【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】at EROPARO
【電波的な彼女】片山憲太郎作品【紅】 - 暇つぶし2ch450:伊南屋
06/11/05 16:56:15 qL2oc5oa
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅰ.
 クラウチ大陸東部に位置する小国。ギミア。
 小国、と言うのはかつての事であり。今はいくつかの隣国を武力で平伏し、列強の仲間入りを果たしたばかりの今最も勢いのある国である。
 年若き王は『獣王』と呼ばれ、古くから続く大国には野蛮な侵略国であると疎まれている。
 ただ、実際に武力を振るい他国を侵略したと言えるかは微妙な所であった。


「―以上で、拠度の“防衛戦”の戦果報告を終わります」
 兵卒が手にした目録を読み上げたことを告げる。
 被害、得た領地など今回の戦にまつわる収支である。
 それを質素な、一応は玉座となっている席で聞いていた青年は盛大に溜め息を吐き出した。
「これで……何度目だ」
 傍らに控える少女に声を掛ける。声を掛けられた少女は事も無げに。
「六度になります」
 と答えた。
 ―六度。六度に渡りこの国は侵攻を受けた。
 その全てを退け、逆に攻め入ってきた国を落とし、この国はその版図を広げてきた。
 そして、ただの一度として自ら攻め入るということは無かった。付け加えるならば、本来この国に戦争をするだけの余裕は無いはずだったのだ。
 それでも生き残れたのは、一騎当千の武人であると同時に、無二の知謀を持つ軍師である。今、王の傍らに控える少女に拠るところが大きい。
 そして、そんな綱渡りのような戦争をこの国は繰り返してきた。
「いい加減……俺は疲れたぞ」
 故に青年が漏らしたその言葉は偽らざる本心であったと言えよう。
「今日はもう、休む。後を任せるぞ」
 傍らの少女にそう残すと、青年は立ち上がり私室へと引き返した。


 私室に戻った青年は、わき目も振らず寝具へと身を投げ出した。
 数週間にも渡る戦を終え、王ながらも前線に立ったその身には疲れが堆積しておりすぐにでも眠れそうだった。
「お疲れだね、ジュウ様」
「…………雪姫か」
 視線を巡らせば部屋の片隅に、部屋に入る前から既にいたのだろう。少女が立っていた。
 長い髪を後頭部にまとめ、背に垂らした少女は瞳に悪戯な光を湛え微笑んでいた。
「なにをしてる。まがりなりにも此処は王室だぞ」
 ジュウ。そう呼ばれた王は眠りを妨げられた不愉快さも露わに少女を睨む。
 少女―雪姫は苦笑すると、寝具の端に腰を下ろした。
「一応、ジュウ様の事を労いに来たんだけど……邪魔だった?」
 

451:伊南屋
06/11/05 16:58:54 qL2oc5oa
 雪姫は王を相手にしながらも対等に話す。ジュウもそれを嫌がるでもなく、対等の言葉で返す。
「邪魔だ」
 その言葉に雪姫はむっ、と頬を膨らませる。
「そんな事言うジュウ様は嫌いだな~」
「別に構わない。だから寝かせてくれ」
「あ~。ウソ嘘、嘘だから。そんなふてくされないでよ」
 余りに素っ気ないジュウの態度に、一度は見せた不機嫌な態度をあっという間に軟化させる。
 ジュウは投げ出した身を起こし、雪姫に改めて聞いた。
「それで、結局何しに来たんだお前は」
「だから言ったでしょ? 労いに来たんだって」
 そう言って雪姫は身を擦り寄せる。ジュウは軽く身を引きながら。
「……夜伽など、侍頭のお前がする事ではないだろう」
 言って、雪姫を制した。
 ―そう、この雪姫という少女は侍頭の地位を与えられた、歴としたこの国の武人である。
 侍頭・斬島雪姫。うら若き女性なれど、この地位まで昇り詰めた実力は確かなものである。
 そのような女性が、今更身を売るような真似をするとは考え憎い。
 そして、それ以上に。
 彼女がふざけているのだとジュウは個人的な付き合いの中から、経験則的に察知していた。
 しかし、結局腹の探り合いに置いては雪姫に一日の長がある。
 ジュウは一言を返した時点で、既に雪姫の術中にはまっていた。


「う……」
 声が上がる。それはジュウが発したものだ。声音には心地良さそうな響きが含まれている。
「ふふ……」
 ジュウの上には雪姫が跨っている。その身を使い一心にジュウへと快楽を与える。
 雪姫は微笑みながら身を屈め、ジュウの耳元に唇を寄せた。
「夜伽が……なんだっけ?」
 その言葉にジュウは顔を赤くする。枕に顔を沈め雪姫には見えぬようにはしているが雪姫は雰囲気でそれを察知したようだった。
 くすくすと笑いながら腕に力を込める。
「ふ……っう」
「どう? 気持ち良いでしょ?」
「……ああ」
 ジュウは与えられる刺激に、心地良さと屈辱感を同時に覚える。
「やらしいねジュウ様は。“労る”って言っただけで夜伽を連想するなんて」
 雪姫が更に力を込める。
「私は、こうしたかっただけなのに」
 ジュウの背中に体重が載せられ、圧迫される。
「ねえ、ただのマッサージなのに」
「分かったって言っただろう!」
 余りに執拗な雪姫にジュウが吼える。先からマッサージの最中。ずっとこの調子なのである。


452:伊南屋
06/11/05 17:03:14 qL2oc5oa
 確かにマッサージは上手いが、これでは身体が休まれど心は休まらない。
「暴れちゃ駄目だよジュウ様。……間違って変なツボ圧しちゃうかも知れないから」
「なんだその“変なツボ”って……」
「んふふ、知りたい?」
「……いや、遠慮しておく」
 雪姫は「残念だな」と呟くと再びマッサージに集中する。
 黙ってさえいればこのマッサージは極上だなとジュウは思った。
 確かに凝り固まった筋肉が解され、詰まっていた血が流れていくような気になる。
 加えるなら、背に跨る雪姫の太ももにしても、柔らかく甘美な刺激となっているのだが。
 それについてはジュウ自身が心中で必死に否定していた。
「はい、おしまい」
 最後に肩の辺りを平手でぱんぱんと叩き、マッサージの終了が告げられる。
 ジュウの背中から雪姫が降りる。
「……一応礼は言う。ありがとうな」
「ん、どういたしまして」
 雪姫はそう言って立ち上がる。
「それじゃ、後はゆっくり眠って疲れを取ってね。王様が体壊しちゃだめだよ?」
 ジュウは、分かっている。とばかりに頷いてみせる。
 それを確かめると雪姫は廊下へ繋がる扉に向かい。取っ手に手を掛ける。
 そこで雪姫は思い出したようにジュウを振り返った。
「言い忘れてたけど」
 そう言って、あの悪戯な笑みを浮かべ。
「夜伽さ。ジュウ様が望むなら、お相手するからね?」
 それだけ言って扉を開け。ジュウが何か答える前に出ていってしまう。
「……あいつは」
 最後の最後でどっと疲れさせられた気気がする。
 残した台詞は考えないことにして、ジュウはまどろみの淵に身を浸す事を選んだのだった―。

続く

453:名無しさん@ピンキー
06/11/05 18:59:22 dC+XoSX/
最っ高っす!伊南屋さんGJっす!
ジュウ様が雪姫に押し倒されかと思ってしまいしてやられました 
 というか雪姫のアレは絶対に確信犯だw

454:名無しさん@ピンキー
06/11/05 21:28:01 JKlLs1Hx
王になっても総受け体質変わらないな、ジュウ様w

455:名無しさん@ピンキー
06/11/06 07:40:54 JaocUxLS
伊南屋さん……あんた神だよ……ひたすらに、GJ!!

456:伊南屋
06/11/06 19:31:13 pPyBBiTT
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅱ.
 夜の帳をランプの灯りが掻き消す室内。執務机の上、黙々とペンを走らせる音だけが聞こえる。
 その音の主は、常に王の傍らに控えていた少女だ。
 名を堕花雨という。
 本来は騎士団長であり、斬島雪姫同様この国の武の要であるはずの彼女が片付けているのは国政に関する書類の山である。
 元来は王であるジュウが片付けるべきものではあるが、雨が王直々に判断を下すまでもないとしたものは、代わりに雨がその裁量にあたっている。
 今は戦が終わったばかり、細々とした雑務から大規模工事。国の方針決定などするべき事は山とある。
 必然。雨が受け持つ仕事も多くなっている。
 暫くはろくに休めまい。そんな個人的な心配と、国に関するあることを憂い雨は小さく溜め息を吐いた。
「珍しいね。お姉ちゃんが溜息なんて」
 雨に茶を差し出し、雨の妹―光が声を掛けた。
 光は雨の側近として、せめてもの雑用くらいはと雨を手伝っている。そんな側近として、また妹として。稀に見る姉の溜息に心配をしたのだ。
 礼を言いながら茶を受け取り、雨は答えた。
「心配なの。この国は今、とてつもない勢いで大きくなっている。それは良いことなのだけれど……勢いが強すぎるの」
「どういう事?」
「国の基盤が整わない内に、否応なく巨大化しているのよ。このままでは細部に手が回らなくなって国が荒れるわ」
 事実、国政の人員配備は十分と言えず。辺境等は現時点でしても手が回りきっていないのが事実だ。
 雨の言葉通り、このまま国が肥大化を続ければ、いずれ国は瓦解してしまいかねない。
 雨はそれを憂いているのだ。そして「それに」と付け加え続ける。
「地方領主の中には国属を拒否する姿勢の者もいるわ。彼等を説得しなければ税の徴収もままならない」
 ―つまり、この国は肥大化の速度に追いつけず末端が機能していないのだ。
 生物は末端が機能しなければそこから壊死を始める。
 国も同様だと雨は考えていた。
 綱渡りなのはこれまでの戦以上に、国政の現状であった。
「幸いと言うべきか。ある地方領主が巨大な権力を有していて、そこさえ説得出来れば他の領主の多数も従えられるわ。
 だから近い内、そこへ説得に赴かなくてはならないわ」
 そこまで言って雨は二度目の溜息を吐いた。
「またジュウ様には苦労をかけてしまうわ……」


457:伊南屋
06/11/06 19:33:22 pPyBBiTT
「良いのよ、どうせ飾りの王様なんだから。こういう時くらい役に立ってもらわなきゃ」
「光ちゃん」
 光の言葉を雨が強い口調で遮る。
「あの方は決して飾りなどではないわ。たしかに今は未熟な王だけれども。いずれは、この戦乱の世を平定するに足る大器をお持ちよ。
 ……だからこそ私はあの方に仕えているのだから」
 そう強く語る雨の想いは真っ直ぐで。例え妹である光といえどそれ以上は何も言えなかった。
 雨は執務机に向き直ると。
「今日はもう遅いわ。光ちゃんは先に眠りなさい」
 と言って、自分は再び書類と格闘を始めた。
 光は無言でそれに従い寝室へと向かった。
 光が去り、雨一人となった室内。
 ただ、ゆらゆらとたゆたうランプの炎だけが、雨を照らし続けていた―。

続く

458:伊南屋
06/11/06 19:55:09 pPyBBiTT
『レディオ・ヘッド補足授業』

「作者が未熟なので本文で追い切れていない設定について補足する本コーナー。司会兼講師の堕花雨です」
「……早速だが質問だ」
「なんでしょうジュウ様?」
「前世の話なのに名前なんかが全く一緒なのは何でだ?」
「実は前世は言語体系など全く違う文明の国です。ですから前世は前世で名前があるのですが名前が違うと誰が誰か混乱する為に現世の名前を本文では用いています」
「なるほど」
「というのは建て前で本当は名前が思い付かなかっただけらしいですが。
 ちなみに私はレイン・フォールブルームと言う名前が用意されていたそうです。まんまですね」
「……」
「他に質問はありませんか?」
「はいはいはいっ!」
「雪姫、どうぞ」
「実際ジュウ君が治めている国はどんな国なのかな?」
「本文内の文明レベルは中世ヨーロッパ……という事ですが一概にそうは言えないようです。
 特にジュウ様が治める国は柔軟に他国の文化を受け入れ様々な思想、文化が入り乱れています。
 そのあたりは現代日本みたいですね」
「私の前世が侍頭だったり雨の前世が騎士団長みたいに色んな体系がごっちゃになってるけど?」
「それも上記の理由ですね。前世世界において戦国日本に似た国がありますからね。
 そこから大和式戦術とでも言うべきものを吸収したのでしょう、騎士団は昔からあったようです。逆に侍衆は最近出来た部隊ですね」
「お姉ちゃんが国政をやってるみたいだけどやっぱりアイツは飾りなんじゃないの?」
「それはやはり間違いですよ光ちゃん。実際、国政の深くに関わる部分はジュウ様が直に裁量を下しています。
 私の前世がやっているのはそれこそサインをするだけの書類や私が裁量を下しても問題にならない程度のものです」
「ふーん」
「さて、今日の補足授業はこの辺にしましょうか」
「まだ質問があるんだが……」
「いけません。あえて今回は一部ぼかした部分もありますからこれ以上突っ込んだ質問をされると作者的にはネタバレとなってしまいます」
「そ、そうか……」
「申し訳ありませんジュウ様」

「(伊南屋)と言うわけでレディオ・ヘッド リンカーネイション。今暫く……長くなりそうではありますがこれからも宜しくお願いします。次回はレディオ・ヘッド続きかリクエストになるかと思われます。それではまた。
 毎度、伊南屋でした」

459:名無しさん@ピンキー
06/11/06 20:13:43 P0artZud
伊南屋さんGJ!!
やっぱ雨はいいなぁ

460:名無しさん@ピンキー
06/11/06 20:30:25 N5GBwfk8
とりあえずヤンデレきぼん

461:名無しさん@ピンキー
06/11/06 20:32:14 OlzFrn1N
つまり一子×ジュウか

462:名無しさん@ピンキー
06/11/06 22:40:37 71PpLZ9I
>>461
お前
天才だな

463:名無しさん@ピンキー
06/11/07 09:03:32 DohaxYBN
すいません、私はジュウ様総受けを妄想してました

464:名無しさん@ピンキー
06/11/07 16:15:07 18HfMiCP
ジュウ様は何ていうか、あれだけ翻弄されまくりな御方ですから。
総受けが一番似合うでしょやっぱ。

頑張って果敢に攻めてくれれば、それはそれで萌えるけども。

465:名無しさん@ピンキー
06/11/08 20:41:25 +GJuawtp
押し倒される>必死の反撃頑張って攻める>やっぱり反逆で受け

これでしょう

466:名無しさん@ピンキー
06/11/08 20:45:11 xWuUjy8b
というか、あれだけ女性に攻められるのが似合う不良系主人公ってジュウ様だけだと思うの

467:名無しさん@ピンキー
06/11/08 20:46:11 jfS8zEbP
まあ見た目と喧嘩強い所意外はあんまり不良っぽくないし

468:名無しさん@ピンキー
06/11/08 20:53:19 yO4OEJU5
一巻で髪の毛染め直しちゃった時点で運命は決まってたようなw

469:名無しさん@ピンキー
06/11/09 11:33:50 kFQCxRh8
>>468
髪染め直してふふんどうだこれ?って顔で雨に見せに行くジュウ様きっとすげえ楽しそうな顔してたんだろうな

