06/08/06 23:08:59 ACUyWJUr
「わたくしは幸せです」
「えっ」
今までの怒りと悲しみが嘘のように、その声は穏やかで慈愛に満ちていた。
「さまよう心を、あなたの口づけで覚ましてもらえたのですから」
「許して、くれるんですか?」
「さっき怒ってみせたのは、いきなり唇を奪われた仕返し♪」
悪戯に成功した子供のように、彼女はくすくす笑った。してやられたってこと?
もう、ひどいなあ。
「これがわたくしの……本当の気持ち」
ダイアナさんはそっと目を閉じた。
念のため、辺りを見回す。近くには、誰もいないみたいだ。やり直そう。彼女の望むまま、
ファーストキスを二人一緒に。
また花のような芳香が漂ってくる。その香りに誘われて、唇が近づいていく。
陽光差し込む木立の中、お互いをついばむ音と、無邪気な鳥の鳴き声だけが聞こえていた。
どれくらいの時間、そうしていただろうか。瑞々しい唇の感触を惜しみながら、キスを解く。
「嗚呼、生きることを諦めていたわたくしが……夢は、叶ったのですね」
満面に笑みを浮かべながら、その目からは清らかな涙がとめどなくこぼれていた。
そんなダイアナさんを、包み込むように抱きしめてあげる。
「僕だって……元気なダイアナさんを、こうやって抱きしめたかった」
でも、これで終わりにしたくない。
「ダイアナさん。そ、その、ここじゃ人が多いから」
「はい。夢の続きは―二人きりの場所で」
つづく