07/11/12 00:26:37 /SkW5qOw0
あれから四年。
彼女は実家に帰っていた。学園を卒業したものの、この体で以前の会社に戻れる訳も無く。
心にはぽっかりと大きな穴。それを埋める術は無ない。
彼女が愛しているのは、恋をしてしまったのは、彼女の産んだ我が子なのだから。
春、桜が舞い散る頃。
祖母(彼女の母)の言いつけで花びらの舞う庭の掃き掃除。
集めては強い風に飛ばされ、の繰り返し。今の彼女に桜を美しく感じる心は無い。
むしろこんな手間を煩わせる位なら、切ってしまえと思うほどに。
やがて春風との格闘が終ろうとする頃、ふいに近づく足音に振り返る。
「ただいま、母さん」
それは四年前と変わらぬ優しげな微笑、でもどこか逞しくなった主人公だった。
何か言わなければと思うが、何を言っていいか分からない。
当たり前だ。彼女は逃げたのだから。この四年、現実と向き合う事を拒絶してきたのだから。
「ごめんね。卒業式行けなくて」
やっと紡いだ言葉。視線を合わせることが出来ない。
気まずさを感じながらも、主人公の成長と変わらぬ面影に、やはり心は踊る。
幾分経っただろうか。
主人公はおもむろに彼女に歩み寄り、そっと左手を取った。
その視線の先は薬指。
体が若返り、サイズが合わなくなって付けなくなった結婚指輪。
あれから六年。体は大人になり、今では付けれるはずなのに、それでも彼女は付けなかった。
主人公の両手が左手を覆い、やがて現れるシルバーリング。
「俺と結婚してください。母さん」
彼女の頬を伝う涙を、掬い上げるかのように突風が吹いた。
今のは春一番から何番目?やはり、舞い散る桜は美しい。