07/07/09 19:42:21 vtGq55I+
「やっぱり、鈴音様にはあんな玩具よりも、私の送った本物の時計が似合ってらっしゃるわ」
放課後、教室に忘れ物を取りに来た私は、クラスの子のその言葉を聞いてドアにかけた手を止めた。
「私、鈴音様からハンカチをお借りした時、『洗って返しますから』と言って持ち帰ったの。それから『無くしましたので』と言ってもっと似合う物とすり替えたのですけど、家ではそのハンカチを眺めて、鈴音様の事を思い出すのですわ」
「あら、無くしてしまったと言って、鈴音様は怒りませんでしたの?」
「鈴音様は大人ですもの。笑って許してくださいましたわ」
「流石は私達の鈴音様よね」
そこまで聞いたところで、私は急いでその場を離れた。
体育の時間に時計が無くなったのも、貸した物が何時も返ってこないのも、全てクラスの子達が、いえ、もしかしたら違うクラスの子達も……私の周りの人間が組んでしていた事だったのだ。
確かに、それなら全て納得が行く。誰が何を盗っていこうとも、犯人など見付かるはずもなかったし、周りの子供達は私と違ってお金持ちの子供ばかりだったから、高価な物でも簡単に置いていける。それに、無くなるのは何時も『可愛らしい物』ばかり。
私がお姉さまに何時逢っても良い様な立ち振る舞いを心がけていたことで、周りの子達の目に私はとても素敵に、大人びて映っていたのだ。そして、その姿に何時しか憧れ、その内に皆で理想の『中沢鈴音』を作り上げる事を思いついた……
けれど、それが分かったところで何か出来るはずもない。
一般人が一人とお金持ちが多数では経済差があり過ぎる。幾ら子供用の物を買っても、次の日にはまた別の物に換えられてしまうだろう。私に似合う、黒や銀色をした大人用の物に……
548:名無しさん@秘密の花園
07/07/09 19:44:32 vtGq55I+
だから私は扱いの難しい大人用の物を、それでも当たり前の様に使いこなした。お姉さまに憧れている私に、同じ様に自分に憧れる周りの子達の気持ちを潰す事など出来なかったから。
そうして残ったのは、恐ろしい程の重圧。
お姉さまと逢えた時のために早くから勉強を続けていた私は、他の子よりも賢かった。だから、ずっと賢い私でなければならなかった。
お姉さまに声を褒めていただいた為に歌うのが好きだった私は、他の子より声の出し方が上手かった。だから、音楽でも他の子に、ピアノやヴァイオリンを習っている子達にさえも、負ける訳には行かなかった。
お金持ちでないが故、他の子達より友達と外で遊んで運動に慣れていた私は、他の子達より体を動かすのが得意だった。だから当然、体育でも負ける訳にはいかなかった。
そう、家庭科も、図工も、聖書を読む事でさえ負ける訳にはいかず、力仕事を回されても文句一つ言えず、欲しい物は買えず、例え休日用にでも、見られては困るから可愛らしい服も欲しがる訳にはいかない。
他の子達から『黒薔薇の君』『白銀の貴公子』等と称えられる事で、私は心休まる時を失っていった。
549:名無しさん@秘密の花園
07/07/09 19:45:44 vtGq55I+
そんな時に、私は自分の家に起きていた変化にようやく気付く。
あんなに睦まじかった父と母の仲が、何時の間にか少しずつ険悪な物となっていた。そしてその原因は、私の学費だったのだ。
私の学費が公立の小学校に比べ格段に高かった為に、父はこれまで自分の仕事ではなかった接待さえもこなさなくては成らなくなった。その為に帰りも遅くなり、元々お酒が苦手で接待を避けられる今の仕事を選んでいた父だから、抱えるストレスも大きかったのかもしれない。
そんな生活の中で夏休みを迎えた直後、初めて父と母が大きな喧嘩をする。
これまで続いてきた物が自分の所為であっという間に壊れてしまった。その事が、これまでの重圧で倒れかけていた私に止めを刺し、限界を超えたところへと追いやった。
その日、私は家を飛び出した。当てはない、それでも行くところは一つしかなかった。
お姉さまと出合った、あの公園しか……
550:名無しさん@秘密の花園
07/07/09 19:47:38 vtGq55I+
私が家を出てから一時間ほどして雨が降り始め、そして瞬く間に土砂降りと化した。
そう言えば、ニュースで台風とか警報とか言っていた気がする。けれどもう、どうでも良かった。
「まるで昨日の暑さが嘘の様……」
雨に濡れていた所為かも知れないし、あるいは風が強かった所為かも知れない。とにかく、凍てつく様に寒かった。
「このままなら、今夜辺りにはここで凍え死ぬかも」
夏に凍え死ぬと言うのは自分で言って冗談の様に聞こえたけれど、実際に段々と身体の感覚は痺れて来た気がする。それに、何だかとても眠くなってきた。
「でも、ここでなら幸せに死ねるかもしれない……」
そう、ここでならお姉さまとの思い出だけを抱き締めて死ねるかもしれない。それならそれで、幸せなことだ。
「死んだら何をしましょう? 先ずはお父様とお母様に謝って、それから、それから……」
お姉様に逢いに行きたい。
冷たい雨に身を刺されながら、私はそのまま眠りについた……
551:名無しさん@秘密の花園
07/07/09 19:48:29 vtGq55I+
意識は戻った。けれど体はだるくて動かないし、瞼も開くには余りに重い。
ただ、体を打つあの感覚は消えているから、雨は止んでいる様だった。いや、もしかしたら死んだのかもしれない。そう言えば花の匂いがする。
両手いっぱいに抱きしめたブーケの香りを柔らかな風が温かく吹き上げた様な……
ちがう、この香りは花なんかじゃなくて!
