ToHeart2 SS専用スレ 21at LEAF
ToHeart2 SS専用スレ 21 - 暇つぶし2ch400:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 6/19
07/11/17 23:51:10 Qo1Tjhtz0

「お、お邪魔しまーす」
愛佳が雄二の家に来るのは初めて。おそるおそる敷居をまたぐ。

「寒いな。このみー、ストーブ点けてー」
「うん。ユウくん冷蔵庫のジュース出すよー」
「エアコンないのね。このみ、それ、賞味期限だいじょうぶ?」
勝手知ったる貴明と、同じく慣れっこなこのみと、初めてだけど泰然自若の郁乃。
トイレを借りた愛佳が客間に現れた時には、お茶の用意が出来ていた。

「ほら、昼飯買ってきたから」
「あっ、後でおかーさんがなんか持ってきてくれるって言ってたよ」
「このみが寝坊するから、朝食べ損ねた」
貴明は無論、このみと郁乃も事情は既に知っているが、慌てた様子はない。
まだ今朝の事で書き置きもあるし、客観的には楽観的に構えていい状況だろう。
「ったく。人の気も知らねぇで」
毒づく雄二も、友人達の落ち着きに救われるのを自覚する。

「とりあえず姉貴に電話するわ、俺」
「あっ、じゃあこっちの番号教えた方がいいね。えっと、郁乃?」
「はい。電池ある、けど、一応充電器」
「ありがと」
「……あっ、ええと……薫子か? ああ、雄二だけど、久しぶり」
雄二がメモしていた番号に掛けると、向こうの携帯に出たのは薫子のようだ。
「ああ……こっちもダメだった……うん、そうか、あっ、いや、替わらな……ぐ」
環に交替した模様。
「いや、えっとさ、こっちも小牧に携帯借りたから。ああ、駅でさ……番号言うぞ」

「あっ、えとえと、ちょっと待って番号表示番号表示」
聞き耳立ててた愛佳が慌てて携帯電話のボタンをいじくる。
「覚えてるでしょ? ぜろきゅーぜろ、ぜろななにぃ……」
暗記もメモもしているのに液晶とにらめっこする姉に呆れて、郁乃がフォローした。

401:名無しさんだよもん
07/11/17 23:53:25 hGiZXkM80
あらよっと

402:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 7/19
07/11/17 23:53:44 Qo1Tjhtz0
「こっちは、カスミに留守番してもらうから」
「俺も午後また出るから、連絡はさっきの番号にくれ」
環と雄二、会話の続き。

「そう? 万一があるから、一人で出るのは感心しないわね」
「誰かと行けって?」
「あっ、このみが一緒に探すっ!」
雄二を挟んで、愛佳の反対側で話を聞いていた少女が元気な声を挙げる。
「あら? このみもそこにいるの?」
「うんっ。ユウ君のことはこのみにおまかせなのでありますよ」
力こぶを作る少女。雄二はついつい苦笑い。
「俺達も手分けするよ。適当なとこで連絡入れるね」
貴明が申し出て、うんうんと愛佳も頷く。

「だけど、もしかしたら玲於奈がそっちに連絡するかも知れないわね」
「ああ、学校の友達にも俺んちに貰うように頼んだ。妹、留守番頼んでいいんだよな?」
「あたしは妹なんて名前じゃないけど。別に構わないわよ、知らない人でもないし」
水族館にも一緒に行ったが、玲於奈は小牧邸にお邪魔した事もあった筈だ。

「みんな頼もしいわね。私からもありがとうって伝えておいて」
「分かってる。それじゃ」
気を付けて、なんて言葉は環に限って不要だろう。雄二は電話を切った。
「うし、じゃあそういう事で、電話貸りてくぞ」
「このみが一緒なら、このみが持ってなさいよ」
愛佳から雄二に渡りかけた携帯は、郁乃の言葉でこのみに携帯者変更。
「ま、間違い電話とか来たら?」
「間違いじゃなくて他の用件でしょ。このみが知らない相手だったら切っていいわ」
このみと郁乃の会話で、雄二もはたと気付く。

「あのな、小牧妹、留守番中に、関係ない電話が来てもだな、」
「致命傷には、ならない程度にしといてあげる」
郁乃は人の悪い笑みを浮かべたが、口調で冗談であることも示していた。

403:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 8/19
07/11/17 23:55:31 Qo1Tjhtz0

間もなく春夏が差し入れてきた昼食をかっこんで、雄二達は再び玲於奈を探しに出た。
雄二とこのみは街へ、貴明と愛佳は、学校の方を中心に。

「すっかり寒くなったねぇ」
「そうだな」
バス停に向かって歩きながら、このみが自分の手に息を吐く。
少し大きめなクリーム色のダッフルコートは、何年も前から「少し大きめ」だったような気もする。
「なんだか久しぶりだね、ユウくんと一緒に歩くのは」
「そうか?」
「そうだよ。最近ユウくんは……」

ピリリリリ。ピリリリリ。
「わわっ、な、なんの音っ?」
このみが飛び上がる。雄二も驚いたが、すぐに音源が少女自身である事に気付く。

「電話電話っ。鳴ってるぜっ」
「あわわわわわぁっ」
慌ててコートのトグルを外そうとする少女。
「どこに入れたんだよ」
「む、胸ぽっけっ、とっ、とれなっ」
鳴り続ける電子音に、このみは焦ってしまう。胸元がなかなか開かない。
「うー、うりゃあっ!」
面倒とばかり裾からコートを捲り上げると、今日はキュロットではないデニムのジャンパースカートまで一緒に。
「こらこら待てっ!」
雄二は大至急で手を伸ばし、幼馴染みのスカートの裾を引き下げて内容物を自分と通行人の視線から救った。
ピッ。
「は、はい、このみ、……じゃなくて、小牧……じゃなくて、ええっと、なんて言ったらいいのかなユウくん?」
「俺に聞くなよ」
ぼやいた雄二だが、電話機を耳に当てたこのみは、暫くして首を傾げる。
「どうした?」
「うん、なんかね、しーんとしてるの」

404:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 9/19
07/11/17 23:57:17 Qo1Tjhtz0
「無言電話か? ちょっと代われ」
このみから携帯を受け取った雄二は、位置をちょっと迷ってから耳に当てる。
「もしもし、誰です?」
「……」
返答はない。ただ、電話機の向こうで息をつく気配。
「イタ電なら切るぞ。こっちゃ忙しいんだ」
「……待って……さい」
か細い声。聞き覚えのない。いや、どこかで聞いた。
状況と記憶から、雄二は発話者を推測する。
「……カスミか? もしかして」
(コクコク……。)
「いや、頷かれてもわかんねーから」

「……はい、私です」
今度はさっきよりもはっきりした声で、カスミが言葉を喋った。
「誰ですか、今の?」
険がある。女の子が出たことに不審を持ったようだ。
「このみ、ってほら、春に姉貴と貴明と俺とメシ食ってた子」
(ポム……。)
受話器の奥で手を叩いた音がした。
「それで、どうした? なにかあったか?」
「いえ」
少し間が空く。基本的に喋るのが苦手なのだろう。
「……部屋に、直通の、親子電話を借りましたから、番号を」
朝に環に言われた連絡先は、寮の電話だった。
「そうか、サンキュ」
着信入ってるから番号まで言わなくていいぜ、と補足。
「こっちの携帯は多分このみが出るから、次は名乗ってくれ、じゃな」
「あ……待って」
「なんだ?」

「……玲於奈、たぶんそっちだと思うから、お願いします」

405:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」10/19
07/11/17 23:59:16 Qo1Tjhtz0

ピ。

「誰だったの?」
「九条院の寮にいる子、髪の黒い、このみも会ったことあんだろ」
「うーんと、かおるこさんだっけ?」
「それは長髪のヤツ。今のはカスミ。ほれ……っとぉ?」
ピリリリリ。
携帯が雄二の手から離れる前に、二度目の呼び出し。
通話ボタンを押してから、郁乃の顔が浮かんで電話をこのみに押しつける。
「えっ、えとえと、もしもし? あっ、う、うん。そうだです。い、いま代わるです」
どもりながら応答した少女は、すぐに電話を耳から話した。

「ユウくん、えっと、“かおるこ”さん」
「なんだよ立て続けに。あー、俺だけど?」
「薫子です。すみません。情報があったわけではないのですが」
「こっちもだ。ってか今、探しに出たとこ」
「そうですか。カスミが直通電話を借りたのでそのご連絡を」
「知ってる。さっきあっちから電話来た」
「そうですか?」
薫子は少し驚いた様子。
「珍しいですね。カスミが自分から電話を掛けるなんて」
「今後は名乗るように指導してくれ、無言電話かと思った。いや、無言電話だった」
雄二の苦情に、スピーカーからクスリと笑い声。
「用件はそれだけですけど、その、雄二さん?」
「あ?」
「今回は根拠がないんですけど、玲於奈は、雄二さんの側に行くと思います」
今回は、の前回とは、九条院からの転校騒ぎの時だろう。
あのとき薫子は、玲於奈の転校先を知っていて雄二に教えなかった。

「だから、繰り返しになりますが、玲於奈のこと、よろしくお願いします」


406:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」11/19
07/11/18 00:01:05 zAD7tlI40
「カスミにも同じ事を言われたぜ」
「そう、なんですか? それで電話したんですね、カスミ」
「ったく。お前らの勘なら、当たりそうだな」
学校では半年足らずの付き合いだったが、三人の友情は雄二にも見えていた。
「玲於奈が何考えてるか俺には判らねぇが、なんであれできることはやるよ」
雄二が約束して、薫子は受話器に小さく頭を下げた。

「なんの電話?」
「寮の方の番号変わったからってのと、アイツの事は俺がなんとかしろってさ」
「責任重大だねえユウくん」
電話をコートの内ポケットにしまい込みながら、このみが微笑む。
「なんだか最近のユウくん、すごくカッコいいのでありますよ」
「最近って、これまではどう思ってたんだよ」
「うーんとねー」
人差し指を頬にあてて頭の中から言葉を探している幼馴染み。
「いや、いい。聞きたくねえ」
どんな言葉を引っ張り出してくるのか知らないが、ロクなものではない気がした。

「あーあ、でも、うーん」
伸びをしながら、このみがらしくない顔で空を仰ぐ。
「ユウくんも、ずいぶん遠くにいっちゃった気がするなあ。もしかしてタカくんよりも」
その言葉に、どきりとする雄二。
「そんな事はねーだろ」
反論はしたものの、このみとは水族館以来遊びにも食事にも行ってない。
貴明とは、郁乃と愛佳を経由した繋がりもあるのだろう。
いずれ貴明にしろ雄二にしろ、このみに対する感情は全く変わっていないのだが、
友情も愛情も、持っているだけで伝わるものでもない。

「せっかくタマお姉ちゃんが帰ってきたと思ったら、みんないなくなっちゃった」
少しわがままな独り言を肯定も否定もせず、雄二は幼馴染みの頭を撫でた。
「えへ」
このみは、いつもより照れくさそうに笑った。

407:名無しさんだよもん
07/11/18 00:02:41 83cg3N6V0
支援

408:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」12/19
07/11/18 00:03:32 zAD7tlI40

同じ時間帯、四方で玲於奈捜索の輪は広がっている。

その一方、九条院。
「今回って?」
雄二に電話していたらしい薫子に、環が尋ねる。
「雄二さんが、九条院にいらした時の事です」
いったん足を止めて、薫子は事情を簡単に説明した。
「そうだったの。あれにそんな根性があったとはね」
環は感心した模様。
「でも玲於奈もちょっと頼りない子だから、雄二とじゃ心配ねえ」
今回に限らず、と腕を組んだ環に、後輩から反論があった。
「雄二様は、頼りがいのある方だと思います」
「そう?」
「はい」
先輩は首を傾げたが、薫子はお世辞のつもりはないようだ。
「あの子たちも、成長しているってことかしら」
この春、久しぶりに会った貴明が立派な男性になりつつあったように、
雄二も、いつまでも出来の悪い弟ではないのかもしれない。
嬉しい反面、少し寂しくも。
「といって、面倒見てたというほど世話もしてないか」
気には掛けていても、ずっと九条に居た自分である。
「じゃ、行きましょうか。あなたの勘が正しければ、向こうの健闘を祈るだけだけど」
「祈るのは、カスミがやってくれてると思いますよ」
薫子が頷いて、二人は肩を並べて前を向いた。

次方、九条院女子寮。
(ナムナム……。)
薫子とカスミ、寮内唯一の二人部屋では、昼間なのにカーテンが引かれ、
机の上にローソクを立てた黒髪の少女が、何かに手を合わせて祈っている。
「カスミさん。昼食はよろしいので……す……か? あ、あら、失礼」
様子を見に来た寮当番の教師が扉を開けたが、絶句してそのまま閉めなおした。

409:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」13/19
07/11/18 00:04:56 zAD7tlI40

三方目、時間的には少し経って、貴明と愛佳は、学校付近を探索中。

「校舎の中ってことは、ないと思うけどなあ」
「あ、でも2年くらい前のゲームで、家出した恋人同士が生徒会室でってのが」
「まだ先生は出てきてるだろ?」
一応職員室に顔を出してから-玲於奈の家から連絡を受けたらしい担任と教頭も出勤していた-
学校の敷地をぐるっと回って、裏手の神社まで。
とても静か。
「玲於奈さーん、いるなら出てきてくださーい」
思わず声をかけてみたりして。
「猫じゃないんだから、やめなよ」
「そういうたかあきくんは、どうして軒下を覗いているんですか?」
「いや、なんとなくイメージが、最近変わってさ」
「あるよねぇ、元気な人なのに」
膝抱えてうずくまってる少女の図が脳裏に浮かんで、勝手に同情する二人であった。

最後、四方目、その頃の向坂邸。

「ぽりぽり」
米せんべいを囓りながらヒマそうな郁乃。
状況的にイタズラする気は起きないし、といって緊張を保つ必要もない役回り。
捜索隊に加われない自分の足も恨めしくは思えど、心の切り換えは得意技。
「……くぅ」
午後の陽気に、ついつい眠気を誘われたあたり。
ガタン。
「へ?」
音は上方から聞こえてきた、頭を戻して天井を見上げる。
しーん。
「……ネズミ?」
独り言に、回答がある由もなかった。


410:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」14/19
07/11/18 00:06:51 zAD7tlI40
雄二とこのみ、貴明と愛佳、環と薫子。
楽観している向きが多かったとはいえ、それぞれの探索は真剣なものだったが、
午後一杯の三組の努力にも関わらず、玲於奈は見つからなかった。

