【不可抗力】女の子と二人きりになってしまったat EROPARO
【不可抗力】女の子と二人きりになってしまった - 暇つぶし2ch650:名無しさん@ピンキー
07/06/04 09:31:45 FS2HHwjk
同じく、ネタ模索中

651:名無しさん@ピンキー
07/06/04 09:40:30 PLUl+Lan
・・・・・・電波受信中。

652:名無しさん@ピンキー
07/06/04 09:50:02 z5xSDpzx
……電波発信中

653:名無しさん@ピンキー
07/06/04 10:08:17 G3R6W/Q4
ピピピピピ

オウトウ セヨ
タダイマ デンパ ハッシンチュウ

オウトウ セヨ
オウトウ セヨ
オウトウ セヨ

...ハァハァ
タダイマ デンパ ハッシンチュウ...
ハァハァ...    ウッ

654:書く人
07/06/04 20:08:26 +UD6aEda
駅前にコンビニすらない。そんな田舎を想像できるだろうか?
僕は想像できる。だっていつもそこから電車に乗っているのだから。
家からバスで20分の無人駅。そのバスは、一日5本。
しかもバスの時間と電車の時間が三十分以上ずれている。
だから、僕は毎日三十分を、ペンキの剥げた待合室の駅で一人で30分の時間を過ごす。
中学に上がり、電車通学になった当初は、その時間が限りなく苦痛だった。だがもう4年近くたった今では、それにも慣れた。幸いなことに読書を覚えたから。
朝夕の駅での30分と、電車に揺られる20分。計二時間近い時間は、趣味の時間となった。
ある意味、ペンキの剥げた待合室は、家にある自分の部屋よりも、落ち着ける場所になっていた。
そんな僕の領域に、この春、侵略者が現れた。

655:書く人
07/06/04 20:18:10 +UD6aEda
侵略者は金髪だった。やや釣り目で、派手な感じの女の子だった。
その彼女が、同じ駅を利用するようになった。
制服は、僕の通う高校の近くにある女子高。お嬢様校、というわけではないが、かわいい制服で有名な学校だ。
その制服を着崩した彼女は、毎朝駅舎で携帯を片手に時間を潰していた。
華やかな――悪く言えば遊んでいる感じの、女の子。
僕は、どうにもその女の子に気おくれを感じていた。
派手目の彼女に対して、僕は地味の極みだ。髪を染めるなど夢のまた夢。
どうもとっつきにくかった。
まれに読んでいる教科書のタイトルからして、どうやら学年自体は一つ下のようだが、それでも今一苦手意識を払しょくできない。
向こうも、どうやらこちらを苦手に―ひょっとしたら嫌悪すらしているのか、話しかけるどころか、目を向けてくることすらない。

656:書く人
07/06/04 20:25:07 +UD6aEda
それでも双方に不幸なことに、駅舎にはあのペンキの剥げたベンチが一つあるだけ。
だから僕と彼女はそのベンチの両端に陣取り、それぞれ互いを見ないように本と携帯を見つめるという、実に胃に悪い30分を朝夕に過ごさなくてはならなかった。
だがそんな日々は、数ヶ月後の夏の日、唐突に終わりを迎えた。

657:名無しさん@ピンキー
07/06/04 20:31:36 VkjZPaU+
w-k-tk

やったよ新作だ!

658:書く人
07/06/04 20:50:59 +UD6aEda
初夏の台風が、僕の住んでいる町―というか村を直撃した。
学校を出た時点でかなりの風と雨があり、時に雷が鳴っていた。それでも公共交通機関は動いていて、電車は定刻道理に動いていた。
それに飛び乗り、僕と、そして彼女は駅に降り立った。
また憂鬱な30分かと、ため息をつきながら僕はベンチの右端に座る。
一方の彼女も濡れた服が不快なのか、わずかに顔をしかめていた。
その顔は、少し青ざめているようにも見える。
寒いのかもしれない。

(放って…おけないよな)

 余計なお節介かもしれない。拒絶されるかもしれないとも思ったが、良識がそれをねじ伏せた。
 仮に余計なお世話で、キモい、ウザいなどと言われたとしても、自分が嫌な思いをするだけだ。
 そう思い、僕はベンチから立ちあがり、駅舎の片隅にある、ほこりをかぶった棚に歩み寄り、そこに置いてあったブリキ缶を手に取る。
 その中身を覗いて、僕は少し安堵する。
 よかった、まだある。
 僕はそのあと、できるだけ人を安心させれるような笑顔を意識しながら、振り返った。

「あの……コーヒー飲む?」
「…はぁ?」

659:書く人
07/06/04 20:59:31 +UD6aEda
失敗だったかな、と僕は思った。
女の子は明らかに不審そうだ。
最近は通り魔的変態犯罪者がぽこぽこ出てくる世の中だ。
僕もその類と思われたのかもしれない。
けれど、彼女が続けた言葉で、勘違いだったと理解する。

「コーヒーっていったって、自販ないじゃん」
「いや、これを使う」

 犯罪者と思われたのではないと安心した僕は、先ほどより少し自然に笑顔を浮かべながら、缶の中身を取り出した。
 それはヤカンとスチールのカップと、そしてキャンプ用のガスコンロに、マッチ。
 僕はそれをベンチに置くと、マッチでコンロに火をつける。

「ちょ、か、勝手に使っていいの!?」
「大丈夫だよ。これ、僕が用意したものだから」

 冬場は近く(といっても歩いて30分)に住んでいるおじいさんが管理していて、ダルマストーブが焚かれている。だが、時にはその火が消えているときもあり、そんな時のために僕は家の倉庫にあったこれを、駅に持ち込んでいたのだ。
 冬場などは、これで入れたコーヒーを片手に、本を読んでいる。

660:書く人
07/06/04 21:05:07 +UD6aEda
 一方の女の子は、目を丸くしていてこちらを見ている。
 僕は火の大きさを調節しながら、

「迷惑…だったかな?」
「別にそんなんじゃないけど……どうして?」

 問い返されて、僕は彼女の顔を見る。前から色白だとは思っていたが、今日のその顔色はいつもよりさらに白く見える。

「どうしてって、寒そうだから」
「寒い?別にあたしは寒くなんてないわよ」
「けど、顔色悪いよ?」
「わ、悪くなんてないわよ!」

 なぜか、本当に脈絡なく、彼女が声のトーンを上げた。
 何か気を悪くしたのかとびっくりしていると、彼女ははっとしたように、再び声のトーンを下げて

「さ、寒くなんてないわ。大体、顔色だって悪くなんて…」

と彼女が言いかけたそのときだった。

661:書く人
07/06/04 21:17:02 +UD6aEda
 爆発音がして地面が揺れた。窓の外が真っ白になり、木製の駅舎の全体が軋んで音をたてた。
 雷が、近くに落ちたのだろう。
 流石に僕もこんなことは初めてで少し驚いたが、その直後、もっと驚くことが起きた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 落雷の直後、彼女は雷に負けないほどの大きな悲鳴をあげて、こっちにタックルしてきた。どうにか踏みとどまった僕の体に、彼女は手をまわして、思い切り抱きしめてくる。

「ヤダヤダヤダヤダ!怖い怖い怖い怖い!」

 抱きついてきた彼女の体は細く、やわらかく、いい匂いがしていたが、そんなことを感じ入っている余裕がないほどに、彼女の細い体はガクガク震え、涙声で叫んでいる。

「だ、大丈夫だから、落ち着いて」
「う、うん。……?きゃぁっ!?」
「うわっ!」

 今度は、彼女は僕を突き飛ばした。
 尻もちを突く僕を彼女は見下ろしながら、自分の体を守るように抱いて、こちらを見下ろしてくる。

「な、何しようとしたのよ!?」
「……何もしてないよ」

 あまりに不条理。僕は流石に怒りを感じて彼女を見返す。
 彼女は色白の肌を、先ほどの血の気のない様子から打って変って血色良くしていた。
 何か言い返してくるかな、と思っていたら

「……ごめん。混乱してた」
「ええっ!?」
「な、何よ!その「ええっ!」って!?」
「素直に謝ってくるとは思ってなくて」
「何よそれ!悪かったと思ったら謝るにきまってるじゃない」

「そだよね。ごめん」

 ふくれっ面をしながら、そっぽを向く彼女に、僕は自分の失礼を謝りながら立ち上がり、転んだ時に取り落としたやかんを拾い…

「……ひょっとして、顔色悪かったのって、雷が怖かったから?」
「そ、そんなわけないじゃない!」

図星だったらしい。

662:書く人
07/06/04 21:22:11 +UD6aEda
 僕は真っ赤になって反論してくる彼女を見て、少し笑った。

「ば、馬鹿にしたわね!」
「違うよ。雷を怖がるなんてかわいいな、って思ったんだ」

 そういう僕の返答に、彼女は顔を少ししかめる。

「何それ、ナンパ?」
「ち、違うよ!」

 今度は僕が赤面させられた。ナンパなど、地味道一直線の僕には縁のない言葉だ。
 そんな僕を、彼女は値踏みするように見てから。

「ま、確かに、そんなことできそうに見えないもんね。子供っぽいし」

 一つとはいえ年下の少女にそんなことを言われると、流石にきつい。
 一方言った方は少し機嫌が良くなったらしく、ベンチに座ってこう続ける。

「ま、とにかく。付き合うわよ?」
「へ?」

 ナンパにってことか?
 そう思った僕の思考を読んだのか、それともただの偶然か、彼女はこう続けた。

663:書く人
07/06/04 21:26:41 +UD6aEda
「コーヒー、淹れてくれるんでしょ?」

 それこそが、僕――喜沢弘文が初めて見た彼女――椎名マリアの笑顔だった。






 反応次第で続きを書くかもしれません。

664:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:30:37 Cux/diuD
儀式は成功してたんだ!
GJ!
続きを下さいオナガイシマス(´・ω・`)

665:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:34:29 j2HhSwt1
続きに蝶期待







次の投下まで待ってるぜ、裸エプロンで

666:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:47:17 8YJ44yS5
ここで終わるだなんて人道に悖ると思うわけですよ

667:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:49:49 VVOqEO/F
GJ!雷怖がる娘カワユス
続き待ってます!

もしかして書く人さんって、結構いろんなスレでSSとか書かれてます?

668:書く人
07/06/04 21:54:22 +UD6aEda
ええ。とはいっても作品数自体すくないですが。最近はボーイッシュスレに生息してました。

669:名無しさん@ピンキー
07/06/04 22:04:31 VkjZPaU+
すみません
支援のつもりがうれしくて入れ忘れてしまいました

w-k-t-k-!

670:名無しさん@ピンキー
07/06/04 22:50:34 jc1u0Z1N
続きに期待
wktk

671:名無しさん@ピンキー
07/06/04 23:32:55 z5xSDpzx
おおぉ!
儀式が成功していたぁ!
もうズボンすら脱いでしまうような超絶ワクテカ帝國でありますよ

672:名無しさん@ピンキー
07/06/05 00:49:10 z1ihtzcs
>>668
ボーイッシュスレの作品も見てますよ!
あれも良い。
何はともあれ続きwktk

673:電波の受信に失敗した651
07/06/05 01:24:53 kzO2NoDL
ちょ、ここってこんなに人いたのかよ!
一気にレス増えててびびったわw

そしてこっちはスランプに突入・・・・・・・・・・(もともと文才そのものがないけど)




ピピピピピ

オウトウ セヨ
ノイズガ ヒドクテ ウマク ジュシンデキナイ

オウトウ セヨ
クリカエス オウトウ セヨ
(↑言い訳)

674:名無しさん@ピンキー
07/06/05 01:39:53 NPSsh0PI
マリアたん萌え

675:名無しさん@ピンキー
07/06/05 03:23:18 4MBua32A
構図としては二人きり(と思っている)の男女を除くHENTAI集団といったところですな、漏れも含めて。

676:名無しさん@ピンキー
07/06/05 21:18:21 EDUmgsga
これは期待せざるをえない
ギャップ萌え

677:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:17:12 LeqMYOw3
夜のプールで二人っきり、というシチュエーションを考えてみたので投下します。エロは無しです。
お気に召さない場合はスルーしてください。

678:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:18:14 LeqMYOw3
俺は悪くねぇ。俺に非はねぇ。
文化祭の演劇に使うオブジェ。教室の半分を占領するそれらを塗装する際にはかなりのペンキが飛び散るだろうと予想し、後片付けの時に一気に洗い流す為にプールの中で塗装を行う。
この案を出したのは我が三年四組のクラス委員長だった。
だが、模試において県一位に君臨する彼にも、予想出来ない事があった。
まず俺が、プールサイドでクラスの女子と口論になった。原因はよく覚えていない。
次にその愚かなる女は、言論を放棄し俺に殴り掛かって来た。
最後、これがトドメになった。
確かに俺も言い過ぎたかと思い、その拳を俺は・・・敢えてだぞ、敢えて。受けてやったんだ。別に避けるのが遅れてクリティカルヒットした訳じゃない。ないったらない。
まあそしたら、だ。吹っ飛んだ俺は後ろに積んであったペンキ缶×10に突っ込み、超至近距離にいたその女もペンキ缶の雪崩に巻き込まれ、気が付いた時には十色のペンキの池の中に二人揃って浮かんでいて、結局俺とその女は放課後、プール掃除に励む事になった。以上。

その日、笹丘高校三年四組坂下喜鈴(さかした きすず)は、放課後真っ直ぐ家に帰らず、学校のプールに向かっていた。

679:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:21:08 LeqMYOw3
今日の二時間目に騒ぎを起こしたもう一人の人物が、先に来て掃除を初めている筈だったのだが。
「穂高ー、ちゃんと掃除・・・」
喜鈴の声はそこで中断された。肩で切り揃えた黒髪が風に靡いて揺れた。彼女のゲンナリとした目線の先には、騒ぎの張本人の一人、穂高光司(ほだか こうじ)が、陽光に輝く茶髪のウルフヘッドを床に着けてプールサイド(ペンキの被害が無い箇所)に大の字になって眠っていた。
傍らには近所のコンビニで購入したとおぼしき「デラ・べっぴん」が置いてある。
喜鈴の脳は即座に状況を理解し、答えを弾き出す。
曰く、「コイツ、掃除しないでエロ本読んで寝てやがった」
喜鈴の周りに、死神を思わせる暗い気が立ち込める。
魂を狩る鎌の代わりに掃除用のデッキブラシを拾い上げ、それをゆっくりと光司の頬に当てて一声さけぶ。
「とっとと起きなさい、このバカ―――!!!」
言うが早いか、喜鈴はブラシを支える両手を凄まじい速度で前後に動かす!
ごっしゃごっしゃごっしゃごっしゃごっしゃごっsh
「ぎぃやあぁぁああああ!!いてててかっ顔がっ、顔が――っ!!!」
穂高光司はこの日、『松の木にひたすら顔をマッサージされる』という悪夢で居眠りから覚醒した。

680:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:23:50 LeqMYOw3
「・・・ぁーったく、何でてめえと二人でプール掃除しなきゃなんねーんだよ」
猫に引っ掻かれたように赤くなった頬を身を守ろうとする本能から左手でさすり、しかし二度目の制裁(と書いてデッキブラシと読む)を恐れた意識は右手に持つブラシを動かす速度を維持したまま、光司はひとりごちる。
時刻は既に午後7時を回って辺りは暗くなり、遠くのグラウンドで野球部が練習用につけているナイター灯の光だけが、暗がりの中で光司の視界を保っていた。
その暗がりに、傍目から見ればとても目を引く影が一つ。学校指定の水着の上に体操服の半袖シャツを着た、喜鈴だ。肩で切り揃えた髪も首の後ろで纏めてあり、水溜まりの上に立つその姿はまさしく水の妖精。
「仕方ないでしょ?私もちょっとやりすぎたけど、元はあんたが悪いんだから」
・・・しかし、その妖精はかなり機嫌が悪いようだ。よくよく見れば眉間には皺も寄っている。
「なんでちょっと休憩してただけであんなにきーきー騒ぐんだよ」
「30分も居眠りするのは休憩とは言わないわよ」
「うるせぇな、成長期は睡眠が必要なんだよ」
「180センチオーバーで何が成長期よ。どうせそれ以上寝ても脳みそ溶けるだけよ」

681:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:25:49 LeqMYOw3
「んだとー、さてはお前、自分がチビで幼児体型だからってひがんで・・・すいませんごめんなさい黙ります二度と言いません許して下さいデッキブラシはもう勘弁してください」
再び顔に近付いたブラシに少なからず命の危険を感じて平謝りする光司。必死に陳謝する男を20センチ下の視点から一瞥した後、喜鈴は再び無言でブラシを床に滑らせる。
「・・・どうせあたしはあんたの好みの体型じゃないですよーだ・・・」
拗ねた表情を浮かべた喜鈴の口から微かに漏れた呟きに気付く事無く、光司は「さっさと剥がれろペンキ」と思いつつ、デッキブラシを前後に動かしていた。

682:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:28:54 LeqMYOw3
 以上です。携帯からの投下ですので、一気には書けませんでした・・・って、所々段落が潰れてるし・・・こんな奴の文章でよろしければ、皆様からの要請があれば続きを投下したいと思います。
  ではでは、失礼しました。

683:名無しさん@ピンキー
07/06/07 08:51:08 ospPZCv2
話としては面白いので是非期待したいが、
欲を言えば、携帯からではなくPCから投下してホシス

684:名無しさん@ピンキー
07/06/07 10:39:09 LeqMYOw3
すいません、一人暮らし始めたばかりでプライベート用のPCを買う経済的な余裕が今のところないんです。
ご希望に沿えず面目次第もございません。

685:名無しさん@ピンキー
07/06/07 10:49:00 JVf6/tGd
二人の掛け合いも楽しいし、無理せず続けてくれると嬉しいですよ。
期待してます。

686:名無しさん@ピンキー
07/06/07 11:51:10 u46T8kL4
40~60文字を目安に改行があるといいかな。
続き待ってます。

687:名無しさん@ピンキー
07/06/07 12:26:25 x6ThIkkD
続きガンバリ!

688:名無しさん@ピンキー
07/06/07 22:16:56 JVcBV0XY
つ④

689:名無しさん@ピンキー
07/06/08 00:27:09 o1/sn+R/
つPC

690:684
07/06/09 11:30:48 qPPADhqU
 どうも、名無し改め684です。アドバイス有り難うございます。今度は改行に気を付けます。
 現在書いておりますが、水曜日迄どうにも都合がつきませんので、多分木曜日以降に投下出来ると思いますので、期待して下さる方々には申し訳ないのですが、もう暫くお待ちください。
 因みに、キャラは全て学生時代に書き貯めていたものからの出演です。

691:名無しさん@ピンキー
07/06/09 13:29:32 pztUYNWp
wktkwktk

692:684
07/06/09 15:04:32 qPPADhqU
 第二話の途中迄ですが、閑話休題として投下します。

タイトル付けました。
『私立笹岡恋模様』

693:私立笹岡恋模様
07/06/09 15:05:44 qPPADhqU
 プールにペンキぶち撒け事件。後々になってからそんな捻りも無ければ踏ん切りもつかないネーミングで呼ばれる事になった日から、早くも三週間。
 光司はまたもや喜鈴と二人っきりだった。


「おいスイッチ係ー!そこの操作また違うぞー!」
 オブジェの中に隠された各種舞台装置のスイッチをぼんやりと叩く光司に、監督を勤める生徒から怒号が飛ぶ。
「んだようるっせぇな・・・ひででででふいまへんふいまへんひゃんとやりまふごうぇんなひゃいごうぇんなひゃい(訳:いててててすいませんすいませんちゃんとやりますごめんなさいごめんなさい)」
 気だるげにぶつくさ言おうとした口から、即座に謝罪の言葉が流れる。但しその対象はオブジェの外に居る監督ではなく、『つねる』という可愛い動作をを通り越して彼の頬を激しく引っ張っている隣のクラスメイトであるが。
 オブジェの塗装の前にくじ引きで決まっていたのだが、この舞台に於いて装置のスイッチを任せられたのは光司と喜鈴だった。
「ちゃんとやりなさい。あんたのせいで私まで怒られるんだから」
 冷静に言ってはいるものの、喜鈴のこめかみにはかなり分かりやすく青筋が浮いている。

694:私立笹岡恋模様
07/06/09 15:25:29 qPPADhqU
「練習なんてしなくても大丈夫だろー?本番で間違えなければいいんだし」
 機材の詰まった暗い小部屋で女子と二人っきりというスレの皆様からすれば羨ましい事この上無い状態で、前回と同じく色気の『い』の字も無い文句を言う光司。だが喜鈴も負けじと反論する。
「いいえ、練習しといて正解だったわ。お姫様にスポットライトを当てるシーンでナイトに当てるわ、間違ってマイクの電源落とすわ、まさかあんたがここ迄機械オンチだとは思わなかったわよ・・・って!ああもうこのバカお姫様の登場で火花出してどうすんの!?」
「うお!?い、いや、こっちのがなんか勇ましさが出ねぇ?」
「言い訳してないでさっさと止めなさい!」
「えーと、あ、こ、これかっ!?(ぽちっ)」
「ちょっ、それはスモーク!」
「スイッチ係ぃぃい!いい加減にしろおぉぉぉ!」
 かくて笹岡高校第二体育館に、監督のやるせない叫びと打撃音(混乱してパニック起こした光司を喜鈴が張り倒して鎮めた音。沈めたと言った方が良いか)が響いた。


「あーもうっ!あんたのせいで散々よ!」
「わ、悪かったよ・・・」
 保健室のベッドに横たわる光司(主に頭部の打撲により)に、喜鈴が容赦なくがなりたてる。保健室では静かに。
「まったくもう、こうなったら、今日の放課後に残って練習するわよ!」
「はぁ!?勘弁してくれよ、今日は七時から見たいテレビが」
「(丸椅子を上段に構えてとびきりの笑顔を浮かべながら)何か言った?」
「いえ、何でもありません。喜んで練習致します」
 ベッドの上で土下座する光司にあくまでも穏やかな笑顔を向けたまま、喜鈴は保健室を後にした。


「・・・ふふ、今日こそ、アイツに・・・」
 階段を登りながらそう呟いた喜鈴の顔には、先程迄の絶対零度の微笑みではなく、期待に胸を踊らせる恋する乙女の微笑みがあった。


「何でいきなり居残れなんて・・・はっ!?襲われる!?俺ってば貞操の危機!?」
 ・・・喜鈴、考え直すなら今のうちだぞ。

695:684
07/06/09 15:29:54 qPPADhqU
 以上です。今回セリフが多かった・・・この後はいよいよイヤンでアハンな展開になる(筈、多分、きっと・・・)のですが、上手く書けるかどうか不安です・・・
 ではでは、有り難うございます。

696:名無しさん@ピンキー
07/06/09 16:35:17 pztUYNWp
イヤンでアハンな展開だってよ!
舞ってました(´・ω・`)

697:684
07/06/09 22:05:11 qPPADhqU
 朝令暮改もいいところですが、作戦変更して書いた端から投下する事にします。
 では、ドゾ。

698:私立笹岡恋模様
07/06/09 22:07:31 qPPADhqU
 放課後、体育館へと続く廊下の真ん中で、穂高光司は迷っていた。ズバリ、坂下喜鈴に従って練習するため体育館に向かうか、無視して家に帰ってテレビの前に直行するか。
 まず、大人しく従った場合。今日の七時からのテレビ番組、『残暑を楽しめ!テレビ局対抗女子アナビーチバレー大会3時間生放送スペシャル!レイザー○モンも飛び入り参加!?』が見れない。
 ぶっちゃけこれの為に今週のレポート課題やら宿題やらを全て終わらせ、今日は勉強しなくても良いようにしていたのに。
 坂下に従ったら、そんな心洗われる番組を見逃す事になる。水着美女達のセクシーショットも、多分有るであろうポロリシーンも、生放送だと書いてあるのになぜか飛び入り参加する事になっているあの「フォーゥ!」の人も。
 では坂下に従わずに帰宅した場合。この前のデッキブラシを凌ぐ凄まじい断罪が待っているだろう。というか、あれ以上のものを喰らったら絶対死ぬ。確実に死ぬ。
「・・・しゃあねえ、行くか・・・さよなら眩しき水着のマーメイド・・・さよならオッパイポロリ・・・さよならフォーの人・・・」
「廊下の真ん中で何ぶつぶつ言ってんの?」
「ぬぅわああぁぁぁ!?」
 突如として背後に生まれた気配に、一瞬で全身に戦慄が走る。驚愕にすくむ身体を叱咤し、気配の主から距離を取る。しかし、そこに居たのは。
「・・・なんだ、坂下か。ビビらせんじゃねーよ。俺ぁまた、死神が出たかと思ったぞ」
「・・・あら、ちょうど良いところに屋台の骨組み用の立派な鉄パイプが」
「すいませんでした失言でした以後気を付けますのでお許しくださいってかマジでやめてそれシャレにならんから」
 長さ五十センチほどの鉄パイプを手に取って握り具合を確かめるように素振りを始める喜鈴と、それを自分に当てさせぬべく早口で押し留める光司。
「全く・・・そんなにその番組見たいの?」
 呆れ顔で聞く喜鈴。言い方を変えれば、何かに失望したかのような憂いを帯びた表情はとても美しい・・・右手から鉄パイプを放せば、だが。
「うちの弟が録画して友達と見るって言ってたから、後から見せてもらえば?」
「うぇえ!?マジで!?」
 途端に表情を明るくする光司。喜鈴はちょっと引きながらも後を続ける。


699:私立笹岡恋模様
07/06/09 22:10:30 qPPADhqU
「ま、まあ、別にあんたの為じゃないけど、そっちを気にして練習に身が入らなくなっても困るし」
「よっしゃ、だったらさっさと練習するか」
「・・・現金な奴・・・」
 意気揚々と体育館に向かう光司。喜鈴はその後をついていきながら、少し溜め息を吐いていた。

 練習は喜鈴の予想よりも苦戦した。
「・・・アーサーのセリフ、『見よ、我らを護らんと霧も出てきた。これで進軍を敵に気付かれる事はない』このセリフに合わせてスチーム・・・あ、これだ」
「それはスチームじゃなくて一番スポットライト。スチームはこっち」
「あれ?」

「・・・オリビア姫のセリフ、『嗚呼、騎士アーサー。貴方迄もが散っていったのですね』で照明を一気に落とし・・・うぉ、明るっ!?」
「眩しっ・・・ああもう光量レバー動かすの逆!」
「あ、でもこんだけ明るけりゃ騎士アーサー復活・・・」
「するか!」

「ほらまた違う。まったく、ここはこうやって・・・あれ?」「ぷっ・・・くく、何だよ、お前も結局間違って・・・」
「あらちょうど良い所に騎士アーサー愛用の銘剣フランベルジュが」
「誰だって間違いの一つや二つありますよね俺もその回数を減らすように努力しますからちょっと待ってその剣刃が波打ってて当たったらスゲエ痛そうぎゃああああああ」


700:私立笹岡恋模様
07/06/09 22:44:50 qPPADhqU
「はー、疲れた・・・」
 疲労困憊、といった様子で、光司は床に座り込んだ。時刻は九時を周り、隣に座る喜鈴にしても余り体力は残っていないようだった。
「あー、腹減った・・・」
「・・・さっきおにぎり五個も食べたじゃない、まだ食べる気?」
「コンビニの握り飯で腹が膨れるか」
 二人は七時頃に喜鈴が近くのコンビニで買ってきたおにぎりで夕食を済ませたが、その時に吸収したエネルギー量は練習で消費したそれに追い付かなかったらしい。(それだけでは無く、光司が大喰らいである事も関係しているのだが)
 途中、何度か見回りの先生が来たが、八時半辺りから来なくなった。
「まあ、大体は覚えたか」
「うん、間違う回数も減ったし、後はこの調子で練習すれば良いと思うよ。お疲れ様」
「うーい・・・」
 二人がそう言って笑い合い、荷物を取りにオブジェの外に出る。体育館の照明は消され、窓からの月明かりだけが頼りだった。
「うぉ、暗っ。中に人居ないかどうか確かめてから消せよ見回り」
 光司がそう言い、荷物を持って体育館の出入口を開け・・・
「え?」
「穂高?どしたの?」
 光司の上げた声に、喜鈴が反応する。
「・・・開かねえ」
「は?」
「鍵、閉まってる・・・と、閉じ込められた!?」
「えええええ!?」
 暗闇の中、二人の叫びが虚しく響いた。

