06/04/24 04:49:18 oPq04emd
「ん?どうした?もう食わないのか?」
いつもの半分…いや三分の一も食べないうちに箸を置いた弟の悄然とした様子に僕は首を傾げた。
激しい部活動の後の空腹と成長期特有の食欲で皿を空にしていく弟の食べる姿を楽しみにしていた僕の顔も自然と曇る。
そんな僕をチラチラと見て弟はすまなそうに幅のある上体を丸めた。
「――…うん。ご馳走サン。」
「具合でも悪いのか?」
「別に……何でもないよ。」
何でもない、そんな顔して何でもないはないだろう。
心なしか顔色もすぐれないような気もする。
立ち上がり食卓越しに手を伸ばし俯き気味の弟の前髪を指先で軽く触れ退けてみる。
「何でもなくはないだろう?ほら、熱っぽいんじゃないか?」
指の背が額に触れる寸前、僕の手は乱暴に振り払われた。
振り払われた姿勢のまま唖然とする僕を見て弟は一瞬困ったような顔を見せたが、次の瞬間には踵を返し逞しく育った背中を僕に向ける。
「――……兄貴は…兄貴はいっつもいっつもうるせぇんだよ!もう、ほっといてくれよ!」
そう苦しげに声を荒げて弟はバタバタと自室へ走って行ってしまった。
どうして?
何があったんだ?
今朝は僕の手づくりの朝食を綺麗に平らげ、弁当も嬉しそうに持って「いってきま~す」なんて眩しい笑顔で学校に行ったのに。
「兄貴が休みなら今日は早く帰るから。」なんて可愛い事まで言ってたのに。
早くに両親が亡くなり兄弟二人寄り添って生きてきた。
歳の離れた弟は何かと僕を頼り慕ってくれたし、僕もそんな弟は理屈抜きに愛しく大切な存在だ。
隠し事なんかした事もされた事も今まで一度だってない。
なのに…何故?
全く手の付けられていない夕食を前に僕は茫然とするしかなかった。