470:名無しさん@ピンキー
06/11/09 14:32:07 5BPiaiq6
そして見事に目論見が外れるジュウ様w 

 だけど、そんな所が貴方様の魅力なのです

471:名無しさん@ピンキー
06/11/09 22:17:52 WEHPJeyB
そんなジュウに萌えてきた俺は駄目人間か……orz

472:名無しさん@ピンキー
06/11/09 23:59:55 8krF+Q+8
人としてとても正しいです、と雨さんが肯定してくれるでしょう。

473:名無しさん@ピンキー
06/11/10 07:53:13 Krm+sSco
実際問題 
ハーレムと総受けは紙一重だと思うんだ。ジュウ様の場合

474:伊南屋
06/11/10 18:48:11 ekNWcoY5
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅲ.
「何故、私が……」
 がたがたと揺れる馬車。御者が、不服たっぷりに呟いた。
 森の中、殆ど野道のような通りを馬車が走っている。向かうは西方。とある地方領主の治める集落である。
 朝早くから城を出た馬車だったが今は日も暮れ掛けている。
 その長い時間。ジュウは御者が漏らす割と短い間隔で聞こえてくる呟きを聞き続けていた。
「しょうがないよ。騎士団長は国を離れられないんだしさ」
 今回の遠征に護衛として同行している雪姫がもう一人の同行者たる御者に慰めともつかぬ言葉を掛けた。
「私が交渉の同行をするのは良い。だけど国政は王にやらせて団長が交渉にあたればいいって言っているの」
 ぶっきらぼうに答える御者―騎士団副長・円堂円に雪姫は溜め息を交え言った。
「だから~……ジュウ様が直接交渉にあたる事で誠意を見せて少しでも説得を確かなものにする。そう雨に三回、私からは十回以上説明したよね?」
 道中何度もこのようなやり取りが繰り返されている。
 ジュウはそれを聞きながら、そう思うのも仕方ないかと思った。
 自分は未熟者。加えて円は自分を、いや男というものを嫌っている。
 雨が国政を行っているのだから雨に王権を譲れと、本気で迫られたこともある。
 と、そこまで考えて自分が敬意の対象になりえていない事実を思い出す。
 円然り、雨の妹の光も自分を嫌っている節がある。雪姫は友好的ではあるが、それは敬意には程遠い。
 唯一雨だけがはっきりと自分に対して敬意を払ってくれている。
 しかし、ジュウは第一に自分が敬意を払うに値する人間だとは思っていないので、この状況を別に悲観するでもなく受け止めていた。
「なにぼーっとしてんの? ジュウ様」
 遠く思索に耽っていた意識が引き戻される。
「なにか考え事?」
 覗き込み、訪ねる雪姫に対して、ジュウは事も無げにさらりと。
「お前達の事を考えてた」
 と答えた。
「……」
 暫くの沈黙。しかしそれは長く続かない。
「やぁーっだ! ジュウ様何言ってんの、やだ恥ずかしい~!」
 実に嬉しそうに身を捩らせながら雪姫がジュウをばしばしと叩く。
「そんな事さらっと言うからダメなんだよ~?」
 自分が言った言葉の破壊力に気付かず、ジュウはただ痛みを訴え戸惑うばかり。
「あ~ん、も~。雨や光ちゃんにも聞かせてあげたい~。ジュウ様ったら凄いカッコイい~」


475:伊南屋
06/11/10 18:49:29 ekNWcoY5
 異様な雪姫の反応にジュウは更に戸惑いを深める。
「……これだから男は」
 呟く円の棘のある言葉も、何故そんな事を言われるのか分からない。
「なん……なんだ?」
「ねえ、ジュウ様」
 戸惑うジュウなどお構いなしに雪姫がジュウに言った。
「今日一緒に寝よっか?」
「なんでそうなる!?」
「あ、一緒に寝たらむしろお互い眠れないかも」
「だからなんで!?」
「……優しくしてね?」
「いや、聞けよ!?」
「バカなこと言わないでよ。特に王」
「俺かよ!」
 そんな風にして一向を載せた馬車は西へ西へと進んでいく。
 馬車からは絶えず馬鹿馬鹿しい会話が漏れ聞こえたという―。

476:伊南屋
06/11/10 18:53:14 ekNWcoY5
 毎度、伊南屋に御座います。

 ぽつぽつと細切れに投下。読み手の皆さんはイライラしてるでしょうね。すみません。
 並列で書いてたリクエスト用より早く書き上がったのでまずはこちら。
 リクエスト用SSは明日、明後日中にはなんとか……って感じです。

 こんな感じでちまちま書いてます。後は書き手が増えると嬉しいな。
 以上、伊南屋でした。

477:名無しさん@ピンキー
06/11/11 13:42:12 JX/SO8Sd
堕花「ジュウ様、口を御開けください」
ジュウ「一人で食える」
斬島「ジュウ君ジュウ君柔沢君、あ~んしてっ!!」
ジュウ「せんから口に突きつけるな!!」
光「あの、その、えと、残したら勿体無いから全部食べなさい!!」
ジュウ「だったら皿がテーブルに乗り切らない量を作るなよ」
円堂「ま、誕生日プレゼントなんだから私が食べて手伝うわけもいかないし、
    残さず召し上がれ」
ジュウ「はあ、わかったよ、ありがたくいただくよ」




紅香「オイ馬鹿ムスコ、美少女を侍らせていい御身分だな。何処の王様のつもりだ?」
堕花「王様のつもりではございません」
紅香「なに?」
堕花「実際に王様なのです」
紅香「・・・・そうか」
堕花「はい」

478:伊南屋
06/11/11 17:03:53 Sca6bjxO
 幸せを願って。
 その為に努力した。
 そうして私は手に入れた。
 何を?
 ―分からない。
 今この手で掴んだものは。

 本当に“幸せ”なんだろうか。


『HAPPY(is the)END』


 生徒会室。
 一体何度踏み入っただろうか。
 自分は知っている。この中には今、一人しかいない。
 そしてその一人は自分を見て、どこまでも優しい笑みを浮かべ迎え入れるのだろう。
 扉を開く。足を踏み出す。視線は床。それを上げる。映る。少女。同級生の、少女。微笑っている。愛しい者を見る目。
「待ってたわ。柔沢くん」
 初めて会ったときとは違う。それは柔らかい声。蟲惑的な響き。自分の何かを麻痺させる毒。
 綾瀬一子。かつては反目しあい。今は、自分の恋人。
 一子が歩み寄る。ジュウも吸い寄せられるように近付く。
 距離が縮む。やがて零になり、接触。
 胸元に一子が頬を埋めた。柔らかな体温に安堵を感じる。同時に言い知れぬ不安も。
 いつからか繰り返されている逢瀬。その度にこんな気分になる。
 一子は縋るようにジュウを抱き締め、その身全体を擦り寄せる。くねる動き。男の中の獣を誘う動き。
 それに耐える。情欲を抑え込む。彼女はまだ望んでいない。その動きは無意識だ。まだ、抱き締めてはならない。
「今日のお弁当は私の番だね」
 そう言って、一子は二つの布に包まれた箱を取り出した。片方は水色。もう片方は桃色。
 弁当はジュウと一子が交代で作る。そういう約束だ。
「……ありがとう」
 食欲がないとは言えなかった。決して、言ってはいけなかった。
 布を解き、中の弁当箱を取り出し、並んで会議机に腰を下ろす。
 中は可愛らしい。女の子らしい弁当だ。御飯は桜そぼろでハートが描かれ、赤いウィンナーはタコの形。デザートのリンゴはウサギ。
 絵に描いたような弁当。美しいそれはどこか歪んで見えた。
「さ、食べよう?」
 笑顔で一子が促す。ジュウも手を合わせ「いただきます」と口にした。
 口に運んだそれらはどれも美味い。確かに美味いのに。どうしてだろう。吐き気がする。
 それでも全てを嚥下する。時折、互いに食べさせ合いながら。
 誰かが見れば、失笑とともに暖かい目を向けるであろう。幸せな恋人達の姿だったはずだ。
 一足先に弁当箱を空にして、今日の弁当が美味かった事を殊更強調して伝える。
 彼女は満面の笑顔に照れを浮かべ喜んでくれた。


479:伊南屋
06/11/11 17:06:05 Sca6bjxO
 こんな笑顔を見る度に思う。良かったのだと。これで、間違えていないと。
 ジュウも笑顔を浮かべる。
 浮かべた笑顔は歪になっていなかっただろうか。
 やがて、一子も弁当箱に若干中身を残し完食を告げる。ジュウはその残った分を代わりに食べ、両の弁当箱を空にした。
 暫く、会話に興じる。今日あった事。昨日のテレビ。何気ない世間話。どこまでも普通な会話。
 気が付けば、一子はジュウの手に自らの手を重ねていた。ジュウはその手を握り締めた。
「ねえ、柔沢くん」
 一子がジュウに顔を寄せ、口付ける様な距離で囁く。
「……好きよ」
 囁きながら、一子は自分の席から立ち、ジュウの膝元へ向かい合う形で跨る。
 若干ジュウが見上げる形になりながら、唇を重ねた。
 柔らかい感触がジュウを痺れさせる。粘膜を擦り合わせるようなキス。
 一子の手はジュウの首筋、鎖骨を緩やかに撫で回す。
 閉じられたままの唇が、くすぐったい様な甘い刺激に開かれる。
 一子が間髪入れずに舌を滑り込ませた。
 蕩けるような舌の愛撫。なにもせずとも舌が絡められ、一子の咥内に誘い込まれる。
 温かい。ぬるぬるとした咥内は一子の体温をダイレクトに伝えてくる。
 互いの唾液が溶け合い、舌と唇を伝い行き来する。
 甘いとすら感じるそれは極上の媚薬となってジュウを昂ぶらせる。
 昂ぶりはジュウの下半身を奮い立たせ、制服のズボンに膨らみを作る。
「ふふ、おっきくなったぁ」
 一子がそれを察知する。跨った腰をくねらせ、幾重の布地越しに互いの性器を擦り付ける。
「んっ……」
 一子が甘い吐息を漏らす。押し付けるような腰の動きは更に貪欲に刺激を欲し激しくなる。
 ジュウは下半身への刺激を一子に任せ、両手を一子のセーラー服の内側に潜り込ませた。
 腹、脇腹、あばら骨と指先は撫で上げ、そして胸に辿り着く。
 触れたそこは真っ先に肌の感触を伝えてきた。
「着けてなかったのか」
 問うジュウに、一子は顔を真っ赤にさせ頷く。
「そうか」
 それ以上何を言うでもなくジュウは胸への愛撫を始める。
 指先で捏ね、形を変え弄ぶ。
「ふ、はぁっ」
 一子から洩れる吐息は熱くなり、上半身、下半身それぞれから与えられる刺激に歓喜を示す。
 ジュウの指先はそれを更に引きだそうと、先端を摘み、捻る。
「く……んはぁっ!」
 痛みすら伴う強い刺激に、一子が示したのは快楽の調べだけであった。


480:伊南屋
06/11/11 17:08:41 Sca6bjxO
 くねる腰も一旦動きを止め。身を仰け反らせ快感に浸る。
 ジュウは掌全体で胸を掴み、ぐにぐにと揉みしだく。
 絶え間なく与えられ、変わり行く刺激に身を震わせて一子は溺れる。
 再び動き出した腰も、先よりも激しく擦り付けてくる。一子の下着を透かし、更に溢れる愛液はジュウの制服を濡らしていた。
 ぐちゅぐちゅと音を立て、ぬめった腰を滑らせ、擦る。
「ん……足りない」
 一子が呟いたかと思うと、彼女の両手は下半身に伸び、鮮やかな手際でジュウの性器を取り出した。
 性器に、それまで同様に腰を擦り付ける。
 幹に伝わるぬめりと布地の摩擦。
 その快感に応えるよう、ジュウは胸元への愛撫を強める。
 唇を片方の突起に近付け、舌先を伸ばし愛撫する。
 強く吸い付き、時に噛みちぎらんばかりに歯を立てる。
 一子の身が震える。
「かっ……あはっ、んぁっ! んはぁぁああ!」
 声を上げ、絶頂に身を戦慄かせる。
 ひくひくと震える体は熱く火照り。下着は更に愛液に濡れた。
 ジュウの下半身には下着越し、ひくつく一子の秘裂が感じられた。
 耐え難い。そう思ったジュウは片手を下半身に向ける。指先は下着。その秘裂を覆う部分に触れ、横へとずらす。
 露わになった秘裂へ、ジュウは自らを突き刺した。
「んはぁあ!」
 絶頂の余韻も覚めやらぬタイミングで貫かれた一子は更に身を仰け反らせる。
 がくがくと体は揺れ、焦点の定まらぬ瞳は天井を見るばかりだ。
 口の端からは涎が垂れ、締まりのない表情を更に際立たせている。
 白痴の様な表情とは裏腹に、下半身はジュウの動きに合わせ、妖しく蠢いていた。
 膣中は深くにジュウを誘う動きを示し、甘く締め付けてくる。
 ジュウはそこから与えられる刺激に耐え、がむしゃらに一子を突き上げる。
 一突きする度に愛液が溢れる飛沫を散らす。
 淫らな水音は大きさを増すばかりだった。
 ただ一心不乱に一子は腰をうねらせる。誘う動き。射精を促す。
 ジュウは耐える。耐えて、一子を翻弄する。跳ねる躯。抑え込み、深く突き刺す。
「あはっ! ひゃうっ、うんんっ!」
 白い喉を震わせ、一子が嬌声を上げる。その声を我慢し、一子が耳元に口を寄せた。
「ん……ふふ、私は幸せ……なのかな?」
 ジュウに何度となく浴びせられた問い。ジュウを責め苛む言葉。
「お前は幸せだよ」
 繰り返す。問われる度に。一子に言い聞かすように。自分に言い聞かすように。


481:伊南屋
06/11/11 17:11:48 Sca6bjxO
「うん……っ。しあわせ、だよぉっ」
 吐息に声を途切れさせながら。一子は言う。
 ジュウを縛り付ける言葉。
 一子が幸せを願う限り。一子が幸せを感じる限り。ジュウは一子を手放せない。一子もジュウを手放さない。
 絡みつく躯と心。繋がりは深く、致命的。
 ただ、ただ繋がる。それだけが証と信じて。
「あぁ……んっ」
 浴びせられる熱っぽい息は、ジュウの顔をくすぐり撫で、正常な思考を削り取る。
 狂っている。狂ったように踊る。身を重ね、狂楽に耽る。異常な愛情。依存する愛情。
 一つ貫く度に跳ねる一子の身体。肌に指を這わせる。
 柔らかい胸に指先を沈め、感触を楽しむ。
 なのに、その肌がぐずぐずに腐っているように感じた。
 一瞬の腐臭。
 フラッシュバック。
 母親。死体。腐乱。山道。遺棄。共犯。
 浮かぶ映像と単語。
 それらを掻き消す為に、遮二無二腰を打ち付ける。
「あっ! うぁっ……ん。いい、よぉっ。ゴリゴリってぇ!」
 叫ぶ一子の声も聞こえない。思考を停止し、ただ肉欲に堕ちる。
「ゴリゴリしてる。あんっ! ふかい……っよぉ!」
 身を震わせる一子。絶頂しているのだろう。何度も強い収縮を繰り返す。
 ひくつく膣壁は内に在るものから、中のものを差し出せとばかりに絡みついてくる。
 それでも耐える。
「ひゃぁっ! も……だめ、わけわかんないっ……ふぁあん!」
 ジュウの首筋にしがみつく。顔面に押し付けられる乳房に噛み付く。
 歯形を残すほど強く噛み締める。舌は乳首を弾き、潰し、回す。
「はぁぁああん!」
 痛いはず。なのに漏れるのは歓喜の声ばかり。
 そうだろう。彼女は思い込めばそれが全て。与えられるねは快感だけと思えば、痛みなど感じない。
 全ては思い込み。
 それを知ってなお、ジュウは快感を与える事に従事する。
 強く、強く打ち付ける。叩きつけられる恥骨が僅かに痛む。構わない。更にぶつけるように突く。
 激しく痙攣は止まない。与えられる刺激は強く。恐らくもう長くは持たない。
「そろそろイク。良いか?」
 問うのは義務感から。答えはいつも決まっている。
「あぁっ……いいよ。来て、中に……あはっ! 膣中に、出して。全部出してよ……んはぁっ! あんっ、わたしの中。いっぱいにして。白いので、ぜんぶっ! ひうっ! あくっぅ……。出して! 出して、出して、出してだしてだしてぇ!!」
 分かっている。

