07/02/27 16:57:56 YpfP/Z7J0
職人さんカモンプリーズ
3:風と木の名無しさん
07/02/27 20:36:36 7Fj4ZOtq0
期待age
4:風と木の名無しさん
07/02/27 22:04:15 pd1koY8B0
>>1
事前にスレ立て相談所で相談くらいしなよ・・・
5:風と木の名無しさん
07/02/27 22:47:04 G1n5Qj8d0
落としちゃえこんなスレ
6:風と木の名無しさん
07/02/28 00:03:28 R7eBQf4t0
初心者板で勉強してから出直しな
7:風と木の名無しさん
07/02/28 00:09:32 l1KsQhyY0
一応貼っとくんで削除依頼、ヨロ。
【愛の】 電波な受と攻 【送受信】
スレリンク(801板)
8:風と木の名無しさん
07/02/28 00:15:29 l1KsQhyY0
って、よく見たら電波スレからの分家で、わざわざ勃てたんかい。
モナーのビデオ棚で十分でない?
9:風と木の名無しさん
07/02/28 00:16:23 dmfKxogj0
半年ROM郎が立てたクソスレはこれにて
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以後一切書込み禁止
10:風と木の名無しさん
07/03/01 10:21:04 92SwwDR30
自分は結構このスレ期待してるんだけど。
電波ってちょっと特殊だし、棚に出しにくいようなものもあるだろうと思う。
他にも特殊な嗜好の投稿スレあるし、
クソスレ乱立と責められるほどのものだとは思えないよ。
始まる前からこう貶されて荒らされちゃ書き手さんも投下しにくいだろうけど、
自分は待ってるよ。
11:風と木の名無しさん
07/03/01 11:47:54 o7Jjdi5r0
>10
禿げ同
かたくなに嫌がってるのが理解できん
今の棚に電波入れたらまた揉めそうじゃない
好き嫌い激しい特殊なモノなんだし、こういうスレあった方がいい
電波本スレは会話だけだし、SS的なの読みたいよ
12:風と木の名無しさん
07/03/01 19:59:03 v0EFLec6O
期待age
13:風と木の名無しさん
07/03/01 21:36:47 /V5nNwIyO
良スレな予感!
14:風と木の名無しさん
07/03/01 23:43:15 fSxh/zJn0
とりあえず>>1になんか書いてほしいな
これぞ「電波ものSS」みたいなの
期待age
15:風と木の名無しさん
07/03/02 01:27:01 65kBXi6kO
携帯から失礼します。
私、ここ初心者だから、何で叩かれてるのかとかよく分かってないけど、》1さんを応援します。
「ねぇ、どうしよう」
ミドリは自らの両の掌を見つめる。
またか、とクスカは思った。
また始まったのだ。
ミドリの悪い癖。
「見てクスカ、ぼくの掌、こんなにも透けてしまった」
泣いているのか笑っているのか判らないような声が震える。
透けてなんかいないよ。
「そうだね。もう消えてしまったから。次はどこが透けて、消えちゃうかな。ねぇ、クスカ」
そう言って今度はくつくつ笑った。
ミドリの視線は虚ろな場所をさまようようだ。
消えてなんかいないよ。
「クスカ、ぼくがどうやって存在しているか、知ってる、」
ミドリが笑うのをやめる。
視線は相変わらずに空虚を漂う。
「クスカ、きみがぼくの瞳を見つめるから、ぼくには瞳が存在する。きみがぼくの唇に触れて、歯に、舌に触れるから、それらが存在する。体を重ね合わせて、熱が生まれて、ぼくが生まれる」
16:風と木の名無しさん
07/03/02 01:29:05 65kBXi6kO
なにが言いたいんだい。
ミドリは唇を歪めた。
笑おうとしたけれど、失敗に終わった。
「クスカ、ごめんね。ぼくのせいだ」
ミドリの手がクスカに近付く。
頬に触れそうになり、クスカは静かに瞳を閉じる。
しかし、やってくるはずの温かい感覚を、クスカが感じることはなかった。
ミドリはそっと手を下ろす。
どうして。
「きみを解放するよ、クスカ」
歪んだ笑顔でミドリが言う。
絞り出すように。
吐き出すように。
どうして、ミドリ。ずっと、ずっとこのままで。
「クスカ、クスカ、愛している。だからきみを忘れるよ」
クスカの手が透けていく。
音も無くただ空気に溶ける。
いいのかい、本当に。ミドリはそれで。
クスカの体はもうほとんど透けてしまった。
顔は右半分が完全に無くなっている。
17:風と木の名無しさん
07/03/02 01:30:09 65kBXi6kO
「いいんだ。きみを引き止めたのは、他でもないこのぼくだから。」
クスカが微笑む。
彼が生きて、ミドリの傍にいたときのように。
風が吹いた。
突然の、強い風。
それは、すでに塵と化したクスカの残滓をさらっていった。
ミドリ、何よりも、大切だった。
そんな言葉だけをのこして。
クスカ、どんなかたちでも、きみを繋ぎ止めておきたかったんだ。
だって現実は、ぼくには残酷すぎて、とても受け入れられなかった。
まぼろしのきみでも、愛してしまうくらいに。
fin.
18:風と木の名無しさん
07/03/02 01:41:35 PsO/ZS+M0
乙!
切なくてイイ!
19:風と木の名無しさん
07/03/02 13:03:43 ZT/wNQPa0
GJ!
不思議な御伽噺みたい。
こういうのすごく好き。
20:無題
07/03/02 14:57:22 za36sQRi0
>>15さん、GJでした。
きれいなお話ですね。
私も、>>1さんではないのですが、一つ投下します。
---------------------------------------------------------------
夜になる
床に入って横たわる
目を閉じる
意識が薄れる
彼が俺に重なっている
彼は静かに俺に入ってくる
声もない汗の滴りもない
俺を撫で回す手は暖かくも冷たくもない
ただ彼が俺の中で息づいている
頬に触れる唇が動く
何かを言っている
聞こえないわからない
彼が俺を抱き締める
俺が抱き返す手は空を切る
目開けて俺は泣く
一人きりの部屋で泣く
これほどまでに愛しい男を毎夜迎えながら
俺はそれが誰なのか知らない
<終>
21:風と木の名無しさん
07/03/02 20:19:14 j9aLJ3vf0
この全体的なクオリティの低さは異常
22:風と木の名無しさん
07/03/02 22:37:57 PsO/ZS+M0
これから>>21さんが高クオリティの電波を投下してくれますwktk
23:満月
07/03/04 02:03:32 dQvX826Z0
>>21さんでも高クオリティでもありませんが保守がてら
「見て、満月!」
田村が通用口の扉を開けると、店の外で待っていた浅野が頭上を指差して言った。
「満月だよ田村、なあー、ほーらまんまるお月様!」
浅野が、田村の左手に彼の右手を絡めてきた。
田村はその手の冷たさを感じ、中で待っていればいいのに、と思いながら歩き出す。
「なあ、たむらあー」
「満月じゃないよ。満月は明日」
何が楽しいのかうるさく呼びかける浅野に顔も向けず、田村は言った。
今夜の月は確かに丸く見えるけれど、浅野の手帳のカレンダーによれば、明日の月が満月だ。
「嘘っ」
「本当だよ。―なに」
浅野が心底驚いたという顔をして立ち止まった。
手を繋いでいた田村も、気づいて一歩先で立ち止まる。
「大変だ、じゃあ今夜が最後だ田村、大変だよ」
「何が大変なんだよ」
「良い大変と、悪い大変」
「……とりあえず、うち帰らない?」
何の話か田村にはわからないが、男が手を繋いだまま道端で話している様は滑稽だ。
「そう、俺帰らなくちゃいけない」
田村の提案に何を思ったのか、浅野は妙に真剣な顔つきになって言った。
「満月の夜に帰るんだ、俺。だから今夜が最後の夜」
24:満月
07/03/04 02:05:23 dQvX826Z0
「帰るって、どこに」
二人は一月ほど前から同じ部屋に住んでいる。
そこを出て行くということだろうかと、田村は少し焦って尋ねた。
「月だよ、決まってるじゃん!」
今更何を、というように答える浅野に、田村は動揺を隠せない。
「俺てっきり今夜がその夜だと思ってたんだけど、良い大変、まだ一日あるじゃないか!」
浅野は嬉しそうに笑みを浮かべ、田村にぴったりと寄ってきた。
かと思うと表情を一変させ、眉根を寄せる。
「でも悪い大変、それでも明日の夜には俺帰るから、もう一日しかない!」
「…………つまり?」
「最後の夜を田村と大切に過ごしたいなあー、と」
身長はそう変わらないのに、浅野は少し脚を折って無理矢理上目遣いで田村を見る。
「……帰るぞ。帰って、浅野おまえ覚悟しとけよ」
田村は浅野の手を強く握って、引っ張るようにして歩き出した。
「んん、田村ー?」
「昼も夜もわかんなくなるくらい、延々とめちゃくちゃやってやるから」
「……お迎えの人たちに驚かれてしまう」
「驚かせてそのまま帰ってもらえ」
浅野が何を言っているのかわからないが、とりあえず帰ろう、と田村は足を速めた。
ゴムや諸々、すぐ出るところにあっただろうか、と考える。
「そうできたら嬉しいのになー」
浅野が月を見上げて呟いたが、考え事をしている田村の耳には届かなかった。
25:風と木の名無しさん
07/03/04 10:13:49 JiSX534U0
か、かわいいじゃねーかww
GJですよ満月さん!
26:風と木の名無しさん
07/03/09 14:40:59 A2UcMnqn0
いい!ほんと可愛い
27:風と木の名無しさん
07/03/16 23:26:33 kGxTrG1+0
このスレでは電波系SSをお待ちしております
28:無題
07/03/17 03:08:26 ZRu+bXYb0
不条理なほど白い手首が俺の首にぐるりと巻きついた。
生暖かい生の温度と17歳の男子には凡そ不似合いな甘いにおいが鼻をくすぐって俺は気分が悪くなった。
「何をするんだ」
不機嫌に眉をひそめて言うと、何言ってるんだこいつという軽蔑と驚きに満ちた瞳が跳ね返ってきた。
怯む。
「何って抱きついているんだけど」
「やめろ、不快だ」
その白い手をつかんで引き剥がそうとして、あまりに細いのと思いのほか華奢というよりはがしりと頑丈なつくりに驚いた。
甘くて甘くてむせ返りそうな匂いが鼻について、胸がわるくて吐きそうになった。
俺のロッカーから小さくて無機質な物体が、
遠くにいる誰かが同じ最新技術を駆使した冷たくて小さな機械を使って俺の声を求めているという合図を送る。
ガタガタガタと振動する音とピピピピピピピという耳につく電子音が五月蝿い。
「離せ、携帯が鳴っている。」
「うん」
その女共がきゃあきゃあとわめきながら群がる端正な顔立ちを歪めもせずふっと俺から離れると
こいつはちょうちょうかなにかのようにひらりと(それは正にひらりとしか形容しようのない音)部室を出た。
ピピピピピピピという冷たい音が響く。
遠くにいる誰かが俺の声を求める。
けれどそれより俺は身近にいる暖かくて甘ったるい匂いを翻らせながら歩く人間のほうが重要なように思えて仕方なかった。
29:風と木の名無しさん
07/03/17 19:15:00 P10GYAn/O
また携帯からスマソ。
* * *
「よし、じゃあ今からオレ、死神ね!」
好き放題に跳ねた髪を揺らしながら、にこにこと目の前の男は言う。
「は。“じゃあ”で繋がるような話をしていた覚えは無いんだが」
「残念なことですが、アナタの寿命は今日いっぱいの命です」
あ、無視なワケですね。
日本語おかしいし。
「“どうか助けて下さい”ってお願いして!」
「……(うぜー)どーかたすけてくださーい」
30:風と木の名無しさん
07/03/17 19:17:09 P10GYAn/O
まん丸な目を尖らせて、俺を睨む。
「ダメだって!もっと誠意を込めなくちゃ。キミの命が懸かってるんだよ?!」
何でコイツはこんなに真剣なんだ。
アホなのか。
「“どうか助けて下さい”……」
腰を抱き寄せて、耳元で囁いてやる。
「ぁっ……ぅ、そ、そんなに言うなら、仕方ない」
面白いくらいに真っ赤。
やはりアホだった。
「オレの寿命を分けてあげるよ。……ほんとはイケナイことだけど」
「ふうん、そりゃあ有り難いな」
ニヤニヤしながら言う。
31:風と木の名無しさん
07/03/17 19:18:16 P10GYAn/O
「もう、真面目に聞いてよ!その代わりね……」
きゅっ、と眉が下がった。
上目遣いの瞳は、小動物のそれを思わせる。
「オレをずっと置いといてね。キミのとこに、居させてね」
これが言いたかったのか。
俺は笑った。
アホの上にバカだったのか。
「それはもう、命の恩人ですから」
言うと、奴はぱぁっと笑った。
「ようし!それじゃあ、急がなくちゃね。早くしないと今日が終わっちゃう」
先ほどとは打って変わって上機嫌な男。
単純だ。
だが行動は不可解極まりない。
32:風と木の名無しさん
07/03/17 19:19:10 P10GYAn/O
「ぐ……っっ」
奴は一本のナイフを取り出すや、あろうことかそいつで俺の胸を刺したのだ。
痛みは無い。
感覚が付いて来ていないのかも知れない。
男は何か呟くと、遠慮無くそのナイフを抜き取った。
瞬間、走る閃光。
だがそれだけだった。
何も変わらない。
刺された胸も、ナイフの白い刃も。
