07/02/01 23:44:45 Nsy5qNSJ0
苺みたいだといえば、なにやら可愛い響きだが、赤い鼻の頭に皮脂のつまった
でかい毛穴をさらしているのはみっともない。不潔だ。
その点のっぺらぼうは申し分なかった。つるんとした白肌はすべすべでつるつる。
毛穴はひとつも開いていない。彼の美肌は剥きたまごのようだった。
のっぺらぼうは狢(むじな)が化けた妖怪だとか、
その正体はカワウソだとか様ざまな説があるらしいが、
野郎宿ののっぺらぼうは、生まれながらののっぺらぼうだった。
目も鼻も口もないのっぺらぼうは、見ることも嗅ぐことも口をきくこともできない。
音を聞くこと、肌で触・痛・冷・温を感じることはできるが、
五感の残りみっつはまるで駄目だ。見ること、かぐこと、味わうこと。
のっぺらぼうは駄目なそれらを、なけなしの第六感で補いながら客を取っている。
人が羨む肌理(きめ)の細かさを持っていて、それを本人も自覚している。
具合の良さもたいしたものでその野郎宿じゃあいっとう人気のある男さんなのに、
強気ばかりではいられず、ちょっとしたことですぐ落ち込む。すぐ拗ねるし、
すぐ投げ出す。生意気なのに精神的に弱い。
のっぺらぼうってのはそんな男さんだ。と馴染みの若様は思っている。
若様はぬらりひょんだ。父上は妖怪どもの総大将らしい。