【不可抗力】女の子と二人きりになってしまったat EROPARO
【不可抗力】女の子と二人きりになってしまった - 暇つぶし2ch520:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 00:23:54 6McLzcBh
説明しよう。

ある日、宇宙人が現れたんだ。

その宇宙人が言うには、

全世界中の男30億人、女30億人を、

それぞれ30億ペアで、ある白い個室に24時間監禁するらしい。

その白い部屋は縦、横、高さ、それぞれ10m。

1ペア1部屋。全部で30億部屋。

どうしてこんなことが分かるかって?

それは、全地球人の頭の中にそういう映像が流れたんだから仕方ないじゃないか。

もちろん僕も見た。

本当にびっくりしたよ。

こんなこと前代未聞だもんね。

全世界中のメディアは、こぞってこの問題を取り上げた。

今では、新聞記事の半分・テレビでは一日10時間もの量、この手の話題だ。

決行は、日本時間で今日の夜8:00から明後日の夜8:00まで。

さて、どうなることやら。

521:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 00:25:06 6McLzcBh
世の中にはもちろん変な人もいる。

日本国政府は、各自防衛用の武器を持つことを推奨している。

それはそうだろうな。

どれだけ犯罪を犯しても、捕まえる人がいない。

自分の身の安全は、自分で守らなくてはいけないのだ。

僕の女友達も、この手のことを心配している。

見ず知らずの人に、強姦されるんじゃないかって。

僕は、包丁と電気スタンガンを持つように言った。

それでも彼女は不安らしい。

一緒になるのが僕だったら良いのにねと言ってくれた。

嬉しかったが、そんなのは30億分の1だから期待しない方が良いだろう。

おっと、もうすぐその8時がやってくる。

ペアになるのは誰だろう?

ノルウェーの美少女か、中国の若奥さんか、タンザニアのお婆さんかもしれない。

アメリカの国務長官だったらいやだな。問答無用で撃ってきそうだ。

日本語で意思疎通が図れる相手は、30億分の6000万。

2%か。少ないな。

7時59分になった。

僕は戦う意思はないので、武器は持たないでおく。

僕の家族4人は、だんだん意識が遠のいているようだ。

そして……ぼくも……マドロミノナカニ……

522:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 00:26:12 6McLzcBh
ここは、どこだろう……

そうだ。あれだったな。

宇宙人のヘンタイチックな実験だ。

部屋の白さで気づいた。

僕は、腕時計を見る。

8時……40分。

8時からじゃなかったのかよ。

あ!

そんなことはどうでもいい。

僕のペアは誰なんだ!!

がばっと起き上がった。

「…………!!」

なんか左手の方から声が聞こえた。

左に振り向く。

僕とめいいっぱい離れた場所から、その少女は刃渡り30cmもあるナイフを構えていた。

金髪。蒼い瞳。絹のような白い肌の少女。

10歳ぐらいだろうか?

感じのいい赤と黒とベージュのブラウスを着ている。

523:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 00:26:52 6McLzcBh
「グッドモーニング」

トーイックで400点台の僕は、なけなしの英語を使ってみた。

「…………!!」

あれ?できるだけ笑顔で言ってみたつもりなんだけどなあ。

「ニーハオ。……は違うか。中国系じゃないもんなあ」

少女は変わらず僕を睨みつけてくる。

えーとあと、フランス語話す人も結構いるようだから……

「ボンジュール」

こころなしか、驚いたように見えた。

「……Bonjour Monsieur」

おお! 今なんかボンジュールって聞こえたような気がするぞ!

この娘はフランス人、もしくはフランス語がしゃべれる人だ。

「……Me comprenez-vous?」

む、こんぷれぶー? ごめんフランス語分からないんだ。

「Quel est votre nom?」

「ア、アイキャンノット、アンダースタンド、フランス……語」

フランス語ってなんていうんだっけ。

それでもこちらの意図は気づいてくれたらしい。……なんかがっかりしたような表情をしている。

524:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 00:27:34 6McLzcBh
「キャンユースピーク、イングリッシュ?」

こういう時、ドゥユーのほうが良かったのかな? でもどっちでもいいや。

「……Je ne comprends pas」

ああ、駄目だ。コミュニケーションは無理っぽい。

こんなことだったら、世界十ヶ国語フレーズ集持ってくればよかったなぁ。

テレビでそんなこと言っていたような気がしてきたけど、もう遅いな。

兎にも角にも、その物騒なものはしまって欲しい。

どうしたらいいんだ?

「その、ナイフ、下に、下に、置いて」

身振り手振りで、ナイフを放すように言う。

少女は何も言わずに睨んでくる。

「だから、その、ナイフを、あーもう、置いて欲しいんだってば」

「Eloignez-vous」

「だから、何言っているのか分からないの。そのナイフをしまって欲しいの」

交戦意思を表さないように優しく語りかけながら、少女のもとへ寄る。

「Eloignez-vous!」

「そのナイフ、奪い取っちゃうよ」

「Arretez!!!」

少女の全力での嫌がりように、僕もビビった。

「あーわかったわかった。ナイフは取らない。取らないから大丈夫だよ」

両手を頭の上に上げる(世界共通の?)降伏のポーズをとりながら、僕はあとずさる。

525:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 00:28:46 6McLzcBh
何をやっているんだ僕は。こんな小さな子を怖がらせてどうする。

こうして僕たちは対角線上に向かい合った。

10m四方……ルート2が1.414だから、14mの距離を保っているわけか。

そんなしょうもないことを考えながら時間をつぶした。

暇だな……あぁ腹も減ってきたな。

ポケットの中の携帯食料を探ってみる。

あれ? ねえ。何で無いんだ? あれだけ家族で確認しあったのに。

……。

そっか。24時間は飲まず食わずで過ごせってことね。

ったく。宇宙人の考えることは良く分からん。

ごろんと横になる。

10m上空を見ると……換気扇?みたいなものがあった。

これで空調を整えているわけか。ほんと準備が良いな。

ほかにもなんか無いのかな?

真っ白な部屋をぐるっと眺めてみる。

なんだ……あれ?

なんか輪っかみたいのがある。

咳払いをして、これから動くぞという合図を少女に送ったあと、その輪っかに向かって歩き始めた。

ん、これは。

ドアの取っ手だ。

さっきまで、全然気づかなかったぞ。

向こう側は部屋なのか?

526:名無しさん@ピンキー
07/04/28 00:36:24 sDe+PLue
なんという生殺し

527:名無しさん@ピンキー
07/04/28 00:42:31 YwSFqKub
規制(だったとしたら)用支援

528:名無しさん@ピンキー
07/04/28 00:57:02 6McLzcBh
>>520
ごめんなさい 24時間だから

× 決行は、日本時間で今日の夜8:00から明後日の夜8:00まで。
○ 決行は、日本時間で今日の夜8:00から明日の夜8:00まで。

ですね





529:名無しさん@ピンキー
07/04/28 01:00:37 C/CK22Dp
支援

530:名無しさん@ピンキー
07/04/28 03:32:22 QyY2u/HM
wktk

531:名無しさん@ピンキー
07/04/28 10:52:42 NI70khXw
これは期待

532:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:04:54 6McLzcBh
「うっ!」

ドアを引くと、全面真っ赤な部屋が現れた。

大きさは2mぐらいの立方体。

部屋の高さが低いこともあって、圧迫感を感じるし、

何より、その血を彷彿とさせる赤さが気味悪い。

「ここは……トイレなのか?」

どんな感性を持っているのだろう。

その部屋の中心には、片手いっぱいに広げたほどの穴があり、

すぐ隣にはトイレットペーパーと思わしきものが3つ置いてある。

無論、それらも赤い。

嫌悪感からかドアを閉めようとした時、

ドアのすぐ近くにあるモノが落ちていた。

「りんご……」

トイレに落ちていた2つのりんご。

本物のりんごかどうか確認するために、拾ってみる。

ずっしりと重く、甘酸っぱい香りが漂ってきた。

「…………ハハ」

もう何がなんだかわかんない。

これを二人で分けろってか?

533:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:08:59 6McLzcBh
あとに何にも残されていないか確認した後、ドアを閉めた。

「ヒュイーン」

入るときは気がつかなかったが、面白い音がするもんだな。

ドアを開ける。

「………」

ドアを閉める。

「ヒューイン」

もっかいドアを開ける。

「………」

もっかいドアを閉める。

「ヒュイーン」

―なるほど。

534:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:09:39 6McLzcBh
「ほら。りんごが2つあったよ」

両の手に一つずつ、同じ大きさのりんごを持ってみせる。

「お腹すいているんだったら……食べよっか」

ドアと少女との間は、5,6歩の距離がある。

その距離を詰めることなく、優しく呼びかけた。

「……」

少女は、右手に横たわっていたナイフを思い出したように構える。

うーん。そんなに怖いのかな? 僕。

「おっ。ちょうど良いじゃん。そのナイフで切らせてくれよ」

言葉の意味の1%も伝わると思ってはいないが、

この雰囲気のまま、また沈黙することが嫌だったため会話を続ける。

「そのナイフで、こう、ザックン、ザックンと」

りんごを切る真似をする。

535:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:10:44 6McLzcBh
「……」

表情一つ、動き一つ変えない女の子はひたすら僕を睨む。

伝わっているのか?

ゆっくりと近づいていく。

「……」

しかし少女のほうもまた、ナイフを持ったままゆっくりと壁伝いに逃げていってしまう。

……

まだ避けられてはいるが、先程よりも抵抗が少ないかな。

「りんごをここにおいておくね」

その少女の‘元’いた部屋の角にりんごを2つ置き、僕は反対側の部屋の角へと戻っていく。

自分用を除いた1つだけを置こうかとも考えたが、誠意を見せたくて2つにした。

536:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:19:00 6McLzcBh
何もすることが無くなり、腕時計の針だけが怠慢そうに働く。

仕事や趣味のことを思い返したりもしてみたが、これがなかなか時間の潰しにならない。

本でも持ってくれば良かったな。かなり暇だ。

そういえば、僕の友達は「このリュックサックを背負っていくぜ」とか言っていたな。

そのリュックサックを見てみると、中はお菓子だらけだったが……。不憫な奴め。

まあ僕も人のことは言えんが。

ポケットの中をごそごそと探した。

使い込まれた赤いパスポートと、

公営ギャンブルに行くときによく貰ってくる短い鉛筆が出てきた。

そうだった。日記を書きとめようとして、こんなのも入れたんだったな。

パスポートをメモ帳代わりにするのもどうかとも思うが、僕はそういう人なのだ。

他には……とまた手を突っ込む。

537:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:19:36 6McLzcBh
いろいろと入れたような覚えもあるが、もう、アメのひとつも出てこなかった。

仕方なくパスポートをパラパラとめくってみる。

仕事の関係上、成田と上海の名が刻まれたハンコがいくつもあったが、

余白の部分もだいぶ残されている。

そうだ。

僕はうつ伏せになり、右手に鉛筆を持ち、少女を見つめる。

自称、絵心のある僕は一本一本の線を丁寧に、

且つ、ジャパニーズアニメのようなユーモアも加え、顔を描いてゆく。

その少女は、淡泊な部屋の白さに相反し、昂然と輝きを主張するりんごに目を置いている。

つまりは横を向いている。

フランス少女の横顔もなかなか様になっているじゃない。

紙自体が小さいので、書き上げるのも早かった。

これ見たら、この女の子も喜ぶかな?

黒く染まったパスポートの中身をひらひらとさせつつ、男は少女に(性懲りもなく)近づいていった。

538:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:20:39 6McLzcBh
「どうかな? 上手く書けているでしょう」

「……」

この男に対する身の危険が薄まったのか、相手に気を使うことを覚えたのかはわからない。

ナイフを手に取ること無く、描かれた自分をまじまじと見入った。

「……C'est maladroit」

ひさびさに、およそ5時間ぶりに、少女の可愛らしい声が聞こえてきた。

褒めているのか、貶しているのか、その表情からは判らないが、感想を言ってくれているのだとは思う。

「Un stylo」

と言って、今度は手を差し出してきた。

ん? 握手か?

そーか そーか 親愛なる握手ですな。

僕は小さな手を壊さないように握りしめた。

「Non!」

ちょっと顔を紅潮させ、僕の手を振り解いた。

あれ? スキンシップはまだ早かったかな? でもそれを求めたのはこの女の子だし……

などと思っていたら、なにか、そのパスポートに書く真似をしている。

ああ、そっか。鉛筆を貸して欲しいのかな?

539:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:21:34 6McLzcBh
後ろポケットにしまった、細く短い鉛筆を彼女の手に渡す。

「~♪」

穏やかなメロディの鼻歌を交えながら、少女の描かれたイラストの下に、

できるだけ大きく文字を書き込む。

L I A

女の子らしい工夫を凝らした文字だ。

「Lia」

こう言った少女は、胸を2回ポンポンとたたく。

「リア……ちゃん?」

名前だ。

こうした些細なことでも、初めて会話が成立したと言う事実に、嬉しさがこみ上げる。

「リア」

もう一度、はっきりと口に出す。

少女も同じ思いなんだろう。

目を細めさせ、何度も頷いた。

540:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:22:40 6McLzcBh
「モリ」

僕の名前は鈴木守彦です。とは言わず、

リアと同じく、最大限に簡潔な言葉を選ぶ。

そして胸をポンポンと。

リアも言いたいことは分かってくれたようだ。

「Mori」

顔を覗き込まれ、声が脳内に響く。

うおっ。こ、これ、なんつーんだ? 超っ嬉しいわ。

え? いやオレ、別にロリ属性があるわけじゃねーのに、

なんか、にやけた顔が止まらん。うお、こりゃやべぇ。

声をかけた瞬間、慌ただしく、(一人称まで替えて)、顔を背ける男に、リアはキョトンとなる。

「すー はー すー はー うん大丈夫。大丈夫ですから。ノープロブレムってやつだ」

「Mori?」

「あっ、そういえば、お互いの国の名前も聞いていなかったね」

一呼吸おいて、僕は訊く。

「フランス?」

「……?」

分かんなかったのかな、と同じ発音を繰り返してみた。

「フランス?」

「……?」

541:La-Piece~ラピエス~
07/04/28 22:23:40 6McLzcBh
あれ……分かんないみたいだ。

発音が悪いのかな?

