07/08/18 22:07:42 GzVf5gXz0
お~久々の良コテ!
GJ!
301:名無しさん@初回限定
07/08/19 01:11:08 hCYEonWE0
おもろかった。さすがですね。
GJ!
302:名無しさん@初回限定
07/08/19 02:10:33 6HP4UsWK0
gj
303:名無しさん@初回限定
07/08/19 08:54:43 9kMXoJtM0
ア――――――!
gj
304:名無しさん@初回限定
07/08/19 14:31:00 NB69zEjL0
ばっかりなら病んでるなw
錬がひどく可哀相だがGjを贈ろう
305:名無しさん@初回限定
07/08/19 16:30:03 OAunOsyAO
gj!!
もういっそのことハルルートも作ってしまえばよかったのにと思った俺は森羅様好き
306:Da Noi①
07/08/19 21:44:40 pmJaEmm60
ベニから妊娠3ヶ月を告げられて早一日。
森羅様たちはわざわざ各々のスケジュールを変更してまで祝いの宴を開いてくれた。
ベニへの負担を気遣ってか、出前を大量に頼んでの豪華絢爛などんちゃん騒ぎ。
本当に感謝してもしきれない。
まあ、たくさん注文したのはナトセさんの存在が大きいんだけど。
「麗羅(れいら)にしろ」
「は?」
「レイラ…とは?」
俺とベニが森羅様に呼ばれるまま傍に行ったら、いきなりそう告げられた。
「名前だ、名前。子供の名前だ。私の誇り高き名を一文字やろう」
「ねぇ」
「甘いわね、姉さん。それは原則的に女の子限定の名前よ。レン、ベニ、有希(ゆき)にしなさい。これなら男女どちらにも使えるわ」
「ねぇ」
「私がこの名と決めたんだぞ? 生まれてくる子も女の子に決まっている」
「何を訳のわからないことを」
「ねぇ」
「その名は私とミューたんとの子に取っておけばいいさ。さっそく今夜から子作りに励もう、ハァハァ…」
「断固拒否するわ!」
「ねぇってばー」
子供の名前について(妙な方向に発展していった気もするけど)言い合う森羅様とミューさんに、夢お嬢様がバタバタと手足を振って自己主張していた。
「んもう、シンお姉ちゃんもミューお姉ちゃんも聞いてよー。夢は我夢(がむ)か明日夢(あすむ)がいいと思うんだ」
誇らしげに胸を張る夢お嬢様。
「いい名前だとは思うけど、特撮から持ってきたわね」
「引用するのが悪いとは言わないが、できる限り悩んでまごころをこめてつけてやるべきだぞ」
「ガーン!!」
お気の毒に。
「よーし、それじゃあ俺様が祝いの歌を歌ってやるぜ!」
デニーロが拡声器を展開する。
「「やめろー!!」」
以心伝心か、俺とベニは同時に叫んでデニーロにスライディングを放った。
307:Da Noi②
07/08/19 21:51:36 pmJaEmm60
ダブルキックを喰らってデニーロが宙を飛ぶ。そして、やがて落下した。
「な、なにすんだよ!」
「アンタの超音波で、もしものことがあったらどうしてくれんの!!」
お腹に手を当ててベニが怒鳴る。
今のスライディングも十分危険だったんじゃないかと思うが、ベニのことだから大丈夫だろう。
「なにぃ…俺様の歌を馬鹿にすんのか! ベニスのくせに生意気だぞ!」
「うるさい、潰すぞ!」
いがみ合うベニとデニーロ、それを優雅に見物する森羅様、呆れて仲裁する気も失せたミューさん、さっきのショックから一転して妄想に浸っている夢お嬢様。
感慨深げに酒を飲む大佐、悔しい悔しいとすすり泣く鳩ねぇ、床に落とした料理の跡を異様な気迫で拭くハル、夢中で料理を食べ続けるナトセさん。
いつもと変わらない、けどかけがえのない光景を眺めて俺は微笑む。
だけど、これは自分の中の不安を隠す為の微笑みだった。
確かに、ベニと付き合ってから俺は今までいない幸せを味わっている。
あの発作的な悪夢も、もう俺を苦しめることはなかった。
でも、不安が消えない。
確かに子供――それも、ベニとの子供ができたと知った時は心底嬉しかった。
もし父親になれたら、子供の頃自分がそうして欲しかったようにめいいっぱいの愛情を注ぎたいと思う。
それは本当に、心からの正直な気持ちだ。
だけど、幸せになればなるほど、時間が経つほど、ベニのお腹の中で子供が育っていると思うほど、不安も大きくなっていった。
『親に虐待された子は、その子供にも虐待を行う』
どこかで聞いたそんな連鎖方程式が、否応なしに頭に浮かび続ける。
仕事に集中している時も、忘れているようでどこかに引っかかっていた。
我ながら情けねぇよ。
人生がようやく輝き始めたと思った矢先にこのザマだ。
「くるっくー。気に病んでますねー」
宴会後、廊下の手すりで黄昏てると後ろから鳩ねぇが声をかけてきた。
誰にも見られないように気を配ってたんだけどな。さすが鳩ねぇだぜ。
って、これは関心することじゃないか。
「何をそんなに悩んでるのかバレバレですよ、レンちゃん」
308:Da Noi③
07/08/19 21:55:26 pmJaEmm60
「……よくわかったね」
「あ、姉をみくびるようになってしまったなんて……そこまでベニちゃんに毒されてしまったんですかー、レンちゃん…」
よよよと泣き始める鳩ねぇを慌てて宥める。
ベニを愛してるけど、鳩ねぇも姉として大事だからな。
「まあ、冗談はさておいて。私はレンちゃんは大丈夫だと信じてますよ。頭でっかちな学者さん達の戯言に当てはまるようなレンちゃんじゃありませんから。その人たちより遥かに頭脳明晰なミューちゃんだってそう断言すると思いますよ」
「うん…だけど、ね」
俺が俺を信じることができない。
怖いんだ、オヤジよりも俺自身が。
こんなことは早く終わらせたい。
だから、ずっと考え抜いてようやく搾り出せた決意を言う。
「明日……ウチに行ってくる」
その言葉に、鳩ねぇが目を見開いた。
「どうすればいいかなんてわかんねぇ……でも、もうあのクソオヤジから逃げたくないんだ。あの野郎をブッ飛ばしてでも何でも、どんな形でもいいからケリつけたいんだ」
わざわざ自分からクモの巣へ飛び込むような行為かもしれない。
あいつと顔を合わせたら、また震えて動けなくなるかもしれない。
それでも、もうあいつの影に怯え続けるのは嫌だ。
いや、俺のこと以上にこれから生まれてくる子供まで巻き込むのが嫌だった。
何も知らずに生まれてくる赤ん坊くらい、何の負い目もなく抱きしめてやりたい。
「お仕事はどうするんです?」
「この後、森羅様に相談してくるよ。ホントはちゃんと休暇を申請したかったんだけど、先延ばしにするみたいで嫌なんだ。このまま何だかんだで理由つけてズルズルと引きずっちまいそうで。そうなってもホッとするのは俺だけで、子供は待ってはくれないから」
「……私も一緒に行きますよ」
優しく微笑んで、俺の肩にもたれ掛かってくる。
この場にいるのは俺だけじゃないと確認させてくれるように、柔らかく手を重ねてくれた。
「ありがと。でも……これは俺が自分一人でやらなくちゃいけない気がするから」
そうしなきゃ、俺は多分――いや、絶対に前に進めない。
「偉いです、レンちゃん。ご褒美に私も妊娠してあげたいですー」
「いや、それはちょっと…」
残念そうに肩をすくめる鳩ねぇ。
309:Da Noi④
07/08/19 21:59:21 pmJaEmm60
でも、ここだけの話。
実は一瞬魅力を感じてしまった……すまん、ベニよ。
「あのさ、ベニには内緒にしてくれる?」
「いいですよー。さっきも色々とベニちゃんを脅かしちゃいましたから、これ以上余計な心配させるとレンちゃんの赤ちゃんに悪いですからね。ベニちゃん自体はどうでもいいんですけど、共生関係ですから仕方ありません」
「え? 脅かしたって?」
「それはこっちの内緒ですー」
「いきなりだな」
「すいません」
森羅様のお部屋で、俺は何度目か忘れるほど頭を下げた。
「最初に言っておく。明日はかーなーりマズい。もっと前に言えば何とかなったものを……何故そうしなかった? 仕事というのはそう甘いものじゃない。わかっていると思ってたのだがな…」
「本当に…すいません」
「ベニもあの身体だ。だからこそ、あいつの負担を減らした分お前に頑張って貰うつもりだったんだぞ? 何故だ?」
「それは……」
「……訳も言えん、か。ベニはなんと言っていた?」
「いえ、ベニはこのことを知りません。知らせたくないんです」
「なに?」
「お願いします、明日一日だけお休みさせてください!!」
俺の反応がただごとではないと察したんだろう。
凛とした瞳で森羅様がじっと見つめてくる。
思わずたじろぎそうになったけど、でも視線は逸らさない。
「……全く」
しばらく黙っていたが、諦めたように森羅様は溜息をついた。
「仕方ないな。諌めても無駄なくらいお前の決意が固いのは目を見ればわかる。明日一日だけ好きにしろ。理由を聞くなんて真似もしないさ。無論、ベニにも黙っておいてやろう」
「ありがとうございます!!」
最大の感謝をこめて、もう一度深々と頭を下げる。
310:名無しさん@初回限定
07/08/19 22:03:12 zjeE+HMf0
超期待age
311:Da Noi⑤
07/08/19 22:10:21 pmJaEmm60
「ただし、当分は休みなしだぞ。いいな?」
「はい!」
何度もお辞儀尾をして、部屋を出て行く。
森羅様、本当にありがとうございます。
あとは、ベニに勘づかれないように仕度をするだけだ。
「やれやれ。似た者同士、悩みごとも最終的には一緒……か。頑張れよ、レン」
パンダのヌイグルミを弄くりながら、ベッドの上で森羅は静かに呟いた。
夜明け前。
早起きが習慣になってるベニよりも先に目を覚まして、彼女を起こさないように気をつけながら着替える。
それでも、部屋を出る際にベニの頬にキスすることだけは欠かさない。
始発電車に飛び乗って七浜から東京へ、東京からさらに乗り換えて数時間。
そしてようやく、俺は生まれ育った町へ着いた。
特に懐かしいとは思わない。
記憶に残るような良い思い出がないからだろうか。
あったとしても、それを上回る数の嫌な思い出があるからだろうか。
そんな事を考えながら家への道を歩いていく。
たまにかつてのご近所さんとすれ違うが、大抵は俺を見て驚いたような困ったような微妙な表情を浮かべていた。
まあ、無理もねぇか。
「……変わってねぇな」
前にそびえるのは、もう何があっても戻れないと思っていた家。
外観は飛び出した頃とあまり変化はないようだ。
ただ、少し寂れたような気もする。
ドアノブに手をかけて回すと、鍵は開いていた。
いるのか、あいつ。
そうでなくちゃ、来た意味がないんだけどな。
意を決して、中へと進んだ。
312:Da Noi⑥
07/08/19 22:14:01 pmJaEmm60
雨戸を締め切っているから真昼間だっていうのに薄暗い。
コンビニ弁当のパックやその他諸々のゴミがあちこちに放置され、残飯には蝿がたかっている。
どれだけ生活能力ないんだ、あの野郎。
下手すると、俺と鳩ねぇが出て行ってから一度も掃除してないのかもしれない。
もしハルが見たら全身全霊で掃除に取り掛かるぞ。
執事としてのクセか汚れ具合をチェックするように各部屋を回っていき、居間を覗きこんだ時だった。
「……ん…」
低くくぐもった呻きが耳に流れてきて、居間の片隅でもぞもぞと何かが蠢いた。
「ん…あぁ……テメェ……」
誰の声かなんて、消去法でわかった。
この家に住むのは一人しかいないから。
「テメェ………レン……か?」
あと少しでも気を緩めていたら、間違いなく目眩を起こしいていただろう。
正直、怖かった。
こいつが怖いんじゃない。
また恐怖で動けなくなることが怖かった。
もしそうなったら、ここに来た意味がなくなっちまう。
俺は、あの地獄のような生活に逆戻りする為に帰ってきたんじゃないんだ。
「ああ、そうだよ。オヤジ」
返事と同時に、忌々しい諸悪の根源を目を凝らして睨む。
そして、愕然とした。
思い出は時間が経つにつれて美化されるというが、俺の場合も当てはまるんだろうか。
尊い記憶でもないのに、目の前のクソオヤジは俺の憶えている姿より貧弱だった。
髪はボサボサで、何日も洗っちゃいないだろう。
顔も土気色で瞳は濁りきっていた。
頬も痩せこけている。
「ようやく戻ってきやがったか……随分と久しぶりだなぁ。嬉しいぜぇ、レンよぉ…このクズ息子が…」
酒の飲みすぎのせいで声も掠れていた。
これが本当に俺をずっと苦しめ続けたクソオヤジなんだろうか。
だとしたら……俺がアホみたいだぜ。
313:Da Noi⑦
07/08/19 22:17:26 pmJaEmm60
「おい…美鳩はどうした?」
