06/12/15 04:10:12 Ro5o0XcS0
血は意外と大量に出ているようで、ゆっくりと湿った感覚が広がっていくのは気持ちが悪かったし、寒気を催させた。
その中で、気絶した青年の髪を撫でる指先だけは、彼の体温を感じて温まっていた。
とても心地よい。緩やかに彼の髪が解れる度、僅かに溜まっていた熱に触れることが出来た。もっと撫でていたかった。
生きているものを撫でるというのは、こんなに安堵感を伴う行為だったろうか。何だか、忘れていた気がする。
主人も、こんな心地だったのだろうか。ふと、そんなことを思う。触れられる時もササメは限りない安堵を覚えていた。
だったら撫でる者と、撫でられる者は、きっと同じ安堵感を分け合っていたのだ。掌と、髪の熱を与え合うように。
青年は無反応だ。何を考えているかなど、分からない。眠っているものの夢を知りうることがあるはずがない。
だが、その夢が悪夢でないように―身勝手であろうと―思ってしまうのは、同じ主人に愛された仲間意識だろうか。
ぼんやりと、取りとめもなく考えている拘束男―彼が、思いつくはずもなかった。
その濃厚な血の匂いが。自身に限りなく近い血液に浸される感覚が。或いは、それに紛れたたった一滴の愛しい男の血が。
眠れる彼の『欲』を刺激して、揺り起こすことになるなど。
唐突に、ササメの手首が荒々しく掴まれた。
異変に意識だけは覚醒するが、身体は全く動かなかった。動くのは視線だけ。純粋な恐怖がすうっと背筋を伝った。
まるで化け物の前に縛られて放り出されたような緊張感を感じる。
何故目覚めたのか。彼は壊れたのではなかったのだろうか。ササメには、分からない。
ササメは主人から視線を逸らして、眩い天井を見上げた。自分の左手を握る化け物の姿を視止めようとして。
「………あんた、……死に掛けてんのか……?」
ふと声が耳に届き、視線を落とした。ササメが予想していたよりも少し脚の方寄りから、化け物は彼を見下ろしていた。
その化け物―ハダレの顔は憎しみに歪むでも有利を誇るでもなく、ただ疲れたような顔をしていた。
「目が覚めたら……いつのまに、こんなことに…あんたなら、分かると思って」