07/12/27 07:32:07 41NnG9Zj
>>893
夜にでも投下してみようと思う
909:名無しさん@秘密の花園
07/12/27 19:40:53 GW1MqmOx
>>757
少し近づいた━(*´Д`)━!!子犬霧香かわゆい・・・
>>908
待ってるよ!
910:投下開始
07/12/27 23:13:15 41NnG9Zj
「ナディ……?」
ある日曜日の昼下がり。エリスは先程から、ナディを探していた。その手には、小さなプラスチックのケースが握られている。
─エリス、裁縫セット知らない? ちょっとボタンが取れちゃってさ─
店番をするエリスの前に、ナディがそう言いながら姿を見せたのは約一時間前。あの時は知らない、と応えたエリスだったが、そういえばキッチンの戸棚の奥で見かけたのを思い出したのだ。
「ナディ。見つけたよ、裁縫セット」
エリスはきょろきょろと辺りを見渡す。
一見すると狭そうな家だが、探す箇所はたくさんある。キッチンやバスルーム、自分たちにあてがわれた部屋、はては外の方まで探し回ってみたのだが、それでもナディは見つからない。
911:910
07/12/27 23:15:32 41NnG9Zj
「ナディ……いる?」
エリスは、一つの部屋のドアをそっと開けた。埃が宙を舞う。ここは、彼女はあまり入ったことが無い部屋だ。
ダンボールや木箱が無造作に置かれ、現在は物置としてつかわれているこの部屋は、昔は書斎だったと聞いた。その当時の名残で、入り口向かって右側の壁一面の本棚には、今でも多くの本が背表紙を並べている。
そして、その本棚にもたれ掛かる様に、ナディが床に座り込んでいた。西側の窓から差し込む太陽の光と、長く伸びるナディの陰とのコントラスト。それはまるで、一枚の絵のようだ。
「ナディ」
エリスはナディの傍にしゃがみ込んだ。背中に当たる太陽の日差しが暖かい。
「ナディ?」
返事は無かった。すぅすぅという、規則正しい音だけが聞こえる。
ナディは完全に眠っていた。その穏やかな寝顔から察するに、良い夢でも見ているのだろう。
912:910
07/12/27 23:18:37 41NnG9Zj
「……むぅ」
しかしそんなナディとは裏腹に、エリスは少しだけむくれていた。
せっかく裁縫セットを見つけたというのに、本人はこんな所で眠っているとは。
起こしてやろうかとも思ったエリスだったが、その時、ナディの手の中にある一冊の本に気付いた。
著者ハワード・ハイズマン。表紙には口づけを交わす男女が描かれた、赤い装丁の本。二人で旅をしていた頃に幾度か登場した、例のアレだ。
エリスは、そっと本を抜き取った。
「"二人のハートに、熱い恋の炎が燃え上がるのだった"─」
お目当てのページを見つけると、彼女は顔を綻ばせた。後にナディの前でも朗読してやろう、と思いながら。
913:910
07/12/27 23:21:25 41NnG9Zj
「─ん、エリ……ス?」
「!」
突然のナディの声に、エリスは思わず本を閉じた。慌ててナディの様子を確認すると、その瞳は未だに閉じられている。─体勢は若干変化していたが。
「ナディ……寝言」
起きたわけでは無いと分かって、エリスはほっと息をついた。そしてナディの寝顔に目をやる。
旅をしていた頃から、エリスはナディよりも早く寝ていた。だから、こうしてじっくりとその寝顔を観察するのは、初めてではないかと思う。
伏せられた睫は、時折思い出したようにピクリと動く。ゆっくりと上下する胸はその度に、少しだけ開いた口の端から息が漏れる。
914:910
07/12/27 23:23:26 41NnG9Zj
エリスはナディの頬を、右手の人差し指でツンと突いてみた。
「……んん……」
少し顔をしかめるナディ。いたずらが成功した子供のように、エリスは顔に笑みを浮かべた。面白くなった彼女は、更にナディの頬を弄る。それでもやはり、ナディは起きない。
「えへ」
エリスは次に、両手で優しくナディの頬を包み込んでみた。
その途端、ナディの口許が僅かに動く。
「……エリス。アンタの事、好きだから、ね……」
刹那の、静寂。