残っていた僅かばかりの力を振り絞って起き上がり瞳を開く。このまま力尽きてもかまわない。
「あ、嗚呼……」
涙が溢れて、言葉に成らなかった。忘れるはずもない。二年間、瞼の裏に焼きついて離れなかった。その美しい後姿!
「あら、起きてしまったの?」
そう、この声……この声をお聞きしたくて、私は毎日、毎日、あの公園で……
そして今、ゆっくりと近づいて来て、私の頬にその手を。
幻覚でなかった!
幻聴でもなかった!
今、私は確かに二年前と同じ温もりに触れている……
「今はおやすみなさい。話は、次に起きた時にしましょう」
私は死んでしまったのでしょう。そうに決まっています。
だって、ここはきっと天国ですもの。
552:名無しさん@秘密の花園
07/07/09 21:19:53 8uLRuhgs
GJ!!
久々に来たら話が進んでてびっくりした
553:名無しさん@秘密の花園
07/07/10 21:52:28 lwrqZME4
こちらが全く予期していない方向性の展開です。
続きに期待しております。
554:名無しさん@秘密の花園
07/07/28 00:19:23 8VBqKC8/
~鈴音編ーその3~
力尽きて眠ってしまった後、再び気がついた私は、先刻の事が夢でなかった事を確かめ安堵する。確かに先程と同じ部屋、同じベッド。
ただ一つだけ不安だったのは、その部屋にお姉様の姿が見えなかった事。
「お、お姉……さま……」
戸惑いがちにそうお呼びすると、何だか不思議なくすぐったさが上がって来た。
「お姉さま、お姉さま?」
最初はその響きに酔っていたけれど、繰り返すうち、次第に不思議な恐怖心が芽生え始めた。
お姉さまの返事がない。
「お姉さま! お姉さま!」
せっかく会う事が出来たのに……『次に起きた時に』と言ってくださったのに……
もう、眠っている場合ではない。ベッドから飛び降り、とにかく虱潰しに扉を開けて回る。
いない。いない。いない。
いったい何度ドアを開けて、幾つのドアが残っているのか分からない。けれど扉を開ける度に、自分がどんどん無力な存在になって行く気がしてくる。
このドアの先に、お姉さまはいなかった。けれど次のドアを開けると、そこにお姉さまはいるかもしれない。次にいなくても、その次にはいるかもしれない。
けれどもしこれが最後のドアで、その先にいなかったら?
お姉さまが、どこにもいなかったら……?
私はドアノブを両手で握りしめたまま、その場にヘタリと座り込んでしまった。
どんどん大きくなってくる無力感と、不思議な既視感。
「あっ……あの時と、同じ……」
お姉さまを待ち続け、そして結局は逢えなかった、あの夏の日に感じた無力感。その感覚が思い出したように襲ってくる。
「違う、私は、私は確かにお姉さまと逢えたの!」
叫ぶようにそう自分に言い聞かせ、ドアノブをひねった。
555:名無しさん@秘密の花園
07/07/28 00:20:05 8VBqKC8/
ドアの向こうには、誰もいなかった。
「どうして? どうして……」
ぽろぽろと涙が零れた。まるで自分の幸せも、夢も、希望も、全てを否定されたような気がした。
けれど、たとえどんな絶望でさえ―
「どうしたの?」
―その一言で、吹き飛んでしまう。
「怖い夢でも見た?」
背中からぶかぶかのブラウスを羽織らせた手を握りしめ、飛びつく様に振り向いた。
「お姉さま! 私……居なくなってしまわれたのかと……怖くて、怖くて……」
お姉さまは嗚咽で上手く話す事の出来ない私をそっと抱き締め、頭を撫でてくださった。
「お家に電話をしていたの。ごめんなさい。鞄の中身を勝手に見せて貰って、それから、怖い思いもさせてしまったのね。でもね、鈴音ちゃん」
お姉さまは目を合わせて悪戯っぽく笑みを浮かべた後、私の額をツンと人差し指で弾いてこう言われた。
「レディがそんな恰好で歩き回ってはダメよ」
その一言で、私は裸だった事に気づいて赤面した。
556:名無しさん@秘密の花園
07/07/28 00:23:28 8VBqKC8/
急性胃腸炎にかかったり、試験があったりでなかなか書けなくてすみませんでした……
筆は死ぬほど遅い方な上に、話も全く浮かばなかったりで完結するかどうかも危ういので、本当に保守代り程度に思ってください。
557:名無しさん@秘密の花園
07/07/28 20:54:38 DlRtF8SR
ご苦労さまです。
一回一回大切に読ませていただいています。
558:名無しさん@秘密の花園
07/07/28 23:10:33 8VBqKC8/
いやもう何と言うか、色々申し訳ないです。
百合分と切なさが不足しがちな気がするので
どうやってこの二つを保ったまま話を繋げるかが悩みの種……
くそう。せめてクライマックス位は、息ができないほど切なく百合ん百合んにしてやりたい
559:たくま
07/08/01 16:52:52 5RW405xr
やりたい
560:名無しさん@秘密の花園
07/08/16 22:47:20 oI8uTSj9
~鈴音編ーその3……の2~
「で、いったい何があったの?」
漸く先程のショックから立ち直った頃、お姉さまは私にホットミルクを差し出しながらそうお尋ねなさった。
