07/01/08 21:33:13 0
その後、あの本屋はひと月も経たずに取り壊されました。少ない常連客だけが来る
本屋だったので、パートだったオバちゃんが辞めたのを契機に店の持ち主が
決めたということをあとで聞きました。
私は学校帰りにすっかり整地された店の跡に立ち寄りました。
こうして平地になるとあまりの狭さに、あの出来事がいっときの夢のように
感じられました。
「残念だったね。本屋失くなって」ふいに後ろから声をかけられました。
振り向くと、同じクラスの美雪が立っていました。
「ママがね、あそこはいかがわしい本も扱っているから失くなって良かったわって
言ってたわ。あんたもここにそんな本見に来てたんでしょ?ほんとっ男子って
いやらしいよね」美雪は口を尖らせています。
私はただひと言「そうだよ」と言いました。
私が真っ赤になって否定するものと思っていた美雪は、意外そうな顔で
黙ってしまいました。
私はもう一度だけ店があった場所を目に焼き付けると、振り返り歩き出しました。
その後を美雪が続きます。
「ついてくるなよ」「別についてきてないわよ。私もこっちなの!」
そう言いながら美雪は私の横を並んで歩いています。
「あんた最近変わったね…」「どこが?」「解んないけど…とにかく変わった」
私はもし美雪にオバちゃんとの出来事を話したら、こいつどんな顔するだろうな
と考えると愉快な気分になりました。
(おわり)