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櫓の上から、憎むべき長野の旗印が観えた。
その敵兵の行軍は、比喩などでは決してなく、地が振るえ唸っている。
武忠は、ちらりと隣にいる主の顔を見やる。
「(怖気づいては・・いないな)」
以前共に戦ったときは、草原の上で暴れまわっていた主君を頼もしく思った。
しかし今回は野戦ではなく、敗色濃厚の籠城戦だ。
武忠の気持ちを知ってか知らずか、月の表情は変わらない。
「(大殿の・・・子か)」
青葉では、慕っていた大殿を救うことができず、途轍もなく口惜しい思いをしたが、
せめて、この忘れ形見だけはもう失いたくない。
心の底から願う。
「(大殿・・・ どうか殿、月様を見守っていて下され )」