「こんな日に、まさか日向ぼっこをして寝てしまった訳でもないでしょう」
「あ……」
お姉さまに出会えてしまった事ですっかり忘れていた。なんと言うか、まるで現実と遠く離れた夢の世界にでも来てしまったような気分になっていて……
「私、もうここからは帰りたくない……」
もう、辛くて悲しいだけの現実は沢山。
「学校では頑張れば頑張るほど辛くなって、頼れなくなって、だけど他の子達の気持ちを考えたら、頑張る事以外なんて選べなくて……家では、あんなに仲が良かったお母様とお父様が、私の所為で喧嘩をして……」
言っていて、段々と声が涙声になって行くのが自分で分かる。それはまるで、自分の中でため込んでいた何かが言葉と一緒に零れてしまったように―ぽろぽろと、次から次へ溢れて落ちる。
もしかしたら、人前で泣いたのなんてこれが初めてかも知れない。特に小学生になってからは、父や母にも迷惑をかけるまいと我慢していた。
561:名無しさん@秘密の花園
07/08/16 22:48:13 oI8uTSj9
「そう。誰かに寄りかかりたいのに、誰にも頼れなかったのね」
優しく私を抱き寄せ、お姉さまはそっとささやく。
「鈴音ちゃん、貴女は悲しみを一人で背負いこめるほど強くはないの。辛い時、悲しい時、苦しい時、私を頼りなさい。私に全てを預けて寄りかかりなさい。私が貴方を受け止めてみせるから」
「……よろしいの、ですか?」
「もちろんよ。それに……」
少し口ごもった後、お姉さまはやや悲しげに笑った。
「もう少し大きくなれば分かるかもしれないけど、崖の淵に立っているとね、支える人がいないと、自分から倒れてしまいそうになる物なのよ」
その言葉に含まれていた意味は分からなかったけれど、とにかくお姉さまが私の事を受け入れてくださるのだと思うととてもうれしかった。
「お姉さま」
だけど、その前に私には訊かなければならないことがあったのです。
「私は、お姉さまが居てくれさえすれば救われます。どんな辛い事も、どんな苦しい事も我慢できますし、乗り越えることだってできます。ですが……お父様とお母様は、それで元通りになれるのでしょうか?」
お姉さまは先程の笑顔とは違う優しい微笑みを浮かべられると、信じられない事を……いえ、信じたくない言葉を口にしました。
「私ね、結婚したの」
ズキリ。
562:名無しさん@秘密の花園
07/08/16 22:48:57 oI8uTSj9
「愛なんてないわ。向こうは良い後継ぎを生む為に、良い畑が欲しかっただけ。私は……大人の事情って奴ね」
お姉さまが、お姉さまが、お姉さまが……
誰でも良い、嘘だと言って。
「子供を産んでからは、夫とは一度も顔を合わせた事はないわ。産んだ子供も、英才教育を受けさせるために取り上げられて。こうしてここに一人でいても、困る人間なんてだれもいない。こう言うのを本当の『壊れた』って言うの」
お姉さまはそう言って、俯いていた私の顎をそっと指で持ち上げた。
「鈴音ちゃんの所は違うでしょ? 鈴音ちゃんが居なくなっても、鈴音ちゃんのお母様が居なくなっても、お父様が居なくなっても……誰が居なくなっても、皆が困るはずよ。大丈夫、きっと今日の事も、まるで他人事のように笑って話せる日が来るわ」
「……お姉さま?」
「なに?」
「もしも、もしも好きな人がいて……その人以外の人を好きになるなんて考えられないくらい好きな人がいて、その人の事をずっと思い続けていたとして、その人が結婚していたと知ったら……その思いも、まるで他人事のように笑って話せる日が来ると思いますか?」
少しの沈黙の後、お姉さまはふっと微笑んだ。
それが何を意味するのか、私には分からなかった。
563:名無しさん@秘密の花園
07/08/17 15:04:49 h3QLTz3Y
うーん、加速度的にヘビーになってきてまつね。GJ!
続きが気になります。
564:あたしは何人目?
07/08/18 20:07:19 uPSxxIOS
どうも、初めましてです。
あたしはバイなのですが、いつも楽しみにしています。
特に鈴音編!憧れですw
皆さん頑張ってくださいね~
565:名無しさん@秘密の花園
07/08/18 20:28:36 BNoHpA1u
わーいバイさんがやってきたー♪
バイさんのお墨付きだ~♪
566:バイ1人目
07/08/20 20:57:39 vlAK/DsR
喜んでもらえると嬉しいですw
普段あまり良く思われないことが多いので
正直助かります。ありがとう。
567:名無しさん@秘密の花園
07/08/20 21:27:23 0MUKEiRD
バイさん視点の感想もヨロシクお願いしますね。
もうバイ1人目様もスレ住人さっ♪
568:名無しさん@秘密の花園
07/08/24 09:48:20 RAlqRUAu
へたくそ文章
うんこ以下www
569:2人目
07/08/29 09:42:36 PKphVjgq
ご無沙汰デス
リアルビアン2人目デス
小説、頑張られてますネ♪
小説の進み具合を影ながら応援してるので
中傷に負けず適度に頑張って下さいね~
570:名無しさん@秘密の花園
07/08/29 13:33:21 8S5VtZwS
ビアン二人目さんにも見守られてるっ!