701:684
07/06/09 22:46:15 qPPADhqU
今回はここまでです。
ではでは、失礼しました。

702:名無しさん@ピンキー
07/06/09 22:59:57 HvSBFx8W
GJ!
続きwktk

703:名無しさん@ピンキー
07/06/10 00:23:20 uertd7EV
イヤンでアハンな展開…
つ、次だなwktkwktk

704:名無しさん@ピンキー
07/06/10 10:16:55 PmBNrzIu
これはベタで良いシチュエーション
続きにwktk

705:名無しさん@ピンキー
07/06/10 20:46:45 8zogyiWa
こんなに強いwktkはいつ以来なのか・・

706:684
07/06/11 00:21:03 Nf5tL6Uf
 頑張ってエロ直前まで書いたんで、投下します。
 ではどうぞ。

707:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:22:16 Nf5tL6Uf
「う、嘘!?何で?体育館の使用時間延長届けは出したよ!?」
 何故こういった状況に陥ったのかを必死に考える喜鈴と、往生際悪く扉をこじ開けようと必死に頑張る光司。
「(ガコガコガコ)だぁああぁ!!っきしょ、何なんだよこのお約束すぎる展開は!」
 そんな事をしながら、五分程経過した頃。光司がある事に気が付いた。
「なあ、八時半頃、俺ら何してたっけ?」
「へ?えっと、オブジェの中で休憩して・・・」
「その辺りから見回りの先公来なくなったけど、もしかしてその辺りで、誰も居ないと思われて鍵閉められたんじゃねえか?」
 光司の言葉に、弾かれた様に喜鈴が頭を上げる。
「あ!・・・って、じゃあもしかして・・・その辺りに施錠が終わったんなら、もう誰も・・・」
「校舎には居ないだろうな」
 沈黙。暫くして、光司がまた声を上げる。
「そ、そうだよ!坂下お前、鍵持ってるんだろ?」
 一般的にこの体育館は、使用時間延長届けを提出して使う場合、後から施錠する為に届けを提出した生徒に鍵を渡す事になっている。しかし喜鈴は表情を明るくする事無く、淡々と言う。

708:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:23:31 Nf5tL6Uf
「・・・あるわよ、体育館用の外からかける南京錠の鍵が。あんた知らなかった?その扉に鍵穴は無いわよ・・・後から付けた、南京錠で閉める仕組みになってるから・・・」
 これは何の冗談だろうか。光司は一気に脱力した。だが、諦めるにはまだ早い。そう、彼らには最終兵器があった。
 ここで問題です。現代に於いて生活必需品であり、二十四時間いつでも使える通信手段と云えば?
『・・・ケータイ!!!』
 二人は顔を見合わせて叫ぶ。それと同時に光司はポケットの中に手を入れ喜鈴は鞄の一番外側のポケットを開ける。
 二人揃って折り畳み式携帯のフリップを開けて・・・そして二人揃ってガックリ。
 同じ機種の携帯ならば機能もサイズも、受信の悪さも大体同じになるわけで。二人の携帯には『圏外』の二文字が悲しく光っていた。
『・・・これだからソフトバンクは・・・ッ』
 二人は携帯を元あった場所に戻し、盛大に溜め息を吐いた。
「・・・上の階のギャラリーから外に出られねえかな。でかい窓もあるし」
「・・・この体育館が柔剣道場の上に作られてて、ここは実質二階で、この上のギャラリーは三階で、そこから飛び降りればどうなると思う?」
「ぬぅ・・・確実に飛び降り自殺になるなぁ」
 再び、溜め息。光司はもう、全てが面倒臭くなった。そのまま横になって喜鈴に背を向け、鞄を枕に眠ることにした。
「寝るべ。なんかもー、何やっても朝までここから出られないっぽいし」
「・・・随分、強気ね。何でこんな状況で呑気に眠れるのよ」
 喜鈴の呆れた声が光司の背中に向けられる。顔を向ける事も無く、言い返す。
「こんな状況で起きててもカロリー無駄に消費するだけだからな。お前も寝とけ」
「そうじゃない!何でこんな状況でそんなに冷静で居られるのよ!何でもっと慌てたりしないの!?何でこの暗い中でそんな平気なの!?これじゃあ私が馬鹿みた・・・」
 光司は耳を塞いだ状態でその言葉を聞いていた。それだけ喜鈴は大声で怒鳴っていたのだが、その言葉を最後迄聞く事は無かった。
 突然言葉が途切れた喜鈴を振り返り、光司はその顔を覗き込んだ。


――そしてビックリ。


「うっく・・・ひっ・・・ぐすっ・・・」
喜鈴は泣いていた。


709:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:24:50 Nf5tL6Uf
「な。」
 そして情けない事に、光司は呆然とするしか無かった。
 喜鈴が泣きながら自分に抱きついてきたとしても。
 更にその後に凄い事を言われたとしても。
「ひっく・・・最悪・・・もおやだ、くっ・・・うぅ、す、好きな人に、こんな顔見られたく無かったのに・・・ぐすっ、うあぁぁぁん!えぅっ、ひぐっ、ぅえぇぇん!」
 やがて光司は、震える背中と細い腰に手を回す。そして後ろから小さな肩をぽんぽんと叩き、自分の胸で泣く少女に言い聞かせる。ゆっくり、ゆっくりと。
「安心しろ。怖いんなら、側に居てやるから。頼り無いかもしんないけど、泣きたい時に顔隠すぐらいはしてやれっから」
 光司は喜鈴の頭を撫でながら上体を起こし、身体を密着させる。喜鈴の気が済むまで、思う存分泣かせようと思った。
 以前、本で読んだ事がある。泣き叫ぶ人間は、内的・外的要因からの助けを求める為に防衛本能から泣いていて、無理にそれを押さえ付ければその後精神に異常をきたす。らしい。
(ここは、ちゃんと泣かせておいた方が良いな・・・)


710:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:26:03 Nf5tL6Uf
 考えてみれば当然だろう。只でさえ自分の練習に付き合わせてストレスが溜まっているのに、更に夜の体育館に閉じ込められたのだ。怖くない方がどうかしている。
 それを分からなかったのは自分だ。少しばかり優しくしても良いだろう。
 泣き続ける喜鈴を、光司はいつの間にか自分から抱き締めていた。


「落ち着いたか?」
「うん・・・ごめんね、みっともないトコ見せちゃって」
 喜鈴は五分程泣いた後、落ち着いた。しかし二人は未だに向かい合って抱き合ったままである。暫くして、思い出したように光司が口を開いた。
「あのさ、さっきの・・・」
 その言葉に、喜鈴の顔が赤く染まる。暫く俯いていたが、やがて意を決して顔を上げた。
「・・・私は、穂高が好き。優しくて、カッコ良くて、あったかい、そんな穂高が、好き。本当は、もっとちゃんと言いたかったんだけど・・・」
 喜鈴がその言葉を言い終わると、次は光司が口を開いた。
「・・・俺は、坂下が好きだ。可愛くて、明るくて、俺の事ちゃんと考えてくれて、俺を頼ってくれるお前が、好きだ・・・自覚したのはたった今だけど、な」
「何それ、ふふ・・・」
「ぷっ、あははっあはは・・・」
 傍目から見ればおかしな光景である。顔を真っ赤に泣き腫らした女と胸元がびしょびしょになっている男が抱き合い、笑っている。
 やがてどちらともなく目を閉じて顔を寄せ、その距離が一瞬だけ無くなる。離れた唇はすぐまた触れ、今度は更に深く繋がる。喜鈴の唇を割って光司が舌を入れ、その異物感に最初は驚いた喜鈴もおずおずと自分の舌を光司のそれに絡める。
「ん、ちゅ・・・っは、ぅん・・・」
「んむ、ん・・・っぷぁ」
 一分近く繋がっていた唇を離し、少し緩んだ顔で光司が聞く。
「ファーストキスはレモンの味って言うけど、どうだった?」
 喜鈴は顔を赤くしたまま、息も絶え絶えに答える。
「っは、ぁ・・・はぁ・・・何か、へんな、かんじ・・・あたまがぼーっとして、穂高以外、何も見えなくなって・・・」
 そこまでを何とか言い切り、光司の肩に顔を乗せて息を整える。
「それに・・・凄く、嬉しい」


711:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:26:53 Nf5tL6Uf
 そう言って自分の首に手を回した喜鈴の髪を撫でて目許に口付ける光司。更にゆっくりと喜鈴を押し倒しその上に覆い被さった後、遠慮がちに口を開く。
「坂下・・・その、いい、か?」
 その言葉の意味を理解した喜鈴は、光司を見詰めてから言葉を紡ぐ。
「いいよ、穂高になら・・・あ、でも一つだけ」
「ん?」
 喜鈴はそこで閉じていた瞳を開き、一つの望みを口にした。
「・・・なまえ、呼んで」
「名前?」
「うん、『坂下』じゃなくて、『喜鈴』って・・・お願い、『光司』・・・」
 名前を呼ばれ、心臓を高鳴らせる光司。やがて、笑顔で言った。
「ああ、分かったよ・・・喜鈴」
 互いに名前を呼び、見詰め合い、二人の唇が再び、重なった。

712:684
07/06/11 00:30:13 Nf5tL6Uf
 今回は以上です。肝心の本番のシーンがまだ・・・SS書くのって難しいですねーあっはっは・・・(待て)
 では、どうもです。

713:名無しさん@ピンキー
07/06/11 07:31:43 8Sa9IFR4
GJ!
wktkwktk

714:名無しさん@ピンキー
07/06/11 19:02:10 BycoLzvI
書く人マダー?

715:名無しさん@ピンキー
07/06/11 21:02:27 DlsqoYr1
wktk

716:名無しさん@ピンキー
07/06/11 21:28:01 X/vehP+S
ワッフル!ワッフル!

717:名無しさん@ピンキー
07/06/11 23:01:36 8Sa9IFR4
ワークテイカー

718:名無しさん@ピンキー
07/06/13 19:18:38 vi0LLoH/
マダカナー(・∀・)

719:名無しさん@ピンキー
07/06/14 12:23:52 i/1lpJqb
俺も、ワッフル!ワッフル!

720:名無しさん@ピンキー
07/06/14 16:47:18 NWCgXQ49
wktk

721:名無しさん@ピンキー
07/06/16 14:58:43 64ahZTo+
電波・・・・・・・送ー信っ!!

722:名無しさん@ピンキー
07/06/16 18:10:44 9+NC6ZRQ
只今回線が混雑しております

723:名無しさん@ピンキー
07/06/16 19:52:06 jqhpia/7
めげずにもう一度
送ー信っ!!

724:名無しさん@ピンキー
07/06/16 23:02:36 9yDs1hJq
AI「太陽風による磁気荒らしです」

725:名無しさん@ピンキー
07/06/16 23:19:21 Jh/DafNc
てんちょー。
新規オーダーでーす。


あれ、店長……?

726:名無しさん@ピンキー
07/06/17 00:25:49 OAgMjfPS
ここの過去ログ保管庫てないんですか?

727:名無しさん@ピンキー
07/06/17 01:17:24 AJWKlbRh
>>726

おまえは、タイトルと>>1から読み取ることができないのか。

728:名無しさん@ピンキー
07/06/17 02:17:27 3oJSJ8vl
なんかこの展開過去にどっかでみたことあるような気がするが、

ま、いいか。

729:書く人
07/06/17 02:33:36 oH5EQbW3
電波受信完了!と、言うわけではありませんが続き、投下します。

730:書く人
07/06/17 02:35:11 oH5EQbW3
 切っ掛けとは、とても大切なものだと実感した。襟を開いてみれば、椎名さんはとても話しやすい人だった。
 椎名さんはコーヒーを飲みながら、色々と自分のことを教えてくれた。
 自分がハーフで、父親が日本人、母親がフランス人。一番印象に残る特徴である金髪は、その母親譲りの天然だそうだ。
 日本に考古学の研究(初めて知ったことだが、世界最古の土器は日本から出土したらしい)に来ていた母親と、大学で神道の勉強をしていた父親が出会って、ということらしい。その父親は、この春この村にある神社の神主を引き継いだらしい。

「つまり家は神社。どう?金髪巫女さんよ?」
「…?」

 そう言われて、僕は首をかしげた。言葉としては彼女の言っていることは分かったが、その意味が分からなかったからだ。
 素で混乱する僕の様子を見て、なぜか椎名さんの顔が赤くなり

「ちょ、ちょっと待った!アンタってオタクとかそう言うのじゃないの!?」
「……えっと…一応インドア派だけど…」

 どうやらソッチ系の人間と思われていたらしい。まあ、時々、その道に堕ちた友達から借りたラノベを読んだりしてたから、それを見て椎名さんもそう思ったのかもしれない。
そう言えば、と僕は思い出す。ラノベを貸してきた奴が『金髪貧乳巫女さん萌ぇぇぇぇっ!』って叫んでたことがあった。
 椎名さんは制服の上からでもわかる位に豊満な体つきだから、貧乳という項目から外れるけれど、金髪と巫女さんというところでは一致する。
 そうか。椎名さんは自分は『金髪で巫女だけど、オタクのあなたとっては『萌える』存在でしょ?』という意味で言ったのだろう。
 さらにそこから一つの結論が導かれる。

「椎名さんって…ひょっとしてオタクとかに詳しいの?」
「なっ!なわけないでしょ!?ア、アンタがオタクっぽいからそれに合わせてあげようとしただけなんだから!」

 怒られた。
 椎名さんはそっぽを向くと「ったく…一美の奴、男はそう言えばイチコロだって…つか、なんで私、こんな奴をイチコロにしようと…」と呟く。
 どうしたものかと途方にくれる僕。
 どうでも良いけど、どうして僕は年下らしき女の子にさん付けをするだけにとどまらず、アンタ呼ばわりされてるんだろう?
 現実逃避気味に考えていると、椎名さんが顔はそっぽを向いたままでこちらを見てきた。

「で、アンタはなんて名前なのよ?」
「あ、そっか。まだ名前を言ってなかったよね」

 だからアンタ呼ばわりだったのか。
 そう言えば互いの自己紹介の最中だったと、僕は自分の紹介を行う。
 と言っても、特に言うことはなかった。
 名前は喜沢弘文という、どこにでもあるありふれた名前。
 運動は少々悲惨。成績は多少自慢できる程度。身長はやや高め。顔は不細工ではないが、ぱっとしない。
下手に個性があるため、ある意味『全てが平凡』というプロフィールよりもよほど相手の記憶に残らないタイプ。
 唯一個性と言い切れる点と言えば、自他共に認めるほどの読書好き、という点かもしれない。