「明日も探すからねっ、絶対見つけるからねっ!」
腕を振り回して慰めてくれた幼馴染みを送って、雄二は自分の家に戻る。

玄関には、靴が三足。
「あっ、おかえりなさい向坂くん」
先に戻っていた愛佳が、わざわざ廊下に顔を出した。
「お疲れさん」
茶の間では、貴明の声と郁乃の視線が出迎える。
「悪いな、遅くなった」
「晩飯、先に食べてたから」
テーブルには、春夏が持ってきたらしい、かなりの量のオードブル。
「後でお礼に行かないといけねえな。妹も、留守番サンキュ」
「座ってただけよ。あとお米炊いた。このみは?」
「直で家に帰した。眠そうだったしな」
外はとうに暗い時間。
三人の顔にも、疲労が見える。
「お前らも、もういいぜ。姉貴と薫子が今夜中にこっち来るって言ってたし」
「あ、そうなんだ」
「向坂先輩が来るまで待ってる?」
「うーん、いや、今日は帰ろう」
貴明は少し迷ったようだが、小牧姉妹を巻き添えにするのを避けた。

「また明日、朝から来るからさ」
「だいじょうぶ。きっと見つかるよ」
「今夜一晩過ごしたら、へばって出てくるでしょ」
異口異音でも、心は一緒。
「ありがとよ」
雄二は改めて、優しい友人達に感謝した。

411:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」15/19
07/11/18 00:08:58 zAD7tlI40

「ふうっ」
貴明達が去って、静かになった居間で溜息をつく雄二。
「少し食うか。ってすげーな春夏さん」
半日で良くぞここまで、と思うような品数と量が並ぶ食卓。
「あ、姉貴達の分もあるな。連絡しとくか」
受話器を取りかけて、帰路で電話を入れた時の二人の声を思い出す。
「……そう、お疲れ様」
「明日は、私達もそちらを探しますから、今晩はそちらへ泊めてください」
滅多に聞けない憮然とした環の声と、不安を抑えた様子の薫子。

(みんなに心配かけて、どこにいるんだよ、一体)

「玲於奈は、知らない場所に一人で行く子ではないと思います」
薫子の見解は、雄二も首肯できる。
(行き場所なくて、そこらをウロウロしてそうだよな)
だが、彼女が知っていそうな場所は、殆ど探して回ったつもり。
九条院は環と薫子、学園の方は愛佳と貴明。
そして雄二とこのみが、午後中探し回った街並み。

駅前、喫茶店、映画館、遊園地、水族館。
思えばわずか八ヶ月で、玲於奈とは色々な場所を巡った。
往路復路のバス通り。公園。川辺。並木道。
家の前で少女達と出会った日が、ずいぶん昔に思える。

怒った顔。笑った顔。
喜怒哀楽の賑やかな娘は、今、どこにいても、泣いているような気がして。
「……っきしょうめ」
腹立たしげに呟いた、その時。

ガタンと、天井で大きな音がした。


412:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」16/19
07/11/18 00:10:21 zAD7tlI40
「なんだあ?」
素っ頓狂な声を挙げる雄二。
向坂家の屋根裏には、祖父母が使っていた調度品をはじめ、
柄ばかり立派で役にも立たない-と、雄二は思う-家具類が眠っている。
(そういや、小牧妹がなんか鳴ったって言ってたな)
何かの拍子に、積み方が悪かったものが崩れたのかも知れない。
「こんな時に」
ぼやきながらも、雄二は様子を見に行くことにした。

家の隅にある梯子から久方ぶりに上った屋根裏部屋は、以前にも増して埃っぽい。
おまけに真っ暗。
「電気、どこだっけな」
近くの柱を手探りで、スイッチを入れると、裸電球の小さな灯りが。
「ひゃっ?」
点くと同時に、小さな悲鳴が。
聞こえた直後。

ガタ、ガタガタガタタタタタどしゃーん。
まるで天井が抜けそうな音がした。

「な、なんだこりゃ?」
さっきよりも3倍くらい慌てて、雄二が崩れた山に駆け寄る。
崩れたのは、本棚とか、化粧箪笥とか、中物クラスが積んであったらしい箇所。
バラバラと散らばった物品に混じって。
「……」
絶句する雄二の見下ろす先に。
「イタタッ、っ、ごほけほっ」
薄明かりでもはっきり分かるくらい埃まみれになって。

「けほけほっ、あ、あはは、ゆ、雄二さん。お久しぶりです」
床に突っ伏した状態から辛うじて顔だけ上げながら、誤魔化し笑いを浮かべる玲於奈がいた。


413:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」17/19
07/11/18 00:13:34 zAD7tlI40
「す、すごく物の多い屋根裏ですわね、ここ」
よたよたと身を起こした少女は、板間に女の子座りして周囲を見上げる。

へたっ。
雄二は力が抜けたように、少女の前に座りこむ。
「ちょっと隠れているつもりが、何かに挟まって身動きが取れなくなりまして……」
玲於奈の説明もごく部分的な代物だったが、そもそも雄二の耳には入らない。
「あ、あの、雄二さん、大丈夫ですか?」
ぼーっと自分を見つめる少年に、アクションに窮する少女。
「え、ええっと、その、何から話したらいいか……きゃ?」

がば。
唐突に、彼女の言葉を全て遮って、雄二は玲於奈を抱き寄せた。

「あ、え? う……ん……」
突然の抱擁に混乱した少女はしかし、すぐに彼の腕に収まって大人しくなる。
「……すみません、でした」
雄二の胸で呟く謝罪。
「……」
すっ。
それを聞いて、雄二がまた不意に少女を離す。
「は、はい?」
戸惑う少女を、まだどこかきょとんとした顔で見つめた少年は。
やがてその表情を消して。
すうっ。
息を吸って。一瞬止めて。

「馬鹿野郎ーーーーーーーーーーーーっっ!」

今度は屋根の方が落っこちそうな怒鳴り声。
「い、いきなり怒鳴らな……」
身を縮めて涙目で反論しかかった玲於奈の声は、雄二の厳しい眼差しに途中でフェードアウト。

414:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」18/19
07/11/18 00:14:55 zAD7tlI40
「ご、ごめんなさい……」
両手を割座の太股に挟んで小さくなったまま、上目遣いに説教の続きを待つ少女。
「お前、なぁ」
が、雄二からも次の言葉は出てこない。

ぐぅーきゅるるるぅ。
黙った二人の代わりに、まず玲於奈のお腹が鳴った。

「あ……」
暗いので顔色は判らないが、恥ずかしそうに下を向く玲於奈。
「はぁっ」
雄二は大きく溜息をついて、
「ほれ、来いっ。下に、このみの母さんがメシ持ってきてくれたから」
「あっ、いえ、その」
「いいから来い」
玲於奈の腕を取って、膝の間から引っこ抜く。
彼氏の強引さに引きずられるようにして、少女は居間に降りた。

電灯の下で見ると、玲於奈の顔は寒さと空腹で青白い。
雄二はストーブの火力を上げると、玲於奈にご飯をよそう。
少女は何度か何かを言い掛けたが、食べ終わるまで何も喋らせて貰えなかった。

「それで、だな」
彼女が箸を置いて頭を下げたのを見届けて、雄二が口を開く。
いろいろと聞きたい事はあるのだが。
「とりあえず、なんで家出なんかしたんだ?」
「ああっ、そ、そうでした! ゆ、ゆ、雄二さんっ!」
「はい?」
途中から大人しく食事に専念していた玲於奈の、いきなりな剣幕に驚いた雄二は、次の言葉にもっと驚く。

「わ、私と、か、駆け落ちしてくださいっ!」


415:桜の群像 第25話「TALK TO TALK」19/19
07/11/18 00:17:06 zAD7tlI40

「ところで、どうして家出なんかしたんです? 何かあったのですか?」

雄二が恋人を発見したのと、ほぼ同時刻。
薫子は親友の母親に、今日の結果と明日の予定を報告していた。
「ほんとにもう、ごめんなさいね」
恐縮する玲於奈の母に、薫子は思い当たるふしを尋ねたのだが。
「それがね……」

昨夜。
「お風呂いただきました。お休みなさいませ」
「なんだか浮かれてるわねえ」
茶の間に顔を出して就寝の挨拶をした玲於奈に、母親が声を掛ける。
「そう、かしら?」
言葉と裏腹、愛娘はふふっとあからさまに上機嫌。
「あっ、そうだ、玲於奈、ちょっと座れ」
そのまま去ろうとした少女を、新聞を読んでいたのか眺めていたのか不明な父が呼び止めた。
「なんでしょう?」
座布団を敷くまでもないと畳に直座り。
「いや、あー、実はな、うちにお見合いの話が来てな、いーい話なんだがこれが」

「……そうしたら急に感情的になって、最後は部屋に閉じこもってしまって……」
「朝覗いたらもぬけの空、というわけですか」
「お父さんの言い方も悪かったとは思うんだけど……」
説明を聞くうちに、薫子はなんとも言えない表情になっていく。
「……薫子ちゃんには、いつも迷惑ばかり掛けて悪いわねえ、馬鹿な娘で」
事情を話し終えた玲於奈の母は、受話器の向こうで手を合わせていそう。

「迷惑だとも思いませんし、悪くもありませんけれど」
事情を聞き終えた薫子は、携帯電話を耳に当て、空いている手を腰に当て。
「それは本当に、馬鹿ですねえ」
深々と嘆息した。

416:名無しさんだよもん
07/11/18 00:17:43 mNs/GOOp0
支援砲撃、てーっ!!

417:名無しさんだよもん
07/11/18 00:18:15 zAD7tlI40
以上です。支援ありがとうございました。おかげで間隔短めで投下できました。

今回、普段にも増して会話ばかりになってしまい、思わず題名変更。
なんにせよ、次回最終話(今度こそ)「Sound of Destiney」(+エピローグ)、です。

418:名無しさんだよもん
07/11/18 00:24:43 RapPX2dJ0
前回の引きから続きが気になってた~

家出した理由はありがちっちゃありがちですが、
そこで駆け落ちに行っちゃう辺りがやはり玲於奈クオリティかw

とにかく乙でした

419:名無しさんだよもん
07/11/18 10:50:26 KzCOyGgy0
GJ!
>「覚えてるでしょ? ぜろきゅーぜろ、ぜろななにぃ……」
何気に吹いてしまいましたw

貴明、雄二に恋人ができて、このみはどうするんだろう・・・とちょっと思いました。

420:名無しさんだよもん
07/11/18 11:11:34 X8IE5z6F0
ゲンジマルとry

421:名無しさんだよもん
07/11/18 17:30:46 gWrrWm/w0
いくのんが世話してくれてるようだぞ

422:名無しさんだよもん
07/11/18 21:07:11 Vu4z+jkb0
>>418
ありがちっていうか由真シナリオにある

423:名無しさんだよもん
07/11/18 21:17:24 VokLchHq0
>>422
そういう意味も含めて「ありがち」って言ってるんじゃ?
由真の場合は駆け落ちまでいかなかったわけだし、そこで差を表現してるんだとオモ。

まぁ自分で書くときには、ちょっとこういうのが怖いな~と思うんだけどねw
原作プレイしてから間があくと、自分で考えたつもりのネタが既に原作にあったりとか
SSが知らず知らずのうちに原作をなぞってるだけになってる、みたいなの。
プレイ直後には絶対にありえないのに、時間の経過とともにどんどん記憶が曖昧に。

424:名無しさんだよもん
07/11/18 21:23:36 RapPX2dJ0
由真の家出の理由はじいさんが勝手に海外の音楽学校の進学を決めたからだった気がするけど…別ルートあるの?

425:名無しさんだよもん
07/11/18 21:43:40 Vu4z+jkb0
>>424
PS2版は縁談のはずだよ
PC版は音楽学校であってるから心配すんな

426:名無しさんだよもん
07/11/18 22:17:19 ZnaNF7dj0
PC版やったのに全然それに気づかなかった俺みたいなのもいるから安心しろ。

427:名無しさんだよもん
07/11/18 22:20:51 tUNzX69U0
PC版だと家出の理由が違うのか、PS2版しか持ってないから知らんかった。

428:424
07/11/18 22:30:35 RapPX2dJ0
やり漏らしがあるのかと思ったよw
まあ、姫百合シナリオとかはかなり怪しいんだけどな

429:417
07/11/18 23:30:28 JP1kAnGy0
>家出と由真の縁談
久々にPS2版起動して確認しました。すっかり忘れてましたw
もっとも、縁談&家出のコンボは由真に関係なく非常にベタな展開ではあります。

話を書く上で意識したのはむしろささらシナリオの方でして、
あれの裏(二人を捜す側)をやりたかったのと、あとは由真でも他のゲームでも、
よくヒロインが行方不明になった時に主人公一人で探す、ってのに違和感があって、
玲於奈をみんなで捜すネットワークを書いてみたかった、というところです

や、イベントが家出なのはラスト一波乱向けの事件が思いつかなかっただけだし、
展開もラス前だから全員出したいという単純な欲求の方が大きいんですけれどね。
いやあ、恋愛話の最後一悶着ってのは難しいですねえ……ええ、単なる力不足でございます(泣)

>このみ
このみは、郁乃に引き取らせる予定だったんですが、もうキャラが勝手に走ってて、
書けば書くほど泥沼というか、フォローしようとしてかえって可哀想になってる気が。
正直このSS内で救済するのは無理になってしまいましたが、先は長いんだし、
そのうちいくのんフィルターを透過するような良い相手が見つからんことを(-人-)

430:名無しさんだよもん
07/11/19 00:22:49 ZOAlGiht0
実は全て雄二の夢オチってことで、実は貴明も委員ちょと付き合っていない・・・なーんてね(笑

431:名無しさんだよもん
07/11/19 03:05:22 bVUz349p0
貴明が小牧姉妹をまとめて面倒を見るでいいんじゃね?

