07/10/03 01:39:46 +oPmMdqk0
夢見るように、と言ったのは君だった。
それは君がまだあどけない表情で僕に密やかに語った話であり、
第三階段教室のあの壊れたクーラーの生ぬるい風の当たる席でのことだった。
僕らは隣同士に座っていた。
「ほら、眠るとさ…冬眠ってあるじゃない、そういう身体の機能が低下した状態でいると
通常より永く生きられるんだって」
君の薄く、形の良いくせにいつも曖昧に結ばれた口から零れ出る言葉は、
古代ギリシア思想史の講義と混じり合い、独特の色と形を帯びて僕の脳内に降り積もる。
興味のあるような、ないようなふりをして僕はその感覚をゆっくり味わっている。
だから思うんだけど、と君は続けた。
「ねぇ、それは緩やかに夢見るように死んでいくこととどう、違うのかな」
語りながら君の細く、形の良いくせにいつも落ち着きのない左手は教授の語る
古代哲学の体系図を正確に写しとってゆく。
「よく考えてみなよ、夢の世界は目覚めたら終わり…そういうことさ」
僕がそう返すと君は少し黙り、ノートに“根本的原理の探求、水 火 数”と書いて
ゆっくりとひとつ、まばたきをした。