「あ、それから両親は医者と薬剤師」
「うわっ!実はお金持ちのお坊ちゃんだったの、ヒロフミは?」
「そうでもないよ」

 結局、椎名さんは僕のことを下の名前で呼び捨てにすることにしたらしい。
 ひょっとしたら同い年以下と思われてるのかも。

731:書く人
07/06/17 02:35:59 oH5EQbW3
 ま、いいか。
 別に敬称で呼んでもらいたいわけでもないし、椎名さんみたいな女の子に、下の名前で呼び捨てにされるのも、悪くない。
 そのくらいの下心、コーヒー一杯分の代金として認めてもらえるだろう。
 そんな風に理論武装している僕をまるで咎めるようなタイミングで、鋭い光が照らした。
 雷だ。
 
「ひいっ!?」

 もし雷がその語源通り神様が鳴らすもので、邪念を抱いた僕に対する警告だとしたら、それは思い切り方法選択をミスしている。
 なぜなら煩悩を増長するからだ。
 椎名さんが顔色を変えると、こちらに飛びついてくる。
 流石に胸に飛び込んではこないが、僕の腕を掴んで抱きしめる。
 直後、稲妻に遅れること一秒程で雷鳴が届く。

「…っ」

 僕の腕を抱きしめる強さが増す。
 夏服の薄い生地越しに伝わってくる柔らかさと、震え。
 僕は邪念を払いながら、椎名さんに気遣いの言葉をかける。

「大丈夫?」
「あ、あた、あたりまへじゃなひ」

 呂律が回ってない。
 本気で怖がっている彼女には悪いけれど、その様子はとても可愛かった。

「大丈夫だよ。雷なんてそんな怖いものじゃ……」
「子供の頃、ね」

 苦笑交じり僕の言葉を遮って、椎名さんが俯いたまま言う。
 表情は見えないが、声の調子からして無表情で喋ってるように思われる。

「子供の頃、母さんに連れられて山に行ったの。大学の研究班の人達と一緒でね。遺跡の発掘だったの。
その中で、お母さんと仲の良いお姉さんがいてね。よくアメをくれる人でね。その日も一緒だったのよ。
けど、突然山の天気が悪くなって、雨が降って、雷になって、慌てて道具を取りに行ったお姉さんが……どかーんって…」

 そこまで言って沈黙する椎名さん。
 どうしよう。思ったよりハードだ。
 椎名さんは僕の腕を掴んで俯いたまま、口を開いた。

「だから……雷だけはどうしてもだめで…それ以外は大丈夫なんだけど…ね」

 雨音に混ざって消えてしまいそうなほどにか細く、頼りない声。
 苦笑とはいえ笑ってしまったことを僕は恥じる。
 少しでもその恐怖とトラウマが和らぐようにするにはどうすればいいかと考えた時だった。
 ガタガタと、駅員がいたころ事務室として使われていたらしい部屋から物音がした。
 そして、例によって例のごとく

「イヤァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 椎名さんが悲鳴を上げた。
 彼女は今度は僕の首に抱きつくと、左右にガクガクとシェイクする。

「ナニナニナニナニ!?お化け?お化け!?ダメダメダメェッ!」
「お、おち、おちつ、落ち着いて!」

 僕が椎名さんを宥め終るより早く、事務室の扉が開いた。

732:書く人
07/06/17 02:36:49 oH5EQbW3
「――!?」

 恐怖に息を止める椎名さんと、首を絞められ息が止まる僕。
 そんな二人の前に現れたのは

「ワン」
「――犬?」

 涙目を見開きながら、椎名さんは事務室の横開きの扉を、器用に前足で開けて入ってきた柴犬を見る。
 腕の力が緩んだ隙をついて呼吸を確保した僕は、椎名さんに説明する。

「き、近所の安田さん家で飼われてるチコだよ。時々逃げ出してくるんだ。
 最近は安田さんがしっかり鎖を付けるようになってて来なかったんだけど…」

 見ればチコの首輪にはロープがついており、その先には杭が結わえつけられていた。
 この雨で地面が緩んだ所を、引っこ抜かれたらしい。
 が、その辺りはどうでも良いだろう。
 どうせ明日の朝になれば、安田さんがチコを回収に来る。目下の最大の問題は

「で、幽霊とかも駄目なの?」

 至近距離で見つめる椎名さんの横顔。椎名さんは少し表情を引きつらせた後、先ほどの雷のトラウマを話した時と同じように、表情が見えないように俯いて

「子供の頃、お父さんに連れられて――」



 とりあえずこの日、僕は金髪の彼女の名前が椎名マリアであることと、強気そうな物腰とは裏腹に結構臆病で可愛いこと、そして、離してみると結構面白いと言うことを知った。
 その夜以来、僕の朝夕駅舎で過ごす三十分は、以前と異なるものになった。本以外の楽しみができたのだ。
 それは椎名さんと過ごすことだ。
 とはいっても、いつも三十分おしゃべりをし続けるわけでもない。
 その時間の大半は会話もなく、ただペンキの剥げたベンチで一緒に座っているだけだ。
 けれど、その時間はとても居心地がよかった。
 誰かが隣にいると言う事実と、時折交わされる会話。
 朝の時間はいつも一緒だが、夕刻はそれぞれの予定が異なるために、会えないこともしばしばある。
 あの嵐の夜までは、むしろ安心を覚えた独りの時間が、今ではとても物足りなく、寂しいものに思われるようになっていた。
 弾み歌うような彼女の声音と喜怒哀楽の感情。
 それらがたまらなく心地よく、彼女といることが好きになっていった。
 自分の抱いている感情が恋心であることに気づくまで、時間はいらなかった。
 そのまま一か月半の時間が過ぎた。

733:書く人
07/06/17 02:39:00 oH5EQbW3
七月の半ば過ぎ、もうすぐ夏休みという頃だった。
下校中、アスファルトの照り返しに辟易していた僕の耳が、声を拾った。

「そこのヒロフミ!ちょっと待ちなさい!」

 ヒロフミ違いと言う可能性は限りなく低かった。
 理由は呼ばれた声に聞き覚えがあったからだ。

「椎名さん?」

 振りかえった僕の視界にはいつの間にか間近まで近づいていた椎名さんの顔があった。
 勝気な印象のある目と金髪。
 至近距離で見た椎名さんの表情に、少しドギマギしながらも僕はどうしたのかと聞こうとして、手を掴まれた。

「え?」
「先生確保したわよ!」

 椎名さんは振り返ると、僕の右手を持ち上げながら振り向いて声を上げる。
 その先に、椎名さんと同じ制服を着た女の子達が三人いた。

「……どういうこと?」

 僕の質問に、椎名さんは質問で返してきた。

「ヒロフミの学校って二学期制で、夏休みの前に期末ないわよね?」





 事の発端は、半月ほど前に帰ってきた全国模試の結果らしい。
 成績表と一緒に配布される上位者名簿。その二年の部、数学の項の末席に、僕の名前が載った。
 友人は、この結果をひっさげて親になんか買ってもらえと言っていたが、残念ながらうちの両親の方針は
『勉強は自分のためであり、成績が良かったからと言ってなぜ褒美を与えねばならんのだ』
 そんな僕にとっては見て励みにする以上の意味を持たなかったそのデーターを、

「見つけた時はこれだ、って思ったのよ。ヒロフミこそ、私達を補修地獄から救ってくれる救世主に違いない、ってね」
「わ、私は別に教えていただかなくても補修なんてなりませんわ…!」

 学校の近くの学校の近くの図書館で、僕は椎名さんから事情を聞いていた。
 その説明に際して、椎名さんの友達の一人―円谷さんが抗議したが、上げてしまった声は思いのほか大きくなったのを自覚し押し黙る。
 もっとも、周囲に人影はなく、咎められることはなかった。それでも反省して身を縮める辺り、真面目な人なのだろう。

 椎名さんの話によると、椎名さんとその友達を含めた四人のうち、円谷さん以外の三人は中間テストで惨憺たる結果を残したらしい。
 このままでは夏休みは補修でつぶれることが必至と言うことで、円谷さんに連れられて図書館で勉強会と言うことになったらしい。しかし円谷さんにもテストがあり、椎名さん達にかまってばかりもいられない。
 そこで、道端で見かけた僕を呼びとめた、ということらしい。

734:書く人
07/06/17 02:39:55 oH5EQbW3
「いいじゃない、美咲ちゃん。せっかく教えてくれるんだし~」
「そのとーり。男子一人に女の子四人の勉強会ってのは、シナリオ分岐イベントの王道じゃないかね?」

 椎名さんの説明に不服そうな円谷さんに、左右から声が掛けられる。
 全体的にのんびりとした口調の背が高い女の子のフォローと、それとは対照的に小学生と言われても違和感ない身長の女の子の微妙なフォロー。
 なんというか、こういった言い方はなんだが、円さんとは異なりどことなく、お馬鹿な印象を受ける。
 特に背のちっちゃい方の子からは、なにやら前述したオタ系の友人と同じ雰囲気が伝わってくる。
 そのちっちゃい子の方が、こちらを見てニヘラ、という感じの笑顔を浮かべ

「とは言った物の、すでに彼はマリリンルートに一直線!って感じかなぁ?」
「な、なんで私の名前が出てくるのよ!?」
「声が大きいですわよ!」

 注意する円谷さんだが、椎名さんは聞く耳を持たないようだ。
 うわ、本当に「ですわよ」なんて語尾を使う人がいるんだ、と感心する僕の目の前で、マリアの追及を背の小さな女の子はのらりくらりとと交わしてゆく。

「んー、けれどねえ。わざわざ別の学年の順位表をすべてチェックするとは、なかなかにあり得ませんよー?」
「だ、そ、それは知り合いだから…」
「知り合いだから、って?下手な言い訳だなー。
ともあれお兄さん。かなり好感度は高いですよ?このまま着実にフラグを立てていけばアイキャッチ画面がマリリン単独の絵になるのは遠くないよー?」
「ア、 アイキャッチって……えっと……」
「ああ、私は長曽我部 一美。らき☆すたのこなたに似てるって言われるおにゃのこです!」
「一美ちゃん、それってどういう意味?」

 いや、なんとなく意味はわかる。つまり現状を恋愛シミュレーションに例えるなら、僕が椎名さんとくっつくようなエンディングに向かっている、ということなのだろう。
 けれど今一確信が持てず、訊き返す。が、僕の問いに帰ってきたのは一美ちゃんからの返事ではなく、別方向からの追及だった。

「一美……『ちゃん』?」

 椎名さんだった。
 彼女の眼は少し釣り目勝ちで、ただ見られているだけでも時々睨まれているような錯覚を受けるが、この瞬間、僕は確実に睨まれていた。

「えっと……。な、何か質問?」
「ん?えーあるわよ先生ぇ、質問が。なんで一美だけちゃん付なのか、とか?」

 ……なぜと言われて、僕は首をひねる。
 いや、理由は単純だった。苗字が呼びにくいからだ。長曽我部なんてリアルで見たのは初めてな名前だ。
 それに外見的にも小学生な上、全体的に寝起きの子猫のような愛嬌なる造詣の顔をした彼女に『さん』付はイメージに合わない。
 深い理由はなかった。
 が、それを説明するより早く

「……ロリコン。
 美咲、ここ教えて」

735:書く人
07/06/17 02:41:17 oH5EQbW3

 釈明の暇もありはしない。
 冷たい目で僕を一瞥した後、椎名さんは円谷さんに向けて参考書を広げる。
 円谷さんは少し戸惑ったように視線を僕と椎名さんとの間で行き来させたが、結局椎名さんが向けてきた参考書を覗き込んだ。

「おやおや~。フラグを立てちゃったかな~?」

 にへら、とした表情をさらに溶けたようなもの変えつつ言う一美ちゃん。
 フラグ、とはプログラムにおける発動条件から転じて、出来事が起こるための条件を指す言葉らしい。
 そう言われると、少し嬉しい気がした。
 確かに冷たい態度や視線は居心地が悪いものだが、しかしひょっとすればそれは、椎名さんの嫉妬のようなものなのかもしれない。

「あの~、喜沢センパ~イ。
 ここ、教えてくれませんか?」

 聞いてきたのは最後の一人、背の大きな女の子――高木良子さんだ。
 180センチ近くあるのではないだろうか?スタイルもハーフである椎名さんを上回るほどのモデル体型。
 こう書くと近寄りがたいようなイメージだが、その印象をのったりとした挙措動作と喋り方が侵食し、中和している。

「あ、うん。えっと…高木さん」

 危うく良子ちゃんと呼びかけて(印象が彼女も子供っぽかったから)、ギリギリで名字で呼ぶ。その直後に横―椎名さんが放っていたプレッシャーが落ちる。
 その事に少し安堵しながら、僕は渡された教科書を見る。
 化学だ。

「この酸と塩基っていうのが分からないんですけど~、混ぜるとどうしてこうなるんですか?」

 高木さんが聞いてきたのは、化学の基礎とも言える中和反応についてだった。
 話を聞くと、なぜ塩酸と水酸化ナトリウム水溶液を混ぜると、塩酸とナトリウムが、元々付いていた水素や水酸化物イオンと別れてまでくっつくのかが理解できないらしい。

「えっとね。これは電気陰性度と酸性度っていうか…」

 教科書通り説明しながら高木さんの表情を見てみる。

「………」

 フリーズ。
 それはそうだ。教科書通りの説明で理解できるなら聞いてくるはずもない。
 よし、ならばイメージに訴えてみよう。
 僕は教科書の一ページを指して

「えっと…この表によると塩化物イオンの方が水酸化物イオンより酸として強いってのは分かるね?」
「はい」
「それと、ここによれば水素イオンよりナトリウムの方が塩基として強いよね」
「……はい」

 どうやら、ここまでは分かってくたようだ。

「だからさ、この酸性度と電気陰性度とかっていうのはそれぞれ相手を引っ張る力で、これが強い者同士が真っ先にくっつきあうから…」
「けど、最初はこの子たちは、それぞれ水素やOHとくっついてたんですよね~?」
「くっついてたって言っても一緒の溶液の中にいるだけだから。
 それに、この塩化物イオンもナトリウムイオンも、たまたま相手がいなかったから、一緒にいた水酸化物イオンや水素イオンと仕方なくくっ付いていただけで…――」