ピピッと短い音が、日付が変わったのを知らせた。
「命拾いしたね」
男は壮絶に美しく、笑った。
33:風と木の名無しさん
07/03/17 21:24:59 9QH3agkJ0
なんというクソスレw
壮絶に美しくwwww
34:風と木の名無しさん
07/03/17 21:57:15 XN3aTChZ0
>>28
>>29-32
GJ このスレ好きです
35:風と木の名無しさん
07/03/17 22:30:01 GgQNFBuc0
>>29-32
GJだけど出来ればさげて
あと一行と一行の間に改行入れすぎで若干読みにくい
36:風と木の名無しさん
07/03/18 03:30:50 DWv4aAA5O
>>28
こういう文章好きだ
37:無題
07/03/19 20:35:42 MLNdo5tM0
すべてが機械だらけの街で、僕と彼だけが人間だった。
「何でも笑えるようになれば、人は生きていけるさ」
彼はそう言って笑い、僕はその笑顔を一目で好きになった。
機械の空の下、機械の土の上で僕たちはいつでも一緒だった。
大抵の時間は笑って過ごした。時々抑えられなくなる涙は、互いに舐め合って飲み干した。
「街の皆もこういうこと、するのかな」
機械のベッドの上、彼の身体の下で僕は尋ねたことがあった。
「あいつらは機械だからな。したって、そこに愛はない」
俺たちと違ってな、と彼は笑って答え、僕にキスをした。
彼は機械を嫌っていた。いつか機械のない街へ行くのだと、いつか僕に話して聞かせた。
「空も土も、ずーっとどこまでも広がっててさ、きれいに光ってるんだ」
目を輝かせて語る彼が、僕は大好きだった。
彼が語る、機械のない街の輝きは、そのまま僕にとっての彼だった。
「こんな、誰かに何もかも決められているような街、いつか出ていってやるさ」
機械の空を見上げて、彼は力強く言った。僕がその横顔に見惚れていると、彼が急に僕を見た。
「だから、その時は、さ」
続きを聞く前から、僕は期待していたんだ。
だから、彼がそれを言い終わる前に彼に飛びついてしまった。
「おまえも一緒に―」
「うん! うん!」
僕は彼にしがみついて、何度も頷いた。
笑いながら僕の頭を撫でる彼の手はとてもあたたかくて、僕は悲しくもないのに泣いてしまった。
僕は今でも、そのあたたかさを思い出して泣きそうになる。
でも、もう涙を飲み干してくれる彼がここにはいないのだと気付く。彼を責めたりはしない。
僕だって、最後に彼に会ったとき、機械の山の下敷きになった彼の涙を飲んであげられなかった。
次に会うときは、キスの前にまずそのことを謝らなくちゃいけない。
そばにいなくても僕にはわかる。彼は一足先にこの街を出て、今も笑っているのだ。
大丈夫、すこし約束と違うけど、すぐに追いつくから。
彼のいない、この機械の街で、機械の空を見上げながら僕は笑う。
「待っていて、すぐに会いにいくよ」
どこまでも続く空の下、機械のない街で、きっと彼が僕を待っている。
38:無題
07/03/20 06:26:21 WqoLogGK0
「剥製って中に何が入っているの?」
「おが屑……あとは綿だよ」
「ふうん、内臓の代わりにそういうの入れるからきっと生きてい
るときより軽くなるんだろうね」
「見た目は生きているときそのままだから、持ち上げて重さを知
るときに、ああこの生き物はもう死んでいるんだって漸く理解出
来るよ。余りに軽くて軽くて軽くて……いや、そんなことはどう
でもいい。喉が渇いたんだ僕は」
君は部屋の中にある四番目の冷蔵庫から炭酸水の詰まった瓶を
取り出した。冷やしておいた二つのグラスに炭酸水を注いでから
レモンを絞って入れる。ぽたぽた、ぽたぽた。レモンの果汁が君
の白い指を伝ってグラスに落ちる。ぽちゃん。
「沁みないの? 指に切り傷あったじゃない」
「沁みるよ。でも血と果汁が混じって色が変わるのが好きなんだ」
炭酸水が入ったグラスを渡された瞬間、君の指が少し触れた。と
てもとても冷たい指。でも僕の指の方がとてもとてもとても冷たか
ったから、僕にとっては君の指は温かい、の、だろう。
「この炭酸水、砂糖が入っていないの?」
「そうだよ。入れない方が炭酸水が体に染み渡るからね」
「染み渡ったら、色が変わらないかな」
「大丈夫、炭酸水は透明だから。入れたレモンの果汁色には薄く染
まるかもしれないけれど、気にするほどじゃないさ」
ごく、ごく、ごく、ごく。君と僕は炭酸水を飲む。
「困ったことがあるんだ。僕の中に入っているおが屑に炭酸水が沁
み込んだせいで、これから内側から腐ることになってしまう。君は
僕のお腹を開いて濡れたおが屑を取り出し、内側をよく洗い、そし
て新しいおが屑を入れ、お腹を閉じてくれないかな」
「いいとも。さっきも僕はその作業をしたんだ。君は覚えていない
だろうけれど」
「そうなんだ、ありがとう。この恩は忘れないよ」
「その台詞を聞くのは四十四回目だね」
「それでは四十五回目の僕もどうぞよろしく」
39:風と木の名無しさん
07/03/20 23:27:45 zR5twe/t0
>>38
>電波ものSSを読みたいと思って立ててみました。
>SSのみ投下お願いします。
会話は>>1にあるスレへお願いします。
40:風と木の名無しさん
07/03/20 23:30:49 zR5twe/t0
すいません。
よく読んだら地の文が書かれていました。
大変失礼しました。>>38さん
41:風と木の名無しさん
07/03/23 23:50:33 MXn8czgGO
>>38
こういう味わい好きです
42:蘇生
07/03/27 22:41:17 +ZqoKS+10
現代科学において蘇生術は成し得るのだろうか。
もしそうならいいのに、と俺は思う。
蘇生術が使えて死んだ人間が生き返ることが出来るようになれば、
坂本竜馬だろうがオードリー・へプバーンだろうが、生き返らせることが出来る。
きっとその頃にはクローン技術も発達しているだろうから、
街中に竜馬とへプバーンが溢れているはずだ。
見たことのある顔ばかりの街の中で、俺は一人、彼を探す。
名前を呼んでも出てこない。
高いビルの屋上から見渡しても、好きだといっていた写真展に入ってみても、いない。
かつて、世界が賞賛した人々が街中に溢れる。
それは美貌でありけり、運動能力でありけり、知能でもありける。
シェイクスピアやブリジット・バルドーの波から、俺は彼を探す。
43:蘇生
07/03/27 22:41:58 +ZqoKS+10
ドレスや着物やタキシードを着て歩く人の波の中で、黒い制服をきて、俺の名を呼ぶ彼を探す。
薄茶の髪といつも笑っている顔と細い体を探す。
まるで落した物みたいに、どこにいったのか解らない。
街中を走り抜ける。
屈んで、背伸びをして、俺は彼を探す。
名前を呼ぶたびに喉が痛む。
確かに返事は聞こえてくるような気はするのに、どこから聞こえてくるのか解らなくて歯痒かった。
ビルも道路も世界も一思いに壊れてしまえばいい。
そうすれば君は見つかる。
苦しむ人の声と燃える建物とひび割れた地面。
そして俺の死体を目の前にして、君はいつものように楽しそうにくすくすと笑うだろう。
そうなったら君は、俺を蘇生したいと感じてくれるだろうか。
44:蘇生
07/03/27 22:42:40 +ZqoKS+10
目が覚めた。
隣で裸の彼が寝ていた。
俺も裸だった。
現代科学は蘇生術が行えるほど発達していなくて、
俺がどんなに見回しても、街の中に坂本竜馬やブリジット・バルドーはいなかった。
俺はもう彼を探す必要はなかった。
だけれど、もしこの先、彼が消えてしまったらどうしようと変な不安が胸にこびりついていた。
そうだ、目印をつけよう。
俺は彼の首筋を吸った。
甘い匂いが鼻をくすぐった。
唇を放すとそこに赤い痕がついていた。
これだけじゃわからないかもしれない。
不安にかられて、体中にキスをした。
45:蘇生
07/03/27 22:43:35 +ZqoKS+10
君の体はすぐに赤い痕でいっぱいになった。
不安なので齧ってやろうかとも考えたが、
それはやめて、代わりに机の中からカッターを取り出した。
どこに傷をつけるのが解りやすいだろう。
すぐにわかるような傷。
ああ、でもすぐに消えたら意味が無いんだった。
そして俺は、一番消えにくい傷はどこにつける傷だろうと考えた。
考えてる最中に彼が起きた。
彼はすぐに体中のキスマークと、俺のもっているカッターに気づいて、俺をひどく叱った。
俺は、叱られてもどうしても、目印をつけなければならないと感じていた。
「ねえ、人間はどこにつけられた傷が一番消えにくいのだろう。」
「そんなの簡単じゃないか、心だよ。」
彼はなんでもない風に答えた。
46:蘇生
07/03/27 22:44:43 +ZqoKS+10
俺は途方に暮れた。
心の傷つけ方など、全く解らないし聞いたこともない。
だが、それを彼に聞くのは癪なのでやめておいた。
俺は、上手に人の心を傷つけることが出来る人物を蘇生したいと、強く感じた
47:電波の神様 3-1
07/04/01 10:48:31 NqybPsoa0
電波になる。彼がいると、俺は電波になる。
俺の会社は4月1日に人事異動。でも、その一週間前から新しい部署に
行って仕事に慣れるというのが慣例。やってきたのが彼。入社二年目の若者。
二年目で本社のま営業にまわされて来たということは将来が有望と
言う事だ。その彼の自己紹介する時の綺麗な顔とふっと笑った時の可愛い顔に、
なんということか俺は一目ぼれ。
彼はとても綺麗だ。男の癖に綺麗だ。女なら良かったのに。そしたら片思いで
いられた。もしかしたら両思いになれたかもしれない。なんで、俺は男なんだろう。
笑顔が可愛い。綺麗なのに可愛い。反則だと思う。綺麗か可愛いかのどっちか
ならまだいいのに。
パソコンのディスプレイ色は黒に設定。黒だと鏡のように後ろの席の彼が
ディスプレイに映るから。いつもは後ろの風景が映るのが嫌でうすいグレーに設定
してあったのに。彼の席がそこに決まってから速攻で色の変更。
…我ながら、ちょっとキモイ。でも、居直る。俺は彼に対しては電波。
パソコンの作業がないときは彼がいつもディスプレイに映ってる。
彼が来て3日。そんなやり方でいつも彼を見ている。こんな自分は電波。
多分いまだけだし。すぐに営業で外回りでお互い居なくなる事が多くなるんだし。
48:電波の神様 3-2
07/04/01 10:49:19 NqybPsoa0
ディスプレイに映る書類をめくってる彼の指先の動きに目が離せなくなる。
骨ばって長い指。
あ、最近来た営業の派遣の女が近寄って来た。何か聞いてる。
…その女は、何でもいいから話したいだけなんだきっと。綺麗で可愛い彼に。
あ、やばいな。行動だけじゃなくて思考までが電波になってきた。
でも、ああ、いいなぁ。話したいなぁ。あんな風に直接話したいなぁ。
ちょっと派遣の女に嫉妬するなぁ。
教育係の隣の席の奴にはだいぶ嫉妬してるけどなぁ。
…あ、仕事しないと。いつも電波なんてやってると社会人失格です。
「技術系の英文を訳するのって大変ですよね」
届いたメールが専門用語が多くて訳に苦労してたらいきなり話しかけられた。
彼だ。ああ、びっくり。電波の威力か。あっぱれ電波。がんばれ、電波念力。
「ここが、うまくいかないんだ」
ちょっととぎまぎしながら、彼を見て、ディスプレイを指差す。
彼が覗き込んできた。やったぞ。顔が大接近。遠慮なく彼に横顔を見たりして。
声に出さずに唇だけを動かして英文を読んでいる彼の口元が色っぽい。うっとり。
「こうしたら、どうでしょう」
さらっといい訳文を口にする。…参りました。あ、ちょうどお昼じゃないか。
いいタイミングで彼に俺に声をかけさせてくれてありがとう電波の神様。
…そんなヘンな神様が存在するのかどうか知らないけど。
でも、苦しい時の神頼み。居てくれ。もうすこし加護をくれ。電波の神様。
49:電波の神様 3-3
07/04/01 10:50:01 NqybPsoa0
「お昼をいっしょに行かないか」
「お昼をいっしょに行けたらいいなと思って」
途中まで同じ言葉を口にする。彼がびっくりした顔をして、すぐに可愛く笑う。
「なんかお前ら、練習してたように揃ってたなー、途中まで」
上司が笑いながら言う。彼はまだ可愛く笑ってる。なんか幸せな気分なんですけど。
「実は、お昼をいっしょに行けたらいいなと思って誘いに来たんです。
良かった。是非ご一緒に」
彼が座っている俺を覗き込むようにして嬉しそうに言う。うわ、本当に幸せだ。
…電波の威力はいつまで続くんだろう。お昼だけじゃなくて彼ともっと
あんなとこ行ったりとかこんなとこ行ったりとか、あんなことしたりとか
こんなことしたりとかしたいんですけど。
電波の神様お願いします。念力送りますから。
彼は嬉しそうにカツ丼を頬張る。可愛い笑顔で俺を見て言う。
「おいしいですねー」
綺麗な顔でカツ丼。ナイフとフォークでおフランス料理、と言った感じなのに。
なぜか豪快にカツ丼。ギャップに惚れる。はい、ますます惚れました。
神様、電波の念力を送りますから。神様。どうかもうすこし加護を。
あんなこととかこんなこととか彼とできるまで。
50:風と木の名無しさん
07/04/01 21:27:45 EUyWwceX0
GJ…萌えた
51:風と木の名無しさん
07/04/01 22:43:08 nKnlSZoRO
GJGJGJ!!!!!!!!!!!!
