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今年の流行語大賞は、原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長が発した「私
はいったい何だったのでしょうか」で、決まりだろう。福島第1原発1号機への海水注
入をめぐる物語は、喜劇とホラーの風味がたっぷりと入ったドタバタ劇の様相になって
きた。
▼幕を開けたのは、安倍晋三元首相である。彼はメルマガで、東京電力が発表した3
月12日午後7時25分から55分間にわたる海水注入中断の「主犯」は菅直人首相
だ、と断じた。
▼慌てた官邸は、「班目委員長が再臨界の危険性があると指摘したから」と責任を転
嫁した。怒った班目氏が猛抗議し、官邸が彼の発言を「再臨界の可能性はゼロではな
い」と訂正したのが第2幕だ。幕あいには与党桟敷席から「デタラメ委員長は引っ込
め」のやじも飛んだ。
▼第3幕・国会の場では、野党から攻撃された菅首相が「海水注入の報告が直接上が
っていなかった。少なくとも私が止めたことはまったくない」と大見えを切った。だ
が、すぐに注入開始を予告する東電のFAXが何時間も前に届いていたことが発覚す
る。
▼第4幕では、現場の吉田昌郎所長が「首相の了解を得るまで」中止を決めた本店の
言うことを聞かず、海水を注入し続けていたというどんでん返しが用意されていた。
「よっ! 吉田屋」のかけ声をかけたいところだが、あいや暫(しばら)く。
▼「首相の意向」を無視して正解だったとは、悲しすぎる。そもそも首相が、専門家
きどりで技術的な問題を論議する必要はない。部下や組織を信頼し、大局から判断を下
すのがトップの仕事だ。それができないなら劇の途中でも舞台から去ってもらうしかない。
さもなければ、国民は終幕を悲劇で迎えるしかなくなる。
■ソース(産経新聞)
URLリンク(sankei.jp.msn.com)