宙を舞う埃が、沈み始めた太陽の光にキラキラと煌めく。
聞こえるのはナディの寝息と、激しい運動をした後のように早鐘を打つ自分の心臓の鼓動だけ。
エリスはゆっくりと、ナディに顔を近づける。
「わたしもだよ、ナディ。わたしも─」
─大好き。
二人の陰が、そっと重なった。
915:910
07/12/27 23:25:59 41NnG9Zj
「あっ。いたいた、エリス」
暮れなずむ夕日に、濃いオレンジ色に染まった店内。ナディがドアを開けると、カウンターに座っているエリスが目に入った。普段と比べ少し嬉しそうなのは、気のせいだろうか。
「これ、アンタが見つけてくれたの?」
「これって何のこと?」
ナディは、ごそごそとポケットを探る。
「だからほら、この─」
そしてようやく、お目当てのものを引っ張り出す。
「─裁縫セット」
ナディの手の上には、小さなプラスチックのケースが乗っていた。エリスはちらりと視線をよこしたが、すぐに興味を無くしたように、前に向き直った。
「ううん、知らない」
ナディは怪訝そうに顔をしかめる。
「あれ、おっかしいなあ。─私が物置で本を読んでいたら、ついつい眠っちゃってね。で、起きたら私の手の中に、これがあったというわけなの」
本当に知らない? と尚もナディは詰め寄るが、エリスは知らない、の一点張りだった。
916:910ラスト
07/12/27 23:29:37 41NnG9Zj
「うーん……。じゃあ誰だろう?」
「誰だろうね」
腕を組んで考え込むナディと、そんな彼女を楽しそうに見るエリス。
「"ミゲルとナディア。二人のハートに、熱い恋の炎が燃え上がるのだった"」
不意に、エリスが口を開いた。
「─~っ!」
ナディの顔に、サッと血が上る。自分の顔が真っ赤だというのは、見なくても察せられた。
「って、やっぱりアンタじゃないの!」
「えへっ」
「"えへっ"じゃない! 全くアンタって子は……」
ナディはカウンターに身を乗り出して、エリスの頬を左右から両側に引っ張った。しばらくそうしてから、解放してやる。
「でも、まあ、ありがとね、エリス」
ナディはにっこりと微笑んだ。つられてエリスも破顔する。
「いえっさ!」
……お粗末様でした
917:名無しさん@秘密の花園
07/12/28 00:51:44 BbRfGega
GJ!
918:名無しさん@秘密の花園
07/12/28 01:37:37 iH9QIiUr
GJであります
919:名無しさん@秘密の花園
07/12/28 01:38:39 aPG/+xYB
GJ!読んでてニヤニヤしたw
920:名無しさん@秘密の花園
07/12/28 19:21:21 JXM7T7iK
GJ!!
三部作の中で、やっぱりナディとエリスのカップリングが一番好きだ。
921:名無しさん@秘密の花園
07/12/28 19:25:27 CZYuP5wz
霧ミレこそ最強
922:名無しさん@秘密の花園
07/12/28 20:14:37 eAIwTkWV
霧香が攻めなのか。それはそれで新鮮だな…
923:名無しさん@秘密の花園
07/12/29 21:24:14 NW5c+JBU
今日は良い本があったかね?
924:名無しさん@秘密の花園
07/12/30 19:44:35 jvk12t1j
すげーGJ!!!!
またよろしく!!
925:名無しさん@秘密の花園
07/12/31 00:01:13 sGNFPAM4
久しぶりに見たらSS投下多いな!何気に三部作揃ったし。
この過疎スレがパート2を迎える可能性が出てくるとは…
926:名無しさん@秘密の花園
07/12/31 08:07:16 H8Pu55eW
URLリンク(zammel.kir.jp)
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927:名無しさん@秘密の花園
07/12/31 15:20:00 qb3MgMYY
>>926
かわえええええぇぇぇ!
光の速さで保存したぜ。
928:名無しさん@秘密の花園
07/12/31 15:27:55 vJ07fNy+
>>926
最後で死んだ