どう伝えようか、思案に耽っていると、パスポートに目が留まった。

そうだフランスの国旗を書いてみよう。

長方形の枠を横に三等分に分け、左と右を薄く塗りつぶす。

うんっ。いい出来だ。……イタリアに見えないこともないが、これは仕方ない。

この絵を見せながら、再度、

「フランス?」

と芸の無い一単語で質問。

「Je suis venu de……France」

僕のハイテンションぶりに動じることなしに、

リアは、問いに答えてくれた。

最後の言葉をとてもわかりやすく。

542:名無しさん@ピンキー
07/04/28 22:59:02 4KFgZrPq
wktkwktk

543:名無しさん@ピンキー
07/04/28 22:59:27 ZXKuZOZA
二人っきりスレに無口スレを併せたかのような話だな。コミュニケーション一つ取るのにこれほど萌えるとは。続き超wktk!

544:名無しさん@ピンキー
07/04/29 00:30:31 NLJq/Tb0
これは萌える。

545:名無しさん@ピンキー
07/04/29 06:28:48 iLiMfgS9
wktk

546:名無しさん@ピンキー
07/04/29 06:34:46 AEVpOm/d
冒頭にちょっと出てきた女友達もこんなやりとりを
してるかと思えばそれはそれで萌える。

547:La-Piece~ラピエス~
07/04/29 16:28:46 9n8KVxh9
それから、僕たちは絵を描きあいながら時間を過ごした。

パスポートの残りのページが心許なかったが、リアの軽やかなハミングを聞いているうちに、

お絵かきは単なるきっかけに過ぎないと思い知らされた。

「~♪」

楽しそうだね。それは何の曲だろう。

小学校の音楽の授業で教えてもらったのかな?

よし、僕も何か歌ってやろう。

コホン。ス~、

「ミミファソ ソファミレ ドドレミ ミ~レレ」

ベートーヴェンの第9番、喜びの歌だ。

有名だから知っていると思うが……、

「mi mi fa sol sol fa mi ré do do re mi ré~do do」

僕より美しい音色を操り、リアは満面の笑みで返してくれた。

「~♭」

「~♪」

それからも幾多のクラシックを合唱し、この場は音楽会へと変貌した。

548:La-Piece~ラピエス~
07/04/29 16:29:40 9n8KVxh9
まだ手のつけられていないりんごを、男がウサギさんに変えようとした時に、

ソレは起こった。

ここに来て8時間、一日の3分の1が経過した時である。

部屋の上方、換気扇の辺りから、

大きな琥珀色の水晶がいきなり降りてきて、男の腰のところの高さで急停止。

何かのスクリーンのようでもあったし、単に鏡かもしれない。

音も有ったか無かったか、男も少女も分からない。

二人は正常な感覚を忘れつつある。

部屋のど真ん中にある水晶は、

男の胸を目掛け、部屋の白さになお負けじとするほどの、純銀の輝きを放つビームを放ってくる。

563。

ビームの放たれた場所から、10進法の数字が浮かび上がる。

刃渡り30cmのナイフにも、

267、と。

そして、少女にもその輝きはあった。

32。

549:La-Piece~ラピエス~
07/04/29 16:31:16 9n8KVxh9
男は、何の数字だろうと考える間もない。

数字をはじき出し、その役割を終えんとした輝きは光を失い、代わりに中央の水晶から変動をもたらす。

光が上空に伸び、円柱のカーテンを作り上げる。

換気扇から、また、ナニカ、現れはじめた。

円盤状の火花を溢れさせながら、行き場の無い烈風が男の身を突き刺す。

何も見えない光の中から、何かを感じさせる闇が舞い降りる。

まさにそれは、堕天使の降臨。

黒豹へと形を変えたソレは、862の数字を顕現させていた。

二人は、それが3者の戦闘力の合計であることも知らずに。

550:La-Piece~ラピエス~
07/04/29 16:33:19 9n8KVxh9
「リア!」

呼ぶよりも早く、リアは腕にしがみつく。

「mori」

僕たちを繋ぐ、唯一の意味なす単語が交わされた。

くそっ! なんなんだ。あの動物みたいなものは!

リアと最初に出会ったときとは比べ物にならないぐらいの敵意、いや殺意が全身に突き刺さってくる。

リアもそれを感じ取っているのだろう。

これでもかと言うほど、体が小刻みに震えている。

獣の目が光る。

……もしかすると、僕の方が震えているのかもしれない。

恐怖で頭が混乱してきた。

「mori……」

がぁー。僕なんかに頼るなっちゅーねん。

僕も、ほら、目ん玉と心臓が全速力で飛び出しているぐらい、見たらわかるっしょ。

わ、わっ! そんなにくっつかないでくれよ。 これでも剣道2級なんだZE!

そ、そんなこと考えている場合じゃ……来たあ!!

迫りくるつむじ風と同時に、獣は喉元を一掻きせんと飛び跳ねる。

551:La-Piece~ラピエス~
07/04/29 16:34:24 9n8KVxh9
「うおおっ!」

間一髪だ。間一髪、避けきった。

へへ。オレにもこんな動きが……ぬおおおっ!

獣は2撃目、3撃目と繰り広げる。

ちょ、待って。リアが。

リアが引っ付いていて、思うように動きが取れない。

「リア! 逃げるぞ!!」

リアをひょいと胸に抱えると、狭い空間の中、逃げ場を求めた。

あーもう、どこか、どこか!

ドアの取っ手が見えた。

ここに、取り合えず!

んっ、んっ。んんっ! なんだこれ。開かねえ!

チィ、ホント、勘弁してくれよ。

「moriii!!」

叫びが聞こえた刹那、

グルン。

僕の視界が弾む。

何が起きたのか理解する前に、

「ぐッはあ!」

白い壁に叩きつけられていた。

552:La-Piece~ラピエス~
07/04/29 16:35:14 9n8KVxh9
……あかんわ。背骨、イッちゃっているかも。

…………

じゃねえー! リア、リアはどこに!

意識が朦朧とするが、血まなこになってリアを探す。

ドアの前では、リアを下ろしていたから、一緒に投げ飛ばされることは無かったはずだ。

だんだんと、目の焦点が合ってくる。

圧倒的な力の差、逃げ惑うリア。

よかった、まだ殺られていない。

僕も立ち上がらなくっちゃ。

「ゴプ。ゴホッ、ゲホッ」

身を起こした途端、鉄の味が口の中に広がってくる。

553:La-Piece~ラピエス~
07/04/29 16:36:33 9n8KVxh9
見ると、まさか、吐血している自身がいた。

「リア……」

リアは、何処かからナイフを拾い上げ、僕の目の前まで駆けて来る。

「mori!」

息を切らしながら、それを僕に握りさせる。

それは、彼女ができる精一杯の役割。

僕ニ、ドウシロト言ウンダ?

「―mori!!」

涙を流しながら、懇願するように叫ぶ。

ウワ……アノ獣、マタボクニ向カッテ、突進シテクルヨ。

仕方ナイナア……

リアは立派に務めを果たした。

ナレバ、僕も!

554:名無しさん@ピンキー
07/04/29 17:30:10 HOKEjChI
急展開ktkr

555:名無しさん@ピンキー
07/04/29 18:37:22 NLJq/Tb0
ちょwww一体何が起こってるんだ!?

556:名無しさん@ピンキー
07/04/29 18:51:18 NEqDs8h6
久々にきたらわずかに活気付いてるな
>>382は未だに書かないのか・・・

557:名無しさん@ピンキー
07/04/29 21:10:33 iLiMfgS9
w-k-t-k

558:名無しさん@ピンキー
07/04/29 23:23:34 AHBWdy6H
wktkwktk

559:名無しさん@ピンキー
07/04/30 03:02:50 tNalR/f+
wktk!

560:名無しさん@ピンキー
07/04/30 03:04:31 5xCC8ATJ
さて、wktkが止まらなくてスレ更新しながらもう3時になってしまった訳だが…
このリビドーはどうすればいいんだろうか

561:名無しさん@ピンキー
07/04/30 04:11:52 GuwbHU4O
wktk

562:名無しさん@ピンキー
07/04/30 12:53:21 F1Uv/puN
wktk

563:名無しさん@ピンキー
07/04/30 14:48:41 NlPb4qxb
まさかこのまま続きが投下されないなんてことは無いよね…?

ワッフルワッフル!

564:La-Piece~ラピエス~
07/05/01 05:06:21 4Tx8id7x
ナイフの刃を‘切り裂く’動作を意味する親指側ではなく、

‘叩き壊す’動作を意味する小指側に構える。

こちらの本気が伝わったのか、漆黒の獣は間合いを測る。

リアはできるだけ遠くまで離れ、固唾を呑んでいる。

リア……

もし僕がやられたら、リアの身に危険が及ぶことなど、容易に想像つく。

なにがなんでも、というレベルではない。

全てを賭けて、この獣を倒さねばならないのだ。

眉間、喉、そのどちらかにこいつを入れる。

ただ、それだけのこと。

勝負一瞬。

先に動いたのは、驚いたことに自分からだった。

「ふおおおおッ!!」

重心を低くし、襲い掛かる。

対する獣は、体重で押し潰さんと、フォークボールのように急角度で降ってくる。

「―――ィィィィィィ!!」

565:La-Piece~ラピエス~
07/05/01 05:07:19 4Tx8id7x
「ハァ……ッ、ハァ……ッ」

死合はあっけなかった。

僕のナイフは確実に獣の喉元を捕らえている。

この獣自体、得体の知れないものだが、これ以上ダメージを与える方法など僕は知らない。

言わば、自画自賛の出来だった。

一方、僕の方は……

――無傷。

いや、かすり傷の一つはあるかもしれないが、僕の完全勝利だ。

上手くは説明できないが、敵の攻撃の瞬間、身を引いたのが勝因だっただろう。

運が良かったか、敵の体重がそのままナイフにベクトルを……もういい、あまり説明したくない。

勝ったんだから良いじゃないか。

獣はゆっくりと光を帯び始め、無数の蛍となって消えていった。

息を整える暇もなく、歓喜の声が、僕を祝福してくれた。

「Mori~」

とてとてと走ってきたと思ったら、その速度を落とすことなく力いっぱい抱きついてきた。

リアの腕には、引っかき傷がいくつか見受けられた。

「リア……」

そう一言言うと、僕はリアの頭に手を回した。

566:La-Piece~ラピエス~
07/05/01 05:08:12 4Tx8id7x
「ヒュイーン」

ドアの閉じてゆく音が聞こえた。

……そっか。あれから疲れて眠ってしまったんだ。

としたら、さっきのはリアかな?

……

そういや、りんご結局食べられなかったから、リアおなか空いてるだろう。

ぐぅ~。

僕もおなかが空いていた。

……

ん? 柑橘系の酸っぱい匂いがするぞ。

何か、来る。

「ぐふっ」

腹が圧迫され、

「もごっ」

スッパーイ。なんじゃこりゃ。

強烈な酸味にびっくりし、僕は目を開けた。

リアがおなかの上に乗っかって、何かを僕の口に押しこんでいるのが見える。

この苦味が残る後味。さてはグレープフルーツだな。

……っていうか、どこにあったんだ、そんなの?

567:La-Piece~ラピエス~
07/05/01 05:08:58 4Tx8id7x
手をベタベタにさせながら、

リアは、黄色いソフトボールから果肉をえぐり取っていく。

そして、また僕の口元に……

「わあ。一人で食べられるから、いいよ。」

‘お手’をする格好で手のひらを差し出してみたものの、そんなことはと眼中におかず、ねじり入れる。

ゆ、指まで入っているじゃないか!?

「~♪」

あ~あ、鼻歌まで唄い出しちゃったよ。

……

仕方ないので、このお姫様の気の済むまで放っておくことにした。

モグモグ。

二人でグレープフルーツ1個分食べ終わると、リアはもう1個と手を伸ばす。

2個あるらしい。

あ、そういえば。

「これどこにあったの?」

僕はグレープフルーツを指差し、疑問の表情をする。

「Ici」

なんやら、よーわからんつぶやきの後、リアはドアのほうを指差した。

……会話、出来ているのか?

おなかの上にいるリアをゆっくりと降ろして、ドアへと向かった。

568:La-Piece~ラピエス~
07/05/01 05:10:08 4Tx8id7x
戦いの時みたいに、鍵は掛かっていなかった。

「………」

無音の開く音。

部屋の狭い空間を見つめる。

……はぁ

予感が当たっていた。今度は全面黄色の世界。

塗装工の人が来て、ペンキの塗り替えをしたんだな、きっと。

もう、深く考えることは止めにして、そう結論付ける。

今、何時ぐらいなんだろう?

腕の時計を見ると、11時過ぎを指している。

獣との戦いが午前の方の4時だったから……それなりに眠れたことになるのかな?

はて? リアも眠ったんだろうか。

質問してみようかと思ったが、

その大きな目の下に隈を作ることなく、ほくほく顔でグレープフルーツを食べていた為、どうやら杞憂らしい。

569:La-Piece~ラピエス~
07/05/01 05:11:08 4Tx8id7x
元いた場所に寝転びなおし、さっきの獣についていろいろと考えてみた。

やっぱり、あれは運が良かっただけだよなあ。

対峙しあった時、明らかに僕より力が上であることを感じた。

あの一戦を想像してみても、再度同じように勝てる自信は欠片ほどもない。

ちょうど4時だったよな。

昨日の夜8時にここに来たことになっているから、ピッタシ8時間経過したことになるのか。

ん? 1日の3分の1。

なんかイヤ~な予感がしてきた。

次の8時間後は……

もう一度、腕時計を見る。

11時30分。

顔面からサァーっと血の気が失われていった。

570:La-Piece~ラピエス~
07/05/01 05:12:52 4Tx8id7x
「リア!」

僕の推測をリアに伝えることにした。

不安を共有したいという訳ではなく、備えのための最善な行動をしただけに過ぎない。

リアの前でパスポートを広げ、数直線を使って解説する。

丁寧に、分かり易く状況を示すと、リアも段々と真剣な顔つきに変わってゆく。

判ってくれたようだ。

次は、今からどうすべきかを考えなくてはいけない。

……

さっきはドアが開けられなかった。

戦闘中は鍵がかけられるのだろう。

そう考えると、今のうちにリアを個室の中に入れるべきか?

