07/03/17 03:08:26 ZRu+bXYb0
不条理なほど白い手首が俺の首にぐるりと巻きついた。
生暖かい生の温度と17歳の男子には凡そ不似合いな甘いにおいが鼻をくすぐって俺は気分が悪くなった。
「何をするんだ」
不機嫌に眉をひそめて言うと、何言ってるんだこいつという軽蔑と驚きに満ちた瞳が跳ね返ってきた。
怯む。
「何って抱きついているんだけど」
「やめろ、不快だ」
その白い手をつかんで引き剥がそうとして、あまりに細いのと思いのほか華奢というよりはがしりと頑丈なつくりに驚いた。
甘くて甘くてむせ返りそうな匂いが鼻について、胸がわるくて吐きそうになった。
俺のロッカーから小さくて無機質な物体が、
遠くにいる誰かが同じ最新技術を駆使した冷たくて小さな機械を使って俺の声を求めているという合図を送る。
ガタガタガタと振動する音とピピピピピピピという耳につく電子音が五月蝿い。
「離せ、携帯が鳴っている。」
「うん」
その女共がきゃあきゃあとわめきながら群がる端正な顔立ちを歪めもせずふっと俺から離れると
こいつはちょうちょうかなにかのようにひらりと(それは正にひらりとしか形容しようのない音)部室を出た。
ピピピピピピピという冷たい音が響く。
遠くにいる誰かが俺の声を求める。
けれどそれより俺は身近にいる暖かくて甘ったるい匂いを翻らせながら歩く人間のほうが重要なように思えて仕方なかった。