07/08/21 07:03:54 WkZZTR7D
「箱? 箱って何のことですか?」
「きみのベッドの下に、確か、水色の箱があったんだ。そんなことよりきみを起こして、話を聞くのが先だと思っていたから、今まで失念していたけど……」
あの中に、扉の謎を解く為の手がかりが入っているのかもしれない……というのは、流石に楽観的過ぎる予想だろうか。
とにもかくにも、確かめてみなければ始まらない。僕はその場に這い蹲って、ベッドの下から箱を引きずり出す。
箱は小型のクーラーボックスくらいの大きさで、箱の天辺には、小さなリボンが結びつけられている。まるで、プレゼントの包みみたいだ。
そういえば、異常なほど『白』に拘った部屋の中で、この箱だけ白でなくて水色なのは、何か意味があるのだろうか。
「開けてみるよ?」
そう言って、彼女の方を振り向く……が、返事がない。
右手で左手をぎゅっと握り、箱に視線を釘付けにして、彼女は硬直していた。
「……留美ちゃん?」
「えっ? あ、はい!」
もう一度声をかけると、肩をびくっと動かして、思い出したように返事をする。
「どうかしたの?」
「な、なんでもないです」
とは言うものの、なんでもないわけはない。理由こそはっきりしないが、動揺しているのは明らかだった。
心なしか、顔から血の気が引いているようにも見える。
気にはかかるのだが、本人がなんでもないというものを、無理矢理問い詰めても仕方がない。無駄な軋轢が生じるだけだ。
それに、この状況に直接関係のあることであれば、彼女から率先して発言してくれるだろう。そうであると願いたい。
だらだらと考えを巡らせつつ、箱の包装を解いていく。さて、中身は一体何だろう? 期待と不安を抱きながら、僕は箱を開いた。
箱の中に入っている物を、順番に出して、床に並べてゆく。
一リットルのペットボトルが一本。ブロックタイプの栄養補助食品が二箱。それから、A四判の紙とボールペン。
箱の中身は以上だった。二人は箱を挟んで向かい合うようにして床に座り、手に取って、一つ一つ確認してみる。
「これは、海外のミネラルウォーターかな?」
言って、僕はペットボトルを掲げて見せる。そのパッケージ―水彩画のようなタッチで描かれた山の絵―には見覚えがあった。
「ですね。輸入品です。コンビニエンスストアなんかで、見かけたことがあります」
今度は彼女が、栄養補助食品を手に取る。
「えーっと。これは、カロリーメイト……四本入りのブロックタイプですね」
「後は、A四判の用紙とボールペンか。どっちも、特に見るべきところは―」
ざっと眺めてから、箱に戻そうとして、手が止まった。
白紙かと思っていた用紙には、左上に小さなフォントで一行だけ、印字があった。
『― project whitebox ―』