……

赤い部屋が黄色くなるぐらいだ。個室で何が起こるかわからない。その方法は却下。

じゃあ、その逆。個室の中に僕。個室の外にリア。

……ありえねえ。ありえなさすぎて、思わず笑っちゃったよ。

ふぅ。離れ離れになるのは論外。

じゃあ、二人とも個室の中へ……

未知と言うのは怖いもんだな。

この大きな白い部屋も危険だと思うが、どうなるか分からないという不安の方が嫌だった。

571:La-Piece~ラピエス~
07/05/01 05:14:32 4Tx8id7x
長々と考えたが、先の読めない以上、やっぱり待ち受けるしか術が無いっぽい。

わ。もうすぐ時間だ。

僕はナイフの握りを確かめる。

リアは……

あーあ、抱きつかないでくれよと説明したのに、思いっきり腰に抱きついちゃっているよ。

放せ。とは言わない。言えなかった。

リアの温もりのおかげで、僕も心のぎりぎりを保っているからだ。

「……」

「……」

…………

短針に長針が重なった。

572:名無しさん@ピンキー
07/05/01 11:10:21 2m1xc/Cu
これはなんという緊迫感と生殺し

573:名無しさん@ピンキー
07/05/01 14:04:45 pJyEFS1h
続きがきてる~
w-k-t-k-

574:名無しさん@ピンキー
07/05/01 16:10:34 zf8wwIub
wktkってレベルじゃねーぞ

575:名無しさん@ピンキー
07/05/01 17:22:10 9aAWc2Jc
リアはあはあリアはあはあ

576:名無しさん@ピンキー
07/05/01 17:22:53 9aAWc2Jc
あ!ごめ…あげちゃった死のう

577:名無しさん@ピンキー
07/05/01 19:47:04 tI+kBp72
wktk

578:名無しさん@ピンキー
07/05/02 00:49:32 +JBHR99t
これは素晴らしい

579:名無しさん@ピンキー
07/05/02 04:42:20 XdSsBxnl
違ってたらごめんだけど、前に孕ませスレで書いてなかった?

580:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:49:42 W1Fubwz8
男の憶測は当たっていた。

またもや、水晶が何も無い空間から光を集め合成されてゆく。

加速度による物理法則を無視して、急降下、急停止。

しかし、ここからは違う。

焼太刀のような赤みがかったビームを、男と少女の両名に。

男、473。

少女、180。

二人にとっては、何も意味を持たない数字。

解析を完了した水晶は、ビームを止める。

続いて、やはり、日の出の光が溢れると、

653が、ふっと現れ3秒間。

それも消えると、時同じくして全てが消えた。

音も光も風も無く、全てを消した。

白い部屋は、つい先程の平穏を取り戻した。1つの変化を取り除いて。

男は眺める。

少女は眺める。

今回は頭を使うことになるであろう。

581:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:50:33 W1Fubwz8
一滴、また一滴と、換気扇から水が漏れている。

僕とリアは水滴の垂れている場所に恐る恐る近づいていった。

「なにかの、液体?」

毒なのかな? 劇薬なのかな?

僕の予想は裏切られる。

水滴の落下地点まで、あと2歩というところで、水の勢いが変わってゆく。

点であった液体は、やがて線へと形状を変え、みるみるうちに太く、煩く。

たちまち水たまりは作られ、その円は瞬く間に僕たちを飲み込んだ。

「hya」

水の温度にリアは声を上げた。

僕も靴を履いていないため、温度を直に吸収する。

多少は冷たいが、冷蔵庫の麦茶ほどではない。

水が踝(くるぶし)ほどまで来たところで、予想が確信へと変わっていった。

582:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:51:15 W1Fubwz8
―これは水攻め!?

何が楽しいのであろうか。宇宙人。

今月の給料分くれてやるから、ご容赦いただきたい。

しかし、そういった僕の願いは届かない。

……何か逆に、水の勢いが増しているように感じるんですけど、気のせいでしょうか。

「はあぁ」

落胆と緊張の交じり合った溜息を吐く。

わかりましたよ宇宙人さん。この状況下で生き抜けって事ですね。そうですか。ああそうですか。

悪態をつけながら、もう1回、同じような溜息を吐いた。

だが意味合いは違う。心のスイッチを本気モードにさせたのだ。

リアの目線に合わせるように膝を曲げ、にっこりと微笑む。

「がんばろうな、リア」

目に涙を浮かべながらも、負けじと微笑み返してくれた。

583:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:52:09 W1Fubwz8
考えろぉ。考えろお。

水は僕の首元まで来ていると言うのに、一向に打開策は浮かばない。

パスポートと鉛筆はポケットの奥深くにしまう。

グレープフルーツの皮とりんごの芯も、同じく押し込んだ。

何の役に立つか分からない。

無駄とわかりつつも、この部屋にある物全てを身につける

ドアも幾度となく叩いた。蹴った。押した。引いた。ナイフで突き刺そうとした。こじ開けようとした。

びくとも動かなかった。

これ以上、どうしろと。

リアは僕の首に手を回し、抱っこの形で水を防いでいる。

すでに足は地面に届いていないので、疲労の色を浮かべていた。

「Mori……」

言葉の壁など、最早存在しない。

何を言いたいのか、手に取るように分かる。

「大丈夫だよ、リア。何も心配することはないよ。もうちょっとだけ頑張ろうね」

温かい言葉と一緒に、細い髪の毛1本1本を労わるように撫でる。

584:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:53:08 W1Fubwz8
髪の手触りを確かめているうちに、いよいよ僕の方もヤバくなってきた。

換気扇の滝からは、波のうねりも激しくする。

とーん、とーん、と空気の確保をするために、水の中軽くジャンプ。

……気分わりい。それになんか余計に疲れるような気がする。

左手でリアのお尻をしっかり支え、右手で背中から強く抱くと、立ち泳ぎに切り替えた。

お、重い。波で体が安定しないし、長くは持たないかも……

……

……あぁ、駄目だ。こりゃキツイ。悪いけどリアにも泳いでもらおう。

体力消耗が激しいと感じた僕は、問いかけた。

「リア……泳いで、くれるか?」

そう言い、リアを放そうとするが、

「Je, je ne peux pas nager!」

甲高い声を上げ、足を絡めてしまう。

うおっ。ちょっと、泳ぎにくい! 

放そうとすればするほど、足に力を入れてくる。

「リア! 落ち着いて! リア!」

「Mori! Mori!」

「わ、わかったわかった。あばれないでくれ」

再び強く抱きかかえるまで、リアの慌てようは止まらなかった。

585:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:54:02 W1Fubwz8
立ち泳ぎを始めてから、2時間は経っただろうか。

ひとひねりの策も出せないまま、とうとう天井に手が届く所まで来てしまった。

掴まれるところなど無いので、リアを支えたままずっとバタ足している。

足が動いているかどうかなんて感覚は、もう麻痺していて分からない。体力の限界。

とっくの昔に、ズボンは脱ぎ捨て、身に着けているものはトランクスとティーシャツだけ。

リアにも、ブラウスを脱がさせた。

スカートとキャミは、さすがに可哀想だったので取らなかったが、

今となっては、痴情とか恥じらいとかは関係ない。それどころではないのだ。

……

換気扇から流れは止まらない。

されど、あの換気扇こそが一縷の望みでもあった。

部屋の隅で耐えていた僕たちは、中央への移動を開始する。

ごぷっ。ぐっ、波が強い。でも……

体を傾けて、ゆっくりと進んでいく。

「App」

リアにも、波が掛かる。

ごめんよ、リア。でももうちょっとで……よっと。

手すりというには小さすぎたが、それでも4本の指を絡ませることはできた。

586:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:54:36 W1Fubwz8
「これで、少しは、楽に、なるか?」

荒い呼吸をしているはずだが、怒涛の水音で聞こえない。

僅かばかりの休息をとった後、換気扇を凝視した。

「これが最後の蜘蛛の糸……」

近くで見てみると、意外に大きい。

1m四方の正方形。

その滝壺からは余すところ無く濁流が降り注ぐ。

……動かすか。

リアを抱えているので、片手しか使うことはできない。

それでも力を振り絞って、上下にと揺らしてみる。

動けえ! 動けえ!

そんな僕の苦労を嘲るように、変化は訪れない。

換気扇を一周してみたものの、事は同じだった。

……駄目なのか。

そうだ。換気扇の真ん中に行ってみよう。何かあるかも。

僕は、リアを換気扇の淵に掴まらせると(もうリアの短い手が楽々届くところまで水位は上昇していた)、

疲れた体に鞭を打ち、飛泉の中へと潜り込んだ。

587:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:55:12 W1Fubwz8
水圧が物凄い。

流れに耐えてジンジンと痺れる指を酷使しながら、換気扇の網目を進んでいく

真ん中まで、辿り着いたか?

よし。この辺一帯を探してみよう。

っしゃああ! 頼む! 何か起これ!

探し、揺らし、探し、揺らす。

何で!? 何でだよお! あああっ!

指が滑ってしまった。

水中奥深くに、沈められてしまう。

くそお! 何やってるんだ!

酸素不足で頭が熱い。

急いで水面まで漕ぎ上がる。

「Mori~!」

顔を出すと、少女の助けを請う声が聞こえる。美しかった長い金髪を振り回しながら。

「リア!」

顔1個分しか残されていない空気を、波と戦いながら呼吸している。

何度も水を飲む姿が映し出される。

水位の上昇は、止まらない。

もう……終わりなのか……

588:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:55:51 W1Fubwz8
頭の中の糸がからまった。

体中の血が全て凍った。

死を感じた。

「mori~」

リアの断末魔を眺める。

金縛りにあったように、体は動かない。

僕は、リアの死を、悠々と、恍惚と、魅入る。

少女が死ぬ。

少女が死『うおおおおおおおおお!!』

生涯随一の雄叫びをあげた。

違う! そうだ! オレ様は‘モリ’だ。 待ってろリア!

空気さえあれば助かるんだ。

再び、換気扇のところまで寄り、リアの体を支える。

空気さえ、あれば……!

僕は助けたい。リアを助けたい。

空気!

何故だ!? 何故、僕は今呼吸ができる!

589:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:56:46 W1Fubwz8
部屋の中にあった空気か?

部屋の中にあった空気を使って、呼吸をしているんだな!

じゃあ、大量にあった空気はどこに行った!?

本当に密閉された空間だったら、空気の行き場は無い!

何処かに、必ず空気口がある!

天井に頭をぶつけるのも構わず、高波に目がさらわれるのも構わず、360度を見渡す。

見つからない。空気を脱出させる場所は見つからない。

無いのだ。何も無いのだ。

見えるのは、蛇口の働きをしている換気扇と、白い壁のみ。

白い壁のみ!

ラストギャンブル!

水に呑み込まれる中、側面に近づき、

壁と口付けを交わした。

590:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:57:38 W1Fubwz8
僕たちは、一言の会話も交わさず仰向けに寝ている。

疲れがようやく収まろうとする時に、今度は右足が激しく痛み出してくる。

10mの落下のときに足を挫いたらしい。

しかしそれは、生きている実感。僕は苦笑いを浮かべる。

顔を斜めに傾けると、胸の上下がおとなしくなったリアと、さらにその向こうに朽ち果てた衣服。

たすかった……

自分にすら聞こえない声で呟くと、非道く感傷的になって、涙が頬を伝う。

助かったんだ。

通気性抜群の壁は唯一片の支障も無く、生命の存続を受け入れてくれた。

リアにも壁にキスさせると、同時に水が消失した。

こうして足が痛んだわけだが、

仮に骨折しても、切り取られていたとしても、今の安堵感は変わらないだろう。

……

気づくと、服や髪が濡れていない。

水と共に消えたのだろう。

服を着るため立ち上がろうとした時、唐突にリアが唄いだした。

「mi mi fa sol sol fa mi re ~♪」

……

よかった、リアも無事なようだ。

……

フランス少女の凱旋歌に、僕も付き合うとしますか。

591:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:58:18 W1Fubwz8
楽しい時間と言うものは、忽ちのうちに消えて無くなる。

青色に変化した部屋からブドウを持ってきて、仲良く分けあった。

パスポートの隅の隅までをも使い、仲良く描きあった。

手遊びや、鬼ごっことかもしてみた。

有限の時間を余すところなく過ごすと、

お別れの時間がやってきた。

592:La-Piece~ラピエス~
07/05/04 02:59:26 W1Fubwz8
7時55分。

もうすぐ、この莫迦げた宇宙人の実験が終わる。

僕たちは並びあって壁にもたれかかり、寂然の時間をつづる。

手ぐしで優しく髪を梳いてやると、リアは体を寄せて囁く。

「J'ai ete ravie de m'entretenir avec vous」

心のこもった言葉。

「僕もリアといて、とても楽しかったよ」

リアの目をまっすぐに見て、微笑みかける。

これからどうなるかなど、見当がつかない。不安も無いわけではない。

ただ、愛しく想うこの空間が、いつまでも続いて欲しかっただけだ。

行きと同じように、ゆっくりしたまどろみが近づいてきた。

まぶたは閉じられる。

五感を失うほんの前、

リアの匂いがふわり漂い、

―chu

何か、頬にふれた。

「Merci」

ありがとう、リア。

                   ― Fin ―

593:名無しさん@ピンキー
07/05/04 03:16:54 W1Fubwz8
La-Piece~ラピエス~ (日本語で「部屋」)
>>520-525
>>532-541
>>547-553
>>564-571
>>580-592

読んでくれ㌧です。
なんだかんだでまた長くなってしまいました。
妄想を言葉で表現するのは難しいですね
もっとボキャブラリーを増やさねばなりません。
あ、ちなみに筆者は仏語全く話せません。
なぜか仏語会話集が家にあったので、それ使わせてもらいました。
あとエチ無しでごめんなさい。だってだって仏少女とハァハァ。いや、だめだろ。たぶん……
それでは良いGWを!