嬉しい♪
571:名無しさん@秘密の花園
07/08/29 19:37:57 EoqYKs0F
じゃビアン3人目。
スレタイだけ見てけしからん!とクリックしたら
・・・・
萌えさせて頂きましたありがとう
572:名無しさん@秘密の花園
07/08/29 23:50:46 h5T0PnEH
このスレタイはビアンホイホイだよなw
573:名無しさん@秘密の花園
07/08/31 22:55:57 IeyyQniC
そんなビアン3人目さんに萌えさせて頂きました
ありがとー♪
574:バイ1人目
07/09/09 14:59:45 IoyyYWTr
うぅ…更新が待ち遠しいですっ…。
急かす訳じゃありませんけどっ(充分急かしてるか…)
575:鈴音編の人
07/09/10 11:32:20 XoSVZwXM
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
先月の終わりまで実家に帰っていて書けなかったとはいえ、お待たせして誠に申し訳ありません。何とお詫びすればよろしいか……
と、言う訳で少しですが投下します。
576:名無しさん@秘密の花園
07/09/10 11:33:43 XoSVZwXM
~鈴音編ーその4~
初めて二人で歩くには不釣り合いな、台風で壊れた街並み。それでも楽しいと思える。隣を歩くのが貴女なら。
「さ、ここからは鈴音ちゃんが案内する番よ」
「えっ!? あ……はい」
初めて貴女と出会った公園が近づいていた事にさえ気づかなかったのは、貴女の横顔に見とれていたから。
普段は早く自転車が欲しいと思った帰り道、今はもっと長ければ良いのにと思う。
そんな距離じゃないのは分かってる。だけど、貴方が『休憩しましょ』なんて言ってそこら辺の喫茶店を指さすのを心待ちにしている自分がいる。それがダメなら、せめてこの青信号、赤に変わってくれれば良いのに。今日に限って待ってくれるのね。
暑い日差しから逃げようともせずに待ってくれいる母の姿を見たとき、他の子はどうしたかしら? 走って駆け寄るなり、手を振るなりしたかしら?
それでも私は、立ち止まってしまいたかった。
貴方と再び出会えた事、奇跡だと思ってる。会えないのが普通だと諦めてる。だから、この奇跡に幕を下ろしたくないの。
577:名無しさん@秘密の花園
07/09/10 11:35:57 XoSVZwXM
ねぇ、お姉さま。貴女はどうですか?
「あれが、鈴音ちゃんのお母様?」
どうして、そうやって笑えるのですか?
「良いお母様ね」
「はい」
私の返す笑顔は、今にも崩れてしまいそうなのに。
「鈴音!」
最後の数歩を駆け寄ったのは、母の方からだった。
「鈴音、大丈夫? 熱はもうないの?」
「はい」
私は昨夜、お姉さまの隣で眠りながら母の事をこれっぽっちも考えなかった。そんな少しの罪悪感が混じった返事。もう少し無邪気になりたい。
578:名無しさん@秘密の花園
07/09/10 11:36:40 XoSVZwXM
「あっ、鈴音の母です。鈴音がご迷惑をおかけしまして……」
「いえ、私は久しぶりにお話できて楽しかったです」
普段はとても大人びて見えるお姉さまだけど、母と並べばやはり随分と若く見えた。
私には、この人が母と同じように子供を産んでいる事が未だに信じられなかった。
「宜しければ、お茶でも飲んで行ってください」
「あら、どうしようかしら」
お姉さまは悩む素振りを見せる。私としては、何としてでも誘いに乗ってもらいたいところ。
「寄って行ってくださいな。昨夜は寝てばかりで良くお話も出来ませんでしたもの」
「それでは、お言葉に甘えて、御馳走にならしていただきますわ」
お姉さまはクスと悪戯っぽい笑みを浮かべた後、小さな声こう囁きになられた。
「昨夜は頂けなかったものね……」
579:名無しさん@秘密の花園
07/09/10 11:53:45 XoSVZwXM
今回はここまでで……待たせたのに少なくてごめんなさい……
それにしても、この話がまさかこんなに(期間的に)長くなるとは思わなかった。
本編が止まって、スレ人気一位の黒川さんにさえ触れずに二か月。大丈夫なのかこのスレ?
580:名無しさん@秘密の花園
07/09/10 19:46:40 PKyBJxeW
バイ様に催促頂いて、すぐさま投下とはサスガです。
吉屋信子リスペクトな文体が素晴らしい。
お姉様が秋津さんに思えてきます。
本筋からそれるのもリレー小説の魅力です。ぜひ頑張って下さい。
581:名無しさん@秘密の花園
07/09/10 20:43:30 867ZXZne
孤独で健気な鈴音タンにキュンキュンしてます。
素晴らしいです。このまま続けて下さい。
582:バイ1人目
07/09/12 22:43:08 2KVHiEcr
嗚呼、本当にありがとうです。。
お忙しいところを催促してしまいましてっ・・・。。
ご迷惑ではなかったでしょうか??