――仕方なく。


 自分で言ったその言葉に、僕ははっとなる。

736:書く人
07/06/17 02:42:00 oH5EQbW3
 相手を引っ張る力の強い塩基であるナトリウムイオンは、仕方なくその場にいた水素イオンと一緒になっていた。
 相手を引っ張る力の強い酸である塩化物イオンは、仕方なくその場にいた水酸化物イオンと一緒になった。
 ならば……

「……あの~センパイ~?」
「えっ。あ、うん。とにかく、そういうこと。分かった?」
「はい~。教え方が上手ですね」

 繕う僕に、高木さんはお礼をいってくる。
 けれど、僕はその内容をほとんど聞いていなかった。

 僕は隣を見る。
 そこには椎名さんがいた。
 機嫌が治った、というより一美ちゃんとのやり取りが既に意識の外に置き去られてしまったのか、頭を抱えながら円谷さんの問題解説を受けている。
 シャーペンの恥を口にくわえて脹れっ面で参考書を睨みつける椎名さん。
 そんな表情ですら見苦しさより可愛らしさが前に出ている。
 椎名さんは、そんな可愛い女の子だ。それに対して、僕は冴えない男。
 駅で二人が言葉を交わすような関係になったのは、偶然そこに二人しかいなかったから。

 さながら、ナトリウムイオンと水酸化物イオンだ。
 地味で誰も引きつけることのない僕と言うイオンがいる、駅と言うビーカーの中に、椎名さんと言う引き寄せる力の強いイオンがやってきて、僕を引きつけた。

 ――仕方なくに、だ。

 けれど、それは二人きりになったから。椎名さんに言わせれば、きっと仕方なくのことに違いない。
 ビーカーの外には、僕よりはるかに引く力の強いイオンに溢れかえっている。
 外に零れてしまえば、椎名さんに引き寄せられる、僕よりはるかに魅力的なイオンがたくさんいて、椎名さんは僕に見向きもしないだろう。
 現に、円谷さん達と話をしている椎名さんは、いつも以上に嬉しそうで輝いて見えた。

 ああ、何を勘違いしていたんだろう。僕にとって彼女が特別な存在であったとしても、彼女にとって僕が大切な存在である根拠にはならないと言うのに。
 いや、それどころか、すでに彼女には恋人か、あるいは好きな人がいるかもしれない。

 冷水を頭から浴びせられたような気分だ。
 女の子に少し声をかけられて、その友達にはやし立てられただけで、すぐにのぼせて、いい気になっていた。
 僕など椎名さんにとっては、二人きりに『なってしまった』相手に過ぎない。
 偶然と不可抗力の結果である僕が、椎名さんにとって特別な意味がある存在であるはずがあるだろうか?
 


「あの…喜沢さん?こちらの数式なんですが…」
「…うん。どうしたの」

 円谷さんに言われて、僕は現実の問題の方へと意識を向けた。
 


 解散の時、椎名さんは僕にテストまでの家庭教師を頼んできた。僕はそれを承諾した。
 少しでも椎名さんの隣を占有していたい。理由は、そんな悪あがきにも似たものだった。
 この日を境に、椎名さんとの時間が少しだけ憂鬱になった。

737:書く人
07/06/17 02:44:05 oH5EQbW3
つづく

たぶん次回がラストになるかと。
あまり待たせないように努力します。

738:名無しさん@ピンキー
07/06/17 07:47:13 rxP7HD2D
イイヨイイヨー

739:名無しさん@ピンキー
07/06/17 09:17:51 UWU9Xl/1
南下スゲー気になる展開だ!

740:名無しさん@ピンキー
07/06/17 09:21:15 TTdqLV+H
続き早く読みたい

741:名無しさん@ピンキー
07/06/17 13:48:18 mzEXyAJ3
書く人氏GJ!
続 き が 気 に な る !

742:名無しさん@ピンキー
07/06/17 23:18:10 8vqIe7RC
ワクテカ

743:名無しさん@ピンキー
07/06/18 18:50:24 Qnb5IV0p
684氏に書く人氏!
いやー、wktkが絶えませんなぁwww 

744:名無しさん@ピンキー
07/06/19 03:48:02 0FLPKbH2
あれ?主人公とヒロインって別の学校だったよな?確か
どうやってヒロインは主人公の学校の成績表チェックしたんだ?

745:名無しさん@ピンキー
07/06/19 05:53:29 0ZzBvCAR
全国模試って書いてなかったっけ?

かなり優秀

746:名無しさん@ピンキー
07/06/20 02:22:20 iOyhx1pi
>>736
続きwktk!

747:名無しさん@ピンキー
07/06/22 01:30:18 zsKuGuEd
なぜこのスレは、作品がくると沈黙気味になるんだろう。
ともあれwktk

748:名無しさん@ピンキー
07/06/22 18:16:43 p09qfoL6
どこのスレも似たようなものだと思うが・・・・・・・

とりあえずwktk

749:名無しさん@ピンキー
07/06/22 22:34:46 UNWP4P4h
うるさすぎるよりはましだろ。
みんな楽しみにしてるしな。というわけでwktk

750:名無しさん@ピンキー
07/06/22 23:42:04 F079qDf2
なんというかあまりにwktkすると騒がずいい子で待っていたくなってしまう

751:名無しさん@ピンキー
07/06/23 02:12:46 VEaj8k5F
つまらなくなったな

前半の静かで穏やかな雰囲気がぶち壊されて
ギャルゲ化したような気がする

エロパロだから仕方ないのか
ヒロインもシチュも良かっただけに残念だ

752:名無しさん@ピンキー
07/06/23 02:18:02 f5Nnixjd
>>747
容量やレス数を無駄に消費する事を抑えて、少しでもこのスレを楽しみたいからじゃないか?

753:名無しさん@ピンキー
07/06/23 02:58:08 5/JJpqMX
moriーーー


ほしゅ

754:名無しさん@ピンキー
07/06/23 13:22:27 5f9TR3iw
>>751
なら見なきゃいいだけのことだろ、そんなこといちいち書くな、うっとうしい

755:名無しさん@ピンキー
07/06/23 15:25:30 7ezOLIu8
んだな
俺が思ってたのと違ってきたからツマランとかガキかよw

756:名無しさん@ピンキー
07/06/24 11:54:30 zpiFJl2t
良スレage

757:名無しさん@ピンキー
07/06/24 20:07:52 mCBRRRoS
>>752といい>>754といい
このスレの住人は盲目もいいところだな

758:名無しさん@ピンキー
07/06/25 00:55:35 LQMvwD0M
こうして良スレがまた一つ・・・  orz

759:名無しさん@ピンキー
07/06/25 02:59:54 qFcm2Tjm
はいはーーい、お前らスルースキル覚えろー、忘れんなー!
これテストに出るってか、出すぞー!

760:名無しさん@ピンキー
07/06/27 19:12:16 tUwY9wPH
保守

761:名無しさん@ピンキー
07/06/30 07:24:33 UlGCu82L
wktkするけとイイよね?(・∀・)

762:名無しさん@ピンキー
07/06/30 13:09:20 Aog2XPkH
MHP2始めて、このスレ読んで、なんだか妄想が膨らみ始めた。
もしかするとそのうち何か書くかも。期待はしないで。

763:名無しさん@ピンキー
07/06/30 19:47:48 1wqubmHd
待ってまーす

764:名無しさん@ピンキー
07/07/02 00:03:34 6P2Y/13S
書く人マダー?

765:名無しさん@ピンキー
07/07/02 23:57:37 Vd+X+Oj1
ずいぶんと気が早いな
一ヶ月くらいまではwktkして待とうぜ

766:名無しさん@ピンキー
07/07/05 21:14:38 tpteLMiY


767:名無しさん@ピンキー
07/07/06 21:07:38 vl7AXB+n
>>1殿のSSがみてぇ…
所で、>>1に書いてある地震or核戦争勃発のやつって書いてもいいの?

いや、漏れは書かないよ、視聴者だし

768:名無しさん@ピンキー
07/07/08 23:14:48 9HpTVYd9
保守

769:名無しさん@ピンキー
07/07/09 07:52:12 Sr4eOL+t
>>734
シナリオ分岐イベントなんて言う女いねーよ
きんも~☆

770:名無しさん@ピンキー
07/07/09 12:32:00 bDj4z3Ji
あるいはゲーマーならひょっとして。

771:名無しさん@ピンキー
07/07/09 17:15:51 +LcTOd0G
そんなこと言ったらこんな羨ましいシチュありえな(ry

772:名無しさん@ピンキー
07/07/09 21:32:56 psIHhuSL
作者のエロゲヲタ度によるんじゃ

773:名無しさん@ピンキー
07/07/09 23:22:16 Sr4eOL+t
百歩譲ってこんな言葉知ってる女がいるとしたら
逆ハーレム恋シミュやり込んでるドブスくらいだな

774:名無しさん@ピンキー
07/07/09 23:31:07 txeM39VY
ここのスレは静かな図書館の中で司書や他の客が寄り付かない所で二人きりになってもぉKなの?

775:名無しさん@ピンキー
07/07/10 08:21:02 4+14HOK8
おK

776:名無しさん@ピンキー
07/07/10 19:37:29 /slA2Ti3
エロゲの劣化コピーみたいな糞SSじゃないなら
何でもおk

777:名無しさん@ピンキー
07/07/10 20:20:53 GQsd7Oz0
何かウザったいバカがいるな

>>774
良いんじゃない?

778:名無しさん@ピンキー
07/07/10 20:53:16 xjWReRIF
ぉK貰ったし今日から書き初めてみるよ

779:名無しさん@ピンキー
07/07/10 21:18:25 eRDSvEZV
また細切れ未完が始まるのか

780:名無しさん@ピンキー
07/07/10 22:32:56 xjWReRIF
>>779そういう事を言うと書く気が削がれるって知ってる?

781:名無しさん@ピンキー
07/07/10 22:34:24 MNlA3IK9
わざと言ってるんですよ。 わ ざ と 。


という>>779の心の声が聞こえてきそうだ。

782:名無しさん@ピンキー
07/07/10 22:49:07 bVV8NFwP
>>780
この手の謂れの無い非難とか中傷とかを、投げかけられるリスクが存在する場所だと
いうことを一応頭に入れておいた方がいいと思う。

まあ、あまり気にせず書いてください。

783:名無しさん@ピンキー
07/07/10 23:23:57 RwCnNqon
>>780
気がそがれたなら書かなきゃいいだけ。
書きたいなら書けばいい。
そういうもんだぜ!

784:名無しさん@ピンキー
07/07/11 00:21:23 fiz22/tL
今までのスレの流れを見てると妥当な考えだと思うがな
まぁ誘い受けがマンセーされるスレなんて大概がこんなもんなんだろうけど


【CP厨】リア厨だらけのスレを語るスレ【誘受】
スレリンク(eroparo板)

ところで、ここでこのスレが挙がってる理由を考えたことはないのか?

785:名無しさん@ピンキー
07/07/11 00:28:59 jr+KwKOg
以下、何事も無かったかのようにスルー。


786:名無しさん@ピンキー
07/07/11 09:09:24 xh58oOFw
雪山編は神だったのにな
すっかり糞スレに成り下がった

787:名無しさん@ピンキー
07/07/12 13:08:28 KPM5FuUm
前半ラノベ、後半エロゲって感じ
自意識過剰なキモヲタの臭いがぷんぷんするw
>書く人

788:名無しさん@ピンキー
07/07/12 16:37:21 uY7p2+yq
なんだかんだ言って

萌 る か ら そ れ で よ し

789:名無しさん@ピンキー
07/07/12 18:48:01 NqpWudvx
同意

790:名無しさん@ピンキー
07/07/12 23:14:40 RU8tCzft
かなりコアな設定だから書いてもらえるだけで嬉しいんだけどね
だから無理にエロ入れなくてもいいんだ
日常に存在しそうな非日常…そこが重要

791:名無しさん@ピンキー
07/07/12 23:20:53 gUVcBz8C
不可抗力なら、女の子と2人きりじゃなくてもいいのだろうか……。

792:名無しさん@ピンキー
07/07/13 02:38:37 vLEtAo1H
スレタイを穴があくほど見て欲しい





性的な意味で

793:名無しさん@ピンキー
07/07/13 03:26:34 YBbciKfP
>>792
そのあいた穴に挿入か?

794:名無しさん@ピンキー
07/07/13 04:05:14 7cKl/rWB
不可抗力がポイントではなく、女の子と二人っきりってのがポイントのスレですわよ?

795:名無しさん@ピンキー
07/07/13 08:45:47 Jp7Q9lyH
書く人の後半は二人きりですら無い
スレ汚し以外の何物でもない

796:名無しさん@ピンキー
07/07/13 08:47:02 /TABfwdt
この荒らし方は修羅場スレのやつか?

797:名無しさん@ピンキー
07/07/13 14:39:44 ZYEabnCr
きもいな

798:名無しさん@ピンキー
07/07/14 00:40:45 31fpLAHn
>>1待ち

799:名無しさん@ピンキー
07/07/16 14:24:02 ZIZKXsJE
書く人はスレタイ読めよ
あんなの投下されたら荒れるのも仕方ない

800:名無しさん@ピンキー
07/07/17 14:54:51 bH2aPaXN
数少ない書き手を追い出せるほどこのスレに書き手はいるか?

801:名無しさん@ピンキー
07/07/17 15:52:43 UBnR+iiR
夏だから、天然なのか荒らしなのか判断がつかないぜ。

802:名無しさん@ピンキー
07/07/18 08:56:03 UZIvQ4t8
完全スレ違いの駄作でも
ハーレムウハウハで興奮できればいいってかw
何のための住み分けだよ

803:名無しさん@ピンキー
07/07/18 10:36:18 VoWRvmbj
何処と住み分けるつもりだよwww
スレ毎に文句変えないと釣れないぞ。

804:名無しさん@ピンキー
07/07/18 10:43:43 EvrARY5d
あれがスレ違いに見えちゃうアレな人は放置汁。最初から最後まで
二人きりでなければいけないなんて決まり事はどこにも無い罠。

805:名無しさん@ピンキー
07/07/18 12:14:57 /U2subwu
>>804
ちょっと前の戦国モノもそうだったな。

806:名無しさん@ピンキー
07/07/18 15:17:06 s3+ANbuS
いや、エロゲ化は有り得ない

807:名無しさん@ピンキー
07/07/18 15:26:20 UZIvQ4t8
書く人の後半みたいな低能用の糞SSは
どこでも読めるだろ
検索すりゃ腐るほど見つかる

808:名無しさん@ピンキー
07/07/18 15:46:24 YtWn50oJ
バス停で二人きりの時の、素朴な田舎の雰囲気を漂わせていた
シーンでは、非常にwktkした。
(=ω=.)のパクリとか萎えるからやめてほしかった。

809:名無しさん@ピンキー
07/07/18 16:37:57 gK6yMKVK
いちいち反発する奴らいるんだな

810:名無しさん@ピンキー
07/07/18 19:22:39 UZIvQ4t8
>>808
同意

811:名無しさん@ピンキー
07/07/18 21:08:10 4tI+tXhW
アホが数匹暴れてるだけだろ
相手にするな

812:名無しさん@ピンキー
07/07/18 23:02:21 /RMP0xli
書く人氏マダー?