>>579
上の「満月」というやつが初めての作品です
誰かと文体似ていたのかな

594:名無しさん@ピンキー
07/05/04 03:47:23 P5HO7UUx
>593
おつかれさまでした。 エロなしは正直残ね…ゲフンゲフン
ともかく、クライマックスで決意した少年の熱さが気持ちよかったです。

実験を生き延びた二人はこれからどうなるのか
他の人類60億人、30億ペアはどうなったのか
宇宙人の目的とは結局なんなのか

数々の謎が残っているようですが、当面は想像で補うことにいたします。

595:名無しさん@ピンキー
07/05/04 04:19:29 7tTnt6lj
GJです!水攻め怖ぇー

エロなしの方がすっきりしてていい感じに思った。
一期一会的流れはかなり俺好み。リアかわいいよリア

596:名無しさん@ピンキー
07/05/04 04:35:35 YdGMtFa6
とりあえずGJ

>595
リアは俺の隣で寝てるぜ^^

597:名無しさん@ピンキー
07/05/04 05:17:01 uGqjXYze
>>593
GJそして乙
いろいろと謎は残ったわけだけど
自分なら途中でバッドエンドです… orz
他の人がどんなイベントだったとか
どれくらい生き残ったとか気になりますが
貴重なGWを使って投下ありがとうございました

>>594
年齢は23~28くらいだと思う
仕事 公営ギャンブルなどから想像したわけですが

598:名無しさん@ピンキー
07/05/04 05:41:18 OLfcoZY9
>>593
GJ!
ある意味文字通り、仏少女が'`ァ'`ァしながらの濡れ場で一人盛り上がってました
ラストもいい感じで締まってると思います
お疲れ様でした

599:名無しさん@ピンキー
07/05/04 09:50:16 RobD8u+4
>>593
何となく「CUBE」を思い出したよ。
緊張感と萌えを有難う。GJ!

600:名無しさん@ピンキー
07/05/04 11:40:39 SCqcLAUI
おい、エロが無いじゃないか!!!!!








だが、GJ!!

601:名無しさん@ピンキー
07/05/04 20:48:15 5a96ODtm
いちおage

602:名無しさん@ピンキー
07/05/07 15:57:14 rezBWJNj
彼の家族は無事だったのかが気になる。
元に戻ってからの後日談的なものが見たくなる感じ。
思わぬ再会とかあっても萌えるし。

603:名無しさん@ピンキー
07/05/07 21:32:55 vtMWIvRn
伏線
つパスポート

604:名無しさん@ピンキー
07/05/10 23:50:11 rZdOs8Nw
GJ!
エロは無かったけど、濡れ場はあったという罠

605:名無しさん@ピンキー
07/05/11 01:16:41 UukputhT
>>604
貴様それでうまいこと言ったつもりかっ!!!

606:名無しさん@ピンキー
07/05/12 00:43:31 dZaLCFs/
つぎの災害?はなんだろ

607:名無しさん@ピンキー
07/05/12 00:50:24 ruwV9xt6
何がいいと思う?

608:名無しさん@ピンキー
07/05/12 01:06:00 O9vZ+/Ay
脱線事故とか

609:名無しさん@ピンキー
07/05/12 05:35:42 mebkrITT
災害以外でも二人きりネタはできそうだな。

クーデターで政権が変わった王国。旧王家の王女と騎士(あるいは王子と女騎士)
宇宙の果てまで航行中の宇宙船内。 冷凍睡眠から目覚めた少年と少し年上の少女。
町から遠く離れた流刑地、もしくは島流しの孤島で二人きり。

主人公二人以外の世界だけが
二人をおいてけぼりにしている状況というのを考えてみた。

610:名無しさん@ピンキー
07/05/12 07:17:36 92P0n0uA
タイムスリップものってのは?
原始時代や人類が死滅した未来に男女2人だけ
あるいは歴史物で現代人は2人だけ

611:名無しさん@ピンキー
07/05/13 10:57:19 UeT00od1
毎朝駅のホームと電車ひと駅分、いつも二人きりになる、とか。
図書館の司書と、入り浸るようにして本を読んでる利用者の閉館間近、とか。
Hに発展させるのは難易度が高そうだが、心の機微と交流は書き込めそうだ。

612:名無しさん@ピンキー
07/05/15 20:29:35 oxaSQO25
hoshu

613:名無しさん@ピンキー
07/05/15 21:34:25 mcLPIJBj
mori~

GJ過ぎる

614:名無しさん@ピンキー
07/05/15 22:25:12 g1wxtQi5
↑IDがモリに似てるぞ

615:名無しさん@ピンキー
07/05/18 01:44:16 pXGfFKNT
ほしゅ

616:名無しさん@ピンキー
07/05/18 20:44:05 J+rI+1EQ
保守

617:名無しさん@ピンキー
07/05/20 21:03:15 RcBxyhhy
星湯

618:名無しさん@ピンキー
07/05/21 00:02:43 +MTHpHsG
【不可抗力】男の子と二人きりになってしまった

619:名無しさん@ピンキー
07/05/21 18:22:10 KEXco4RN
>>618
それは女の子視点って事だよな・・・

620:名無しさん@ピンキー
07/05/22 12:19:25 WghAiY8o
>>619
い、いやこれはもしや・・・・・・
アッー!

621:名無しさん@ピンキー
07/05/22 17:55:28 VqkKlvDF
>>619の冷静な切り返しに笑ったw

622:名無しさん@ピンキー
07/05/22 20:37:47 +uj25NM8
mori~mori~

623:名無しさん@ピンキー
07/05/22 23:25:55 432hOpCw
こうして雑談していればまた書き手が降臨してくれるかなあ

624:名無しさん@ピンキー
07/05/22 23:42:18 Wq7smpOR
くれるかも

625:名無しさん@ピンキー
07/05/23 06:58:55 j1yl+rL+
>>622
俺を萌えさすな

626:名無しさん@ピンキー
07/05/25 00:59:17 H08xDBtv
age


627:名無しさん@ピンキー
07/05/25 10:38:20 HOJCASfR
>>1の例みたいに危機的状況にある時に二人きり、という縛りはないんだよね?

そうならネタはポロポロと思い付くけど


628:名無しさん@ピンキー
07/05/25 11:29:15 6fS9kS2O
>>>627
なになに?

629:名無しさん@ピンキー
07/05/25 16:08:37 YWttpjPS
wktk

630:名無しさん@ピンキー
07/05/25 16:34:15 qYlE3pn0
>>627
じゃあ書いて!ポロポロ書いて!

631:名無しさん@ピンキー
07/05/25 18:25:20 HOJCASfR
じゃ、やってみるよ
筆遅めなんで気長に待ってて

632:名無しさん@ピンキー
07/05/25 20:25:32 Nqjp6E+9
w-k-tk

633:名無しさん@ピンキー
07/05/26 03:20:22 nTcf+mFi
良スレ wktーk

634:名無しさん@ピンキー
07/05/27 10:41:14 NgPomOb2
そろそろパンツを脱いでもいいですか?

635:名無しさん@ピンキー
07/05/27 11:13:35 k9nbYdbe
>>634
おkww 俺も一緒にwktkするぜww

636:名無しさん@ピンキー
07/05/27 11:29:12 gMmnGbeJ
>>634
脱いでもいいが、ズボンをはいたまま脱げよ。

637:名無しさん@ピンキー
07/05/28 20:08:01 5fXll2kr
>>636
至難

638:名無しさん@ピンキー
07/05/28 22:45:57 Z1xYFbd5
全くだwww

639:名無しさん@ピンキー
07/05/28 22:52:43 7J8D98nx
逆に考えるんだ。
ズボンの上にパンツを履けばいいと考えるんだ

640:名無しさん@ピンキー
07/05/28 22:56:16 A6j9mmOP
あれか。長袖の上に半袖みたいなものだな。


641:名無しさん@ピンキー
07/05/28 23:00:51 VlBFRCW2
それはTシャツでやるがな

642:名無しさん@ピンキー
07/05/29 16:38:58 RsWFd5Kn
なにこのカオスwww

643:名無しさん@ピンキー
07/05/29 23:30:07 /eT6Xak6
神召喚の儀式では?

644:名無しさん@ピンキー
07/05/30 11:14:40 PLgz0HC+
儀式ワロスwww

645:名無しさん@ピンキー
07/05/30 14:54:52 iEhZpiay
なんか今にも、神SSの投下される気配がムンムンと感じる
ティッシュ準備してきます

646:名無しさん@ピンキー
07/05/30 16:01:30 1ziFbaqS
>>639
それだと違和感あるな
どうせ逆ならスパッツの上にパンツはいてみてくれ

647:名無しさん@ピンキー
07/06/01 18:58:35 z3Y9b7HH
ほしゅ

648:名無しさん@ピンキー
07/06/03 19:10:21 rDuV26La
保守
結局神は現れず・・・・・・orz

649: ◆5QXHO4/GJY
07/06/04 09:14:13 PLUl+Lan
いや、儀式自体は成功している・・・・・・・ハズ

650:名無しさん@ピンキー
07/06/04 09:31:45 FS2HHwjk
同じく、ネタ模索中

651:名無しさん@ピンキー
07/06/04 09:40:30 PLUl+Lan
・・・・・・電波受信中。

652:名無しさん@ピンキー
07/06/04 09:50:02 z5xSDpzx
……電波発信中

653:名無しさん@ピンキー
07/06/04 10:08:17 G3R6W/Q4
ピピピピピ

オウトウ セヨ
タダイマ デンパ ハッシンチュウ

オウトウ セヨ
オウトウ セヨ
オウトウ セヨ

...ハァハァ
タダイマ デンパ ハッシンチュウ...
ハァハァ...    ウッ

654:書く人
07/06/04 20:08:26 +UD6aEda
駅前にコンビニすらない。そんな田舎を想像できるだろうか?
僕は想像できる。だっていつもそこから電車に乗っているのだから。
家からバスで20分の無人駅。そのバスは、一日5本。
しかもバスの時間と電車の時間が三十分以上ずれている。
だから、僕は毎日三十分を、ペンキの剥げた待合室の駅で一人で30分の時間を過ごす。
中学に上がり、電車通学になった当初は、その時間が限りなく苦痛だった。だがもう4年近くたった今では、それにも慣れた。幸いなことに読書を覚えたから。
朝夕の駅での30分と、電車に揺られる20分。計二時間近い時間は、趣味の時間となった。
ある意味、ペンキの剥げた待合室は、家にある自分の部屋よりも、落ち着ける場所になっていた。
そんな僕の領域に、この春、侵略者が現れた。

655:書く人
07/06/04 20:18:10 +UD6aEda
侵略者は金髪だった。やや釣り目で、派手な感じの女の子だった。
その彼女が、同じ駅を利用するようになった。
制服は、僕の通う高校の近くにある女子高。お嬢様校、というわけではないが、かわいい制服で有名な学校だ。
その制服を着崩した彼女は、毎朝駅舎で携帯を片手に時間を潰していた。
華やかな――悪く言えば遊んでいる感じの、女の子。
僕は、どうにもその女の子に気おくれを感じていた。
派手目の彼女に対して、僕は地味の極みだ。髪を染めるなど夢のまた夢。
どうもとっつきにくかった。
まれに読んでいる教科書のタイトルからして、どうやら学年自体は一つ下のようだが、それでも今一苦手意識を払しょくできない。
向こうも、どうやらこちらを苦手に―ひょっとしたら嫌悪すらしているのか、話しかけるどころか、目を向けてくることすらない。

656:書く人
07/06/04 20:25:07 +UD6aEda
それでも双方に不幸なことに、駅舎にはあのペンキの剥げたベンチが一つあるだけ。
だから僕と彼女はそのベンチの両端に陣取り、それぞれ互いを見ないように本と携帯を見つめるという、実に胃に悪い30分を朝夕に過ごさなくてはならなかった。
だがそんな日々は、数ヶ月後の夏の日、唐突に終わりを迎えた。

657:名無しさん@ピンキー
07/06/04 20:31:36 VkjZPaU+
w-k-tk

やったよ新作だ!

