06/10/05 00:37:29 O/7t96xH0
この町では春の足音さえ聞こえない2月下旬。肌寒さを覚える季節の中、
商店街への道を名雪と歩く。秋子さんから買い物を頼まれ、
久しぶりに名雪との外出となったわけだ。
この町に来てから一年以上が立つが、通学以外の名雪との外出は
それほど多くなかった気がする。
「久しぶりだね、こういうの。卒業したら一緒に買い物とかも行かなくなるんだね」
「そうだな。もうすぐ、俺も水瀬家を出る訳か」
そう、三月中旬の卒業式が終了次第、現在交際中の佐祐理さんと二人暮しを始める。
本当は三人暮らしの予定だったのだが、もう一人の女性、
舞は母親の問題があり、一緒には暮らせない事になった。
それはそうと、付き合ってみて分かった事だが、佐祐理さんはかなり嫉妬深い。
独占欲が強いというのは、言ってみれば自分を取り戻しつつある証拠だろうから
そこは歓迎すべきなんだけど。
しっかし前に他の女の子と町歩いてるのを見つかった時は酷い目にあった。
今回も見つからないといいけど。
「あーっ、祐一さんだー」
…。早くも見つかってるし。でもまぁ、今回は買い物を頼まれた
という正当な理由があるから、寛大な心で見てくれるかな。
「や、佐祐理さん。ちわーす」
付き合ってはいるが、彼女の名を呼ぶ時は「さん」付けだ。
佐祐理さんの方も、俺に対して未だに敬語で話している事に負い目があるのか、
自身の呼ばれ方について指摘してきたことは無い。
俺は佐祐理さんが俺に対して敬語を使わなくなるその日まで、彼女のことは
「さん」付けで呼ぶことに決めていた。過酷なルールかもしれないけど、
俺の決心だ。彼女が完全に自分を取り戻すまで支え続けるという、決心だ。