主人公可愛すぎる
52:魂替え屋
07/04/04 23:41:26 uE1MXdBR0
赤毛は五番街で魂替え屋を営んでいる。誰かの萌えは誰かの萎え。
それに気がついたときこの店をはじめた。まあまあだが繁盛している。
きょうも開店と同時に客から予約の電話があった。
「魂替えを頼みたい。ソトミは良いのだよ。外見は。如何せん性格に難があってな。
没落貴族の分際で偉ぶっておる。わしの好みは控えめな男なのだよ」
「そりゃよかった。ちょうど、しとやかな男さんの魂を仕入れたばかりでね。
旦那の男さんの魂をそいつに入れ替えましょう」
「おお、そうか。嬉しいねえ。いま直ぐ持って行くよ。仕上がりはいつになる?」
「午前中に持ってきて頂けるんなら、昼過ぎには出来ますよ」
「そうか、そうか。それはいい。実にいい。30分後にはそちらに着くよ」
電話が切れ、赤毛があれやこれやと魂抜きの準備をしていると
客が男さんを抱えてやってきた。男さんは薬で眠らされている風だった。
たいていの旦那さんは男さん方を、こうして眠らせて運び込む。
「これから魂を抜きに行く。わし好みの魂にすげ替えてもらうのだよ」と言われ
「かしこまりました、ご主人さま。さあ、参りましょう」と言う男さんは
意外といない。眠らせる。運び込む。置き去りにする。魂を抜く。魂を替える。
生まれ変わる。迎えに来る。連れて帰る。自然、こういう流れが多くなる。
53:魂替え屋
07/04/04 23:42:08 uE1MXdBR0
【春なのに、私は目が見えません】
待ち行くひとが口元に笑みを浮かべる満開の桜並木の外れで
そう札をかかげている盲目の乞食の痛みが赤毛はまったくわからない。
「私は目が見えません」と書かれていた時分は乞食に目もくれなかったご婦人が、
花ぐわしの季節になり、乞食を哀れんだどこぞの僧侶が札に
「春なのに、」と書き加えたとたん、はっとし、鉢に小銭を入れるその心がわりも
赤毛にはまったくわからない。だから赤毛は
客が置いていった長髪の男さんの寝顔を見て、まだ自分に「何かを見て
うつくしいと思うこころ」が残っていたことに驚いた。
「ソトミは良いのだよ。外見は」。そういえば客がそんなことを言っていたなと
思い出しながら、シーツをきらきら流れている男さんの髪を掬う。
糸車をまわして月の光を縒り合わせたら、
こういう絹糸みたいな銀の髪が紡げるんだろうか。
掬う端から、さらさらと手を滑り落ちてゆく艶やかな髪に見惚れ、
髪と同じ銀色の睫毛の長さに赤毛は目を見張った。
良質な白磁を思わせる肌のきめ。つんと高い鼻。瑞々しい唇。
著名な人形作家の工房でつくられた観賞人形のようだ。
少年とよぶには明らかに育ち過ぎている男さんだが、寝顔はあどけなかった。
54:魂替え屋
07/04/04 23:42:47 uE1MXdBR0
眠っていた男さんがぱちりと目を開けたとき赤毛は呼吸が一拍とまった。
洗面器にひたひたはった澄んだ水にほんの一滴、
オオイヌノフグリの雫を落としたような限りなく透明にちかい水色の瞳と
目が合ったからだ。男さんの眼差しは、まるで光りが射し込んだときの教会の
絵硝子窓の天使さまの瞳めいていた。
「ここは何処かね?帰らねば」
目を覚ました男さんは眉を寄せ赤毛を睨んだ。
赤毛は男さんの薄い水色の目に自分が映っているのにどぎまぎした。
「杖を持ってきたまえ。私はあれがないと歩けないのだよ」
「生憎預かってないんだが。あんた脚が悪いのかい?」
「君は口のきき方を知らないのかね。
この私を『あんた』などと呼ばないでくれたまえ」
そうのたまう美しい男さんを前に、赤毛は客が魂替えを望んだそのわけを瞬時に悟った。
外見は儚げでか弱そうだが、魂は真逆らしい。
「私は何故このようなあばら家に居るのかね?帰らねば」
ベッドから身を起こし、ベッドヘッドを掴みながら床に白い足をおろし
そろりと立ち上がった男さんが、ぐらりと右によろめき、
立っていられず倒れるのを見ながら赤毛は「嗚呼、右足がよくないのだな」と思った。
55:魂替え屋
07/04/04 23:43:28 uE1MXdBR0
うずくまった男さんの肩を覆う光る銀の髪を見ながら、
赤毛が手を貸すか貸すまいか迷っていると、男さんは「帰らねば」と繰り返しながら
ベッドヘッドに手をかけ六度失敗し七度目に、
生まれたての小鹿のように立ち上がった。男さんは腰の位置が素敵に高く、
そのうえキュッと上がった小尻を持っていたので脚がすらりと長く見えた。
それで普通に歩ければ申し分のない美脚なのだが、人並みには動かないらしい。
「何か杖になるものはないのかね。私は帰らねば」
「昼には迎えが来るよ。あんたを此処に連れてきたのはあんたのご主人さまだ」
「口を慎みたまえ。あれは私の主人などではない。一緒に暮らしてやっているだけだ」
「ほう、そうかい」
「そうだ。まあ、そんな瑣末的なことはどうでもよい。さあ、説明したまえ。
此処は何処なのかね。あやつは何故に私を此処に運んだのだ」
「此処は魂替え屋。あんたの『ご主人さま』は控えめな男さんがお好きだそうだ。
あんたの『外見』は『良い』そうだが『如何せん性格に難があってな』と言っていた。
だからあんたの魂を抜いて、しとやかな男さんの魂にすげ替える」
男さんの顔が色をなくし、肩を落としてベッドに腰を下ろすのを赤毛はただ見ていた。
56:魂替え屋
07/04/04 23:44:17 uE1MXdBR0
男さんも赤毛も一言も発しない嫌な間を数秒挟み、俯いていた男さんが顔を上げた。
男さんは流れるさらさらの銀髪をかきあげ、はにかんだように笑った。
「あやつは本当に私のからだが好きなようだ」
どこか寂しげな、だがとてもデレっとした笑顔に赤毛はくぎづけになった。
男さんは動かない右足を撫でながら「こんな脚でもよいと言ってくれたのだよ」と、
それはそれはにこやかな、まぶしい笑みを見せ、
没落し借金の方に売られ、男娼をしていた自分をあやつが身請けしてくれたのだと
嬉しげに嬉しげに自慢話をはじめた。
「あやつ」のことを語る男さんの表情はたおやかで美しく、
「あやつ」への慈愛に満ちていた。
「よかろう。私の魂を抜きたまえ。私があやつにしてやれる、最初で最後の贈りものだ」
月の光の色をした長い睫毛をふせ、男さんは口元にやわらかな笑みを浮かべた。
「あやつが迎えに来たとき伝えてくれ。『愛していたぞ。ご主人さま』とな」
男さんが透き通った目を開けたとき、そこには影も曇りも迷いもなかった。
赤毛は男さんからその髪みたくきらめく銀色の魂を抜き、
しとやかな男さんの魂を込めながら、もんにょりと澱む言い知れなさを腹の底に認めた。
赤毛は五番街で魂替え屋を営んでいる。誰かの萌えは誰かの萎え。
それに気がついたときこの店をはじめた。まあまあだが繁盛している。
おしまい
57:風と木の名無しさん
07/04/05 00:39:48 oRw0TY800
たまたま昼ごはんにカツ丼を食べた後で読んだのでほんわかした
>>49乙
58:風と木の名無しさん
07/04/05 07:47:49 whhax4fH0
>>52 GJ
切ないね……銀髪の魂が報われることを祈る
59:風と木の名無しさん
07/04/05 17:02:43 1rmHZ6ry0
しとやかさんの容れ物と銀髪さん魂の相性があり得ないほどばっちりで、
史上最強のツンデレになった元銀髪さんが
これまた相性最高の攻さんとめぐり合って世界一幸せになることを
力いっぱい祈ってる。
60:風と木の名無しさん
07/04/06 09:17:56 Jws+91+B0
ご主人様はもしかしたらいつか後悔するのかな
あのソトミにあの魂があってこそ自分はあれを愛していたと後で気づいたりしないのかな?
悲しいね
61:風と木の名無しさん
07/04/08 21:24:13 gODxep0u0
たぶん一週間ほど後に「どうも刺激がたりない…」と
ご主人が再度魂替え依頼に訪れると予想。
62:風と木の名無しさん
07/04/08 22:25:44 r64RYY+q0
>>61
その頃にはあの魂は別の器に入って売られていって、ご主人の下には二度と戻らない予感
63:風と木の名無しさん
07/04/08 22:36:41 /uaOxwwM0
>62
おおそんなに早くにあの性格に「萌えー」な客が!
それはそれでハッピーだ。よかった。
64:風と木の名無しさん
07/04/08 23:43:14 AiPKvoRKO
いいわぁ……。
ウトーリ(・∀・)vV
カラン。
小さな缶から、乾いた音がした。
タキはそれをゴミ箱へと投げつけた。
入らずに、そばへ転がる。
乾いた音。
「どうしたの」
近付いて来たユイは言う。
タキは転がった缶に視線を縫い付けたまま、答える。
「もう入ってないから」
ユイが缶を拾う。
耳元で、軽く振ってみる。
からからから。
「入ってるじゃないか」
色とりどりの果物が描かれた缶と、何故だか泣き出しそうな表情のタキを見比べるユイ。
「薄荷飴しか残ってないんだ」
65:風と木の名無しさん
07/04/08 23:46:10 AiPKvoRKO
タキが独り言のように呟く。
「僕は薄荷飴と一緒なんだ。極彩色の中唯一の無色。いつも最後まで残って、誰も見向きもしない」
指の先が真っ白になるほどに、シーツを掴むタキ。
「俺は好きなんだけど」
そう言ってユイは缶の蓋を取り、白い粒を一つ口の中に入れた。
それからゆっくりとタキに近付き、微笑んだ。
タキも笑って言った。
「変な味」
66:魂替え屋2
07/04/09 15:11:53 RRIIvGGG0
お医者は手を尽くしたが辻馬車に撥ねられた男さんは血を失い過ぎていた。
死に逝くからだに引きずられるように男さんの魂から光りが失せてゆく。
家族の予期しない死亡に際しての遺族の心情は察するにあまりある。
ましてこの兄弟は兄ひとり弟ひとり。
かつて兄者と恋仲だったお医者はこの兄弟のことをよく知っていた。
兄者が弟者を可愛がっていたことも、弟者が三つ上の兄者を慕っていたことも覚えている。
だが、この悲劇的な状況の中にあって時間的猶予はない。
心の臓が止まってしまえば、魂魄がからだにとどまっていられるのはわずか数十分。
お医者は兄者に弟者のからだは救えなかったけれども、
その魂だけならばまだ助けられることをつたえた。
そしてその魂で救われるからだがあることも。
67:魂替え屋2
07/04/09 15:12:28 RRIIvGGG0
弟者の脈がとまったとき、兄者は哀しみにくれながらも冷静に、
かつ誰からも強制されることなく自分の判断で弟者の魂魄提供を願い出た。
お医者に呼ばれ駆けつけた魂替え屋は、風前の灯と化していた弟者の魂を
すんでのところでからだから救いあげた。
魂替え屋と一緒に呼ばれた葬儀屋は、弟者を清め清潔な白い布でくるんだのち、
泣き濡れる兄者の肩に腕をまわし慰めた。お医者は知っている。
この葬儀屋は徹底して残された者の立場で考え、動くことができる男だ。
単なる遺体の始末屋ではない。残された者の悲嘆が思い出に昇華されるまで向き合い、
手を差し伸べる派の葬儀屋だ。
だからお医者は他の誰でもなくこの葬儀屋を遺族に紹介していた。
鈍色の夜が深けてゆく。
お医者は熱い珈琲を淹れた。そう広くない診療所に芳醇な香りとやわらかな湯気が広がる。
抜いた魂を趣のある木製の鳥かごに入れながら、赤毛の魂替え屋は
お医者がかつての恋人にそっとマグを手渡すのを見た。
互いをみつめるお医者と兄者の眼差しが静かに重なった瞬間、
淡いひかりを放ち鳥かごのなかをふよふよと漂っていた弟者の魂が星のように瞬いた。
兄者をよろしく。弟者の魂がそう囁いたのが赤毛にはわかった。
68:魂替え屋2
07/04/09 15:13:13 RRIIvGGG0
珈琲を一杯ごちそうになり赤毛は鳥かごをぶらさげてお医者の家をあとにした。
帰り道、路地裏で赤毛は足を止めた。
手荒く破かれぼろぼろになったとしか思えない服の残骸をまっとた愛らしい男さんが、
地べたに横たわっていた。履いていた靴は脱げてしまったのか片方ない。
赤毛の目には愛らしい男さんの魂が死んでいるのがわかった。
レイプはこころを殺す。たぶんそういうことなのだろうと赤毛は推察した。
耐え切れなかったのだろう。しゃぼんの玉のように男さんの魂は壊れて消えていた。
けれども、からだはまだ生きるのをあきらめていなかった。
男さんの胸が上下しているのを赤毛は眺めた。
魂にくらべればからだは強い。強いがそれでも魂の抜けたからだは
どんなに手厚い看護をしても半年ともたない。
まして半裸で夜気にさらされれば翌朝には冷たくなっていてもおかしくはないだろう。
赤毛は迷った。右手の鳥かごには抜きたての魂が入っている。
売れば金になる魂だ。どこの誰とも知らぬ男に恵んでやるいわれはない。
それ以前に魂はからだに流される。このからだに魂をいれたところで、
からだに宿っているであろう死ぬほど怖かった記憶に取り込まれてしまえば、
入れた途端にまた魂は砕けるに違いない。
目が追うもの、耳が心地よいと思うもの、舌がうまいと思うもの、
そういうものに魂は弱い。なかでも肌や鼻が覚えているあれこれに一等よわいのだ。
赤毛は白濁にまみれた男さんの下肢を一瞥し、
肌や後孔が覚えているであろう惨いことに、兄者に慈しまれていた弟者の魂が
耐えられるだろうかと考えた。答えは簡単に出た。否だ。
69:魂替え屋2
07/04/09 15:13:46 RRIIvGGG0
見なかったことにし立ち去ろう。赤毛がそう決めたとき、
鳥かごのなかの弟者の魂がまた星のように瞬いた。
男さんのなかに入れてくれと言っているのが赤毛にはわかった。
「お前さんには無理だよ」そう弟者の魂に告げながら
赤毛は先々月抜いた、製糸工場の旦那のいいひとの魂を思い出した。
借金のかたに男娼をしていた際、外見の良さを買われて旦那に身請けされるも、
偉ぶった性格を嫌われ赤毛の店に連れてこられた男さんだ。
もと男娼なら性的なことへの耐性はふつうの男さんより高かろう。
なかなか買い手もつかず未だに売れ残っている魂だ。
くれてやってもそう損はないかと赤毛は横たわっていた男さんを肩に担ぎ上げた。
店につれてかえった男さんの汚れを蒸しタオルで拭ってやり
後孔の傷の手当をしてやったあと、赤毛は拾った男さんのからだに
もと男娼の魂を込めた。蝋人形のようだった男さんの頬に赤みがさす。
男さんが髪と同じ漆黒のまつげをぱちりと開けた。
「目が…目がぁ…ッ!!」
目を開けるなり両手で顔を覆い苦しみだした男さんに赤毛はあっけにとられた。
「どうした…!?」
思わず男さんの顔を覗き込んだ赤毛に男さんは、まぶたを閉じた目をむけた。
「『色』とやらがさんざめくのだよ。君はそんなこともわからないのかね。
眩しくて目を開けていられないではないかッ!!」
70:魂替え屋2
07/04/09 15:14:31 RRIIvGGG0
「はぁ!?」
涙で濡れている男さんの漆黒のまつげを見つめながら赤毛は眉を寄せた。
「明暗こそあったが白黒だった。私の視界はずっとそうだったのだよ」
「ああ。あんた目も悪かったのか」
赤毛はようやっと納得した。そういばこの魂のもともとのからだは、
おそろしく色素の薄い目をしていた。
「口を慎みたまえ。前にも言ったはずだが覚えていないのかね?」
「……はっ?」
「『あんた』と呼ぶなと言ったのだよ」
そろそろと、強い刺激でうるんだ目を開きながら男さんは上目遣いで赤毛を睨んだ。
それからおもむろに赤毛の髪に手を伸ばした。
「……美しい『色』だな。これは何というのかね?」
「ハァ?」
「『黄色』かね?『青』かね?教えたまえ」
「赤だよ」
「これが『赤』!苺と暖炉の火の色だな」
美しいなと微笑んだ愛らしい男さんに赤毛はとまどった。
黒目がちのつぶらな瞳が赤毛を見つめている。
調子がくるう。赤毛はあわてて話題を変えた。
「そ、それはそうと、あんたからだは大丈夫かい?」
「ああ、大事無い。気にするな。馴染みの痛みだよ」
「そうかい」
71:魂替え屋2
07/04/09 15:15:27 RRIIvGGG0
宿主の魂が死ぬほど辛かった一夜の出来事を、
男娼の魂はまるごとさらりと受け止めたようだった。
さしあたって世界が色づいたことを、とまどいながらも喜んでいる魂を眺め、
赤毛はふっと苦笑した。それから、魂のもともとのからだが
杖をついていたことを思い出し、男さんが「今度のからだは
歩いたり走ったりできる」と知ったなら
新しい顔でどんな笑顔を見せるのだろうかと考えた。赤毛の頭のなかで
男さんがふわりと笑う。好いかもしれない。だから赤毛は言ってみた。
「あんたに靴を買ってやるよ。片方どっかいっちまったみたいだからな。
あんたはもう、どこにでも歩いていけるんだ」
おしまい
72:風と木の名無しさん
07/04/09 20:45:18 boGEDaYQ0
順番に
>64-65
オトナになるとね、薄荷飴からなくなります>缶入りドロップ
攻さん(かな)は今のうちにしっかり薄荷飴確保だ!