482:伊南屋
06/11/11 17:13:32 Sca6bjxO
 ジュウは応えるようにラストスパートをかける。激しく打ち合う腰は水気のある破裂音を響かせる。その間にも一子は何度目だろう。絶頂に達し、ジュウを甘く、甘く締め付ける。
「くっ……!」
 限界、刹那に溢れ出す精液。どくどくと一子の膣中に溢れる。一番深く。子宮口のその向こう。
 一子の痙攣する膣中も、精液を奥へ運ぶための蠢きを見せる。
「あはっ……いっぱぁい」
 一子は自らを満たす感覚に笑った。
 ジュウは知っている。一子が自分との子供を望んでいると。その為に膣中に射精させるのだと。
 なぜなら。子供が出来るというのは、分かりやすい幸せの形だから。幸せに貪欲な一子はそれを望んでいる。
 高校生だから等関係無く。幸せの形を手に入れたがっている。
 しばらく、繋がったまま一子は自らの下腹部を撫でていた。祈るように。まだ見ぬ子供を幻視して。
 一子の瞳は、慈母のように穏やかだった。
 穏やかに、狂った輝きを放っていた。

 きっといつか。自分達の子供が出来るだろう。一子はそれまで諦めない。
 そうして自分は、柔沢ジュウという人間は綾瀬一子の描く幸せの部品として消耗される。
 パズルの一ピースのように。全体のたった一ピース。
 それで良い。そう思い込む事にしたのだ。一子のように。
 ただ目の前のものを即物的に選んでいく。
 それが幸せだと信じて。
 幸せだと思い込んで。
「大好きよ。私の、私だけの柔沢くん」
 一子が呟いた。

「―幸せにしてね?」


fin.


483:伊南屋
06/11/11 17:17:41 Sca6bjxO
 毎度、伊南屋に御座います。

 微妙にリクエストのあったジュウ×一子のヤンデレです。ヤンデレになってるかは微妙。
 鬱々した雰囲気を出すために文体変えましたがかえって読みづらいかも……。
 そこんとこは未熟者故と思って多めに見てください。

 次回はレディオ・ヘッド続きにしようか別なリクエストにしようか悩み中。どっちが良いとかあったら言ってください。
 以上、伊南屋でした。

484:名無しさん@ピンキー
06/11/11 17:23:09 tj9XmEXT
>>477
紅香納得しちゃったよオイw

>>483
うん、何て言うか病んでる感じが凄くよく出てる。
てかどんどんと片山世界を書くのが上手くなってると思う。
GJでした>伊南屋氏
次作は、円ものがいいかなあ……。

485:名無しさん@ピンキー
06/11/12 12:28:42 iBp2ekVF
毎度毎度、伊南屋さんすごいですね!!神以外の何者でもないですよ!!一子好きになっちゃいました!!
自分も円をリクしますm(_ _)m

486:名無しさん@ピンキー
06/11/13 00:10:43 3KHT1ygL
貴方はやはり神だな。
もうなんていうか神だな。ヤンデレスキーな俺にはこれ以上無いくらいの良作ですた!

リクは……やっぱり円かな?

487:名無しさん@ピンキー
06/11/13 00:53:42 J76oRD+G
レディオの続きが気になって仕方がない、今日この頃。久しぶりですよ、続きが気になる読み物は、ですので続きをお願いします。

488:名無しさん@ピンキー
06/11/13 02:04:15 ajOvcVlz
何だこの微妙に自演臭い円リクは…www
まあ円も好きだから良いけどさ

個人的にはレディオは息が長そうだし、
雨辺りのリク消費をお願いしたいところ

489:名無しさん@ピンキー
06/11/14 23:20:38 cy0/c2hW
確かにwwwwww

まあリクに異存は無いが。

490:名無しさん@ピンキー
06/11/14 23:35:18 lD4PeQp1
単純に雪姫、光、雨らは既に書いてるから、って事じゃね?

491:名無しさん@ピンキー
06/11/17 02:30:32 oeA7nAQQ
それにしても、片山世界は本当に男キャラが少ないよな

492:名無しさん@ピンキー
06/11/17 08:53:19 63Vn5dBt
まぁ男キャラ出す意味があんま無いと思うけどな 
 
それでも紅は電波と比べると結構出ていると思うが?イラストが無いから影が薄いかもしれんがな……

493:名無しさん@ピンキー
06/11/18 10:59:12 13O+gqu3
竜士とか、フランクとか、騎馬とか、法泉とかー?

……いや、竜士は何気にイラストあるんだよな。

494:名無しさん@ピンキー
06/11/18 21:34:36 reOI8HAm
紫×しんくろーのこりゃペドい組み合わせで一つ

495:名無しさん@ピンキー
06/11/19 19:27:52 RQ9PAyXL
むしろ和むほのぼの物の方が………。

496:名無しさん@ピンキー
06/11/19 22:40:02 vPfD2N43
いい加減なシチュでジュウ×円を書いてみる


 ジュウがその日、全く無目的に立寄った公園でたまたまそんな状況に遭ったのは全く偶然であった。
 すなわち、彼の「友達」の一人である円堂円が所謂不良の集団に絡まれているという全く既視感を覚えるような
状況であり、むしろそこから二人で共闘して哀れな獲物たちを完膚なきまでに叩きのめした所まで含めてお約束
と言えるかもしれない。
 しかしながら往々にしてイレギュラーとは起きる物であって。

 「捕まえたぞ!」
 「っ!」
 自分の担当側の最後の一人を倒した所で、突如背後から聞こえた叫びに振り返ると、先程自分が倒した一人が
何時の間にか起き上がって、鼻血を垂らしながらも円を背後から羽交い絞めにしている所だった。加減しすぎたか
、とジュウは舌打しながら駆け出す。
 もがく円だが、流石に組み付かれると体格差のせいで動きが封じられてしまっているようだ。
 と、その前でフラフラと立ち上がる円に腹を打たれ蹲っていた男。その目は怒りに燃えて血走り、そしてその右手
には特殊警棒。それが大きく頭上へと振り上がり、そして……激突!
 間一髪、円を背後の男ごと突き飛ばして割り込んだジュウは、その瞬間、頭部への衝撃と同時に目の前に火花が
明滅し、意識が暗くなりかけたが、何とかこらえて手を泳がせ、とりあえずそれに当った物を掴んで踏み止まった。
頭を一つ振って未だチカチカとする視界に自分の手を捉えてみれば、その掴んでいるものは正しく今自分の脳天へ
と振り下ろされた凶器と、それを掴む男の手。それをゆっくりと上へ辿ると、やがて呆然とした男の顔に行き当たった。
 ニヤ、と凶暴な笑みを浮かべる。
 今度こそ男の顔が恐怖に歪むのを確認する暇もあらばこそ、ジュウの全力を込めた拳は、確かに歯を砕く感触と
共にその真ん中へと叩き込まれていた。
 そしてそのまま、ガクリ、と前のめりに膝をついた。背後からは、倒れて体制が崩れたのを利用して戒めを解いた
のだろう円が、自分の名を呼びながら駆け寄ってきていた。

 「なあ、もう大丈夫だって」
 「いいからじっとしていなさい」
 “下から見上げながら”抗議するジュウにも構わず、円はそう言ってそっと彼の額に手を当てた。そのひんやりとした
感触が心地よくて、思わずジュウは目を閉じた。
 あれから、円はジュウに肩を貸して、先程の場所から少し離れたこの小さな公園にやって来た。そして自分のハンカチ
を水で濡らしてジュウの頭の血を拭いてくれたのだが……。
 「あなたが丈夫なのは知ってたけど、特殊警棒で殴られてこの程度の怪我で済むなんてね」
 「だからもういいって。もう血も止まってるし」
 前には金属バットでぶん殴られた事だってあるしな、とは流石に言わなかったが。
 「頭部への怪我は一見大丈夫に見えても後でどうなるのか分からないのよ。きちんと病院へ行って検査しなさい。代金
はこっちで出すから」
 からかいではなく真剣な面持ちで諭す円に気圧されながらも、ジュウは費用については丁重に断る。が、円は何故か頑
として譲らない。なんとなく、自分に借りを作っておきたくないのだろうか、と判断して、少し寂しいような気持ちになりながら
もジュウは引き下がった。
 「……」
 「なあ」
 不意に落ちた沈黙になんとなく話題を探したジュウは、とりあえずさっきからの疑問を口に出した。
 「なんで膝枕なんだ?」

497:名無しさん@ピンキー
06/11/19 22:41:09 vPfD2N43
 「嫌だった?」
 照いも無く、平然とこちらを見下ろしながら聞く円に、なんと答えればいいのやら、ジュウは口篭もる。いきなり力ずくで
頭をベンチに座ったそのしなやかな太腿の上まで持っていかれた時に感じた気持ちや、今こうして存外に柔らかいその
感触を感じているのは正直嫌な気分とは程遠かったけれど。
 「まあ、私みたいな男嫌いの空手女よりは雪姫や雨に膝枕された方が柔沢君もそりゃ嬉しいだろうけど。無いものねだ
りは良くないわ」
 「いや、ねだってねえよ」
 なんだかコイツは一体自分をどういう目で見ているのだろう、と心中不安に感じながら、人が通らないかを気にしてみる
。幸いここは表の通りからは奥まった所にあって、入り口の木と藪で視界も遮られてあるので、この状況を他人に見られ
る心配はあまりないようだ。
 とりあえず忠告を聞いて大人しくしておくか、と思い直し、何とは無くぼんやりと円の顔を見上げた。改めて見ると、綺麗
な顔をしているんだな、と思う。冷気すら漂わすような整った面長の顔。鋭く、深い輝きを放つ切れ長の黒い瞳。短く整え
た髪型のせいで一見すると美少年にも見えがちで、しかし柔らかな晩夏の木漏れ日を浴びてそっと目を閉じた彼女は
まるで白石の彫刻の様な女性的な美を感じさせた。
 思わず見とれていたジュウの視線を感じたのか、円が瞼を上げた。ハッとして、ジュウはつい目を逸らす。
 「どうかしたの?」
 「いや、なんでもない」
 気恥ずかしくて顔も見れないまま、ジュウは答えた。いつも開けっ広げで大胆な雪姫などとは違い、氷のような円に「女」
を感じてしまった事で、妙に恥ずかしさが湧き上がってきて、そうなると何かもうこの状況が一刻も耐えられないような気持
ちになってきて、
 「あの、もう、ホントに大丈夫だから、もういいぞ」
 「そう」
 今度は存外に素直にそっと手をどけた彼女に不審がる余裕も無く、ジュウは身を起こすと手早く立ち上がった。
 「じゃあ、とっとと病院行くか」
 「そうね。家の関係の所なら安く済むし、色々と話が付けやすいから案内するわ」
 「ああ、すまねえな」
 「私の方から言い出した事よ」
 こちらを一顧だにせずにそう言い置いてサッサと先に立ち歩き出す円は、既にすっかりいつもの彼女だった。


今日はここまで。続きはまた今度。

498:名無しさん@ピンキー
06/11/20 07:15:23 r7au2UVr
うーんGJ!!
続き待ってるよー。全裸で。

499:名無しさん@ピンキー
06/11/20 10:30:11 fY6Sojm/
そして円堂さんは王様の金属バットをくらうのです

500:名無しさん@ピンキー
06/11/20 19:46:48 os+Ryvxa
やらしい

501:名無しさん@ピンキー
06/11/23 02:14:10 qltEXOSj
夕乃さんにムラムラする日々

502:名無しさん@ピンキー
06/11/23 08:16:33 OoR/LLCe
そういえば紅のハーレムってまだないよな?

503:名無しさん@ピンキー
06/11/23 14:56:15 HTUThMSV
どいつもこいつも嫉妬深そうな上に戦闘手段というか外敵排除能力を装備してそうだからなぁ。

504:名無しさん@ピンキー
06/11/23 18:45:03 F4zqrmO6
真九朗さんどいてください その女を殺せません

505:502
06/11/23 21:35:30 OoR/LLCe
嫉妬とかそこらへんは上手く真紅郎がまとめてさ。イッてもイッても終わらない快楽地獄、みたいなw

506:名無しさん@ピンキー
06/11/23 22:30:33 pP9kWAW3
逃げてー、真九朗さん逃げてー!!

