にしては軽い口調だった。ひょっとして、からかわれているのか?
壮は焼きそばパンを一気に口に入れると、あっという間に嚥下した。
「……ほんっと嫌な奴だよお前は」
至統はおかしそうに笑った。

620:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:03:14 PvoU1Cmj
放課後。
靴箱の前で待っていると、やがて都古が階段から下りてきた。
壮の姿を認めると、都古はひどく驚いた顔になった。急いで側まで駆け寄ってきて、ぺこりと頭を下げる。
「いつも誘ってもらっているから、今日は俺から誘おうと思って」
「……うれしい、です」
小さな声で囁くと、恥ずかしそうに顔を伏せた。
靴を履き、外へ。並んで校庭を横切り学校を出る。
十月の風はどこか寂しい。寒くはないが、心に吹き荒ぶような印象を残して、淡く響く。
アスファルトに落ちるいくつもの紅葉は、秋真っ只中を嫌でも感じさせてくれる。昨日の雨の水溜まりに、ひらひらと葉が紙のように落ちた。
一ヶ月前まではまだ暑さも残っていたが、今はさすがに気温も落ち着いてきた。すぐにこれから列島は厳しい寒さに覆われる。四季の変化をはっきりと肌で感じとれるだろう。
壮は都古の歩調に合わせてゆっくりと秋の帰り道を進む。
(二人で歩くには少しコツがいる、か)
好きな歌詞だ。君の歩幅は狭い、と心の中で続ける。今は冬ではないが。
カラオケでも誘おうか。ただいっしょに帰るだけというのはもったいない気がした。
彼女がいいと言うならば、どこかに連れていってあげよう。カラオケは無口な彼女には合わないかもしれないから、他のところでもいい。もっと触れ合うことで理解を深めたい。
「あの、さ」
都古が顔を上げた。身長差三十センチは頭一つ分では埋められない。完全に見上げる形になる。
「時間あるなら、どこか遊びに行かないか? ゲーセンとかさ」
都古の目が見開かれた。
しかし、すぐに顔が曇る。
「ごめん……なさい」
「え、ダメ?」
「……家の用事が」
心底申し訳なさそうな様子に壮は居心地が悪くなった。
慌てて手と首を同時に横に振る。
「ああ、いやいや、気にしないでくれ! いきなり誘ったのが悪かったな。用事あるならしょうがない」
どうもうまくいかない。申し訳ないのはこちらの方なのだ。
「……」
「……」
一足早く冬が訪れたかのように、二人の間に沈黙のカーテンが引かれる。
壮は気まずい思いでいっぱいになった胸を掻きむしりたくなった。
この沈黙は駄目だ。何か話題を振らないと、
「うれしい……です」
不意の言葉は、なんのことかわからなかった。
「な、何が?」
「一緒にいるだけで、楽しいです。……嬉しいです」
急にはっきりとものを言われて、壮は呆けたように都古を見やる。
一瞬目が合う。恥ずかしかったのか、都古はすぐに視線を逸らした。
壮は内の気まずさをあっさりと忘れる。代わりに胸の奥が温かくなるのを自覚した。
誰かに真剣に想われるって、こんなに嬉しいことなんだ。
あまり相互理解にこだわる必要はないのではないか。彼女の誠実な想いの前には、いろいろ難しく考えるのが愚かなことに思えてくる。
都古の顔が淡い赤に染まっている。
壮は穏やかに微笑み、口を開いた。
「藤村」
初めてさん付けせずに呼ぶ。小さな後輩は再び顔を上げた。
「ありがとな」
「……?」
怪訝な表情をされる。
特に意味はなかった。自然と口から生まれただけで、壮自身にもよくわからない言葉だった。向けられる好意に応えたかったのかもしれない。
壮はしばらく何も言わなかった。都古も同じく口を開かなかった。
さっきまでの気まずい沈黙とは違った。主観だが冬を越えたような気がした。
斜陽が民家の紅葉の色を深める。少し離れて公園内では公孫樹の葉が舞い散る。街路樹の合間を縫って雀達が茜色の空へ飛び立っていく。
緩やかな足取りで二人は歩く。

621:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:06:36 PvoU1Cmj
しばらく進み、やがて駅前の交差点に辿り着いた。バスに乗らなければならない都古とはここで別れる。
「それじゃ、また明日」
丁度いいタイミングでやって来たバスを見て、壮は都古に軽く右手を振った。
都古は、
「……先輩」
そのとき浮かんでいた表情は、壮がこの一ヶ月間気にしてきた顔だった。
何か言いたいことがあるのに言い出せないような、怯えの色が浮いた顔。
壮は急に現れた事態に言葉を失った。
何をやっている。壮は己を叱咤する。彼女にそんな顔をさせてはいけない。早急に話を訊かないと。
「藤、」
「また……明日です」
壮が何か言う前に都古は挨拶を残し、バスに乗り込んだ。
ショートカットの後ろ髪がドアの向こうに消え、バスが走り去っていく。
呼び掛けの言葉は中途半端に喉に残ったままで、壮は道の先を不抜けたように眺めた。


壮は家までの道を歩きながら、心を決めていた。
明日、返事をしよう。


翌日。
昼休みに壮は一年三組の教室へと向かっていた。都古は確か三組のはずだ。
昨日、返事をすると決めた。
出来れば放課後の方がよかったが、また用事があるかもしれない。返事以外にも彼女と話すこともあった。
壮の答えは『付き合う』だ。
適当に決めたわけではない。残りの二割が完全に埋まったわけではないが、自分の心が少し見えたからだ。
昨日の帰り道、都古から向けられた想いにあてられたかのように胸が温かくなったとき、彼女のことを好きになれると思った。
少しずつ心がはっきりとした形を取っていく。まだ未来形でしか言えない想いだが、今は彼女そのものを見つめることが出来る。
あとは時折見せるあの顔をなんとかしたかった。
何か悩みがあるとして、彼女がそれを打ち明けてくれないのは、こちらがきちんと答えを返してないためではないのか。そのために不安が先立って言い出せないのではないか。
ならば早く安心させてやりたい。彼女の想いに応えて、あの表情を消し去ってやりたい。
緊張で高鳴る心臓を軽く叩き、壮は一年の教室が並ぶ二階へと下りた。


一年三組の教室に都古の姿はなかった。
中にいた生徒に尋ねると、体育館で前の時間に使った用具の片付けをしているらしい。
しばらく待とうかとも思ったが、周りの後輩から好奇の目を向けられたので、その場から離れることにした。その足で体育館に向かう。
すると階段に差し掛かったところで、後ろから誰かが横に並んできた。
「カジ、どこ行くの?」
苦手な声に壮は辟易した。
「どこだっていいだろ」
「つれないな。せっかく大物を釣ろうというときに」
「掛け詞か? それになんだよ、大物とか釣るとか。藤村に失礼だ」
「誰も藤村のことだなんて言ってないよ」
「思ってるだろ。今から体育館に行くんだ。邪魔するなよ」
「それは残念。僕は購買部だ。弁当忘れちゃって」
すぐに一階。頼むから今は視界から消えてくれ。
その念を聞き分けたかのように、至統はあっさり壮から離れて購買部へと向かう。壮はほっとして体育館に繋がる渡り廊下を渡ろうとして、
「カジ!」
予想外に強い声が耳を打った。引っ張られるように呼び掛けに振り向くと、至統は随分と真面目な表情だった。
「藤村のこと、ちゃんと見てやってほしい」
「は?」
「もしも見失ったりしたら、絶対に許さない。僕は君ほど寛容じゃないから」
言い切られた。
刹那、背筋が波打つように震えた。
息を呑んだときには、至統は購買部へと走り去っていた。
壮は友人の残像を目の中で見つめる。思えば彼が怒りのような感情の起伏を露にしたのは、知り合って初めてのことだった。
おそらく彼は─。
優しいのはお前の方だ。そう心中に呟くと、壮は一息に渡り廊下を渡った。

622:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:10:04 PvoU1Cmj
扉のガラス窓から見える体育館内には二つの人影があった。まだ片付けは終わってないようで、壮は入り口で二の足を踏む。
手伝おうかとスリッパを脱ごうとして、その体が止まった。
中から話し声が響いてきた。
「それで、みやちゃんは悩んでるんだ?」
二人しかいないせいか、広い空間でありながら声は明瞭だった。
「本っ気の本気だもん! 馬鹿みたいだけど、それでもそうしないといけなかったんだから!」
さらに強い声が耳を打った。よく通る、耳に心地いいまでの声量だった。
強烈な違和感を覚えた。
声の主は確かにあの都古だった。しかし彼女は、こんなにはっきりものを言う娘だっただろうか。
声がまた響く。
「私、本気で梶谷先輩のことが好きなんだもん……仕方ないじゃない! でも先輩と接点なんてなかったから、私は」
何の話だろう。自分のことが話題にされていて、壮はひどく落ち着かなくなる。都古の毒々しいまでに濃い気持ちが伝わってくる。思わず後退してしまいそうだ。いや、嬉しいが。
もう一人の女生徒の、清廉な声が返す。
「でもみやちゃんは、もう騙したくないんでしょう?」
「うん……」
「じゃあ謝ればいいよ。私も彼氏と色々あったけど、お互いにぶつけあったらすっきりしたよ」
「幼馴染みが相手でしょ? ゆかりちゃんみたいにうまくはいかないよ」
都古の声はどこか気落ちしていたが、よく通っていた。どうも彼女のこれまでの態度と結び付かない。
壮は中の様子をもう少しはっきり見ようと、扉に近付き、
都古と目が合った。
「!」
壮は慌てて扉の陰に身を隠す。話に惹かれて迂濶な真似をしてしまった。
気付かれていないことはないだろう。距離があったとはいえ、たかだか十メートル程度だ。こちらが向こうを確認出来たのだから、向こうも出来るはずだ。
会話がしばし止まる。
それからすぐに足音がこちらに迫ってきた。シューズが床に擦れてきゅっ、と高く鳴る。
壮は観念して扉を開いた。
壮が館内に向けて姿を現す。体操着の知らない女子が一人、目の前に立っていた。
視線を奥にやると、少し離れて都古の姿。
青ざめた顔で立ち尽くしている。壮は頬を掻き、考える。立ち聞きしていたことを謝らなくてはと言葉を探す。
「藤、」
瞬間都古は背中を向け、脱兎のごとく駆け出した。
「え?」
壮はいきなりの出来事に呆然となる。
「みやちゃん!?」
女生徒が都古の突然の行動に驚きの声を上げる。
逃げた。そのことを遅れて理解する。
「梶谷先輩、ですか?」
横から急に呼ばれて、壮は軽く目を見開く。
「そうだけど」
「みやちゃん泣いてました。先輩、追い掛けて下さい」
「きみは?」
「私は邪魔なので戻ります。先輩が一人で行かなきゃダメだと思います。みやちゃんの話を聞いてやって、そして許してあげて下さい」
「は、はあ?」
わけがわからなかったが、壮は言われるままに館内に入る。都古の逃げた先、舞台裏へと走った。
広く静かな空間に、足音が響いた。


舞台の上手側の袖に都古の姿はなかった。
ただ、奥の階段から小さくすすり泣く声が聞こえてきた。階段は舞台真下に当たる地下の用具倉庫に繋がっている。
「藤村ぁー」
声量を抑えて呼び掛けたつもりが予想以上に響き、壮は声を押し殺した。
地下倉庫に下りると、充満する埃に出迎えられた。日陰の冷たい空気に少し体が震える。
横に付いていた電気のスイッチを押す。一つきりの電球が真っ暗な空間を明るく照らした。
隅の安全マットの上で、小さな体が縮こまっていた。
体育座りで顔を両膝に埋めている。小さくすんすんと泣く姿は、小動物のように怯えて見えた。
壮は『本当に』困り果てた。ここに至っても、都古がなぜこんな体を見せるのか、まるで見当がつかなかったからだ。
しかしいつまでも黙っているわけにもいかない。都古に歩み寄りながら、何かうまく励ませる言葉はないかと必死で頭を動かす。

623:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:19:06 PvoU1Cmj
「─」
都古が何かを呟いた。
泣き声の混じったそれを、壮は聞き取れなかった。
「……ごめん、何か言った?」
出来るだけ優しい声で尋ねる。
都古の細い腕に力がこもった。
「……ごめん……なさい」
かろうじて聞こえた言葉は、謝罪だった。
「…………え?」
混乱。
理解が及ぶ前に、都古が顔を上げる。
「私……先輩を騙してました」
「……いや、なんのこと?」
「ごめんなさい……先輩に気に入られたくて、馬鹿なことしました」
「いや、だからさ、説明してくれ」
混乱しきった頭を整理出来ずに、壮は頭を振る。
「私……その、」
都古は数秒躊躇う素振りを見せてから、意を決したように口を開いた。