583:名無しさん@秘密の花園
07/09/12 23:25:42 wze++42e
まだあったのかここw
職人様GJ
584:名無しさん@秘密の花園
07/09/13 13:06:03 +cYmcLei
>>580
それるどころか本筋が跡形もなくなってますがwww
そうか、お姉さまの旧姓は秋津にしてしまうと言うのも手かなと思う今日この頃。
>>581
それではこのまま続けます。気力が残っていればw
もう少しだけお付き合いくださいませ
>>582
いえいえいえいえいえ、迷惑だなんてそんな滅相な
夏休みの宿題は最終日に徹夜でまとめてやるタイプなので、しめ切りのないリレー小説はどうしても延ばし気味で・・・
自分でも「流石にヤヴァイな」と思っていたところですので気にする必要は皆無です。ロムからすれば「してやったり」です。GJです。
>>583
本編を続けてくれるGJな職人様、カァァム ヒィィィアァァァ
番外編終了とともにスレ落ちはマジ勘弁
最終話(?)は二か月以上前から出来てるのに、展開で完全に行き詰ってる俺。文才ナサス…
585:名無しさん@秘密の花園
07/09/13 19:55:23 tBGXGKeA
おお、すでに終わり方が決まってるとは楽しみです。
ゆっくりお待ちしております。
586:名無しさん@秘密の花園
07/09/27 11:36:24 R6WBFlYi
~鈴音編ーその4……の2~
母が紅茶を注ぎに台所へ行っている時のこと、お姉さまはケーキを食べた後、突然深くため息をついた。
「鈴音ちゃんてば、白状ね」
「白状?」
「私、ずっと待っていたのよ。鈴音ちゃんがあの約束を思い出すのを」
「約束?」
ずっと浮かれっぱなしだとはいえ、あの日の思い出は私の宝物、お姉さまとした約束を私が忘れるはずがなかった。
「もう」
そっと私の唇へお姉さまの人差し指が添えられる。
「したでしょう? 『次は唇に』」
「んっ……」
あっという間だった。気がついたら指がお姉さまの顔にかわっていた。
何だろう……体が熱くなって来た気がする。それに、頭がポーっとしてくらくらする。
「どうだった?」
「ど、どうって、その……」
頭の中でバクバクと心臓の音が響いて、まともな言葉が浮かんでこない。
「び、ビックリしました」
「ふ~ん」
もう少しまともな言葉もあるだろうに、よりによって嬉しかった事さえ云えない言葉が出て来た。
「でも私、タチじゃなくてリバなのよね」
「私たちじゃなくて??」
リバって何だろう? その前に、何が『私たち』なんだろう?
587:名無しさん@秘密の花園
07/09/27 11:37:26 R6WBFlYi
「私も鈴音ちゃんにビックリさせて貰いたいな~、ってこと」
「あっ……」
これは分かった。要するにその、私からお姉さまに……
「それとも、嫌だった?」
「ち、違います!」
「口で言われても信じられないのよね、大人って」
覚悟をきめて、大きく息を吸った。
「い、いきます!」
そう言って目をつぶると、二年前と同じ匂いがした。
このまま、あの頃に戻りたい。
お姉さまが誰のものでもなかったあの頃に……
だけど、それは無理だから、せめてこの人が自分の方を向いてくれているうちに伝えたかった。
嬉しかった。あの日も、今も。
お姉さま。私はお姉さまの事が―
「お、オホン。オホン」
背中から聞こえたわざとらしい咳払いで破裂しそうなほど心臓が高鳴り、その後サァーっと血の気が引いて行くのが分かった。
「おっ、お母っ!」
「あら、お母様。失礼して先に御馳走になっていましたわ」
今すぐにでも逃げ出したい私と違って、お姉さまはまるで母の反応を楽しむ様に私を抱き寄せて見せた。
嗚呼、嬉しい、嬉しいけど、物凄く居た堪れない!
「こんなに美味しい物を口にしたのは久しぶりです」
「そ、そうですか……」
心なしか、カップを運ぶ母の手が震えている気がする
588:名無しさん@秘密の花園
07/09/27 11:38:05 R6WBFlYi
「ホテルでも頂こうと思えば幾らでも頂けますけど……こんなに可愛い娘はいませんもの」
「お、お姉さま!」
「冗談よ、冗談。美味しかったのはケーキの話。ごめんなさいね、ちょっと意地悪しちゃった」
そう言ってクスッと笑うお姉さまのお顔を見ると、何も言えなくなって諦めてしまう自分がいて……とことん私はこの人には勝てないのだなと、思い知らされてしまう。
それから、母とお姉さまと三人でたくさんお話しして、たくさんからかわれて……あんなに笑った母を見たのは久しぶりだった。
それから帰りしな、お姉さまの部屋へ案内してもらえる秘密の言葉を教えてもらった。
ちなみに、お姉さまを迎えにきた長い車を見た母から「あの人は何者なの?」と訊かれたけど、そんな事を私が知っている筈がなかった。
589:名無しさん@秘密の花園
07/09/27 15:18:49 jbUbqW2f
お姉さまの手管が鮮やかすぎる。凄すぎる。
鈴音タン完全にとりこでつね( ゚∀゚)
あと、>586は「薄情」ですよね?
590:名無しさん@秘密の花園
07/09/28 01:23:54 3WnOsKo3
「白城」って出てきて直したら「白状」になってるorz
って言うかなんで最初に白城なんて出てきたんだ……
591:バイ1人目
07/10/01 01:52:18 WRtQL37F
久々に来てみたら・・・流石ですっ(≧□≦)
母親に見られたら・・・私の場合、身の破滅に繋がりかねないので
鈴音ちゃんが羨ましいかぎりです・・・。。
592:名無しさん@秘密の花園
07/10/01 01:57:38 kDrRwscE
↑どんな母親なの?
593:名無しさん@秘密の花園
07/10/03 00:30:25 3ojoYe53
何故こんなスレタイのスレッドでこんな高レベルの小説が!