507:伊南屋
06/11/25 14:13:35 0v0a0v87
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅳ.
 夜―。
 辺りは暗く。月は隠れ、地を照らすのは星灯りだけ。
 重い緞帳を落としたような闇の中、一向の馬車は足を休まざるを得なかった。
 予定していた街に辿り着けず、仕方無く街道の脇で野宿をする事になった。
 焚き火の爆ぜる音、橙の炎を囲み、三人は腰を下ろしていた。
「下らない足止めを食ってしまったわね」
 呟いたのは円だ。つい数刻程前の出来事を思い出し、忌々しげに毒づく。
「山賊なんて、数ばっかり揃えた烏合の衆に時間を取られるなんて……」
 円は最後に、これだから男は。と付け加えた。
「数ばかり居て手間取るんだよね~。ましてやこちらは三人しかいないし」
 応えて呟いた雪姫に、ジュウが反論する。
「……なんで俺が頭数に入ってるんだ」
 言ったジュウは、所々にかすり傷が目立つ。先の襲撃ではジュウもその身を危険に晒しながら戦ったのだ。
「良いじゃん、戦争の時だって前線にいるんだし」
「まあ……それはそうだが」
 しかし、だからと言って一応は王なのだ。その辺の三流武人に遅れは取らない、ましてや山賊なら楽に倒せる程度には戦えるとは言え、それも精々が一対三あたりまで。
 それ以上となればある程度は捨て身になり、それなりの怪我は覚悟しなければならない。
 今のように、十五人を相手に一人当たり五人などと言って、更にその五人を倒しても、無傷で息一つ上がらない円や雪姫とは訳が違うのだ。
 それでも、そこまで口にしないのはジュウの、プライドや意地と呼ばれるものからだった。
「ただ、一つ気になるんだよね」
 珍しく声に真剣さを帯びさせた雪姫が言った。
「あいつら、山賊にしては動きが整いすぎじゃなかった?」
「それは私も感じたわね」
 雪姫と円は、山賊の動きがそれらしからぬ事に気付いていた。
 それ自体はおかしくはない。敗戦国の残党が徒党を組んで山賊行為に走るのはよくある話だ。それならば山賊でも統制の取れた動きは納得がいく。
 しかし、二人は更に彼等の動きが妙に戦い慣れたものであると思った。
 しかも、それはエリート兵卒の、研ぎ澄まされた刃のように洗練された動きではない。
 むしろ、使い慣らされた鉈のような、野戦に合わせた動きであると感じた。
 そんな戦い方をするのは大方、傭兵と呼ばれる人種だ。
 しかし傭兵ならば、この戦乱の世。戦争のある国に雇ってもらい、そこで戦った方が収入は多い。


508:伊南屋
06/11/25 14:17:18 0v0a0v87
 つまり、傭兵ならばわざわざ山賊に身をやつす必要はないのだ。
 となれば、考えられる事は限られてくる。それは例えば―。
「山賊に見せかけた、私達を狙っての襲撃?」
 円の弾き出した答えもその一つ。ジュウと領主の会談を快く思わないもの。もしくは領主その人からの差し金か。
 いずれにせよ会談を阻止せんと何者かが暗躍している事になる。
「もしくは、なんらかのトラブルのとばっちりを受けたって所かな?」
 雪姫の答えもまた、可能性の一つ。狙いは自分達ではなく他の誰か。
 その理由が何にせよ、自分達はただの巻き添え。
 もっとも、これらの答えのどちらかが答えだとすれば、いずれにせよ不穏な気配は変わらない。いつ再び襲われないとも限らないのだ。
「まったく……今日は寝ずの番でもするか?」
「そうね、呑気にキャンプ気分で野宿って感じではないわ」
「じゃあ三人交代ね。出発は日の出と共にしよう」
「って、また俺が頭数に入ってるのかよ」
「当たり前でしょ。自分の身は自分で守りなさい」
 あっと言う間に段取りが定められる。
 ジュウが反論する間もなく見張り番も定められた。
 もっとも、ジュウも反論する気はさしてないので不満はない。第一、一応文句は言ったがどの道見張り番はするつもりだったのだ。
 焚き火を消し、最初の見張り番となった雪姫を残し、ジュウと円は馬車の幌に入り、眠る事にした。
「なんかしたら殺すわよ」
「なんもしねぇよ」
「ジュウ様、私と一緒の時は襲って良いからね!」
「見張ってろ!」
 一通りツッコミ終えたジュウは、何事もなければ良いと、切実に願いながら眠りに落ちる。
 月を隠す雲はさらに広がり、星も隠し始めている。
 更に闇は深くなりつつあった―。

509:伊南屋
06/11/25 14:21:11 0v0a0v87
 どうも二週間ぶり、伊南屋にございます。

 今回はレディオ・ヘッドⅣ.になります。なかなか話が進まなくてスイマセン。次ではキャラ増えますんでお楽しみにして頂ければ幸いです。

 そして消化率悪い癖にリクエストは相変わらず取ります。
 そんな訳で伊南屋でした。それではまた。

510:名無しさん@ピンキー
06/11/26 00:27:16 z/C6r8j6
うほっ 伊南屋さんお久しぶりのGJ!!!
相変わらず飛ばしてますなーw
なにはともあれ新作乙でした。続きも楽しみにしております

最近ここ読んでて円もありかと思い始めた俺ガイル orz

511:名無しさん@ピンキー
06/11/26 19:39:59 hCmu9Dqg
伊南屋さん乙です
しかしやっぱり円はフラグを起こしにくいキャラですよねw
男嫌いもありますが、何を考えているか一番わかりませんし……


512:伊南屋
06/11/26 21:10:32 OZntjXEf
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』
Ⅴ.
 闇の中、なお影に沈む森を駆ける足音。息荒く、地を踏みしめる足はただ前を目指す。
 より速く、より遠く。逸る気持ちは汗を滲ませ、心の中で焦れていく。
「くそっ!」
 漏れるのは悪態。苛立ち紛れの、誰に向けたわけでもない言葉。
 いや、向ける人間はいた。今、一歩でも遠ざかろうとする追手。
 どれくらい引き離したのか。振り返る事は出来なかった。
 まるで、すぐ後ろ。肩に息が掛かるほどの距離に、敵がいる気がして。
 違う。耳にかかる息は、背に負った少女だ。自分が守ると決めた少女だ。敵じゃ、ない。
「もうすぐ、街道だ……」
 街道に出れば、後は領主を頼る為に街道を進むだけ。そうすれば、或いはこの少女を救えるかもしれない。
「見えた……っ」
 闇の中に浮かぶ、僅かに薄い闇。常人には気付けない明度の差から、森の出口を悟る。
 一息に駆け抜ける。壁のような左右の樹が消える。現れるのは、雲に覆われた空。
 闇から闇に出た。
「っはぁ!」
 足を止める。まだ走れる。なのに足は震えていた。
「こんな時にっ!」
 膝を叩きつけ、頭を上げる。見えたのは馬車。
「こんな所に……?」
 何故、馬車が。いや、それよりこれは天の助けかも知れない。
 乗せて貰えれば自分の脚より速く、領主の下へ向かえる。
 幌の中で野宿をしているだろう主に声を掛けようと歩み寄る。
「大丈夫なのか?」
 背から、声。心配そうに少女が呟いた。
 言われて気付く。先回りした追っ手かもしれない。気付いて身が強張る。一度は止まった震えがぶり返す。
 その時、風が吹いた。
 風は雲を運び、雲の切れ間を作る。
 そうして月が夜空に曝された。
 月光に浮かび上がる。馬車の傍らに佇む人影。
 朧気な人影は女性のものだった。
 その姿は段々とはっきりし、少女の姿を象る。
 そして、少女は言った。
「君、如何にも普通じゃないけどさ……」
 笑みを浮かべ。
「君は敵かな?」

 ***

「君は敵かな?」
 雪姫は、森の向こうから現れた人影に向かって言った。
 丁度、雲の切れ間から月灯りがその姿を照らす。
 自分達と同年代だろう。
 どことなく、初めてとは思えない雰囲気を感じる少年だった。
 その背には、まだ十にもなっていない、精々が七つか八つの幼い少女。
 二人とも何かに怯えているようだ。
 少なくとも自分と、それ以外の何かに。

513:伊南屋
06/11/26 21:12:43 OZntjXEf
 答えない少年に、再び雪姫は尋ねた。
「君は、敵なのかな?」
「……それはこっちの台詞だ」
 強がり。雪姫には分かる。その態度が虚勢だと。しかし、だからと言って油断することはない。気を抜けば、急鼠猫を噛む。手痛い反撃を喰らいかねない。
 何故ならば、少年の怯えた雰囲気とは裏腹に、佇まいには隙がない。闘いと言うものを知っている者の姿だ。
 ならば虚勢はそうと悟らせる芝居。油断をさせる構えか。
 故に雪姫は穏やかに応えた。
「多分、敵じゃないと思うよ。私達はここの領主に仕事で会いに来ただけだし。昼間、山賊だか傭兵だかに襲われたから一応警戒してるんだ」
「山賊……?」
「分かんないけどね。事実としてあるのは、私達が襲われたって事だけ」
 少年はしばし思案して問いを返した。
「その中に、無駄にえばり散らした奴と両腕にガントレットをしたデブを見なかったか?」
「随分な言い方だね。……見てないよ。少なくとも私達を襲った連中にはね」
「そうか……」
 再び思案に耽ろうとした少年を、雪姫は制する。
「今度はこっちの質問に答えてよ」
「……答えられる事なら」
「うん、じゃあ追われてるんだよね? なんで追われてるの?」
 少年は背負った少女を振り返る。暫くそうして考えたのだろう。再び雪姫に向かい答えた。
「悪いが、答えられない」
「う~ん、そっか……。じゃあ理由は良いとして、誰に追われてるの?」
「悪いがそれも……」
「困ったな~。こういう時に雨が居れば効果的な質問が出来るんだけど」
 呟きながら腕を組み頭を傾げる。
「ん~……じゃあ名前、名前は? あ、あたしはね雪姫って言うの」
 少年は一転して無関係になった質問に目をぱちぱちさせた。
 余程拍子抜けしたのか口まで開いている。
 少女は自分でそれに気付き、慌てて表情を引き締めた。
 そうして、少年はようやく質問の答えを一つ答えた。
「俺は、真九郎。紅真九郎だ」

 ***

「紅真九郎くんか……」
 雪姫と名乗った少女は真九郎をまじまじと見つめながら呟いた。
 その視線にどこかくすぐったいものを感じてしまう。まるで品定めされているようだとも思う。
「それで、その娘は?」
 視線が真九郎の背後に移る。肩越しに少女達の視線が絡んだ。
「真九郎、降ろしてくれ。このまま名乗るのは失礼にあたる」
 その言葉に従い、背中から降ろしてやる。しっかりと確かめるように足を踏み締める。


514:伊南屋
06/11/26 21:16:09 OZntjXEf
 彼女はずっと負ぶわれていたので久方振りの地面なのだ。
「しっかりした娘だね」
 微笑みを浮かべる雪姫。その一瞬、真九郎はあることに気付く。
「私は……」
 今まさに名乗らんとする所を、真九郎は遮った。
「こっ、この娘は俺の妹で紅……紅紫だ」
「真九郎?」
 振り返り、訝しげな表情を浮かべる少女に、真九郎はしゃがみ込み耳を寄せる。
「……お前の名字は出さない方がいい……」
「……相手は悪い人間ではない。真九郎も分かるだろう?」
「……それでもだ。お前が九鳳院の人間だとは悟られない方がいいんだよ」
 真九郎の言葉に一応の納得をしたのか、紫は不承不承頷く。その渋い表情も一瞬で消し去り、改めて名乗った。
「紅……紫だ」
「紫ちゃんか、よろしくね?」
「……よろしく」
 雪姫と紫、互いに微笑みを浮かべる。割とこの二人、仲良くできそうだ。
「さて……次の質問と行きたい所だけど」
 雪姫が言った。
「ちょっと長話が過ぎたかな?」
 言葉と同時、気配。
「なっ……?」
 気配の数は、二十前後か、取り囲むように配置され逃げ場はない。
 驚くべきは今の今まで存在を察知させなかった手腕。一人一人が手練であると分かる。
「山賊まがいの傭兵に、隠密暗殺部隊。どうやら予想は私が当たったみたい。……嬉しくないけどね」
 雪姫が真九郎には分からない言葉を漏らす。溜め息を一つ吐くと馬車の中に居るらしい仲間を起こす。
「起きて! ジュウ様、円! 敵襲!」
 中に声を掛けると真九郎の方へ向き直る。
「紫ちゃんを馬車の中に!」
「あ……ああ!」
 急ぎ、紫の手を引き馬車に駆け寄る。辿り着くと、馬車の中に紫が引き込まれる。
 入れ替わりに出て来たのは、金髪の少年と、ショートカットの少女。
「……誰?」
 本当に眠っていたのか疑いたくなる程はっきりと少女が雪姫に尋ねる。
「説明は後、こいつら片付けてからね」
「また、戦うのか……」
 金髪の青年はいかにも起き抜けといった風情で、欠伸を噛み殺している。
「ほら、しゃんとする!」
 雪姫に言われ、背筋を伸ばした少年に、真九郎は何か近しいものを感じた。
 似た者同士の共鳴というか、とにかくそういった物を。
「さあ、来るよ!」
 雪姫の声に、真九郎は身を緊張させる。
 包囲の輪は狭まり、戦闘態勢は完成している。
 刹那の静寂。
 風が吹いた。
 それを合図にそれぞれが駆け出す。
 闘いが、始まった。

515:伊南屋
06/11/26 21:22:18 OZntjXEf
 毎度、伊南屋にございます。

 いやね、こんな早く書けんなら書けよって話ですよ、はい。
 今回で紅キャラ二人が登場しました。多分これからも増えます。あのキャラをあのポジションでみたいなのは考えてありますんで。

 なんとなく半端な所で切れましたが本日はここまで。
 それではまた、と言うことで。
 以上、伊南屋でした。

516:名無しさん@ピンキー
06/11/26 21:26:29 aLCbOCds
主人公二人揃い踏みか。確かに女難の相は相通じるものがあるなw
とまれGJですた。


517:名無しさん@ピンキー
06/11/26 21:44:10 HuwhqZrJ
電波と紅の世界間の時間軸ってどうなってるんだろ。
俺の妄想では電波は紅の10年後ぐらいの話だと思ってるんだが、何となく。
もしそうだとすると紫は17歳の女子高生。
で、真九郎は26歳。
………………これはアリか?いや、アリだな、うん。



アリだよな!?

518:502
06/11/26 22:51:44 pThyoOw+
俺の考えだと15年くらいかな?
真紅郎が紅花に「お子さんはどうですか」的な話しをしていたからジュウが産まれてそんなに経ってないように思える。
でも産後そんなにないならないで色々と小さな矛盾が出てくるし…………作者よ!!早く「電波」と「紅」を繋げてくれ!!!!

519:名無しさん@ピンキー
06/11/27 02:35:29 +EHVK97V
授業参観がどうとかって話してなかった?
だから「紅」時、少なくともジュウ様は小学校には入ってるんでは。
光と円の道場(?)のこともあるし。
まあ「紅」は二冊共一度通読したきりなんで記憶あやふやだけど。

というか、何で当たり前のようにジュウ「様」なんだ自分。
まあでも珍しいことじゃないよね。

520:名無しさん@ピンキー
06/11/27 02:38:05 +EHVK97V
いけね、書き忘れ。連投失礼。

伊南屋さん、例によってGJです。
やっぱり楽しいなあこれw

521:502
06/11/27 07:10:06 dWdj+4dU
そうすると、紫とジュウが同い年の可能性が高いな~

522:名無しさん@ピンキー
06/11/27 07:55:05 WUjO6jtg
俺も同い年だと思ってる
理由は
・環さんのセリフで道場に光と円が通っている→早くて小学校低学年。これは紫と同じくらい。
・先述の通りジュウ様も父兄参観がある。
・電波に転校生などとして紫が出て来て欲しかったりする。
上記の理由で推理した。

523:502
06/11/27 12:17:46 dWdj+4dU
紫が転校してきたりするってことは、騎場さんも必ず登場するってことじゃない?かなり面白そうw
真紅郎が26って銀子も26…夕乃が27…さて、「紅」メンバーはどうなるんだろ………

524:名無しさん@ピンキー
06/11/27 16:06:15 rx+7ZwsW
そういう話は
片山憲太郎 「電波的な彼女」 「紅」12人目
スレリンク(magazin板)l50
でやろうじゃないか。

525:502
06/11/28 06:58:32 OzfsVxP5
スマソ

526:名無しさん@ピンキー
06/11/30 02:39:12 rVRPp7V4
>>524
しかし、高校生真紅郎と小学生電波三人娘や、
社会人夕乃さんと高校生ジュウの絡みとかの話題はこっちじゃ無理だ

527:名無しさん@ピンキー
06/11/30 08:45:44 cjAEeiUo
そうかなあ。
あの本スレは結構何でもありな印象があるよ。
(本気かネタかはこの際措いても)おおっぴらに幼女ハァハァもしてるし。

偉く伸びてると思ったら荒れてたりするし、そう云う意味では、
(ちょっと話ズレるけど)少なくとも自分には、
こっちの方が落ち着いててマターリ色々話せる感じがするんだけどなあ。