「私……無口でもおしとやかでもないんです」

どれほど驚愕すべきことを言われるだろうかと身構えていた壮は、そのあまりに意外なあっけなさに目を丸くした。
「……………………は?」
都古はついに言ってしまったという顔をしている。
「先輩って……おとなしい子が、好きなんですよね……?」
「え……まあ、タイプだけど」
頷きながら頭の中をまとめる。
「ヨッシー先輩からそれを聞いて……私、気に入られたくて、おとなしく見えるように振る舞って……」
「……」
彼女の悩みとはつまるところ、『嫌われたくない』、という一点に尽きたのだろうか。
「でも、騙しているのが心苦しくなって……そのうちちゃんと言おうと思ってたんですけど、でも……」
本当に些細なことだった。
しかし壮は、ようやく都古のすべてが見えたような気がしていた。
「藤村」
「は、はい」
「付き合ってほしい」
「……え?」
実にあっさりした口調で、少年は言った。
都古は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて、ぼんやりと壮を見つめる。
自然と笑みがこぼれた。
「会いに来たのは、ちゃんと返事をするためだ。だから、言えてよかった」
都古は肩を震わせると、不安げに問う。
「せ、先輩……怒ってないんですか?」
「ああ」
「それに付き合う、って」
「え、ダメ?」
ふるふる、と首を振る都古。
「嬉しい……けど私、先輩の好きなタイプからかけ離れてます」
壮は肩をすくめた。
「付き合う相手が好きなタイプである必要はないだろ。俺は型じゃなくて人を見て判断する。まだ藤村のこと少ししか知らないけど、これからたくさん知っていきたい。だから─」
壮は都古の正面に膝立ちになると、小さな肩を優しく掴んだ。
「俺と、付き合って下さい」
都古はしばらく上目遣いに見つめてきたが、やがて小さく頷き、夏のひまわりのように笑んだ。
目の端に残った涙の欠片が、淡い電球を受けて微かに光った。

624:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:21:31 PvoU1Cmj
しばらくして、都古が顔を伏せた。
「どうした?」
問うと、少女は腰を起こした。そして体を少年の方に傾けた。
壮は慌てて支える。
胸で抱き止める格好になり、壮は少し戸惑った。急であることもそうだが、体操着越しに伝わる体の柔らかさが、
「……先輩」
「な、何?」
「キス……してもいいですか?」
心拍が一気に跳ね上がった。まるで試験前のような緊張が全身を覆う。
「あ……」
頷こうとしてうまく首が動かなかった。
都古はおかしげに笑うと、返事も待たずに顔を近付けてきた。
小さな顔が、視界を暗く遮り、
「…………」
五秒間、温かい感触が唇を包んだ。
都古の顔が離れる。甘い匂いと柔らかい触りは壮の脳を麻痺させるには十分で、とても惜しく感じた。
都古は嬉しそうに微笑むと、続けて言った。
「……先輩、次の時間サボりません?」
「な?」
唐突な申し出に、大いに困惑する。
都古は深呼吸をすると、壮の胴に腕を回した。体がさっきよりも密着して、壮は意味もなく焦る。
「せっかくの二人っきりですし、その……お、おしたおしますっ」
意味を悟る前に壮の体は後方へと倒されていた。
膝立ちから一瞬で仰向けになった壮の目に、舞台の床を支える木と鉄の骨組みが映った。この上で校長が長々と喋ったり、演劇部がリハーサルしたりするんだな、と今の状況とはズレたことを考えた。
都古は顔を赤くしていたが、やめるつもりはないようだった。
「ふ、藤村」
「服、脱がします」
白く小さい指がカッターシャツのボタンにかかる。たどたどしい手付きがゆっくりと下に移動していく。
上から丁寧に外し終えると、都古は露になった男の裸にごくりと息を呑んだ。見られながら、壮はどうにか拒絶の方法を考える。
「厚い、ですね。男の人の胸板って」
岩盤の肌触りを確かめるように、掌が固い胸を撫でる。心臓の位置に来ると、早鐘を感じ取るように手を止めた。
「藤村、誰か来たら……」
「次の時間、どこも体育はないですよ」
「なんでそんなこと把握してるんだよ……。君……お前、自分のしてることわかってるか?」
呼び方を微妙に変えたが、都古はそれだけで嬉しそうだった。
「わかってます。先輩に処女あげますから、押し倒されて下さい」
「……」
手が微かに震えている。大胆な行動の裏に、やはり怖さはあるのだろう。壮は天井に向けて溜め息をついた。
随分と頼まれ事の多い日だ。すべてをこなしている自分は結構頑張っているのではないか。
「一応言っとくけど童貞だぞ」
都古の目が細かく瞬いた。
「じゃあ初めて同士ですね」
「だから加減の仕方を知らない。痛いかもしれないぞ」
「それは怖いですけど、死んだりはしないと思いますから大丈夫です」
「……女は度胸か?」
「意地ですよ」
即答されて、少年は苦笑。
「男は見栄だ。俺はあんまりないけど、少しはかっこつけたくなる。女の前では特に」
「私も意地はあんまりないですけど、無理やり出します。臆病だから」
壮は体を起こすと、都古を真正面から抱き締めた。
都古は目を瞑ると、壮の胸元で安堵の息を吐いた。
冷たい空気の中で二人は、互いの体を暖め合うように抱き締めていた。

625:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:23:21 PvoU1Cmj
体操着姿の小さな少女が、安全マットの上に仰向けになっている。
その上には、少女よりもずっと大きな体格の少年。
壮はおもむろにカッターシャツを脱ぐ。
「ボタンが一つ外れかけてましたよ」
「ん? ああ、まあな」
「あとで直してあげます」
都古は下からにこりと笑む。
リラックスを心掛けているのだろう。壮は手早く行為に入ろうと思った。
明るい黄緑のショートパンツが目に映る。脱がそうと手を掛け、やめる。そして右手を腹の下から中に滑り込ませた。
「あっ」
短い悲鳴。
「あの、脱がさないんですか?」
「体操着は着衣の方が興奮する」
「そ、そういうものですか。……ひゃっ」
下着の隙間から中を探る。柔らかい股の肉はしっとりと汗がついていた。体育の後だからか。
右手が恥毛の茂みに触れた。この奥だろうか。分けいって入っていくと、下の方にそれらしき感触を探り当てた。縦に筋が延びているようで、人差し指でなぞる。
都古の顔が小さく歪む。
往復してなぞりあげると、今度は指で押してみた。
「っ……あの、多分もう少し下の方、」
少し苦痛の呼気が漏れた。言われるままに指を下に滑らせる。意外と難しいものだ。
思いきって人差し指を中に進入させてみる。
「ひあっ」
都古の体が硬直した。下半身にまで力が入り、中の指が締め付けられた。
「大丈夫か?」
「は、はい、多分」
壮は都古の右手側に膝をつくと、左手で上の木綿シャツをめくりあげた。水色のブラジャーが小さな胸を隠している。
「え? あ、あの」
戸惑いと羞恥の声を上げる都古。壮は構わずブラジャーに手を掛け、上にずらした。
二つの膨らみは体に比例するように小さい。谷間と呼べるほどのフォルムはなく、仰向けでは重力に負けて平に近付いてしまう。
都古は泣きそうなくらいに顔を真っ赤にしていたが、壮にとっては気にするほどのことでもなかった。興奮を煽るには、好きな娘の体というだけで十分過ぎる。
小さな丘の先端に舌を這わせた。
「ん、くすぐったいです……」
左乳首を舌で舐め回しながら、左手で右を摘む。
「ん、く、ん……」
短い呼気を漏らす都古を見て、壮はさらに止めていた右手の動きを再開した。
指を先程よりも深く進入させる。相変わらず締め付けはきついが、少しずつぬめりが増してきている。
「先輩……キスして下さい」
「ああ、俺もしたい」
興奮が高まっていく中、二人は二度目のキスを交わす。
お互いに唇を深く深く押し付け合い、やがてどちらからともなく舌を絡ませ始めた。
唾液や口唇の熱が頭にまで上ってくるようで、壮は風呂上がりのようにのぼせた。
唇を離したとき、都古の目が惚けているように見えた。熱で浮かされているのかもしれない。
右手にじっとりと粘りつく量が増した。ぬめった秘所の内側を擦り上げる。
「ひっ、あっ、んん……っ」
股間の弄りが徐々に大胆になってきているのを受けて、都古の叫声にも色が混じり始める。苦痛の印象はなく、ひょっとしたら快感にまで達しているのかもしれない。
「どうだ。痛いか?」
都古は幼さの残る肢体を悩ましげにくねらせながら首を振った。
「いえ、……でも、あついです」
「熱い?」
「こんなにすごいのはじめて……」
精神的な昂りが性的快楽に繋がっているのかもしれない。こんな薄暗い地下の隅っこで、二人っきりで授業をさぼって、情事に耽っているのだ。
端的に、狂い出しているのだろう。もちろん壮も含めて。
理性は時間が経つごとに薄まっていくようで、壮は秘所をほぐすようにかき回し、胸を触り、乳首に吸い付き、体中にキスの雨を降らせた。
都古の体はどこもかしこも柔らかく、何度見ても、触っても飽きないだろうと思った。どこかを触る度に色っぽさがどんどん増していく。
体全体が桃色に上気していくのを見て取り、壮はようやく秘唇から右指を抜いた。体を離し、都古の顔を見つめる。都古も荒い息を吐き出しながら壮の顔を見つめた。
視線が重なり、意思の疎通が図られる。次のステップへという思いが互いに伝わって、二人は同時に頷いた。

626:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:25:26 PvoU1Cmj
壮はズボンを脱いでいく。トランクスも脱いですべてを晒すと、屹立したものが自己主張をしていた。
「うう……」
都古はまじまじと凝視した。どこか不安げな声を出す。
「怖いか?」
「……不便そう」
ずれた感想に壮は苦笑。
「そういうこともある。急所だから痛いしな。でも気持ちいいことも出来るわけだし、不便でもないぞ」
「それが、入ってくるんですよね、私の中に」
「『気持ちいいこと』をするためにはな」
お願いだから『やっぱりやめる』なんて言わないでくれ。壮は内心で呟く。
都古はまた深呼吸をした。先程よりも深く、長かった。
「……どうぞ」
都古は仰向けのままぎこちなく微笑んだ。
壮はズボンのポケットから財布を取り出すと、中からコンドームを一つ抜き取った。箱ではなくバラの袋だった。
「……準備いいですね」
「い、いや、これはだな、その、駅前でたまたまキャンペーンを、」
「そんな必死にならなくても」
「……。あー、すぐ着けるからちょっと待っててくれ」
果たして逸物は薄い膜に包まれた。
ショートパンツから右脚だけ抜いて、都古も下半身を空気に晒す。
生の異性の性器を初めて目撃した。少々未発達なためか思っていたよりグロテスクではなかった。それどころか綺麗な桃色の花弁は感動すら覚える。
右手で軽く開いてやると、中のまっさらな襞々が透明な液でぬめっていた。
「入れるぞ」
都古の頷きを確認すると、壮は肉棒を陰部に押し当てた。
都古の体が強張る。
壮は何も言わなかった。何を言っても痛くさせてしまうだろうから、挿入は一気に終わらせた方がいいと思った。
しかし簡単には行かなかった。
亀頭が名前通りの遅さで膣内に入っていく。締め付けが強すぎて奥まで進むのにひどく力がいる。
「いっ……痛、いっ、あっ」
苦痛に都古が悶えた。足をばたばた動かそうとして、それが逆に痛みを助長させるので、顔を歪めて叫ぶしかない。
「いっ…あ、くぅっ、ああっ」
かわいそうなくらいに都古は泣き叫ぶ。壮はうろたえかけたが、すぐに気を張って耳元で囁く。
「藤村、落ち着け。痛いだろうけど、」
「抜いて、抜いてっ、だめなの」
言葉は届いていない。苦しげに呻き、首をぶんぶん振っている。
「痛いよ、せん、ぱいッ……いや、こんなのっ」
「都古!」
壮は両頬を手で挟み込むと、都古の声をかき消すように叫び、じっと小さな顔を見つめた。
都古が声をなくす。痛みと恐怖で混乱していたのだろう。何も捉えていなかった涙目の焦点が次第に定まっていく。
「せん……ぱい?」
「痛いなら叫んでもいい。暴れてもいい。でも、俺をちゃんと見ていてほしい。今は一番近くにいるから」
「……」
壮の言葉に都古はおずおずと頷いた。
「せんぱい……」
「ん?」
「……キスして下さい」
間髪入れずに唇を合わせた。安心させるために優しく送り込むと、少女は微かに笑んだ。
「き、来て下さい。今度はもうちょっと頑張りますから」
「無理すんなよ」
行為を再開する。腰を慎重に押し進めていく。
相変わらずきつい。抵抗感が抜けずに進入を拒まれているみたいだ。
それでも少しずつ、奥へと入っていく。襞々がゴム越しに絡み付き、陰茎を強く刺激する。
都古はかなり苦しげな表情を見せていたが、なんとか声を呑み込んでいるようだった。壮にとってはありがたい。

627:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:31:39 PvoU1Cmj
しばらくして、ようやく肉棒全体が中に入った。
「入ったぞ、全部」
「……」
言葉が返ってこなかったのは余裕がないためか。
壮は呼気を漏らすと、腰をゆっくりと引き始めた。内側の肉が擦れて気持ちいい。
「都古、すげーたまらない」
「……ほんと?」
「ああ。最高だ」
都古が嬉しげに笑う。
緩慢な腰遣いで往復を繰り返した。前立腺が反応し、射精へと向けて余裕を奪っていく。
出来るだけ長くこの快楽を味わいたい。その思いに引っ張られて動きがますますのろくなっていくが、焼け石に水だった。
「俺もう限界だ……」
「ん……じゃあ、最後は好きにして……」
その申し出に壮は目を見開く。
「馬鹿。そんなことしたらお前が……」
「いいの……そうしないと、たくさん出せないんでしょ? 大丈夫、ですから」
「都古……」
壮は唇を結ぶと、遠慮なく腰の動きを早めた。
狭い膣内を激しく動くと、凄まじい快感が脳内を犯した。
「ひ、んっ、あっ、うんっ、いっ、あっ、ああっ、ああ──」
都古の喘ぎが大きくなるに連れて、壮の射精感も一気に高まっていく。
決壊の瞬間はあっけなく訪れた。
「みやこ……!」
「んっ、んんっ、あ、あっ、ああぁぁ────っっ!!」
ぐっ、ぐっ、と腰を押し付けて最後の一滴まで絞り出す。薄いゴムの中に白濁液を吐き出すと、壮は強烈な脱力感に襲われた。
大きく息をついて都古の上に倒れ込む。どんなベッドよりも柔らかい感触に、不思議な安らぎを覚えた。
「先輩、おもいー……」
都古のぼやきが耳元に響いたが、壮は疲労で返せなかった。


二人は服を着直すと、マットの上で身を寄せていた。
「まだ何か挟まってるみたいです」
都古に横目で抗議されて壮はうつ向いた。
「ごめん……」
「先輩ばかり気持ちよくなって不公平です」
「……ごめん……」
それしか言えない。実際その通りなのだから反論出来ない。
すると都古は小さく舌を出した。
「冗談ですよ」
「え?」
「私から誘ったことですから、いいんです。それにちゃんと出来たことが嬉しいから」
明るい笑顔に壮は胸がいっぱいになった。
都古の肩に手を回し、小さな体を引き寄せる。
「次はお互い気持ちよくなろうな」
「はい」
二人はにっこり微笑み合う。
誰もいない地下倉庫。冷たく埃に満ちた空間は決して良い環境ではなかったが、二人っきりの静かな場所はとても心地よく感じる。
授業をさぼって過ごした時間は、二人にとって忘れられないものになるだろう。互いの繋がりを強くすることが出来たのは、何よりも素晴らしいことのように思えた。
「そういえば先輩」
都古が何か思い出したのか口を開いた。
「どうして私と付き合おうって決めたんですか?」
尋ねられて、壮は答える。
「決まってる。好きになったからだ」
「なんで好きになったんですか?」
さらに突っ込まれて、壮は答えに窮した。

628:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:34:34 PvoU1Cmj
しばらく考えて、それから小さく笑う。
「な、なんですか?」
「都古のアタックがあまりに真剣だったからかな」
都古は眉根を寄せた。
「それ、なんだか私自身の魅力とか関係ないような……」
「いやいや、ひた向きさに負けたってことで」
「もう、真面目に答えて下さい!」
壮はへらへら笑って受け流す。都古が怒って肩や背中をばしばし叩いた。
別に冗談ではないのに。
都古のどこを好きになったと訊かれたら、答えに困るのは当然だ。理由なんて、『都古が都古であるから』以外に存在しないのだから。
都古のことをはっきり理解出来ずに想いを抱けなかったのも昨日までの話。今は等身大の藤村都古がきちんと側にいてくれるから、確かな想いを胸の中に持つことが出来る。
外枠だけの八割と、確かな中身の二割とが、しっかりと合わさって想いを作っていた。
逆に尋ねる。
「都古はなんで俺のことを好きになったんだ? 一ヶ月前まで、こっちはお前を知らなかったのに」
目に見えて都古は狼狽した。
「……秘密です」
「なんだそりゃ」
「人を好きになるのに理由なんかありません!」
「反則だろそれは」
「いいの。女の子の心は繊細で複雑なんだから、言葉なんかじゃ表せないの」
ぷいとそっぽを向く恋人に、壮は苦笑いを浮かべる。
「俺はもうちょい言葉少な目のおとなしい娘が好きなんだけどな」
「! 蒸し返さないで下さい!」
強い視線で睨まれて、壮は肩をすくめた。