73:風と木の名無しさん
07/04/09 20:59:06 boGEDaYQ0
>66 ~
やたーハピエン!
しかしなんだろうね、毎度どうしても「シアワセになれ~」と念じて、もとい祈ってしまう。
もともとハッピーエンド志向が強いってわけでもないはずなのに。
弟くんもベストマッチな容れものに出会えるといいなー
74:魂替え屋3
07/04/10 16:56:58 gkLzsOFM0
朝おきる。晴天なり。赤毛はカーテンを開けながら、
魂替え屋の奥にある自室の隅にこさえてやった寝床で、
ちいさな寝息をたてている愛らしい男さんをちらりと眺め溜息をついた。
路地裏で拾った「魂を亡くした男さん」に、売れ残りの魂を込めてやった。
靴を片方しか履いていなかったので、歩きやすそうな靴を買ってやった。
しっとりとしたスエード地の靴だ。
スエード靴の靴言葉は「空から降ってきた神様の贈りもの」。
色は黒だ。男さんの髪と瞳と同じ黒。とてもよく似合っていた。
「これ履いてどこにでも行け。歩いて行け」と送り出した男さんは、
どこにも行かなかった。もう3日もたつのにいまだに立ち去らず赤毛の店にいる。
生い立ちだの思い出だのは、おしなべて魂にやどる。
愛らしい男さんのそれらは魂が持って逝った。
新たに赤毛が込めた魂は宿主である男さんのあれこれを知らない。
行くあてなどないのだろう。そう思い赤毛は男さんを家においてやっている。
いましばらくは滞在させてやる予定だ。ほんとうのところ、赤毛は驚いていた。
魂を込めたら、男さんはまっしぐらに
嘗てのご主人さまのもとに駆けていくものだと思っていたからだ。
75:魂替え屋3
07/04/10 16:57:34 gkLzsOFM0
「会いにいかないのか?」
思わず訊ねた赤毛に男さんは言った。
「あやつが欲していたのは私の『からだ』なのだよ。それはもう、くれてやった」
そういえば、以前「最初で最後の贈りものだ」と言っていたなと思いあたる。
「抜かれた『魂』が会いに行かねばならぬいわれがあるのかね?」
仔犬のような真っ黒な瞳が、会いたいけど会いには行けない。と、叫んでいた。
素直に会いにいける魂なら、ご主人さまに抜かれることもなかっただろうに。
苦笑しながら赤毛はその話をやめた。そんなやりとりを思い出しつつ、
赤毛は立ち止まり眠る男さんをみつめた。男さんの寝顔は驚くほど幼く見える。
そういうところは、銀色の髪が美しかった前のからだと同じだなと思う。
この愛らしい男さんがどこの誰で幾つなのかは赤毛にもわからない。
20前後だとは思うが、寝顔は15前後に見えた。
赤毛が顔を洗い朝食をとり店を開ける準備をし、
自室に戻ると愛らしい男さんはいなかった。きのうもその前の日もそうだった。
「おはよう」だとか「いってきます」だとか、いわゆる挨拶もなく
ふらっと出かけ夜中、眠りに帰ってくる。この三日、共に食事をとったこともない。
どこで何をしているのか赤毛は知りたいと思わなかった。
間違いなく赤毛には関係ないことだ。
76:魂替え屋3
07/04/10 16:58:13 gkLzsOFM0
午前中、赤毛の店に煙突掃除屋の親父さんが見習いの少年を連れてやってきた。
「高いところが駄目すぎてな。仕事を教えようにも屋根にも上れねえ。
高い金出して買ったガキがこうも使えねえと話にならんよ。
立派な煙突掃除屋になれそうな魂と取ッ替えてくれ」
赤毛が少年の魂抜きをし、ちょっと前に仕入れた軽業師の魂を込めている間、
親父さんはべらべらとしゃべりつづけた。
「そういや赤毛よぉ、お前さん製糸工場の旦那のお便所さまの魂替えしただろ?
この前、お屋敷の煙突掃除に行ったんだが、まあ、ひとが変わったように
いいおひとに変わっていたよ。3時に茶を出してくれるんだよ!茶ッ!!
『お疲れさまです』って微笑まれてたまげたね~。旦那さまにこにこで
前は『お便所さま』呼ばわりして嫌ってた使用人どもまで懐いてたぞ」
いい仕事したなァと褒め称えられ、「どーも」と赤毛は礼を言った。
77:魂替え屋3
07/04/10 16:58:54 gkLzsOFM0
その晩、愛らしい男さんは帰ってこなかった。
その次の晩もそのまた次も帰ってこなかった。
赤毛は気にしなかった。一介の魂に過ぎない男さんだ。
魂の抜けたからだを拾っただけだ。だからこのままさようなら。
恩知らずの猫のように去っていったもんだと苦笑ひとつ過去にする。
いままでもこれからも赤毛は他人さまの魂やからだに囚われない。
誰かと誰かが魂と書いてこころを行き交わし、からだをも重ねる。
そんなこともあるのだろう。
だけれども、それは自分を隔てた向こう側のお話だ。
赤毛はよくよくそれを知っている。男さんの気配が消えた部屋でまたひとり寝る。
眠りの中でこどもにかえる。赤毛。にんじん。醜い色。
実母の背中。にんじん。遠いなぁ。いつも遠い。
赤毛。にんじん。醜い色。ふうふのふわ。夫人のはけぐち。
なまえは無い。ほんとうはあるんだろうけど、夫人の口からは出てこない。
あだ名は赤毛。見たままそのままの醜い毛の色です。
朝おきる。晴天なり。カーテンを開けながら部屋の隅をみる。男さんはいない。
78:魂替え屋3
07/04/10 17:00:04 gkLzsOFM0
三日後。子のない老夫婦が「是非その魂で!」と言ったので、
在庫のなかった子どもの魂のかわりに、辻馬車に撥ねられた男さんの魂を、
ご夫婦がもってきたマリオネットに込め、一仕事終えて一服していると、
赤毛の店に愛らしい男さんが来た。
つやつやの黒い髪と黒目がちの瞳ですぐに彼と知れた。
「立て替えさせていた靴の代金だよ。受け取りたまえ」
茶封筒に入った札を渡され思わず、
聞くつもりもなかった「どこで何を?」を問うてしまう。
この男さんを前にすると「思わず」が随分と多くなるなと、
自覚しつつ改めて訊ねる赤毛に、男さんは「前の店だよ」と真顔で言った。
せっかく生まれ変わったのだしと、はじめの数日こそ
表通りの仕事を試したらしいが、皿洗いも便所掃除も敷居が高かったとのこと。
便器を磨きながら、製糸工場の旦那の屋敷で使用人に
「お便所さま」と呼ばれていたことを思い出し、
磨くより便器になるほうが性にあっていると、
かつていた男娼宿を訪ねたところ、また置いてもらえることに相成ったらしい。
はじめの幾晩かは「新しいからだ」がすくんで上手に股を開けなかったが、
「ようやく最近、また指名を取れるようになったのだよ」と男さんは語った。
79:魂替え屋3
07/04/10 17:01:14 gkLzsOFM0
受け取れないと赤毛は茶封筒を返した。
「何故かね?君に靴を恵んでもらういわれはないのだよ。受け取りたまえ」
「いや、そうじゃないだろう」
「からだかね?」
小首をかしげる愛らしい男さんに赤毛は絶句した。
「君はこのからだを夜道で拾い持ち帰ったのだったな。気があるならば抱きたまえ」
「ハァ!?」
「3秒待ってやる。金かからだが選びたまえ」
赤毛は選ばないことを選んだ。
「その靴は俺があんたに贈ったもんだ。恵んだわけでも立て替えたわけでもねえよ。
あんたがご主人さまに『からだ』をくれてやったのとおんなじだ」
「……おんなじ!?」
よっぽど驚いたのか愛らしい男さんは、
豆鉄砲をくらった小鳩のようなくるっとした瞳を赤毛に投げかけた。
「君は私を愛しているのかね?」
「いや、それはちょっと……違うような?」
いや、いっそ、そういうことでも。いや、いや、いや。
赤毛は男さんが「美しいな」と言った赤い髪を両手でわしゃわしゃ掻き毟り、
きょうのところは、金を受け取った。
おしまい
80:魂替え屋4
07/04/11 18:32:52 38ysp5780
(今回の投下でラストです。ここ数日スレを占有して申し訳ありませんでした)
赤毛は五番街で魂替え屋を営んでいる。誰かの萌えは誰かの萎え。
それに気がついたときこの店をはじめた。まあまあだが繁盛している。
きょうも開店と同時に客から予約の電話があった。
電話をかけてきたのは裏通りの男娼宿の主だ。
主は魂替え前提で店の男さんの身請けを考えてくれているお客がいるのだと言った。
お客の好みは明るく元気な男さんらしい。
適当な魂があればきょうにでも魂替えにいきたいのだと言う主に、
赤毛はやんちゃな男さんの魂があると告げた。
「いや~、よかった。ああ、よかった。その魂、誰にも売らんでくれ。
お客がなソトミにはそりゃもうご執心なんだが、高圧的な魂がいけ好かないと、
身請けにいまひとつ乗り気じゃなくてねえ。魂替えをすすめたんだよ。
よかったよかった。よい魂があってよかったよ」
切れた電話を受話器に置いた赤毛の脳裏を、愛らしい男さんの顔がよぎった。
赤毛とは魂もからだもちょっとした縁のある男さんだ。
その男さんの魂も大概「高圧的」で、裏通りで男娼をしている。
男さんと赤毛が最初に会ったのはかれこれ一年前。
陵辱され、魂を砕かれた男さんの「からだ」を拾った赤毛が、
売れ残っていた魂を込めた晩からの付き合いだ。
魂との付き合いはそれより3カ月ばかり古い。
81:魂替え屋4
07/04/11 18:33:30 38ysp5780
男さんが裏通りの店に勤めだしてからはちょくちょく顔をあわせることはないが、
それでも月に一、二度、男さんは赤毛の店をのぞきに来る。
曰く「感謝したまえ。この私が君に会いに来てやっているのだよ」とのこと。
本音を言うと赤毛は男さんの生業を好ましくおもっていない。
魂が「愛らしい男さん」のからだを粗末に扱っているのが、そこはかとなくもにょるのだ。
からだだけではない。
魂だって「誰か」がかばってやらなきゃいけないのではないかと思う。
とはいえ、男さんの生き方に干渉するほど深い付き合いではない。
少なくとも自分がその「誰か」ではないと赤毛は感じている。
男さんに何かを伝えたためしはない。
男娼宿の主がお客と一緒に男さんを連れてやってきたとき、
赤毛は「ああ、やっぱりな……」と思った。黒檀のように黒い髪と雪のように白い肌。
何よりつぶらな黒目がちの瞳。見間違えようも無く、
赤毛と一年ばかり付き合いのある愛らしい男さんだった。
「では後ほど」
主とお客が男さんを置いて店を出て行く。赤毛はちいさく溜息をついた。
82:魂替え屋4
07/04/11 18:35:20 38ysp5780
この魂を抜くのはかれこれ二度目だ。返品された不良品を交換処理する。
どこかそれに似た、けれどそれよりもやりきれない苦い気分で、赤毛は男さんをみつめた。
赤毛と男さんの視線がぶつかる。まともに合ってしまった視線を赤毛はさっとそらした。
「私の『からだ』目当ての男が多くてな」
愛らしい男さんは自嘲すると「よろしく頼む」と微笑みレヴェランスをした。
片足を後ろに引き膝を曲げ、優雅に身をかがめるその「お辞儀」に赤毛は息を呑んだ。
男さんが「お辞儀」だなんてらしくないことをしたから。
妖精めいたその仕草が愛らしいソトミにとてもはまっていたから。
息を呑んだ理由はいくらでも挙げられそうだった。
「この脚のおかげでこうして辞儀ができる。歩くことも曲げることもできる脚だった。
私は君とこのからだに感謝しているのだよ」
それに、と、男さんは言葉をつづけた。
「この目のおかげで世界の色を見ることもできた。
知っているかね?春は色とりどりなのだよ。
前の目では、わからなかったのだが花も緑も実に鮮やかだ。
こんなにも美しいものだったのだな。知らなかったよ。
春なのに、私は彩られた世界が見えなかった。
ひとも花も鳥も風も皆が春を満喫しているとき、私はいつも蚊帳の外だった。
だけれども、このからだが私に春を教えてくれた」
そう言って男さんは静かに目を閉じた。「よいぞ。抜きたまえ」
83:魂替え屋4
07/04/11 18:35:59 38ysp5780
伏せられた長い睫毛をみつめながら、赤毛は胸の奥のもにょりに目を瞑ると
一息に男さんの魂を抜き取り、空っぽになったからだに
手早くやんちゃな男さんの魂を込めた。
そうして店の奥から一等気に入っているレトロな木製の鳥かごを持ってきて、
月の光を思わせる男さんの魂をそうっと放った。
戻ってきてくれたのだと思おう。もう売り場には出すまい。
誰かの萌えは誰かの萎え。ならばこの魂は俺の萌えだ。
認めてしまえば、遠くまわり道をしたようで、いまさら口惜しさがこみあげてくる。
数週間後、赤毛は馴染みのお医者から、
悪性の高熱症で魂が熔けてしまった身寄りの無い男さんのからだを譲り受けた。
シラーが幻想的な青いムーンストーンの瞳と
ばら色の光りがものういピンクゴールドの髪を持つ、アンニュイな大人の男さんだ。
お医者は魂が病に負けたら、また熔けてしまうかもしれないと魂込めを危ぶんだが、
赤毛が込めた魂は熱に浮かされたからだの中でしぶとく生き延びた。
解熱剤を打ちながらお医者は魂の強靭さをたたえた。
84:魂替え屋4
07/04/11 18:37:04 38ysp5780
とはいえ全快には程遠く、微熱がつづく毎日に男さんは気だるげだ。
赤毛は蜂蜜と檸檬でやわらかくなるまでじっくり煮た林檎をひとくち大に切り、
銀のフォークをそえて窓辺のゆり椅子におさまっている男さんに持っていった。
部屋にはコトコト煮込んだ林檎とシロップのやさしい匂いが満ちている。
男さんはすでにして鼻腔をくすぐられているはずだ。
そう確信しながら赤毛はスイーツを差し出した。
「すりおろしを持ってきたまえ。私は甘露煮が苦手なのだよ。
そんなことも知らないのかね」
横目で睨まれても流し目でねだられたように思える不思議。
甘やかしてやるか。熱がさがるまでは、たっぷりと。
赤毛は苦笑しいしい林檎の皮をむく。
くるりくるりと螺旋を描く赤い皮にこっぱずかしい愛を込めて。
おしまい
85:風と木の名無しさん
07/04/11 19:19:19 OyK8KRl+0
魂替え屋さん、乙ーーー!!