432:名無しさんだよもん
07/11/19 23:26:33 ZOAlGiht0
まあ、ぶっちゃけ俺は、委員ちょとこのみがいれば問題なし!
郁乃は・・・かわいい妹としてなでなでしたいね~

貴明は本当にうらやましいね。

433:名無しさんだよもん
07/11/20 06:28:39 rD9q3RMs0
むしろ郁乃とこのみの年下丼というのも捨てがたい意味もあるのではあるまいか

434:名無しさんだよもん
07/11/20 20:50:55 s3cQR97eO
>>433
その発想は無かった!
目が覚めるような思いだ

435:名無しさんだよもん
07/11/20 21:15:41 M6bzAqvL0
もの凄い茨の道だけどな。
二人の性格に加えて愛佳、タマ姉、春夏と認めてくれなさそうな人が一杯だ。

436:名無しさんだよもん
07/11/20 21:52:58 bPnxOlBM0
巷ではりゅうおうたんのイメージが強いが、
アナザーEDを見るに、このみはタカくん欲はあるが独占欲はそうでもなさそうだし、
郁乃も倫理観とか欠けてそうだから、当事者達は案外なんとかなるかも?<年下丼

保護者達は、愛佳はどーにかなるだろう。タマ姉と春夏さんは手強い・・・

437:名無しさんだよもん
07/11/20 22:10:50 ySN9CE1Y0
>郁乃も倫理観とか欠けてそうだから
どこから出てきた発想なのか詳しくwwww

438:名無しさんだよもん
07/11/20 22:36:18 bPnxOlBM0
初対面で「自分が何人目(の男)なのか教えてあげようか」などと言い放ち、
異性に突然「パンツ」とかのたまうヤツの、むしろどの辺に倫理感を感じろというんだ

439:名無しさんだよもん
07/11/20 22:47:40 ySN9CE1Y0
>>438
お前が今感じている倫理観は精神疾患の一種だ。
鎮める方法は俺が知っている。俺に任せろ。

440:名無しさんだよもん
07/11/21 02:35:04 razdy4sM0
この作品が力不足ってんなら今世の中にあるラノベはおよそ半数が出版されなかっただろう。
>>194でも言ったが次で終わるのが怖くて仕方ない!

愛佳の
「2年くらい前のゲームで、家出した恋人同士が生徒会室でってのが」
ってのはどう見てもXRATEDのささらルートですほんとうにありg(ry
エロゲやってる愛佳ってのは想像できないな

441:名無しさんだよもん
07/11/21 06:08:57 dYsN9Ao00
まぁラストエピソードが独創的できっちり決まる長編なんてラノベでも漫画でも滅多にない
エロゲでもそうか。戦闘系の話なら派手にラスボス出しときゃそこそこだが

442:名無しさんだよもん
07/11/21 23:32:02 eAAIPWPQ0
頑張り次第では素人が捕まる。俺は実際に2、3人と会えた。
URLリンク(agra54g.kinugoshi.net)


443:名無しさんだよもん
07/11/22 22:06:28 uwnR3Nme0
エロゲーマーが出会い系なんか使うんだろうか

444:夢あわせ 1/8
07/11/26 02:09:57 RutWkcOd0
 瞼を開くと、透き通るような青空が目に飛び込んできた。
 そして、風に混じって感じる青臭い草の匂い。
 だがそれらにどこか現実感が伴っていない…そんな違和感に戸惑いを覚えていた彼女の
視界に、一人の男の姿が飛び込んできた。
「あ、おきたんだ…イルファ」
 男の声はよく知った物だった。
 だが、青空のキャンバスを背に目の前に現れた男性は彼女の…イルファの記憶よりも
逞しく、記憶よりもずっと大人の男のものだった。
 それに違和感を感じつつも、なぜか当然のように彼女は男の声に答えた。
「おはようございます…貴明さん。」


    夢あわせ


 心のどこかで微妙な違和感を覚えながらも、イルファは置かれた状況に順応していた。

 イルファは体を起こすと、寝ている間に乱れてしまった髪を整えた。髪は肩にかかる
ほどに伸びていて、耳にセンサーユニットはなかった。

 二人がいたのは、見渡す限り青い空と緑の草原が続く丘陵の中だった。
 辺りにはいくつかの立ち木が在るだけで、他には誰もいない。

「まだちょっと眠そうだね…最近は夜中にたたき起こされるから、よく眠れてないん
 だろ?」
 貴明はそう言って、イルファの横を指した。


445:夢あわせ 2/8
07/11/26 02:10:37 RutWkcOd0
 イルファの横には大きな揺りかごが一つあって、その中ではまだ生まれたばかりの
赤ん坊が一人、すやすやと眠っていた。

 その顔はどこかイルファに似ていて…髪も彼女と同じ色をしていた。

 イルファは手を伸ばして、いとおしそうに、そのふっくらとした頬をそっと撫でた。
 それで目が覚めたのか、その子は急にむずがって泣き出してしまった。
「おなかがすいたのかな?時間も頃合だし。」
 貴明が時計を見ながらそういったのを聞くと、イルファは一つ頷いた。
「では、おっぱいをあげましょうか。」
 そう言って、イルファは手馴れた手つきで揺りかごから赤ん坊を抱き上げると、自分の
胸元をはだけて乳房を取り出した。
 服の間から覗く乳房は母乳のために大きく張っていた。イルファがその先端を口に
含ませると赤ん坊は力強く吸い始める。
 それはイルファにとって、貴明に愛撫されるのとは違う、とても心安らぐ、幸せな感触
だった。
 貴明もそんなイルファと赤ん坊の様子を見てとても幸せそうな柔らかな笑みを浮かべた。
 その暖かい雰囲気に、イルファは例えようのない幸福感を覚えていたが、しばらくして
その時間は唐突に終わりを告げた。
 突然世界が色あせ、遠のき始める。

 待って!

 今までの幸福感から一転、例えようのない喪失感に、イルファの心が悲鳴を上げた。


446:夢あわせ 3/8
07/11/26 02:11:15 RutWkcOd0
 しかしイルファの願いは届かず、貴明の笑顔が脳裏に焼きついたまま、イルファの意識
は光に飲まれた。

                   -

 タイマー起動。
 セルフチェック開始…終了。異常なし。
 いつも通りの朝の目覚め。イルファはゆっくりと目を開けた。
 目に飛び込んできたのは窓から差し込む日の光といつも見慣れた天井。姫百合姉妹の
住むマンションの、イルファの部屋の天井だった。

 さっきのは一体なんだったのでしょう…
 知らない風景の中で、大人の貴明さんと過ごしているなんて…何かのエラーでしょうか。

 イルファはそんなことを考えながら、とりあえず体内時計で現在時刻を確認した。
 するととうに7時を回っていることがわかった。いつもなら6時には起きて姉妹のため
に食事を用意するのが日課なのに大寝坊だ。メイドロボとしてありえない失態といって
いい。
 タイマー設定のミスか、自分にどこか異常があるのか…原因はわからなかったが、後で
珊瑚か長瀬主任に相談してみようと思いながら、イルファはとにかく身支度を整えること
にした。
 急いでパジャマからいつものメイド服に着替えて、鏡で見ながら簡単に髪をブラッシン
グする。
 そのついでに、イルファは鏡の中の自分の姿を確認した…センサーもあるし髪型も
ショートカットの、いつもの自分の姿だった。


447:夢あわせ 4/8
07/11/26 02:12:17 RutWkcOd0

「申し訳ありません、寝坊してしまいまして。」
「あ、いっちゃんおはよう~」
 イルファがリビングに飛び込むと、すでに起きていた珊瑚が出迎えた。瑠璃はイルファ
の代わりにキッチンに立って朝食を用意している。
「あ、起きたんかイルファ…寝坊ならさんちゃんのせいやから気にしんとき。」
「え?…珊瑚様のせい…ですか?」
「そうや~ウチの仕業~」
 珊瑚はいつものようにるーのポーズであっさりと犯行を自供した。
「一体なぜ…」
「今日いっちゃん誕生日やろ?」
 そういわれて、イルファは体内時計のカレンダーを確認した。確かに今日は11月26
日で、イルファが起動した…人間ならば誕生日だった。
「たしかに、私の誕生日ですが…」
「だから…ウチから誕生日プレゼント~」
「さんちゃん、一体何プレゼントしたん?」
 瑠璃が料理の手を動かしながら、イルファも感じていた疑問を珊瑚に投げかけた。
 珊瑚はそれに対して蕩ける様な笑顔で答えた。
「夢や~」
「夢…あの、将来の目標とかの夢ですか?」
「そっちの夢やなくて、寝てるときに見る夢~」
 夢…眠りの中で見る、自分の願望。
 イルファは先ほど見た貴明との未来の姿を思い出していた。あれが自分の望んでいる
未来なのだろうかとイルファは思った。
「イルファ、どんな夢見たん?」
 瑠璃は出来上がった朝食の皿を珊瑚の前に置きながら、イルファに尋ねた。
 イルファは自分の見たものをどう話したものか、少し考えこんでしまった。
「…別に嫌なら話さんでもええよ。」

448:夢あわせ 5/8
07/11/26 02:13:23 RutWkcOd0
 考え込んでしまったイルファを見て、瑠璃は聞くのはやめたほうがいいのかと思ったが、
それをイルファは頭を振って否定した。
「…いえ、そうではないのです。夢を見たのは初めてでしたので、どう話すべきかと
 思いまして。…順番にお話しますね。」

 イルファは夢で見たことを話し出した。
 イルファが貴明と夫婦らしい間柄だったこと。
 貴明との間に子供がいたこと。そして、その関係を幸せに感じたことを。

「…ごめんな、いっちゃん。」
 イルファが話し終わったとき、珊瑚はしゅんとして謝罪の言葉を口にした。
 イルファの中にある願望を元に夢を生成するプログラムを無断でインストールした上に、
そのプログラムが見せたものは、ロボットであるイルファには叶わない残酷な夢だった
からだ。
 だがイルファは珊瑚を責めようとはしなかった。
「珊瑚様が謝られる必要はありません。夢の中だけでも、私の願望が実現したのですから、
 私は幸せです。」
 瑠璃もまた、謝罪の言葉を口にした。
「イルファ…ウチがさんちゃん止めとけば…」
「いいえ。あれでよかったのです。夢を見たおかげで愛する人の子を授かる気持ち、
 そしてわが子を愛しいと思う、人の親の気持ちがわかったのです。」
「イルファ…」
「ですが、現実には私は貴明さんの子を生むことは叶いません。ですから、」
 そう言うと、イルファは瑠璃の手を取ってしっかりと握った。
「ですから、瑠璃様…瑠璃様には貴明さんと結婚して元気な赤ちゃんを生んでいただき
 たいのです。」
「…は?」
 突然の願いの言葉を聞いた瑠璃は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

449:名無しさんだよもん
07/11/26 02:15:17 B8o2i7ms0
うほっ

450:夢あわせ 6/8
07/11/26 02:19:30 RutWkcOd0
「瑠璃様が貴明さんと結婚して母となられた暁には、私も乳母として共にお子様の育児や
 教育に参加させていただき、もう一人の母として愛するわが子の成長を見守りたいの
 です。」
 イルファが熱弁を振るっている間に、瑠璃が正気を取り戻して眉を吊り上げながら反論
した。
「ちょ、ちょっと待ちぃ!」
「はい?」
「な、何でうちが貴明と結婚せなあかんねん!」
「貴明さんはお嫌いですか。」
「う…そやない…けど。」
「みんなで貴明さんのお嫁さんになれれば良いのですが、残念ながらメイドロボに人権は
 認められておりませんし、重婚も許されてはおりません。お嫁さん、つまり正妻の座は
 残念ながら珊瑚様と瑠璃様の二人に一つしかないのです。」
「な、ならさんちゃんが貴明のお嫁さんになればええんや。さんちゃんは貴明のことすき
 すきすき~やねんから。」
「瑠璃ちゃん。」
 珊瑚もまた瑠璃の手を取りながら真剣な顔で言った。
「瑠璃ちゃんかて貴明のことすきすきすき~やろ? 自分の方がお嫁さんになりたいのに、
 無理せえへんでもええんよ。」
「あ~う~ちゃうねん~」
 瑠璃としては半分照れ隠し、半分珊瑚を思って「お嫁さん」に押したのだが、まるっき
り逆効果だった
「瑠璃ちゃん、ツンデレはトレンドやけど、ツンもたいがいにせんと本当に貴明に嫌われ
 るよ。」
「あ~う~」


451:夢あわせ 7/8
07/11/26 02:22:05 RutWkcOd0

 そんなお嫁さんの座を譲り合う姉妹を見るイルファの眼差しは暖かだった。
 イルファ自身は確かに法的にも貴明の妻となることは叶わない。だがそんなことは関係
無しに、この関係は変わらないでいければいいとイルファは願っていた。

 だが、それはそれとして、こんなほほえましい瞬間にも現実の時間はどんどん過ぎて
いくもので、
「…あ、瑠璃様、珊瑚様、もうそろそろお出かけになりませんと、学校に遅刻してしまい
 ますよ!」
 いつの間にか、時間は8時を回ろうとしていた。
「なっ、もうこんな時間やないか!」
「まだ朝ごはん食べてへん~」
 珊瑚は瑠璃が用意した朝ごはんを前に指をくわえてそんなことを言っていたが、瑠璃の
ほうは大慌てで出かける準備を整えていた。
「ほらさんちゃん!出かけるで!」
「でも~、ごはん~」
「もー、しゃあないな。」
 瑠璃は自分と珊瑚のお皿に乗っていたトーストを手に取ると、同じくお皿に乗っていた
オムレツを片方のパンに乗せ、その上にサラダのレタスを重ねてトーストを載せ、即席の
ホットサンドにした。
「これを半分に切って…はいさんちゃん、これで我慢しとき。」
「わ~、サンドイッチや~」
 瑠璃はナイフで2等分した片方を珊瑚に差出して、自分も残りの半分にかぶりついた。
 一方、イルファはすでに二人のかばんを持って玄関口で待っていた。
「珊瑚様、瑠璃様。お早く出かけませんと、貴明さんたちがお待ちですよ。」
「ひゃかあひひやんふぇほうへふぉへへふひゃ!」
 瑠璃はホットサンドを咥えて靴を履いていたので何を言っているのかわからない。
「瑠璃ちゃん、行儀悪いで~」


452:夢あわせ 8/8
07/11/26 02:22:50 RutWkcOd0
「もが…しゃあないやん。手ぇ使わんと靴履けへんもん。そんなことよりイルファ、
 かばん。」
「あ、はい、どうぞ。」
 イルファの差し出したかばんを二人分まとめて受け取って瑠璃が玄関を出る。
「ほなイルファ、留守頼んだで。ほら、さんちゃん急がな。」
「あ~、待って~瑠璃ちゃん~」
 そう言って、先に走り出した瑠璃を追って珊瑚は玄関を出た。が、なぜかすぐに戻って
きた。
「珊瑚様、何か忘れ物でも?」
「ううん…今日は貴明も誘って、みんなでいっちゃんの誕生日パーティするから~、
 たのしみにしとってな~」
 そう言って、珊瑚は再び瑠璃の後を追って走っていってしまった。

                   -

 騒がしいひと時が過ぎ、家の中はイルファだけになってしんと静まり返ってしまった。
 だが夕方には貴明もメンバーに加えて、一段と騒がしくなるに違いない。

 …午前中のうちに家事を済ませて、午後は腕によりをかけてお料理を用意しましょうか。
 今日は瑠璃様に習ったレパートリーを存分に披露してみんなに喜んで貰いましょう。

 イルファは一つ深呼吸をして気合を入れた。
 愛する人たちの笑顔こそ、イルファにとって最高の「プレゼント」だ。
 その笑顔を見るために、今日もまたイルファの忙しい1日が始まった。


453:名無しさんだよもん
07/11/26 02:24:23 RutWkcOd0
>>449
支援THX

一応イルファさん誕生日SSということで

アイデアは割りとすんなり思いついたんですが、いろいろ表現がうまく行かなくて
結局何度も書き直ししてやたらと時間がかかってしまいました…
その割にはあまり成功していない気がするけど…

本当は来週のミルシルも書きたいと思っていたのですが、おかげで何にも
手をつけてないんで無理ですな

ちなみに「夢あわせ」は夢占いのことです
夢占いでは、赤ちゃんが登場する夢を見ると運気が上昇するそうです


454:名無しさんだよもん
07/11/26 02:37:23 CZpVUGTE0
お疲れさまでした~。無理せず頑張ってくださいな。

455:名無しさんだよもん
07/11/26 19:09:39 Vj7JejDU0
>453
乙! 真面目な珊瑚ってのは珍しいな
双子とメイドロボは、真面目に境遇を省みると辛い部分も少なくないんだよね
だから珊瑚やイルファがぶっ飛んで勢いで引っ張るSSが多いんだろうけど
(本編からしてそうかw)、こういうちょっとローテンションな話もいいもんだ

456:名無しさんだよもん
07/11/30 07:37:23 qFMOojyJ0
age


457:名無しさんだよもん
07/12/03 23:30:17 TMcVn9410
あれ?ミルファの誕生日SSは?