「…鳩ねぇはいねぇよ」
そう答えたら、手元にあった缶ビールの空き缶を投げつけてきやがった。
昔の俺ならここで震え上がってマトモに喰らっていただろう。
だが、今は違う。
蚊を叩き落とす要領で弾き飛ばす。
軌道を逸らされた空き缶が、何度か床を跳ねて止まった。
それが試合開始のゴング代わりにでもなったのか、オヤジが飛びかかってくる。
この家にいた時みたいに殴ってくる。
だけど――まるでスローモーションだ。
大佐との闘いで俺が強くなったと自惚れていいのか、それとも不摂生のツケが回って親父が弱くなっただけなのか。
できれば、前者がいいけどな。
余裕で払い退けると、続けざまに第二撃が迫っていた。
それすら顔を逸らせて回避する。
距離だけ見れば紙一重、拳の風圧が頬を掠めた。
でも、避け方は完璧だ。そんな遅いパンチ、当たる訳がねぇ。
何だよ、これならスタンガンを突きつけた時のハルの方が速かったぞ。
「この親不孝者がっ!」
タイミング的に避けられないとわかった拳は右手で掴み取る。
大した事ねぇな、大佐の攻撃の方が何億倍も痛ぇ。
「この…この……この…クソガキ……っ!!」
次々と繰り出してきても全部避けて空振りにさせる。
そうしていると、だんだんとスピードが落ちてきた。
もう息切れしてやがる、ミューさんより体力ないんじゃねぇか。
「ちっ……このっ!!」
息も絶え絶えに蹴りを繰り出してくる。
必死だな。いや、気迫が散漫になっているのが見て取れた。
心のどこかで命中させる事はもう諦めているらしい。
ハングリーさにも欠けてるぜ、ナトセさんを見習えよ。
でも、せっかくだから期待に応えてやるか。
314:Da Noi⑧
07/08/19 22:20:22 pmJaEmm60
蹴りを受け止めて押し返してやる。
「カスがあああああああっ!!」
反動でぐらつきながら殺気を孕んだ眼光をぶつけてくる。
昔はあんなに恐ろしかったのに、森羅様の迫力に比べたら笑っちまうぜ。
「ゴミがっ!! てめぇも美鳩も俺の為だけに生きてりゃいいんだよ!」
随分と自分勝手なこと言ってくれんな。
でも可愛いワガママだ、デニーロの足元にも及ばねぇ。
「言っとくけどな…俺はテメェの為に戻ってきたんじゃねぇよ!」
一気に間合いに入り込み、産まれた時からずっと蓄積してきた怒りをこめて力任せに腹部にパンチをねじ込んだ。
「ぐおおぉっ!!」
鈍い音と共に、オヤジの身体は吹っ飛んで壁に激突した。
そのままズルズルと床に崩れ落ちる。
「……ちっ」
拳に殴った感触が残ってる。
目の前で悶絶し、這いつくばる親父の姿。
ある意味、夢にも等しかった光景なのに――何故か、虚しい上に哀しかった。
「…ホントならこんなもんじゃ済まさねぇ、済ましたくねぇけど……ま、こんなもんか。体調不良な野郎をいたぶる趣味はないからな」
「はっ、よく…言う……ぜ……」
ヨロヨロと上半身を起こして、俺を睨みつけてくる。
「弱りきった……俺を痛めつける為に…戻ってきたって訳か」
「それもいいかもな。けど、違ぇよ」
「じゃあ…何しにきやがった?」
「………子供ができた。鳩ねぇにじゃないぞ、惚れた女に俺の子供ができたんだ」
珍しく押し黙るオヤジ。
かと思ったら、いきなり天井を仰いで意味ありげに薄く笑いやがる。
鼓膜を直接撫でられるような感じがして、酷く耳障りだった。
「へぇ…おめでとう……とでも言って欲しくて帰ってきたのか?」
「勘違いすんな、吹っ切りたかっただけだ。テメェが散々可愛がってくれたおかげでイマイチ子育てに自信持てなくて困ってんだよ、いい迷惑だぜ」
「いや、心から祝福してやるよ。おめでとよ、レン……」
「!?」
315:Da Noi⑨
07/08/19 22:46:32 pmJaEmm60
どうせロクな意味で言ったんじゃないだろう。
わかりきってんだよ、そんなの。
だけど……心の奥底に嬉しがってる自分がいた。
この家に帰ってきたのも、本当はこいつの言うとおり祝福されたかったからなのかもしれない。
「女だろうと男だろうと、きっと憎たらしいほどテメェにそっくりだろうからなぁ」
「……?」
「てめぇのガキ、きっと母親を殺しちまうぜぇ? なんたってテメェの血ぃ引いてんだからな……親子二代で親殺し……く…くく……」
俺のせいじゃない。
俺のせいじゃないんだ。
仕方なかったんだ、母体が持たなくて。
他人に言い聞かせるようにして自分を無理矢理納得させても、罪悪感は消えなかった。
間違いなく一生背負い続けなきゃならない十字架。
今でも俺は母さんという代償に見合う存在なのかわからない。
「せいぜい悲しみな。俺と同じ苦しみ、ゆっくりじっくり味わえ。神様ってのは実に公平だよなぁ。俺だけかと思ってたら、ちゃんとお前にも貧乏クジ用意してくれてたなんてよぉ……」
何かが、弾けた。
身体が熱くなっていく。
堰き止めていた感情が噴出する。
止められねぇ。
気がついた時には、腕を伸ばしてオヤジの胸倉を掴み上げていた。
「だからどうした」
「ガキがぁ…離せ」
「最初から覚悟してんだよ、あいつに先立たれる事なんか」
「なにぃ……?」
「正直、アンタの気持ちもわかんねぇ訳じゃねぇ……いや、ついこの前まではわかんなかった。それ以上にわかりたくもなかったよ」
あいつが、大切になるまでは。
「惚れた相手が死んじまうなんて、それも二回も。そりゃあ悲しかったよな? つらかったよな? 苦しかったよな? 寂しかったよな? けどな、俺はテメェじゃねぇ!! 俺は被害者面も八つ当たりも責めもしねぇ。誰にだってな!」
「偉そうに…ダボがっ」
「不幸面しやがって、甘えんじゃねぇ。いい年して悲劇の主人公気取りやがって」
316:名無しさん@初回限定
07/08/19 22:57:23 Fd/QVgAK0
支援のないときは4分間隔
317:Da Noi⑩
07/08/19 22:59:30 pmJaEmm60
「どうとでも言ってな……どうせテメェもそうなるんだ、血の繋がった俺の息子だからなぁ」
「いや、なんねぇよ。言っただろ、最初から覚悟の上だって。俺はあいつより長生きしなきゃいけねぇからな」
「はっ…どんな理屈だ?」
吐き捨てるように嘲笑いやがって。
それが引き金になった。
服を握る手の力が一層強まる。
「俺が先に死んじまったら、ベニが悲しむだろうが!! だから俺はあいつより1秒でも長く生きてやる! 死ぬ訳にいかねぇんだよ!!」
生まれてから今まで誰にも、ましてオヤジ相手になんて想像さえできなかった大声で叫ぶ。
知らない人間の名前出されて訳わかんねぇだろ。
いいさ、これは俺が俺に言いたくて言ってるんだから。
もう一度、確かめる為に。
俺は母さんと等価なのかはわからないけど、だからこそ。
全てを賭けて、ベニと子供を幸せにしたい――。
癪だけど、この覚悟はテメェのおかげだぜ。
ずっとずっと、一番大事な人が死んじまったら残された奴がどんだけつらいか見せつけられてきたから。
だから、もしその時が来て。
泣き叫んで、みっともなく喚き散らして、頭が真っ白になって、気が狂いそうになっても。
それでも、ベニを悲しませる事だけはしないで済むなら構わない。
「…それに、あいつを泣かせちまったら大佐に殴られるしな」
これはただの冗談。
でも、それが言えるほど俺の心にのしかかっていた何か重いものが少しづつ軽くなっていく。
この家の空気は澱んでいるのに、妙に清々しい気分だった。
気分が軽くなったついでに胸倉を掴んでいた手を離すと、オヤジは無気力に膝を着く。
「どうせ憶えてねぇだろうが………子供の頃キャッチボールしてくれた時、俺は嬉しかったよ。テメェの単なる気まぐれだったとしても、あの時間がいつまでも続けばいい……終わってもまた来て欲しい………本気でそう願ってた」
何でだろうな。
自分でも不思議なくらい、いつのまにか喋り始めていた。
忘れることで否定していた本心を。
「……」
「多分……今だって思ってる」
318:Da Noi⑪
07/08/19 23:06:35 pmJaEmm60
「……」
「……酒やめて真面目に働いて暴力グセ直してせ。ま、望み薄だけどな。でも、何年かかってでもそれができたんなら……」
心の底に押し込んでいた想いをすらすら出せた今ならわかる。
きっと、今日来たのは祝福されたい以上にこの一言を伝えたかったからだろう。
「いつか孫の顔くらい拝ませてやる」
それだけ言って、クソオヤジに背を向けた。
今度こそ本当に今生の別れになるのか、それともまた会う事になるのか。
背中越しに俺を罵倒していたのか、ただ呆然としていたのかもわからない。
でも、今はもうどうでもいいや。
つけたかったケジメは、ちゃんとつけられた気がするから――。
駅に到着した俺は我が目を疑った。
何故だ。
ありえない。
ベニがどうしてここにいるんだよ。
最初は気分爽快になりすぎてハイになってしまったんじゃないかと思ったが、どうも幻覚ではないらしい。
幻覚なんぞがベニをここまでリアルに再現できるかっての。
しかし逆に、それが目の前の彼女は紛れもなく本物なんだと俺に思い知らせた。
「お前…」
何を言っていいかわからず、取り敢えず漠然とした言葉を口から出す。
それさえ遮るように、ベニが駆け寄ってく――。
「このドアホーっ!!」
って、いきなり脳天にチョップかましてきやがった。
しかも、かなり本気で。
「アタシにも内緒で何やってんの!」
「お前、何でここに!?」
「鳩を問い詰めたら自白(ゲロ)したのよ。あとは森羅様にお許し貰って追っかけてきた訳」
「馬鹿な!? 鳩ねぇが口を割るなんて…」
「アタシをなめんな! ここ最近なんか一人でウジウジ悩み抱え込んでたと思ったら、黙って勝手にコソコソ動き回って。そんなの雅じゃないでしょ!!」
319:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:07:45 pVlwqWbW0
支援する
しか~し私はミューさん派の人間だ!!!
320:Da Noi⑫
07/08/19 23:11:58 pmJaEmm60
「だけど」
「鳩にだけ相談しといてアタシは蚊帳の外にしやがって!」
「……ヤキモチ?」
次の瞬間、今度は頭突きが飛んできた。
「うぐっ」
「電車の中じゃキモいメガネザルがコナかけてきて、そいつの連れのぎゃあぎゃあやかましいチビにはケンカ売られるし、散々だったわ!」
「おい、ちょっと待て…どこの馬鹿野郎がお前にコナかけやがった!? ブッ飛ばしてやる!!」
「いや、もういないし。どこのどいつかもわかんねーけど」
騒々しい、それでいて和やかな4人組の一人だったとベニは言った。
本人には分不相応な高級食材の名で呼ばれていたとも。
「でも、それもこれも元はといえば全部アンタのせいでしょ!!」
怒鳴るや否や、ベニは勢いよく突進してくる。
タックルか。
確かに悪いのは俺だし、甘んじて受け入れよう。
そう覚悟した俺の予想を裏切り、衝撃はなかった。
ベニはただ、俺の胸に身体と体重を預けてくる。
彼女の淡い唇から声が漏れた。
「……心配したんだからね」
「!!」
目を伏せ、深く息を吐いて。
その華奢な身体をそっと、だけど強く抱き寄せる。
体温も、吐息も、ベニの全てがこれだけ愛しいと感じた瞬間は今までなかった。
「ごめん……ありがとな」
東京行きの電車の中、俺はベニに全てを語った。
母親が自分を産んだせいで死んだ事も。
オヤジと喧嘩などした事はなく、いつも一方的に痛めつけられてきたのだと。
見栄を張って周りに嘘をついても、家では怯えながら生きてきたその空しい半生を告げた。
最後に、嘘ついたことを謝ったら。
「イチイチ赦すようなことでもないでしょ。ま、どっかの馬鹿がアンタのこと嘘つきって責めに来てもアタシが追っ払ってやるから安心しなさい」
そう言って、彼女は笑った。
321:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:13:12 hCYEonWE0
紫煙
322:Da Noi⑬
07/08/19 23:17:35 pmJaEmm60
その笑顔の眩しい事といったら……。
お前を好きになって、本当に良かったよ。
空に一番星が光る頃、ようやく久遠寺邸の前まで辿りついたら門の所が何やら騒がしかった。
森羅様・ミューさん・夢お嬢様・大佐・鳩ねぇ・ナトセさん・ハル・デニーロの面々。
うわ、見事なまでに全員集合してる。
土壇場の休日申請、しかも森羅様専属である二人ともだ。
いつぞやみたいなお仕置き、覚悟しなきゃな。
子供に万が一があるといけないから、お仕置きは俺が全て引き受けよう。
別に鞭打ちされたい訳じゃないよ? ホントだよ?