もう乙乙乙です
よくぞここまで話を持ってきてくれました
甘露煮の甘さ香る幸せな終わり方でよかった・・・
本当によかった・・・・
泣きそうになってしまいました
86:風と木の名無しさん
07/04/11 22:07:14 Mrhjyu7y0
スタンディングオベーションに相応しい
全俺が泣いた
87:風と木の名無しさん
07/04/13 00:08:11 n/EPz7M10
この書き手さんのハピーな話はたいへんたいへん好きですよ
……不幸話は全力で拒否。ダメージ巨大だから。
二人にこれから先いついつまでも蜂蜜檸檬林檎煮のよーに甘甘萌え萌えになる呪いをかけました。
一生とけない。
88:風と木の名無しさん
07/04/13 09:56:36 cZAEwwWGO
魂替え屋さん乙でした。
男さんが幸せになってよかった…!
>>87
不幸話が苦手なのは私も同じだけど、書き手さんが
投下しにくくなるからそういう言い方は止めないか。
グロ・不幸話は最初に注意入れてくれるとありがたいと思う。
89:風と木の名無しさん
07/04/13 11:32:52 C4y+6d2O0
>>87
はっぴーえんどではないような・・・
「愛らしい男さん」は「美しい男さん」の魂のせいで
男娼に身を落とされた上どっかのお客に飼われるはめに・・・
強姦で魂とか砕けるほどピュアだった「愛らしい男さん」が可哀相だ。
「美しい男さん」の魂も本命は製糸工場の旦那でしょ?
「アンニュイな男さん」のからだ×「美しい男さん」の魂に
赤毛は萌えみたいだけど魂は一途に旦那を想ってそうだ。
「アンニュイな男さん」のからだにしたって「全快には程遠く」って書いてるし。
下がらない微熱と旦那への想いを引きずったまま、
赤毛の想いには応えられないからっていずれ店からいなくなりそう。
また前の店で男娼し出して、からだ目当ての人に身請けされて魂抜かれに来る予感。
90:風と木の名無しさん
07/04/13 11:47:57 C4y+6d2O0
連投すまん。
>>87
ごめん。自分の解釈を押し付けすぎた。
「他人さまの魂やからだ」を愛したことのなかった赤毛と
誰からも愛されたことのなかった魂が不器用に互いを求めあってくれれば
はっぴーえんどになるかもしれない。
91:風と木の名無しさん
07/04/13 20:31:20 +MqgvMhT0
不幸話で読者に巨大ダメージを与えられる、って評価はほとんど手放しの賞賛だと思うけど。
それはともかく、「わたくしの解釈は~( 長文 )」ってのはなしにしないか?
読み方なんて人それぞれ。
そしてここは「SS投下スレ」であって、ワタクシの主張を語る場ではない。
(せめて >No. つけた反論まがいの口調はヤメレ。荒れる元だ)
どうしても語りたい、って人が多いなら、自分らで専用の別室でも用意するといいと思う。
92:風と木の名無しさん
07/04/13 21:03:42 cZAEwwWGO
>>91
「全力で拒否」してるのに賞賛も何もないと思うけどな
アテクシ解釈はよそでやれっていうのは同感
絡みでやればいい話
93:風と木の名無しさん
07/04/13 22:42:18 eCXAbagv0
電波を分析・解説するのも「どういう意味?」と訊くのも凄く野暮だと思う
94:風と木の名無しさん
07/04/14 00:27:50 F0Do0yL8O
あはっ、確かに。
では次の電波SSおながいします↓↓
95:鎌鼬です
07/04/14 01:50:18 mQbgX5050
(飴を使用。やや鬼畜。苦手な方スルーお願いします)
イラ粉にちょっとづつちょっとづつ蜜をふりかけるんだ。
釜で大事にはぐくんで。三日したらイガが萌え出てくるよ。
二十日もすれば砂糖が結晶するからね。黄色ならBGMはどードーそーソーラーらーそー。
キラキラ。ころころ。ポルトガルから遣って来た。
時をかけてはぐくむのが、おそろいだからから結婚式の引出物に最適です。
お二人を手塩にかけてはぐくんできたご両親にリスペクト。
これから二人、手を取り合って家庭をはぐくんでいきますな意味もありますね。
さあ、どうぞ。お口をあけて。
僕は黄色が大好きだ。アマデウスの響きをあんたにあげる。
さあ、どうぞ。嗚呼、泣かないで。下のお口で食べて。もっともっと食べるんだ。
ねえ、ほら、もっと。溶け出すこころ、飴あられ。あんたを思ってここに光る。
「痛えぇ、痛えよッ!イガイガが、っ、痛ッ」
栗じゃない。ウニじゃない。こんなに可愛いのに。痛いわけないだろ?これは痛くない。
僕のかけら、小袋ぜんぶ頬張って。下のお口で頬張って。
どードーそーソーラーらーそー。僕の携帯の待受け画面あんただよ。
溶け出すグラニュー糖。黄色い可愛い小鬼たち。べたべた光る。ひくつく孔から漏れる粒。
あんたを思ってここに光る。なんておしゃまな鎌鼬。
96:風と木の名無しさん
07/04/14 07:09:28 ngGOmDVs0
>95
貴方のその作風には「鬼畜注意」ではなくて
「不快感をもよおす表現・下品な表現がある」
と入れるべきだと思う。叩くつもりではないよ、念のため。
それも個性だし、そういう個性への需要があるのもわかってる。
でも注意書きが必要なレベルの個性なのは確かだ。
97:風と木の名無しさん
07/04/14 09:40:59 otaGMujv0
電波SSは好きだが電波な感想レスはいらん
どっか行け>96
98:風と木の名無しさん
07/04/14 09:56:06 sAO9zHOFO
>>95
文章に引き込まれました
電波な鬼畜萌える
>>96
飴を使用で普通感づくと思うが
99:風と木の名無しさん
07/04/14 15:55:03 kg1Ck3eK0
鬼畜スレとはまたちがうのね
100:風と木の名無しさん
07/04/14 17:26:13 NeYsUDL/O
スレタイから違うだろ
101:風と木の名無しさん
07/04/15 16:07:44 A8trG17kO
「僕らは前世では離ればなれになってしまったけど。」
きらきらした目で、透が熱心に語る。
「現世ではいっしょにいるべきなんだ。理人は僕の半身なんだよ。」
熱に浮かされたように。
「だからずっと…僕といっしょでいて。」
「…透、なんかおかしいぞ。今のお前、怖い……」
「………そう……貴方も私を嫌うのね…」
口調が変わる。
心なしか、声音も女性的に聞こえた。
「君は彼の半身であっても、僕にとっては一部でしかなりえないんだ。」
「一部なら、いらない。」
「でも、半分なら。」
「捨てられない。」
倒錯的に、一つの口から、色々な声が。
「いらない。」
「ほしい。」
「捨ててしまえ。」
「手に入れろ。」
「砕け。」
「壊せ。」
「壊せ。」
「壊せ。」
――――っ!
「ばいばい、理人。」
部屋中に響いてた声が、透のそれひとつにまとまった。
「俺、お前のこと好きだったよ。でも、俺のひとつのために。」
言葉を区切って、気の毒そうに笑って。
『死んで。』
さっきまでの声が、一斉に告げた。
手に持つ刃を煌めかせ。
「さて…いただきます。」
102:敗戦
07/04/23 01:17:49 tgQkgDLK0
「艦長!敵艦が更に巨大化しました。あれは……あれは、第三形態です!」
取り乱すオペレーターを諫め、「応戦しますか?」と私を見た副官に告げる。
「主砲を起動しろ。後方に吶喊する」
「了解」
「艦長!後方、湿度が足りません。弾かれますッ」
「進路を前方に変更しますか?敵を煽り主砲を誤爆させましょう。
幾ばくか潤度が上がるかと思いますが」
私は副官の進言を退けた。
「突っ込め。この航雄膣可潜艦の装甲の硬さを思い知らせてやる」
「強引なお人だ」
副官の褒め言葉に礼を言った直後、敵艦が当艦に船体を接近させてくるのを確認した。
装甲と装甲が接触する。同型艦同士の激しい摩擦にオペレーター達が嬌声をあげる。
艦への刺激は精神負荷となって乗員に跳ね返る。かくゆう私も動悸を抑えられない。
瞬く間に艦内の湿度が増していく。私たちは汗ばみ計測負荷な激しい擦振に翻弄された。
「艦長、こ、っこ、後方に、敵艦が……」
私の副官が顔を赤らめ喘ぎ喘ぎ報告する。私は今にも気をやりそうな己を叱咤し
モニターを見た。モニターには我らの後方を狙っている敵艦の
猛々しい姿が映し出されている。いかん!このままでは清童膜結界を破かれる。
反撃しようとした刹那、荒々しく後方に吶喊された。負けた。私たちは負けたのだ。
もう私たちにできることは、敵艦が侵入してくる激痛に呻き、揺さぶられるたび
悶える同胞と労わり合う事だけだった。押し寄せる快感波。撃ち込まれる主砲。
白濁流で浸水した艦内で、副官は苦しむ私を強く抱きしめてくれた。
私も副官を抱きしめた。私たちは互いを抱きしめ合いながら熱く疼く体に涙した。
103:風と木の名無しさん
07/04/27 15:28:30 UlHe2XAOO
電波ってかシュールレアリスムだよ。
方法論、手法でいえば超現実的オブジェとか優美なる死骸ね。この辺勉強すればもっといいのが書ける
かもしれない。
104:風と木の名無しさん
07/04/27 23:51:40 iLxgGMCAO
電波とシュールの違いはよく分からんけど、このスレ好き。
105:風と木の名無しさん
07/04/28 00:05:04 wIzf74iiO
禿同、何か面白いw電波的ニュアンスはゆんゆんしてるwww
106:風と木の名無しさん
07/04/28 18:05:14 NdiL8HItO
>>103
超現実主義=むきだしの現実をとらえる
電波=自分の都合のいいように現実をとらえる
(実際の現実とはかけ離れていることが多い)
だと解釈して似てるけど全然違うものだと思ってた。
まぁ電波の解釈なんて人それぞれだろうし面白ければどっちでもいいな。
107:風と木の名無しさん
07/05/10 00:58:05 /gtJ1nyP0
電波塔によじ登りながら保守
108:風と木の名無しさん
07/05/10 01:10:58 l3Fmv5FG0
>>107
危ないから気を付けてね。
109:押し掛ける!押し掛ける!押し掛ける!
07/05/19 23:25:10 4lfueVM80
危ないから気を付けてね。電波塔に登る君を見上げながら
大変なお仕事だよねって思ったよ。頑張れお笑い芸人さん。
きれいな女優さんと結婚している人もいっぱいだけど、
君は芸暦11年目で行き詰っている感あるね。
相方さんみたく世間的に有名な一発芸もないし、本業は漫才師さんらしいけれど大きな賞の
受賞経験も皆無でしょ。本物志向の監督が見つけてきた
リアルに電波塔に登ってくれるそこそこ演技力があって、
お茶の間に顔が浸透していない所見感のある人。まさにあて書きしたかのように
君はハマっているよ。凄いなぁ。
俺は5人組アイドルグループで唯一キャラが立っていない人。
歌が上手いメンバー。演技が上手いメンバー。ダンスが上手いメンバー。
トークが上手いメンバー。なんの取り得もない僕。ひとりオフの多い僕。
やっときた役者のお仕事は電波塔マニアの冴えない青年役。
電力会社の人役の君は黄色いヘルメットを被って電波塔をよじ登る。
電波塔をめぐる、他人だった男ふたりのものがたり。当たり前だけど単館上映。
手を繋ぐシーンがあるんだ。僕は電波塔と同じぐらい君を好きになる。
来月公開よろしくお願い致します。撮りはもう終わったのに役が抜けないみたい。
深夜番組。たまに君がひな壇の端や画面の隅に映っていると身を乗り出して見てしまうよ。
君が地上波にほとんど映らないからス力八゜ーに入ったんだ。
110:押し掛ける!押し掛ける!押し掛ける!