658:書く人
07/06/04 20:50:59 +UD6aEda
初夏の台風が、僕の住んでいる町―というか村を直撃した。
学校を出た時点でかなりの風と雨があり、時に雷が鳴っていた。それでも公共交通機関は動いていて、電車は定刻道理に動いていた。
それに飛び乗り、僕と、そして彼女は駅に降り立った。
また憂鬱な30分かと、ため息をつきながら僕はベンチの右端に座る。
一方の彼女も濡れた服が不快なのか、わずかに顔をしかめていた。
その顔は、少し青ざめているようにも見える。
寒いのかもしれない。

(放って…おけないよな)

 余計なお節介かもしれない。拒絶されるかもしれないとも思ったが、良識がそれをねじ伏せた。
 仮に余計なお世話で、キモい、ウザいなどと言われたとしても、自分が嫌な思いをするだけだ。
 そう思い、僕はベンチから立ちあがり、駅舎の片隅にある、ほこりをかぶった棚に歩み寄り、そこに置いてあったブリキ缶を手に取る。
 その中身を覗いて、僕は少し安堵する。
 よかった、まだある。
 僕はそのあと、できるだけ人を安心させれるような笑顔を意識しながら、振り返った。

「あの……コーヒー飲む?」
「…はぁ?」

659:書く人
07/06/04 20:59:31 +UD6aEda
失敗だったかな、と僕は思った。
女の子は明らかに不審そうだ。
最近は通り魔的変態犯罪者がぽこぽこ出てくる世の中だ。
僕もその類と思われたのかもしれない。
けれど、彼女が続けた言葉で、勘違いだったと理解する。

「コーヒーっていったって、自販ないじゃん」
「いや、これを使う」

 犯罪者と思われたのではないと安心した僕は、先ほどより少し自然に笑顔を浮かべながら、缶の中身を取り出した。
 それはヤカンとスチールのカップと、そしてキャンプ用のガスコンロに、マッチ。
 僕はそれをベンチに置くと、マッチでコンロに火をつける。

「ちょ、か、勝手に使っていいの!?」
「大丈夫だよ。これ、僕が用意したものだから」

 冬場は近く(といっても歩いて30分)に住んでいるおじいさんが管理していて、ダルマストーブが焚かれている。だが、時にはその火が消えているときもあり、そんな時のために僕は家の倉庫にあったこれを、駅に持ち込んでいたのだ。
 冬場などは、これで入れたコーヒーを片手に、本を読んでいる。

660:書く人
07/06/04 21:05:07 +UD6aEda
 一方の女の子は、目を丸くしていてこちらを見ている。
 僕は火の大きさを調節しながら、

「迷惑…だったかな?」
「別にそんなんじゃないけど……どうして?」

 問い返されて、僕は彼女の顔を見る。前から色白だとは思っていたが、今日のその顔色はいつもよりさらに白く見える。

「どうしてって、寒そうだから」
「寒い?別にあたしは寒くなんてないわよ」
「けど、顔色悪いよ?」
「わ、悪くなんてないわよ!」

 なぜか、本当に脈絡なく、彼女が声のトーンを上げた。
 何か気を悪くしたのかとびっくりしていると、彼女ははっとしたように、再び声のトーンを下げて

「さ、寒くなんてないわ。大体、顔色だって悪くなんて…」

と彼女が言いかけたそのときだった。

661:書く人
07/06/04 21:17:02 +UD6aEda
 爆発音がして地面が揺れた。窓の外が真っ白になり、木製の駅舎の全体が軋んで音をたてた。
 雷が、近くに落ちたのだろう。
 流石に僕もこんなことは初めてで少し驚いたが、その直後、もっと驚くことが起きた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 落雷の直後、彼女は雷に負けないほどの大きな悲鳴をあげて、こっちにタックルしてきた。どうにか踏みとどまった僕の体に、彼女は手をまわして、思い切り抱きしめてくる。

「ヤダヤダヤダヤダ!怖い怖い怖い怖い!」

 抱きついてきた彼女の体は細く、やわらかく、いい匂いがしていたが、そんなことを感じ入っている余裕がないほどに、彼女の細い体はガクガク震え、涙声で叫んでいる。

「だ、大丈夫だから、落ち着いて」
「う、うん。……?きゃぁっ!?」
「うわっ!」

 今度は、彼女は僕を突き飛ばした。
 尻もちを突く僕を彼女は見下ろしながら、自分の体を守るように抱いて、こちらを見下ろしてくる。

「な、何しようとしたのよ!?」
「……何もしてないよ」

 あまりに不条理。僕は流石に怒りを感じて彼女を見返す。
 彼女は色白の肌を、先ほどの血の気のない様子から打って変って血色良くしていた。
 何か言い返してくるかな、と思っていたら

「……ごめん。混乱してた」
「ええっ!?」
「な、何よ!その「ええっ!」って!?」
「素直に謝ってくるとは思ってなくて」
「何よそれ!悪かったと思ったら謝るにきまってるじゃない」

「そだよね。ごめん」

 ふくれっ面をしながら、そっぽを向く彼女に、僕は自分の失礼を謝りながら立ち上がり、転んだ時に取り落としたやかんを拾い…

「……ひょっとして、顔色悪かったのって、雷が怖かったから?」
「そ、そんなわけないじゃない!」

図星だったらしい。

662:書く人
07/06/04 21:22:11 +UD6aEda
 僕は真っ赤になって反論してくる彼女を見て、少し笑った。

「ば、馬鹿にしたわね!」
「違うよ。雷を怖がるなんてかわいいな、って思ったんだ」

 そういう僕の返答に、彼女は顔を少ししかめる。

「何それ、ナンパ?」
「ち、違うよ!」

 今度は僕が赤面させられた。ナンパなど、地味道一直線の僕には縁のない言葉だ。
 そんな僕を、彼女は値踏みするように見てから。

「ま、確かに、そんなことできそうに見えないもんね。子供っぽいし」

 一つとはいえ年下の少女にそんなことを言われると、流石にきつい。
 一方言った方は少し機嫌が良くなったらしく、ベンチに座ってこう続ける。

「ま、とにかく。付き合うわよ?」
「へ?」

 ナンパにってことか?
 そう思った僕の思考を読んだのか、それともただの偶然か、彼女はこう続けた。

663:書く人
07/06/04 21:26:41 +UD6aEda
「コーヒー、淹れてくれるんでしょ?」

 それこそが、僕――喜沢弘文が初めて見た彼女――椎名マリアの笑顔だった。






 反応次第で続きを書くかもしれません。

664:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:30:37 Cux/diuD
儀式は成功してたんだ!
GJ!
続きを下さいオナガイシマス(´・ω・`)

665:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:34:29 j2HhSwt1
続きに蝶期待







次の投下まで待ってるぜ、裸エプロンで

666:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:47:17 8YJ44yS5
ここで終わるだなんて人道に悖ると思うわけですよ

667:名無しさん@ピンキー
07/06/04 21:49:49 VVOqEO/F
GJ!雷怖がる娘カワユス
続き待ってます!

もしかして書く人さんって、結構いろんなスレでSSとか書かれてます?

668:書く人
07/06/04 21:54:22 +UD6aEda
ええ。とはいっても作品数自体すくないですが。最近はボーイッシュスレに生息してました。

669:名無しさん@ピンキー
07/06/04 22:04:31 VkjZPaU+
すみません
支援のつもりがうれしくて入れ忘れてしまいました

w-k-t-k-!

670:名無しさん@ピンキー
07/06/04 22:50:34 jc1u0Z1N
続きに期待
wktk

671:名無しさん@ピンキー
07/06/04 23:32:55 z5xSDpzx
おおぉ!
儀式が成功していたぁ!
もうズボンすら脱いでしまうような超絶ワクテカ帝國でありますよ

672:名無しさん@ピンキー
07/06/05 00:49:10 z1ihtzcs
>>668
ボーイッシュスレの作品も見てますよ!
あれも良い。
何はともあれ続きwktk

673:電波の受信に失敗した651
07/06/05 01:24:53 kzO2NoDL
ちょ、ここってこんなに人いたのかよ!
一気にレス増えててびびったわw

そしてこっちはスランプに突入・・・・・・・・・・(もともと文才そのものがないけど)




ピピピピピ

オウトウ セヨ
ノイズガ ヒドクテ ウマク ジュシンデキナイ

オウトウ セヨ
クリカエス オウトウ セヨ
(↑言い訳)

674:名無しさん@ピンキー
07/06/05 01:39:53 NPSsh0PI
マリアたん萌え

675:名無しさん@ピンキー
07/06/05 03:23:18 4MBua32A
構図としては二人きり(と思っている)の男女を除くHENTAI集団といったところですな、漏れも含めて。

676:名無しさん@ピンキー
07/06/05 21:18:21 EDUmgsga
これは期待せざるをえない
ギャップ萌え

677:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:17:12 LeqMYOw3
夜のプールで二人っきり、というシチュエーションを考えてみたので投下します。エロは無しです。
お気に召さない場合はスルーしてください。

678:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:18:14 LeqMYOw3
俺は悪くねぇ。俺に非はねぇ。
文化祭の演劇に使うオブジェ。教室の半分を占領するそれらを塗装する際にはかなりのペンキが飛び散るだろうと予想し、後片付けの時に一気に洗い流す為にプールの中で塗装を行う。
この案を出したのは我が三年四組のクラス委員長だった。
だが、模試において県一位に君臨する彼にも、予想出来ない事があった。
まず俺が、プールサイドでクラスの女子と口論になった。原因はよく覚えていない。
次にその愚かなる女は、言論を放棄し俺に殴り掛かって来た。
最後、これがトドメになった。
確かに俺も言い過ぎたかと思い、その拳を俺は・・・敢えてだぞ、敢えて。受けてやったんだ。別に避けるのが遅れてクリティカルヒットした訳じゃない。ないったらない。
まあそしたら、だ。吹っ飛んだ俺は後ろに積んであったペンキ缶×10に突っ込み、超至近距離にいたその女もペンキ缶の雪崩に巻き込まれ、気が付いた時には十色のペンキの池の中に二人揃って浮かんでいて、結局俺とその女は放課後、プール掃除に励む事になった。以上。

その日、笹丘高校三年四組坂下喜鈴(さかした きすず)は、放課後真っ直ぐ家に帰らず、学校のプールに向かっていた。

679:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:21:08 LeqMYOw3
今日の二時間目に騒ぎを起こしたもう一人の人物が、先に来て掃除を初めている筈だったのだが。
「穂高ー、ちゃんと掃除・・・」
喜鈴の声はそこで中断された。肩で切り揃えた黒髪が風に靡いて揺れた。彼女のゲンナリとした目線の先には、騒ぎの張本人の一人、穂高光司(ほだか こうじ)が、陽光に輝く茶髪のウルフヘッドを床に着けてプールサイド(ペンキの被害が無い箇所)に大の字になって眠っていた。
傍らには近所のコンビニで購入したとおぼしき「デラ・べっぴん」が置いてある。
喜鈴の脳は即座に状況を理解し、答えを弾き出す。
曰く、「コイツ、掃除しないでエロ本読んで寝てやがった」
喜鈴の周りに、死神を思わせる暗い気が立ち込める。
魂を狩る鎌の代わりに掃除用のデッキブラシを拾い上げ、それをゆっくりと光司の頬に当てて一声さけぶ。
「とっとと起きなさい、このバカ―――!!!」
言うが早いか、喜鈴はブラシを支える両手を凄まじい速度で前後に動かす!
ごっしゃごっしゃごっしゃごっしゃごっしゃごっsh
「ぎぃやあぁぁああああ!!いてててかっ顔がっ、顔が――っ!!!」
穂高光司はこの日、『松の木にひたすら顔をマッサージされる』という悪夢で居眠りから覚醒した。

680:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:23:50 LeqMYOw3
「・・・ぁーったく、何でてめえと二人でプール掃除しなきゃなんねーんだよ」
猫に引っ掻かれたように赤くなった頬を身を守ろうとする本能から左手でさすり、しかし二度目の制裁(と書いてデッキブラシと読む)を恐れた意識は右手に持つブラシを動かす速度を維持したまま、光司はひとりごちる。
時刻は既に午後7時を回って辺りは暗くなり、遠くのグラウンドで野球部が練習用につけているナイター灯の光だけが、暗がりの中で光司の視界を保っていた。
その暗がりに、傍目から見ればとても目を引く影が一つ。学校指定の水着の上に体操服の半袖シャツを着た、喜鈴だ。肩で切り揃えた髪も首の後ろで纏めてあり、水溜まりの上に立つその姿はまさしく水の妖精。
「仕方ないでしょ?私もちょっとやりすぎたけど、元はあんたが悪いんだから」
・・・しかし、その妖精はかなり機嫌が悪いようだ。よくよく見れば眉間には皺も寄っている。
「なんでちょっと休憩してただけであんなにきーきー騒ぐんだよ」
「30分も居眠りするのは休憩とは言わないわよ」
「うるせぇな、成長期は睡眠が必要なんだよ」
「180センチオーバーで何が成長期よ。どうせそれ以上寝ても脳みそ溶けるだけよ」

681:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:25:49 LeqMYOw3
「んだとー、さてはお前、自分がチビで幼児体型だからってひがんで・・・すいませんごめんなさい黙ります二度と言いません許して下さいデッキブラシはもう勘弁してください」
再び顔に近付いたブラシに少なからず命の危険を感じて平謝りする光司。必死に陳謝する男を20センチ下の視点から一瞥した後、喜鈴は再び無言でブラシを床に滑らせる。
「・・・どうせあたしはあんたの好みの体型じゃないですよーだ・・・」
拗ねた表情を浮かべた喜鈴の口から微かに漏れた呟きに気付く事無く、光司は「さっさと剥がれろペンキ」と思いつつ、デッキブラシを前後に動かしていた。

682:名無しさん@ピンキー
07/06/07 02:28:54 LeqMYOw3
 以上です。携帯からの投下ですので、一気には書けませんでした・・・って、所々段落が潰れてるし・・・こんな奴の文章でよろしければ、皆様からの要請があれば続きを投下したいと思います。
  ではでは、失礼しました。

683:名無しさん@ピンキー
07/06/07 08:51:08 ospPZCv2
話としては面白いので是非期待したいが、
欲を言えば、携帯からではなくPCから投下してホシス

684:名無しさん@ピンキー
07/06/07 10:39:09 LeqMYOw3
すいません、一人暮らし始めたばかりでプライベート用のPCを買う経済的な余裕が今のところないんです。
ご希望に沿えず面目次第もございません。

685:名無しさん@ピンキー
07/06/07 10:49:00 JVf6/tGd
二人の掛け合いも楽しいし、無理せず続けてくれると嬉しいですよ。
期待してます。

686:名無しさん@ピンキー
07/06/07 11:51:10 u46T8kL4
40~60文字を目安に改行があるといいかな。
続き待ってます。

687:名無しさん@ピンキー
07/06/07 12:26:25 x6ThIkkD
続きガンバリ!