「なーに考えてんの。ほれ、行くよ」
ベニが背中を軽く叩く。
ホント、心強い奴だよ。
「すいませんでした!!」
「申し訳ありませんでした、森羅様!!」
まず真っ先に、二人揃って森羅様に頭を下げた。
「まあ、私が許可を出したし仕方ない。だが、レン・ベニ。二度目は無いぞ」
森羅様が厳しい言葉を投げてくる。
ワガママ言ってすいませんでした、この埋め合わせは必ず。
「しかし…何があったかは知らんが、わずか一日でいい面構えになったな小僧」
大佐はヒゲを整えてダンディに決めていた。
色々すっきりしたし、今度こそアンタを越えてやるさ。
「『お片づけ』は済んだようで何よりですー、レンちゃん」
鳩ねぇが微笑んできた。
ありがとう、今までも。これからも。
「でも……姉の前でいちゃつくのはあまり関心しませんねー。そろそろ鳩も鷹に変異する頃合です」
笑顔の裏から漂っている、凍りつくような殺気。
慌てて心当たりを探してみると、いつの間にかベニと腕を組んでいた。
お咎めなしに安堵したせいだろう。
323:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:20:34 hCYEonWE0
④
324:Da Noi⑭
07/08/19 23:22:16 pmJaEmm60
「少しは場所をわきまえて欲しいわね」
ミューさんは呆れているが問題なし。
いいじゃないですか、これが愛です。
「全く、盛りのついたガキどもめ。始末に負えないぜ」
デニーロが悪態をつく。
お前にだけは言われたくないんだが。
「でも、これはこれで濃いよね。いいなぁ…夢も、夢もいつかバカップルなって濃く……えへへ…」
夢お嬢様が羨望の眼差しで見つめてきた。
あんまりトリップしない方が宜しいかと。
「大丈夫、夢もいつか良い人に巡り逢えるよ!」
ナトセさんはそんな夢お嬢様を励ましていた。
微笑ましいけど、お腹鳴ってますよ。
「う、う、ううう……まだまだ傷は癒えませんー…」
何故かハルは泣いていた。
どうしたんだ、お前。
「さて、お前達。二人も戻ってきたし、そろそろ夕食にしよう。ナトセもそろそろ限界のようだからな」
森羅様の一声でみんなが家へ向かい始める。
子犬のようにはしゃぐナトセさんは、気持ちが先走って早足になっていた。
「ごはん何かな? 楽しみだなー、早く食べたいなー♪」
「ベニちゃんが身勝手にも職場放棄したので、私が自慢の胡麻豆腐や甘鯛の笹巻きを作りましたー」
「おいコラ鳩!」
「次の機会はすぐ来ますから」
「もう来ねぇよ!」
「(無視)その時はおこわ風炊き込みご飯にしますねー」
そう聞いた途端、デニーロが鳩ねぇに近寄って何やら囁いた。
「なあ、美鳩。炊飯器の奴、あんまり酷使しないでくれよ? 薹が立ったら俺様の守備範囲外に……」
「こらぁ、デニーロ!」
「うわぁぁ、地獄耳すぎるぜー!!」
トコトコと、しかし本人は至って全速力で逃げてるつもりのデニーロをミューさんが追いかけていく。
この調子だと、一番着はデニーロになりそうだ。
325:Da Noi⑮
07/08/19 23:26:13 pmJaEmm60
そんなに急ぐ必要も無いし、俺はゆっくりと行こう。
ベニと手を繋いだまま、一歩づつ玄関へ進んでいく。
「ただいま」
ふいに、ポツリとこぼれ出た小さな言葉。
それを耳にしたのは隣のベニだけだった。
ベニは最初はきょとんとしていたが、すぐに微笑む。
「ん、おかえり」
誰よりも何よりも大切な奴の声と笑顔が、改めて実感させてくれた。
帰ってきたんだと――。
響き渡る遥かな潮騒。
それに負けない軽快な音が、七浜公園に木霊した。
「いい球投げるじゃねえか、よしもういっちょ! へっへへ、今度は取れるかな?」
天高く投げられたボールが、極端な放物線を描いて落下する。
幼い子供はそれを捕ろうと慌てて駆け出す。
しかし間に合わず、それどころか勢いがあまって激しく横転してしまった。
「やべぇ、大丈夫か!?」
父親が慌てて駆け寄ろうとする。
だが、それまで傍で見物していた母親が制止した。
父親に代わって我が子へ歩み寄り、しゃがみこんで視線を同じ高さに合わせる。
その際、怪我がないか確認する事も忘れない。
「痛い? つらい? もうやめる?」
痛みに顔を歪ませているものの、子供は首を何度も横に振った。
「上等!」
母親はニッと笑い、子の髪をくしゃくしゃと撫でる。
「まだまだねー、相手のレベルちゃんと考慮しないと。ほら、ちょっち貸してみ」
「あいよ」
母親が父親からグローブとボールを受け取り、子供と距離を取った。
「フライってのは……こうすんの!」
326:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:29:17 pVlwqWbW0
シ○ン
327:Da Noi⑯
07/08/19 23:30:29 pmJaEmm60
母親が放った球は、絶妙な速度と角度で子供が掲げたグローブに収まった。
間髪入れず、子供がそれを一生懸命投げ返す。
コントロールはまだまだ未熟で無茶苦茶な軌道だったが、母親はそれを難なくキャッチする。
「腕、落ちてねぇな」
「はん、あったりまえでしょ。オラ、もういっちょ行くよー!」
両親それぞれが交代しつつキャッチボールの応酬は続く。
転ぶ事もしばしばではあったが、それでも根をあげずに頑張る息子をキャッチボールが終わった瞬間に両親は抱きしめた。
汗と汚れをタオルで拭った後は、芝生に広げたシートの上で三人寄り添いながらの昼食タイム。
「母さん、昔草野球チームに入ってたからな」
食事の最中も母の野球の腕前に感心し続ける息子に父親が言った。
「まだ現役いけるわよ。アンタがもうちょっと大きくなったらソフトボールにでも入ろうかしらね。アンタもアタシ達の息子だけあってけっこー筋いいから、これからもビシバシ鍛えてやるわよ。覚悟いい?」
「おいおい、本人の意志を尊重せにゃならんだろ」
「アタシとアンタの子よ? 野球好きに決まってんじゃない」
自家製ピザソースを薄塗りしたサンドウィッチを子供の口に運びながら、母親が笑って言った。
子供も料理の美味しさと褒められた嬉しさが混ざり合い、朗らかに笑う。
「無邪気に笑ってんなぁ。意味わかってんのかね?」
「まあ、無理強いするつもりなんて勿論ないわよ」
「誰よりもわかってるよ、お前はそんな事しない」
母親の頬が彼女の名前どおり朱に染まる。
そんな様子が相変わらず可笑しく、そして愛しい。
「野球が好きでも嫌いでも、どうにでもなるさ……これからも、ずっと一緒だからな」
「そうね、レン」
自分達を優しく包み込むように通り過ぎる心地よい潮風を味わいながら、錬はそっと静かに目を閉じた。
七浜に来てから今日までの日々を、心の中で反芻する。
姉と共に大道芸で生計を立て、未有を助けた事が縁となり久遠寺家に拾われた事を。
森羅の専属従者となり、朱子と常に諍いを繰り返した事を。
罰ゲームで彼女と共に大佐のナルシスト本を売りさばく羽目になった事を。
彼女と行った野球観戦が白熱して楽しかった事を。
山の中で彼女の優しさを知った事を。
328:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:36:25 P7sVnovc0
支援
329:Da Noi⑰
07/08/19 23:37:56 pmJaEmm60
大佐に彼女の過酷な幼少時代を聞いた事を。
彼女の誕生日に結ばれた事を。
そして、家族になった事を。
愛する人たちと共に過ごし、これからも歩んでいくに違いない燦然たる軌跡を――。
「おーい、眠いんか?」
眠りの淵から自分を引き上げる声に、錬は瞼を開けた。
「ああ、いい天気だしな」
「そんじゃ、みんなで昼寝したら帰ろうか」
「我が家へ」
330:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:42:55 pmJaEmm60
『Da Noi』、これにておしまいです。
初めての投稿だったので色々と手間取ってしまいましたが、支援して下さった方々ありがとうございました。
今後、相互補完話も書く予定です。
331:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:43:56 P7sVnovc0
>>330
超乙&超GJ
332:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:45:12 zjeE+HMf0
タカ○ロ降臨ktkr
本編に入ってたら確実に泣いたシナリオだと思いました
親父の不摂生ぶりを久遠寺ファミリーと対比させているのがツボでした
(わざとだと思うけど)でも夢を忘れているよ?w
DA NOIっていうのはどういう意味ですか?
とりあえず、乙でした!
333:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:45:42 Fd/QVgAK0
>>330
乙。
題材や流れの持っていき方はベネ。
読みやすい位置で改行を入れることと
内容をもっと絞るとよくなるよ。gj。
334:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:47:48 wPpvSBoc0
>>330
ちょっと無駄が多いのが残念だがGJ
335:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:48:20 pmJaEmm60
『Da Noi』というのは、イタリア語で「我が家」という意味です。
お察しの通り、夢を忘れているのはわざとだったり(笑)
336:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:49:41 kXEYhnOk0
GJ! オヤジさんカワイソス
337:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:51:25 pmJaEmm60
333・334>ご指摘して下さってどうもありがとうございます。
今後、精進していきたい所。
338:名無しさん@初回限定
07/08/20 01:14:24 aA6sQ2O60
乙&GJ
とりあえずいいSSだったw
次はギャグにも挑戦だ
339:名無しさん@初回限定
07/08/20 06:31:11 emRQDJ2F0
えがった。
GJ
340:名無しさん@初回限定
07/08/20 13:44:45 BeY1dje10
GJ!
ベニは最高。
341:名無しさん@初回限定
07/08/20 17:14:00 a/rSfmDoO
GJ!超GJ!
342:名無しさん@初回限定
07/08/20 18:42:48 oeTUnZuc0
GJ!!
てか、フカヒレ自重www
343:名無しさん@初回限定
07/08/20 20:19:34 5vXHwVwl0
レンの家庭環境ってスバルとかぶってしまうと感じるのは俺だけ?
344:名無しさん@初回限定
07/08/20 21:11:29 X+8N024q0
自分も同じです。
345:名無しさん@初回限定
07/08/20 21:31:45 jGIpVi8yO
中の人更新乙
346:名無しさん@初回限定
07/08/20 22:23:16 emRQDJ2F0
中の人乙
しかしこうして見るときみあるSSもだいぶ増えたね
善哉善哉
347:名無しさん@初回限定
07/08/21 11:32:05 iL5Bnm3o0
>>330にコンペイトウをやるのがマイブーム
348:名無しさん@初回限定
07/08/23 05:56:00 WmHcMdB80
gj
349:記憶(1)
07/08/24 22:28:27 zWqEBPT40
それは突然やってくる。 最近はなかったのに。 もう解放されたと思ったのに。
どれだけ一日が楽しく過ぎても、何の予告もなしにやってきては、僕の心を蝕んでいく。
あの頃の忌まわしい記憶だ。
薄暗い部屋でたった一人、すすり泣いている僕がいた。
まだ小さい時だったけど、あそこで育った事は絶対に忘れる事ができない。
そして今日も、僕はあの頃の夢を見てしまうんだ。
「さぁ、千春君。 今日も私とお勉強の時間だよ」
「あ…ああ……こ、来ないで…」
小さい時の僕が、ものすごく脅えた目をして、あの忌々しい男を見ていた。
逃げようとしてもここは部屋の中、逃げ場なんてどこにもない。
「何を言ってるんだ、千春君。 ああ…可愛いなぁ……」
そう言って男は、小さい僕を捕まえて、ゆっくりと服を脱がしていく。
「や…や……やめて!」
払いのけようとした手が、男の頬を叩いた。
「…テメェ、何しやがる!」
そして小さい僕を何度も殴りつけた。
一通りの暴力が終わると、ぜぇぜぇと男は息を切らして言った。
「ああ、すまないねぇ、千春君。 でも、君がいけないんだよ? 私を叩いたりしたらダメじゃないか」
そして、男はおもむろに下着を脱いでいく。
「さぁ、今日もお勉強をしようじゃないか…」
「うあぁぁぁぁぁ!! はぁ、はぁ……」
そこで目が覚めた。 あれ以上見続けるなんて、おぞましいにもほどがある。
全身は嫌な汗でびっしょり。 寝ていたはずなのに、ものすごい疲労感が全身を覆う。
「また…あの夢か……」
どうしてなんだろう。
もうあそこには誰もいないはずなのに。
もう過ぎ去ったことなのに。
どうして思い出してしまうんだろう…
350:名無しさん@初回限定
07/08/24 22:29:00 ajcDbdAL0
期待age
351:記憶(2)
07/08/24 22:31:02 zWqEBPT40
ベニ公のやかましいドラの音で目が覚めた。 今日の天気もよさそうだ。
いつものように執事服に着替え、身だしなみを整えてから1階に集合した。
「ん? おい、ハル。 朝から元気がないな」
皆が気合の入った顔をしている中、ハルは何だか憔悴した顔をしていた。
昨日はあんまり寝れなかったのかな?
「え? い、いやぁそんなことないですよ」
腕をブンブン振り回して元気のよさをアピールしていたが、やはりどことなく元気がなさそうだ。
俺と鳩ねぇも新参者とはいえ、皆のちょっとした雰囲気の違いとかはわかる。
今日のハルはまさにそれだ。
ん? そういえば…ハルって昔は一体何をして、どこに住んでたんだ?
本人も話そうとしないし、屋敷中の誰も話そうとしていないしなぁ。
まぁ、余計な詮索はしないほうがいいとは思うけど…
朝食の時に、それとなくベニ公とナトセさんに聞いてみることにした。
「なぁ、ベニ公とナトセさん。 ハルの奴、やっぱ様子がおかしいよな?」
「んー、そうね。 ま、たまにあることよ。 そういや、アンタ達が来てからなかったわね」
「そういえばそうだね。 何だか、夜中にうなされてるみたいだったよ」
「つーことは、嫌な夢でも見たってことか」
「ま、そーいうことね。 そんなに気にすることじゃないわよ」
うーむ、やっぱりそんなもんなのかな?
やっぱ俺としては、アイツも俺を頼っている事だし、何とか力になってやりたいけどなぁ。
ちらりとハルのほうを見たが、やっぱり元気がない。
「おい、ハル。 手が止まってるぞ。 食わねぇと力が出ないぞ」
「へ? あ、いやぁ、その…ちょっと食欲がなくて。 あははは……」
やっぱり気になる…どうかしたのかな?
352:記憶(3)
07/08/24 22:33:27 zWqEBPT40
元気のなかったハルだが、いざ仕事となればいつもの通りに戻っていた。
今日も元気に、汚れを見つけては超がつくほど念入りに落としていた。
やっぱり俺の勘違いなのだろうか?
昼飯の時もベニ公にからかわれてピーピー言ってるし。
一日、ハルのことをそれとなく見ていたが、結局どうということはなかった。
そして、晩飯が終わって…
「さーて、風呂にでもするか」
ガチャリ
「また来やがったな、このボケナス!」
ベニ公が着替え中で、ドアを開けた俺に鉄拳パンチ! しかし、俺もただのバカじゃないぜ!
「見切った!」
「なにィ!?」
屈んでパンチをかわした。 しかし、体勢を低くしすぎたのか…
「!?!?!?!?」
ベニ公の股に俺の顔がモロにくっついた。
「…さ、さて、そんじゃ俺はお祈りに行く時間だから失礼するぜ」
さすがの俺も今回だけは、何とかごまかして逃げようとしたが…
「い…い……いっぺん死ねーーーー!!!!!!!」
ボグシャーン!!