今も良いが初期のキモ高いテンションが好きだw
気取れないキモオタ可愛い
594:名無しさん@秘密の花園
07/10/05 22:12:41 jnnZGsjq
たしかに初期おもすー
595:バイ1人目
07/10/14 03:06:08 /MEIM31i
いやぁ・・・差別と偏見に満ちた母親ですよ・・・
好きな人の話すら出来ませんしね。。
596:名無しさん@秘密の花園
07/10/14 11:00:56 zsGP+E1g
ここで話せばいいんですよ
597:名無しさん@秘密の花園
07/10/16 13:15:45 8RHJMfR3
美波と真木よう子が愛し合ってレズってるところを襲いかかる
近藤春菜
598:名無しさん@秘密の花園
07/10/26 01:19:49 pR52a9sv
~鈴音編ーその5~
いつもの様に朝が来て、いつもの様に学校へ行き、いつもの様に家に帰り、いつもの様に宿題を終わらせる。以前の私の日課はそれで終わりだった。だけど今は、もう一つ。
「あの……リリー・ビッフェさんの部屋に案内して貰いたいのですけど」
最初にフロントで言うときは何度も深呼吸したこの台詞も、今では一度の深呼吸で言えるようになった。
「はい。今すぐ係りの人が来ますから、少々お待ちくださいね」
言うが早いか、フロントに女性が迎えに来た。どうやら私の姿を見て直ぐに来ていたみたいで、私の顔はすっかり覚えられてしまっているらしい。
『リリー・ブッフェ』は魔法の言葉。
それを唱えれば、秘密のエレベーターで存在しないはずの最上階と屋上の間へ行く事が出来る。
そう。私の最後の日課、それは……
「いらっしゃい、鈴音ちゃん」
毎日こうして、お姉さまのもとに通い詰める事なのです。
599:名無しさん@秘密の花園
07/10/26 01:22:20 pR52a9sv
「あれから、お母様とお父様の仲はどうなの?」
「喧嘩は一度もしていません。ですけど、溜息を吐いているところはよく見かけます」
「やっぱり、お金の事なの?」
「きっと、そうです」
『私の学費が』と言おうとして、やめた。
私の脳裏に、母にどうして私立を受けさせたのか訊いた時の事が浮かんだから。
「私の頃は、女は上司の奴隷でしかなかったの。定年は三十代、私も結婚したら無理やり辞めさせられたわ」
母は、懐かしむ様にそう言った。
「でもね、今、それを変えようって動きが始まりつつあるの。まだまだ不十分だけど、貴女の頃には変わっているかもしれない。勿論、変わってないかも知れない。だけどね、どんな些細なことでも良い、貴女に可能性があるなら、私はそれを少しでも広げてあげたいの」
そう言った母の顔は、笑顔だった。
『私の学費が』と言う泣き言は、その母の好意を批判してしまう気がした。
「ですから私、もっと勉強して偉くなるんです。そうすれば、高等部からは学費が免除されますから」
「そう……鈴音ちゃんは偉いのね。だけど、これだけは覚えておいて」
ふと、お姉さまの顔から笑顔が消える。
「偉く『なる』ための勉強は、人を豊かにするかもしれない。だけど、偉く『する』ための勉強は、人を不幸にする事もあるのよ」
そう言って、今度は寂しそうに笑った。
私がその言葉の本当の意味を知ったのは、ずっと、もっと後の事……
600:名無しさん@秘密の花園
07/10/26 01:24:07 pR52a9sv
それから数日した頃、家に帰るなり、母が玄関まで走って来て私を抱きしめた。
「やったわ! 鈴音! やったのよ!」
「えっ?」
「奨学金が貰えるのよ! それも、月にいくらだと思う?」
「……五万円くらい?」
「五十万よ、五十万! しかも返済不要ですって! 返さなくていいのよ!」
「ご、ごじゅうまん!?」
母は浮かれていて気付いていないけど、幾らなんでもそれはおかしい。
確かに、うちの学校はお嬢様校で、授業料も目玉が飛び出るほど高い。それこそ、私みたいな一般人はローンを組まないと通えないくらいに。
だけど、それでも月五十万は高すぎる。だって、それだと一年で六百万、私が中等部に入るまででも軽く三千万を超えてしまう。
それが、返済不要?
「すごいわ、宝くじに当たったみたい!」
そう。そんな奇跡みたいなことが本当に―
「あっ……」
その瞬間、脳裏にある人の事が浮かぶ。
「ちょっと、出かけてきます!」
「今日は御馳走だから、早く帰ってくるのよ」
玄関に鞄を放り投げて駆けだす。行先は一つしかなかった。
「そう、きっとそう。こんなの奇跡でも何でもない」
私が思い出したのは、私に起きた最高の奇跡。勿論、あの人の事。
601:名無しさん@秘密の花園
07/10/26 01:24:59 pR52a9sv
「いらっしゃい、鈴音ちゃん」
私を迎えたお姉さまは何時も通りの笑顔。まるで何もなかったかのよう。
「お姉さま、何か言う事はありませんか?」
「そうね、今日も素敵よ。食べちゃいたいくらい」
もう、この人はいつもこう。分かっているのに知らないふりをして、私をからかって、意地悪して、それが生きがいみたいに楽しんでいる。
「そうじゃありません。もっと他に―」
「……他に?」
「―いえ、なんでもありません」
「あら、どうしたの?」
「いえ、どうでも良い事ですから」
知らないふりをするお姉さまを見て、何だか今回の事が本当にどうでも良い事のように思えてきてしまった。だって、こんな安っぽい奇跡一つあろうとなかろうと、私にとってお姉さまが掛けがえのない大切な存在である事は何も変わらないのだから。
とはいえ、お姉さまとしては折角の私をからかう機会を失うのが相当ご不満らしく、私を膝の上にのせて「どうしたの?」等と訊くのだけれど、私はその度に「なんでもありません」と、初めての勝利に対する優越感に浸るのでした。
602:名無しさん@秘密の花園
07/10/26 01:37:57 pR52a9sv
……えーと、考えているエピソードの間を埋めるのが大変で、時間ばっかりかかって全然進んでないので(次回があればですが)次回からいきなり中学編に入るかもしれません。
中学編は短めになると思いますが、それでも今年中に終わらないかも……orz
603:名無しさん@秘密の花園
07/10/26 20:53:55 pohiQ/IF
長くなるの大変結構!