458:名無しさんだよもん
07/12/04 03:02:50 RcE16twL0
しかし、急に書き込みが亡くなったよな・・・

459:名無しさんだよもん
07/12/04 20:37:43 2QyXqQD2O
>>458
冬コミの準備で忙しいんだろ
そう信じようや

460:名無しさんだよもん
07/12/06 19:18:38 JgdJh1+/0
>>458
冬コミか…

461:名無しさんだよもん
07/12/08 23:19:14 mCepAmo20
冬コミ原稿が終わってきたのかSSLinksの方は急に賑やかになったけどなぁ

462:名無しさんだよもん
07/12/09 00:18:08 ZwRQPAOg0
要は冬コミのせいじゃなくてリアルで書き込む人間が減ったってことでしょ

463:名無しさんだよもん
07/12/11 08:56:57 LQOJyPpJ0
ほす


464:名無しさんだよもん
07/12/14 00:39:04 Y16ouhNj0
ほしゅ

465:名無しさんだよもん
07/12/16 08:37:13 WQr7tuQAO
一体いつになったら前のような賑やかさが戻るんだろ?

466:名無しさんだよもん
07/12/16 10:10:53 xE79N7y30
賑やかだった時期の方が遥かに短いと思うけど、とりあえず>465が書いてみたら?

467:名無しさんだよもん
07/12/16 10:37:31 Cyrf0ogk0
投稿いっぱい→誰か目立った作家が叩かれる→他の作家も投稿控える→過疎る→新たな作家登場→投稿復活→最初に戻る の循環だからな
冬コミのせいだとか現実逃避してる香具師もいるけどそんなに賑やかなのが良いなら叩かなきゃ良いのに

468:名無しさんだよもん
07/12/16 10:50:10 Dy8d7p0BO
>>467
叩かれた作家さんかい?

469:名無しさんだよもん
07/12/16 10:58:35 xE79N7y30
叩く人は「過疎スレw」って書きたくて追い出してるんだから仕方ない
寂しい人にできることは、まず自分で書いて投下復活のきっかけを作ることだね

470:名無しさんだよもん
07/12/16 12:18:41 4bHiCxjV0
AD待ちじゃないのか?

471:名無しさんだよもん
07/12/16 12:58:16 Cyrf0ogk0
じゃああと2ヵ月半待て

472:名無しさんだよもん
07/12/16 19:29:43 F5xMARSo0
叩き自体は悪いことじゃない。悪感情であれ、それも作品を読んで生まれた一つの感想だから。
問題は作者でもない第三者が、その叩いた人を諌めたり攻撃したり、挙句の果てに
「気にしないで頑張ってください!」などと余計なことを言うこと。
これをやると議論や便乗煽りが起こって、結果作品がそっちのけになり、作者はそれを嫌って
投下を控えてしまいスレが過疎る。
まあ要するに他人の感想にケチつけんなってこった。
作品の内容関係ない個人攻撃とかならなおさらスルーするべきだしな。

473:名無しさんだよもん
07/12/16 19:38:22 xScygNmQ0
>>472
その通りっちゃその通りなんだが
2ch、しかも過疎ってるとはいえ七厨板だぞ?
煽り煽られ叩き攻撃は止めようがないっつーか、
それを嫌うんだったら他所に行くしかないんじゃね?
作家の保護やってるわけじゃないんだから、
投下する人にもそのくらい覚悟してもらわんと

474:名無しさんだよもん
07/12/16 20:14:15 1XBhdbXV0
>>叩き自体は悪いことじゃない
そんなわけあるか。
それに作品叩きも感想叩きも本質は同じだ。

475:名無しさんだよもん
07/12/16 21:07:31 DR2jGGjf0
>>叩き自体は悪いことじゃない
感想(悪い所の指摘含む)と叩きは別物だぞ?
感想はより良い作品への糧だが、叩きは一方的な排除だ。
マンセー以外は叩き、って訳でも無いし。

476:名無しさんだよもん
07/12/16 21:44:54 toi2iXAR0
ここはSS専用スレであって、議論スレじゃないよ。それにADが出ればここも活性化するだろうし、まったり待たないか?
それまでお前らも自宅警備で色々と忙しいだろうけどみんなで保守頑張ろうぜ。

477:名無しさんだよもん
07/12/16 23:00:38 DP6KWSs90
まぁ、とりあえずADが出ないと書きにくいのは確かだわな。

・・・・・特にメイドロボものは書けんww
シルファなんか怖くて触れん!!

478:名無しさんだよもん
07/12/17 11:17:59 WX7FwQdT0
しょこさん更新乙

479:名無しさんだよもん
07/12/17 19:03:39 BOa1FtxT0
>>477
お前俺がどれだけメイドロボSSを待ち望んでると思ってるんだ
遠慮なく書いてクダサイネー

480:名無しさんだよもん
07/12/18 02:46:31 bh7schFP0
空気読まず聞きたいんだが、
オマエラ一押しのささらのSSってないか?


481:名無しさんだよもん
07/12/18 12:47:42 foCOwySv0
>>477
ちょっといいか?こういう思考が理解できんのだが、どうしてそう思うのか教えてくれ
というのも、ADの情報が出てくるにつれて「シルファは書けない書きにくい」って言う
作家の人を結構見かけるんだよね
477はメイドロボ全般について書いてるから、この例には当てはまらないんだけど・・・

なんか堂々とミルファを書く一方で、シルファが書けないって嘆く人いるじゃん
俺はぶっちゃけ出てる情報量はミルファもシルファも変わらないと思うわけよ
だからイルファ以外のメイドロボなんて、妄想の産物に過ぎんと思うんだよね
確かにその妄想が実際のキャラとかけ離れてなさそうなのはミルファの方だが
こういうのを見ると上手く言えないんだがもにょってしまう

AD出たらイメージが刷新されて、既存のSSが過去のSSになるのは変わりないと
思うんだけどなあ
ADが出ることでダメージを負うと思ってる作家の人って、現状自分で何をしてる
つもりなんだろう・・・

482:名無しさんだよもん
07/12/18 15:18:27 +qA4Rxt60
>>481
う~~ん、どう言ったらいいかわからんが……
今出てる断片情報があまりにも従来の自分の中のシルファからかけ離れているから、かな??
言葉遣いとか性格とか、オレん頭の中のシルファは大混乱だもんよ。

ミルファも今は書きにくいっちゃ~書きにくいが、これは愛ゆえと言ってもいいかも試練。
すっごい好きだから、その期待感で頭がいっぱいになってて、神が降りてこないのよ。
ADが出て過去作品にダメージが、ってまでは思わないけど、ADが出ないうちは妄想が
上手く広がってくれないんだよ。
こんな回答でよろしかろうか??

483:名無しさんだよもん
07/12/18 17:45:57 LxdGfEm30
>>481
ミルファは今までの情報で強気キャラという点では固まってる。
シルファは、貴明を足蹴にしたCGとダンボールに入ってるCGと、人見知りで研究所から
出たことが無いって情報が出てる。この情報から導き出されるキャラクターが俺にはわからん。

484:名無しさんだよもん
07/12/18 18:52:53 1hTumo7Z0
>>481
メイドロボSSばかり書いてる人間からすると、乱暴な言い方になってしまうけども
別にADの情報が出ようが出まいが「今の段階では」関係がないな。
だって反映させようがないんだからしょうがない。それでもキャラは書きたいしね。

シルファを槍玉にあげてるようだけど、個人的にはミルファも既存のイメージとは
かなりかけ離れてるんじゃないかなー、と思ってる。
ゲーム画面の写真を数枚見た程度だから確信を持って言えるわけではないけど
単なる強気っていうより、THの綾香みたいな曲者っぽい印象を受けたんだよね。
そういう意味では、ミルファを書けるのにシルファを書けない、って言ってる人の
考えてることは俺にも分からないかな。別に知りたいとも思わないんだけどさ。

ただまあ、俺はもちろんADが出て、気に入ったらそのキャラを反映させて書くよ。
それに、気に食わなかったからといって、今書いてる自分のキャラをごり押しして
書き続けようとは絶対に思わないしね。

485:名無しさんだよもん
07/12/18 18:55:41 1hTumo7Z0
OCN規制ホントに解除されてて俺歓喜\(^o^)/

486:名無しさんだよもん
07/12/18 19:28:29 uW+nVFKd0
シルファはふたなりという俺設定があったのだが
無念じゃ
無念じゃわぃ

487:名無しさんだよもん
07/12/18 19:43:57 +qA4Rxt60
>>486
いや、まぁ、ロボットなんだからして、オプションパーツを付ければお手軽にフタナリ
になるんじゃね??
そういうシチュエーションを作ればSSキャラにするに何の問題もないと思われ。

488:名無しさんだよもん
07/12/18 20:58:11 rk6bvJq60
外部に対しては「AD非対応」の一言で済む話だろうけど、
結局は書き手自身の気持ちの問題だから議論してもしょーがないことではある

俺は個人的には>477の方に共感するな
自分の書いたキャラに愛着はあっても、設定やイベントならともかく、
キャラの性格づけが公式と真っ向から食い違ったらやっぱションボリするだろうと思う
「後から公式設定でちゃうかもな」くらいの状況ならともかく、
ADで予告されちまってるわけだからね。発売日をまたぐ連載なんか絶対書けん

>481の末2行の答えになるか知らんが、「鳩2SS」を書いてるつもりだから、
原作と大幅にズレたら自分で自分の作品を「鳩2SS」と思えなくなるのが怖い
別に共感は求めないけど、さほど不自然な感情とも思わないんだがな

489:名無しさんだよもん
07/12/18 21:09:50 jBNVB/kI0
>>480のスルーされっぷりがw

490:名無しさんだよもん
07/12/18 21:21:04 yA58OcmU0
>>488
その鳩2SSって結局なんなのさって話になるんじゃね?
情報出る前のミルシルを使ったメイドロボSSなんてそれこそ鳩2SSとはもっともかけ離れたSSだろ。
ADでミルシルが出るって確定した時に止めてる人ならともかく、キャラ情報が少しだけ提示されてから
鳩2SSと思えなくなるのが怖いから書けませんってのはなんかおかしくないか?

491:名無しさんだよもん
07/12/18 22:06:32 +qA4Rxt60
>>490
オレの場合はAD出る&ミルシル出るって決まった段階で書きにくくなったけど……
キャラ情報が出てきたら更に書きにくくなったのは確か。
なんつーか、イメージの乖離が大きくてさ。
まさに「鳩2SSと思えなくなるのが怖いから書けません」状態だよ。
上で>>488も言ってる事だけど、誰よりも自分にウソはつけないからね。
誰がどう感じようと、オフィシャルとあまりにかけ離れてしまったら、自分自身が鳩2SSだと
言えなくなってしまうかも試練。それは非常に怖い。
自分の作品や自分のイメージが生んだキャラにはやっぱ愛着があるやん??
それを偽物と感じたらすごい寂しいんだよ。だから今は書きにくい。そういう事さ。

ま、インスピレーションの神が降臨したら発売日前日でも書いちゃうだろうけどねw

492:名無しさんだよもん
07/12/18 22:09:33 M8gRX13O0
だれか菜々子のSS書いてくれんかな

493:名無しさんだよもん
07/12/18 22:16:13 eYsy05jE0
シルファは本編中であった情報からは考えも付かないようなキャラになりそうだよな。
最初は誰かの倉庫のシルファSSみたいなのが俺のもともとのシルファ像だったんだが、
今ではだいぶ、どころか俺脳内のシルファが180度別のキャラクターになってしまった。
かと言って、情報が結構出揃った今でも倉庫のシルファSS読めばTH2のシルファとして萌えるし、
恐らくAD発売後もADのドSシルファにも、それまでに出たSSのMっぽいシルファのどちらにも萌え続けると思う。

現時点なら俺は作者の妄想のキャラクター像でも十分楽しめるから、
別にADと方向性が全く違うキャラクターになっても『今のところは』気にしない。
ただAD発売後では性格の固定化が行われるだろうから、
AD発売後に昔の性格で新しく書かれたシルファを見たら多分叩くと思う。

すまん、結構眠い目で書いてるから、言ってる意味たぶん伝わってないと思う。
要するに今の俺はシルファSSに餓えてて、妄想性格でもいいから俺にもシルファSSくれ、と言いたいかったんだ。寝ます。

494:名無しさんだよもん
07/12/18 23:08:01 yA58OcmU0
>>491
だからさ、今までさんざんかけ離れたSS書いてたくせに、今更かけ離れるのが怖いって理由はおかしいでしょって話なんだけど。
そら>>491がそう思うなら書かなくてもいいんだけどさ、理由としておかしいだろって言ってるわけ。
自分の作品に愛着があるのはわかるけど、自分のイメージが産んだキャラに愛着があるってのは理解できないなあ。
それこそ>>491のいう鳩2SSってのは自分のイメージした鳩2であって実際の鳩2じゃないってことじゃん。
原作にないからこそ許された妄想を台無しにされる可能性なんか考えてたらSSは書けないし、メイドロボSSなんかは絶対に書けないよ。
あえてキツイ言い方をするけど、自分の作品の価値が無くなることを認めたくないだけにしか見えないわ。