近くにあった予備の桶で思いっきり殴られた。
さすがの俺も今回は、意識が遠のいていくような感覚に見舞われた。
ああ…この世で最後に見たものがベニ公の股だったなんて…
どうせなら…は、鳩ねぇの…ほうが……
353:記憶(4)
07/08/24 22:36:39 zWqEBPT40
「う、うう…」
「あ、気がついたみたいですよ、ナトセさん」
「本当だ。 大丈夫、レン君?」
「こ、ここは…?」
辺りを見回したが、どうやらここは俺の部屋らしい。
「びっくりしたよ。 ベニのすごい怒鳴り声がして何かと思ったら、レン君が廊下で倒れてたから」
「で、レン兄の部屋に運んだというわけです」
「そうだったのか…あれ、鳩ねぇは?」
「今、ベニと一緒にお風呂に入るって言ってたよ」
ナトセさんがやれやれといった表情で言った。
「あれこそまさしく、鳩が鷹になる瞬間なんですね…」
何だかハルはガクガクと震えていた。
「や、やめ…こら、ハト!」
「ベニちゃんはイケナイ子ですねー。 レンちゃんをたぶらかそうとするなんて…」
「アホか! 仕掛けてきたのは下男のほうだっつーの!」
「そんなベニちゃんには、私も性的なおしおきをしないといけませんねー?」
「ひゃうっ! そ、そこは…森羅様にしか…触られたことない…のに……」
「うふふ、こうしてみるとベニちゃんもなかなか可愛いですねー。
もちろん、レンちゃんには負けますけどねー」
「や、や、やーめーろー!! あ、ああぁ……ん…」
「まぁ、ゆっくり寝ておきなよ。 それじゃ、私は部屋に戻るから」
「うん、ありがとう。 ハルも行けよ。 俺はもう大丈夫だからさ」
「そうですか? それじゃレン兄、おやすみなさい」
ナトセさんとハルは、そう言って俺の部屋を後にした。
354:記憶(5)
07/08/24 22:40:29 zWqEBPT40
「うーん…寝苦しいなぁ……」
夜中の2時だってのに、目が覚めてしまった。 よく考えたら、俺って風呂に入ってないじゃん。
さわってみると、体のあちこちがベタベタする。
「仕方ない、ちょっと汗を流すか…」
部屋を出て、風呂場へと向かう。 ドアを開けるときに注意したが、やっぱりベニ公はいない。
しかし、どうやら先客がいるようだった。
「これは…ハルか?」
男物の服が床のあちこちにちらばっていた。 サイズが小さいから大佐でないのは確かだ。
となると、もうハルしか該当する奴はいない。
「おーい、ハル。 入ってるのかー?」
ドアの外から呼びかけてみる。 だが返事はない。
まさか湯船の中で寝てるってことはないよな? だとしたら、アイツ何時間風呂に入ってるんだ?
「おい、ハル!」
心配になって、勢いよくドアを開けた。
中にいたハルは…シャワーを浴びながら小さくうずくまって震えていた。
これは明らかに様子がおかしい。 何かの発作か?
「ハル! ハルってば、おい!」
小さく顔を上げたハルの目の下にはくまができて、目も真っ赤になっていた。
「あ…レ、レン兄……み、見ないで!」
ハルはそう言うと、俺に背中を向けてしまった。 しかし良く見ると、ハルの背中には無数の傷跡が…
「お前…その傷は……」
「うっ! そ、その…ご、ごめんなさい!!」
ハルはびしょ濡れのまま、風呂場を飛び出していってしまった。
ちらばっている自分の服もそのままにして。
「どうしたってんだ、アイツ…」
心配になったので、ハルの部屋まで行ってドアをノックしてみた。
「ハル? おい…」
「ご、ごめんなさい…レン兄……一人にしてください…」
ドアの向こうから涙まじりの弱々しい声が返ってきた。
355:名無しさん@初回限定
07/08/24 22:41:52 ajcDbdAL0
支援
356:記憶(6)
07/08/24 22:43:20 zWqEBPT40
やっぱり今日もハルは元気がなかった。 せっかくの日曜日だってのに。
ちなみに、ベニ公も元気がなかった。
「ハ、ハトに…陵辱された……」
みたいなことをブツブツ言っていた。
そんなことより、ハルが心配になって話を聞いてみようとしたが、ハルは俺を避けるかのような行動をとっていた。
「これは心配だ…夢お嬢様の専属なんだし、夢お嬢様なら何か知ってるかもしれないな」
俺は夢お嬢様の部屋へと行ってみた。 中では何やら妄想にふけっているお嬢様がいた。
本人から『ぽわーん』という擬音が聞こえてきそうだ。
「えへへ…舐めるように綺麗にするんだよ…舐めるように……」
「おーい、お嬢様ー?」
「わうっ! な、なんだぁ…脅かさないでよぅ。 何か用事なのかな?」
「ええ、実はハルのことで…かくかくしかじか」
「ほうほう、なるほど…」
しかし、お嬢様は困った顔をして見せた。
「残念だけど、私からは何も言えないよ。 ハル君って、自分のことを話そうとしないんだよ。
ナトセさんや朱子さんのことなら知ってるけど、ハル君はちょっと…わかんないや」
うーむ、ご主人様である夢お嬢様にすら話していないとはな。
だとしたら、後は…
「それで私の元に尋ねにきたと言うわけか、小僧」
「ああ。 大佐なら何か知ってるだろうと思って。
いくらこの屋敷で働いてるのがワケありばかりとは言え、一応事情は聞いてるんだろ?」
「まあな。 ふむ…教えてやらんでもない」
「本当か!?」
「だがな、小僧。 あ奴のことを思うのであれば、あ奴本人から聞くことだな」
「え?」
「悲しい過去を乗り越えねばならん。 それは人が成長する過程で最も大切な事の一つだと私は考えている。
これは試練だと、本人に受け止めさせなくてはならんのだ」
ハル自身の口から、か…
357:記憶(7)
07/08/24 22:46:24 zWqEBPT40
夜、風呂からベニ公とナトセさんが出て行ったのを確認してから、俺はハルの部屋を訪れた。
「おい、ハル。 お前、風呂まだか?」
「え? ええ、まぁ…」
「よし、じゃあ一緒に入るか」
「え、ええ!? い、いいですよ。 僕は一人で…」
「いいから来いっての!」
嫌がるハルを部屋からズルズルと引きずり出し、風呂場まで引っ張ってきた。
「ふー、今日はよく動いたからなぁ。 ホレ、お前も脱げよ。 俺がお前の背中を流してやる」
「で、でも…」
「いいから!」
俺は無理矢理ハルを脱がした。 男の服を脱がせる趣味はないが、今は我慢しよう。
やはりハルの体には、無数の傷や火傷の跡のようなものがあった。 とりあえず俺はハルを背中を向けて座らせた。
「レン兄…その…」
「何も言うな。 黙って背中向けとけ」
お湯をかけて、石鹸を擦りつけたタオルでハルの背中を擦っていく。
ハルは何も言わない。 俺も何も言わない。 風呂場は完全に静まり返っていた。
「よし、お湯かけるぞ」
ざばっと桶のお湯をかけ、そして今度は俺がハルに背中を向けた。
「そんじゃ次は、ハルが背中を流してくれよ」
「レン兄…し、失礼します」
今度はハルが俺の背中を擦りはじめた。 俺は何も言わなかったが、ハルはゆっくりと、その口を開いた。
「レン兄…驚かないんですか?」
「何が?」
「だって、僕の体の傷のこと…」
「聞かねーよ。 それに、俺だって傷だらけだもんな。 ただ、お前から話すってんなら別だけどな」
「え…」
「ま、一応言っておくなら、誰かに話すことで楽になるってことはあると思うぞ」
「レン兄、やさしいんですね……僕…うっ、うっ……」
俺の背中を擦ったまま、ハルは涙を流した。 何だか俺もつらい。
もらい泣きをしてしまいそうだった。
358:記憶(8)
07/08/24 22:50:18 zWqEBPT40
そんな日が何日か続いた。
俺はハルから話すのをじっと待って、夜は必ず一緒に風呂に入るようにした。
裸同士の付き合いなら、ハルも腹を割って話してくれるのではと思ったのだ。
そしてある日の夜、ハルが俺の背中を流している時、とうとう言ってくれた。
「あの…お話、してもいいでしょうか? 僕の昔のこと…」
「ああ。 聞いてやるよ」
ついにハルの口から、その言葉が出てきた。 その言葉をどれほど待っただろうか。
俺とハルは湯船につかった。
「僕は捨て子だったんです。 それでずっと、教会で育てられました。
そこの神父さんは捨て子を見ていられないということで、僕を含めて何人かの子供が一緒に住んでいました」
ハルは自分の昔のことをゆっくりと語り始めた。
「神父さんはとってもいい人でした……あくまで表面上では、ですが」
「何?」
湯船のお湯を手ですくい、自分の顔にかけるハル。
「その神父さんには特殊な性癖がありました。 その…子供に対して……」
「マジかよ…」
「はい。 夜な夜な子供を部屋に連れては、そこで……
抵抗しようとしたりすると、容赦なく暴力でねじ伏せるんです。 ほら、僕の体も……」
そう言うと、ハルは左肩の火傷の跡を見せた。
「これは、火のついたままのタバコを押し当てられたんです。
お腹や背中にも、いっぱい殴られたりした跡が…」
「ハル…」
ハルは肩の傷を手で擦った。
「とれないんです…いくら家の汚れを落としたって、僕の沢山の傷は落ちないんです…」
ハルの目からは涙が出てきた。
「特に神父さんは僕のことがお気に入りでした。 神父さんの部屋で、何度も何度も…
そのたびに僕は、何度も死のうと思いました。 だけど、僕は生きたかったんです。
生きていれば必ずいいことがあるって本で読んだことがあって、ずっとそれを自分に言い聞かせてました。
今はこんな人間らしい生活なんてできなくったって、きっといつかは…」
自分の涙をぬぐうと、さらに話を続けた。
359:記憶(9)
07/08/24 22:53:12 zWqEBPT40
「やがて、僕と同じ目にあっていたある子がついに行動を起こしました。
神父さんに呼び出されたとき、隙をみて神父さんを包丁で刺したんです」
「!?」
「そしてその子は、部屋のいたるところに灯油をまいて火をつけました。
でも、その子は死にかけの神父さんに道連れにされて…
その一件で、僕達は一瞬で住む場所を無くしました。 教会も何もかも、全部灰になっちゃいましたから。
みんな離れ離れになって、僕もボロボロになって途方にくれていたところを、大佐に拾われたんです」
「そうだったのか…おっと、のぼせちゃいけないな。 出るか」
俺とハルは湯船から出て、体をふいていた。 そして、長い沈黙の後、ハルはまた話し始めた。
「…これでわかったでしょう。 僕は汚れてるんです。 多分、この屋敷の中で誰よりも一番……」
ハルはそう言うとうつむいてしまった。 俺はそのハルの顔を無理矢理あげさせて…
「お前…ていっ!」
ハルの頬を叩いた。 パシンッ!といい音が響いた。
「い、痛い! レン兄…」
「お前な…バカだよ……ここの人達は、いい人だってわかってるだろ?
ベニ公やナトセさんだって、辛い過去があっても、森羅様達がしっかりと面倒見てくれてるだろうが。
そんな過去を持ってるぐらいで、へこんでるんじゃねぇよ。 俺だってな…」
「…レン兄?」
「とにかくだ、お前のことはよくわかった。 辛いのもわかる。 だからって、ウジウジするなよ。
どうしても辛くて仕方がない時は…俺が胸かしてやるさ。 思いっきり泣けよ。 な?」
「レン…兄……ぼ、僕…うわぁぁぁぁん!!」
ハルは俺の胸に飛び込んで泣いた。 これでもかと言うぐらいに。 今までの辛さを全部洗い流すように。
「わぁぁあぁあぁぁぁ…」
「今まで…つらかったろうな……」
そのまま俺がハルの頭をなでている時に…
360:記憶(10)
07/08/24 22:56:38 zWqEBPT40
「歯磨き忘れてたわー。 アタシとしたことが、雅じゃないわねー」
ガチャリ
「ア、アンタ達、何で裸で抱き合ってんの…?」
「あ、朱子さん…その……」
「いや、それはだな…これには深い事情があって……は、ははは…」
「……邪魔してゴメン。 そんじゃ」
バタン
「うわー! 待て! 誤解だって!!」
「そ、それはないですよ朱子さぁん!」
「あー! あー! あー! アタシは知らない! 何も知らない!」
そのままベニ公は部屋まで大急ぎで戻っていった。
俺もそれを必死で追いかける。
「誤解だって! まずは落ち着いて俺の話を…」
ベニ公の部屋の前まで到着し、そのままドアを開けた途端、腰に巻いていたタオルがはらりと落ちた。
「だからさぁ、あ……」
俺の息子がベニ公に向かってこんにちわをしてしまった。
「ちょっと! ハルとヤれなかったからって、今度はアタシか!?」
「ま、待て! 俺の話を…」
「近づいてくんな! つーか出てけー!!」
ボクシャーン!!
その後、気絶した俺はまたもやナトセさんとハルに部屋まで運ばれた。
「レン兄、本当にありがとうございました。 なんだかもう、あの夢にうなされないような気がします」
目が覚める直前、そんな声が聞こえたような気がした。
ハルのことをちょっとだけわかってやることができた、そんな夜だった。
361:シンイチ
07/08/24 22:59:31 zWqEBPT40
ハルふたたび。 ってまたかよ!
いや、でもね、やっぱりハルはかわいいですよ、うん。
次こそは、次こそは別のキャラで…とか言いながらハルになりそうな気がする。
362:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:00:04 UiSoGx980
ちゃんとオチたかw
面白かった GJ!
363:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:11:57 sFnT4NgN0
最初元気がなかった理由がわからんがgj
364:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:14:25 qG65kXP+0
おもろいww とても素人の作品とは思えんw
これくらいのレベルのを10本集めて挿絵と
マンガを入れたら350円くらいで売れそうだな
365:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:19:36 wLaEf6Dw0
>>363
久しぶりに昔の夢を見たからだろ
ただなんで昔の夢を、というのが抜けてるが
比較的似た境遇のレンが現れたことで思い出した
と脳内で補完しつつgj
366:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:21:24 wLaEf6Dw0
>>361
(3)とか(4)のギャグはギャグ単体ではおもろいが
流れ的にはいらないんじゃね?
367:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:25:49 UiSoGx980
>>366
オチの伏線だろ?
368:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:31:03 qG65kXP+0
>>363>>365
どっちかというと、落ち込むハルよりも落ち込むハルをそこまで気にかけるレンのほうが若干不自然なんだが
もう一行、レンがハルの姿に昔の自分を見て・・・というのが入ってればよかったと思う
まあ、全体としては、十分GJだろう
369:名無しさん@初回限定
07/08/25 15:30:26 QisJu7X/0
368に同意しつつGJ&乙を贈ろう!
連荘だしハル(男)から離れたいな次は。
この際ヒロインじゃなくても大佐でもデニーロでもいい。
370:名無しさん@初回限定
07/08/25 20:30:26 LAGyQ2W10
大佐の修行時代やデニーロの製作秘話が読みたい
371:名無しさん@初回限定
07/08/25 22:57:27 PuMgWvQxO
>>115
372:名無しさん@初回限定
07/08/26 00:29:03 EOOvajtcO
>>318
373:名無しさん@初回限定
07/08/26 00:37:56 EOOvajtcO
>>364
374:名無しさん@初回限定
07/08/27 22:15:11 Rz0+Bttn0
鳩ねぇの小説も読んでみたいな。
でも好きなのを書いてください。どんな話でもありがたいのです…。
375:君が対馬でエリカが俺で
07/08/29 08:14:37 Lg9VjeKPO
朝、目を覚ますと姫になっていた。
隣にはスヤスヤと心地よさげに眠る俺がいる…恐らく今は姫の意識が入っているのだろう。
そう思うと自分の間抜け面も愛おしく思えてくる。
俺(姫?)を起こさないよう、ゆっくりとベッドから身を起こす。
そうすると、目の前にある姿見-姫が持ってきた-に自分の身体が映る。
昨日も一戦…六戦くらい交えた後、お互いそのまま眠ったので、当然のことながら全裸だ。
何度も見ている筈なのに、いつもいつもドキドキさせられる。
何度も見ている筈なのに、いつもいつもドキドキさせられる。
「(う…やば、少し興奮してきた)。」
と、本来なら愛息がエレクチオンする筈なのだが、悲しいかな現在、そこは金色の野に咲く一輪の華しかない。
376:君が対馬でエリカが俺で2
07/08/29 08:17:06 Lg9VjeKPO
「(…つーか、さっきまで俺がここをいじったり、舐めたり、挿れたりしてたんだよなぁ)。」
そう思いながら、後ろを見やる。そこにはまだ深い眠りにある俺本来の肉体が…て、あれ?いない?
「お嬢様ナイトスクープっ!!」
「うおっ!?」
いきなり、ぐわしと胸掴まれ思わず姫らしくない言葉をだしてしまう。
案の定、どこに潜んでいたのか、俺(IN姫)が俺の胸を揉みしだき出す。
「うーん、やっぱり自分で揉むのと他人として揉むのとでは感覚が違うのね!これは大発見ね!」
「ちょ、姫ぇっ!?」
377:君が対馬でエリカが俺で3
07/08/29 08:27:55 Lg9VjeKPO
「私、前から自分の肉体には自信があったんだけど、やっぱり素晴らしいわ!特にこの胸!!嗚呼、理想のおっぱいを探して早幾年、まさかこんな近くに答えがあるなんて、正に幸運の青い鳥は庭にいましたって感じね!?」
ダメだ、完全にトリップしている。しかも俺の声のせいか、なにげにムカついてくる。くそう、そのおっぱいは俺のなのに!…いや、現在揉んでるのは俺(IN姫)なんだから、俺なのか?そもそも俺とは…、
「あ、乳首勃ってきた。うわー、コリコリしてるー。」
「ちょ、姫自重を!」
「いいから、いいから、自分の身体は、自分が一番よく知ってるし。損はさせなうから。」
「そーいう問題じゃ…あんっ!」
378:名無しさん@初回限定
07/08/29 08:29:00 ehrRyTy50
379:君が対馬でエリカが俺で4
07/08/29 08:33:02 Lg9VjeKPO
「ホラホラ、対馬くんもせっかく女の子になったんだから、もっと楽しみなさいっ。えいっ!」
「あおっ!?」
突然の下半身への衝撃に、またもや姫らしくない声を上げてしまう。
「うーん、やっぱ私ってお尻が弱点なのか…ちょいショック。」
「ひ、姫ナニヲ…?」
「いや、対馬君よくお尻いじってくるから。たまには自分でもやってみようかと。」
「ちょ!ん!あん!」
やば、だんだん頭がボンヤリ…。
「うわっ、少しいじっただけなのに、こんなに濡れてきた!複雑な心境だわ…。」
「だ…、だめ…んんっ!!」
「うわっ!?」
380:君が対馬でエリカが俺で5
07/08/29 08:38:14 Lg9VjeKPO
全身に稲妻が走るような感覚の後、俺の意識はそこで途絶えた。
消えゆく意識の中、「潮」とか「失禁」とか聞こえたが、最早何もできない。
以前誰かが女性の絶頂は、男性とは比べものにならないほど強いらしい。
つーか、お尻いじられただけで達するとは、やはり姫はソコなのか…。
つか、これからどうすりゃいいんだ…?
381:名無しさん@初回限定
07/08/29 08:39:06 ehrRyTy50
382:名無しさん@初回限定
07/08/29 08:47:14 Lg9VjeKPO
初めての書いてみたのですが、いかがでしたでしょうか?
次は逆襲に走るレオ(姫IN)を書いてみたいです。
383:名無しさん@初回限定
07/08/29 08:58:44 ehrRyTy50
携帯から乙 もうちょっと読みたかったけどGJ
384:名無しさん@初回限定
07/08/29 11:15:22 LbiBTjnz0
GJ
385:名無しさん@初回限定
07/08/29 14:54:51 qIJ6F+qd0
GJ☆
だが少し短めなのが残念、
このシチュなら外出するだけで良いネタになりそうなのに
386:名無しさん@初回限定
07/08/29 15:25:48 FIgCkPX50
面白いけどなんで入れ替わったのかワカラン
387:紅の道①
07/08/29 17:58:51 EFhAjhaQ0
もはや二人の部屋同然になってるレンの部屋。
大切な熊のぬいぐるみと栄冠のトロフィーが横に飾られたベッドの上で、
弱体化した月光に照らされて青みがかるレンとアタシ。
「レン…」
「ん、起きたのか?」
毛布の中で手と手を絡めて柔らかく握り合う。
言っとくけど、エッチはしてない。
「あのね……赤ん坊、できたわ」
「…………What?」
ビックリするのはわかってたけど、これ程とはね。
「あ、あの、ベニスさん。もう一度言って頂けますかね?」
「ハルみたいな口調になってんぞ。だーかーらー、妊娠したって言ってんの」
「マジか!?」
「マジ。今日の病院ではっきりと」
最初に妙だと思ったのは数週間前から。
レモンとかすっぱいもの無性に食べたくなったのがキッカケ。
後は吐き気と倦怠感が時々訪れるようになった。
すぐレンには見抜かれて休むように言われ、森羅様に進言されちゃしょうがない。
それでも、鳩に台所を占領されるのが嫌で今日は全快を装って働いていたけど。
挙句の果てに台所で倒れそうになった。
鳩に助けられてしまうなんて一生の不覚。
あいつの事だから、この先きっと恩着せがましくネチネチ言ってくるに違いない。
そんなこんなで、レン付き添いのもと病院に行かされて医者から病名を聞いた。
結果は、まごうことなき妊娠。
「道理で調子悪かった訳だ。大事な事なんだから、病院帰りに言ってくれよ」
「月明かりの下、手を繋ぎながら告白した方が雅でしょ」
レンや森羅様たちが心配して原因を聞いてきても、
疲れたから眠ると言って答えを先延ばしにしていた。
鳩とデニーロ以外には後でちゃんと謝ろう。
「そこまで拘るんか」
「それがアタシだから。それに、アンタに一番最初に伝えたかったし」
388:紅の道②
07/08/29 18:02:12 EFhAjhaQ0
そりゃあアタシも最初は戸惑ったわ。
けど、それ以上に嬉しかった。
だって、アンタとの間にできた命だから。
アンタも喜んでくれると確信してる。
「お前、間違ってんぞ」
「え……?」
「さっき言ってくれた方が、みんなで一斉に喜べてより雅だったろ?
何より、俺がもっと早く聞けた」
そう言って、微笑んでくれた。
本当に喜んでくれてるのはわかる。
でも、同時にどっかで苦しんでいるのもわかった――。
そんなこんなで開かれた祝いの宴。
森羅様たちに色々と名前の提案を頂いたけど、こればっかりは産まれてからでないとね。
「くるっくー。叔母さんになるんですね、私」
デニーロに打ち勝ったところで鳩が話しかけてきたけど、適当にあしらおう。
「そうなるわな」
「ところで、他愛ない話をおひとつ。女の人が妊娠してる時って、
男性は浮気しやすいんですよ。知ってましたかー? 知らないですよねー」
「何が言いてぇんだよ!」
「憐れですねー、惨めですねー、可哀想ですねー」
「やかましいわ!!」
マジで腹が立つわ、コンチクショウ。
レンはアホゥだから、そんな事しないっての。
今だって夢っちやナトセと話してて、姉の悪行に気づいてないし。
「よせんか、お前達。宴でいらん騒ぎを起こすのは無粋だぞ。デニーロとの一件もそうだ」
「た、大佐…すみません」
「すみませんでした。ベニちゃんもこの通り反省してますから勘弁してあげてください」
「鳩……テ、テ、テメェ……」
いかんいかん、ストレス溜めると子供に良くないっていうし。
後でハルをいじめてスカッとしよう。
とばっちりだけど、ウチの子の為だから光栄に思いなさい。
389:紅の道③
07/08/29 18:06:00 EFhAjhaQ0
「まあ飲め」
大佐と話していたら、森羅様が不意にビンを差し出してきた。
レンはさっきの報復とばかりに理不尽ないちゃもんをつけるデニーロに絡まれながら、
ミューさんたちと盛り上がっている。
「あの、森羅様。お酒はちょっと……」
「わかっているさ。これはジュースだ」
「それなら喜んで頂戴します」
グラスに注がれたジュースは口当たりが良く、喉を滑らかに滑っていく。
「しばらくお前と酒を交わせないのが残念でならん。まあ、その分レンに頑張ってもらおう」
「……エールを送っておきます」
「ところで明日の確認だが、今日来日した我が師が川神市のコンサートで指揮する」
そうだった。ピロシキ大好きという爺さんを空港まで迎えに行く予定だったのを、わざわざ
中止してまでこの宴を開いてくださってたんだ。
打ち合わせとか色々あった筈なのに……。
『コンサトート大成功の前祝いも兼ねるから丁度いい』
そう自信たっぷりに笑ってくださっていたけど、本当にありがとうございます。
「私も第二部で指揮を執るから大佐も連れて行くつもりだ。ハルも恒例のセミナーだし、
その分家が手薄になってしまうが……」
「小僧がおりますから大丈夫でしょう」
「ふふ、大佐も随分とレンを買うようになった」
「そうでなくては、この先困りますからな」
「確かに。大黒柱は屈強でなくては。なぁ、ベニよ」
「ええ、まあ…」
レン、さっきの愛想笑いといいどうも昨日から様子がおかしい。
あんな大根演技で隠してるつもりかしら。
具合悪いって訳じゃないんだろうけど、思いつめたみたいで。
一体何をそんなにウジウジしてんのよ。
アタシにも言えないのか。話せないのか。
もし心配かけないようにしてるんなら大間違い。
アンタが相手なら心配しないより心配する方が断然マシだわ。
何を抱え込んでるか知んないけどさ、相談しなさいっての。
390:紅の道④
07/08/29 18:10:03 EFhAjhaQ0
「それはお前にも言えるだろう、ベニ」
「はい?」
「思ってる事が丸わかりだ、レン共々腹芸のできん奴め。だがそれがいい」
「…別にご相談する程の事でもないと思ってたんですけどね」
「お前にとってもたいした事ではないだろうがな。私の目は節穴ではないぞ」
流石は森羅様、ご慧眼恐れ入ります。
「案ずるな、ベニ。お前はお前のままでいい」
「と、仰りますと?」
「それが、お前の悩みにとって最善の策という事だ。そのままでいけ。だが、レンに正面きって
告げるべきだろう。全てを分かち合うのが恋人……いや、家族だからな。どんな悩みでも
包み隠さず話し合え」
その時、ミューさんがチラリとこっちを意味深に見てきた。
すぐに顔を戻して誤魔化していたけど。
「それだけだ。ベニはベニのままでいろ、それがお前だけの雅だ。仮面を被るのは許さん」
「森羅様……」
「そうだ、それがいい。それが一番だ」
大佐も頷く。
「ベニにベニだけの雅があるように、私にも私の……久遠寺森羅だけの音色がある。
明日はそれをもって、これまでの私のイメージを粉砕して大喝采を浴びてやるさ。
何人たりども否定などさせん」
「流石です、森羅様ぁ」
だけど、大佐が神妙な顔つきで森羅様を見てる。
それに対してか、森羅様は不敵に微笑んだ。
「別に気負ってなどいない……ただ、何も知らず、何も期待せず。それでいて私を
奮い立たせてくれる者がいるだけだ。産まれた暁には偉大な久遠寺森羅を
見せてやろう、と。それが楽しみでならんのさ」
そっと、アタシのお腹に手を触れて。
「新たなる私の第一歩を麗羅(れいら)に捧げよう」
もうその名前で完全に決定ですか。
391:紅の道⑤
07/08/29 18:14:09 EFhAjhaQ0
宴会が終わってみんなが部屋に戻った後もアタシはナトセとアタシ本来の部屋で一緒だった。
「ベニ、さっきまで元気なかったけど何を悩んでたの?」
ベッドの上で恒例の膝枕をしながら、ナトセが言ってくる。
「アンタまでお見通しってか。悩みって程じゃないけどさ……アタシゃ、子育ての事なんて
よくわかんないからね。なんつーか、子供にどういう事したらいいのか…」
両親は早くに死んだから顔も愛情も憶えてない(そもそも、愛なんてあったか微妙だし)
叔父と叔母はアタシを引き取ってすぐに売り飛ばしてくれたし。
働かされてた店の亭主だって、親代わりというには論外すぎる。
「普段どおり接してあげればいいと思うな。素のままのベニが一番いいって、
レン君も言ってくれたんでしょ?」
以前、馴れ初めを白状させられてしまった時の話を引っ張り出された。
さっきも森羅様に言われたし。あの時は酒も手伝ってちょとノロケてしまったと今でも反省してる。
『レンの奴も随分と味な事を言う。だが、真理か』
そう呟いて、森羅様は何故か自嘲気味に笑っていたけど。
「赤ちゃんも同じだよ。必要なのは、飾らないお父さんとお母さんの愛情だけ」
「養育費も必要じゃない?」
「ま、まぁ、それもそうだけどね」
「でも、言いたい事は…何となくわかる気がするわ」
レンを引き合いに出されたら、納得するしかないじゃない。
「大丈夫、ベニはきっといいお母さんになるよ」
