08/11/01 23:43:46 tGtTqXza0
>>942
着替えを終え、控え室に行ってみると、既に莉都が座っていた。
「相変わらず、何をするにも遅いやつだな」
純白のドレスとは相反する痛烈な痛罵。ここまで吐き捨てるような口調をぶつけられるとむしろ清々しい。
「へーへー。こんな服着る事なんて無いんでね」
意にも介さず軽口を叩くと、莉都は不機嫌そうに舌打ちをする。
今日ばかりは服装も服装だ。いつもは遠ざけている事の多い小夜璃さんを世話役として傍らに置いていた。
「お二人とも……お似合いですよ……」
今までの経緯もあるからだろう。既に感極まって小夜璃さんは目を潤ませている。
そんな小夜璃さんを莉都は憤懣やるかたないといった感じで一瞥した。
そして、そのキツイ視線をそのまま俺の方に向けてくる。
「進矢、勘違いするなよ? 結婚といっても、これは神凪本家の奴らからありとあらゆるものを奪い取る為の手段だ。
選民意識の強いあの屑どもにとって、財産も殆どなくなり、神凪という血だけを誇りにしてる無能にとっては
お前の様な平民の血が本家に混じるということは耐えられない苦痛になるからな。
結婚は単に一番効率がいいからなだけだ」
「わかってるっての。何度説明すれば気が済むんだお前は」
「うるさい」
「でも、あれなんだろ。子供が出来て初めて家を潰すのが完成なんだろ?」
ニヤニヤしながら俺が言うと、ウンザリしたように莉都が舌打ちする。
「―そうだ。お前の血によって神凪が穢れた象徴を作る必要がある。
そして、子供が出来る事で勝手な遺産相続の夢も叩き壊せる。……くそ。腹立たしいが、これが一番効果的だ」
まるで自分に言い聞かせるような口調。俺がニヤニヤしながら見ていることに気づいたのか、
莉都が眉を吊り上げて何か口を開こうとした時、控え室のドアがノックされた。
「神凪莉都様、倉上進矢様、挙式の準備が整いました。お願い致します」
「……判った。今行く」
「莉都様」
「かまうな!」
手を貸そうとする小夜璃さんの手を払って莉都は1人で立ち上がった。
「面倒だが必要な形式だ。さっさと終わらすぞ」
「へいへい。じゃあ俺とお前の愛の口付けを見せ付けに行きますか」
「……次にそういう軽口を叩いたらその口を引きちぎってやる」
物騒な会話を交わしながら、俺と莉都は並んで控え室から歩き出した。