528:名無しさん@ピンキー
06/11/30 08:51:03 SgISV+pq
同意

529:名無しさん@ピンキー
06/11/30 19:38:18 IkS3VtKa
>>572
だがスレ違い

530:名無しさん@ピンキー
06/11/30 20:05:01 MkpZZIky
別にいいんじゃないの?
伊南屋氏のSSで電波と紅のキャラが共演する事になって、要はその延長線の話題なんだから

531:名無しさん@ピンキー
06/12/01 19:16:32 x3Vj2Vfn
そんな事より、皆でwktkしてようぜ。

532:名無しさん@ピンキー
06/12/03 21:15:12 f9MfJ/8K
土日なのに誰も来なかった件について

533:伊南屋
06/12/03 21:37:36 7YYS353k
 五月雨荘。そこは世間から隔絶された異空間。
 まるで、そこに住まう者を隠すかのように存在する、不可侵の領域。
 世と地続きであり、世と関係しない場所。
 なればこそ、そこでは背徳が侵されるのか。
 人の目の届かぬ、禁裏のような場所。ここはそういったものなのかもしれない。

紅・異伝『宵闇』

 紅真九郎は、幼女趣味ではない。それは真九郎自身が下した自己評価であり、事実として、幼い少女に劣情を持つ事はなかった。
 それは過去形で表される事実。即ち、かつては。の話。
 その、かつての自分。ほんの数週間前の自分が、今の自分を見たらなんと思うか。
 下劣、畜生、汚物。
 どんな悪口雑言でも足りない。
 殴り、蹴り、襤褸雑巾のようにしても足りない。
 自分は、守ると決めた少女を、この手で穢した。
「しんくろぉ……」
 仰向けに横たわる自分、その胸の上から声がした。
 目をやれば、蕩けたような表情の紫がいる。
「紫……」
 その頬に手を添えると、紫はその指先を、可憐な淡い唇に挟み、舌を這わせた。
 ぞくりとする感覚。
「ん……」
 微かな声を漏らし、紫が身体を上下させる。
 それに合わせ、真九郎の下半身に熱い快感が広がった。
 姿勢だけ見れば、跳び箱に失敗し、それでも箱を越えようともがく姿に見えなくもない。
 しかし、それは違う。
 一糸纏わぬ互いの身体は、性器で繋ながれている。
 紫が身体をくねらせる度、接合部からは粘着質な音が真九郎の耳に届いた。
「紫……苦しくないか」
「大……丈夫だ。はぁっ、しんく……ろ」
 言葉の中途。ぐい、と腰を押し上げる。真九郎の男根が紫の身体にねじ込まれ、狭すぎる膣道を押し開く。
「かはっ……! あぅあ……っ」
 悲鳴のような声。
 悲鳴では、ない。
 証に、奥深くを貫かれた紫の顔は淫らに崩れている。そこに痛みに耐えるような表情は見てとれない。
 長い黒髪を振り乱しているのは苦痛だからではない。
 自分の内の快楽に打ち震えているからだ。
 ただでさえ狭い紫の膣口が、きゅうっ、と切なく締まる。
 真九郎はきつく締め上げられる感覚に腰を震わせた。
「真九郎……きもち、い……いか?」
 途切れ途切れに紫が尋ねてくる。蕩けた瞳は真直ぐに真九郎を見つめてきた。
 真九郎は問いには答えず。紫の、わずかな膨らみもない、まさにまな板のように薄く平坦な胸を愛撫した。


534:伊南屋
06/12/03 21:39:41 7YYS353k
 膨らみはないので、乳房と身体の境目がない。故に性感帯としても未発達なその部分の中、唯一敏感な部位である乳首に触れる。
 既に堅く凝った乳首を指先で捏ね回し。時には摘み上げる。
「ひぁうっ!」
 軽く摘む度に紫の身体がびくびくと跳ねる。
 ここまで淫らで敏感な反応を見せる紫が、少し前までは痛みを訴え、泣き叫ぶだけだったとは思えない。
 そうしたのが自分であると分かっていながら、紫の変化に驚いてしまう。
 無理矢理に組み敷いて以来、何度も身体を重ね、その度に紫は淫欲に目覚めていった。
 今では自ら求め、こちらに快楽を与える程に。
 今も、先に色欲を訴えたのは紫からだった。
 その細い指を真九郎の股間に這わせ、欲しいと呟いた。
 真っ赤な顔に期待を浮かべる紫は、どうしようもなく真九郎の興奮を誘ったのだった。
 そうして気が付けば紫と繋がっていた。抱き合い淫蕩に耽る。
「しんくろぉ、しんくろぉっ!」
 紫が、一体何度目だろう身を痙攣させ、絶頂の近付きを報せてくる。
「イキそうなのか?」
「あ、ぁ……イク、イクぞ、しん……くろぉっ」
 淫部から伝わる痙攣は更に激しさを増し、真九郎も同時にと、絶頂を誘う。
 断続的に収縮を繰り返す紫の中に、欲望をぶちまけたくなる。
 真九郎はそのために、腰の突き上げを強めた。
「くぁっ……あぁ、ひゃ! しんくろぉ、しんくろ……う。もう……ひゃう!」
 びくん、と紫の身体が大きく仰け反る。全体を震わせ、絶頂した事を伝える。
 真九郎はそれを見届けると、堪えていたものを吐き出した。
 紫の膣中に盛大に白濁を注ぐ。びゅくびゅくと跳ねる肉幹を、あっと言う間に満杯になった膣中から逆流した精液が伝い、白く染める。
「あは……っ、ぅぁ」
 天を仰ぎ見るように身を沿った紫が快感に浸る。
 愛する男に満たされる悦楽に陶酔し、その幼い身体で真九郎の欲望を受け止めた事を悦んでいる。
 紫は身体が落ち着いたのか、視線を自らと、真九郎の下半身に向けた。
「たくさん出したな……真九郎」
 接合部から溢れる精液を指先で掬い取り、指先に絡めそれを舌で舐めとる。
 わざわざ見せびらかすように、ゆっくりと舌先で絡めとる。
 わざとらしく卑猥な音を立て啜る。
 そんな紫の仕草に、またどうしようもなく、自分の獣が哮るのを真九郎は感じた。
 自らの身の内で硬さを取り戻している真九郎に気付いた紫が、結合を解く。


535:伊南屋
06/12/03 21:47:28 7YYS353k
 栓が抜けた秘穴から、ごぽりと精液が零れ落ち、真九郎の幹を更に白くまぶす。
「ふふ……真九郎の、まだ硬いな」
 幹に、紫の小さな手が添えられた。真九郎の白濁液をローション代わりに、亀頭を撫で回す。
 紫の手が、亀頭を這う度にぬちゃりと淫らな水音がした。
「今度は直接口にくれ、真九郎を……」
 言って、紫は身を屈め真九郎のそこへ唇で触れた。
 薄いピンクの唇が開かれ、真九郎をそこへ受け入れる。
 浅く、小さな紫の咥内には亀頭までしか収まらない。
 それでも紫は真九郎に快感を与えようと細い舌で精一杯に舐る。
「うっ……」
 射精直後の性器は、はしたなく快感に打ち震えた。真九郎は声を上げ悶える。
「ひもふぃいいは?」
 口の中に真九郎を含んだまま紫が尋ねてくる。
 真九郎は頭を撫で、頷く事で応えた。
 紫が嬉しそうに表情を綻ばせる。
 その無邪気な表情と、行動のギャップに、紫の猥雑な痴態が引き立ち、一層真九郎を興奮させる。
 この分なら、遠からず絶頂を迎えそうだ。証拠に、すでに射精感が込み上げ始めており、下半身を疼かせている。
 紫は口に収まらない竿の部分を両手を使い扱き立て、時折睾丸へのマッサージを交えてくる。
 全て真九郎が教えた事だ。それを忠実に実行し、責め立てるように射精を促す。
「んちゅ……ちゅぴ、ちゅぱっ……んふぅ。ふむっ、ん」
 舌の動きも激しさを増し、紫の口の端では先の精液が泡立っている。
 真九郎は自身がどうしようもなく昂ぶっているのを感じていた。
 背徳を犯すスリルに全身を粟立つような悦楽が走る。
「紫……紫っ」
 限界だった。腰が跳ね、白濁を撒き散らす。急に押し上げられた肉棒にえずき、紫が口を離した。
 そこへ真九郎の精液が浴びせかけられる。紫はそれを恍惚の表情で受け止めた。
 頭頂、顔面、胸元、腹部、太股、脹脛。文字通り、紫の頭から爪先までが真九郎の粘液に白く染められる。
「あは……」
 紫が、笑った。
「たくさん、たくさん出たぞ真九郎……ぜんぶまっしろだ」
 紫が身体に振りかけられた精液を指先で伸ばし、自らに擦り込むようにした。
 矮躯が余すことなく子種汁を浴び、ぬらぬらとぬめる。
「しんくろおの、匂いでいっぱいだ」
 妖しく微笑む紫は、到底七歳とは思えない、魔性とも言える色香を発していた。
 再三、真九郎の雄が哮る。
 紫色の宵闇が近付いていた。
 狂宴はまだ、終わらない。

536:伊南屋
06/12/03 21:51:38 7YYS353k
 毎度、伊南屋にござい。

 続かないし前日談もない。ただ紫のエロネタがやりたかっただけ。なんか暗くなってしまったのは自分では反省点。
 次に紫ネタやるときはもっとラブがコメしたものを書きたい。
 つうか文体の硬さに未だ引っ張られてます。

 というわけで今回はこれにて。
 今は頑張ってバトルシーン書いてます。そろそろ投下したいなと思いつつ、以上、伊南屋でした。

537:名無しさん@ピンキー
06/12/03 22:07:41 cENxDD2R
GJ!!!っすよ伊南屋さん!
紫は紅で一番好きなキャラなんでことさらGJです。ハイ。

538:497
06/12/03 23:28:08 HXPs6qsf
>>497の続きを一つ

 「意外と片付いてるのね」
 というのが、まず自分の部屋に入った彼女の第一声であった。そしてジュウはそれに対して沈黙をもって答えた……
と言うよりはまだ事態の展開に頭がついて行かなかったのだが。
 とりあえず落ち着こう、とジュウは微妙なムズ痒さを感じさせる頭の包帯を手の平で擦りながら軽く目を閉じた。
 今日あった事を思い返す。円&不良達との遭遇。乱闘。一撃。出血。ハンカチ。膝枕。仄かに香る優しい匂い。
美しい顔……。
 (違う違う)
 脇道に逸れそうになった思考に、思わず首を左右に振る。まとまらない思考に、不意に外界からの声が割り込んだ。
 「どうしたの?」
 思わず目を開けると目の前に円がいて、そっとこちらの額に細く白い指を当てる所だった。
 「まだ痛い?」
 「いや、ちょっと痒くて」
 「そう。だからって掻いちゃダメよ」
 へどもどするジュウに対して円の方は平然としてそう言い置くと、
 「お茶、いただくわね」
 返事も待たずに冷蔵庫から麦茶を、水屋から白いコップを取り出すと悠然と喉を潤した。
 半ば呆然と意識を飛ばしながらその様を見つつ、ジュウの脳裏には先程の事が蘇っていた。
 すなわち病院へと二人揃って入り、何やらお偉い方に直接話をしたらしい円に紹介された篤実そうな中年の医師から
丁寧な検査を受け、一先ず何事も無く治療を終えた後に連れ立って院外へ出ると、折しも晴れ渡っていた空の向うから
一面雲涌き立って天上を覆わんと近付きつつあった。それを見たジュウは、とりあえず舌打しながら家に向かって走ろ
うという決意を固めたのだが、そこで円が自分の折り畳み傘ならば二人入っていける、と言い出したのだ。それでは相々
傘ではないか、とジュウは固辞したが、とりあえずジュウの家まで送ると言う円に遂に押し切られ、今又何故か家の中まで
済し崩しに進入を許したのは全く激しい夕立に後押しされた勢いの為としか言い様が無い。
 だがそもそもあの円が膝枕をしたり、相々傘を勧めたり、ましてやこうして自分の……男の家に自ら上がり込んだりする
等とはそもどうした事か、という事にジュウは今更ながら大いなる違和感と疑問を抱かざるを得なかった。その違和感を
どのように伝えれば良いものか、と考える内にこのような事態にまで至った事は最早どう思っても詮無い事ではあるが
さて事ここに至っても彼女の目的がイマイチよく判らない。
 よってこれからどう対応すれば良いのやら、困り果てて見つめた円の横顔には、何も浮かんではいない。
 感情も表情も、ただ無機質な仮面の内側へと押し込めてまるで何かを待ってるような表情で、じっと窓の向こうを見て
いる。何故かその姿に訳の分からない悪寒を感じて、一つ身を震わせる。

539:497
06/12/03 23:29:30 HXPs6qsf
 「これじゃあ帰れないわね」
 「……通り雨だろ。すぐ止むさ」
 二人の間の沈黙に、ざあざあと壁一枚向うの雨音が侘しさを添える。
 もし二人の関係がもっと違うものならば、これもまた別の感慨をもった沈黙となるのだろうか、と益体も無い事を考え
ながらしかしこれ以上気の無い息苦しいような受け答えを続けるのは御免蒙りたかったので、ジュウはシャワーを浴びる
事にした。
 円が濡れないように、と気を使って傘を相手側に傾けていた為、ジュウの肩は一方だけとは言えかなり雨を被ってしま
っていた。濡れて肌に張り付くシャツが気持ち悪い。着替えを取って浴室へ向かいながら、雨が止んだら勝手に帰って
くれていい、と円に向かって言う。
 彼女は、どこか霞でもかかった様な曖昧な瞳で、こちらを見るとも無く見ると、こっくりと頷いた。
 それでジュウは安心したのだが。

 蛇口を捻ると冷たい水が噴射される。時間をおいて徐々に温もるのを待って、ジュウはそれを肩から浴びた。汗と、雨と
重苦しい空気すらもかけ流して、冷えた身体の内側まで染透っていくような熱にほうっと溜め息をついて、ジュウは頭から
それを浴びたくなったが、生憎とまだ包帯は巻かれたままだ。勝手に取ると円が怒るだろうな、と思って、苦笑した。
 今日の“らしくない”彼女には戸惑ったが、なんだかんだと言っても、自分の身体を心配してくれているのだからやはり
いい奴だな、と思う。男嫌いだと言うし、実際自分に対する普段の態度も冷淡極まりないが、それでもただの嫌な奴では
ない。むしろ自分よりも余程上等な人間だろう。強くて、聡明で、やや鋭利過ぎるものの凛とした美貌は男女問わずに誰
の目をも引く。雪姫にせよ雨にせよそうだが、何故そんな彼女等が何故自分といるのか、ジュウにはどうにも理解し難か
った。他人を惹き付ける魅力、そういった物が自分にあるとすればそれはなんだろう?
 「馬鹿馬鹿しい」
 再び苦笑。そんな物はある訳が無い。雨は妙な妄想からくる思い込みが高じての事だろうし、雪姫はただの面白半分だ
ろう。いずれは消えてなくなるものなのだ。では円は?彼女とはより何も無いようにしか思えない。二人に対する付き合い
の内なのだろうか?
 「柔沢君」
 陰鬱な思考を切り裂くような鋭い、しかし平静な声が浴室の扉の向うから響いてきた。
 「円堂、雨止んだのか?勝手に帰ってくれて構わないって言ったのに」
 模糊の海から意識が突如引きずり出され、ジュウはハッと我に返って問い返したが、続く言葉に絶句した。
 「私も一緒に入っていい?」
 唖然としたジュウの眼前で、濡れた扉が開き、そして止める暇もあらばこそ。
 漂う湯煙の中に、白い裸身が浮かび上がり、こちらに一歩を踏み出した。


<続く>

540:497
06/12/04 00:06:07 FW3HBOQ5
書き忘れてたが伊南屋さんGJ
ロリーはいいよウン

541:名無しさん@ピンキー
06/12/04 06:40:03 4HK5d/1K
なんでそんな良い所で切りますか(*´Д`)気になるぜチクショウ

542:502
06/12/04 08:13:29 IPD2QJs7
伊南屋さん、497さん、本当にGJ!!乙です!!

