07/01/23 19:47:58 kxMXrFlA
「まあ、気をつけろよ。このご時勢だ。どっかのバカに殺されても文句は言えないぞ」
ジュウは忠告する。
妊婦刺殺事件、女子高生拉致事件、金銭詐欺、銀行強盗…
昨今頻繁に起きている犯罪を例に挙げればきりがないくらいに、この街、いやこの国は犯罪で満ち溢れている。
一見は平和を繕っているこの国だが、蓋を開けてみれば
そこは偽りと憎しみと狂気が掻き混ぜられた毒液で満ちている。
胸糞が悪くなることばかり。やっぱりこの世の中は綺麗なんかじゃない。どろどろとした泥沼が覆い尽くしているばかりだ。
ジュウはそう言葉にしたわけではないが、そう感じた。
この少女はどこか間が抜けていると思う。言い換えれば純粋そうとも言えるのだが。
せめてこの忠告を聞いて、この少女が身を守ることができるのなら
自分のちっぽけな正義感も少しは救われるのではないだろうか。
そこまで考えて、ジュウは馬鹿馬鹿しいと思った。偽善にも程がある。
他人のことに無関心である自分が誰かのことを案じるなんて、間抜けで滑稽だ。
「ああ、ありがとう。やはりわたしは外に出てよかった。
世界はこんなにも醜くて残酷だが、たしかにそこには温もりがあるな」
だが、少女は嬉しそうに微笑む。その微笑はジュウだけが知る雨の笑顔とどこか似ている、と感じた。
「……よければその待ち合わせ場所まで送りますが、どうしますか」
そう問いかけたのは伊吹だった。妙な言い回しに彼も気後れしていたようだが、
やはり彼もこのまま少女をひとりで行かせるのは不安だったのだろう。言葉に優しさを持たせてそう問うた。
やっぱり俺とこいつは違うな、と漠然と思った。伊吹は本気で他人を心配し、それを行動に移す。
自分の感情のために動く俺とは全然反対だと苦笑を浮かべる。女子からの人気が出るのも当たり前か、とも。
けれども、少女は首を横に振った。
「なに、知り合いとの待ち合わせ場所はすぐそこなんだ。気遣い感謝する。
それではそろそろ時間なので、これで失礼するぞ。いろいろと迷惑をかけたな」
――純粋無垢。そんな言葉を思わせるような笑顔を浮かべると、
たたっとその少女はその場を駆け去っていった。