06/07/30 17:29:01 mlO/IDTD
晶さんがキッチンの冷蔵庫から、2リットルサイズペットボトルのミネラルウォーターとグラスを持って戻ってみると、たっくんはさっきまで晶さんが座っていたソファに突っ伏していた。
「ほら」
たっくんのだらんと高そうな絨毯の近くまで落とされていたその右手に、晶さんは無理矢理グラスを持たせて、水をとくとくと注いだ。
増えていく水の重みを感じたのか、顔までソファに埋めていたたっくんがのろのろと少しだけ上半身を起こす。緩慢な動作でグラスの縁に唇をつけたたっくんを見て、晶さんはペットボトルをテーブルの上に置いた。
「……悪かったな」
ぽそりと前を向いたまま、たっくんが呟いた。右手に持っていたグラスはもう空になっている。
「ん?」
一瞬、何の事を言っているのか分からないまま、晶さんはたっくんの持っているグラスに手を伸ばした。
「答え、急かさせただろ、俺」
受け取ろうと晶さんが底の方を掴んだグラスをたっくんは離さなかった。どっちも離さないグラスは酷く冷えていた。
「どうしてか、が」
「うん」
前を向いたまま、たっくんが頷いた。
「分からなかった。なんでか、が」
晶さんもゆっくりと返した。繋いだグラスにたっくんの手の重みを感じながら。
「二学期の前のあたりは」
「ん」
「親にまともな目に見られるなら、隣にいるのはホントに誰でもよかったんだ」
「それは知ってる」
「でも、日夏じゃなきゃダメになった」
晶さんは口を閉ざした。
「KO大に行くのを考えたとき、もう日夏は近くにいてくれないんだろうなってことは、すぐに想像できた。我ながら大人気ないと思ったけど、その途端、日夏が欲しくなった」
そう言った刹那、たっくんはグラスを手から離した。
晶さんだってそんな不測の事態に対応できるほど、反射神経がいいわけでもない。慌てふためいたところ、晶さんの右手首をたっくんが引っ張った。
「うげっ」
ころん、と。
ガラスは割れず絨毯の上に、晶さんは前のめりに―
落ちた。
(あともうちょっと続きます)