495:名無しさんだよもん
07/12/18 23:31:27 rk6bvJq60
別に見たいように見てもらって結構だと思うが、
俺や>491のように書きづらくなっている人がいるって所で、
どうやらそうでないらしい>494に一本メイドロボSSを期待したいな

496:名無しさんだよもん
07/12/18 23:40:35 1hTumo7Z0
>>495
いくらなんでもそれはねーよwwww

ID:yA58OcmU0は自分の意見を述べてるだけだし(その意見をどう感じるかは人それぞれだろうけど)
その意見ってのは別に「俺はお前らと違ってメイドロボSS書きにくくなってねーぜ」なんて主張する
ものではないだろ…

日本語はちゃんと読んだ方がいいと思いまるする^p^

497:名無しさんだよもん
07/12/18 23:46:13 jBNVB/kI0
とりあえずオフィシャル設定出してくれるってオフィシャルが言っているわけだから、
それが出るまで様子見ておこうか~、と考えるのはそんなに不自然ではないような。
別に、この時期に無理にシルファを書く理由があるわけで無し、
しばらくは気心の知れたキャラを書いておいて、2月末からは「書くぞ、オラッ」ってね。
出るかでないか判らなかった頃と、出るよ~って確言されている今では状況が違うんじゃないかなぁ。

と、どっかのSS書きさんが言っていたとかいないとか。
今はパワー充填、ニッカド充電。読む人も書く人も、二月末をお楽しみに!
待ちきれない? ガマンだガマン! あと二ヶ月がんばれ!
って感じかなぁ。

498:名無しさんだよもん
07/12/18 23:47:51 wO/CQ2G40
発売日がまた延期する可能性に一票

499:名無しさんだよもん
07/12/18 23:57:36 +qA4Rxt60
>>494
強いて理解して貰おうとは思わんが……

SSってのは結局妄想の産物やん。
原作の枠内でたくましく妄想を育てるのが何より楽しいわけだし、枠が決まっていてこそ
神様も降りてくるわけだ。
また枠の中にいるからこそ「SS」と言えるわけだしね。
ところがこれから新しくオフィシャルが出るってわかった。
一人称や貴明の呼び方、口癖、CVもこれから型枠が出来る事になってるんだぜ??
こりゃ神様も降りてこなくなるって。
少なくともオレの場合はそれが「書けない」最大の原因だよ。
もっと噛み砕けば「燃料マダー?」と言ってもいい。
これでFAって事で。
生暖かく見守ってた皆様スマソ……

500:名無しさんだよもん
07/12/18 23:59:57 oWzqYPSw0
書きたいなら書けばいいと思います
書く気が起きなきゃ書かなきゃいいと思います
それだけの話です

書けないとか言ってる人は読む人間の反応窺いすぎなんでしょう
この時期にあえてシルファのSS書く人ってのはきっと
既に持ってるシルファのイメージが未だ膨らみ続けているか
あるいはシルファのCGや小出しの情報見て妄想掻き立てられたって人でしょうし
そこまで妄想の翼が広がらないって人はwktkして発売を待つだけの話だと思います

要するに「書かない」と「書けない」ではニュアンスが違うよ、ってことではないでしょうか
日本語って難しいですよね

501:名無しさんだよもん
07/12/19 00:10:45 sf76EVQs0
>>494
やはり公式にキャラクターが発表されると違うと思うよ。
今まで個人個人が設定したキャラと公式の設定との剥離が大きいんだよな。
書けなくなると言うよりも原作のキャラを膨らませるのではなく、
オリジナルキャラを出してるような錯覚になるから戸惑いが生まれるんだと思う。
オリジナル設定と公式設定、どちらをベースに書けばいいか分からないってのが正しいんじゃないかな。

ついでに公式設定もいまだ正確なものが出てないしさ。
ぶっちゃけメイドロボどころかたぬきやきつね、まーりゃん先輩すら今は書きづらいと思う。

502:名無しさんだよもん
07/12/19 00:27:48 n7Z4HXWR0
っていうか、いま何人のSS書きが集まってる?w

503:名無しさんだよもん
07/12/19 06:35:46 GEClTu4W0
>496
>494の、要約すれば
「お前が(書きづらいと)感じている感情は精神的疾患の(ry」
という意見が何を意図して述べられたのかなんて知る由もないが、
スレ的に「(書く)方法は俺が知っている俺に任せろ」と言ってくれるのかと期待したw

504:名無しさんだよもん
07/12/20 03:27:49 IQx3Zjvc0
人の書きづらさなんて他人がどうこう言えるもんじゃないと思うんだがw

505:名無しさんだよもん
07/12/22 22:14:57 7FDuZ9uo0
桜の群像ラスト行きます。最終話とエピローグを連続投下します。

506:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 1/17
07/12/22 22:17:55 7FDuZ9uo0

クリスマス・イブ。
ネオンサインとイルミネーションが、カップルに溢れる街を彩る夜。
その灯りを窓の外に見ながら、電車に揺られる一組の男女があった。

「……」
ボックス席の一角で、荷物を膝に抱えて小さくなっているのは玲於奈。
ちらちらと向かい側の席に視線を送るが、言葉は発しない。
「……」
その視線の先、流れ去る光を眺めて不機嫌そうなのは雄二。
むっつりと唇を結んだまま、顎に拳を当てて沈黙を保つ。

雄二が自宅の屋根裏で玲於奈を見つけてから、およそ1時間半。

「わ、私と、か、駆け落ちしてくださいっ!」
無茶な申し出の後、
「お前は何を言ってるんだ」
いちおう、色々とやりとりはあって、
「縁談なんか断ればいいだろ」
雄二も説得は試みたのだが、
「相手方の家が格上のようなのです。禍根を残しては」
「駆け落ちはいいのかよ」
「私が勘当されればそれで済みます」
理屈は苦手分野でもあり、
「とにかく落ち着けよ。もうすぐ姉貴と薫子がウチに来るからさ」
失言もあり、
「お、お姉様がいらっしゃるのですか!?」
大慌てになった玲於奈、
「待て待て、すぐに連れ帰らないように俺が説得してやるから」
「雄二さんがお姉様に勝てるわけがありません」
「……まあ、な」
見も蓋もない発言に、思わず頷いてしまった雄二の負けだった。

507:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 2/17
07/12/22 22:19:22 7FDuZ9uo0

「~。~。」
乗車アナウンスが、新たな駅名を告げた。
「あ」
玲於奈が小さく声を挙げる。
いつの間にか自分が知らない路線区域に入っていたことに、少女は気付かなかったのだ。
今朝は無意識に降車してしまった程だったのに。
理由はすぐに思い当たる。
(一人ではないから、ですね)
斜め前に座る少年の様子を窺う視線に、信頼と照れが混じった。

いっぽう雄二は、それを視界の端に感じながら変わらず押し黙る。
信頼されたって、応えられるとは限らないのだ。
「……次の次で降りるぞ」
とりあえず、二駅先の街なら、宿も複数あった筈。
玲於奈よりはマシな程度の土地勘を総動員して、雄二はそう踏んだのだけれども。

「申し訳ありませんが、本日は満室です」
「ご予約がありませんと、すみません」
「今日はねぇ、一杯だねぇ」
観光拠点の宿は、クリスマスに飛び入りできるほど甘くなかった。
「カプセルホテルまで埋まってるとはな」
自分一人なら、サウナでもカラオケボックスでも夜明かしできるだろうが。
「……」
参ったな、と口には出さず、顔に出ているのを見られないように足早に玲於奈の前を歩く。
と、
「あの、ゆ、雄二さん?」
黙って付いてきていた玲於奈が、前に回り込んで来た。
「何だ?」

「あ、あそこですね、“空き室あり”って……」
おずおずと玲於奈が指さした先には、煌々と輝くラブホテルの看板があった。

508:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 3/17
07/12/22 22:21:17 7FDuZ9uo0

「い、意外と普通の部屋、なんでしょうか?」
「俺が知るかよ」

偽名偽齢で入ったホテルの部屋は、若い二人が妄想逞しくしたような怪しい空間ではなく。
アットホームな印象の壁紙に、大きめのソファと小さい冷蔵庫。
テレビはなかなか立派で、ビデオは貸し出しらしい。
ダブルベッドひとつ。

「「……」」
こればっかりは、どうにもならない。
「そのっ、電子レンジがありますね、お弁当温められますよ」
上滑った手つきで途中で買い物をしたコンビニの袋を引っ繰り返す玲於奈。
「明日の朝でいいだろ、ってなんだそりゃ」
転がったのは、単三電池×4。
「あ、これは、ですね」
がさごそ。
なにやら急に手つきが軽くなって、自分のスポーツバッグを探り出す。
「MD?」
少女が手に取ったのはポータブルプレーヤー。電池を入れて、スイッチを入れて。
「あははっ、動きましたよ」
少年に笑いかけて相手の怪訝な表情に気付くと、続けてバッグから紙片を取り出す。
「のし紙? これって……もしかしてカラオケ大会のアレか?」
雄二は、夏の出来事を、玲於奈が放り出した景品の事まで覚えていた。
「今朝、あの砂浜で拾ったんです」
その事実になお嬉しげな顔をして、ディスクをセット。
「それ、俺の?」
「すみません。お部屋から拝借しました……ほら、音も鳴りますよ雄二さんっ」
どうにも幸せそうな玲於奈が差し出すイヤホンを、もはや諦め顔で受け取る雄二。
耳元で流れる、緒方理奈の声。

二人で片方づつの音楽を聴きながら、暫しの間、雄二も状況を忘れた。

509:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 4/17
07/12/22 22:23:01 7FDuZ9uo0

「海、行ったのか?」
こく。
目を閉じて歌に聴き入ったまま、玲於奈は小さく頷く。
「本当は、一人で遠くに行くつもりだったのですけれど」
とん。
雄二の右肩に、軽く頭が寄りかかる。
左手を伸ばして頭部に触れると、いつもは柔らかい髪が潮風にべたついていた。
「砂、ついてるぞ」
「ん」
雄二は確かめるかのように、小指から順に玲於奈の髪に手を差し込む。
恋人の指先に髪を梳かれて、猫みたいに目を閉じる少女。
「この時期に砂浜なんてな……寒かったろ?」
「今は温かいです」
雄二の膝に玲於奈の手が乗って、肩の荷重が少し増した。

やがて、カチリと再生が終わる。
「あ……」
玲於奈はわずかに口を尖らせて身を起こすと、イヤホンを耳から外す。
赤い髪に絡ませていた指をほどいて、ぽんとその頭を叩く雄二。
「ほれ、シャワーでも浴びてこい。俺も汗流したいし」
「そうですね」
玲於奈はするりと立ち上がり、ひとつ背伸びをして、それからバッグを持って浴室に向かう。
「……」
扉の前で、ふいに立ち止まって振り向く。

「こ、こういう宿って、浴室が部屋から覗けたり?」
「分かるわけねえだろ」
意識から消えかけていたロケーションをわざわざ想起させられ、雄二はそっぽ。
「そう、ですよね」
玲於奈も顔を赤くしながら、こそこそとバッグを抱えてドアの向こうに姿を消した。


510:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 5/17
07/12/22 22:25:07 7FDuZ9uo0

玲於奈が普段より長めのシャワーを浴びた後、雄二も風呂をつかった。
「やっぱ寒かったんだな。生き返ったぜ」
「思ったより浴室も広かったです……っよっねっ」
「どうした?」
風呂上がりの会話、急に語尾が怪しくなった少女に怪訝な雄二。
「い、いえ、な、なんでも……」
なくはなさそうな表情と口調で、少年から目を逸らす、ふりをして横目な玲於奈。
「? なんか変か?」
雄二は自分の格好を見直すが、別に前がはだけているわけでもない。
ないのだが。

風呂上がりの少年。
最初から予定の家出だった玲於奈と違って着替えなぞ用意していないので、
ホテルに備え付けのバスローブを羽織っている。
下着はコンビニで買った。シャツは着ておらず、襟から覗く胸元は外見より逞しい。
洗ったばかりの前髪が、額に乱雑に張り付いていて、
「お前、洗面台からドライヤー持ってったただろ」
それを掻き上げながら、テーブルの上からドライヤーを取る仕草とか。
「ブラシ忘れた……ま、いいか」
手で髪を直しながら組んだ脚の、裾から伸びた裸の足とか。

「大丈夫か? 具合でも悪い?」
ふと手を止めて玲於奈を向く視線。
彼女はというと、床にぺたんと座った膝の上で手を組んで、心持ち肩を縮めていて。
「だ、だいじょうぶです。そうではなくて、その……」
組んだ手を口元に持ってきて、意味もなく何度も息を吹きかけてから、その片方を胸に当てる。

「あ、あはは、な、なんだか、急に心臓が止まらなくなりました」
それは止まったら死ぬのだろうが、そういう趣旨ではなく、
初めて見た恋人の寝間着姿に、口から飛び出しそうな少女の心臓は、早鐘のように鳴っていた。


511:名無しさんだよもん
07/12/22 22:25:30 aM798Zrx0
shien

512:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 6/17
07/12/22 22:26:50 7FDuZ9uo0
「……なにを言い出すんだか」
玲於奈の鼓動は、1メートルほど離れた雄二にも伝播したようだ。
さっきまで普通に見ていた少女の姿格好を、強く意識してしまう。

家出娘は、スポーツバッグに簡単な着替えを詰め込んできたのだが、
就寝着には、クリーム地にピンクの水玉という、どう見ても外用ではなさそうなパジャマを選んでいた。
少しゆったりした長袖長ズボンに、いつもはすらりとした印象のある手足の指が小さく見えて可愛らしい。
雄二よりも一足先に洗われた髪はふわりと乾いて、潮風の影響を排した本来の柔らかさを主張している。
部屋の暖気と自身の血流が相まって、ほんのり紅潮した頬と首筋。

(……やばいやばい)
心臓から送り出された血液が、微妙に頭と下半身に集まるのを自覚した雄二は、
元凶から意識を逸らそうと少女の周囲に視線を移す。
と、
「なんだ、それ?」
玲於奈の目の前にある物体に目を引かれた。
「えっ? あっ、これはですね」
ひょいと玲於奈が手に取ったのは、小さな預金通帳らしきもの。
「軍資金です」
預金通帳、そのものだったようだ。
「お前の? 貯金なんかしてたのか?」
「はい、といいたいところですが、家のです」
結構平気な顔で、とんでもないことを言い出す少女。
「ちゃんとハンコも持ち出しましたから、下ろせます……あれ? 雄二さん?」