688:名無しさん@ピンキー
07/06/07 22:16:56 JVcBV0XY
つ④

689:名無しさん@ピンキー
07/06/08 00:27:09 o1/sn+R/
つPC

690:684
07/06/09 11:30:48 qPPADhqU
 どうも、名無し改め684です。アドバイス有り難うございます。今度は改行に気を付けます。
 現在書いておりますが、水曜日迄どうにも都合がつきませんので、多分木曜日以降に投下出来ると思いますので、期待して下さる方々には申し訳ないのですが、もう暫くお待ちください。
 因みに、キャラは全て学生時代に書き貯めていたものからの出演です。

691:名無しさん@ピンキー
07/06/09 13:29:32 pztUYNWp
wktkwktk

692:684
07/06/09 15:04:32 qPPADhqU
 第二話の途中迄ですが、閑話休題として投下します。

タイトル付けました。
『私立笹岡恋模様』

693:私立笹岡恋模様
07/06/09 15:05:44 qPPADhqU
 プールにペンキぶち撒け事件。後々になってからそんな捻りも無ければ踏ん切りもつかないネーミングで呼ばれる事になった日から、早くも三週間。
 光司はまたもや喜鈴と二人っきりだった。


「おいスイッチ係ー!そこの操作また違うぞー!」
 オブジェの中に隠された各種舞台装置のスイッチをぼんやりと叩く光司に、監督を勤める生徒から怒号が飛ぶ。
「んだようるっせぇな・・・ひででででふいまへんふいまへんひゃんとやりまふごうぇんなひゃいごうぇんなひゃい(訳:いててててすいませんすいませんちゃんとやりますごめんなさいごめんなさい)」
 気だるげにぶつくさ言おうとした口から、即座に謝罪の言葉が流れる。但しその対象はオブジェの外に居る監督ではなく、『つねる』という可愛い動作をを通り越して彼の頬を激しく引っ張っている隣のクラスメイトであるが。
 オブジェの塗装の前にくじ引きで決まっていたのだが、この舞台に於いて装置のスイッチを任せられたのは光司と喜鈴だった。
「ちゃんとやりなさい。あんたのせいで私まで怒られるんだから」
 冷静に言ってはいるものの、喜鈴のこめかみにはかなり分かりやすく青筋が浮いている。

694:私立笹岡恋模様
07/06/09 15:25:29 qPPADhqU
「練習なんてしなくても大丈夫だろー?本番で間違えなければいいんだし」
 機材の詰まった暗い小部屋で女子と二人っきりというスレの皆様からすれば羨ましい事この上無い状態で、前回と同じく色気の『い』の字も無い文句を言う光司。だが喜鈴も負けじと反論する。
「いいえ、練習しといて正解だったわ。お姫様にスポットライトを当てるシーンでナイトに当てるわ、間違ってマイクの電源落とすわ、まさかあんたがここ迄機械オンチだとは思わなかったわよ・・・って!ああもうこのバカお姫様の登場で火花出してどうすんの!?」
「うお!?い、いや、こっちのがなんか勇ましさが出ねぇ?」
「言い訳してないでさっさと止めなさい!」
「えーと、あ、こ、これかっ!?(ぽちっ)」
「ちょっ、それはスモーク!」
「スイッチ係ぃぃい!いい加減にしろおぉぉぉ!」
 かくて笹岡高校第二体育館に、監督のやるせない叫びと打撃音(混乱してパニック起こした光司を喜鈴が張り倒して鎮めた音。沈めたと言った方が良いか)が響いた。


「あーもうっ!あんたのせいで散々よ!」
「わ、悪かったよ・・・」
 保健室のベッドに横たわる光司(主に頭部の打撲により)に、喜鈴が容赦なくがなりたてる。保健室では静かに。
「まったくもう、こうなったら、今日の放課後に残って練習するわよ!」
「はぁ!?勘弁してくれよ、今日は七時から見たいテレビが」
「(丸椅子を上段に構えてとびきりの笑顔を浮かべながら)何か言った?」
「いえ、何でもありません。喜んで練習致します」
 ベッドの上で土下座する光司にあくまでも穏やかな笑顔を向けたまま、喜鈴は保健室を後にした。


「・・・ふふ、今日こそ、アイツに・・・」
 階段を登りながらそう呟いた喜鈴の顔には、先程迄の絶対零度の微笑みではなく、期待に胸を踊らせる恋する乙女の微笑みがあった。


「何でいきなり居残れなんて・・・はっ!?襲われる!?俺ってば貞操の危機!?」
 ・・・喜鈴、考え直すなら今のうちだぞ。

695:684
07/06/09 15:29:54 qPPADhqU
 以上です。今回セリフが多かった・・・この後はいよいよイヤンでアハンな展開になる(筈、多分、きっと・・・)のですが、上手く書けるかどうか不安です・・・
 ではでは、有り難うございます。

696:名無しさん@ピンキー
07/06/09 16:35:17 pztUYNWp
イヤンでアハンな展開だってよ!
舞ってました(´・ω・`)

697:684
07/06/09 22:05:11 qPPADhqU
 朝令暮改もいいところですが、作戦変更して書いた端から投下する事にします。
 では、ドゾ。

698:私立笹岡恋模様
07/06/09 22:07:31 qPPADhqU
 放課後、体育館へと続く廊下の真ん中で、穂高光司は迷っていた。ズバリ、坂下喜鈴に従って練習するため体育館に向かうか、無視して家に帰ってテレビの前に直行するか。
 まず、大人しく従った場合。今日の七時からのテレビ番組、『残暑を楽しめ!テレビ局対抗女子アナビーチバレー大会3時間生放送スペシャル!レイザー○モンも飛び入り参加!?』が見れない。
 ぶっちゃけこれの為に今週のレポート課題やら宿題やらを全て終わらせ、今日は勉強しなくても良いようにしていたのに。
 坂下に従ったら、そんな心洗われる番組を見逃す事になる。水着美女達のセクシーショットも、多分有るであろうポロリシーンも、生放送だと書いてあるのになぜか飛び入り参加する事になっているあの「フォーゥ!」の人も。
 では坂下に従わずに帰宅した場合。この前のデッキブラシを凌ぐ凄まじい断罪が待っているだろう。というか、あれ以上のものを喰らったら絶対死ぬ。確実に死ぬ。
「・・・しゃあねえ、行くか・・・さよなら眩しき水着のマーメイド・・・さよならオッパイポロリ・・・さよならフォーの人・・・」
「廊下の真ん中で何ぶつぶつ言ってんの?」
「ぬぅわああぁぁぁ!?」
 突如として背後に生まれた気配に、一瞬で全身に戦慄が走る。驚愕にすくむ身体を叱咤し、気配の主から距離を取る。しかし、そこに居たのは。
「・・・なんだ、坂下か。ビビらせんじゃねーよ。俺ぁまた、死神が出たかと思ったぞ」
「・・・あら、ちょうど良いところに屋台の骨組み用の立派な鉄パイプが」
「すいませんでした失言でした以後気を付けますのでお許しくださいってかマジでやめてそれシャレにならんから」
 長さ五十センチほどの鉄パイプを手に取って握り具合を確かめるように素振りを始める喜鈴と、それを自分に当てさせぬべく早口で押し留める光司。
「全く・・・そんなにその番組見たいの?」
 呆れ顔で聞く喜鈴。言い方を変えれば、何かに失望したかのような憂いを帯びた表情はとても美しい・・・右手から鉄パイプを放せば、だが。
「うちの弟が録画して友達と見るって言ってたから、後から見せてもらえば?」
「うぇえ!?マジで!?」
 途端に表情を明るくする光司。喜鈴はちょっと引きながらも後を続ける。


699:私立笹岡恋模様
07/06/09 22:10:30 qPPADhqU
「ま、まあ、別にあんたの為じゃないけど、そっちを気にして練習に身が入らなくなっても困るし」
「よっしゃ、だったらさっさと練習するか」
「・・・現金な奴・・・」
 意気揚々と体育館に向かう光司。喜鈴はその後をついていきながら、少し溜め息を吐いていた。

 練習は喜鈴の予想よりも苦戦した。
「・・・アーサーのセリフ、『見よ、我らを護らんと霧も出てきた。これで進軍を敵に気付かれる事はない』このセリフに合わせてスチーム・・・あ、これだ」
「それはスチームじゃなくて一番スポットライト。スチームはこっち」
「あれ?」

「・・・オリビア姫のセリフ、『嗚呼、騎士アーサー。貴方迄もが散っていったのですね』で照明を一気に落とし・・・うぉ、明るっ!?」
「眩しっ・・・ああもう光量レバー動かすの逆!」
「あ、でもこんだけ明るけりゃ騎士アーサー復活・・・」
「するか!」

「ほらまた違う。まったく、ここはこうやって・・・あれ?」「ぷっ・・・くく、何だよ、お前も結局間違って・・・」
「あらちょうど良い所に騎士アーサー愛用の銘剣フランベルジュが」
「誰だって間違いの一つや二つありますよね俺もその回数を減らすように努力しますからちょっと待ってその剣刃が波打ってて当たったらスゲエ痛そうぎゃああああああ」


700:私立笹岡恋模様
07/06/09 22:44:50 qPPADhqU
「はー、疲れた・・・」
 疲労困憊、といった様子で、光司は床に座り込んだ。時刻は九時を周り、隣に座る喜鈴にしても余り体力は残っていないようだった。
「あー、腹減った・・・」
「・・・さっきおにぎり五個も食べたじゃない、まだ食べる気?」
「コンビニの握り飯で腹が膨れるか」
 二人は七時頃に喜鈴が近くのコンビニで買ってきたおにぎりで夕食を済ませたが、その時に吸収したエネルギー量は練習で消費したそれに追い付かなかったらしい。(それだけでは無く、光司が大喰らいである事も関係しているのだが)
 途中、何度か見回りの先生が来たが、八時半辺りから来なくなった。
「まあ、大体は覚えたか」
「うん、間違う回数も減ったし、後はこの調子で練習すれば良いと思うよ。お疲れ様」
「うーい・・・」
 二人がそう言って笑い合い、荷物を取りにオブジェの外に出る。体育館の照明は消され、窓からの月明かりだけが頼りだった。
「うぉ、暗っ。中に人居ないかどうか確かめてから消せよ見回り」
 光司がそう言い、荷物を持って体育館の出入口を開け・・・
「え?」
「穂高?どしたの?」
 光司の上げた声に、喜鈴が反応する。
「・・・開かねえ」
「は?」
「鍵、閉まってる・・・と、閉じ込められた!?」
「えええええ!?」
 暗闇の中、二人の叫びが虚しく響いた。

701:684
07/06/09 22:46:15 qPPADhqU
今回はここまでです。
ではでは、失礼しました。

702:名無しさん@ピンキー
07/06/09 22:59:57 HvSBFx8W
GJ!
続きwktk

703:名無しさん@ピンキー
07/06/10 00:23:20 uertd7EV
イヤンでアハンな展開…
つ、次だなwktkwktk

704:名無しさん@ピンキー
07/06/10 10:16:55 PmBNrzIu
これはベタで良いシチュエーション
続きにwktk

705:名無しさん@ピンキー
07/06/10 20:46:45 8zogyiWa
こんなに強いwktkはいつ以来なのか・・

706:684
07/06/11 00:21:03 Nf5tL6Uf
 頑張ってエロ直前まで書いたんで、投下します。
 ではどうぞ。

707:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:22:16 Nf5tL6Uf
「う、嘘!?何で?体育館の使用時間延長届けは出したよ!?」
 何故こういった状況に陥ったのかを必死に考える喜鈴と、往生際悪く扉をこじ開けようと必死に頑張る光司。
「(ガコガコガコ)だぁああぁ!!っきしょ、何なんだよこのお約束すぎる展開は!」
 そんな事をしながら、五分程経過した頃。光司がある事に気が付いた。
「なあ、八時半頃、俺ら何してたっけ?」
「へ?えっと、オブジェの中で休憩して・・・」
「その辺りから見回りの先公来なくなったけど、もしかしてその辺りで、誰も居ないと思われて鍵閉められたんじゃねえか?」
 光司の言葉に、弾かれた様に喜鈴が頭を上げる。
「あ!・・・って、じゃあもしかして・・・その辺りに施錠が終わったんなら、もう誰も・・・」
「校舎には居ないだろうな」
 沈黙。暫くして、光司がまた声を上げる。
「そ、そうだよ!坂下お前、鍵持ってるんだろ?」
 一般的にこの体育館は、使用時間延長届けを提出して使う場合、後から施錠する為に届けを提出した生徒に鍵を渡す事になっている。しかし喜鈴は表情を明るくする事無く、淡々と言う。

708:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:23:31 Nf5tL6Uf
「・・・あるわよ、体育館用の外からかける南京錠の鍵が。あんた知らなかった?その扉に鍵穴は無いわよ・・・後から付けた、南京錠で閉める仕組みになってるから・・・」
 これは何の冗談だろうか。光司は一気に脱力した。だが、諦めるにはまだ早い。そう、彼らには最終兵器があった。
 ここで問題です。現代に於いて生活必需品であり、二十四時間いつでも使える通信手段と云えば?
『・・・ケータイ!!!』
 二人は顔を見合わせて叫ぶ。それと同時に光司はポケットの中に手を入れ喜鈴は鞄の一番外側のポケットを開ける。
 二人揃って折り畳み式携帯のフリップを開けて・・・そして二人揃ってガックリ。
 同じ機種の携帯ならば機能もサイズも、受信の悪さも大体同じになるわけで。二人の携帯には『圏外』の二文字が悲しく光っていた。
『・・・これだからソフトバンクは・・・ッ』
 二人は携帯を元あった場所に戻し、盛大に溜め息を吐いた。
「・・・上の階のギャラリーから外に出られねえかな。でかい窓もあるし」
「・・・この体育館が柔剣道場の上に作られてて、ここは実質二階で、この上のギャラリーは三階で、そこから飛び降りればどうなると思う?」
「ぬぅ・・・確実に飛び降り自殺になるなぁ」
 再び、溜め息。光司はもう、全てが面倒臭くなった。そのまま横になって喜鈴に背を向け、鞄を枕に眠ることにした。
「寝るべ。なんかもー、何やっても朝までここから出られないっぽいし」
「・・・随分、強気ね。何でこんな状況で呑気に眠れるのよ」
 喜鈴の呆れた声が光司の背中に向けられる。顔を向ける事も無く、言い返す。
「こんな状況で起きててもカロリー無駄に消費するだけだからな。お前も寝とけ」
「そうじゃない!何でこんな状況でそんなに冷静で居られるのよ!何でもっと慌てたりしないの!?何でこの暗い中でそんな平気なの!?これじゃあ私が馬鹿みた・・・」
 光司は耳を塞いだ状態でその言葉を聞いていた。それだけ喜鈴は大声で怒鳴っていたのだが、その言葉を最後迄聞く事は無かった。
 突然言葉が途切れた喜鈴を振り返り、光司はその顔を覗き込んだ。