813:名無しさん@ピンキー
07/07/19 04:57:21 GXE9aMDJ
何度も言うが、このスレは数少ない書き手を追い出せるほど書き手に恵まれたスレなのか?

814:名無しさん@ピンキー
07/07/19 05:15:09 EzfV12al
>>813

いい加減、空気嫁。

815:名無しさん@ピンキー
07/07/19 10:32:57 /INA0U2x
つまらん話を投下されるぐらいなら投下が無い方がいい。

816:名無しさん@ピンキー
07/07/19 13:29:05 dWQDU8qf
>>815
同意。

817:名無しさん@ピンキー
07/07/19 21:39:27 a23KVnW5
>>815
だな。
ところで書く人マダー(・∀・)

818:名無しさん@ピンキー
07/07/20 07:34:23 o8fnWiQF
らきすたパクリ小説には興味なし

819:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:30:06 T1/Rvuqw
前回の投下から一ヶ月以上経ったので、そろそろリミッター解除します


820:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:37:04 T1/Rvuqw
 ▽

 上手いことを言ったやつがいる。

「俺らって懲役六年の刑に科せられているよなあ」

 その通り。
 
 中高一貫の男子校では、女っ気のない生活を余儀なく強いられている。

 中学、高校といったらアレじゃん。青春の真っ只中じゃん。

 かわいい女の子と、バレンタインにいちゃいちゃとか、大晦日に肩を並べて年を越したりとか、

 夏の海をアバンチュールに満喫したりするとかが普通じゃないのか?

 いいよなあ、男女共学の学生さんは。

 でもまだ神は、そんな俺を見捨ててはいなかった。

 一大イベントが隠されていたのだ。

 地区予選で珍しく好結果を出した我が卓球部は、夏休みに二泊三日の強化合宿を行うことになったのだ。

 部員は三人しかいないけど、その人数の少なさに対して心あるOBが何とかしてくれた。

 どうしてくれたかって?

821:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:38:16 T1/Rvuqw
 なんと、柊草女学園との合同合宿。

 市内に同じレベルの高校が無かったとはいえ、女子高生といっしょに合宿なんてありえねえ、と思ってもみたが、

 よくよく考えれば共学のやつらにとってはそんなの普通なんだろうな。

 集合は学校の西門前。

 そこからOBが車で現地合宿場まで運んでいってくれるらしい。で、そこで女の子たちと合流する手はず。

 財布持った。着替え持った。携帯持った。マンガ持った。トランプ持った。

 おっと、これを忘れてはいけない。せっかく買ったしな。十六年間一回も使ったことのない男性用コロンも、スポーツバッグに詰める。

 さて出発。

 名言を残してくれた友よ、悪かったな。

 俺は四年半で刑期を終えることにするよ。

 簒奪された理想郷を、この手で取り戻すんだ!

822:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:39:05 T1/Rvuqw
 △

 上手いことを言った人がいる。

「私たちって懲役六年の刑に科せられていると思わない?」

 実にそのとおりだと思うわけですよ。

 中学から続くこの柊草女学園に入ってからというもの、家族・先生以外の男の人と話したこともない。

 一緒の小学校に通っていた友達からは、メールやブログで「あたしの彼って超カワユクない?」なんてカキコして、散々ノロケてくる。

 どうせ恋人たちのすることって、クリスマスにいちゃいちゃとか、いっしょに文化祭を見てまわったりとか、

 何もない平日の昼間に『付き合って一周年記念日』という名目で学校サボって、映画館に恋愛モノを見にいったりとかするんでしょ。

 ……

 そうですよ! とってもうらやましいですよ!

 こんな感じでこの四年間半、柊草女学園に入れさせた親を少しだけ恨んでもみましたが、

 転機! まさに転機とよべる事態が訪れたわけです。

823:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:39:58 T1/Rvuqw
 私たちの所属する卓球部は、もともと県屈指の強い高校だったのだけど、それも去年まで。

 なぜかというと、たくさんいた三年生はすでに引退してしまったせいだ。

 今年も合宿を行いたいのだけど、残された一、二年は私を含めてわずか四人。かなり少なめ。

 でもでも一年生の部員の中に、大学生のお兄さんという人がいて、なんとまあその人は天守閣高校という男子校の卓球部OB。

 つまりは成り行きで、天守閣高校の男の人と合同合宿をやることになってしまったのだ。

 もうすぐ駅前に集合しなくてはいけない。合宿出発の待ち合わせにね。

 電車に三十分ほど揺られて、到着した駅から歩いて十五分のところが、今回の合宿場なんだって。

 うぅん。まだ会ってもいない男の子に対して緊張してきた。

 ちゃんとしたお話ができるかな。

824:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:41:02 T1/Rvuqw
 ▽

「おーす、トール」

 全校きってのキザ野郎が、指二本を使ってシュタっとポーズを決めてくる。

 慶一のいつものあいさつだ。

 こいつは中高五年間のうち五回とも一緒のクラスになったというただ一人の男。

 どうしてもこいつの悪遊びに付き合ってしまう俺にとったら、来年の受験シーズンには別々になって欲しいところだ。

「おうよ、神田さんと六郎は?」

「ん? まだじゃね? それよりほらこれ見てみろよ」

 は? と聞き返すよりも前に慶一はポケットから何かを取り出して見せた。

 ピンク色の光沢を出すその物体は……ひどく卑猥な形をしていて……

 慶一が親指で操作すると、ウィーンと携帯のような振動音が聞こえてきた。

「いやあ、一週間前ほど前に通販で頼んだものなんだけどね、それが届くのが昨日の夜になっちゃって、

 ちょいと焦っちゃったよ、ははは」

「いや、ちょ、おまえ……それ何に使うんだよ」

「何に使うかだってぇ? やーん、もうトール君のエッチー」

 朝から妙にハイテンションな俺の親友は、事もあろうにそのピンク色を俺の股間の方に……

825:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:41:50 T1/Rvuqw
「や、やめろ!」 

 バシッとけっこう本気めに張り手をかましてやったが、それに応える様子もなく、

「うーん、この子はトール君が嫌いなみたいだね。でもいっか、女の子たちに試してあげれば♪ フフフ」

 慶一の邪悪にゆがんだ笑みを見慣れた俺であったが、今日は一段と逝っちゃってる。

「トール~! 慶一~! こっち来い~~!」

 校門のほうで白い乗用車がクラクションを鳴らしていた。

 お、あれは神田さんじゃないか。後部座席から六郎も手を振っている。

「慶一、行くぞ」

「フフフフフ」

 左手をポケットに突っ込ませたまま、右手でスポーツバッグを肩にかけている。

 にたにた笑いながら、またスイッチを入れたらしく、ポケット越しからかすかに音が漏れだした。

「フフフフフフフ」

 ……おいおい、頼むから問題だけはおこさないでくれよ。

826:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:43:05 T1/Rvuqw
 ▽

「藤井先輩、おはようございます」

「おはよ、かなみちゃん。もう全員来ているみたいだね」

「私たち一年生。誰も先輩を待たすような人はいませんよ」

「そういわれると、なんか自分が偉くなってるみたいでヤダよう」

「いえいえ、それが部活のしきたりですから。お兄ちゃんが朝早く出かけてみたいなんで、私たちも行きましょうか」

 この活舌のいい子は私の後輩―神田かなみ。

 お兄ちゃんというのは天守閣のOBのこと。

 合宿費用のほとんどが神田さんに払ってもらっているということだから、かなみちゃんにも申し訳ない気分になってしまう。

 なにやら競馬で大当たりしたとか。

「藤井先輩! 今朝はなに食べましてんか?」

「ダイエットで食べておらへんねんったらコレおすすめっす!」

 部員四人のうちの残り二人は、フミちゃんとチカちゃん。

 愛らしい顔を二つ並べたこの双子は、どちらもコンビニでバイトしているだけあって新商品に詳しい。

「ふーん、どんなの?」

「へい、チカ出しな!」

「はいさ、フミちん!」

 数分遅れの妹のチカちゃんはコンビニの袋の中から「わくわくばなな」と書かれた飲めるゼリーのようなものを渡してくれた。

827:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:44:59 T1/Rvuqw
「面白そうな飲み物だね」
 
「そうやっせ。ほんでから味もダイエットにも抜群だす。あたしとチカの間では只今ミリオンセラー」

「いやいや、フミちん。甘いな。バナナはんよりも甘すぎまんねん。もうギガバイトセラーやね」

「なんや、そのギガバイトっちゅーのはぁ!」 

 ぽこんとフミちゃんがチカちゃんの頭をはたく。

 いつもこんな漫才を見せてくれる、ノリのいい双子ちゃん。

 かなみちゃんともかなり仲良さげだから、一人だけ二年生の私は少しだけ残念に感じるときもある。

「藤井せんぱーい! フミチカァー! 五十一分の電車もうすぐだよー!」

「あ、かなみちゃんが呼んでる。早くしなくちゃ」

「よしチカ、はいはい! これも、はいはい!」

「え? え? フミちん?」

 フミちゃんは自分の荷物をチカちゃんにすべて預けてしまった。



828:名無しさん@ピンキー
07/07/20 09:45:35 T1/Rvuqw
「よし、先輩! 遅れないように行きまっせ!」

「わ!」

 手ぶらのフミちゃんは私の手を引っぱって改札口に向かっていく。

 えっと……チカちゃんのこと大丈夫なのかな?

「わたいのことならべっちょないだっせ。先輩、急ぎまひょ」

 あれだけ荷物を押しつけられてしまった妹のチカちゃんは、颯爽と私たちの横を駆け抜けていく。

 あれ……大きなバッグ、一つしか背負ってないような……

「あー! チカ! あたしの荷物だけ置いていったなぁ!」

「フミちんが悪いんやでー」

 フミちゃんにべーっと舌を出しながら、今度は空いた私の手を引っぱる。

 こんな後輩たちに囲まれて、やっぱり私は幸せなのだろう。

 この子たちがついているから、男の子を前にしても大丈夫なような気がしてきた。

 頑張れー、私ー!

829:永遠と続く片思い男女
07/07/20 09:48:13 T1/Rvuqw
ゴメン、2chツール使い慣れてなくて、二回も上げてしまった
あとタイトルも書き忘れてた
タイトルは↑のやつです なんかいろいろ不備が多くてごめんね 

830:名無しさん@ピンキー
07/07/20 10:55:00 qb2CtBfs
2ch専用ブラウザならJaneがオススメ。
スペック足りないと重いけれど、色々と楽。

あと、気になったのは「永遠と続く」。
「永遠に」か「延々と」じゃないかと……。

831:名無しさん@ピンキー
07/07/20 11:42:07 SHTAPjhx
折角の投下なんだ、感想もいってやろうぜ

GJ!期待してる

832:名無しさん@ピンキー
07/07/20 12:04:33 dhpDaX9k
「活舌」も「滑舌」かな。
ともあれ、どんなキッカケで二人きりになるか期待。

833:名無しさん@ピンキー
07/07/20 14:34:24 K4Jz3pqo
>>829
GJですた。今後に期待します。
改行多用は個人的に気になったが…。

>>832
活舌も間違いではない。

834:832
07/07/20 15:23:21 dhpDaX9k
>>833
む、失礼した。

835:名無しさん@ピンキー
07/07/20 17:01:47 KqBJdBSE
これは良いwktk
久々の神光臨にテンションが上がって参りました

836:名無しさん@ピンキー
07/07/21 08:33:38 6JfFr11N
男子校も女子高もなかなかお互いにおマヌケそうなところが好感持てる
頑張れ!

837:延々と続く片思い男女
07/07/21 11:06:53 oc4huHKW
 ▽

「ここが今回泊まる宿舎ね」

 OBの神田さんが指差したフロントガラス越しのむこうには、青空が広がった山のてっぺんに白い建物の一部分が見えた。

「車ではここまでしか登れないから、あとは歩いていってな」

 外に出てみると、ぎっしりと詰まった森の匂いが鼻腔に広がっていく。

 それはもうコップ一杯分で一日の自然エネルギーが補充できるといった感じ。

 お泊まり所とかかれた古ぼけた看板の隣には、年に一遍も整備されているかどうか怪しい小径の入り口がある。

 だけど荷物をもって歩いても、そこまでつらくはないといった距離だ。

「さっき妹からメールが来たんだけど、もうすぐ来るってさ。じゃあ俺は帰るけど、妹たち四人よろしくな。次の大会、期待してるぜ」

「はい! 了解しました神田さん! ここまでお金を出してもらったからには、この真田慶一、必ずや全国に進出する所存であります」

 慶一がびしっと敬礼をすると、神田さんは笑みを浮かべながら、ヴォンと排気音を出して去っていった。

 木々のさざめきの合間に聴く野鳥の唄が心地いい。街中からたった三十分離れただけで夜空もきっと……

「さてや、トール君」

 悦浸っている吟遊詩人に、悪友が声をかけてきた。ちなみに俺を君付けするときは、なにかしら変な考えを発表するときだ。

「……なんだよ」

「じゃじゃーん。これが今回の女子高生四人であります。隠し撮りに成功しました。ほら、六郎もこっち来てみ」

 慶一は四枚の写真を取り出した。

 お腹から頭までをしっかり長方形に収めた制服女子が、それぞれの写真に一人ずつ写っている。

838:延々と続く片思い男女
07/07/21 11:08:11 oc4huHKW
「へー、良く撮れているね」

 六郎が感嘆しているが、そんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を……

 というかなんでそんなに極めて構図の良い写真が撮れるんだよ。

 二メートルの距離まで近づいて、はい、ポーズをとってくださいね。とか言わなきゃ無理なレベルだろ!