543:名無しさん@ピンキー
06/12/04 09:07:55 yh1rL60k
とうとう紫が来ましたか……イヤやっぱ伊南屋様は神っす!
あんだけダークなのも、いくら相思想愛でも7歳をヤッたら(無理矢理)暗黒面に墜ちるよと納得 
 
そして497氏。寸止めとはやってくれるぜコンチクショウ! 大人しくお待ちします。全裸で。

544:名無しさん@ピンキー
06/12/04 18:16:31 KtEmE+Eg
>>540
GJ。もー最高。
焦らしと言うか、ジュウの微妙な心理が非常にイイんですが、ここで切る貴方は鬼か悪魔か(w

545:名無しさん@ピンキー
06/12/07 02:14:50 Os6II47Y
夕乃分が不足してきた…

546:497
06/12/07 19:21:54 H3JPZtxU
どうも、また半端な所で切れてしまいますが、次回こそは多分終わりですんで。
それでは本編をどうぞ↓


 視覚情報が脳に伝わってからジュウが行動に至るまでに一瞬ならず間があったのは単純に驚きのためかと言われ
れば、そうとばかりも言い切れない。つまりは、眼前にたおやかな裸身を晒す円に慌てて背を向けたジュウの視界には
その直前まで確かにその全てが捉えられていた。見とれていた、と言い換えてもいい。
 白く、内側から自ら輝きを放つような瑞々しい肌。あの強烈な蹴りを放つそれと同じとは思えないように、スラリと伸び
た長く細い脚。長身痩躯、とは言っても、骨の浮き出るようなという程ではなく、また逆に見るからに筋肉質という事でも
ない、むしろ女性らしい丸みを胸や、腰から下に帯びさせたままでその他無駄な肉を一片までも削ぎ落としたような、
芸術的なまでに完成度の高い姿態は、胸の先の薄桃色や品良く黒々と生え揃った下腹部の茂みも含めてジュウの目
にしかと焼き付いていた。
 目を閉じてもその映像はより鮮明に蘇り、鼓動を五月蝿いほどに高め、また息は情けないまでに乱れた。あるいは昼
間に頭部に喰らった衝撃よりも強烈かも知れないインパクトが、舌をも縺れさせる。
 「なっ……、どっ……、おま・・・・・・!?」
 「もうちょっと落ち着いたら?何言ってるか分からないわよ」
 むしろなんでお前はこの状況でそんなに冷静なんだ、とジュウは悲鳴を上げたかったが、生憎と声にはなってくれ
ない。とりあえず搾り出した言葉は
 「……なな、何を?」
 という全く意味する所の汲み取れないものだったが、円は理解したらしく事も無げに言う。
 「私もシャワー借りたくなったの」
 「俺が出るまで待てよ!」
 「一緒に入った方が節約になるわ」
 至極当然のように答えると、二の句の継げないジュウを尻目に悠々とシャワーを浴び始める。
 浴室はそれ程狭くはないが、二人で入っても十分なほどに広くもない。よってジュウの背にも時折円の身体が僅かに
触れることになる。ジュウはその度にビクリと大袈裟なほどに身を竦ませて、なおも混乱を深くした。
 なんだこれは、なんでこんな事を。俺に見られる事は何とも思ってないのか。答えの出ない自問はひたすらに堂堂
巡り。そんなジュウに
 「早く体洗ったら?」
 円が呆れたように言う。その言葉に、彼女が今自分の裸の背を見ているのだと思い至って、突如堤防の決壊するよう
にこの状況がどうにもたまらなくなったジュウは、円の方に顔を向けないようにしながら
 「お、俺、もう出るから」
 ドアノブに伸ばしたジュウの腕を、横から伸びた手が押さえた。
 思わず振り向いてしまったジュウの目の前に、自分とあまり変わらない身長の円の顔があった。
 「ダメよ」

547:497
06/12/07 19:22:55 H3JPZtxU
 幸いにもと言うべきか、近すぎて見ようと思わなければその顔以外の部分は視界の外にあったが、こんな間近で全裸
の円に見つめられる、という状況自体がもうジュウの羞恥心に対する負荷の限界を超えている。目を逸らす事も出来な
いままに、後ずさりつつ何とか言い訳を試みる。
 「いや、お前が出た後でもっぺん入る事にするから……」
 「そんな事してたら風邪ひくわよ」
 ジリ、と腕を掴んだまま円もこちらへと近付く。
 「い、いやあの……」
 また一歩を下がり……と、そこでタイルに足が滑る。
 「おわっ!」
 「……っ!」
 仰向けに倒れるジュウを追うように、その腕につられて円も倒れかかる。咄嗟にジュウは、自分の体を下敷きにする
ように彼女の体を引き寄せた。一瞬の浮遊感の後、背と後頭部とが床と壁に打ち付けられる。
 「痛う……」
 「大丈夫?」
 心配そうに声をかける円に、ああ、と返そうとして思わずジュウは固まった。
 上半身を起こしてジュウの頭部にそっと繊手を這わす円。彼女は包帯の巻かれたそこを気遣っての事だろうが、二人
の現在の体勢・位置的に、頭だけを起こしたジュウの目の前には、大きくはないが形良く整った二つの白い膨らみが
迫って見える。腹には重みと共に、水分を含んでしっとりとした柔らかな太腿と、くすぐったいような恥毛の感触。
 「少しこぶが出来てるわね。血は・……どうしたの?」
 ジュウの態度を不審げに見て取って尋ねた円は、そこで初めて彼の目線の先に気付いたらしくそっと体をジュウの
上からどけると
 「あ、いや。これは……」
 「柔沢君」
 何やら真っ赤な顔で言い訳を始めようとしたジュウを冷然とした一言で押さえ、すっと視線を横に滑らした。
 「立ってる」
 隠すものとて無い全裸で横たわったジュウの体の一部は、あまりにも明らかな自己主張をしていた。無理も無い。
ジュウとて健全なる青少年である。今までは驚きと混乱が先に立って気にしている余裕など無かったのだが、それが
こうして円と密着してしまった事でその感触に反応してしまったものと見える。
 理屈はともあれ、思わず隠す事すらも忘れてジュウは半ば絶望的なうめきを漏らした。終わった。何の事かは知れず、
とにかく自分は最早終わった。そんな感慨が浮かんできて、もうどうにでもしてくれ、という気分だ。
 「柔沢君」
 円が再び自分の名を呼ぶ。その顔はいつもと同じく冷静だが、頭から全身湯に濡れて光る姿は何か艶然とした物を
感じさせずにはいられない。そしてその姿で円は言う。
 「私と……したいの?」
 「え?」
 その意味を理解できずにいる間に、返事も聞かず彼女はジュウの体へと覆い被さってきた。

548:497
06/12/07 19:23:25 H3JPZtxU
 「なっ……ちょ、ちょっと待て!」
 恐慌に近い反応を示す示すジュウにも構わず、円はどうやったのか体重をかけて彼の動きを抑えると、そっと耳に
舌を這わせた。熱くぬめる感触が、弾けるような水音とともに脳の中へと入り込むような快感をジュウに与えてくる。
 「あぅ……んっっぐ、あ、や、止め……」
 ぞくぞく、と全身を震わせる快感に、抵抗の気力も体力も萎えていくのを感じたジュウは
 (拙い……このままじゃ……)
 そんな事を考えながら朦朧となる意識を必死に繋ぎ止めようとしたが遂に空しく、見る見る死んだように脱力し、荒い
息を吐くしか出来なくなった彼の首筋へと円の舌は下りていく。
 「う……ぁああ」
 そこから胸へ、そして腹へ、更に股間を迂回して足へと続く円の奉仕―それは正しく王に傅く奴隷の奉仕さながら
だった。ただ当のジュウからしてみれば拷問に近かったろうが。あまりの快感に、ジュウは危うく触れられてもいない
股間から放出しそうになった。だがその度に円は絶妙な加減でそれを到達させずに止めてしまう。
 「円堂……も、もう」
 「我慢できない?」
 こくり、と必死の思いで頷くジュウを流石に少し熱っぽく潤んだ目で見た円は、屹立した怒張にそっと根元から舌を伝
わせる。
 「うぁっ」
 それだけでジュウの身体はビクリと跳ねた。円は更に柔らかな手でそのものを掴むと、ゆっくりと上下させ、先を舌で
チロチロとくすぐる。熱を受けた蝋細工のように、自分の物がドロドロと芯から溶けていくような恐怖と相半ばする快感に
のたうち、最早息も絶え絶えになりながら、ふとジュウはかつて何とはなしに聞いた雪姫の言葉を思い出した。
 『ちなみにね、フフ、この三人の中に処女は三人います。さて誰でしょう?』
 そうだ。あの時雪姫は確かに円も処女である、という意味の事を言っていた筈なのだ。なのに、この手慣れたような
愛撫はどういう事だろう。雪姫が嘘を吐いた?いや、そんな意味の無い事をする彼女ではない。ならば円がそもそも雪
姫に嘘を吐いていたのだろうか。それも考えられない。意味が無い。そもそも何故円が自分にこんな事をするのだろう
か。いったい彼女は男嫌いだった筈ではないのか。
 分からない。何も分からない。
 「ん……ぷ、んぅ」
 やおら、円がジュウの物を口に含む。それだけで全身を快感が苛み、思考は千々に乱れた。ジュウの悲鳴に近い声
を聞いているのかいないのか、円はその染み一つ無い雪白の顔をゆっくりと上下させる。
 「はぷ……ん、ぅっ、ふぅっ」
 うっとりとした声を漏らし、目を閉じたまま自分の行為に没頭しているらしい円の横顔は、ぞっとする程に美しい“女”の
顔だった。だが、ジュウはそんな感想を述べるどころではない。先程にも倍するような快感。肉棒を苛む円の口中の蠢き
は、ジュウの弱点を全て知り尽くしたかのように的確で、苛烈だ。
 「円堂……も、もう……っ!」
 切羽詰った声を上げるジュウの声を切欠にしたように、円は口に含んだものを、より深く、根元までくわえ込んだ。喉の
奥まで突っ込まれた肉棒は、舌で、頬の粘膜で、嬲られ、捻られ、引き絞られる。最早ジュウに耐えられる筈も無かった。
 「あああっ!あぐっ、ん、うあぁ!」
 「んぅっ!んっ、んン……」
 爆発するような勢いで溜め込んだ欲望の塊を解き放つ。腰が抜けるかと思う程の、初めての他者の手による絶頂の
快感に放心状態のジュウの放出を全て受け止めたらしい円は、何度か喉を鳴らしていたが、ややあってゆっくりと顔を
上げた。今の手際にも似ず、やはりまた同じく惚けたような顔で座り込んだまま、呆然としている。
 荒い息を吐く二人の体を、シャワーの飛沫が叩いていた。

<続く>

549:名無しさん@ピンキー
06/12/07 19:42:04 z7IGLvCI
なんてやらしい(*´Д`)

550:名無しさん@ピンキー
06/12/07 21:53:29 L7ouHhNm
>>548
GJ!GJ! 
一方的にやられっぱなしの光景がエロス。掴みづらいキャラである円の雰囲気もそれっぽくてイイ。
やっぱりジュウは翻弄される側ですな(w

551:名無しさん@ピンキー
06/12/08 02:08:45 wutgwnxQ
GJ!
しかしなんでこんなにジュウ様は受けが似合うんだろう。

552:名無しさん@ピンキー
06/12/08 02:53:17 OnMZMqq6
ジュウ様だからだよきっと。

553:名無しさん@ピンキー
06/12/08 07:24:44 YNtS4XcS
男に対してはS
女に対してはM
こんな感じじゃね?

554:名無しさん@ピンキー
06/12/08 08:14:43 chM1+zEX
>>553
> 男に対してはS
でも、草加に虐められたり伊吹に殴られたりと男相手にも散々だったぞ

555:名無しさん@ピンキー
06/12/08 14:01:12 RygT8ECx
やっぱアレじゃん?自称不良なのに女の扱いがぶっきらぼうで純情だから、苛めがいがあるというか…… 
 これが真九朗とかなら。ヘタレとか甲斐性無しとか言われそうなのにそうならないのがジュウ様ですw 
 
 まぁ電波的な彼女の真のヒロインはジュウ様っつー事は周知の事だろうしな

556:名無しさん@ピンキー
06/12/08 16:09:50 chM1+zEX
それは無論デフォです

557:名無しさん@ピンキー
06/12/08 20:55:11 RygT8ECx
感想書き忘れてたぜ。スマソ
GJっす497さん!やっぱジュウ様は女性に苛られて赤くなるのは最高です!
……ってかここで止めですか!相変わらず寸止めが好きな方だせw だが待つ!裸で

558:名無しさん@ピンキー
06/12/08 22:31:59 Ap4a3rG1
もうそろそろ風邪ひくぞw

559:伊南屋
06/12/09 13:38:53 p5PvNOIM
『レディオ・ヘッド リンカーネイション』

Ⅵ.
 人の何かが切り替わる瞬間というものがある。
 真九郎はかつて、それを見た事があった。一人の少女が刃を持った瞬間、それは起こった。
 人という存在の特異点。あれは世の中にある“そういったもの”の一つだった。
 なればこそ、二度と見る事は無いだろうと、そう思っていた。
「雪姫、抜いて良いぞ」
 金髪の少年の一声。それを聞き、雪姫は腰に差した倭刀を引き抜いた。
 刹那、まるで氷水に叩き込まれたかのように全身が粟立った。襲撃者すらその足を止めてしまっている。
 雪姫から噴き出す、圧倒的に濃密な空気。真九郎はそれを知っていた。
 それはかつて、“あの少女”が放っていたものと全く同質のものだった。
 人の持つ負の感情の中でも、最も昏く忌避される感情。
 それを、殺意と言う。
 他者の命を蔑ろにし、奪い、棄てる。その明確な意志。
「斬島雪姫、参る」
 初めて聞く雪姫の氏。それは“あの少女”と同じ氏だった。
 刃を扱う為に存在する、斬島切彦という、あの少女と同じだった。
 全てが、同一。酷似した存在。
 雪姫は悪辣な笑みを浮かべた。
 人の全てを否定する笑み。
 そこに来て、襲撃者達は再び動き出した。雪姫に呑まれた空気が、再動する。
 次の一瞬、光刃が交差する。
 血が、糸を引いて散った。