「根拠ないなー。ま、努力はするけど」
「ファイトだよ、ベニ」
ナトセがお腹に顔を密着させてくる。
「ちょっと。まだ聞こえないわよ」
「うん。でも…少しこうさせて」
弟が母のお腹にいた時もこうしたと、淋しく笑った。
「大事にしてあげてね。守ってあげてね、ベニ……私は………守れなかったから……」
搾り出すような小さな声。
膝に垂れた水滴は、左目だけからこぼれた涙。
それが、どれだけ重い意味を持つかアタシは知ってる。
でも、だからこそ言ってやらないと。
392:名無しさん@初回限定
07/08/29 18:16:10 ehrRyTy50
393:紅の道⑥
07/08/29 18:19:23 EFhAjhaQ0
「はっ、何言ってんの。ナトセ、アンタ神様? 主人公補正かかったスーパーヒーロー?」
「……違うよ…」
「でしょ? そんなら、アンタにできる事なんてたかが知れてるでしょうが」
「でも、私は守り……たかった…」
「アンタ、クソ真面目な上に……優しすぎんのよ」
優しすぎて、自分で自分の傷が癒えるのを許さない程に。
「今すぐは無理でもさ…アンタもいい加減自分を赦してやんなさい。でないと、
あの世なんてもんがあるならアンタの家族いつまでたってもそっちで悲しんでるでしょうね。
アタシも夢っちも、久遠寺のみんなも…鳩の奴はどうか知らんけど。アンタのそんな姿見るのは
正直、悲しいわ。わかる? アンタがアタシらを悲しませてんのよ」
「私の……せい…?」
「そうよ、アンタのせい。だから責任取んなさい」
涙でグシャグシャになってる顔を、上から真っ直ぐ覗いて。
「大事な奴を守りたい、今度こそ守るって言うなら…アタシらをそんな悲しみから守ってみせて」
目を見開くナトセに、一気に畳み掛ける。拒否させない為に。
「アンタはただ、いつもみたいにドジしまくって飯食いまくって花の手入れとかして
夢っちと仲良くしてればそれでいいの。それで、この子可愛がってくれれば言う事ないわ」
「ベニ……」
「まだ男か女かもわかんないけどさ、アンタさえその気があるなら……姉貴分になってやって」
「……いいの…こんな……私で……?」
「今だって、アンタはアタシの子供みたいなもんでしょーが。躾にてこずるったらありゃしない」
自分で言って初めて気づいた。
そっか、ナトセで予行練習できてたんだ。なら、この調子でいいのかも。
「アンタの家族にダブらせるのはご法度。この子はこの子として、よ?鳩みたいな姉も却下。
あとは、変に一途にならないで思いつめない事。この条件さえ守れるなら、
いくらだって可愛がってやって。甘やかさない程度にね」
そう言って、咽び泣くナトセをかき抱いてやる。
「ったく、辛気臭い話は嫌いだってのに。腹の前でメソメソ泣かれると、この子まで泣き虫になるでしょ」
「……ごめんね…ベニ……」
「次謝ったら、一週間おやつ抜くわよ」
「…それは……やだなぁ…」
394:名無しさん@初回限定
07/08/29 18:22:00 ehrRyTy50
395:紅の道⑦
07/08/29 18:23:38 EFhAjhaQ0
自室に戻った未有はベッドの上に転がりながら瞼を閉じてIQをフル稼動させていた。
やがて、意を決したように起き上がり。
「デニーロ、この近辺で明日開いている病院をリストアップして」
わざわざパソコンを立ち上げるよりも、今回はデニーロを使った方が速い。
という理由もあるが、本当は誰かに聞いて欲しいというのが大部分を占めていた。
「おう、どうしたよ」
「明日……行くわ。前々から動悸が頻発するの。この私の並外れた知性で
原因は大体わかっているけれど、どんな結果でも姉さんたちには必ず報告する。
家族なら、包み隠さず相談するべきらしいから」
そう言って、苦笑した。
「そうか、ようやく決心したか。遅すぎるぜー」
「……気づいていたの?」
「俺様を誰だと思ってんだ、バレバレだっつーの。でも、きっと俺様だけじゃねぇぞ」
「…少なくても、夢とナトセとハルは真っ先に消去法で除外していいわね。有力候補は美鳩かしら」
「だろうなぁ。他の連中は鈍すぎるもんなぁ」
「でもベニには余計な心配かけたくないわ。今が最も大事な時期だし」
「そりゃそうだけどよぉ。あいつだって、『余計』だなんて思ったりしねーよ」
「確かにそうだけれど。レンとベニと、あの子の……おかげだから」
朱子が妊娠したと知らされた時、遠い記憶が甦った。
まだ夢が母親のお腹にいる頃、森羅と共に期待に胸を躍らせていた日々。
来る日も来る日も待ち望み、そして遂に産まれた時の嬉しさ。
あの時と同じ高鳴りが今回も湧いてきた。
温かく、優しく、微笑ましく、幸せな気持ちが。
そこで思った。
一旦生まれてしまえば後は永遠に生き続けるような不死生命体なら、自分はあれほど喜んだろうか。
今も、これほど夢を愛しいと思っているだろうか。
錬と朱子、そして他のみんなもあれほど祝福するだろうか。
今度もまた胸が高鳴りを感じただろうか。
答えは限りなくノーに近い。
いつか別離が来るからこそ、生物は愛する者をより愛しく想い、大切にするのだろう。
それが限られた命の代償なら、決して悪くないのかもしれない。
命には、限りがあっていいのだ。
396:紅の道⑧
07/08/29 18:27:34 EFhAjhaQ0
ただ、果てしなく永遠に続いていくものも確かに存在する。
それは、誰かを愛した人から愛された人へ延々と継承されていく記憶。
誰かを愛する事をやめない限り無限に語り継がれていく、楽しかった思い出。
自分の夢は、その一片になるような場所だ。
なのに、いつか訪れる別れで悲しみたくなかった。
もう誰も失いたくないと思う事は当然だが、その為に
理想を無機質な機械に委ねて楽になろうとしていた。
愚かだったかもしれない。
死を否定するなら、生きる事も否定するというのに。
それのどこが永遠の『命』だと言えるだろう。
「……麒麟アダルトともあろう私にあるまじき失態だわ」
「お前もまだまだガキだからなぁ」
「何ですってこの無礼者!」
「いいじゃねーか、これからまだまだ成長できるって事だろ? 俺様はどこまでもついてってやるぜ」
「デニーロ………ありがとう」
「へっ、よせやい。礼ならあいつらのガキに、産まれた時言ってやれよ。お前があんまり意固地
になるようだったら、俺様がカラダ張ってお前の過ちを正さなきゃならなくなるトコだったんだからな」
「何を言ってるのやら。でも…まだ100パーセント納得できた訳じゃないの。まだ…怖いわ……」
「ある程度は普通だけどな。難しく考えんなよ、お前ならちょっと頑張ればすぐ治っちまう。
余計な事考えすぎんのは頭脳派キャラの悪いクセだぜ」
「だといいけれど。今からでも…治ってからでも……夢を叶えられると思う?」
「大丈夫だぜ。あいつらのガキが希望をくれる、お前もちゃんとそれに応えられる。
なんたってお前は未有――名前どおり、未来が有るんだからな」
機械に心が宿るかどうかは誰にもわからない。
どれだけ感動的な台詞を発しても、所詮はインプットされたプログラムの一環かもしれない。
だがこの時だけは、まるで心からの言葉だった。
ナトセが泣きつかれて眠るまで付き添ってやってたら、部屋に戻った時レンはもう寝てた。
ドジったなぁ、ナトセほっぽっとくべきだったかも(そんな事しないけどね)。
まあ、いいか。明日がある。
アンタの悩みくらいアタシが聞いてやるから、だからアンタもアタシの悩み聞いてよね。
微笑んで、頬にキスしてアタシも一緒に眠りについた。
397:名無しさん@初回限定
07/08/29 18:27:38 ehrRyTy50
398:紅の道⑨
07/08/29 18:28:27 EFhAjhaQ0
頬に何か温かい感覚が広がる。
起きなさいよ。
目ぇ覚ましなさい。
本能がそう告げる。
同時に、この温もりの正体も。
「…レン……?」
うっすらと目を開け、身体を起こす。
時計を確認したら、習慣になってる起床時間よりずっと早い。
ぼんやりと曇った視界のどこを探しても、彼の姿は部屋のどこにもなかった。
トイレにでも行ったんだと勝手に解釈して、もう一度眠る。
そうした事を、アタシは数時間後に猛烈に後悔した。
「おい、鳩! レンはどうしたの!?」
レンがどこかに出かけた事に気づいても、大声を出すと森羅様たちを
起こしてしまうから朝礼まで待たなきゃいけなかった。
その分、鳩に一気に詰め寄る。
「こら、朱子。朝から何だ」
「でも、大佐……レンがどこにもいないんです」
「小僧なら急遽休みを取ったそうだ。聞いとらんのか?」
何にも聞いちゃいない。
黙ってどっかに行く。アタシはその程度の存在だったの?
「じゃあ、どこに…」
「残念ですが、私は全く知りません。くるっくー」
こいつ絶対知ってんな。
「知らなくても言って貰わなきゃ困んのよ」
「ベニちゃんに愛想尽かして出て行ってしまったんじゃないでしょうか?」
「あぁ!? 吐けよ、オラ!!」
「いい加減にせんか、朱子!」
「くっ……」
大佐に言われちゃ仕方ない。
この場は引き下がるけど、憶えとけよ鳩。
399:紅の道⑩
07/08/29 18:32:20 EFhAjhaQ0
朝礼が終わってすぐ、アタシは鳩を廊下に引き止めた。
「レンちゃんがどこに行ったのであれ、レンちゃんを信じて待っててあげるべきなんじゃないですか?
それができないなんて、恋人として最低ですよー?」
「……アタシは最低…か。そうかもね……」
レンが悩んでるのを知りながら、気づいた時に聞かないで放置してしまってたから。
「ええっ!? 今頃気づいたんですか!?」
わざとらしくオーバーリアクションしやがって、いちいち癇に障る奴。
「まあ、ベニちゃんの場合ちょっぴり最低なだけですよー。お父さんみたいな本当に
最低な人は、自分を最低だなんて思ったりもしませんから」
アンタらの父親ってよっぽどクズなのね。
「大体、ベニちゃんが最低なのは今に始まった事じゃありませんからねー。私からすれば
レンちゃんを奪っただけでは飽き足らず、レンちゃんを凌辱して妊娠までした極悪非道な
アバズレですから。今更落ち込む事じゃありません」
「………慰めてんのかよ、それ」
「いいえ、追い討ちをかけてるだけですよ。くるっくー♪ さらに、このゴミをベニちゃんに進呈しますね」
「鳩、これって…」
渡された一枚の紙切れには、駅の名前だの行き方だの住所まで丁寧に書き記してあった。
鳩の筆跡だから、レンが鳩に行き先を教えておこうと渡した奴でもなさそう。
「はっ…随分と用意がいいじゃない。全部計算の内かい」
「何の事でしょうか? 弟が急に里帰りしたいと言った時に道を忘れないよう毎日書き綴っていた
メモですよー。もう思い出したので必要ありませんから」
って事は、これはレンと鳩の故郷か。
ただの里帰りだとしても、アタシに一言くらい言えっての。
いや、そうじゃないから黙って行ったのか。
「あのアホゥ…グズグズしてらんないわ」
「今から行くんですか?」
「生憎、アタシはただ待ってるだけの女じゃないの。帰りを待つどころか、追い越して先回りしてやるわ!」
時間的にそれは無理だけど、これくらいの気合でなくっちゃね。
「森羅様ー!! いきなり申し訳ありません、お休みください!」
主のもとへ大急ぎで駆けていく朱子の後姿を、美鳩は黙って見つめていた。
「そんなベニちゃんですから……………レンは惹かれたのね」
400:紅の道⑪
07/08/29 18:36:05 EFhAjhaQ0
何とか森羅様を説得し、出発してから数時間。
乗客も殆どいなくなる程のド田舎に差し掛かっていた。
自然豊かな風景は最初こそ新鮮だったけど、そろそろ飽きてくる。
そんな時――。
「I CAN NOT SPEAK ENGLISH。だから日本語で失礼しますよ」
いきなり声をかけられた。
っていうか、イントネーションかなり歪だし。
「お一人でご旅行ですか?」
「まあ…そんなもん。で、アンタ誰よ? 何の用?」
「良かったー、日本語通じるみたい。やったぜ」
眼鏡をかけた猿みたいな奴だった。
ヘラヘラと笑う姿が滑稽極まりなく、ピエロ以外に存在意義が見出せない。
「ご一緒してもいいですか? いいですよね。いやー、空気が新鮮で美味しいですねー。
きっとあなたはもっと美味し……いや、綺麗な景色はホント心洗われますよ、うん。
知ってました? 遠くの緑を見ると視力が良くなるらしいんですよ、水平線とか星もそうらしいです」
うるせーな、このメガネザル。
大体テメェ、何でこんな馴れ馴れしいんだよ。
下心も丸見えだから余計イラつく。
「ナンパならお断り。アタシ、彼氏もいるし妊娠もしてるし。他当たって」
「えーっ!? に、妊娠中……」
「そうよ」
「チキショー、何てこった。こ…この…この俺が…まさか……み…見誤る事になるとは…
あれ? でも待てよ。妊娠中って事は……すなわち然るべきプロセスを経ている…
おお、想像だ!! 想像するんだ新一! …ハァハァハァハァ……」
駄目だ。この生物は脳幹まで腐りきってやがる。
一体保健所は何やってんの。
これ以上関わったら、お腹の子が妙な病気に感染しそうな気がする。
「キモいんだよ! 消え失せろ、エテ吉!!」
「ひぃっ! ご、ご、ご、ごめんなさいいいいい」
ちょっと睨んでやったら急にブルブル震えだした。
「うわあああああああん!! お姉ちゃん、やめてよう! 日焼けした背中をタワシで擦るなんてひどいよう!!」
本当に、何なんだこいつは……。
401:紅の道⑫
07/08/29 18:40:40 EFhAjhaQ0
「ん? おーい、フカヒレ。ここにいたんか、何やってんだ?」
車両間のドアを開いて、今度はチビが現れた。
中華料理の高級食材が何なんだと思ったけど、どうやらメガネザルのあだ名らしい。
「お? この果汁みてーにベタつくオーラは……コラ、そこのネーチャン」
チビがガンつけてきた。
「ボクの連れが何やら世話になったようですねー。ここは一つ、友人として仇を取らせて貰いますよ」
「はぁ? 何言ってんだオメー」
「オラ、邪魔だ。どけや!」
アタシの問いかけを無視して、通路で震えていたメガネザルを容赦なく蹴り飛ばした。
何が友人だよ、聞いて呆れるわ。
「さーて。邪魔な障害物はなくなったし、これで思う存分血祭りにできるね。
客もいないから目撃者も気にする必要ないし、運搬材だぜー」
シャドーボクシングのように両手を交互に素早く入れ替えて威嚇してきた。
でも、本人がちんちくりんなんであんまり迫力はない。
ってか、運搬材って何よ。万々歳じゃないんかい。
こんなチビにナメられんのは我慢できないけど、腹の子に万が一があったらいけないし。
「あのねぇ、ジャリンコちゃん。アタシはアンタに戦りあう気はこれっぽっちもないの」
「そっちには無くてもこっちにはあるもんね! 実はフカヒレの敵討ちなんて別にどうでもいいんだけどさ。
ただ、オメーが気に喰わないからボコボコにしてやんよ!! 恨むんなら、ココナッツを恨みな!!