(言えないよね……)
都古は怒ったふりをしながら中学の時を思い出す。
体育祭の組別対抗リレー。二年生でアンカーを任された都古は、途中でバトンを取り落としてしまった。
結果最下位に終わり、都古はひどく落ち込んだ。周りのみんなは慰めてくれたが、よく頑張った、最後まで諦めなかったなんて言われても、少しも自分を肯定出来なかった。
だが体育祭の後に、知り合いの井上至統からこんなことを聞かされたのだ。
『藤村のことをすごく褒めてるやつもいるんだよ』
どうせ他の慰めと変わらないだろう。聞き流そうとしたところに、彼はこう続けた。
『背筋が伸びて、すごくフォームがかっこいい、だってさ』
その、場面に合わない評価が、都古の心になぜか残った。
気付いたときには、至統に相手のことを尋ねていた。
次の年には同じ競技でリベンジを果たしたり、その先輩が進学校に行くと聞いて、同じ所に行くために一生懸命勉強したりと、他にもいろいろあったが、すべてはあの時の言葉に集約されるのだろう。
かっこわるかったのに、かっこいいなんて、
直接言われていたら、きっと残らなかったと思う。伝聞だったからこそ、それは心に響いたのだ。
そんな些細なことがきっかけだ。今更答える気もない。
それは、自分だけの大切なきっかけ。


「壮先輩」
都古に初めて下の名前を呼ばれた。嬉しさを隠して平静に応える。
「なんだ?」
「改めて言ってもいいですか?」
「何を」
都古は小さくはにかんだ。
「大好きです、壮先輩」
真っ向から言われてつい呼吸を忘れた。
やがてそれに応えるように、壮は言葉を返した。
「俺も好きだ、都古」
小さな後輩は、日のように輝いた笑顔を浮かべた。

629:名無しさん@ピンキー
07/05/12 04:40:08 39d2GoDZ
God job!!

630:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/05/12 04:54:11 PvoU1Cmj
以上で終わりです。相変わらず投下に時間がかかります……。

>>371のアイデアを使わせて頂きました。
「どこが無口っ娘なんだよ!」とも思いますが、自分なりに頑張ったつもりです。

次は縁シリーズ。……だと思います。
順調にペース落ちてきているので、なんとか戻さなきゃ。

>>601
それはアリ。かなりアリ。

631:名無しさん@ピンキー
07/05/12 05:09:56 kCcrlkDh
GJ!
寝る前にいいものが読めた。

632:名無しさん@ピンキー
07/05/12 12:18:08 LYbd7Tjb
>>630
これはGJwwww

633:名無しさん@ピンキー
07/05/12 17:29:21 tL/nTZBW
相変わらずの品質にGJ!

634:名無しさん@ピンキー
07/05/12 22:41:35 F1mDS0pI
さすがに次スレが必要な時期ではあるまいか

635:名無しさん@ピンキー
07/05/12 22:54:41 tL/nTZBW
10KBを切ったあたりに次ってところだろうな。
つまりあと一本はいけそうだ。

636:名無しさん@ピンキー
07/05/13 05:31:02 C9pqIVp7
はいはいハニワハニワ

637:名無しさん@ピンキー
07/05/13 05:31:35 C9pqIVp7
誤爆

638:名無しさん@ピンキー
07/05/13 09:39:09 Ba20c9yN
>>636
ハニワと言うだk(ry

639:名無しさん@ピンキー
07/05/13 15:26:03 PwXZiHpC
じゃぁ短めのオチもエロ
も何もないものを投下


●月×日

今日はいい日だ
朝から彼女の声を聞くことができた
彼女は滅多にしゃべらないから
とても珍しい
おまけになんだか
彼女は今日機嫌がいいらしく
ちょくちょくしゃべってくれたし
笑顔も見せてくれた
多分一年に一回あるかないかの日だろう
そのおかげで僕もとても機嫌がいい

●月▲日

今日は打って変わって
彼女は機嫌が悪い
彼女は機嫌が悪いと
なんか微妙に顔がふくれっつらになる
まぁそんな彼女もとても可愛いので
そんな顔になっていることを指摘しない

●月□日

今日は彼女の買い物に付き合う
こうやって買い物に付き合うたびに
いつも思うのだが
なんでこんなに物を買うんだろう?
とても不思議だ




「…」
「おーい、何見てるのって… 人の日記!?」
彼女は無言でうなずく



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