「六郎は、どの子がタイプ?」

 トランプのように写真を広げ、実に楽しそうに慶一が質問する。

「え……えっと、どういう意味かな?」

「好きなタイプだよ、好きな。貧乳がいい! とか、おでこがいい! とかあるっしょ」

「そういうの……よく、わかんないな……」

 蚊の涙ほども穢れなき心を持つ六郎は、慶一とは天と地ほどの差がある。

 まああまりにも六郎が奥手すぎるのもあるが。

 変態度を偏差値五十が平均で表わしてみると、六郎はめったにいない二十台を記録するだろう。

 慶一は、そうだな……鉄の融解温度までいくんじゃないか?

839:延々と続く片思い男女
07/07/21 11:09:14 oc4huHKW
「あー、六郎はウブすぎんなあ。じゃあトール! お前はどの娘よ」

 マジシャンさながら扇を広げるように四枚の写真を目の前に突きつけ、俺に問う。

 一番左の子、写真の右下には油性ペンでパーソナルデータっぽいものが書かれてある。

 『甲田フミ、(一年)―双子の姉、大阪弁、漫才好きでボケもツッコミもいける口』、

 写真を見ると健康美そうな肌色に、大きな目。ポニーテールが特徴的だ。この風景は登下校している途中かな。

 次、『甲田チカ(一年)―双子の妹、同じく大阪弁、漫才好きで、姉と共にお召し上がりください』

 ……なんだこの説明は。写真では姉とそっくりさんだが、この子はツインテールだ。

 次、『神田かなみ(一年)―OBの妹さん、可愛い、とにかく可愛い、ド本命。この垢抜けていなさそうな顔に

 運動少女というステータス! これからOBのことを義兄さんと呼ばさせていただきます。(*'Д`)ハァハァ』

 ……間違えた、これはパーソナルデータじゃねえ。慶一の主観記事だ。まあこのショートの髪型にはそそるものもあるが。

 一番右、『藤井みどり(二年、部長)―』

 ここまで読んだところで、慶一が急に写真を持つ手を引っ込めた。

「ご到着なすったぜい。トールと議論を交わしたかったところだが、これ見つかるとヤバイしなあ」 

 ああ、左様ですか。どうせ議論っていっても、三番目の子のことを選挙運動よりもうるさく演説するだけだろ。

 そしてなぜ一番重要な卓球レベルが書いていない。

 あぜ道を見下ろすと、先程の写真そっくりな女の子たちが、元気良く歩いてきた。

840:延々と続く片思い男女
07/07/21 11:09:56 oc4huHKW
 △

「ふぁ、疲れるね。ねえフミちゃんもチカちゃんも大丈夫?」

「私ならなんも平気っすよ」

「右におんなし」

「藤井先輩! あの人たちじゃないですか? 天守閣高校の部員さん」

「あ、そうだね……かなみちゃんも大丈夫?」

「はい! いまなら富士山にも登れる勢いですよ」

「そう、良かった……」

 坂道登って十五分。ここまで体力ないとは思っていなかったが、今日は特に体が重い。別にアレな日でもないのに……

 後輩を待たせて休憩を取るわけにもいかず、もう一度バッグを背負いなおして急な斜面を登っていった。

「おはようございまーす!」

 上から男の人の声が聞こえてきた。身内や、先生や、テレビとかで聞きなれたはずの低音域な響きに、

 私はとてつもなくドキッとした。

841:延々と続く片思い男女
07/07/21 11:10:46 oc4huHKW
「「おはようございまーす!」」

 後輩たちがそろって挨拶をする。ございまーすのところだけを重ねて返事をした。

 私たちは一歩一歩と近づいていき、そして彼らと合流するまでに至った。

「天守閣の卓球部部長、真田慶一です。よろしく。でこっちがトール。こっちが六郎。みんな二年生だね」 

 わあ! むこうの部長さんが挨拶をしてきた。ということは私も部長だから……

「柊草女学園から来ました藤井みどりといいます。この二人が甲田フミちゃんと甲田チカちゃん。

 この子が神田かなみちゃん。よろしくお願いします」

 ほっ、良かった。ちゃんと声に出せるではないか。

 このまま無言でおたおたしてしまって、かなみちゃんにフォローなんかされてしまったら、目も当てられない。

842:延々と続く片思い男女
07/07/21 11:11:32 oc4huHKW
「(先輩っ、声小さすぎますよ)」

 え!? かなみちゃ……

「彼女が柊草の部長、藤井みどりです。そしてこの双子の子は甲田フミとチカ。私が神田みなみです。兄がお世話になっております」

「へえ、神田さんの妹さんか。お兄さんに似てとってもスタイル良いね。それに素晴らしくキューティフルだ」

「え? キューティフル?」

「ああ、全く罪な人だ。あまりにもビューティフルすぎて、思わず英単語をメイキングしてしまったではないか。

 どうだい? 今宵、この満天のスタースカイのなか、ヨーロッパ中のバラを買い占めて貴方に……グホアッッ!!」

「あー、ごめんね、こいつたまに独り言つぶやいたりするんだ。それじゃあ宿舎まで行こっか」

「は、はぁ……」

 よし、いまだ! 今度はちゃんと目線を上げて話そう。

「あ、あの! 私が柊草女学園から来ました藤井みどりといいます!」

 ……あれ?

「藤井せんぱーい。もうみな行ってもうたよ」

「ファイトだす! 先輩!」

 あ、あう……

843:名無しさん@ピンキー
07/07/21 11:12:52 oc4huHKW
>>830 thanks!

844:名無しさん@ピンキー
07/07/21 11:25:09 oc4huHKW
>>842 かなみちゃん……自分の名前間違えるなよ。 明らかに推敲不足です。 ちょっくら樹海で吊ってくる

845:名無しさん@ピンキー
07/07/21 12:26:50 iPGYdkEE
まあ、もちつけ。あとGJ!

846:名無しさん@ピンキー
07/07/21 14:31:17 usQBxeYv
(´・ω・`)<GJ!
(・∀・)<GJ!

847:名無しさん@ピンキー
07/07/21 14:49:06 i4CFoMkv
(゚∀゚)GJ!
部長ちょっとアホの子で可愛いな。

848:延々と続く片思い男女
07/07/23 14:56:52 qSZ/wQoR
 ▽

 月山舎のとなりには、体育館があった。大きさは学校のそれと遜色ないほどだ。

 この山はまさに合宿のための場所。他の高校からも何組かの部員が来ていて、それぞれ青春の汗を流している。

 ある人たちはバスケット部。またある人たちはバトミントン部。館全体に室内スポーツの掛け声を響きわたらせる。

 俺たちはこのような施設の一角にある卓球ルームで、練習に励んでいた。

 いろいろな組み合わせでの一対一や、チームを作っての団体戦形式で特訓しているうちに、閉館時間である夜の八時になった。

「じゃあ、今日はここまでにしとこっか」

 今の今まで奇跡的に問題を起こさなかった俺たちの部長・真田慶一の言葉に、柊草の面々もそれに同意する。

「晩御飯もあの食堂なのかな?」

「そうだな、あそこしかないしなぁ」

 お昼をとった宿舎内の食堂は決して美味いとはいえなかったが、わざわざ下山するのも億劫だ。

 六郎の問いかけに、俺は気だるく返事をした。

「では、三十分後に食堂に集合ということでどうでしょう?」

「うん! ほんでえーんちゃう?」

「そーやなー」

 神田さんの妹さんと双子娘たちの会話の流れも加わり、やっぱり飯は食堂でとなりそうなところで、

 ただ一人異論を唱えるヤツがいた。

「ちょーっと待ってい! 晩飯のことですが実はあてがあるわけです」

 慶一が、あからさまな役者口調を使う。

849:延々と続く片思い男女
07/07/23 14:58:02 qSZ/wQoR
「は? まさかわざわざ山降りるのか?」

「ノンノンノン、トール君。たしか月山舎の部屋には、当然のことながらコンセントがあるよなあ」

「ああ」

「そして、俺は電気鍋と材料を持ってきた」

「ほう、つまりこんな夜遅くから料理しようというわけか?」

「早漏トールよ、早まっちゃあいけない。実はもう作ってあるわけです」

「どうやって」

「昼飯食い終わったあとにだね、部屋に戻って、野菜を切って炒めて、今はコトコト煮込んである。

 あとはハヤシのルーを入れるだけさあ」

「えぇ!? ハヤシライスですか?」

 不意に女の子の声が、背後から聞こえてきた。

「うん? 藤井みどりさん。どうされましたか?」

 慶一の冷静な受け答えに後ろを振り返ってみると、

 自分の素頓狂な発声にびっくりして、恥ずかしそうに下をうつむく女部長の姿があった。

「実はね、藤井先輩、大のハヤシライス好きなんよ」

「そやね、ハヤシライス巡行の旅とか言て、県内歩き回るほどやんね」

「おやおや、そうでしたか。では藤井みどりさん、せっかくですので食べていただけますか?」

「え……あ……はい……」

 ますますうなだれる藤井さんに対し、慶一のほうはしてやったり的な笑みが見え隠れしたような気が……

850:延々と続く片思い男女
07/07/23 14:58:40 qSZ/wQoR
 △

「よかったですね」

 シャワー室で、短い髪の毛をわしゃわしゃとシャンプーしているかなみちゃんが、こちらに首を回してきた。

「えぇ! 何が……かな?」

「とぼけないでくださいよ先輩。ハヤシライスのことです。偶然ってあるものですね」

「そ、そうね」

「藤井先輩のあの声、とっても可愛らしかったですよ」

「もーう、かなみちゃんはいじわるだなあ」

 私は、腰まで垂れた髪から水気を切って、そそくさと退散しようとすると、後ろから誰かに抱きつかれた。

「せーんぱい♪ まだ帰っちゃあかんだっせ」

「えと、なにかな? フミちゃん」

「今日はいつもとてまうて、三人の男の人たちと一緒に練習しましてんね」

 チカちゃんが代わりにそう答える。

「ほんでだっせ。藤井先輩は誰が良かったんかやえなて」

「そ! そんな! まだ一日目ですし、私が誰かを好きになるとかは!」

 私はある男性の顔が、頭の中を横切ってしまい、瞬間的に顔が熱くなるのを感じた。

「やーだなあ、先輩。あたしは誰が卓球上手かったか訊いただけだすのんに」

「先輩、ひっかかってやんの」

「もうっ! フミちゃんチカちゃんってば」

851:延々と続く片思い男女
07/07/23 15:00:01 qSZ/wQoR
「で、本題だすけど、やっぱり誰が好きだすのん? あたしは六郎君。チカは?」

「安牌やなあ、フミちんは。わたいは漫才向いてそいな慶一君かな。そこで聞き耳立てとるかなみは?」

「ああうん、そうだね。私は徹さんのような人がタイプですね。はい、これで三人ともいいましたよ、次は先輩の番ですね」

 ええ? なんでみんなそんなに簡単に言っちゃうの?

「先輩だけ言わないのはセコだっせ、ほれ、先輩もパーっと言っちゃっとくんなはれ」

「……どうしても言わないといけない?」

「「どうしても!」」

 後輩たちが強く声を揃える。

「えーとね、私は……」

 何度か深呼吸して、喉から搾り出すように、

「私は……徹さんのような人が、ほんのちょっとだけ好みです……」

「「おおおっっっ!!」」

 また三人が合唱する。

「そっかそっか、そうですか、これは先輩応援してあげないといけませんね」

 とかなみちゃん。

「え、なんでなんで?」

 かなみちゃんも徹さんのことがタイプなのでは?

852:延々と続く片思い男女
07/07/23 15:00:37 qSZ/wQoR
「実はね、藤井先輩。あたしら言うたこと、ぜーんぶ嘘だす。

 あたしが六郎君、チカが慶一君、かなみが徹君と割り当てるように言うたら、先輩の本音が聞けるとちがかて思てましてん」

「作戦通りやね! フミちん!」

「ごめんなさい、先輩。フミチカにどうしてもと言われて……」

「え? それじゃあ……私だけ告白したってことになるの?」

 今日は何回も頬を染めたような気がするが、そのどれにも負けないほど真っ赤になってしまった。

「あー、せんぱーい、逃げたあ」

「先輩、テラカワユス」

「先輩! 体冷えてしまってるのでもう一度シャワー浴びた方が……」

 みんな、いじわるだあ。シクシク。

853:名無しさん@ピンキー
07/07/23 16:29:25 NU9lxDZ2
GJ!
先輩カワユス(´・ω・`)

854:名無しさん@ピンキー
07/07/24 18:55:25 8czYO+jC
GJ!!

855:名無しさん@ピンキー
07/07/25 01:11:39 rSDfybG+
慣れない関西弁はやめたほうがいい
・・・実際そういう関西弁があるんなら謝るが。

856:名無しさん@ピンキー
07/07/25 04:47:39 mlAFSDVs
>>855
お前さんが言う関西弁という方言は、おそらく大阪弁の事だ。
実際には神戸や京都も関西に含まれ、神戸弁や京言葉は大阪弁とは違う。
Wikipediaにおいて関西弁とされる方言は、京言葉、神戸弁、近江弁、丹波弁、舞鶴弁、船場言葉、河内弁、泉州弁、摂津弁、播州弁、奈良弁、紀州弁、淡路弁、三重弁の14種類。
これらは全て違う方言だ。
つまりそういう事。

857:名無しさん@ピンキー
07/07/25 12:02:00 iIzBPVaA
てか物語の中なんだしどうでもいいんじゃ…

858:名無しさん@ピンキー
07/07/25 13:53:04 mlAFSDVs
>>857
地元民はこだわるんだよ。

859:名無しさん@ピンキー
07/07/25 14:40:23 Zav0ssdo
たしかに、間違った方言が出てくると失笑してしまう。

860:855
07/07/25 16:53:54 rSDfybG+
関西弁が多様なのはわかる(そもそも地元民なんだからな)。
その上で>>848が多様な方言のどれにも該当しないのではないか、と言ってるんだ。

だがちょっと待って欲しい。
怪しい関西弁使うのも脳内変換次第で萌えるのではないだろうか。

861:名無しさん@ピンキー
07/07/25 17:14:53 dOYMA7VF
おkwww

862:名無しさん@ピンキー
07/07/25 18:59:12 bZ1JBuMH
さてわいも地元民なわけだが、どないな言葉使うたらええねん?