――そしてビックリ。


「うっく・・・ひっ・・・ぐすっ・・・」
喜鈴は泣いていた。


709:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:24:50 Nf5tL6Uf
「な。」
 そして情けない事に、光司は呆然とするしか無かった。
 喜鈴が泣きながら自分に抱きついてきたとしても。
 更にその後に凄い事を言われたとしても。
「ひっく・・・最悪・・・もおやだ、くっ・・・うぅ、す、好きな人に、こんな顔見られたく無かったのに・・・ぐすっ、うあぁぁぁん!えぅっ、ひぐっ、ぅえぇぇん!」
 やがて光司は、震える背中と細い腰に手を回す。そして後ろから小さな肩をぽんぽんと叩き、自分の胸で泣く少女に言い聞かせる。ゆっくり、ゆっくりと。
「安心しろ。怖いんなら、側に居てやるから。頼り無いかもしんないけど、泣きたい時に顔隠すぐらいはしてやれっから」
 光司は喜鈴の頭を撫でながら上体を起こし、身体を密着させる。喜鈴の気が済むまで、思う存分泣かせようと思った。
 以前、本で読んだ事がある。泣き叫ぶ人間は、内的・外的要因からの助けを求める為に防衛本能から泣いていて、無理にそれを押さえ付ければその後精神に異常をきたす。らしい。
(ここは、ちゃんと泣かせておいた方が良いな・・・)


710:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:26:03 Nf5tL6Uf
 考えてみれば当然だろう。只でさえ自分の練習に付き合わせてストレスが溜まっているのに、更に夜の体育館に閉じ込められたのだ。怖くない方がどうかしている。
 それを分からなかったのは自分だ。少しばかり優しくしても良いだろう。
 泣き続ける喜鈴を、光司はいつの間にか自分から抱き締めていた。


「落ち着いたか?」
「うん・・・ごめんね、みっともないトコ見せちゃって」
 喜鈴は五分程泣いた後、落ち着いた。しかし二人は未だに向かい合って抱き合ったままである。暫くして、思い出したように光司が口を開いた。
「あのさ、さっきの・・・」
 その言葉に、喜鈴の顔が赤く染まる。暫く俯いていたが、やがて意を決して顔を上げた。
「・・・私は、穂高が好き。優しくて、カッコ良くて、あったかい、そんな穂高が、好き。本当は、もっとちゃんと言いたかったんだけど・・・」
 喜鈴がその言葉を言い終わると、次は光司が口を開いた。
「・・・俺は、坂下が好きだ。可愛くて、明るくて、俺の事ちゃんと考えてくれて、俺を頼ってくれるお前が、好きだ・・・自覚したのはたった今だけど、な」
「何それ、ふふ・・・」
「ぷっ、あははっあはは・・・」
 傍目から見ればおかしな光景である。顔を真っ赤に泣き腫らした女と胸元がびしょびしょになっている男が抱き合い、笑っている。
 やがてどちらともなく目を閉じて顔を寄せ、その距離が一瞬だけ無くなる。離れた唇はすぐまた触れ、今度は更に深く繋がる。喜鈴の唇を割って光司が舌を入れ、その異物感に最初は驚いた喜鈴もおずおずと自分の舌を光司のそれに絡める。
「ん、ちゅ・・・っは、ぅん・・・」
「んむ、ん・・・っぷぁ」
 一分近く繋がっていた唇を離し、少し緩んだ顔で光司が聞く。
「ファーストキスはレモンの味って言うけど、どうだった?」
 喜鈴は顔を赤くしたまま、息も絶え絶えに答える。
「っは、ぁ・・・はぁ・・・何か、へんな、かんじ・・・あたまがぼーっとして、穂高以外、何も見えなくなって・・・」
 そこまでを何とか言い切り、光司の肩に顔を乗せて息を整える。
「それに・・・凄く、嬉しい」


711:私立笹岡恋模様
07/06/11 00:26:53 Nf5tL6Uf
 そう言って自分の首に手を回した喜鈴の髪を撫でて目許に口付ける光司。更にゆっくりと喜鈴を押し倒しその上に覆い被さった後、遠慮がちに口を開く。
「坂下・・・その、いい、か?」
 その言葉の意味を理解した喜鈴は、光司を見詰めてから言葉を紡ぐ。
「いいよ、穂高になら・・・あ、でも一つだけ」
「ん?」
 喜鈴はそこで閉じていた瞳を開き、一つの望みを口にした。
「・・・なまえ、呼んで」
「名前?」
「うん、『坂下』じゃなくて、『喜鈴』って・・・お願い、『光司』・・・」
 名前を呼ばれ、心臓を高鳴らせる光司。やがて、笑顔で言った。
「ああ、分かったよ・・・喜鈴」
 互いに名前を呼び、見詰め合い、二人の唇が再び、重なった。

712:684
07/06/11 00:30:13 Nf5tL6Uf
 今回は以上です。肝心の本番のシーンがまだ・・・SS書くのって難しいですねーあっはっは・・・(待て)
 では、どうもです。

713:名無しさん@ピンキー
07/06/11 07:31:43 8Sa9IFR4
GJ!
wktkwktk

714:名無しさん@ピンキー
07/06/11 19:02:10 BycoLzvI
書く人マダー?

715:名無しさん@ピンキー
07/06/11 21:02:27 DlsqoYr1
wktk

716:名無しさん@ピンキー
07/06/11 21:28:01 X/vehP+S
ワッフル!ワッフル!

717:名無しさん@ピンキー
07/06/11 23:01:36 8Sa9IFR4
ワークテイカー

718:名無しさん@ピンキー
07/06/13 19:18:38 vi0LLoH/
マダカナー(・∀・)

719:名無しさん@ピンキー
07/06/14 12:23:52 i/1lpJqb
俺も、ワッフル!ワッフル!

720:名無しさん@ピンキー
07/06/14 16:47:18 NWCgXQ49
wktk

721:名無しさん@ピンキー
07/06/16 14:58:43 64ahZTo+
電波・・・・・・・送ー信っ!!

722:名無しさん@ピンキー
07/06/16 18:10:44 9+NC6ZRQ
只今回線が混雑しております

723:名無しさん@ピンキー
07/06/16 19:52:06 jqhpia/7
めげずにもう一度
送ー信っ!!

724:名無しさん@ピンキー
07/06/16 23:02:36 9yDs1hJq
AI「太陽風による磁気荒らしです」

725:名無しさん@ピンキー
07/06/16 23:19:21 Jh/DafNc
てんちょー。
新規オーダーでーす。


あれ、店長……?

726:名無しさん@ピンキー
07/06/17 00:25:49 OAgMjfPS
ここの過去ログ保管庫てないんですか?

727:名無しさん@ピンキー
07/06/17 01:17:24 AJWKlbRh
>>726

おまえは、タイトルと>>1から読み取ることができないのか。

728:名無しさん@ピンキー
07/06/17 02:17:27 3oJSJ8vl
なんかこの展開過去にどっかでみたことあるような気がするが、

ま、いいか。

729:書く人
07/06/17 02:33:36 oH5EQbW3
電波受信完了!と、言うわけではありませんが続き、投下します。

730:書く人
07/06/17 02:35:11 oH5EQbW3
 切っ掛けとは、とても大切なものだと実感した。襟を開いてみれば、椎名さんはとても話しやすい人だった。
 椎名さんはコーヒーを飲みながら、色々と自分のことを教えてくれた。
 自分がハーフで、父親が日本人、母親がフランス人。一番印象に残る特徴である金髪は、その母親譲りの天然だそうだ。
 日本に考古学の研究(初めて知ったことだが、世界最古の土器は日本から出土したらしい)に来ていた母親と、大学で神道の勉強をしていた父親が出会って、ということらしい。その父親は、この春この村にある神社の神主を引き継いだらしい。

「つまり家は神社。どう?金髪巫女さんよ?」
「…?」

 そう言われて、僕は首をかしげた。言葉としては彼女の言っていることは分かったが、その意味が分からなかったからだ。
 素で混乱する僕の様子を見て、なぜか椎名さんの顔が赤くなり

「ちょ、ちょっと待った!アンタってオタクとかそう言うのじゃないの!?」
「……えっと…一応インドア派だけど…」

 どうやらソッチ系の人間と思われていたらしい。まあ、時々、その道に堕ちた友達から借りたラノベを読んだりしてたから、それを見て椎名さんもそう思ったのかもしれない。
そう言えば、と僕は思い出す。ラノベを貸してきた奴が『金髪貧乳巫女さん萌ぇぇぇぇっ!』って叫んでたことがあった。
 椎名さんは制服の上からでもわかる位に豊満な体つきだから、貧乳という項目から外れるけれど、金髪と巫女さんというところでは一致する。
 そうか。椎名さんは自分は『金髪で巫女だけど、オタクのあなたとっては『萌える』存在でしょ?』という意味で言ったのだろう。
 さらにそこから一つの結論が導かれる。

「椎名さんって…ひょっとしてオタクとかに詳しいの?」
「なっ!なわけないでしょ!?ア、アンタがオタクっぽいからそれに合わせてあげようとしただけなんだから!」

 怒られた。
 椎名さんはそっぽを向くと「ったく…一美の奴、男はそう言えばイチコロだって…つか、なんで私、こんな奴をイチコロにしようと…」と呟く。
 どうしたものかと途方にくれる僕。
 どうでも良いけど、どうして僕は年下らしき女の子にさん付けをするだけにとどまらず、アンタ呼ばわりされてるんだろう?
 現実逃避気味に考えていると、椎名さんが顔はそっぽを向いたままでこちらを見てきた。

「で、アンタはなんて名前なのよ?」
「あ、そっか。まだ名前を言ってなかったよね」

 だからアンタ呼ばわりだったのか。
 そう言えば互いの自己紹介の最中だったと、僕は自分の紹介を行う。
 と言っても、特に言うことはなかった。
 名前は喜沢弘文という、どこにでもあるありふれた名前。
 運動は少々悲惨。成績は多少自慢できる程度。身長はやや高め。顔は不細工ではないが、ぱっとしない。
下手に個性があるため、ある意味『全てが平凡』というプロフィールよりもよほど相手の記憶に残らないタイプ。
 唯一個性と言い切れる点と言えば、自他共に認めるほどの読書好き、という点かもしれない。

「あ、それから両親は医者と薬剤師」
「うわっ!実はお金持ちのお坊ちゃんだったの、ヒロフミは?」
「そうでもないよ」

 結局、椎名さんは僕のことを下の名前で呼び捨てにすることにしたらしい。
 ひょっとしたら同い年以下と思われてるのかも。

731:書く人
07/06/17 02:35:59 oH5EQbW3
 ま、いいか。
 別に敬称で呼んでもらいたいわけでもないし、椎名さんみたいな女の子に、下の名前で呼び捨てにされるのも、悪くない。
 そのくらいの下心、コーヒー一杯分の代金として認めてもらえるだろう。
 そんな風に理論武装している僕をまるで咎めるようなタイミングで、鋭い光が照らした。
 雷だ。
 
「ひいっ!?」

 もし雷がその語源通り神様が鳴らすもので、邪念を抱いた僕に対する警告だとしたら、それは思い切り方法選択をミスしている。
 なぜなら煩悩を増長するからだ。
 椎名さんが顔色を変えると、こちらに飛びついてくる。
 流石に胸に飛び込んではこないが、僕の腕を掴んで抱きしめる。
 直後、稲妻に遅れること一秒程で雷鳴が届く。

「…っ」

 僕の腕を抱きしめる強さが増す。
 夏服の薄い生地越しに伝わってくる柔らかさと、震え。
 僕は邪念を払いながら、椎名さんに気遣いの言葉をかける。

「大丈夫?」
「あ、あた、あたりまへじゃなひ」

 呂律が回ってない。
 本気で怖がっている彼女には悪いけれど、その様子はとても可愛かった。

「大丈夫だよ。雷なんてそんな怖いものじゃ……」
「子供の頃、ね」

 苦笑交じり僕の言葉を遮って、椎名さんが俯いたまま言う。
 表情は見えないが、声の調子からして無表情で喋ってるように思われる。

「子供の頃、母さんに連れられて山に行ったの。大学の研究班の人達と一緒でね。遺跡の発掘だったの。
その中で、お母さんと仲の良いお姉さんがいてね。よくアメをくれる人でね。その日も一緒だったのよ。
けど、突然山の天気が悪くなって、雨が降って、雷になって、慌てて道具を取りに行ったお姉さんが……どかーんって…」

 そこまで言って沈黙する椎名さん。
 どうしよう。思ったよりハードだ。
 椎名さんは僕の腕を掴んで俯いたまま、口を開いた。

「だから……雷だけはどうしてもだめで…それ以外は大丈夫なんだけど…ね」

 雨音に混ざって消えてしまいそうなほどにか細く、頼りない声。
 苦笑とはいえ笑ってしまったことを僕は恥じる。
 少しでもその恐怖とトラウマが和らぐようにするにはどうすればいいかと考えた時だった。
 ガタガタと、駅員がいたころ事務室として使われていたらしい部屋から物音がした。
 そして、例によって例のごとく

「イヤァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 椎名さんが悲鳴を上げた。
 彼女は今度は僕の首に抱きつくと、左右にガクガクとシェイクする。

「ナニナニナニナニ!?お化け?お化け!?ダメダメダメェッ!」
「お、おち、おちつ、落ち着いて!」

 僕が椎名さんを宥め終るより早く、事務室の扉が開いた。

732:書く人
07/06/17 02:36:49 oH5EQbW3
「――!?」

 恐怖に息を止める椎名さんと、首を絞められ息が止まる僕。
 そんな二人の前に現れたのは

「ワン」
「――犬?」

 涙目を見開きながら、椎名さんは事務室の横開きの扉を、器用に前足で開けて入ってきた柴犬を見る。
 腕の力が緩んだ隙をついて呼吸を確保した僕は、椎名さんに説明する。

「き、近所の安田さん家で飼われてるチコだよ。時々逃げ出してくるんだ。
 最近は安田さんがしっかり鎖を付けるようになってて来なかったんだけど…」

 見ればチコの首輪にはロープがついており、その先には杭が結わえつけられていた。
 この雨で地面が緩んだ所を、引っこ抜かれたらしい。
 が、その辺りはどうでも良いだろう。
 どうせ明日の朝になれば、安田さんがチコを回収に来る。目下の最大の問題は