07/05/19 23:27:33 4lfueVM80
そこそこ歌えてそこそこ踊れてそこそこ喋れてそこそこ芝居が出来て
そこそこ顔がよくてそこそこ事務所の人に気に入られている僕。
中庸なんだ。君の相方さんが同期の別の人とコンビを組むってきいたのは昨日。
君は先輩芸人さんや後輩芸人さんに慰められて飲むのかな。
あたたかなものが君の周りにはきっといっぱいありそうで、
僕の助けなんて君は必要としていないってわかってる。ただいま音楽番組の収録中。
頑張る君へ届けこの応援歌。歌いながら涙が止まらない。
僕らは同じ事務所の他のグループから、あそこはグループ仲が悪いって
言われてる。実際いっしょに遊んだことないし楽屋でも
じゃれあったりしないけど歌いながら泣き出した僕の背中をメンバーが
かわるがわる撫ぜてくれました。メンバーが好き。すこぶる愛してる。
だけど社長、僕は事務所をやめたいです。とてもお笑いをやってみたい。
君の相方になりたいんだ。公私ともにそばにいたい。僕は駆けるよ。
君めがけてまっしぐらに。僕を貴方の相方にして下さい。
111:押し掛ける!押し掛ける!押し掛ける!
07/05/20 00:20:42 5MUdCAc70
(芸人目線)
大手事務所のアイドル。コンサートの度にドームやアリーナを
いっぱいにしてしまうアイドル。自分らの冠番組を持っているアイドル。
歌を出せば必ず何十万枚も売り上げるアイドル。
俺とは住む世界の違う生き物だと思っていた。
一度だけ映画で共演したことがある。携帯の番号さえ交換していない。
友達でさえない普通に他人なアイドル。メンバーの中で一番地味で控えめで
いつも聞き役にまわっているような男の子だった。
プロフィールを見て俺とタメだと知って驚いた。
アイドルの肌は芸人の肌と主成分からしてたぶん違う。
生で見たアイドルという生物はテレビで見るより端麗だった。
芸暦11年目。今月の月収は20万1千450円。バイトをしなくても
食べていけるようにはなったけれど家賃の高い東京で
広い部屋にはまだ住めない。そんな俺のワンルームの扉の前で
俺の帰りを待っていたのは一度共演したことのあるそのアイドルで
誰に住所を聞いたのか知らないけれど何でいるんだと戸惑った。
「何してはるんですか」と訊ねたら「僕を貴方の相方にして下さい」と
返された。「貴方とお笑いがしたいんです」
112:押し掛ける!押し掛ける!押し掛ける!
07/05/20 00:21:51 5MUdCAc70
ピンでがんがん仕事をしている腹黒キャラの相方に俺がとうとう切られたのは
ちょっとしたニュースになった。兄さん方や後輩たちは慰めて励ましてくれるが
いい機会だから俺は芸人を止めようかと思っている。
「いろいろ契約があって事務所を移籍できなかったので貴方の後輩には
なれなかったんですけど、互いのオフが重なった日とかに漫才をしませんか?
趣味で漫才をたしなみたいんです。貴方と」
話の流れが見えなくて突然ふってあらわれたアイドルに俺はどん引いた。
「ネタ書いてきたんです」
玄関先でざっと読ませてもらったそれは支離滅裂で酷い出来だった。
とりあえずこの人が俺のアパートの前に居るのは何か違う気がして、
ほぼ他人を換気もろくにしていない部屋に上げるのも躊躇われたから、
タクシーを呼んで帰ってもらう事にした。
「メシでも行きませんかと誘って下さいオーラ」をアイドルが
そこそこ整った顔のそこそこ綺麗な目から放っていたので、
帰ってもらった方がのちのち面倒くさいことにならない気がしたんで
そうした。ごねられたらどうしようかと思ったけれど、
アイドルは素直にタクシーに乗ってくれた。
去り際、携帯の番号を渡された。「また来ます」と言われて焦った。
怖い。(おしまい)
113:風と木の名無しさん
07/05/24 12:22:23 jIhuCos20
チャーリーとチャーリーは双子でした あまりにそっくり
どこからチャーリーで どこまでチャーリーなのか
もう全然わかりません
さあ 調べてみよう
チャーリーはチャーリーを探したけどムダでした
そう チャーリーとチャーリーは同一人物だったのです
浜辺で流木を集めながらチャーリーは考えました お店を開こうかな
砂浜の向こうから 近づいてくる最初のお客さんの
手にした空き缶を見つめます
さぁ チャーリーとチャーリーの堂々たる睨みあいが始まった!
するとチャーリーが叫びながら飛び上がりました
なんとチャーリーがチャーリーの襟元に1ドル硬貨を落としてしまったのです
「うわあ 首が折れちゃうよ! 二度と元に戻らなかったどうすんのさ!
ま いいか!
お前の首と俺の首は同じものだから」
チャーリーとチャーリーは双子でした
どこからチャーリーで どこまでチャーリーなのか
もう、全然わかりません
そう チャーリーとチャーリーは同一人物だったのです
114:風と木の名無しさん
07/05/26 22:43:31 ARvFq7V1O
>>109->>112
なんかこの二人好きだよーGJ!
アイドル君がアブな可愛くてまさに理想の電波。地味でおとなしい子(タレントだけど)が何かに執着を持った途端タガがはずれて暴走しちまうのってリアリティーあるよね
115:ラジオ!ラジオ!ラジオ!
07/05/30 10:28:11 eSJeds1o0
コンサートツアーがはじまった全国津々浦々まわります。
君に会いに行く。日課だったのにツアーが終わるまでできないよ。
会いにいけなくてごめんなさい。寂しい思いをさせちゃうかな。
持ち運べるラジオとテレビを買ったよ。
ラジオって凄いんです。芸人さんの番組がいっぱいあって、
どの芸人さんもテレビだと言えないことをラジオだといっぱい言ってるんだ。
素の部分が凄く聞こえてくる。特に関西ローカルが凄い。
関西ローカルはテレビも凄いよね。あと、君の事務所がネット配信してる動画も。
そういうの全部、聴いて、見て、相関図をつくったよ。
君と誰がお友達で、誰と誰でいつどこに遊びにいったか
どんなところに飲みにいくのか、じわ~っと見えてきてぞくぞくした。
ある番組である芸人さんが言っていたことと
別の番組で別の芸人さんが言っていたことを重ねるとね、
もう、いろいろ見えてくるの。凄い。
君はまだ全国ネットにはほとんど出ていないし
君がメインのラジオ番組も持ってないけれど、地元の関西なら
君の先輩、君の後輩がいろんな番組や単独ライブで君の名前を出してくれている。
ゲストに呼んでもらって番組に出させてもらっている君も垣間見えたり、
君がどこのショッピングセンターに営業にいったかとか、学園祭で受けたかとか
僕が知りたいことがいっぱいわかる。こういうの「追っかけ」っていうのかな。
君と君と親しい芸人さんの番組を僕はくまなく見てます。聴いています。
最近お笑いに詳しくなったよ。社長にやっぱりアイドルをやめたいって、
ラジオのハガキ職人になりたいって言ったらとても怒られました。
116:ラジオ!ラジオ!ラジオ!
07/05/30 11:19:25 jxcZbgp60
ラジオを聴いていたら僕らのグループの大ファンだっていう
女の人芸人さんがいて、マネージャーにお願いして
コンサートにご招待しました。君と養成所で同期の女の人ふたり組。
楽屋に来てくれて、打ち上げにも来てもらって、僕のファンじゃなくて
うちのリーダーのファンだったからリーダーにお願いして
携帯のアドレスを教えて貰いました。ときどき飲みにいっています。
「うちら腐やけんな!」って、春の日ざしのようにあたたかな言葉をかけて
もらいました。僕と君を応援してくれる人ができたよ。
姐さんって呼ばせてもらってます。
僕のお笑い好きを社長が僕の売りにするって言っています。
僕のキャラがやっと定まったって社長は最近笑顔です。
「アイドルの自覚がない保護してやらんとあかん子」だそうです。
「お笑いオタクで趣味はラジオを聴くこと」。
ようやくプロフィールに書くことがみつかりました。
社長のはからい、つまりは事務所のゴリ押しで芸人さんとゴールデンで
ご一緒する機会が生まれたよ。君のもと相方さんとも共演させてもらいました。
いちばん好きな芸人さんは映画でも共演した君だって、
出る番組出る番組で言ってます。僕が君の名前を出すたびに
画面の下にテロップで君の名前がばーんと出て、
日本タレント名鑑にのっている君の写真が四角くうつります。
117:ラジオ!ラジオ!ラジオ!
07/05/30 11:20:14 jxcZbgp60
全国ネットで、お笑いが好きになったきっかけは君だって言ったんだ。
プライベートで仲良くなりたくてアドレスを伝えたのに
一度も携帯が鳴らない話もしたよ。君の大先輩が今度会わせてやるって、
一緒に食事に連れていってやるって公共の電波で約束してくれました。
テレビって凄いね。うちの事務所は上下関係ゆるいけど、
芸人さんって違うよね。先輩の誘いは断れない。
だから君は僕に会いに来る。
君とプライベートで漫才がしたいな。漫才の途中でね、目と目で会話して、
ああ、このコンビ、コンビ仲いいのが伝わってくるね、
見ててほのぼのするねって言われたい。
息がぴったりあってるからテンポいいね。面白いね。
今年の漫‐1グランプリ、準決勝進出するかもね。なんていわれてみたい。
君がすき。
カキタレでいいから僕を君のものにして。
118:風と木の名無しさん
07/05/30 21:16:08 dBa/AbKgO
>>115-117
GJ!加速するアイドル君が怖可愛くてたまりません。
電波って、純粋さとかひたむきさとかの進化した究極形態なのかなー…と、姐さんの作品読んで思ったよ。
しかし芸人君視点ならホラーだよな…。
非電波な芸人君が、電波なアイドル君のデンジャラスな愛にドン引きしつつ全速力で逃げつつ
それでもどこかで相手を気にしていると萌える。
119:あかん!あかん!あかん!
07/05/30 22:55:13 hz1ORts10
例のアイドルが最近ゴールデンやプライムタイムのバラエティに
芸人仲間と出まくっている。俺が出たくて出れない数々の番組に
準レギュラー扱いで顔を出しまくっている。
おっとりしたしゃべりで、ディープなお笑い評や後輩芸人が思っていても
恐ろしくて言えないことを無邪気にぽろっと言ってはアップになっている。
しかもちょくちょく俺の名前を出す。
親しい芸人仲間はキャラづくりに使われてんじゃないの?と言う。
それならそれで構わない。むしろそうであって欲しい。
芸人おたくなアイドル。自称お笑い通キャラ。いいと思う。
テレビ的に需要ある。だけど自惚れじゃなくてあの人の目が俺に本気な気がする。
それが怖ろしい。だってアパートにまで夜な夜なやって来るんだ。
洒落にもネタにもならねえよ。可愛い女の子なら俺も男だし
カキタレにしたくもなるけど29歳の男だ。同いの男で大手事務所のアイドル!
クラス一緒なら絶対友達じゃないタイプだし、なんか、うざい。
マジ女の子だったらよかったのに。アイドルのおかげで世間的に無名だった俺が
写真と名前のテロップだけでもゴールデン番組にばーんと出て、
お茶の間のみなさんに顔と名前を覚えてもらいつつあるのは喜ばしいけれど、
正直それも気持ち悪い。
先輩芸人に押し切られて一度食事に行った。
先輩が勝手に俺のアドレスを教えてしまった。以来、毎日毎晩、
おはよう、と、おやすみ、のメールがくる。返信は一度もしていない。
たまに長文メールがくる。ネタだ。俺がツッコミ、彼がボケ。
日増しになんか面白くなってきてるのも癪にさわる。
スケジュールに余裕があれば俺のアパート前で待っている人が、
ぱったり出没しなかった一ヶ月があって、ん?っと思っていたら、
コンサートツアーで、その期間はせいせいしたけど、よく考えたら俺、
あの人が来んことに、んっ?とか思っていて、駄目っぽい。あかん。
もう、あかん。いやや。
120:風と木の名無しさん
07/05/31 18:18:48 wbfKynOfO
>>119
芸人君逃げて超逃げてと思うと同時に
アイドル君頑張れ押せ押せとも思ってしまう
121:風と木の名無しさん
07/06/02 17:41:21 THB7tS5vO
アイドル君と芸人すごい萌える…
どっちが受なのかくるおしくきになる
122:受信
07/06/15 22:59:05 1l3mGKUs0
道を歩いていたら突然グミナシウル星からのお告げが聞こえてきた。
この世界はどうやらもうすぐ滅びるらしい。
『それを防ぐにはキミの協力が必要なんだ!』
お告げはあむろれいの真似をする若いなんとかという人のような声で言った。
なるほど、おれは選ばれたというわけだ。わっくわっく、どっきどっき。
そんな気持ち、アシカを好きになったとき以来だった。
アシカというのはおれの同居人であり、おれを今コンビニに遣わせた張本人であり、
おれのケツの穴のことをおれ以上に知っている人!
もちろんおれだってアシカのケツの穴のことはアシカ以上に知っている。
だってケツの穴は鏡がないと自分じゃなかなか見られないよね~。
アシカの顔はめがくりっとして黒目がちでかわいい、だからアシカって呼んでいる。
本当の名前は知らないし教えてくれない。
ともかく、今はミッションが優先だ。
まずはびりびりに破いたウォーターベッドのチラシを用意しなければ。
容易にはいかないな、これは。ギャグではない。
それから猫のひげ、コンドーム、などなど。コンドームはさっき買ったよ!ナイスタイミン!
やっぱりアシカはすごい。先見の明ある。
しかし一番肝要なのは、最後の締めであります。
おれの一番大事なもの、一番大事なものを捧げろというのだ、おさむ某は。
うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
おれはうなった。道を歩きながらうなった。コンドームを片手に持って
(ごめんなさい、青少年の皆さん。でも避妊は大事だし、男の子同士だってゴムはいるんだい!
セックスから目を逸らしたらだめなんだい!
だってきみたちはきみたちのおとうさんとおかあさんがせっくすしたからできたんだ!)
