08/12/13 01:27:18 gnSDgCGE0
扉の外は今日も寒かった。
昨日と同じ。明日も同じ。ほどよく晴れてる─けれど冬の朝の乾いた天蓋は、
青空と呼ぶにはほど遠く、かと言って灰色と呼ぶほどに濁ってもいない。
爽快でも陰鬱でもなく、それは寒さに慣れて表情を失ってしまった、くすんだ白。
だから僕は、蕭条とした12月の朝とその空の色が好きだった。
春はあけぼの、冬はつとめて。
昔この国に、そんなことを言ったおばちゃんがいたらしい。僕と気が合うかもしれない。
「はい。羽田です」
『夜分に失礼いたします。渡来と申しますが、鷹志さんはご在宅でしょうか』
「え……えっ? あれ? ええ?」
『あっ、羽田君?』
「あ、はい、僕ですけど」
『なに、緊張してる?』
「ま、まさか。いき―いきなりだったから驚いてさ」
『そっか。私は緊張したけどね。五回ぐらい名簿開いたり閉じたりしちゃった」
「そ、そう……あの、それで何の─」
『あー、気が付いたら置いといたジュース空っぽー』
「え?」
『あはは。名簿開くたび、くぴくぴ飲ってたから』
「へ、へえ、渡来さんでも緊張することあるんだ」
『ね。我ながら意外。わりと根性据わってる方だと思ってたんだけど。
うん、よく考えたら私、同い年の男の子に電話するのって初めてだった』
「え、それも意外……」
『えー、なんでー? 私、ずっと『羽田君一筋』だったでしょー?』
「あ、そっか、あはは……」