863:延々と続く片思い男女
07/07/25 19:00:41 bZ1JBuMH
 ▽

「そ! そんな! まだ一日目ですし、私が誰かを好きになるとかは!」

 な、なんだ?

 もくもくと湯気だつシャワーの栓を閉めると、同時にくぐもった女の子の声が耳に入ってきた。

 となりから? あの声は……

 俺たち男がシャワールームにいるということは、やはり女の子も同じく汗を流そうとしているわけで、

 仮に薄壁一枚で仕切りをしているのであれば、向こうからの発する音がこちらまで駄々漏れてもてんで不思議ではない。

 で、詰まるところ、藤井みどりさん本人の声だと判断できるほど明瞭に聞き取ることができ、

 俺にとって柊草四人中一番好感の持ったその子がさっきのような台詞を口に出すから、

 希念と緊張の思いで蛇口の栓から手を離すことができないでいるほどだ。

 ちなみに運良く慶一はいない。あいつがいた場合には、もうこの会話を最近刻々と良質になってきている携帯の録音機能で盗聴し、

 連続再生可能のメディアプレイヤーを耳元に置いて、寝てから起きるまでずっとかけっぱでいるだろう。

 いや、あの変態なら、盗撮ぐらいはするか?

 右手には六郎がいるが、たぶん彼には恋沙汰の話しなどフランス・ブルターニュ地方のブルトン語よりも理解できないに違いない。

 まるで気にすることなく体を洗っている。

 向こうからのシャワー音も交じるが、俺は耳の穴をかっぽじって集中した。

「で、本題ですけど、やっぱり誰が好きですの? あたしは六郎君。チカは?」

 おお! さっそく本題ですか! この声は双子ちゃんか? で、六郎君が好きですと。良かったなあ六郎。

864:延々と続く片思い男女
07/07/25 19:01:40 bZ1JBuMH
「安牌やなあ、フミちんは。わたいは漫才向いてそうな慶一君かな。そこで聞き耳立ててるかなみは?」

 双子ちゃんのもう一人の子だ。慶一が好き!? ……やめとけとは言わない。

 どうせ明日になったら嫌悪の対象になっているだろうから。

「ああうん、そうだね。私は徹さんのような人がタイプですね。はい、これで三人ともいいましたよ、次は先輩の番ですね」

 え? ……お、オオオオオオオオ俺!? いい、今のって神田かなみさんだよなあ。

 そっか、俺か……そっか、そっか……ヘヘ、そっか。

「先輩だけ言わないのはズルですよ、ほれ、先輩もパーっと言っちゃってください」

「……どうしても言わないといけない?」

「「どうしても!」」

 藤井みどりさんの番だ。俺も一緒に「どうしても!」と口を動かす。

「えーとね、私は……」

 うんうん、私は?

 ジャァァーーーーー!

 思いもかけず、いきなりの濁流音が聴覚を奪った。

 もう素ん晴らしいタイミングで、六郎がせっけんの泡の洗い落としを開始したのだ。

 六郎~~、そりゃねーよ。

 あとから考えてみれば、有無も言わさずにシャワーを止めてやればよかったんだが、

 このときは必死になってとなりからの音を拾おうとしていた。まるでWiiで行なう卓球の練習のように無駄であったが。

865:延々と続く片思い男女
07/07/25 19:02:27 bZ1JBuMH
 △

 香ばしいドミグラスソースの匂いが漂ってきた。

 デミグラスソースではなくて、正しくはドミグラスソースというのですよ、

 なんて語ると、「ホントに先輩ってハヤシライスのことになると饒舌になるんですね」とからかわれてしまうので、

 できるだけハヤシ知識は隠すようにしておこう。

「ほーい、できましたよーん」

 201号室の男部屋で作られたハヤシライスは、いまちょうどお皿に盛り付けられようとしている。

「トントントン、あーけーてー」

 向かいの203号室―女部屋から着替えの準備をしてきたフミちゃんがドアをノックする。

 なかなか防犯意識の高いことで、月山舎の各部屋にはオートロックが設置してあり、

 一度ドアを閉めると、鍵を持っているか、中の人から開けてもらわなくては入れない。

 私がドアを開けに行く。

「はい、フミちゃん」

 これで201号室に七人がそろった。フミちゃんはくんくんと鼻を鳴らし、とびっきりの笑顔になる。

866:延々と続く片思い男女
07/07/25 19:03:23 bZ1JBuMH
「あー、じゃあみんな、鍋を囲んでー」

 振りかえると徹さんがみんなに合図を送っていた。

 ふぁあ、なんでだろう? 練習中はそこまでではなかったのに、意識しちゃったからなのかな、お顔もまともに見られない。

「うお! トール、もうみんなに皿を配ったのか?」

「おう、それがどうかしたのか?」

「え……ああいや、ご飯の量の大小とか気をつけようと思って」

「足りなきゃまだおかわりはあるだろう、多けりゃ残せばいいし」

「う……どれがどれだか分かんねえ」

「なにを言っているんだ?」

 みんなが鍋の周りに集まって、輪になろうとしている。

 徹さんは左どなりの慶一さんとお話をしているけど、右どなりは、右どなりには……誰もいない。

「藤井せんぱーい、席はもちろんあそこやろ」

「そうやね、はいはい行った行った」

 ええ!? 私だけに聞こえるようにフミちゃんチカちゃんが呟き、それの意味するところに胸がキュウンと鳴らされる。

 息も心なし苦しくなったような。どうしてこの子たちは他人の恋バナがすきなんだろ。

867:延々と続く片思い男女
07/07/25 19:04:19 bZ1JBuMH
「先輩が行かないのでしたら、私が座りますよ~」

「……!」

 まだ輪に加わっていないかなみちゃんの言葉に、またまた胸が締め付けられた。でもさっきとは違ってなんとなく嫌な感じで。

「かなみ、先輩にいけずしちゃあかんよ」

「イジメ、かっこ悪い」

「冗談ですよ、先輩」

 私は急かされるまま、フラつかないようにしっかりとした足取りという気で、でもやっぱり少しフラつきながら、

 徹さんのとなりに座った。

「じゃ、じゃあ食べよっか」

 全員が鍋を囲んだところで、徹さんの号令のもと、遅い夕食会がはじまったのでした。

868:延々と続く片思い男女
07/07/25 19:05:15 bZ1JBuMH
 ▽

 フワっときた。急にフワっときた。ハヤシライスに屈しないほどシャワー上がりの女の子の芳気が、

 目に見えるほどの侵攻力を持って俺の鼻を陥落させたのだ。

「じゃ、じゃあ食べよっか」

 あんまりの不意打ちに思わずキョドってしまい舌噛んだ。そしてその恥をごまかすように先陣切ってみる。

 俺が食べると同時にみんなも競うばかり、というほどでもないが、各自スプーンを動かし始めた。

 厳しい練習で、おなか空いていることだしな。

 あれ?

「おい慶一、食べないのか?」

「え? ああ、うん、まあ、その、そう。こうも美味しそうに料理ができるとね、なんか食べるのがもったいないなーって」

「そうか? 自信作なのは分かったから、お前も食えよ。ウマいぜ。」

「……そだな」

 そして、若干の沈黙をおいたあと、

「札幌ドーム!」

 と毎日三十時間考えても解けないような叫びをシグナルとして、猛烈にメシを掻きこみ始めた。

 左にいるこんなバカ野郎はほっといて、鍋越しの正面に目を向けると、双子ちゃんたちが六郎相手に漫才をしているのが見えた。

 彼女たちの会話は非常にテンポが良く、まるで言葉というピンポン玉を使って、

 愛ちゃんもびっくりのスーパーラリーを打ち合っているように感じる。六郎もまた目を丸くして、そのリズムに聴き入っている。

 たしかどっちかは、六郎のことが好きなんだったな。がんばれ。

869:延々と続く片思い男女
07/07/25 19:06:05 bZ1JBuMH
 続いて、もひとつ右。こんな俺に対して興味津津であられる神田かなみちゃんが、とても礼儀良く正座して双子漫才をたしなめている。

 もう一度言う。俺のことがとっても大好きなかなみちゃんはなぜか向こう側を向いている。なんでだろう? 

 たまにちらちらとでもこちらを気にしてくれるのだったら嬉しいのだが、漫才に集中しているんだったら仕方がないか。ちょいと残念。

 さらに右には、我が麗しの藤井みどりさんが……なんかお皿とにらめっこするように下を向いて食べている。

 そうだった、ハヤシライスが好きなんだったな。これが慶一の策略だというのは考えすぎだろうか?

 まあいい。せっかくのチャンスなんだし、話しかけてみよう。

「藤井さんってどうしてハヤシライスが好きなんですか?」

「へ、はッ、ヒャウ!? け、けほっ、けほっ」

「あ、ごめんごめん」

 急に話しかけてしまったせいなのだろう。咳きこむ藤井みどりさんに水を差し出す。

「ンッ、ンッ、ンッ、くふぅ。……ふぅ。あの、ありがとうございます……徹さん」

「気にしなくていいよ。それより藤井さんって、俺のことを名前で呼ぶんだね」

「ひゃあ、いえ、それはっ違います、いえ、違うというのは違うという意味ではなくて、その、苗字は教えてもらっていないから……」

「そうだっけ? うーん……じゃあこうしよっか、俺も藤井さんのことみどりさんって言っていい?」

「はうあッ! はひ! はい、構いません。いいですよ。大丈夫です」

 あれ? 俺ってそんな怒ったような口調をしているかな? なぜだか怖がっているように見える。表情がおっかないからかもしれない。

 努めて笑顔で優しい言葉をかけても、スプーンを口に含ませて、ますますとしなだれるような格好をさせてしまう。

 ごくたまに気遣いからか、目を合わせてくれるも、サッと伏してしまう。

 その上目使いとても可愛いのになあ、本当に嫌われているのかな……ショックだ。

870:延々と続く片思い男女
07/07/25 19:06:50 bZ1JBuMH
 こっちからのほぼ一方的な会話がそろそろ途切れようかとするところで、いとらうたしかな。とんでもないことを質問してきてくれた。

「と! 徹さんって素敵ですよね! 彼女とかいるんですか?」

 え? それってどういう……

 しかし、発言の意味を百パーセント理解する前に、とんでも迷惑野郎が突如として喚きはじめた。

「おう、キタぜパトラッシュ。エキセントリックな掉尾を飾る予定だったが、いちごパンツ(1582)で最早これまで。

 チャーミングなショートヘアーが霞んで見えてきたぞよ。そんな貴方は明眸皓歯。そんな拙者は月下氷人。

 そして意識はメルトダウン。みせろかがせろさわらせろ……」

 こういい残し、慶一は豪快にも音をたてて仰向けに倒れた。今のは辞世の句なのか? 長いしムズいし覚えにくい。

 最後の一フレーズしか聞き取れなかったぞ。

 気づいたら、正面の三人も寝ていた。双子ちゃんと六郎が川の字になって。

871:延々と続く片思い男女
07/07/25 19:07:38 bZ1JBuMH
「先輩……私も部活の練習で疲れたみたいです。ちょっと向こうの部屋で休、み、ま……」

 立とうとするものの、全く体に力が入らないみたいで膝から崩れ落ちるかなみちゃん。

 なんかおかしい。そしておかしいと感じる初源の理は、そこでべそかいてぶっ倒れているこの変態だと判断、断定。

 大方このハヤシライスのいくつかに眠り薬でも仕込んだのだろう。

「みどりさんは平気?」

「う、うん。ちょっと気だるい感じがするだけ」

 そういっておぼつかない足取りで、201号室を出ようとする。

「私、部屋で休むね……」

 俺ははっきりとした意識があるから、おそらくはハズレだったのだろうけど、みどりさんの皿を見ると食している量が少ない。

 なので薬が入っていたかどうかは確認できなかった。

 さりとてもし薬が入ってたとすると、急に倒れることになってしまうかもしれない。

 俺は急いでみどりさんを追った。

872:名無しさん@ピンキー
07/07/25 19:08:18 bZ1JBuMH
↓こっからずっと俺のターン!↓

873:名無しさん@ピンキー
07/07/25 20:53:41 PIPR2i4W
↑ここまでお前のターン↑

874:名無しさん@ピンキー
07/07/25 21:04:56 bZ1JBuMH
>>873
あ、ごめん。そういう意味じゃなくて、
みどりちゃんが気を失うので、主人公がずっと続きますよってことです。
まぎらわしいな、この書き方かと

875:名無しさん@ピンキー
07/07/25 21:37:15 iIzBPVaA
ワロスwww

876:名無しさん@ピンキー
07/07/25 22:54:04 a7b4ouCP
札幌ドームwwwwwwwwwww

877:名無しさん@ピンキー
07/07/26 12:33:26 EeZm8OaR
GJ!
そろそろ本番フラグwktk


>>872-873
この流れ吹いたwww

878:名無しさん@ピンキー
07/07/27 15:41:38 EkOUgvb9
良スレage

879:名無しさん@ピンキー
07/07/28 12:56:29 x9inJUH3


880:名無しさん@ピンキー
07/07/28 22:40:24 H1o/blrY
ニャ━━ヽ(゚∀゚)ノ━━ン!!

881:名無しさん@ピンキー
07/07/28 23:48:02 x9inJUH3
続きwktk

882:延々と続く片思い男女
07/07/30 15:44:19 qyxHwqkY
 △

 あれ? 私、どうしたんだろ?

 クーラー結構利いているはずだけど、体が熱くほてる。

 首元から嫌な汗が流れてきて、呼吸も荒くなってきている。

 まるで体の全ての器官から酸素を欲しているような感覚が、全身を包む。

 心拍音も聞こえてきた。もうダメ、つらいかも。

「私、部屋で休むね……」

 頭と視界がふやけて、よろよろになる。お酒飲んだことないけど、酔うっていうのはきっとこういう気分なんだろう。

 201号室を出る。真正面の203号室のドアノブを引っぱる。あれ、開かない。

 そうだ、鍵、鍵。たしかポケットの中に……

「みどりさん、ふらついているけど大丈夫? とっとっと、うわあ!」

 意識が朦朧としていて、どうやら私の体は力なく倒れようとしていたらしい。後ろから声をかけてくれた誰かが支えてくれた。

「あっ、ありがとうございます」

 手短にそう告げて、助けてくれた顔を確かめようと目線を上げてみる。

 ぼんやりとした目に映えだしたのは、さっきまでいろいろ話しかけてくれた徹さんだった。

 ―徹さん!


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