椰子の実がどうしたってんだ、この馬鹿が。
マジいっぺんシメてやる。
って、これじゃいけないわ。
我慢我慢、森羅様の器の大きさを学ぶって決めたんだから。
「器も胸も背もちっちゃいアンタなんか相手にするだけ無駄だっての」
元気があってやんちゃね。
「――ぬわぁにいいいい!!」
「あ! 思考と台詞が逆に!!」
「この毛唐めが!! ボクを……ボクを本気で怒らせたな、ドチクショー!!
楽に死ねると思うなよ! 殺してやる! 絶対殺してやる! 百回殺してやるー!!」
完全にキレやがった。
ブンブンと腕を回して飛び掛ってくる。
子供だけは絶対に守ろうと、アタシは何よりも先に腹をガードした。
402:名無しさん@初回限定
07/08/29 18:40:53 0HMMLO5x0
403:名無しさん@初回限定
07/08/29 18:44:21 EFhAjhaQ0
『紅の道』、訳あって続きは数時間後(夜10時くらいかな)に更新します。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、以前投稿した『Da Noi』との相互補完小説です。
404:名無しさん@初回限定
07/08/29 18:48:21 FIgCkPX50
乙。だが散漫。
405:名無しさん@初回限定
07/08/29 19:05:25 E8j1hPGi0
全員出したいがために寄り道しすぎなんだろうな。
鳩とベニのやりとりだけで充分。
406:紅の道⑬
07/08/29 22:14:02 EFhAjhaQ0
「「やめろって!!」」
颯爽と躍り出てきた二人組が跳躍したチビを確保する。
おかげで、チビの指一本アタシには触れなかった。
「車内での暴力行為は厳禁だぞ、カニチャーハン」
「旅行にまで来て何やってんだ。フカヒレも」
二人のうち、赤毛の方は結構ルックス良かった(レンには遥かに及ばないけど)。
もう一人はパッと見、頼りなさそうで冴えない奴。
でも、心の奥底には熱い炎を滾らせてる感じがした。
「離せー、バーロー!! こいつ、何でだかココナッツと同じ感じがしてムカツクんだよー!!」
「何言ってんだ…どうもすんません、ご迷惑おかけました」
「こいつの狼藉はどうか水に流してやってください。ビスケット差し上げますから」
「いや、渡されても困るんだけど」
でも、妊娠中はやたらと腹が減るし貰っておいた。
「ボクが悪いのかよ!?」
「だってそうだろ」
「おい、甦れフカヒレ」
冴えない方が転がっていたメガネザルを起こすと、メガネザルもようやく現実の世界に帰還したらしい。
チビを押さえつけたまま、二人はメガネザルから事情を聞いていた。
一通り事情聴取が終わると、二人は一転して険しい顔でチビに何か話し始める。
頭ごなしに怒鳴るんじゃないあたり、まるで親子みたいだった。
だけど、保護者ならちゃんと鎖に繋いどけよ。
最初はふてぶてしい態度を取っていたチビだけど、やがて驚いた顔になってから罰が悪そうに変わっていく。
「うう…」
ようやく解放された途端、チビはトコトコとこっちに歩いてくる。
「何よ? 今度はさっきみたいにはいかないわよ」
「…………赤ん坊いるのに…ボクが悪かったよ…」
それだけポツリと呟くと、チビはダッシュでドアへ走り出す。
「負けてない、負けてないもんね!」
チビの捨てゼリフに続いて、3人もこの車両から出て行った。
ホント、嵐のようにやってきて嵐のように去っていった連中。
ま、少しは気分転換できたしそこは感謝しとこう。
悪さしたガキを諭すように叱る姿も、参考程度にはなったし。
407:名無しさん@初回限定
07/08/29 22:16:21 Yu8hUTmC0
>>403 カモーン
408:紅の道⑭
07/08/29 22:18:13 EFhAjhaQ0
ここがレンの生まれた町、ね。
改札を出た所に設置されたベンチに座り、空を見上げて一息つく。
ここで待機しておこう。
長時間電車に揺られて疲れたってのもあるけど、今から紙に書かれた住所の家を探すには
時間がかかるだろうから待ち伏せ方が効率いい。
だって、レンは必ず帰ってくるから――。
案の定、それから一時間もしないうちにレンはのこのこやって来た。
おお、妙にスッキリした顔つきになってんじゃん。
それは喜ばしいけど、そう簡単には気が収まらない。
手始めにチョップ食らわせてやろう。
どうにかして言葉を紡ぎ出そうとしてるレンに向かって、アタシは駆け寄っていった。
東京行きの電車の中で、アタシはレンから全てを聞かされた。
逆にアタシも小さな不安を洗いざらいぶちまけたし、これでおあいこね。
「最初はどうしていいかわかんなくて当たり前だろ? 苦労して、困って、悩んで、そうやって
勉強していけばいいさ。そうするうちに上手くなれるって。お前は努力家だから尚更」
そこまで言われると、何でもできる気になるじゃない。
アンタに惚れてホントに良かったわ。
「俺も手伝うし、二人で頑張ろうな。だから、結婚してくれ。全てを賭けて幸せにするから」
「――!!」
「考えてみれば、まだ言ってなかったから」
悪戯っぽく笑うから、胸がキュンするじゃない。
「実はここ、俺と鳩ねぇが七浜に向かう時座ってた席なんだわ。配置も全く同じ。
これ、俺なりに考えた雅なプロポーズ」
道理で、ここに座ろうぜとかお前はそっちに座れとか細かく指示してきた訳だわ。
「最初の時は俺と鳩ねぇだった。今日までの出発点みてぇなもんかな? それを、
今度はお前と子供と一緒で…うまく言えねぇけど…なんつーか……その…」
「アンタはアホゥなんだからさ、無理して言わなくったっていいわよ」
余計な続きを言わせないようキスして口を塞いでやる。
それが、アタシなりの雅な返事だった。
409:紅の道⑮
07/08/29 22:22:18 EFhAjhaQ0
「お姉ちゃんレーダーが感知しましたー。二人とも、もうすぐ帰ってきますよ」
「よくわかるわね」
「しかも、レンちゃんがプロポーズしたようです。くるっくー……まあ、結婚式というのは
新郎新婦どちらかが強奪されるものと決まってますから。チャンス到来ですー」
「やめておきなさい」
めっ、と未有が美鳩を諌める。威厳はあまりなかったが。
「私は外で待ってやろう。今日のコンサート大成功を麗羅に早く教えてやりたいからな」
「じゃあ、みんなで行こうよー。夢が先陣を切るね。えへへ」
恍惚に酔いしれる夢に引率されて、ぞろぞろと玄関の方へ向かう。
なお、夢のささやかな栄光は家の前に着くまでの儚いものだった。
広大な海を見渡す丘の上に、小さな教会が建っていた。
割と狭い礼拝堂には正装に身を包んだ久遠寺家の面々だけではなく揚羽と小十郎・
アナスタシアや圭子の姿もあり、賑やかなムードに満ちている。
その中央で、着慣れないタキシードに身を包んだレンは肩を鳴らす。
そんな様子さえ、感慨深げに目を細めて。
「正直、お前と朱子がこうなるとは思っていなかったぞ」
「俺だってそうさ。あんだけ仲悪かったしなぁ…まあ、いい思い出だぜ」
「ふっ、もう小僧とは呼べんな。幸せにしてやれよ、全身全霊でだ」
「望む所さ………オヤジ」
「――ほう」
「まぁ、その…アンタはベニの父親みてぇなもんだからな。そうなると、義理の父親って事になるしよ」
照れくさそうに頬をかいて視線を逸らす錬に、大佐はヒゲを整えうっすらと微笑んだ。
新婦側控え室と紙が張られた部屋で、アタシはウェディングドレスを身にまとった。
レンタルだけど、まるでアタシの魂を象徴するかのように白くて眩しい。
あの路地裏から、いつか必ずと誓っていたものの一つ。
それが、ようやく実現する――そう思うと、何だか急に緊張してきた。
緊張を解きほぐそうと、着付けを手伝ってくれた鳩に語りかける。
「おい鳩、これからは……義姉さんって呼んだ方がいいの?」
「願い下げですー。私を姉扱いしていいのはレンちゃんだけですから」
「はっ、そう言ってくれてこっちも助かるわ。アタシもアンタを義姉さんなんて呼びたくもないし」
410:紅の道⑯
07/08/29 22:26:10 EFhAjhaQ0
軽口を叩きながら、壁の鏡に向かって細部をチェックする。
背中のチャックはちゃんと上がってるか、とか。
刺繍がほつれたり糸が飛び出てないか、とか。
髪につけたベールのブーケが曲がってないか、とか。
とにかく念入りに確認しまくる。
もしどっか抜けてたら、大恥かいて雅どころじゃないし。
「よし、これでオッケー。我ながら惚れ惚れするわ。まさに雅よねー」
「中々ですー。でも、少し彩りが悪いかもしれません」
「え? そう?」
「はい。ベニちゃんのイメージカラーは赤ですし、純白なんて似合いません。
そのウェディングドレス、真紅に染めてあげたくなります」
「どういう意味だ、コラ! アタシの血でかよ!!」
やっぱ、こいつとは相容れないわ。
そう思った時、扉がノックされた。
静かに開いたかと思うと、ナトセが顔を覗かせてくる。
「そろそろ時間だよ――うわっ、とっても綺麗だよベニ!」
「あったりまえでしょ?……ありがと」
廊下をある程度進んだ所で、大佐が待っていた。
「ふむ…美しいぞ、朱子。今回ばかりはスペシャルな私にも匹敵するな」
「ありがとうございます、大佐」
これは二つの意味がある。
綺麗だって褒められた事もそうだけど、もう一つ。
もしも、大佐に拾って貰えなかったら。
もしも、あの時違う男に声をかけていたら。
今頃どんな暮らしを送っていたのかわかんない。
何より、レンに出逢えなかったから――。
「いい顔だ。おめでとう」
優しい瞳と微笑みに思わず言葉が詰まる。
初めて出逢った時、『人殺しの顔』なんて言ってホントすみませんでした。
「では、行くか」
「はい!」
411:紅の道⑰
07/08/29 22:30:25 EFhAjhaQ0
真紅のバージンロードを一歩づつ、大佐と足並みを揃えてしっかりと歩いていく。
行き先は聖壇の前。
誰よりも何よりも大切な奴が待っている場所。
目的地まで辿り着くと、大佐は参列席へと戻っていった。
残ったアタシは、レンと揃って神父の前に並び立つ。
因みに、神父役は夢っち。
予算ケチったんじゃなくて、本人が立候補したからだけど。
「何かよくわかんないけど、別世界でも夢はレン君の結婚式じゃそうする気がするんだ」
と、これまた訳わかんない理由を言っていた。
まぁいいか。夢っちの妄想は今に始まった事じゃないし。
「えーっと、ちょいてきとーだけど。ベニさんはこのものを夫とし、健やかなる時も、病める時も、
変わらぬ愛を誓いますか?」
レンと一緒に、お互いを見つめ合う。
弾む心をそのまま声にして。
「勿論、誓うわよ!」
確かにかなり緊張したけど。
それ以上に、幸せで顔がとろけそうになった。
「レン君。その健やかなる時も病める時もこれを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、
その命の限りこれを守らん事を誓いますか?」
期待と不安がごちゃ混ぜになる。
そんなアタシに、レンは一瞬だけしっかりと微笑んできて。
「はい、誓います」
まるでオリンピックの選手宣誓みたいに高らかで力強い声だった。
「じゃあね、えーっと…その……誓いの口づけを…きゃー」
神父役が照れてどうすんだか。
「んじゃ、やるか」
レンの目がアタシの瞳を覗き込んでくる。
「ったく…もうちっと雅な言い回ししなさいよね」
少し背伸びして、レンの唇に自分の唇を強く押しつけた。
もう何度目のキスかなんてわかんないけど。
今までしてきたどのキスよりも最高な気がした。
412:紅の道⑱
07/08/29 22:34:26 EFhAjhaQ0
唇を離すと、参列席から拍手の雨が降ってきた。
進行上、夢っちもやや遅れて拍手してくる。
森羅様・大佐・ミューさん・ナトセ・鳩・デニーロ・夢っち・ハル・夢っちの友人一同。
みんなそれぞれなりの笑顔で祝福してくれてる。
「それでは、そろそろ景気づけに鳩を飛ばしょうか。くるっくー♪」
鳩が手品の要領で眷属を出そうとした。
「美鳩、迷信だけど鳥を室内で放すと不幸を招くと言われてるわよ」
「勿論知ってます」
「鳩、テメェ嫌がらせかよ!!」
「こらこら。雅に行こうぜ、おい」
「うっ…しまった」
途端に、有無を言わせない強引さでアタシを抱きかかえる。
「……アタシのガラじゃないと思うんだけど」
「そうか? 結構サマになってると思うけどな。俺がそう思うだけじゃ…駄目か?」
憂いを帯びた眼差し(大根演技だけど)で見つめてくる。
卑怯者め、そんな顔されたらアタシは……。
「それに、お前は軽いから案外楽だし」
「暴露すんな!でも、まぁ……」
「ん?」
「悪かないわ。雅だし、幸せだし」
ベルの荘厳な音色が鳴り響く小さな教会。
身内やごく少数の知り合いだけが参列する、ささやかな結婚式。
だけど、ここは世界で一番雅な空間。
今日は、世界で一番雅な日――。
扉の向うの陽光を目指し、錬と朱子はまるで今後を象徴するようなバージンロードを辿っていく。
人生とは紅の道。
幸せを掴むには、時には心が傷だらけになって血まみれになるような事も多々あるだろう。
希望を見出した森羅・南斗星・未有たちにも、まだまだ困難が待ち受けているに違いない。
それでも、この二人――いや、三人なら。
そして森羅たちも、やがて産まれてくる小さな命がいればきっと……。
413:名無しさん@初回限定
07/08/29 22:41:03 EFhAjhaQ0
『紅の道』、完。
『Da Noi』においてレンが久遠寺ファミリーに救われた事はかなり描写したんで、
逆に久遠寺ファミリーの面々もレンとベニの子に救われてたという事を強調してみたんですが・・・・
ご指摘頂いた通り、相互補完を重視するあまり散漫になってしまったと反省。
今後はもっと腕を磨いて、自分なりに考えてみた揚羽様ルートを書いてみようかと思っています。
414:名無しさん@初回限定
07/08/29 22:59:38 Yu8hUTmC0
乙。
揚羽様ルートとか超難関だな。
415:名無しさん@初回限定
07/08/29 23:08:53 Dk2Uq/ls0
乙。揚羽様ルートはギャグ調で頼む。
「紅の道」「Da Noi」とシリアスだったから
416:名無しさん@初回限定
07/08/29 23:57:28 fnJ2hHMX0
乙。読み応えがあったし、面白かったよ。
ベニちゃん好きなんで幸せになって何より。
あと、揚羽様ルートは超期待してますっ!
