06/09/18 17:52:27 56qKtG3c0
「なあ、貸してよー。いいじゃん減るもんじゃないんだしさー」
「うるせえ! いい加減しつけーよこのバカ兄貴!」
とある一家の夕食前のひととき。トイレに行ったりテレビを見たり。
夕飯までの空腹しのぎや飲み物を調達するために台所とリビングを
往復する弟の後ろを、兄はかれこれ10分近く追い回している。
しつこいと弟が怒鳴ろうと足蹴にして追い払おうと、兄は全く
動じることは無い。
「ちょ、本当に俺疲れてんだって…」
サラリーマン生活もようやく半年。今日も重い教材カタログを手に、
1日中歩き回ってきたのだ。重い足取りでようやく帰宅し、未だ
慣れないスーツやネクタイを弛める間もなく今度は兄に追い回され
ている弟はさすがに泣きそうな声で冷蔵庫の前にしゃがみ込んでし
まった。そうする事で、ついには腰にしがみ付いていた兄と目線の
高さが同じになった。黒目がちの真っ直ぐな瞳に見つめられて思わず
目を逸らす。
そんな弟の態度を気にするでもなく、兄は逸らした目線の先に回りこ
むとポンと弟の両肩に手をかけた。
「疲れてるならなおさら、兄ちゃんにさっさと貸しちゃおう、な?」
「…お、鬼か!」
「そうだ、オニいちゃんだ」
「さぶ!」
「…まあそこは否定できないけど」
否定しろよ! と突っ込むことで弟が元気を取り戻した途端、2人の
頭上で何かを激しく叩き付ける音がした。