そんなことを考えながらうなった。うなりすぎておれは狼に返信!
123:受信
07/06/15 23:00:09 1l3mGKUs0
Re:早く帰って来い
-----------------
ええーっ、マジでトシ
ちゃん出てるの?お
ねがい!録っといて
!なんでもするから
ッ!
アシカは今日は狼かな、猫かな。猫だったらひげをもらおう。
一番大事なもの、一番大事なもの……考えていたらおれは家についていて、
結局猫だったアシカに玄関で盛られてしまって玄関が水浸しになった。
コンドームはつかっちゃだめ!って言ったから、おれのせい、おれのせいか?
ともかくおれは最後の締めにおれを捧げようと思うんだ。
だっておれの一番大事なアシカが一番大事に思っているものがおれの一番大事なものじゃないのか!?
アシカを悲しませるわけにはいかんじなびあ半島!
カッコイイ5割増しでそう言ったら猫であるアシカは狼になり、絶対嫌だ!と言って頭から食われた。
そのときぴかっと遠くの空が光って、真っ白になって、案外あっけなくおれたちは宇宙のもずく。
お告げはふいになりましたが、それでもアシカとおれは一生はなれません!
永遠に宇宙を飛び続けることにした、おれたち、地球の子どもだったのよ、ららららら……
124:あかん!あかん!あかん!
07/06/20 21:00:19 gWFhqHeG0
「あんたとアイドルくん、どっちが受けなんか
くるおしくきになるんやけど」
同期のおんなにそう言われて俺は固まった。
「ごめんやけど、俺そういうのわからへん……」
「『そういうの』ってなんよ?」
「せやから、受けとか攻めとかや!」
「わかってはるやん」
「……。」そやな。
だってその道あゆんどる姉ちゃんおるんやもん。しゃーないやろ。
例のアイドルは最近多忙を極めている模様。俺のアパート前に出没しなくなった。
メールは相変わらずこまめにくるが、返したら負けやと思って
俺は一度も返してへん。
全国ネットのCMや歌番組にバラエティ、アイドルくんは大活躍だ。
俺は関西ローカルの深夜で細々とやっている。
格差はあるけど、向こうが俺を好きな自覚あり。
こんな俺のどこを?と思うけれどわからない。
「やっぱ迫られてるあんたが受けなん?
それともツッコミのあんたが攻めさんなん?」
「……。そういうんやないし」
「じゃあ、二人の仲はどうなんよ?」
「知らんよ。俺に聞かんといてや……」
「向こうは間違いなくあんたのこと好きやで。あんた次第やん」
「向こうも男やで?あかんって」
125:あかん!あかん!あかん!
07/06/20 21:30:58 gWFhqHeG0
ガツガツ食いついてくる同期のおんなをあしらって
俺はタバコに火を着けた。
「劇場の楽屋でする話やないって」
「まあええわ。それよりあんたマジで芸人やめる気なん?」
「ん。ピンは辛いわ……。気づくの遅かったけど俺、この世界あかんかった」
「一般人になったらアイドル君と共演できんくなるよ?」
「いらん心配せんでええって。そんなん願ってないねん」
「ほんまに?」
「ほんまや」
煙を吐き出しながら俺は溜息をついた。なんとはなしに眺めた楽屋のテレビの
画面の上に白抜きでテロップが流れた。
東京発の某空港会社の飛行機が関空で着陸ミスって炎上したらしい。
エンジントラブル系の大惨事。重軽傷者多数。死者も。
流れるテロップに例のアイドルくんが所属するグループの
ダンスが上手いメンバーの名前があった。アナウンサーが、彼の名前を読み上げる。
つづいてMCが上手いメンバー。演技力に定評があるメンバー。
歌がうまいメンバー。ラストが俺のアイドルくんだった。おしまい。
126:あかん!あかん!あかん!
07/06/20 21:34:53 gWFhqHeG0
訂正
某空港会社→某航空会社。
127:風と木の名無しさん
07/06/20 22:05:14 ebveWcGj0
>125
ひとつ聞いておきたい。
このまま、今後もずっと、ココとかアチラとかに投下しては
性質の悪いヒトタチに絡まれて、やんなっちゃって、最後は
投げやりエンディング もしくは投下中断
そんなことをずっと続けるつもりなんですかー??
それとももしかして絡まれるの好きなの?
実は、根っからのMで粘着絡みーズとのおつきあいがダイスキ!
投下はプレイの一環だ!!
とかだったら仕方ないけど
そういうんでなかったらー
ほんとに好きで、楽しみに読んでる読者のことも
ちっとは考えてくれ…
つかなんでそう、数字板投下に執着するかな…
絡みレスのつかないとこで読みたいよ…
128:風と木の名無しさん
07/06/21 19:35:20 pB3d0POuO
>>127
痛い人だな。ここはSS投下スレだから巣に帰りな。
アンタみたいのを【絡み】っていうんだ。
129:風と木の名無しさん
07/06/30 08:42:56 B0xmbod50
2006/08/10(木) に某スレに投下したSSです。
たぶんこのスレ向きの話だと思うので再投下させて下さい。
長文を大量投下します。
鬼畜描写は、№7以降です。
完結しています。
【注意】
現代もの。電波風味。
受けが不衛生です。
蚊と山芋を使ったプレイあり。
ぬるめ(受け攻め共に勃起&射精シーンなし)。
食品や台所用品、日用雑貨を使った
鬼畜プレイがメインです。
苦手な方は、スルーお願いします。
【警告】
プレイがらみで、
下記のものに、ちらりと触れています。
『火/の/鳥・未/来/編』。
映画版「ゲ/ド/戦/記」。
また、プレイとはほぼ関係ありませんが、
「大/平/さんのプラネタリウム」が
話の触りに出てきます。
鬼畜、陵辱等の描写を含む創作に、
「実在する映画や漫画、娯楽施設」等が
出てくるのが生理的にNGな方は、
スルーお願いします。
130:ドードーソーソー 20-1
07/06/30 08:43:37 B0xmbod50
メシを喰うのは面倒だ。
風呂も着替えもどうでもいいし、
ごみ溜のような部屋も気にならない。
28歳、男。職業、漫画家。
普通よりだらしない俺だけども、
編集の鈴木さん恐さに、
締め切りだけは守ってる。
最近、表紙&巻頭カラーを
任せられることが増えた。
テンションは上がるけども、HPは下がる。
まして今回は、
表紙&初の全ページオールカラー。
正直、詰んだと思ったけども、
どうにかこうにか、ついさっき
鈴木さんに原稿を渡せ、
スッタフのみんなを、やっと
家に帰してあげられた。
嗚呼、まぶしい。徹夜明けの目は、
斜光カーテンをまったく無視して
射し込んでくる、真夏の光に
耐えられない。呻いていたら、
峰くんが雨戸を引いてくれた。
131:ドードーソーソー 20-2
07/06/30 08:45:29 B0xmbod50
注:痰(タン)を啜る描写あり。
峰くんは、滅多に家に帰らない。
仕事が終わっても、いつも此処にいる。
曰く、「オレがいないと先生だめだから」。
ぐうの音もでない。
仕事場や仮眠室の掃除はもちろん、
時間さえあれば、洗濯も買い出しも
食事の支度も何もかも、
ガンガンやってくれる峰くんに、
引きこもりの俺はかなり甘えてる。
連日の徹夜がたたり、夏風邪をこじらせたときは、
看病までしてもらった。
喉の奥をスライムみたいな痰(タン)に塞がれ、
息苦しさに、ぜぇぜぇ喘いでいたら
マウス・トゥ・マウスで、
吸い出してくれたのを覚えてる。
俺は峰くんに頭があがらない。
何より、峰くんとは電波の波長が合う。
どもらず話せるし、一緒にいて楽しい。
とはいえ、峰くんを
遠ざけたくなるときもある。
132:ドードーソーソー 20-3
07/06/30 08:47:07 B0xmbod50
注:「蚊と山芋を使ったプレイ」の布石あり。
締め切りが明けるたび、峰くんは
必ず俺に、淀んだ遊びを強いるのだ。
嫌で嫌でたまらないのだけども、
口に出したら嫌われそうで言えない。それにまだ我慢できる。
そういうわけで、このたびも、ミドリ色の高校ジャージと、
何日とは言わないけども長い間、
はきっぱなしだったブリーフを剥ぎ取られ、
俺は仮眠室のベッドに放られた。
徹夜明けでまぶたが重い。警鐘が鳴ってるのに、マットの心地よさにのまれ、
くらげに変身。眠りの中で海をたゆたう。
とたん拳を頭にくらった。
痛みで目が覚めた俺を見て峰くんはにこにこ嗤い、
俺の股間に鼻をうずめると、嬉しそうに言った。
「ちん毛がワキガ臭いですねぇ~」
峰くんは悪臭フェチの気がある。
それから彫刻が上手くて、変な友達が多い。
きょう、峰くんは買い出しの為外に出た。
ついでに友達に会ったかもしれない。
付けて加えて、誰も食べていないのに、
きのうまで台所にあった山芋が消えた。
嫌な予感は的中し、俺は、頭上で両手を纏められた後、
ちんちんのカタチに彫りあげられた、たくましい山芋と、
「ぼうふらの研究をしている友人から
分けて貰った」という蚊が、10匹前後
飛び回っているビニル袋を見せつけられた。鳥肌が立つ。
133:ドードーソーソー 20-4
07/06/30 08:47:54 B0xmbod50
注1:「蚊を使ったプレイ」の布石あり。
注2:脳内世界のお話あり。
器用な峰くんは、蚊と空気が
逃げないように、手早く俺のふにゃちんを、
ビニル袋に入れると、根本を輪ゴムで結わえ
微笑んだ。股間から蚊の鳴く声が聞こえる。
ちんちんに蚊がとまった。
ビニル袋の中で童貞(やわ)な息子が縮こまり、
捨て猫みたいに、がたがたぶるぶる震えてる。
山芋を手に、にたりと嗤う峰くんと目があった。
以前風呂場で水責めにあったときの様に、
からだから体温が奪われてゆく。
俺はぎゅっと目を瞑って“名無し”のことを考えた。
峰くんのキツネ目が恐ろしいとき、
俺はいつも目を閉じ“名無し”のことを考える。
“名無し”は、俺が某週刊誌で連載してる、
SF(サムライ・ファンタジー)ものの脇キャラだ。
文楽の人形遣いや歌舞伎の後見役。
はやい話、黒子を想像して欲しい。
“名無し”の見てくれは、まんまそれだ。
全身を黒で覆った、誰にも顔をさらさず、
ひとことも喋らない男。それが“名無し”。
初登場は第1話の2コマ目。以来5年。
俺は“名無し”に、見せ場もセリフも与えてない。
134:ドードーソーソー 20-5
07/06/30 08:49:09 B0xmbod50
注:脳内世界のお話のみ。
一応“名無し”は、5人いる主人公サイドの
レギュラーキャラ。歴とした主人公の仲間だ。
けども絶ッ対、“名無し”には
ライトをあてないと決めている。
コミックスの表紙や毎週の扉絵はもちろん、
どこをとって見ても、“名無し”が大写しに
なっているコマが無いように、俺はこころを砕いてる。
“名無し”以外のキャラ4人のバトルシーンは、
主人公はもちろん、他の3人もメインの週を設け、
殺陣やエピに力を入れて描くけども、
“名無し”の戦闘シーンは、
誰かが戦っているコマの角や端のみだ。
5人の中では一番強い設定なので、
誰よりも強い相手と戦わせ、
一等危険な任務につかせている。
当然、怪我も多い。
同時に、“名無し”が怪我や熱病で
弱っているときは、仲間のうちの誰かに、
“名無し”以上の大怪我をおわせ、
“名無し”が極力、かまってもらえないように
心がけている。
それから、“名無し”以外の4人は、よく2組にわける。
相棒同士、背中を預け合って戦うシーンは
絵になるし、独りコマの隅で剣を振るってる“名無し”の、
「いつも独りで」な感じがよく出る。
135:ドードーソーソー20-6
07/06/30 08:50:29 B0xmbod50
注:脳内世界のお話のみ。
ちなみに“名無し”は二刀流。
踊るように敵を斬る。
手足が長く動きに華があるからか、
コマの隅で戦うその姿を
蝶に例えられることが多い。
それプラス、上向きの美しいケツがソースになって、
“名無し”美形説が流れているらしい。
読者さまが思い描く“名無し”は、
黙々と刀を振るう、クールで美しい男のようだ。
編集部に寄せられるアンケートには、
“名無し”の見せ場を求めるものが多いとか。
けども、俺はアニメ化するときも
“名無し”役の声優さんを設けないことと、
キャラクターグッズを販売する際、
“名無し”を商品化しないことを条件にあげた。
はぶかれてこそ“名無し”だ。
この先も“名無し”の扱いをかえる気はない。
食事のシーンを中心に、
思いやり深い主人公たちには、
「独りを好むと思われる」“名無し”が
「望んでいるであろう、ほどよい距離」を取らせ、
ますます、“名無し”をぽつんと孤立させる予定だ。
俺は“名無し”に、誰にも聞こえず届かない、
終わらない叫びをあげさせたい。
136:ドードーソーソー20-7
07/06/30 08:53:38 B0xmbod50
注:蚊と山芋を使ったプレイあり。
「何考えてるんですか?」
ふいに上から峰くんの声が振ってきた。
俺にのしかかっている峰くんは、
尋ねながら腕を唸らせ、音高く
俺の頬を平手で打った。痛いッ!
