07/07/23 16:54:47
ある夜、牙琉事務所のデスクでパソコンのモニターを何とはなしに見ながら、霧子は考え込んでいた。部下の王泥喜はとっくにあがっている。
ちょうど依頼も一段落ついたところで残ってまでする仕事はないのだ。
デスクに張り付いたまま帰ろうとしない自分を見かねてか「何かお手伝いしましょうか?」と、元気に申し出る部下に
「いいんですよ、君は。休めるときに休んでおきなさい。弁護士も体力が勝負ですからね」と帰らせたものの、本当は誰かに話しを聞いて欲しかった。
真っ直ぐ家に帰る気分ではなかった。
だからといってまだ新人の部下をボスである自分が誘うなんて、ただただ気を使わせてしまうばかりだろう。そんなことはできない。
こんなとき、何でも悩みをきいてくれる同性の親友がいたらいいのに、と霧子は爪を噛んだ。表層的な笑顔で鎧をまとい他人を遮断し、
深い友人を作らず勉強に仕事にと真摯に励んできた霧子だったが、もう少し腹をくくって人と関っていくべきではなかっただろうか。
過去の自分を呪い、内省するものの性格はすぐに変るものではない。霧子はため息をつく。
どのみち、こんなみっともないこと誰に話せるわけでもないのだ。
霧子の悩みとは成歩堂のことだ。
あまり人と親しくしない霧子にしては珍しく、長年の友人である彼と弾みで一度だけセックスをしたものの、それ以来彼からは何の音沙汰もない。
何度電話をかけて、自分のことをどう思っているかとか、これからどういう関係を築いていくか、など問いただしてみようかと思ったが、どう切り出したらいいかわからない。
それに、一度くらいヤったからってカノジョヅラして欲しくないんだよね、なんてことを成歩堂に言われたらと思うと怖くてとてもかける勇気がでなかった。
でも、このまま何事もなく終わっていくのも嫌です、絶対…!
でも、でもでもでも、どう振舞ったらいいんでしょう。
デスクの傍らに置いてあるケータイを横目に見ながら霧子は苛立つ。