06/10/15 10:17:22 CDULJh+s
紅魔館当主レミリア=スカーレットは、
眼前のカップに注がれた白い液体に表情を強張らせていた。
「さ、咲夜……これはなによ」
側に控えるメイド長に抗議したが、
彼女はその美しい顔をにぃっと歪ませつつ恭しく頭を下げただけだった。
「ねぇ、これを下げて。いつものを出して」
その白い液体に露骨な嫌悪をあらわし、代わりを出すように伝えたが
メイド長はその顔を更に妖しく歪ませた。
「申し訳ございませんわ、お嬢様。あいにくと只今在庫を切らしております。
血液とは違いますがこちらも生命の塊。
この機会、などというつもりはございませんが
一度お召し上がりいただきたく思う次第でございます」
おそらく初めから決まっていたであろう台詞を澱みなく口にすると
彼女は深く頭を下げてから、その目で自らの主を促した。
飲め、そうとしか語らぬ目に圧され、ちらりとカップを見やる。
それはどこまでも白く、飲んでしまえば紅の象徴たる自らが汚されてしまう印象を受けた。
やはり嫌だ。……逃げよう。
「そ、そういえば今日はパチェと本を…
「本日パチュリー様は魔女会談の為マーガトロイド亭にお出かけです」
言い終わるよりも早くその行動は不可能であることを告げられ、思わずびくりと肩が跳ねる。
ふと見れば、先ほどと変わらぬ表情に見えたメイド長が可笑しくて堪らないと目で笑っている。
その視線を屈辱に感じつつも、今度は妹を気遣う姉として切り抜けようと考えた。
「そ、そうだわ。私よりフランにあ…
「フランドール様は先ほどお召し上がりになりました。
美味しい、もっと頂戴と3杯もおかわりしてくださいました」
食事を喜んでもらえたことに顔をほころばせつつメイド長は言う。
否、あれは捕食者の笑みだ。自らの手の内でもがく様を楽しんでいるのだ。
逃げられない。絶望に眩暈がしてがくりと項垂れる。
「……お嬢様」
気が付くと後ろから抱きすくめられていた。そしてその右手には液体の入ったカップ。
「今、お嬢様はお食事なさる元気も無くしておられるようですので
僭越ながらお手伝いさせていただきますね」
恍惚としたメイド長に耳元で囁かれ左手ですぅっとおとがいを反らされる。
「あ……あぁ……」
ゆっくりとカップが傾けられ、やがてその白い液体が口の中へと……
「や~っ牛乳きらい~っ」
「好き嫌いすると大きくなれませんよ。ほら、す~ぐ終わりますからね」
主の偏食が発覚して以来、紅魔館でたびたび見られる光景だという。
完全で瀟洒なメイド長が、このときばかりは妖しい笑みを浮かべると言われているが、
真相は闇の中である。