07/10/08 21:56:48 V6RJL20r0
耕一は、千鶴を誘って、秋祭りの明けた八幡様まで散歩に出かけることにした。
千鶴は、飾らない普段着姿で、それでも、唇にはほんのり紅をさして、はにかみがちに耕一の後ろをついていく。
昨日、大鳥居の前で、千鶴は、裾に紅葉を散らした鴇色の小袖に、萩の花柄の繻子の帯、上げ髪に白たすき
がけのかわいさましい出で立ちで、力水を打って、耕一たちの担ぐ神輿の宮入りを迎えてくれた。
楓が、千鶴の娘らしい姿を誉めるのを、千鶴姉はもっと落ちついた色が絶対似合うと、梓が大声でうっかり言って、
そのあと真っ赤になって大暴れしたのを耕一は思い出す。
「どうしたんですか。耕一さん」
千鶴の声に、耕一は、ひとり笑いを収めて、ちょっと後ろを振り返った。千鶴が小首をかしげて穏やかに微笑んでいる。
「いや、なんでもないんだ」
耕一がそう言って微笑み返すと、二人、すれずれに八幡様の大鳥居をくぐった。
本宮の終わった境内は昨日のにぎわいがうそのよう。縁日の屋台もきれいさっぱり取り払われて、いつもの静かで
きよらかなたたずまいが戻っている。
手水をつかって、並んで拝殿の方へ行きかけると、境内を掃いている小さな巫女さんと目があった。
中学生ぐらいだろうか、丁寧におじぎをされて、あわてて会釈を返す。昨日の初音をそのまま小さくしたような、
可憐な姿に、耕一がしばし見とれていると、横から千鶴がぐいと頬を引いた。
「耕一さん」
千鶴はふくれっつらで耕一に立ちはだかると、もう片方の頬もぐいと引いた。
「ひててて。ちゅじゅるひゃん。ぐみん。ひたひひたひ。はなひて……」
平謝りの耕一に、千鶴はやっと手をはなすと、頬を染めてうつむきがちに、
「大人げないでしょう? でも、今はわたしだけを見ていてほしい。せっかく二人きりなんですもの。よそ見しないで」
「ごめん」
頬をなでながらあやまる耕一に、千鶴はやわらかく微笑んで
「いきましょう」
耕一の手を取って、二人、石畳の参道を歩き出す。
風が少し強まって、色づきはじめた境内のいちょうの大木が、ざわざわと鳴る。
抜けるような青空に、二人の打った柏手の音が、高く、高く舞っていた。
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