「で、幽霊とかも駄目なの?」

 至近距離で見つめる椎名さんの横顔。椎名さんは少し表情を引きつらせた後、先ほどの雷のトラウマを話した時と同じように、表情が見えないように俯いて

「子供の頃、お父さんに連れられて――」



 とりあえずこの日、僕は金髪の彼女の名前が椎名マリアであることと、強気そうな物腰とは裏腹に結構臆病で可愛いこと、そして、離してみると結構面白いと言うことを知った。
 その夜以来、僕の朝夕駅舎で過ごす三十分は、以前と異なるものになった。本以外の楽しみができたのだ。
 それは椎名さんと過ごすことだ。
 とはいっても、いつも三十分おしゃべりをし続けるわけでもない。
 その時間の大半は会話もなく、ただペンキの剥げたベンチで一緒に座っているだけだ。
 けれど、その時間はとても居心地がよかった。
 誰かが隣にいると言う事実と、時折交わされる会話。
 朝の時間はいつも一緒だが、夕刻はそれぞれの予定が異なるために、会えないこともしばしばある。
 あの嵐の夜までは、むしろ安心を覚えた独りの時間が、今ではとても物足りなく、寂しいものに思われるようになっていた。
 弾み歌うような彼女の声音と喜怒哀楽の感情。
 それらがたまらなく心地よく、彼女といることが好きになっていった。
 自分の抱いている感情が恋心であることに気づくまで、時間はいらなかった。
 そのまま一か月半の時間が過ぎた。

733:書く人
07/06/17 02:39:00 oH5EQbW3
七月の半ば過ぎ、もうすぐ夏休みという頃だった。
下校中、アスファルトの照り返しに辟易していた僕の耳が、声を拾った。

「そこのヒロフミ!ちょっと待ちなさい!」

 ヒロフミ違いと言う可能性は限りなく低かった。
 理由は呼ばれた声に聞き覚えがあったからだ。

「椎名さん?」

 振りかえった僕の視界にはいつの間にか間近まで近づいていた椎名さんの顔があった。
 勝気な印象のある目と金髪。
 至近距離で見た椎名さんの表情に、少しドギマギしながらも僕はどうしたのかと聞こうとして、手を掴まれた。

「え?」
「先生確保したわよ!」

 椎名さんは振り返ると、僕の右手を持ち上げながら振り向いて声を上げる。
 その先に、椎名さんと同じ制服を着た女の子達が三人いた。

「……どういうこと?」

 僕の質問に、椎名さんは質問で返してきた。

「ヒロフミの学校って二学期制で、夏休みの前に期末ないわよね?」





 事の発端は、半月ほど前に帰ってきた全国模試の結果らしい。
 成績表と一緒に配布される上位者名簿。その二年の部、数学の項の末席に、僕の名前が載った。
 友人は、この結果をひっさげて親になんか買ってもらえと言っていたが、残念ながらうちの両親の方針は
『勉強は自分のためであり、成績が良かったからと言ってなぜ褒美を与えねばならんのだ』
 そんな僕にとっては見て励みにする以上の意味を持たなかったそのデーターを、

「見つけた時はこれだ、って思ったのよ。ヒロフミこそ、私達を補修地獄から救ってくれる救世主に違いない、ってね」
「わ、私は別に教えていただかなくても補修なんてなりませんわ…!」

 学校の近くの学校の近くの図書館で、僕は椎名さんから事情を聞いていた。
 その説明に際して、椎名さんの友達の一人―円谷さんが抗議したが、上げてしまった声は思いのほか大きくなったのを自覚し押し黙る。
 もっとも、周囲に人影はなく、咎められることはなかった。それでも反省して身を縮める辺り、真面目な人なのだろう。

 椎名さんの話によると、椎名さんとその友達を含めた四人のうち、円谷さん以外の三人は中間テストで惨憺たる結果を残したらしい。
 このままでは夏休みは補修でつぶれることが必至と言うことで、円谷さんに連れられて図書館で勉強会と言うことになったらしい。しかし円谷さんにもテストがあり、椎名さん達にかまってばかりもいられない。
 そこで、道端で見かけた僕を呼びとめた、ということらしい。

734:書く人
07/06/17 02:39:55 oH5EQbW3
「いいじゃない、美咲ちゃん。せっかく教えてくれるんだし~」
「そのとーり。男子一人に女の子四人の勉強会ってのは、シナリオ分岐イベントの王道じゃないかね?」

 椎名さんの説明に不服そうな円谷さんに、左右から声が掛けられる。
 全体的にのんびりとした口調の背が高い女の子のフォローと、それとは対照的に小学生と言われても違和感ない身長の女の子の微妙なフォロー。
 なんというか、こういった言い方はなんだが、円さんとは異なりどことなく、お馬鹿な印象を受ける。
 特に背のちっちゃい方の子からは、なにやら前述したオタ系の友人と同じ雰囲気が伝わってくる。
 そのちっちゃい子の方が、こちらを見てニヘラ、という感じの笑顔を浮かべ

「とは言った物の、すでに彼はマリリンルートに一直線!って感じかなぁ?」
「な、なんで私の名前が出てくるのよ!?」
「声が大きいですわよ!」

 注意する円谷さんだが、椎名さんは聞く耳を持たないようだ。
 うわ、本当に「ですわよ」なんて語尾を使う人がいるんだ、と感心する僕の目の前で、マリアの追及を背の小さな女の子はのらりくらりとと交わしてゆく。

「んー、けれどねえ。わざわざ別の学年の順位表をすべてチェックするとは、なかなかにあり得ませんよー?」
「だ、そ、それは知り合いだから…」
「知り合いだから、って?下手な言い訳だなー。
ともあれお兄さん。かなり好感度は高いですよ?このまま着実にフラグを立てていけばアイキャッチ画面がマリリン単独の絵になるのは遠くないよー?」
「ア、 アイキャッチって……えっと……」
「ああ、私は長曽我部 一美。らき☆すたのこなたに似てるって言われるおにゃのこです!」
「一美ちゃん、それってどういう意味?」

 いや、なんとなく意味はわかる。つまり現状を恋愛シミュレーションに例えるなら、僕が椎名さんとくっつくようなエンディングに向かっている、ということなのだろう。
 けれど今一確信が持てず、訊き返す。が、僕の問いに帰ってきたのは一美ちゃんからの返事ではなく、別方向からの追及だった。

「一美……『ちゃん』?」

 椎名さんだった。
 彼女の眼は少し釣り目勝ちで、ただ見られているだけでも時々睨まれているような錯覚を受けるが、この瞬間、僕は確実に睨まれていた。

「えっと……。な、何か質問?」
「ん?えーあるわよ先生ぇ、質問が。なんで一美だけちゃん付なのか、とか?」

 ……なぜと言われて、僕は首をひねる。
 いや、理由は単純だった。苗字が呼びにくいからだ。長曽我部なんてリアルで見たのは初めてな名前だ。
 それに外見的にも小学生な上、全体的に寝起きの子猫のような愛嬌なる造詣の顔をした彼女に『さん』付はイメージに合わない。
 深い理由はなかった。
 が、それを説明するより早く

「……ロリコン。
 美咲、ここ教えて」

735:書く人
07/06/17 02:41:17 oH5EQbW3

 釈明の暇もありはしない。
 冷たい目で僕を一瞥した後、椎名さんは円谷さんに向けて参考書を広げる。
 円谷さんは少し戸惑ったように視線を僕と椎名さんとの間で行き来させたが、結局椎名さんが向けてきた参考書を覗き込んだ。

「おやおや~。フラグを立てちゃったかな~?」

 にへら、とした表情をさらに溶けたようなもの変えつつ言う一美ちゃん。
 フラグ、とはプログラムにおける発動条件から転じて、出来事が起こるための条件を指す言葉らしい。
 そう言われると、少し嬉しい気がした。
 確かに冷たい態度や視線は居心地が悪いものだが、しかしひょっとすればそれは、椎名さんの嫉妬のようなものなのかもしれない。

「あの~、喜沢センパ~イ。
 ここ、教えてくれませんか?」

 聞いてきたのは最後の一人、背の大きな女の子――高木良子さんだ。
 180センチ近くあるのではないだろうか?スタイルもハーフである椎名さんを上回るほどのモデル体型。
 こう書くと近寄りがたいようなイメージだが、その印象をのったりとした挙措動作と喋り方が侵食し、中和している。

「あ、うん。えっと…高木さん」

 危うく良子ちゃんと呼びかけて(印象が彼女も子供っぽかったから)、ギリギリで名字で呼ぶ。その直後に横―椎名さんが放っていたプレッシャーが落ちる。
 その事に少し安堵しながら、僕は渡された教科書を見る。
 化学だ。

「この酸と塩基っていうのが分からないんですけど~、混ぜるとどうしてこうなるんですか?」

 高木さんが聞いてきたのは、化学の基礎とも言える中和反応についてだった。
 話を聞くと、なぜ塩酸と水酸化ナトリウム水溶液を混ぜると、塩酸とナトリウムが、元々付いていた水素や水酸化物イオンと別れてまでくっつくのかが理解できないらしい。

「えっとね。これは電気陰性度と酸性度っていうか…」

 教科書通り説明しながら高木さんの表情を見てみる。

「………」

 フリーズ。
 それはそうだ。教科書通りの説明で理解できるなら聞いてくるはずもない。
 よし、ならばイメージに訴えてみよう。
 僕は教科書の一ページを指して

「えっと…この表によると塩化物イオンの方が水酸化物イオンより酸として強いってのは分かるね?」
「はい」
「それと、ここによれば水素イオンよりナトリウムの方が塩基として強いよね」
「……はい」

 どうやら、ここまでは分かってくたようだ。

「だからさ、この酸性度と電気陰性度とかっていうのはそれぞれ相手を引っ張る力で、これが強い者同士が真っ先にくっつきあうから…」
「けど、最初はこの子たちは、それぞれ水素やOHとくっついてたんですよね~?」
「くっついてたって言っても一緒の溶液の中にいるだけだから。
 それに、この塩化物イオンもナトリウムイオンも、たまたま相手がいなかったから、一緒にいた水酸化物イオンや水素イオンと仕方なくくっ付いていただけで…――」


――仕方なく。


 自分で言ったその言葉に、僕ははっとなる。

736:書く人
07/06/17 02:42:00 oH5EQbW3
 相手を引っ張る力の強い塩基であるナトリウムイオンは、仕方なくその場にいた水素イオンと一緒になっていた。
 相手を引っ張る力の強い酸である塩化物イオンは、仕方なくその場にいた水酸化物イオンと一緒になった。
 ならば……

「……あの~センパイ~?」
「えっ。あ、うん。とにかく、そういうこと。分かった?」
「はい~。教え方が上手ですね」

 繕う僕に、高木さんはお礼をいってくる。
 けれど、僕はその内容をほとんど聞いていなかった。

 僕は隣を見る。
 そこには椎名さんがいた。
 機嫌が治った、というより一美ちゃんとのやり取りが既に意識の外に置き去られてしまったのか、頭を抱えながら円谷さんの問題解説を受けている。
 シャーペンの恥を口にくわえて脹れっ面で参考書を睨みつける椎名さん。
 そんな表情ですら見苦しさより可愛らしさが前に出ている。
 椎名さんは、そんな可愛い女の子だ。それに対して、僕は冴えない男。
 駅で二人が言葉を交わすような関係になったのは、偶然そこに二人しかいなかったから。

 さながら、ナトリウムイオンと水酸化物イオンだ。
 地味で誰も引きつけることのない僕と言うイオンがいる、駅と言うビーカーの中に、椎名さんと言う引き寄せる力の強いイオンがやってきて、僕を引きつけた。

 ――仕方なくに、だ。

 けれど、それは二人きりになったから。椎名さんに言わせれば、きっと仕方なくのことに違いない。
 ビーカーの外には、僕よりはるかに引く力の強いイオンに溢れかえっている。
 外に零れてしまえば、椎名さんに引き寄せられる、僕よりはるかに魅力的なイオンがたくさんいて、椎名さんは僕に見向きもしないだろう。
 現に、円谷さん達と話をしている椎名さんは、いつも以上に嬉しそうで輝いて見えた。

 ああ、何を勘違いしていたんだろう。僕にとって彼女が特別な存在であったとしても、彼女にとって僕が大切な存在である根拠にはならないと言うのに。
 いや、それどころか、すでに彼女には恋人か、あるいは好きな人がいるかもしれない。

 冷水を頭から浴びせられたような気分だ。
 女の子に少し声をかけられて、その友達にはやし立てられただけで、すぐにのぼせて、いい気になっていた。
 僕など椎名さんにとっては、二人きりに『なってしまった』相手に過ぎない。
 偶然と不可抗力の結果である僕が、椎名さんにとって特別な意味がある存在であるはずがあるだろうか?
 


「あの…喜沢さん?こちらの数式なんですが…」
「…うん。どうしたの」

 円谷さんに言われて、僕は現実の問題の方へと意識を向けた。
 


 解散の時、椎名さんは僕にテストまでの家庭教師を頼んできた。僕はそれを承諾した。
 少しでも椎名さんの隣を占有していたい。理由は、そんな悪あがきにも似たものだった。
 この日を境に、椎名さんとの時間が少しだけ憂鬱になった。

737:書く人
07/06/17 02:44:05 oH5EQbW3
つづく

たぶん次回がラストになるかと。
あまり待たせないように努力します。

738:名無しさん@ピンキー
07/06/17 07:47:13 rxP7HD2D
イイヨイイヨー

739:名無しさん@ピンキー
07/06/17 09:17:51 UWU9Xl/1
南下スゲー気になる展開だ!

740:名無しさん@ピンキー
07/06/17 09:21:15 TTdqLV+H
続き早く読みたい

741:名無しさん@ピンキー
07/06/17 13:48:18 mzEXyAJ3
書く人氏GJ!
続 き が 気 に な る !


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