けどもすぐ、ちんちんの痛痒さと
ケツのむず痒さが頬の痛みを消した。
一度意識すると、痒みは津波のように
どっと押し寄せてくる。
カリ、サオの裏筋、中腹、其処此処を蚊に刺され、
膨らんだちんちんが痒い。
カッカカッカと火照ってる。
ばりばりぼりぼり掻き上げたくてたまらない。
けども、俺の手は頭の上。きつく縛られ動かせない。
このビニル紐さえなければ、
ちんちんを掻き毟ることができる。
山芋だって動かせるのに。
山芋をぶち込まれたケツが
むずむず落ち着かない。
かぶれた腸の裏膜が熱を持つ。痒い。
キワキワまで開かされた穴は、
正直、裂けそうで辛いけども、
キツツキの嘴みたいな速さで、
突いて突いて、擦りあげて欲しかった。
137:ドードーソーソー20-8
07/06/30 08:56:05 B0xmbod50
注1:蚊と山芋を使ったプレイあり。
注2:火/の/鳥・未/来/編/に、
触れています。
ケツがひりひり、ほうほうする。前がじんじんする。
もんこもんこと腰をくねらせ、
身を捩っても、俺が欲しい刺激は得られない。セイロで蒸されているみたいに
からだが熱い。だくだく汗がとまらない。
「題して、『蚊に喰われながら、山芋を喰う先生』」
デジカメ片手に峰くんが、にこーっと嗤った。嗚呼ッ。
「峰くっ‥、ん…」
何匹もの蚊が、俺のちんちんを取り巻いてる。
熱い。痛い。痒い。
腫れあがった俺のちんちんは、
まるで、火/の/鳥・未/来/編/の
猿/田/博士の鼻みたいだ……。
嗚呼、神さま。痒みをとめてください。からだじゅうが熱い。
クーラーがきいているはずなのに、茹だるように暑い。
フローリングの床から、アスファルトのように
陽炎がたちのぼっている気がした。
「汗ばんでる先生に萌え」
峰くんは微笑みながら、右手に力を込め俺のケツに山芋を深く深く突き刺した。
痛いのと居たたまれないのとで、
頬と目の玉がカッと熱くなる。滲み上がってきた涙を
垂れ流してしまった俺に、峰くんがカメラを向けた。
「フォトジェニック~!」
耳を塞ぎたい。顔を覆いたい。レンズ越しに見られている、
あまりの身の置き場の無さに俺は悶えた。
138:ドードーソーソー20-9
07/06/30 08:57:26 B0xmbod50
注:蚊と山芋を使ったプレイあり。
右手に山芋、左手にデジカメ。
峰くんは山芋のぬめりを穴の奥になすりつけ、
俺の掻痒感を煽るだけ煽ると、突き離すようにあっさり引き抜いた。
嗚呼ッ、嗚呼ッ。痒い痒い、痒い。
後から後から沸きあがっては広がってゆく痒みに、
なけなしのプライドが、屁垂れてく。
俺はくねくね腰をくねらせ、カメラ目線で奥を掻いてとねだった。
けども峰くんは、わかっているくせに、俺の懇望をスルーする。
ときどき思い出したように、ごくごく浅いところでだけ、
出し挿れを繰り返す峰くんが恨めしい。
掻いて欲しいのはそこじゃない。
もっと奥をごりごり擦り上げて欲しかった。
不意に…ゴマのこうばしい香りがした。
「……?」
峰くんがデジカメと山芋のかわりに、ゴマ油とすりこぎを手にしてる。
「すりこぎは、お尻の孫の手なんですよ~」
ウインクひとつ、山芋を引き抜かれ、どくどくゴマ油を注がれた。
生あたたかくて気持ち悪い。
しかも、沁みる。ケツの中が
熱した銀のマドラーを挿れられたときみたく引き攣った。嗚呼ッ。
ゴマ油の匂いが鼻の穴経由で脳に灼きつく。
きっと俺はこれから先、この匂いを嗅ぐたび
きょうのことを思い出すんだろう。
この前、オリーブ・オイルを使われて以来、俺はパスタが喰えなくなった。
今回のこれで、俺はたぶんもう、デマエイッチョウが喰えない……。
袋麺じゃ、あれが一等好きだったのに!
139:ドードーソーソー20-10
07/06/30 08:58:51 B0xmbod50
注:すりこぎを使ったプレイあり。
「すりこぎ入りま~す」
じゅぶっと、穴にすりこぎの先端が沈められた瞬間、
亀頭を蚊に刺され俺は泣き叫んだ。
80マイクロメートルの針が、
過度に敏感な肉を刺し貫いていく。神経が灼き切られそうだ。
ム/ヒ/S/。いま、あの白い軟膏を
両手いっぱいに受け、上へ下へ
ちんちんを撫で摩る事ができるなら、
俺は、なんだってするッ。蚊に気をとられていたら、
ケツにお雷(らい)さんが落ちた。
「アッーーー!」
山芋で荒れたケツの中を、
ごんぶとのすりこぎが行き来する。
すりこぎの堅いイボイボに擦り上げられる度、
痒腫が細かく柔らかく潰され、
べろっとめくれあがった。嗚呼ッ。
いまにも剥がれ落ちそうな肉壁にゴマ油が沁みて沁みて、俺は絶叫した。
3週間ほど前、
歯茎にできた「どでかい口内炎」を、
電動歯ブラシでゴシゴシされ続けたとき、
コキュートスを見たと思ったけども、違った……。
もう、このケツを劈(つんざ)く痛みを、
何にたとえていいのかわからない!!!
いっそ、失神したかった。
堰を切ったように涙が溢れ出る。痙攣がとまらない。
140:ドードーソーソー20-12
07/06/30 09:01:13 B0xmbod50
注1:ほぼ脳内世界のお話。
注2:殺傷あり(ぬるめ)。
膿んだケツから、とろとろ汚血混じりのゴマ油を漏らし、
惨めったらしく悶えながら、俺は激痛を紛らわすべく、
必死に“名無し”のことを考えた。“名無し”と副長を戦わせたい。
いま、作中で主人公たち5人を追っている近衛隊の隊士たちは、
皆かなり人気がある。
次は3週ぐらい使って、敵ながら先の読者投票1位だった、
「笑わぬ副長」の過去話を描こう。
目元に暗い影のある男(副長)が、土足でひとのなかに踏み込んでくる
豪快で奔放な男(隊長)に出逢い、
半ば強引に暗がりから日向へ連れ出された日を、
隊長だけが見たことのある、副長のまぶしい笑顔を丁寧に描くのだ。
3週かけて、しっかりと布石を打ってから、
“名無し”と副長を戦わせたい。
街中で出くわし、5対5のバトルシーンに突入。
主人公は隊長と、“名無し”は副長と対戦。コマの中心(やや右より)で主人公VS隊長。
コマの左端で斬り結ぶ“名無し”と副長。
ほぼ互角。けども、速さで僅かに勝った“名無し”の二本の刀がひらめき、
副長のからだが血を噴く。瀕死の副長。
一方、主人公は隊長に追いつめられ大ピンチ。主人公のヘルプに入る“名無し”。
“名無し”が隊長に迫る。隊長、危うし!(副長目線)。
隊長を救うべく、虫の息の副長が、地べたから身を起こす。
副長の渾身の一撃に貫かれる“名無し”。
力つき倒れる副長と、主人公の股ぐらを蹴り上げ、
副長のもとに駆け寄る隊長。
141:ドードーソーソー20-11
07/06/30 09:03:20 B0xmbod50
↑ドードーソーソー20-11です。
ごめんなさい。ナンバリング間違えました。
142:ドードーソーソー20-12
07/06/30 09:04:20 B0xmbod50
注1:脳内世界のお話のみ。
注2:血と死体の描写あり(ぬるめ)。
注3:赤ちゃんを売る業者さんや、
死体を買って、ばらし売りする
業者さん登場(ぬるめ)。
睾丸にダメージ。額に汗を滲ませ悶絶する主人公。
倒れる副長を抱きとめる隊長。(スローモーション)。
隊長の手を濡らす副長の血。
別れを告げ、隊長の腕の中で息絶える副長。
無声慟哭、もう動かない副長を左肩に担ぎ、
撤退を命じる隊長。
地べたに転がっている “名無し”。
よくよく見ると、黒装束が血に染まっているのがわかる。
股間を押さえ蹲っている主人公。主人公に駆け寄る他の仲間たち。
仲間に労られながら、“名無し”を気にする主人公。
ようやっと“名無し”の死に気がつく仲間たち。
走る沈黙。
以下数コマ、活気のある街の描写。
赤ん坊売りや、天秤を担いだ魚屋が
良い声を響かせながら横切っていく。
(赤ん坊売り:この世界ではメジャーな商売)。
タイミングよく通りかかる死に人買いの荷車。
(死に人買い:上に同じ。安値で買い取った死人を、
売れる部位と売れない部位に仕分け、卸している)。
死に人買いに声をかけられ、
“名無し”を売る主人公たち。
(死人を売るのは一般的な行為。墓に入れるのは富裕層のみ)。
143:ドードーソーソー20-13
07/06/30 09:05:23 B0xmbod50
注1:脳内世界のお話あり。
注2:死体が出てきます(ぬるめ)。
二本の刀ごと買い取った“名無し”を袋に詰め、
荷台に積む死に人買い。荷車に積まれ、
先に積まれていた7つの袋といっしょに、
ごとごと揺られていく“名無し”。
去りゆく荷車と轍を見つめ、手を合わせる主人公たち(涙無し)。
隊長たちが詰めている屯所前を通る荷車。
副長を手厚く葬っている隊長&隊士たち(涙有り)。
ラストは副長の墓のアップ。……どうかな?
編集の鈴木さんは、駄目というかもしれない。
けども、“名無し”に相応しいラストだと思う。
スポットライトは副長に。“名無し”には、ひとすじの光も当てたくない。
「先生ッ!」
いきなり峰くんにグーで殴られた。
「何考えてるんですか?
痛いでしょ?苦しいしょ?もっと、ちゃんと、マジ泣きしてください。
ぼぉーっとされると、オレ虚しいんですけど」
こっちに引き戻され、
忘れかけていた疼きと痒みに襲われる。
それから荒々しく髪を引き掴まれ、
俺は耳にヘッドホンをかぶせられた。
「‥…!!!」。
144:ドードーソーソー20-14
07/06/30 09:06:38 B0xmbod50
注:不快音を使ったプレイあり。
歯医者さんのグラインダーの音が、
歯を削られるときの、あの耳障りな音がした。
次いで、誰かが黒板に爪を立てる音。
フォークか何か先の尖った金属で、
ガラスを引っ掻く高い音。
不快な音が次から次ぎへと、
耳になだれ込んでくる。
厭わしい音の洪水に気が狂いそうだ。
耳を塞ぎたいのに塞げない。
わんわんする。
蚊にたかられているちんちんが痛痒い。
すりこぎを突き刺されているケツが割れそうだ。
ゴマ油の臭いが鼻をつく。頭が、……変だ。
峰くんは、のたうちまわっている俺を
満足そうに眺めると、
にこにこ狐狸臭い笑みをうかべ
音のボリュームをあげて、
何処かへ行ってしまった。
‥…気が触れそうだ。
涙がぼろぼろ止まらない。
145:ドードーソーソー20-15
07/06/30 09:08:00 B0xmbod50
注1:壊死描写あり(ぬるめ)。
注2:「ゲ/ド/戦/記」に触れています。
暫くして峰くんはお皿を手に戻ってきた。
お皿には吾/朗/監督の「ゲ/ド/戦/記」で、ハ/イ/タ/カ達が食べていたような、
スライスされた生タマネギが乗っていた。辛い。苦い。臭い。
炒めても焼いても喰えないのに、まして生なんてっ!!
漂ってくるタマネギ臭に、吐き気が込み上げる。
「えうっ」
原稿に追われていて、10秒メシぐらいしか喰ってなかったから、
吐くものがなくて苦しい。
「先生、あーん」
口をひき結んでいると、無理矢理こじ開けられた。
「好き嫌いをしちゃだめですよ~」
「…ぇぅ」
長い菜箸で、次から次へと喉の奥に突っ込まれ、
込み上げる胃液に咽せながら、どろどろ泣いた。
菜箸が喉の奥を行き来し、吐き戻そうとするたび、タマネギが押し込まれる。
口中に酸っぱい液が溢れ、口の端からだらだら垂れた。
喉がタマネギでいっぱいで、息をしたいのに、鼻でしか出来ない。
苦しい。気持ち悪い。
喉の奥でつかえているタマネギを全部、引きずり出したい。
けども俺の手は頭上で纏められたままだ。気が遠くなる。
ビニル紐に、ぎりぎり手首を絞められながら、ふいに両手が壊死し、
絵が描けなくなるイメージが浮かんだ。
椿の花みたく、俺の両手が右の手、左の手と静かに腐れ落ちて逝くッ!
恐怖にかられ、紐を切ってくれと喚いたら、
こめかみを強く殴られた。脳の奥が眩む。
146:ドードーソーソー20-16
07/06/30 09:09:31 B0xmbod50
注:幻覚、妄想、あり。
朦朧とする意識の中で、きらきら光るゆめを見た。
満天の星空の下で、俺は鼻先に峰くんのキスを受け、
満ち足りたこころで笑ってた。
峰くんもキツネ目を細めてにこにこしてる。
ちょっと向こうでは、主人公たちが
輪になって焚き火を囲んでた。
鮎の串焼きかなんかを喰ってるみたいだ。
わいわい騒いで楽しそうだけども、
何だかどこかがいつもと違う。目を凝らしたらすぐわかった。
ひとり多いのだ。輪の中に“名無し”がいる!
しかも強引に奪い取られでもしたのか、
トレードマークの黒子頭巾は主人公の手の中に。
長い手足に、きれいな顔。
神々しく輝く金色の髪も、
エメラルド・グリーンの瞳も、
笑うとできる右頬のえくぼも、
「美しい男さん。俺のキャラの中で1番」って
書き添えた、いつかの設定資料のまんまだった。
本当はずっと見たかった“名無し”の笑顔に
ハイになって、天を仰いだ。
藍色の空に、ゆるやかに流れる天の川が見えた。
147:ドードーソーソー20-17
07/06/30 09:10:30 B0xmbod50
注1:幻覚、妄想、あり。
注2:大/平/さんのプラネタリウムが
出てきます。
まるで、大/平/さんのプラネタリウムを見てるみたいだ。
それもホ/ー/ム/ス/タ/ーじゃなくて、
メ/ガ/ス/タ/ー/Ⅱのほう。
更に言うなら、投影恒星数500万個の3/号/機/、
コ/ス/モ/ス/だ!!!
「超いっぱい星が見える!凄ぇ~!!」
大きく寝ころんで、星空を眺めてる主人公を、みんなでマネた。
「き ら き ら 光 る お 空 の 星」が
「ま ば た き」しながら俺たちを「見 て」いる。
あぁ、気持ちいい。
星空に抱かれて、こころが体に融けてゆく。
「ゆめ」だとわかっているのに、リアルに気持ちいい。
温泉につかっているみたいだ。
行ったことはないけども、そんな気がした。
このまま、このままずっと、此処にいたい。
(後日談:編集の鈴木さんの語り)
アシスタントの峰が、半狂乱で私の携帯に電話をかけてきた。
曰く、「やりすぎた」らしい。殺してやろうかと思った。