得意げな言葉の途中で、雄二が頭を抱えていることに気が付いた。
「どうしたのですか? 頭が痛いのですか?」
笑ってしまいそうなくらい無邪気な問いに、確かに頭は痛い雄二。
だが、顔を上げた少年は真面目な顔を作った。
「……玲於奈」
「はい?」
「明日の朝イチで、家に戻るぞ。お前も俺も」

513:名無しさんだよもん
07/12/22 22:27:36 w509jQIw0
支援

514:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 7/17
07/12/22 22:28:49 7FDuZ9uo0

彼の言葉に、玲於奈から表情が消える。
「なぜ、ですの?」
絞り出す声には、寂しさと不満が入り混じった、自分を否定されたような感情。
「なぜもハゼもあるか。俺はお前を犯罪者にする気なんかねえぞ」
「家のお金ですわ」
「家出しようって奴が何言ってやがる」
「それはそうですけれど、でも」
厳しい口調に、玲於奈はあっというまに目に涙を溜める。
「私は、雄二さんと一緒にいるためなら、どんなことでもしたいのですのに」
俯く少女。

「だから、だよ」
雄二はひとつ溜息をつくと、立ち上がって玲於奈の正面に移動した。
見上げた少女の視線を受け止めながら、片膝をついて目の高さを合わせる。

「お前は、俺と一緒なら不幸になってもいいと思ってくれてるみたいだけどな」
「そうではありません」
玲於奈は首を振る。
「雄二さんと一緒なら、それで幸せなんです」
「サンキュ。俺だってそうだ。でもな、」
小さく目で笑って、雄二は続ける。
「俺は一般的な意味でも、お前に幸せになって、いや、お前を幸せにしたい」
「だから、どうしてもそうしないと一緒にいられないなら、駆け落ちでも犯罪でもするさ」
「けど、それは最後の手段だろ」
「見合話のひとつやふたつで家出してたら、家がいくつあっても足りねえよ」
面白くもない冗談でくくっと笑う雄二。
「でも……」
「いいから普通に頑張ってみろって」
雄二は、抵抗しかけた玲於奈を遮って付け加える。

「もしもどうにもならなくなった時は、俺がお前を攫(さら)ってやる」

515:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 8/17
07/12/22 22:30:10 7FDuZ9uo0

「雄二さん……」
自分を覗き込む恋人の目を、揺れる瞳で見つめ返す玲於奈。
床に突いた膝と膝は、30センチほどの距離で向かい合わせ。

そうっと、雄二が左手を玲於奈の髪に伸ばした。
「みんな、凄い心配してたんだぜ」
「みんな……」
「姉貴も、薫子達も、委員ちょ達も、クラスの連中も」
「小牧さん達まで……」
「親御さんも、心配してんだろ?」
「おそらく……」
玲於奈の声が詰まる。
「だからさ」
雄二は、俯きそうになった少女の顎に手を当てて、前を向かせる。
「戻ろうぜ、みんなのところに」

「……はい」
少女の瞳から、涙がこぼれた。
少年は、右手を伸ばして頬を指で拭った。
髪を撫でる左手に少しだけ力を入れ、恋人を引き寄せる。
床に座り込んだまま、玲於奈の上体が前に傾く。
合わせるように頭を下げてゆっくりと、覗き込むように唇を寄せる雄二。
玲於奈も両手を膝の前について、自ら相手を求めた。

「んっ……」
静かに重なる、二人の影。
向かいあわせに座って頭だけを重ねた、少し不自然な姿勢。
それでも彫像のように固まって、エアコンの風に少女の髪だけが揺れて。

雄二と玲於奈は、これまでで一番長いキスをした。


516:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 9/17
07/12/22 22:31:27 7FDuZ9uo0
やがて唇が離れると、玲於奈は小さく息を吐く。
「雄二、さん、あ、あの、ですね……」
「抱かねぇぞ」
「っ! まだ何も言ってませんっ!」
台詞とは裏腹に、真っ赤っ赤に赤を重ねたくらいの顔色が図星を物語る。
すぐに考えが分かったというのは、雄二も同じ事を考えていたということだが、
恥ずかしさで心臓が飛び跳ねた玲於奈は気付かなかった。
「俺は、お前を幸せにするって決めたからな。無責任な事はできない」
こちらは真剣な顔色で雄二。
さっきから臭い台詞ばかり言っている気もしたが、それでも今は気持ちを伝えたかった。
こくっ。
玲於奈も素直に頷いて、黙って少年に抱きついた。

その夜は、同じ枕で眠った。
ベッドがひとつでも、雄二はソファで寝ることも考えたのだが、
玲於奈は拗ねたし、布団の中では当然のように腕に寄り添ってきた。
「絶対に、お父様とお母様に雄二さんを認めさせてみせますからね」
耳元で、あまり囁くようでもない声で目標を語る少女。
「私も、お姉様に認められる女性になりませんと」
返答は求められていないように感じたので、雄二は黙って聞いている。
「進学でも、雄二さんが就職ならそれでも構いませんけど」
「駆け落ちでなくとも、一時期は二人きりで暮らしたいです」
「家事は任せてくださいな。最近、また料理のレパートリーは増えたんですよ」
「それで、そのうち子供を、何人くらいがよろしいでしょうかね。二人? 三人……」

ぽん。
「あんまり、先走るなよ」
雄二が空いている手で頭を軽く叩くと、玲於奈は切なそうな顔になった。
「そうですね」
彼の腕を枕にして目を閉じる。
「とりあえず明日、怒られる準備をしませんと……」
雄二も、環に殴られる覚悟をしなければいけないなと思った。

517:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」10/17
07/12/22 22:32:41 7FDuZ9uo0

翌日、玲於奈は自宅に帰った。

予想に反して、玲於奈はあまり叱られなかった。
雄二も、一日連れ回したことを事情も含めて詫びたのだが、
少女の両親は彼を責める事はせず、ただ連れ戻してくれた事を丁重に感謝した。

「御両親は、玲於奈に甘いんですよ」
これは、薫子の言。
雄二に対しては信頼のこもった眼差しで頭を下げた彼女は、
どうも玲於奈には説教する気満々だったので、彼女とカスミが両親の寛容を補うのだろう。
「クラスの友達には、小牧さんが連絡しておいてくれたそうですから」
「みんなにもバレてているのですよね……」
自業自得とはいえ、級友達にも当分からかわれそうだと玲於奈は嘆いた。

環には、向坂邸に戻ってから一発殴られた。
「自分で戻ってきた判断は正しいわ。雄二にしては上出来ね」
殴られた頭をおさえて呻く弟に、それでも姉は好意的な評価を与える。

「とはいえ、迷惑は迷惑だから。罰として年末年始は家に缶詰」
「げっ。ってことは姉貴もこっちに居るのか?」
軟禁自体よりも、そっちを嘆いてもう一発殴られる雄二。
「ご愁傷様。遊びに行くよ」
「やたー! お正月はタマお姉ちゃんと一緒だあ」
貴明とこのみは、自分達自身の労には一言も触れなかった。

年末年始。
雄二は環の宣言どおり家から一歩も出して貰えず、電話すらかけられず。
玲於奈の方も、雄二と連絡を取ることはできないままで。

そして年が明け、まだ冬休み中のある晴れた午後のこと。


518:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」11/17
07/12/22 22:34:13 7FDuZ9uo0
「ほら、そんな膨れ面してないの。先方に失礼でしょう?」
「わかってますわ。わかってますけど」
よく似た音質の声がふたつ、そこそこ高級なホテルの一角に響く。

「あん……もう、どうしてこんなに早いのですか?」
レストランで言い合う声の主は、玲於奈とその母親。
「貴方に受ける気がないのなら、時期を引っ張っては先方に御迷惑よ」
見合いを今日に設定した母の言い分に一理はあるが、どうも釈然としない。
「でしたら最初から断ってくだされば」
「往生際が悪いわよ、玲於奈」
議論を打ち切られて、娘がまた最初の膨れっ面に戻った時。
「往生際が悪いわよ、さっさと来なさい」
入口から聞こえた声が、玲於奈の耳朶を打つ。

「あら、いらしたようね」
「ようねって、お母様……」
近づいてくる足音。
「会うだけだぜ。ったく。最初からやめときゃあいいのに」
聞こえてくる声。聞き覚えのある声。
「何度も聞いたわ。お父様が決めた事なんだから観念なさい。ほら、シャキッとする!」
バシッと人の背中を叩く音、そして、ドアが開かれて。
「っつっ! っとっと……へ? 玲於奈?」
入ってきた青年、いや、少年は、テーブルで待つ相手方の姿に目を丸くする。
「雄二さんっ? どうして?」
立ちつくす当事者二人を置いて、保護者同士は挨拶を。
「遅くなりまして、申し訳ございません」
「いえいえ、本当に良いお天気で。ほら、早くご挨拶なさい、玲於奈」
「え?」
「なにぼうっとしているの、雄二、こちらが今日のお相手よ」
「え? え?」

「「えええええええええっ?」」

519:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」12/17
07/12/22 22:36:32 7FDuZ9uo0
「き、聞いてませんわよお母様」
「聞いてねえぞ、姉貴」
問いかける声は、ほぼ同時。
「言ってませんから」
「言ってないもの」
答える声も、若干の悪戯っぽさを含んで同じ。
ぽかんと開いた口が塞がらない雄二と玲於奈。

「学校でも、良くしていただいているようで」
「いえいえ、こちらこそ」
保護者の会話は続く。
「だから、今度の事は良いお話だと思ったんですけどね」
これは玲於奈の母。
「どうも本人が乗り気でないようで、お断りしたいって」
「えっ?」
「あら、そうですか? 実はウチのもなにか事情があるらしく」
玲於奈の疑問符を無視して、環が受ける。
「いや、おい」
「本当に、残念ですわねぇ」
雄二のツッコミも流される。
「それじゃあ、このお話はなかったことに……」

「「ちょ、ちょっと」」
「姉貴っ」
「お母様っ」
からかわれているのは、雄二はむろん玲於奈にだって分かった。
別に縁談の有無で二人の関係が変わるわけでもない。

「「ま、待ってく」」
「れ!」
「ださい!」
それでもここは、やっぱり止めるところなのだろう。保護者二人も微笑んだ。

520:名無しさんだよもん
07/12/22 22:37:25 Dzdhh7uH0
しえん

521:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」13/17
07/12/22 22:37:43 7FDuZ9uo0

およそ30分後。

「ああもうっ! お父様もお母様も環お姉様も、悪ふざけが過ぎますわ!」

賑やかな挨拶と、軽い食事-雄二と玲於奈は味など分からなかった-の後、
「暫く本人達に任せましょうか」
少女の母と少年の姉は定番の行動として席を外し、
「「……」」
改めて面と向かうと会話に困って、
「天気がいいし、外にでも出るか?」
「はい」
中庭に散歩に出たあたりで、ようやく玲於奈も調子を取り戻したようでさっきの発言。

「なんかおかしいとは思ったんだ。名前も教えないでお見合いなんて」
雄二もぼやく。相手の素性を尋ねても「どうせ断る気なんでしょ」と環にはぐらかされたのだ。
「そういえば、そうですわね」
「お前は違和感感じなかったのかよ。っつーか、家を飛び出す前に相手くらい確認しろよな」
「違和感は覚えるものです」
恋人の本気ではない口調の苦情に、玲於奈の頬が膨れる。

「雄二さんだって、連絡くださっても良かったじゃありませんか」
「今日知ったんだ。年末年始は家にカンヅメだったしよぉ」
反撃の矛先を流して、雄二は伸びをひとつ。
「うーん、朝から緊張してたから気が抜けたな」
「そうなんですか?」
「ああ」
頷いて、ちょっと意地悪くニヤリと笑う。

「育ちが良くて美人だって聞いてたから、少し楽しみにしてたんだけどな」
「どういう意味ですかっ!」
たちまち、少女の顔が真っ赤に沸いた。

522:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」14/17
07/12/22 22:39:39 7FDuZ9uo0
「どうせ私は粗野で品がないですよ」
誰もそんな事は言ってないし、少なくとも雄二は思ってもいないのだが。
「こっちはどうやって失礼なく断ろうかと真剣に悩んでましたのに……」
勢いに任せて言葉を続けかけて、少年の目が笑っていることに気付く。
「なんですか?」
「いや、怒った顔は久しぶりだなと思って」
「っ!」
雄二の楽しげな言葉に、玲於奈の赤面ぶりが微妙に色を変える。
「そういう言い方は、ずるいですわ」
もう見慣れた拗ねた顔。どちらにしろ、少年には愛おしい。その視線に、また少女は困る。
「……んもうっ」
紅い頬を膨らませたまま反撃の台詞を探す玲於奈。
やがて、急にニコっと笑って。
「似合ってますね、その服」

「……そう来たか」
いちおう公の場ということで、今日の雄二は濃紺のスーツ姿。
普段は学生服か、私服でもあまり構わない格好なので、
少し子供っぽさは感じるものの、彼を見慣れた玲於奈にも新鮮な印象がある。
「どうせ背伸びしてるよ」
「そんな事ありませんわ。格好いいです」
ニコニコ。
無邪気な笑みに、今度は雄二が追い込まれる手番。
冬の日溜まりの中、常緑樹の間を歩く少女の姿。
玲於奈の方の服装は、まるで雄二に合わせたようなピンクのカジュアルスーツ。
「……」
思いついた台詞はあって、しかし素直過ぎる気がして迷った雄二。
それでもたぶん、言って欲しいんだろうなと思って口を開く。

「お前も、似合ってるぜ」
「ありがとうございます!」
やっぱり言って欲しかったらしい玲於奈は、満開の笑顔で応えた。

523:名無しさんだよもん
07/12/22 22:40:20 xAVPdKnv0
私怨ノシ

524:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」15/17
07/12/22 22:41:03 7FDuZ9uo0

「しかしなんだ。全然お見合いらしくはねえな」
「あはは、そうですね」
真面目な格好で場所が場所でも、どうにも気分は出ない。

少しはらしい話題でもしてみようかと、
「ご趣味は」
「音楽鑑賞など」
以下、いつもの緒方理奈談義を妙な丁寧語でひとしきり。

「学校はいかがですか?」
「楽しいですよ。同じクラスの友人もいるし、隣のクラスに……」
恥ずかしい会話になりそうなのでやめた。

「勉強の方は?」
これは玲於奈から、ちょっと意地悪な振り。
「全然ダメですが、なんとか大学には進みたいっスね」
が、回答に表情を変えたのは玲於奈の方。

しげしげと雄二の顔を見る。視線をあさって方向に逸らす少年。
じーっ。
逸らした視線を宙に三回転半くらい彷徨わせて戻しても、まだ玲於奈が見ていた。
「……そういうことだ」
観念して進路変更を認めると、玲於奈は嬉しいようで困ったようにはにかむ。
「そ、そうですか。それでは私も頑張りませんと」
「頑張る必要ある……んですか?」
お見合いごっこが続いているか否か判別できずに変な語尾で尋ねる雄二。
玲於奈の成績は優秀だ。よほど志望が高いのだろうか。