実に読み応えがあるではないですか!
本当に先が読めなくて、楽しみです。
604:名無しさん@秘密の花園
07/11/15 13:11:40 kXK0f47V
新都社で漫画化してもいいか?
605:2人目
07/11/16 19:00:17 pP2YDNM+
(*´∇`)ノ
お久しぶりデス
漫画化の話も出てますね・・・w
素晴らしい♪
>604
ついでに私の経験談も漫画化して頂けますか?w
606:602
07/11/18 01:09:17 AcdyihKC
>604
リレー小説の漫画化って原作は誰になるんだww
他の職人さんが良いなら私はおkですw
607:名無しさん@秘密の花園
07/11/20 17:53:53 Ovt79x66
やった!マジでやっちゃうよ!
年明け以降には新都社の別冊少女きぼんに載せるようしときます
作者のみなさん頑張って下さい。
608:名無しさん@秘密の花園
07/11/21 16:06:25 HUbKxS0A
ちょっと待てそこのVipper
俺は完結してからのが漫画にしやすいと思う
609:名無しさん@秘密の花園
07/11/25 07:21:18 IaIheiz8
うあああああああぁぁああぁおおぉぉあああ
先に言ええええい!
ここと新都社両方の読者を怒らせるとこだったヤベー
610:名無しさん@秘密の花園
07/12/06 15:09:52 lyACvYUu
良い方法思い付いた
お前途中まで漫画にしろ
漫画読んだ人がこのスレ来て続き書いてくれるかも
行って書き手を集めてこいそこのVipper
611:名無しさん@秘密の花園
07/12/06 15:27:32 0yND9j7M
マンガよりマンコをおねだりするあたしがいたりする
612:名無しさん@秘密の花園
07/12/07 11:37:29 om0tQxtk
>>611
いくら亀井信者と言えどVIPPERに絡むような真似するとえらいめにwww
新都社見てきたよ~
百合漫画も結構あって良かった!
613:名無しさん@秘密の花園
07/12/08 20:04:22 P8j1uR5B
283-529 の間、書いていた奴だけど。
久しぶりにのぞいてみたら、まだ生きていたのかと正直びっくりw
現在書いている人がんばって。
>604
えっと原作者って、最初に書いたひとの許可がいるんちゃいます?
614:名無しさん@秘密の花園
07/12/08 20:38:24 EqhPfgXK
お久しぶりです
いつでも復帰を待ってますよ
615:名無しさん@秘密の花園
07/12/08 22:39:02 P8j1uR5B
>614
どもです。他板の百合SSが完結した後、時間的に書くことが可能な状況ならば、
続けたいかなと思います。
百合萌え男の今後には多少未練があるのでw
616:602
07/12/09 03:33:16 Cmt+cIif
>615
どうも、お久しぶりです。
寂しい事に本編の方が止まってしまっているので、
職人さんの復帰は何時でもお待ちしております。
私の方は飛び飛びで書いているのでそんなにたくさん投下できませんが……
一応、中学生編を少しだけ投下します。
617:名無しさん@秘密の花園
07/12/09 03:36:52 Cmt+cIif
~鈴音編ーその6~
「今日は練習が遅くまでありますから、そのままお姉さまの所に行きます」
食べ終えた食器を流しに置きながら、ふと隣に立つ母と肩の高さが並んでいる事に気づく。
「お母さん、背、幾つだっけ?」
「一六二。まだ私の方が高いわよ」
言われてもう一度肩を合わせると、確かに私の方がまだまだ低かった。並んだと思ったのは、どうやら気のせいだったらしい。
「今度の舞台もまた王子様役?」
「私より背の高い娘もいるのに、どうしてか、ね」
「一年生の頃からずっと遣ってるからでしょ。あーあ、また私の鈴音が人様の前で唇を奪われちゃうのね」
母のその冗談に苦笑しながら、何時もの様にかけてある上着を手にとった。
「子供の成長は早いって言うけど、もうボケたの?」
「あっ……」
言われて、今着ているブラウスが夏服だった事に気がついた。昨日の夜に母に頼んで出してもらったのをすっかり忘れていた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ドアを開けると、初夏の日差しが眩しかった。
お姉さまと再開して、八年目の夏。
私はいつの間にか、中学三年生になっていた。
618:名無しさん@秘密の花園
07/12/09 03:38:54 Cmt+cIif
学校での私は、相変わらず『黒薔薇の君』であり、『白銀の貴公子』のままだった。
誰よりも優秀で、誰にも優しくて、そして誰からも愛される、皆の憧れ。その上こうして生徒会室に閉じ込められているのだから、出来すぎた配役だ。
思えばいつでも『黒薔薇の君』を演じている私が演劇部の部長だと言うのは、軽い皮肉だった。
「鈴音様、そろそろ四時ですから、終わりにして休憩しましょう」
「そうね、そろそろ終わりにしましょう」
そう言って書類を納めながら、まだこの部屋から出られぬ事に小さく溜め息を吐く。私にはこの後、もう一つ大きな仕事が残っている。
「今日はとても良い葉が手に入りましたの」
「本当? それは楽しみだわ」
そう笑顔で答えながら、内心は苦笑い。
何が楽しいのか、誰かが必ずと言っていいほど紅茶を持ってくるのがこの生徒会の決まり事の様になっていて、けれど、私はそんな上等な紅茶より、お姉さまの淹れてくれるコーヒーが飲みたかった。
お姉さまの出すホットミルクはカフェオレを経て、何時の間にかコーヒーへと変わっていて、私はそれをブラックで飲むのが大好きなのだ。
そんな私だから、いつもこのお茶会では、幾らするか分からないような奇麗なカップよりも、彼女達の持ちよる歪な形のクッキーにばかり手が伸びてしまうであった。
619:名無しさん@秘密の花園
07/12/11 08:01:41 FxNq11yU
職人毎度毎度GJ!