「疾っ!」
 裂帛の声に合わせ、ジュウに刃が振るわれる。煌めく銀閃。それが弧を描く。
 ジュウはそれを、腕に填めた鋼鉄の小手で拳を放ち、受け止める。
 火花を散らせ、甲高い鋼同士の激突音が響いた。鐘を打つかのように鐘音が鳴り渡る。
「うおぉっ!」
 弾かれた刃が再び振るわれる。だが遅い、遅すぎる。刃より速く、逆の腕で拳を握り渾身の一撃を襲撃者の顔面に叩き込む。顔の中心、鼻が砕かれ血糊を盛大に撒き散らしながら襲撃者の一人が無様な悲鳴を上げ倒れた。
 それを見届けたジュウが息吐く間もなく背後、更に一人がジュウに斬り掛かる。高速の大上段からの振り下ろし。刃が肩を深く抉る軌道で迫る。ちりちりと首筋を灼く緊迫感をジュウは感じた。
 反応したジュウが身を避わし、振り向こうとするも間に合わない。完璧な死角からの攻撃に身体が付いていかなかった。
 迎撃は土台無理と見たジュウは更に体を傾げる事で刃の軌道から外れる。
 軸のずれた体は辛うじて刃を掠めつつも逃れた。
 

560:伊南屋
06/12/09 13:40:10 p5PvNOIM
 掠めた刃はジュウの肩を薄く斬り裂いていた。血が俄かに噴き出し、ジュウの肩口を赤く染める。しかし、それをものともせずにジュウは体を建て直す。
 脚は地を強く踏み締め、崩れた体に力を漲らせ、直立させる。
「くっ!」
 力んだ事でジュウの肩口から更に血が溢れた。
 襲撃者の振り下ろした刃が、返す軌道で斬り上げに変わる。その刹那。
「これ以上、手前に斬らせる肉はねえ。だがな―」
 ジュウの口角が吊り上がり獰猛な笑みを象る。
「骨は二、三本貰っとくぞ」
 胴への拳。突き上げる角度で打ち込まれたそれは、肋骨を数本へし折り内臓に突き刺さる。肉の潰れる音が体内から漏れ聴こえる。
 内臓の潰された襲撃者の口からは鮮血が吐き出させれた。
「がはっ……」
 自らの吐いた血溜まりに襲撃者が沈む。
 それを見下ろし、ジュウは呟いた。
「まったく、肉を斬らせて骨を断つなんて、割に合わねえんだよ」


 円堂円は丸腰だった。騎士ならば持っているだろう剣も、今は馬車の中。
 しかし円は恐れていなかった。
 例え眼前に三人の襲撃者が居ても、それは変わらず、揺るがない。
 自らに対する確固たる自信と、襲撃者に対する如実な蔑み。
 前者は兎も角、後者は円の男嫌いから来る感情だ。
 それを感じ取ったのか否か、襲撃者に剣呑な気配が漂う。
「まったく……丸腰の女相手に大の男が寄ってたかって。刃物振り回さなきゃ戦えないの? これだから男なんて嫌いなのよ」
 それを挑発と受け取ったか、襲撃者達は色めき立ち、包囲の輪を縮める。
 じりじりと迫る襲撃者達に、円は横柄に言った。
「めんどくさいから早くしましょう。まとめて掛かって来なさい」
 その一言は致命的だった。
 弾かれた様に襲撃者達が円へ肉迫する。応じ、円も動いた。
 三人の内一人、その懐に潜り込む。
 その男には世界が回った様に見えた筈だ。
「あが……?」
 背に衝撃。見えた夜空に仰向けに倒れた事を知る。
 立ち上がろうとするも、出来ない。身体に力が入らない。視界が揺れ、酷い吐き気が込み上げた。
「脳を揺らしたわ。しばらくは立てないでしょう」
 そう言って円は冷めた瞳を男に向けた。
 円がしたのは単純な事。懐に潜り込み、掌で男の顎を撃ち上げた。それだけ。
 それだけの単純な事だが、簡単な事ではない。


561:伊南屋
06/12/09 13:41:23 p5PvNOIM
 目にも留まらぬ速さと寸分違わぬ正確さ、それがあって初めて、一撃で脳震盪による戦闘不能に陥れる事が出来る。
 まさに、達人の動きであった。
「―次」
 呟き。同時、円は再び動き出す。
 襲撃者は身構え、迎え撃つ一撃を見舞う。
 横薙の一振りを身を低くする事で避わす。大きく開いた胴へ、拳。
 鳩尾へ振るわれたそれは、柔らかい腹に抉り込まれる。
 ジュウの肉体破壊の一撃とは違い、この攻撃は内臓破壊の一撃。臓腑への衝撃に襲撃者は吐寫物を吐き散らし倒れる。
 身を痙攣させ蹲るこの男もやはり、一撃で戦闘不能。
 圧倒的だった。
 恐怖に身を竦ませる最後の一人に、円が一歩踏み出す。
「ひっ!」
 恐慌に陥った男は後じさる。
「……ここで捨て鉢になって掛かって来るならまだ救いもあったのに。―情けない」
 一瞬で男の顔面に円が現れる。少なくとも男にはそう見えた。
 身に戦慄が走る。
「だから男って嫌いよ」
 衝撃。それは恐ろしい苦痛を伴って、下半身から全身に伝わった。
「あ……っが!」
 円の膝が、容赦なく男の股間に突き刺さっていた。それだけならまだしも、ぐりぐりと穿っていた。
 男が泡を吹き、白目を向き倒れる。
 場合によっては金的はショック死すら引き起こす。
 こと男に対しては、最も残虐な攻撃であった。
 それでも円は終始変わることのない冷淡な表情で佇んでいた。
「……情けない」
 ―いや、こればっかりは無理です、流石に。
 その場にいた男が全員そう思ったのは言うまでもない。

562:伊南屋
06/12/09 14:00:34 p5PvNOIM
レディオ・ヘッド補足授業二時間目
「と言うわけで二時間目です」
「随分いきなりだな……」
「お気になさらず。では今回も一問一答で行きましょう」
Q.雨が電波一巻で前世は魔法や魔物のある世界と言っていましたが?
「そういやそうだったな」
「はい。これについては作者の責任です。しっかりと読み返していなかった為、忘れ去られていました。恐らくその内何事も無かったかのように世界がファンタジー化して行くと思われますね」
「良いのか、それ?」
「まあ未熟者だと思い流してあげてください」
「……そうか」
Q.ジュウと真九郎が同年代のようですが?
「作者は現世においてはジュウ、紫同年代説を推していますが作中においてはジュウ、真九朗同年代でやっていますね」
「なんでズレるんだ?」
「一応解説としては“決して転生のサイクルは一定ではない”と言うことらしいですね。つまり現世への転生はジュウ様の方が遅かったためズレが生じた。と言うことらしいです」
「なる程」
「それに作中より年を重ねた紅キャラだとクロス感が出ない。と言うのもありますね」
「演出上の理由か」
「はい」

「少ないですが今日はこの辺にしておきましょう」
「そうか」
「ちなみ補足授業は作品が進むにつれ何度か行われると思います」
「未熟者故……か」
「はい。なお本コーナーでは皆さんからの質問を募集します。質問には次回の補足授業で、答えられる範囲で答えますので遠慮なくして下さい」
「……なんの番組だよ」
「作者がバカですから、仕方ありません」

続く

563:伊南屋
06/12/09 14:04:12 p5PvNOIM
 毎度、伊南屋です。

 やっとお届け出来ましたレディオ・ヘッドⅥ。今回は正確には前編になります。ですからバトルシーンは今しばらく続きます。と言っても次で終わりますが。
 慣れないバトル描写に悪戦苦闘しましたので、なんか変になってるかもしれません。その辺は平にご容赦を。

 というわけで今回はここまで、相も変わらずリクエストは募集。補足授業への質問ね。
 以上、伊南屋でした。

564:名無しさん@ピンキー
06/12/09 16:46:17 iRw5sdPI
伊南屋さん、相変わらず上手いなあ。
俺も戦闘描写が上手く書けるようになりたい……。

565:名無しさん@ピンキー
06/12/09 21:26:46 d9XLitlS
ヤバいっす!サイコーっす!血沸き肉踊る感じでした!
しかし真九朗の戦闘は今回ありませんでしたね。こちらの真九朗はビビり癖があるか気になる所です……
あ、それと気になったというか早速質問なんですが。
ジュウ様は剣を執らないんでしょうか?己の拳のみで敵を薙ぎ倒すのもジュウ様らしくて好きなんですが……力強い剣で敵陣を走り抜く御姿を見てみたい気も……っていうか単なる要望ですねw……スイマセン

566:497
06/12/10 20:36:07 cVAdv5FO
 ……室内には出しっぱなしの放水の音が雨のように満ち、その合間に二人分の荒い呼吸音が混じる。ジュウはやや
あって、むっくりと身を起こした。体全体にまだ痺れるような快感の余韻が残っていたが、それが疲労感よりもむしろ己
が獣欲を掻きたてるのを彼は感じていた。その視線の向ける先は、いまだ稀にも見ぬような白痴のごとき顔で座り込む
少女、円。その、頼りなげに見えるほどの細身を、匂い立つような女の身体を、滅茶苦茶にしてやりたいと、彼の本能
からの叫びはそう言っていた。
 蒼白いほどの手首を掴むと、びく、と一つ震えてゆっくりとこちらを見る、その瞳。いつもはまるで鋼のような冷たく鋭い
輝きをもってこちらを射るそれは、いまや確かな熱を湛えて揺れている。それを見た瞬間にもうジュウは堪らなくなり、
そのまま円に覆い被さっていった。そしてそのまま床に組み敷いた円の柔らかい身体の、二つの丘陵へと己が指を……
 「や……」
 ほんの微かな、聞き逃してしまっても可笑しくないような声だったが、それは確かにジュウの耳へと届いた。頼りなげな
、儚い声。視線を上らして円の顔を見て、ジュウは頭から湯ではなく水を浴びた思いになった。
 円が、怯えていた。
 目を両手で隠して、瞑った口元は僅かに戦慄き、ギュッと身体を縮こまらせている。あの、円が。その様はどこか、叱
られた幼子をすら思わせるほどに弱弱しかった。
 みるみると、猛る性欲は己が分身と共に萎え、代わりに言い様の無い罪悪感が襲い掛かってくる。それはまるで信仰
する偶像を自ら汚したかのような、心深くまで突き刺さるような痛みであった。
 黙ったままで、身を起こし、背を向ける。気配で、背後の円が自分を見るのが分かった。どういう目で見つめているのか
、想像したくなくて、ジュウはただ、すまん、と一言だけを残して浴室を出た。

 着替えて自室に戻ったジュウは、ベッドに腰を下ろした。そしてそのまま、俯き、じっと動かない。電気も点けず、薄暗い
部屋の中でなお判るほど悄然たる顔で、ジュウはただひたすらに後悔と自己嫌悪に金縛りにあったように身動きも取れ
ず固まっていた。
 馬鹿野郎、何をやってる、なんで俺はあんな事を。何が王だ、何が騎士だ。ほんの僅かにあったはずの信頼を自ら踏み
躙るようなただのスケベでバカな猿じゃないか。救えねえよ、死んじまえ。
 ……冷静に考えればジュウが悪い訳は無く、普通に考えても全くしようの無い事だったのだが、円に酷い事をした、と
いう思いは、一切の理屈をも飛び越えてジュウの心をギリギリと締め付け、軋みを上げさせた。恐らくは良くも悪くもそう
いう部分こそがジュウのジュウたる所以なのだろうが。
 「……柔沢君」
 何時の間にか部屋の仕切りが僅かに開いて、逆行と共に円の顔が覗いていた。黒く影になってその表情はよく見えない
が、その声は微かに震えを帯びて、か細い。その声を聞き、恐る恐るといった様子で彼女が部屋に足を踏み入れた途端
、ジュウは立ち上がると頭を下げた。
 「すまんっ!」
 「え?」
 唖然とした呟きも耳に入らぬまま、ジュウは続ける。
 「謝って、済む事じゃないのは解ってる。お前の言う通りだ。俺は、お前や、雨達と付き合っていて良いような、そんな
人間じゃない。勘違いしてたよ。居心地が良くて、もしかしたらずっとこんな生活が続いていけるのかも知れない、なんて
そんな馬鹿な期待をさ……」
 「ちょっと待ちなさい」

567:497
06/12/10 20:36:48 cVAdv5FO
 何時の間にか、目の前まで近付いてきていた円が、呆れ返った声で遮ると、グイ、とジュウの肩を押して顔を上げさせ
る。薄ぼんやりとした明かりの中、ジュウのそれと相対した瞳は、既にいつもの冷たい輝きに戻っていた。いや、いつも
よりはよく見れば幾分か柔かい物を感じさせる。
 「おかしいでしょう。何故あなたが謝るのよ」
 「え、いや、だってお前の事を襲おうとして……」
 「わたしが誘惑して、先にあんな事までしたのよ」
 「……ああ」
 そう言えばそうだった、と今更ながらに思って、ジュウはようやくそれだけを口に出した。円は、何やらもう色々と馬鹿
馬鹿しくなった、とばかりに大仰な溜め息を一つ吐いた。

 さて、そうして、二人で暗室の中で二人して言うべき事が途切れて、しばし沈黙の帳が下りた。
 何か緊張のようなものを孕んだそれを破ったのは、ジュウの一言だった。
 「なあ」
 「なに?」
 「『誘惑して』って、今言ったよな」
 「ええ」
 円の声は、挨拶でもするように普段と変わらない。ジュウの声は、訝しげにくぐもっていた。
 「なんで、だ?男嫌いのお前が、なんで?」
 円は、しばし黙してから、皮肉気に笑いを刻んで答えた。
 「聞いたら軽蔑するわよ?」
 黙りこむジュウの反応をどう見たのか、そのまま続ける。
 「あなたをね、公園で膝枕してた時。あなた、私の事を“女”として見たでしょう?」
 ぎくり、と実際に音にも出そうなほどにジュウの心臓が跳ねた。バレていたのか、と今更ながらに頬に血が上る。部屋
の暗いのがせめてもの幸いだった。
 「その時にね、ふと思ったのよ」
 目を伏せる。
 「あなたを誘惑して、そしてあなたが私の物になったのなら、雨は、雪姫は、あなたから離れるんじゃないかって……」
 「な……」
 それきりジュウは絶句した。円が、彼女がそこまで自分の事を嫌っていたのか、という思いよりも、むしろ彼女がそんな
下劣とも言えるような発想を抱くとは信じられなくて、だ。
 「あなたの事は……少なくとも以前ほど、他の男ほどには嫌いじゃあないわ」
 相手の反応など気にも止めないように円の口は言葉を紡ぐ。
 「でも、あなたは危険。あなた自身の事だけではなく、周りの事が」
 それはいつかも聞いた言葉。
 「あなたは、人の内側まで、自身でも気付かないうちに入り込みすぎる。そのくせ、相手を自分の内側までなかなか受け
入れたがらない。だから、雨も、雪姫も」
 そこで少し口篭もって
 「そして多分、光も、皆何時の間にかあなたに近付きたいと思う。そうなってしまう」
 「そんな……」