返事は明快だった。
「はい。実は、九条院を受験しようと思っています」


525:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」16/17
07/12/22 22:42:34 7FDuZ9uo0

九条院の大学部は、エスカレータで昇ってくるお嬢様達は十人十色として、
良家の子女とお近づきになりたい連中の存在と、やはり定員が少ないので結構な難関である。

「それはまた、難儀だな」
成績の差が歴然としている所以、同じ大学を目指そうと思ったわけでもないが、
出戻りした上にもう一度転校した玲於奈は、合格すれば三度目の九条院入学ということになる。

「幼稚園からずっと九条で過ごして来て」
少女は前を向いて言葉を紡ぐ。
「それが当たり前だと思っていたことが、転校して色々と違うことに気がつきました」
「一度戻って、なお差異を感じて、またこちらに戻って、また思うことがありましたし」
「九条には、外から入る人はいますけど、往復する人はあまりいませんから」
「ですから、是非、どこまでできるかは別として、その経験を生かしたい」
「九条を変えるってか」
「いくらなんでも。そこまでは思っていませんけど」
恥ずかしそうな苦笑。
それにしても、玲於奈がそんなことまで考えていたというのは意外だった。
「変わったな。お前」
雄二が指摘すると、玲於奈は首を傾げる。
「どうでしょう?」
「ああ。随分と、大人しくなったような気がする」
大人になったという意味も込めて。
「……雄二さんは、変わりませんね」
誉めたつもりだったが言葉が悪い。ちょっと斜に受けて返す少女。
「あっそ」
この一年で多少は成長した気になっていた雄二としては面白くない。
「ええ」
しかし玲於奈は、穏やかに微笑んだ。

「出会ってからずうっと、私が信じる雄二さんのままですわ」
雄二は、照れてそっぽを向いた。それを見て、玲於奈はいっそう笑った。

526:桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」17/17
07/12/22 22:43:51 7FDuZ9uo0

日差しが少し雲に隠れて、冬らしい冷たい風が通る。
「寒くないか? そろそろ戻るか」
「もう少し……」
言って玲於奈は身体を寄せる。二人の手が繋がる。

「今年は受験生かあ」
空を仰いで雄二。吐く息が白い。
「お互い、まずは勉強を頑張りましょうね」
彼の肩の隣で、彼と同じ雲を見て玲於奈。
「九条に受かったら、少し離れてしまいますけど」
雄二も受験しろとは、流石に言わない。
「週末は必ず戻ってきますからね」
目線が遠くなったせいか、少女は思考も未来に走っていく。
「それで、卒業して就職したら、二人で一緒にいたいですね」
数日前に、泣きはらした目で呟いた目標。
「あ、私は専業主婦でも共働きでも構いませんから」
空想は、いきなり現実味を帯びてきた。
「それで、そのうち子供……あはははは」
昼間言うと照れくさかったらしい。

二人の未来は始まったばかり。
簡単には行かない事もあるだろう。失敗することもあるだろう。
(ま、目標ってのは下方修正していくもんだろうけどさ)
それでも、
「何人くらいがいいでしょうかね……」
なにやら自分の世界に突入している玲於奈の横顔を見ながら。
少女が広げる未来予想図を、重ねて描くであろう、自分の人生設計を、
自分の力の及ぶ限りは叶えたいと、雄二はそう願った。

「雄二さんは野球チームとサッカーチーム、どっちが好きですか?」
さっそく修正の必要がありそうだったけど。

527:名無しさんだよもん
07/12/22 22:45:03 7FDuZ9uo0
以上です。
最終話にして風呂上がりの雄二なんぞ描写してしまいました。
続けてエピローグ、行きます。

528:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 1/14
07/12/22 22:46:29 7FDuZ9uo0

それから、一年と少し経って。季節は春。

山道を走る、一台の乗用車。

「こっちはまだ、咲いてねえな」
「例年どおりなら、もう少し後ですね。今年は暖かいですけれど、山の中ですから」
助手席で答えたのは玲於奈。
「しかし凄い所にあるよな。道も細いし」
「運転、気をつけてくださいね」
ハンドルを握るのは、免許取りたての雄二。

「私も夏休みには免許を……」
「やめとけ。向いてない」
「んもうっ、いつもそうなんですから」
「バスもあるし、電話くれりゃあ迎えに行くぜ」
そんな会話をしながら、向かう先は、私立九条院大学。

この3月、玲於奈は見事に、第一志望の九条院に合格した。
入寮は強制ではないが、近くの町までバスで3時間という地理条件により事実上の全寮制。
地元の大学に通う事になった雄二-周囲の心配を他所に、きっちり合格して見せた-とは、微妙に遠距離になる。
「毎週戻りますから、よろしくお願いしますね」
「無理すんな」
そんな会話をしながら、車はやがて見えた大きな校門をくぐって敷地内に侵入。

「うわ、立派な車ばっか」
普段は無駄なほど広い来客用駐車場に、所狭しと高級車が勢揃い。
外車もあるが、どちらかというと国産車が多いのは学校柄だろうか。
車と車の合間を縫って駐車スペースを捜す雄二の中古。

今日は、九条院大学の入学式。


529:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 2/14
07/12/22 22:48:02 7FDuZ9uo0

「うーっ、空気がいいな」
長時間の運転から解放された雄二が、車から出て思いっきり欠伸。
「花粉症の人は大変なんですよ、毎春」
馴染みのある場所に舞い戻って楽しげな玲於奈。

「式は11時からか? 少し早かったかな」
「そうですね。でも人はだいぶん……あっ!」
きょろきょろと周囲を伺っていた少女が声を高くする。
人混みという程でもない人の群れの中、落ち着いた様子で周囲を眺めているのは、
「環お姉様っ!」
向坂環。
玲於奈は車の合間を縫って駆け寄った。

「おはようございます! お姉様!」
「久しぶりね、玲於奈。おはよう。それと、入学おめでとう」
「ありがとうございますっ!」
環と玲於奈が会うのは、合格発表の時以来だった。
駆け寄って環の手を握りしめる少女。
(尻尾があったら振ってるだろうな)
苦手の姉を避けて遠目の雄二は、そんな失礼な事を発想したり。

「ええっと……」
「薫子とカスミなら、すぐ来ると思うわ」
第二駐車場の方を見に行って、ここで待ち合わせだから、と、
近くを見渡す玲於奈の思考を読んで環が説明する。
果たして、間もなく校舎の方から現れるふたつの人影。

「薫子っ! カスミーっ!」
周囲の目もはばからずに手を振る玲於奈。
二人も、それに気付いた。


530:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 3/14
07/12/22 22:50:26 7FDuZ9uo0

タタタッ……。
まず駆け寄ってきたのは、黒髪の少女。
「カスミっ! お久しぶり……あらら?」
ヒシ……。
変わらず無口なカスミは、玲於奈の口上を遮って抱きついた。
ギュウ……。
「く、苦しいですわよ、……カスミ……」
語尾が詰まる玲於奈。
まったく会っていないわけでもなかったわけではないが、
再び同じ学校に通う事には、また違った感慨があるのだろう。

その二人の肩に。
スッと、もうひとつの手が回る。

「ずるいですよ、私も入れてください」
玲於奈とカスミを包むように腕を回したのは、慌てず歩み寄ってきた薫子。
「久しぶりです、玲於奈。会いたかった」
静かに、しかし感情を込めた声で再会を喜ぶ。
「薫子ぉ……」
たちまち涙目になる玲於奈。少し背が伸びた幼馴染みの肩に泣きつく。
カスミも抱きついたまま。三人ひとかたまり。

「ふふっ、三人とも、ようこそ九条院大学へ。歓迎するわ」
優しく見ていた環が、改めて祝いの言葉。
薫子とカスミは高等部からのエスカレーターだが、そこは節目というもの。
先輩の言葉に、姿勢を正して向き直る玲於奈、薫子、そしてカスミ。

「「よろしくお願いします。お姉様!」」
ペコッ……。
九条院三人娘、およそ一年半ぶりの再結成であった。


531:名無しさんだよもん
07/12/22 22:51:29 Dzdhh7uH0
しえん

532:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 4/14
07/12/22 22:52:47 7FDuZ9uo0

「もうすぐ会場に入れるわね。ほら、化粧直してきなさい」
先の抱擁で、玲於奈の顔はぐしゃぐしゃ。
カスミの頬にも、珍しく涙の跡がある。
薫子が泣いていないのは性格というか芸風であって、想いの深さは変わるまい。
「は、はい」
トコトコ……。
手近な女子トイレに向かって歩き出す赤と黒のコントラスト。
茶色の少女も一歩後ろをついて行くが、道中で脇に逸れる。

「お久しぶりです雄二さん。玲於奈、お世話になってます」
車に寄りかかって佇む、親友の想い人を目ざとく見つけたのだ。

「よう、初詣以来か? 元気そうだな」
雄二は玲於奈の合格発表には付き合っていないので、その前は年明けになる。
「元気ですよ。私もカスミも」
「アイツはまあ、相変わらずだから。迷惑かけると思うけど、よろしくな」
「えっ?」
少年の言葉に、薫子がキョトンとした顔をした。
何か変な事を言ったろうか、雄二が首を傾げたあたりで、
「あっ、そうですね。ちょっと驚きました」
納得したように頷く。
「ふふっ、ご両親以外に玲於奈をよろしくお願いされるなんて」
幼稚園時代に出会って以来、無鉄砲で方向音痴な親友の世話は薫子の当然の日課だったので、
彼女は他人に玲於奈の事を頼むことはあっても逆は滅多になかった。

「なんせ此処だから、俺は普段は面倒見られないし、やっぱ心配でな」
雄二は地面を指さして九条院の立地を嘆く。
「大丈夫ですよ」
薫子は保証して、楽観する理由を述べた。
「玲於奈、いつも幸せそうですもの」
電話でもノロケ話ばっかりで、と、悪戯っぽく付け加えるのも忘れない。

533:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 5/14
07/12/22 22:53:58 7FDuZ9uo0
「お前らだって、負けてないだろうが」
やや赤面した雄二が、顎で示す先。
「薫子、何をしてますのっ!」
ジッ……。
校舎に向かう途中で薫子を待つ、玲於奈とカスミ。
「……はぁ」
溜息をつきながらも、薫子の唇には笑みが浮かぶ。
「それでは、また」
「ああ」
くどい挨拶が必要な仲でもない。薫子が踵を返す。

「あっ、そうだ」
と、もう一度返し直して雄二を向く長髪の少女。
「なんだ?」
「ひとつご報告です。カスミ、刃物を持たなくなったんですよ」
「……そうかい、良かったな」
寡黙な少女がポケットに危険物を持ち歩いていた事は、雄二は何度か目撃している。
それをやめたというのがどういう意味か、明確に分かるほど付き合いは深くないが、
薫子が嬉しそうに話すということは、喜ばしいことなのだろう。

「それと、もうひとつ」
「なんだよ」
いい加減しつこいぞと苦笑する雄二に、薫子はニッコリと笑って。
「早く挨拶しなくていいのですか、お待ちかねですよ、お姉様」
反撃も許さずに、薫子は相棒二人の下に駆け去った。

「……」
相手のいなくなった雄二はやむを得ず、ギギギと首を見たくない方向に回す。
「……」
そこには、腕を組んで一向にやって来ない弟を睨む、眉目秀麗な姉の姿があった。


534:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 6/14
07/12/22 22:55:34 7FDuZ9uo0

「よお、姉貴、来てたのかガガガガガ」
射程距離の1メートル手前で声を掛けたつもりだったのにアイアンクロー。
環の踏み込みの鋭さを計算し忘れた雄二のミスである。

「ってえな、っつーか俺がなにをしたんだよ!」
「挨拶がわりよ。相変わらず頑丈なのだけが取り柄の頭蓋骨ねえ」
わざとらしく溜息。
「失敬な。そっちこそ相変わらずのバカ力ガフッ!」
雄二の方が背が高いはずなのに、拳が脳天に振ってくるのは何故だろう。
「玲於奈も元気そうでなによりだわ。薫子とカスミも、相変わらずみたいだし」
「みたいだしって、同じ校舎だろ?」
「うーん、やっぱり大学部と高等部だから、そんなに会わなかったわねー」
「へえ?」
薫子はともかく、カスミならそんな垣根はもろともせずに押しかけそうなのだが。

「去年の頭から、そんなに頻繁には来なくなったわよ?」
卒業式では泣かれたけど、と付言した上に、
「薫子とは、四六時中一緒みたいだけど」
さらに付け加える。
「玲於奈が嫉妬しそうだな」
先の薫子との会話を思い出しながら雄二は冗談9割本気1割で心配。
「玲於奈は、あの様子なら大丈夫でしょ」
アンタがいれば、とは口には出さずに表情で伝えた。

「そういや、久寿川先輩は来てねえの?」
雄二が名前を口にした、美人で人見知りな元生徒会長久寿川ささらは、なんと九条院大学に進学していた。
元生徒会副会長向坂環を追いかけて、だと、雄二は半分くらい思っている。
「今日は街の方に出ているわ。お母様が見えてるらしくて。よろしく伝えてって言ってた」
「そっか」
やや残念だったが、久寿川がいるとセットで例の危険な先輩も出てきそうだからと自分を納得させた。


535:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 7/14
07/12/22 22:57:25 7FDuZ9uo0

「卒業式はどうだった? 行きたかったんだけどな」
まだ残念がっている顔で、用事で外した環が尋ねる。
「どうもこうも、メンツは違えど前と一緒だ。このみが大泣きしてな」
「そうでしょうねえ」
はあっ、と、やや環らしくない息を吐く。
「タカ坊が、あんな遠くに行っちゃうなんて」

あまり真面目に進路を考えていた様子もなかった河野貴明は、突如この春から関西移住。

なんでも、卒業旅行先の大阪で偶然手助けしたおばあさんに気に入られ、
家にお邪魔してみたら、そこが恋人である小牧愛佳の母方の実家。
「アイツも詳しくは語らねえけど、色々あって後を継ぐとか継がねえとか」
「タカ坊らしいわ」
もう一回嘆息。
「さすがに、これから逆転は難しいかしらね」
「……まだ諦めてなかったのかよ」
「人の気持ちってのは、そんな簡単じゃないの」
他人事のような物言いに、姉の寂しさを感じた雄二はそれ以上突っ込まない。