今の百合萌え男は君で守っているもんだぜ!
鈴音編はとても丁寧な展開でゆっくり読んで楽しめますお( ^ω^)ありがとうございますお
>>612
新都社行ってきたのかw
620:バイ1人目
07/12/25 13:06:16 Q4K/nXB2
鈴音ちゃん可愛いっ!
続き、楽しみに待ってますよ、職人さん♪
621:名無しさん@秘密の花園
08/01/21 06:37:39 bmqFYp6M
~鈴音編ーその6の2~
うちの演劇部には、とある決まり事があった。
それは公演の際、最も舞台を見やすい数列にだけ用意される『指定席』のチケットを部員で分けること。
チケットはそれぞれ望んだ分だけえる事が出来、それぞれ両親だったり、兄弟だったり、校内外の友人や好きな人、中には内緒で売り飛ばしたり……とにかく思い思いの人に渡すのだ。
私はと言えば、毎回必ず三枚貰う事にしていた。
一つは、母。一つは、父。そして最後の一つは……
622:名無しさん@秘密の花園
08/01/21 06:42:45 bmqFYp6M
「お帰りなさい、鈴音ちゃん」
そう言って迎えてくれる笑顔は、今でも私を虜にし。
お姉さまは、相も変わらず、いえ、むしろ月日を重ねるごとにますます美しくなっていた。それこそ、実はお姉さまの正体は天使か悪魔か、あるいは妖怪の類や幻ではないのかとこちらが恐ろしくなるくらいに。
「お姉さま、昨夜はちゃんとお休みになられまして?」
「私、枕が変わると眠れないのよね」
「またですか……」
お姉さまはこのところ、自分で寝ようとしなくなった。
「お姉さまは唯でさえこもりがちで運動不足なんですから、本当に身体を壊しますよ。第一、枕は変わっていません」
「私の枕は鈴音ちゃん」
「ひゃ!?」
不意に背中から手を回され、声が出た。
そっとお姉さまの人差し指が唇を撫でる。唯それだけでゾクゾクとした不思議な感覚が体をかけぬけ、そのままヘタリとお姉さまに凭れかかってしまった。
背中越しに伝わる柔らかさと温かさ、それに頭に響く自分の心音が妙に心地良い。
「もう、そんな事より、今日は渡す物があるんです!」
「あら、なぁに?」
背中を向けたままギュッと目をつぶり深呼吸をする。ポケットの中で手が震えて止まらなかった。
623:名無しさん@秘密の花園
08/01/21 06:44:34 bmqFYp6M
「はい、フロントから預かった手紙。娘さんからでしょ」
お姉さまは遠慮がちに笑顔を浮かべ封筒を受け取った。
不思議な沈黙が流れた。
お姉さまの家について話さないのは、二人の不文律だった。
「今日は早く寝ますから、もうお風呂に入ってきてください」
「背中流してくれる?」
「一人でっ!」
お姉さまを部屋から追い出し、封筒の無くなったポケットで拳を握った。
小さく、クシャリと音がした。
624:名無しさん@秘密の花園
08/01/21 06:46:16 bmqFYp6M
こうして諦めたようにチケットを破って捨てながらも、本当は望んでいるの。お姉さまが何かの拍子にこのチケットを見つけて、ふと気にかけて繋げてくれるのを。
「本当に諦めたのなら、家に帰って捨てれば良いのに」
外では『黒薔薇の君』なんて呼ばれても、お姉さまの前ではこうも簡単に仮面をはがされて唯の女の子に戻ってしまう。そんな自分がひどく恨めしかった。
私が貰う三枚のチケット。
一つは母。一つは父。そして最後の一つは……
いつも、空席だった。
625:名無しさん@秘密の花園
08/01/21 22:55:20 z2M6NZgy
続ききたあーあああぁあああwwwww
ホントにお疲れ様です!
萌えました!
626:名無しさん@秘密の花園
08/01/21 23:12:35 J26aQEKl
さりげなく投下する作者さん素敵!
>「私の枕は鈴音ちゃん」
可愛すぎ!
627:名無しさん@秘密の花園
08/01/22 21:12:48 dCbq3wp0
てか鈴音ちゃんもフクザツなお年頃でつね
健気だよ、鈴音、健気だよ
628:名無しさん@秘密の花園
08/01/22 22:34:08 Clx1Dsio
反応早っww
こんなに筆が遅い俺のこと忘れないでくれてありがとう
俺、がんがるよ
629:名無しさん@秘密の花園
08/01/22 23:50:54 SBZdNmFO
がんがれ
がんがってくれ
ビアンさんもバイさんも応援してるぞ
630:名無しさん@秘密の花園
08/01/26 04:05:59 Ra3sjaP+
百合紳士も見てる