568:497
06/12/10 20:37:25 cVAdv5FO
 ジュウの言葉を遮って円の言葉は続く。
 「だから、これ以上皆があなたに近付く前に、って、そうすれば……」
 「待てよ」
 堪りかねてジュウは言った。かつて雨との関係について『二人の問題』だと言ったのは円ではないか。それを何故今
頃になって……と捲し立て、なおも言い募ろうと肩に手を置いて、ふと気付いた。首を垂れて俯いた円の肩は、僅かに
震えていた。
 「そうね……なんでかしら。自分でもよく解らない」
 寂しそうな笑いを含ませた声で、そう言った。
 「あなたに偉そうな事を言えるような人間じゃなかった、って事ね、私こそが。あの子達に相応しくないのは、私の方
だわ。馬鹿馬鹿しい。最低ね……」
 それだけ言って、黙り込む。ジュウは、そこで初めて掴んでいる肩の華奢さを意識し、そうして悄然とした円のその消え
入りそうな姿に言葉を失った。円堂円は、もっと強くて、自分など及びもつかないような自制心を持っている少女だと
思っていた。でも、それは間違いだったのか。彼女もまた葛藤し、迷い、悩み、時に間違うのか。いや、人間ならば、や
はりそれが正しいのだろうか。
 ふと、ジュウの心に一つの疑問が涌いた。
 「なあ、円堂」
 「……なに?」
 既に気死したかのような声でそう問う円に、ジュウは疑問をぶつけた。
 「だったら、なんでさっき俺に『先に自分が誘惑した』なんて言ったんだ?」
 「え?」
 予想もしていなかった事を言われた、という顔で円が振り仰ぐ。
 「お前の考えとは違ったけれど、俺は自分からあいつ等と離れようとした。だったら、お前の目的通りじゃないか。なんで
わざわざ否定するような事を言ったんだ?」
 「……なんで、かしら」
 本当に分からない様子で、円は視線を彷徨わせた。ジュウは続けた。
 「俺が警棒で殴られて怪我した時に手当てして、膝枕してくれたのはなんでだ?」
 「分から、ない……」
 首を横に振る。イヤイヤをするような仕草だった。
 「なんで、今そんな、言わなくてもいいような告白を、俺にしてるんだ?」
 「……」
 祈るように、ギュッと胸の前で手を組んだまま、円は沈黙する。
 「なあ円堂、俺は、弱い人間だ。今までだって色んな事件に遭うたび、いつも途中で投げ出そうと、逃げ出そうとした」
 円は黙っている。
 「でも、雨が、雪姫が、光が……お前がいてくれたから、俺はそうしなかった。一人じゃ何にも出来やしねえけど、誰かが
助けてくれたから、支えてくれたから闘えた。こんな情けない俺でも」
 円の顔を覗き込むようにしてジュウは続けた。真剣な顔で。
 「お前は、強くて、賢くて、カッコ良くて……でも、一人じゃ寂しいんだよな。俺も雨に言われたよ。強いってのと寂しい
のは違う、って」
 何となく力を入れるのが癖になっている眉間を緩める。
 「だから、アイツらの事もう少し頼ってやれ。言いたい事はもっと言えばいい。そんで、頼りないかもしれないけど、お前
を悩ませるだけかもしれないけど……もし良ければ俺の事も頼ってくれ」
 ほんの10cm程の距離で、二人の視線が交わった。
 「お前は俺の事どうでもいいって思ってるかも知れないけど、俺はお前がいい奴だって知ってるし、お前の事が好きだ」
 円の目から微かな灯りを反射して雫が滑り落ち、僅かにカーペットを濡らした。
 「ごめん、ごめんなさい……」
 堪え切れない嗚咽を漏らして、円はジュウの肩に顔を伏せた。そこから温かい染みが広がるのを感じながら、ジュウは
その合間の一言を確かに聞いた。
 「……ありがとう」

<続く>

569:497
06/12/10 20:37:57 cVAdv5FO
結局今回も終わんない~♪おまけに円のキャラ違う~♪
えー、そういう訳でですね、なんか今回最後まで行く予定だったんですが、いらん会話にスペ-ス取られてまた半端な
所で切れる事になってしまいました。
次回こそは、次回こそは必ず完結させますんでどうかあと一回お付き合いの程を。

>伊南屋さん
過不足なく戦闘のシーンが書けるのはホントに羨ましいっす。
あと、質問ですが、紅香や犬の人は出てくる予定あるんですかね?

570:名無しさん@ピンキー
06/12/10 21:40:33 AtJT3QCw
チクショウ、生殺しか(*´Д`)ハァハァ

571:名無しさん@ピンキー
06/12/10 22:16:33 S7wp3uBf
ジュウ様マジいい子

572:名無しさん@ピンキー
06/12/11 00:36:36 jERzGa/3
GJ。ジュウ様の心情が可愛すぎて萌えますw
というか途中スッゲー納得というか感心する台詞があったんですが 
 
 「そのくせ相手を自分の内側に入れたがらない」 
 いややっぱこれはジュウ様のトラウマから起用してますからね。小さい時に色々と傷付いて、泣き疲れて。その結果の結論が
「俺は、一人でいいんだ」
に繋がっている訳ですからね。
一人は寂しい癖に、皆居なくなる事を覚悟しているせいで無意識に人を内側に寄せ付けないようにする
イヤスッゲー納得しましたわ

573:名無しさん@ピンキー
06/12/11 00:45:14 4vaZag1i
ジュウ様は油断してるとナチュラルに殺し文句を吐くw

574:名無しさん@ピンキー
06/12/12 01:11:58 E4gd1Vs2
なんか皆やっぱりジュウ様が可愛くて仕方ないのねw
いや、俺もそうだけど。

575:伊南屋
06/12/13 09:24:19 HnrrQztF
 柔沢ジュウは不良少年だ。周囲はそう認識しているし、自分でもそう思っている。
 それは何も考えずに済む、楽な生き方を選んだ結果だ。それは逆に言えば、そういった生き方をしなければ深く考えすぎてしまうジュウの性格の裏返しなのだが。
 ただし、取り敢えず今、大切なのは別な部分だ。
 つまり、今大切なのは、柔沢ジュウが不良少年であるという事実。
 そのことなのだ。

『電波的な彼女と彼女』

 土曜日の朝、目を覚ましたジュウはベッドから身を起こした時、違和感を感じた。
 何だろう、何かが足りない。
 未だ眠気で、働きの鈍い脳では、何が足りないのか分からない。仕方なく、ジュウはいつものように思考を停止させた。
 顔でも洗えば思考がクリアになって、何が足りないのか分かるかも知れない。そう考えて立ち上がり、洗面所に向かうことにする。
 やけに体が軽い。しかし、どこか頼りない感じもする。
 体調が良いんだか悪いんだか。今日はとことん変な感じだ。
 そんな事を思いつつ洗面所に入る。

 そこに、少女が居た。

 ボーイッシュな少女だ。
 単純にボーイッシュと言えば、ジュウには二人心当たりがある。
 一人は身長も高く、スラリと伸びた肢体と、短く切り揃えられた黒髪が特徴のクールビューティ。円堂円。
 もう一人は自らの従者の妹。竹を割ったような真っ直ぐな性格が少年のような少女。堕花光。
 しかし、そこに居たのはそのどちらでもない。
 そして、初めて見るその姿は、嫌と言う程見覚えがあった。
 身長は高くなく、それこそ自分と同年代の女性の平均程度ではなかろうか。
 こちらを見つめ返す、その強気な視線は光に似ているかも知れない。ただそこに若干、母親のような苛烈さも若干見て取れる。
 目を引くのは髪の毛だ。やや短めの髪は円ほどは短くはないと言った程度。
 そして、その髪は金色に染められていた。
 そこでようやくジュウの思考は現実に焦点を合わせた。
 茫然と佇むジュウの見つめる少女。
 そんなジュウを、やはり茫然と見つめ返すその姿。
 それは、鏡に映った自分の姿だった。
「マジかよ……」
 呟く声は、いつもより数段高かった。

 事態がハッキリしてしまえば足りない物も自ずと分かって来る。つまり、男には在るが、女には無いもの。それが足りない物の正体なのだろう。
 一応、“足りない物”の確認はしておくべきか。


576:伊南屋
06/12/13 09:26:08 HnrrQztF
 恐る恐る、手を股間に伸ばす。そっと下着越し、無論自分のトランクスの事だ。兎に角、下着越しに触れてみる。
「……ああ」
 思わず嘆く。無い、やはり無い。
 今まで、あっても嬉しいとは思わなかったが、無いなら無いで寂しいものだった。
 それにしてもどうしたものか。幸いにして今日は休日なので時間はある。
 だからと言って時間を掛ければどうなると言うわけでもない。
 完全に八方塞がりだ。
 頭を抱える。何から考えねばならないのかすら分からない。
 そんな時だった。玄関のチャイムが鳴ったのは。


「じゅ~ざ~わく~ん。あ~そび~ましょ~」
 ドアの向こうで雪姫の声がする。
 ジュウは迷う。出るべきか否か。
 迷って、決めた。出る。そして、助けを求めよう。素直に助けてもらおう。
 縋るような気分でアパートのドアを開ける。
「あ、ジュウくんおは―」
 ドアの向こう。待ち構えていた雪姫が固まった。
「お、おはよう」
 自分で何度聞いても慣れない声でジュウが挨拶する。恥ずかしさで顔が赤くなっているのが容易に分かった。
「ジュウくんが……」
 真っ青な顔で雪姫が身を震わせる。そして、近日中に響き渡る声で絶叫した。
「ジュウくんが女の子を家に連れ込んでるーー!!」
「違ぁう!!」
 ジュウも、絶叫で返した。
 しばらく後、管理人に大声について注意されるのだが、それはまた別のお話。


「というわけは……ジュウくんなの?」
 訝しげな視線で雪姫が指差す先にはジュウ。
 ジュウは小さくなった顔を前に傾げる事で肯定を表した。
「成る程……」
 取り敢えずの納得をしたのか、雪姫は大仰に頷いた。
「しかしまあ、なんというか……」
 ずいっ、と迫られジュウは顔を赤くする。それをみて雪姫は更に何かを考え込む。
「な……なんだよ」
 身を軽く引きながらジュウが訪ねると、雪姫は溜め息を吐いた。
「ジュウくんさ……可愛いよね」
「は?」
 唐突の言葉に呆気にとられるジュウ。それを無視して、雪姫の指がその頬に添えられる。
「ジュウくんの体、確かめて良いかな?」
 自分の体を確かめる?
 その意を計りかね、しかしすぐに答えに至り、ジュウは困惑する。
 ―確かめるっていうことは、例えば実際に見たり、触ったりするって事なんだろう。
 しかし、良いのだろうか。自分は男で雪姫は女で。つまりは異性な訳で、それなのに肌を晒すって言うのは。


577:伊南屋
06/12/13 09:27:55 HnrrQztF
 いや、今の体は女だから関係ないのか? でも心は男な訳で、こうして間近に雪姫の顔が迫っていることに、添えられる指に自分はドキドキしていて―
「えい」
「ひゃあああ!」
 前置き無く、体が縮んだ事でダボダボになったTシャツを捲られ、ジュウは存外可愛らしい悲鳴を上げてしまった。
 無論、ブラジャーなどしているわけなど無く、形の良い、若干小振りな胸がふるん、と揺れた。
 それを見て初めて気付く。
 自分の確認が、精々下着越しに“無い”事を確かめただけだったことに。
 自分のものながら、初めて見る胸の膨らみに目を奪われる。
 見つめながら考える。ジュウは“在る”事を確かめていなかった。
 つまりは取り敢えずは確認された胸と、まだ確かめてはいない、女性器の存在を。
「ふむ……どれどれ」
 雪姫の指先が乳房に触れる。
「ひんっ!」
 また可愛らしい悲鳴。それはやはりジュウのものだった。
 未知の感覚に思わず声を上げていた。指先が触れた部分が熱を持って痺れる。
「本物だね……」
 言って、雪姫は指先を離し今度は下へ。ジュウにも、すぐに意図が分かった。
「な、ちょっ。タイム! ストップ、ストップだ!」
 制する腕を避わし、他の部位同様に小造りになったウェストでは緩すぎるトランクスが下げられる。
 露わになったのは、極薄い茂みに覆われた、自らの秘部。
 ああ、やはり無い。そう思ったのも束の間。ジュウの視線と思考は、その茂みに囚われる。
 男として生きる限り拝むことのない、女性主観で茂みを見下ろす。
「“無い”ね……でも、代わりに“在る”のかな?」
 伸びる腕は下半身。太股の内側へ。
 囚われたままのジュウの思考は抵抗など考えもしなかった。
「ひぅ……」
 再三、悲鳴。
 男には一生賭けても分からない感覚を、ジュウは今、感じた。
 触れる雪姫の指先は恐る恐る、やがて大胆にしっかりとそこへ触れてくる。
 触れる力が増す度、感覚も明瞭になっていき、それが快感だとはっきりと分かるようになっていく。
 そうなると、生理反応が起こるのが人体のセオリーだ。
「……濡れた」
「え……?」
 雪姫の呟きに、ジュウが反応する。
「ジュウくん、気持ち良いの?」
 問われて、詰まる。
 確かに気持ち良かった。しかし、それを言葉にするのは当然躊躇われる。
 ただ、この場合沈黙こそが肯定だった。
「そっか」


578:伊南屋
06/12/13 09:30:18 HnrrQztF
 つ、と真っ直ぐ伸ばした指先が入り口に当てられる。
「続き、したい?」
 続きとは、触れるだけだった指先を中に挿入すると。そういう事だろう。
 ぐ、と浅く指先が沈められる。それだけで、秘部を中心に熱いものが広がった。
 正直、欲しいと。そう思った。
 しかし。
「だ、ダメ、ダメ、ぜったいにダメだ!」
 慌てて雪姫の指先を払いのける。
「ダメだ。それは、間違ってる。オレは男で、今身体は女だけど、根本的にはやっぱり男だ。だから、これは間違ってる。間違ってるんだ」
「ふぅん……」
 ヤバい、怒らせたか?
 黙り込む雪姫に不安になる。
 だけど、良いのだ。やはり、あのまま続けるのは間違ってる。
「やっぱりジュウくんみたいだね」
「は?」
 今日一体何度目だろう。ジュウは呆気に取られた。
「ジュウくんはさ。楽に生きようとしてるのに、そうしたがらないんだよ。今だって、流されちゃう方が楽なのにそうしなかった。そういう所でやっぱりジュウくんなんだなあって思った」
「……試したのか?」
「そういう訳じゃ無いよ。あれは可愛いかったから思わず悪ノリしちゃっただけ。でも反応みてジュウくんなんだなって、そう感じたんだよね」
「オレの話を信じて無かったのか?」
「正直、最初は全く。話を詳しく聞いて半分くらい信じる気になった。それで今ので八割かな?」
「まだ、八割なのか」
「仕方ないよ。やっぱりこんな状態は現実離れし過ぎてるからね。完全に信じるのは正直、ちょっと難しいかな?」
 申し訳なさそうに言う雪姫を見て、ジュウは気の抜けた溜め息を吐く。
「実際、そんなもんか……オレだってまだ信じられない。いや、信じたくないってのが正解か」
 だけど、と置く。
「それとは別に、さっきみたいなのは止めてくれ。正直、保たない」
「うん、ゴメン」
「……そういや」
「ん?」
「お前、そんな風に思ってたのかオレの事」
 ―楽に生きようとしてるのに、そうしたがらない。
 雪姫はそう言った。
「……知った風な口利いちゃったね」
「そんなことねえよ。案外、的を射ていると思うしな」
 言ってジュウはもう一つ思う。
 それに、人に理解されてるって言う感覚は案外、悪くない。
 それは言葉にしないでおいた。
「取り敢えず、どうするか考えなきゃね」
 そう言って、雪姫はジュウを再び見る。今度は真摯な瞳で。
「まずは……服かな?」
「え?」



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