「ところで、小牧さんの実家って何やってるの?」
「ケーキ屋」
「……ぷっ」
一瞬絶句した環、ややあって吹き出す。
何を想像したのか、雄二も正確に推察できる。
「そっか、あはは、タカ坊のケーキ屋さん、ふふっ」
何歳になってもどこか女の子っぽい童顔の貴明に白衣。
似合う似合わないとは別に想像力を掻き立てられるものがあるらしい。

「これは近いうちに遊びに行かなきゃね、是非」
貴明強奪は諦めても、玩具にすることは止めないつもりらしい環。
雄二は同情を禁じ得ない、貴明本人よりも、主として彼の恋人の方に。

536:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 8/14
07/12/22 22:59:31 7FDuZ9uo0

「そんときゃこのみも連れて行ってやれよ」
「もちろんよ。雄二もね」
「日程があればな」
雄二は、今のところ全週末帰ってくるつもりらしい玲於奈の事を考慮して答える。
(でも、玲於奈を連れて行くのもいいかもな)
貴明はともかく、玲於奈は小牧姉とは至って良好な関係で学園生活を終えた。

「電話ちょうだいねぇ~」
「九条院にも是非、遊びにいらしてください」
別れ際の二人の会話を思い出して、雄二は卒業式を回顧する、

「ごごぎごががぐぐごぎっごぎごぐががぎぎぐぅ~(このみもタカくんと一緒に大阪に行くぅ~)」
と、やっぱり思い出す幼馴染みの泣き顔。

「無茶言うなよ。ていうか、この間も散々泣いただろ」
大阪行きが決まった時も、無人になる河野家大掃除の時も豪快にグズった少女だが、
卒業式という節目で再び寂しさ極まったらしい。この後の送別会でも、もちろん大泣きした。

「あ、あははは」
同情しつつも、もはや笑うしかない愛佳。オプションの多い恋人を持つと苦労するという教訓。
彼女にとっては、貴明の進路は色々と望ましいものでもあったろう。
もっとも、愛佳自身は意外とそんな余計な事は考えていないのかも知れない。
河野貴明がどんな道を歩もうと、小牧愛佳は、彼の隣を歩むだけだから。

「ぞずぎょうじだら、ぎぐががげ(卒業したら、行くからね)」
まだ言ってるこのみ。
「このみはこっちの大学受けるんじゃなかったの? あたしと一緒に」
故意に拗ねた表情で引き取ったのは、小牧郁乃。
最近、杖は手放せないものの車椅子なしで外を出歩けるまでに回復した愛佳の妹は、
姉が進学しなかったことで生まれた経済的余裕を、遠慮なく生かすつもりらしい。


537:名無しさんだよもん
07/12/22 23:00:21 Dzdhh7uH0
しえん

538:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 9/14
07/12/22 23:01:54 7FDuZ9uo0

「ごうじゃぐがががおえうががぁ~?(大阪から通えるかなぁ?)」
無茶言うこのみ。
無茶と言えば、学年一桁順位の郁乃と赤点候補生が同じ学校を目指すのも常識的ではないが、
何事にも素直なちびっ子は、郁乃の言葉と指導を真に受けてメキメキ成績を伸ばしつつあり、

「いつまでも秋田ローカルの超神みたいな発音してないで諦めなさい」
いっぽう郁乃は、既に親友の数字に合わせて志望を落とすと決めているようで、
成績優秀な小牧家の姉と妹は、2年続けて進路指導部を嘆かせることになりそうだ。

「どうせ会いに行ったり来たりはするんだから」
「うんうん、戻ってくるよ」
力一杯頷くのは、妹離れが不安な愛佳。
「あんまり戻ってこなくていい」
「えぇ~」
相変わらず好き勝手を言う妹が、密かに家を出ることを考えていることを姉は知っている。
あわよくば、そこに寝起きの悪い同居人を獲得しようと目論んでいることも薄々。

もちろん、実現までには数多くの障害、主として郁乃の体調面を中心に、がある。
それでも、家族に頼って生きるという、許された唯一の選択肢を黙々と選び続けてきた彼女が、
一時的にせよ家から離れて生活しようという野望を持てるだけでも愛佳には幸福だったし、
妹を自然にサポートしてくれている元気少女が、もう暫く側に居てくれたらとも願う。

「だがぐんばぼびびぶぶばばべ~(タカくん遊びに行くからね~)」
愛佳自身の利害関係も、絡まないというと嘘になるけど。

で、話題の元凶たる約1名は。
「あはは、まあこのみも郁乃も遊びに来たらいいよ。いちおう雄二もね」
困ったような笑顔でいつもの曖昧な発言。
「……私は、やっぱり河野さんが一番性質が悪いと思いますわ」
「今に始まったこっちゃねえけどな」
雄二と玲於奈は、こっそり頷いた。

539:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」10/14
07/12/22 23:03:18 7FDuZ9uo0

回想終わり。場面戻って九条院。

「そういう貴方は? 玲於奈のご両親に、失礼してない?」
「本人の心配はしねえのかよ」
「見れば分かるもの」
二人が上手く行ってるのは、と環は笑う。
雄二は腕を組んで、
「うーん、嫌われてはいない、と、思う」
玲於奈の家には、お見合いの直後に初めて挨拶に行って、
この一年間で何度もお邪魔して、泊まった事すらある。
「優しい親御さんだな。玲於奈の親とは思えんような」
後半は冗談。
明るくて、どこか抜けたところなど良く似ていると思う。

「そうね。でも娘思いだから、玲於奈を傷つけたら怖いわよ」
「気を付けるよ」
環が脅すが、言わずもがな。
「けど、そうだな。家出の事とか、もっと怒られるかと思ったんだけど」
やや古い話を持ち出す。
あの時雄二は、ホッとしながらも少し愛情に欠ける親ではないかと思った。
今は、そんな誤解は微塵も残っていないが、自分らを自由にさせすぎではないかと感じる事がある。
「あら、怒ってたわよ」
それを告げると、しかし、環は首を振った。

「私が玲於奈の御自宅に連絡した時なんて、怒鳴りこんできそうな勢いだったもの、お父さん」
雄二と玲於奈のプチ家出の、第一発見者は向坂邸に戻った環と薫子だった。
「そうなのか?」
「ええ。俺が娘の幸せを考えずに縁談を持ち込むような親だと思ってるのか、とね」
「……玲於奈が言ったんだぞ」
「そっちにはがっかりしてた。信用されてないんだなって」
クスリと思いだし笑いをしながら環が語る、雄二も玲於奈も知らなかった事情。

540:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」11/14
07/12/22 23:04:49 7FDuZ9uo0

「取りなすのも大変だったんだから」
「いや、悪かった。けど、ぜんぜん素振りも見せねえけどなあ」
玲於奈の父親とは最近は晩酌の相手-雄二は年齢なりに-をしたりもして、
けっこう人生語られたり打ち解けているつもりだが、その辺は何も聞いていない。
「気を遣ってるのよ」
「俺に?」
「当たり前でしょう。婿に迎えようって男で、しかも向坂本家の人間よ」
「……」
雄二の腕組みが少し深くなる。
それを見て、環が少し真面目な顔をした。
「察しなさい、そのくらい。いつまでも、他人の好意に無邪気に甘えていい年齢ではないわ」
「分かってるよ」
雄二が不機嫌になったのは、前段部分のせいではない。
「家の事もよ」
それも、姉はお見通しだった。

「貴方が家柄とかそういうものを嫌うのは構わない。お婆さまもそう思っていたし」
二人の祖母は、姉弟の性格を見抜いていた。だから、環を後継者として育てた。
「でもね、向坂の人間として生きていく以上、それはついて回ること」
付き合う相手が分家筋の娘であれば、尚更。
「貴方が拒否すれば、その分が玲於奈に降りかかる事になるの」

雄二は腕を組んだまま、姉の言葉を聞いた。
環が言及した雄二と玲於奈の関係が、そのまま環と雄二当てはまる事に気がついたのだ。
そして本当は、姉も家柄や血筋の話など好きではない事を、彼は知っている。
「……分かったよ」
自分が分かっていなかった事が。
「すまなかった、姉貴」
「あら? 私に謝ってもしょうがないわよ?」
「いや、そうだな。じゃあ、サンキュ」
もう一度、雄二は環に感謝した。姉は、いつになく軽く、弟の頭を小突いた。

541:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」12/14
07/12/22 23:06:03 7FDuZ9uo0

「雄二さんっ! 雄二さんっ!」
かなり遠くから雄二を呼ぶ声は、聞き慣れた玲於奈の声。

どうやら、化粧直しは終わったらしい。
「あら、呼んでるわよ?」
面白そうに環が指さす先に、飛び跳ねながら手を振る赤髪の少女。
ずいぶん長くなった髪が、身体の動きに合わせて上下に揺れている。
「なんだよ、ったく」
玲於奈は何かに夢中になると人目をはばかるということをしない。
恥ずかしい思いする時間を短くしようと、一気に駆け寄る雄二。
「こちらにいらして」
そのまま校舎の裏側に誘う少女。薫子とカスミは、笑いながら環の方に戻っていく。
「トイレなら案内してもらわなくても平気だぜ」
「違いますっ。ほらっ!」
玲於奈に引きずられて辿り着いた、敷地の一角。
日陰になっている校舎裏で、ちょうどそこだけ陽当たりが残る場所。

まだ春になりきらない九条院の構内で、一本だけ桜が咲き始めていた。

「陽当たりいいからか? それとも、種類が違うのか」
「わかりませんけど、この木だけ咲くのが早いんです。毎年そうでした」
自分で思い出したのか薫子あたりに想記させられたのかは分からないが、やたら嬉しそうな玲於奈。

すっと二人は手を繋ぐ。並んで見上げる、薄紅色の春の花。

「学園の方は、今が満開だろうな」
“タカくん”と離れた幼馴染みは、それでも無邪気に跳ね回っているだろうか。
その隣で、皮肉屋の少女が苦笑しているのだろうか。
「西の方は、こっちより遅いんでしたっけか?」
「同じくらいだろ?」
異郷の地で新たな生活を始めた貴明と愛佳は、どんな桜を見上げているのだろうか。

542:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」13/14
07/12/22 23:07:45 7FDuZ9uo0

「此処も、これからどんどん咲き始めますよ」
まだ蕾の桜達を、空いている方の手で示した玲於奈の目に、

キョロキョロ……。
彼女を捜す、カスミの姿。
「玲於奈ーっ! そろそろ受付の時間ですわよーっ!」
親友を呼ぶ、薫子の声。環もこちらにやってくる。

「ふふっ、それでは一足先に、大学生になってきます」
環達の方に走り出す玲於奈。繋いだ手が、するりと外れた。
「入学式が早いだけで」
苦笑する雄二。
再会した三人娘と、彼女らが尊敬する先輩が見る桜は、
そして、まもなく雄二が自分の学校で見る桜は、どんなものになるだろう。

春。それぞれの未来へ、それぞれが走り出す季節。

「……今晩あたり、委員ちょんとこに電話してみるかな」
少女達の様子に、厚くもないと思っていた友情を刺激されて雄二は呟く。

ずうっと並んで歩いてきた日溜まりを離れ、それぞれの場所を歩き始めた雄二と貴明。
ひょんなことから彼等と同行することになった、玲於奈と愛佳。

「そうそう、柚原さんと小牧さんの妹さんも、今日が始業式なんですよ」
「このみが受験生とはね。可哀想に」
「私たちも、去年は受験生だったのですから。皆が通る道ですわ」
「そんなこと言って、大変だったのは私だけではありませんか」
ニコニコ……。

先輩達の残した標をたどって、間もなく自分の船出を迎える、このみと郁乃。
いったん分かれて、またひとつになった玲於奈と薫子とカスミの、そして環の線路。

543:名無しさんだよもん
07/12/22 23:08:46 Dzdhh7uH0
しえん

544:桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」14/14
07/12/22 23:10:08 7FDuZ9uo0

先の事は、わからない。

離れた道も何時か交わり、並んだ道も何時か離れ得る。
堅い絆を信じる雄二と玲於奈にも、これから乗り越えるべき壁はいくらだってあるだろう。

だけど、だから。

人混みに紛れてゆく玲於奈の背中に、雄二は願う。
振り向いて確かめた雄二の視線に、玲於奈は想う。

この愛しさだけ、いつも君に届けと。


545:名無しさんだよもん
07/12/22 23:11:27 7FDuZ9uo0
以上です。支援ありがとうございました。

そういうわけで、完結です。

が、実は番外編をひとつ構想しているので、そこまで書いて「終わり」にしたいと思います。
ADに間に合わないならやめようと思ってたんですが、2月末ならなんとかなるだろうから(苦笑)
ただ、薫子が主役で、三人娘が雄二と会う前の話になるため玲於奈もあまり活躍しません。
後半出番のなかった九条院組のフォロー狙いということで悪しからず。

しかし長い話でした。通算445レス、原稿用紙換算600枚超……間違いなく私の人生最長の文章。
環シナリオやった時から三人娘は「外見可愛いのに勿体ないなあ」と思っていて、
最萌の支援絵で玲於奈の良さげなのを見たのがきっかけで書いてみたくなった作品ですが、
期間も分量も予定の倍以上に。当初は1話も10レス前後にまとめるつもりだったのに……

内容については、自分で評するなら、なんともテンプレどおりなお話だったかなと。
ホントは玲於奈にはもっとツンデレっぽい落差を出したかったし、テーマ的な事を言えば、
彼女の家柄への拘りを雄二が解いていく話にしたかったけど無理無理カタツムリでした。
あと、このみに悪いことした罪悪感が。最後まで貴明に拘るとは予定外だったので。
ちなみに桜の群像というタイトルは、この郁乃&このみ部分(第5話と、11~13話あたり)を
「桜吹雪の周辺事情」という仮題で妄想していた名残だったりします。
後悔は無数にあるし書き直したい気持ちも一杯ですけど、自分の力は出し切りました。
胸を張れるとすれば、脇役も含めて全てのキャラに愛着を持って書けたことですかね。

あとがきも長くなっててすみません。
「反応ゼロでも最後まで書く」と覚悟して始めた長編ですが、皆様のレスは非常に励みになりました。
特に第8話にして初めて「玲於奈に萌えた」って趣旨の感想を頂いた時は凄く嬉しかったです。
とにかく、本当にありがとうございました。よければもうちょっとだけ、三人娘(+環)とおつきあいください。


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