07/08/20 07:00:11 huPsKwFg
そこで、自分が寝かされていた部屋の片隅のパイプベッド、その丁度反対側に、もう一つ、全く同じデザインのベッドがあるのを発見した。
先程気が付かなかったのは、そのベッドのデザインが保護色の役割(シーツだけでなく、骨格であるパイプまで白だ)を果たしている所為なのか、それとも単に寝惚けていて見落としたのか。
そのベッドには、人が横たわっていて、ベッドの下には、淡い水色をした箱のようなものがあるのが見えた。
「ふぅ……」
無意識の内に、口から安堵の溜め息が漏れていた。僕の他にも、誰かがいる。
やはり、一人ではない、というのは心強いものがある。記憶が欠けてしまっていて、右も左もわからない、そんな異常な状況下であれば、尚更だ。
僕は早歩きで、ベッドへと近付く。ベッドに寝かされていたのは、一人の小柄な少女だった。目を瞑り、両手を胸の上で組み合わせている。
そっと、口許に手をかざすと、息遣いが伝わってくる。どうやら、眠っているだけのようだ。
そのまま暫く、少女を観察する。髪は胸元まで伸びたストレート。上は長袖のフリルブラウスに、薄手のカーディガンを羽織っており、下はフレアスカート。
偶然か必然かは知る由もないが、少女の衣服は上下共に、すべて白で統一されていた。
肌も、無機的な人形のように生白く、彼女が部屋の構成要素の一部なのではないか、などという錯覚すら覚える。
ともかく、起きてもらわなければ。そう思い、肩に右手をかけて、軽く体を揺すってみる。
正直、その気持ち良さそうな寝姿を見ていると、若干起こすのが躊躇われたのだが、起きてもらわないことには状況は進展しない。
彼女には、色々と聞いておきたいこともある。
「おい、きみ、起きてくれ」
声をかけながら、何度か揺さぶってみる。と、少女は声にならない小さな声を発して、ゆっくりと目を開いた。
そして、寝惚け眼のまま、視線をひとしきり泳がせると、僕が立っている方向に顔を向けた。