417:君がエリカで対馬が私で
07/08/30 08:09:46 bSijYeN1O
朝、目を覚ますと対馬くんになっていた。
色々あって、目の前にはピクピクと心地よさげ?に痙攣する私がいる…今は対馬くんの意識が入っているんだけどね。
そう思うと自分とは言え、恥ずかしいやら情けないやら。
しばらく起きないだろう私(対馬くん?)を放っておいて、ゆっくりとベッドから身を起こす。
そうすると、目の前にある姿見-私が持ってきた-に自分の裸体が映る。
乙女センパイに鍛えられてるだけあって、結構マッチョだ。触れてみると固い、けどスベスベしててなかなかの触り心地。
「…むぅ。」
腹筋に力を入れると、六つに割れた。コテコテのマッチョとは違う、きれいな筋肉、対馬くん肉体ランキングではかなりの高位だ。
418:君がエリカで対馬が私で2
07/08/30 08:13:20 bSijYeN1O
「…まぁそれはそれとしても、問題はこれよね。」
そう、腹筋よりも更に下、ぶっちゃけて言えば対馬くんのアレ。
「(つーか、さっきまでコレが私のアソコに出たり入ったりしてたのよねぇ)。」
そう思いながら、後ろを見やる。そこにはようやく痙攣がおさまったものの、全身で息をしている私本来の肉体がある。
「ま、いっか。ナイトナイトスクープ…っと。」
ゆっくりと私(IN対馬くん)の足を開かせる。
せっかくの機会だから、自分のアソコを正面から見てみることにする。
「(ウーム…狭い)。」
こんなところにあんな凶器が納まる?って感じね。
419:君がエリカで対馬が私で3
07/08/30 08:17:40 bSijYeN1O
実はさっき対馬くんをイジった時も、お尻ではなくコチラをいじくりたかったのだが、加減が分からずつい?お尻に手を伸ばしてしまったのだ。
「(てか、潮?とかどっから出てきたのかしら?ここは…オシッコの穴よね)。」
そう言えば私、対馬くんとのセックスで失神する程って無いのよね…ちょっと嫉妬。
…などと色々いじくってると、ようやく対馬くんが覚醒してきたようだ。
「…う、うーん。」
「あ、起きた。」
「…な!な!何故俺の前に俺が!?」
「あら、錯乱してる。」
「は!まさかドッペルゲンガー!?俺は死ぬのか!?姫の手に入れる世界を見ないまま死ぬのか!?くそう、俺の最期は姫の上で腹上死と決めてたのにっ!!あでっ!?」
420:君がエリカで対馬が私で4
07/08/30 08:27:40 bSijYeN1O
あまりにアレなんで、自分の身体と分かりつつ、チョップをくわえる。
「勝手に死ぬなっつの。第一あなたは今私そのものなのよ?悪いけど腹上死も無理だからね。」
「痛たた…、スマン姫、ちょっと現実逃避してた。やっぱ夢じゃなかったかぁ。」
そう言って目を伏せる私(IN対馬くん)。まだ身体が本調子でないのか、頬は赤く、表情はややけだるく、憂いに含んだ顔をしてる。
なんと言うか、いたずら(性的)後のよっぴーみたいだ。
「(私でもこんな顔するんだ…)。」
よし、原因も対策も分からないけど、今は…。
「ねえ、対馬くん。」
「ん?」
「や ら な い か?」
421:君がエリカで対馬が私で5
07/08/30 08:39:52 bSijYeN1O
「嫌だ!」
む、即答。
「何でよ、せっかくのチャンスじゃない。」
「絶対に嫌だ!第一俺以外の人間が姫の身体に触るなんて、許されない!!」
「今は私が対馬くん、さぁ彼氏彼女の愛の営みを始めましょ~。」
「全然聞いてね~!?つか、その股間のソレ!!」
「何だか私(IN対馬くん)の困った顔見てたら興奮しちゃった。それにしても凄い膨張率ね、やるぅ対馬くん、この女殺しっ…いや、待てよ今は私の身体なんだから凄いのは私?」
「いや、分かんないから!つか、誉められても!…いや、ちょと、待って、初めてなのに(この身体では)、そんな…大きいの入らな…!」
「あぁっ!もう色んな意味で最高よ対馬くん!!」
「ひえっ!また大きくなったっ!!」
「くっ…もう限界!いただきまっーすっ!!」
「アーッ!?」
422:君がエリカで対馬が私で6
07/08/30 08:46:02 bSijYeN1O
その後、私は私(IN対馬くん)に7回くらい注ぎ込み、ついでにお尻の処女も頂きました。
こういった話だとヤレば戻るとかよく聞くけど、いまだに私は対馬くん。
うーん、今のところ完全に手詰まりね。
…ま、いっか。とりあえず私(IN対馬くん)を起こして学校ね。
「ホラ、おきなさい対馬く…じゃなくて姫っ!!」
今日は楽しい日になりそうだ。
423:名無しさん@初回限定
07/08/30 09:03:21 bSijYeN1O
いかがでしたでしょうか?
レオの逆襲を書こうと思いつつ、やっぱり姫でした。
次は外出編も書きたいです。後、デニーロ×家電とかも書きたいです。
424:名無しさん@初回限定
07/08/30 10:32:52 xRLu0pZF0
乙GJ
425:名無しさん@初回限定
07/08/30 16:07:30 kgkca01g0
やっぱり姫は最高だよなぁ。
426:名無しさん@初回限定
07/08/30 20:29:58 hZZodHMj0
やっぱり姫は最強だよなぁ。
GJだった、つづき楽しみに待ってるぜ!
デニーロ×家電とかマニアックだな~w
427:名無しさん@初回限定
07/09/03 03:12:41 /tgNKTk00
428:大切なお知らせ1
07/09/03 10:57:29 t99cQ52XO
彼女は常日頃からこう言っていた。
「私はクールにならなければいけない。」
だが俺には分かっていた、人が生まれ持った熱さ、それはそう簡単には変えられないものだ。
そしてこれは、そんな彼女を救うことさえ出来なかった哀れな男の話…。
彼女との初めて会ったのは、わずか1週間ほど前、暑い夏の日だった。
その日は珍しくすることがなく、朝から屋敷の中をブラブラしていた。
角を曲がると、そこには見かけない女がいた。
「…誰だ?新入りか?」
「…………。」
俺の問い掛けにそいつは答えない。
チラリと俺のほうを見ると、興味なさげに別の方向に視線を移した。
「ふん…。」
別に無視されることは慣れている。
429:大切なお知らせ2
07/09/03 10:59:57 t99cQ52XO
俺は気にせずその場を立ち去ることにした。
「…マツシマ。」
「お。」
俺が振り返ると、彼女は先程と変わらず、俺に背を向けていた。
「…そうか、マツシマか。」
「…………。」
今度は何も答えない。
だが俺は、なんとなく彼女と上手くやっていけそうな気がしていた。
次の日、俺が昨日と同じ場所に行くと、また彼女に会った。
「おはよう、マツシマ。」
「…………。」
俺の挨拶に彼女は答えない。
だが、俺は気にせず彼女の隣に腰掛ける。
「…………。」
彼女はチラリとこちらを見やると、迷惑そうな表情で顔を背けた。
俺はそれに苦笑しつつも、話を始めた。
430:大切なお知らせ3
07/09/03 11:04:17 t99cQ52XO
「昨日、俺の相棒と出かけた時な…。」
「……?」
彼女は困惑の表情を浮かべたが、俺は構わず話し続ける。
相棒の話、戦友の話、故郷の話、そして俺自身の話…、俺は思いつく限りの話をした。
彼女は当初、完全に無視を決め込んでいたが、段々とこちらの話に耳を傾けてきてくれた。
日が暮れる頃には、彼女ははっきりと俺を顔を見ながら話を聞いてくれていた。
「…そろそろ日が暮れるな、今日はこれまでだ。じゃあな、マツシマ。」
「…………。」
「また、明日な。」
「…お前は変な奴だな。」
今日、初めて彼女の声を聞いた。
431:大切なお知らせ4
07/09/03 11:15:23 t99cQ52XO
「いきなりだな。」
「ここまで無視されて、よく私に構ってくるな、とな。」
「そうか?まぁそれが俺の生まれ持っての性分だからな。」
「ふふっ、おかしな奴だな。」
「!…そ、そうかな?いや、まぁ、いいか。」
「?」
正直俺は混乱していた。
彼女が一瞬見せた微笑み、俺はその表情にすっかり心を奪われていたのだから。
翌日、彼女は自分のことを話してくれた。
彼女は自らをエリートだと言った。
そしてエリートであるが故に、彼女は戦い続けるとも言った。
その言葉には嫌味や傲慢な感はなく、彼女の純粋な気持ちが伝わってきた。
「だから私は常にクールでなくつはならないんだ。」ただ一つ、この言葉には強い違和感を感じた。
432:大切なお知らせ5
07/09/03 11:26:39 t99cQ52XO
翌日、彼女の様子が少しおかしかった。
話をしていると、突然悲しそうな顔をする。
理由を尋ねても答えない、ただ悲しそうに首を振り、
「大丈夫、私はクールだから。」
と、言い続けた。
俺は彼女の真意が汲み取れず、ひたすらに困った顔をするしかなかった。
翌日、彼女は目に見えておかしくなっていた。部屋の隅で滝のような汗を流しながら震えていた。
「お、おい大丈夫かっ!?」
慌てて駆け寄り、彼女を抱き寄せる。
「熱っ!?」
あまりの熱さに、とっさに身を離す。
「はぁ…、はぁ…、ご、ごめんなさい、私…、身体が…、大丈夫だからっ。」
彼女は苦しそうに、だが精一杯の声で答えた。
「…俺は大丈夫だ。とにかく助けを呼んでくる!絶対に無理はするなっ!!」
「…う、うん。」
その後、彼女は処置を受けた。
だが、彼女の身体は一向に良くならなかった。
433:名無しさん@初回限定
07/09/03 11:57:56 MzrEIE2n0
支援
434:名無しさん@初回限定
07/09/03 12:00:25 MzrEIE2n0
あ、sage進行でよろすく
435:大切なお知らせ6
07/09/03 12:01:52 t99cQ52XO
俺はどうすることもできず、ほとんど動かなくなった彼女の前で涙を流すことしか出来なかった。
「…泣かないで、私は、もう大丈夫だから、ね?」
「…すまん。」
「…私、前にいったよね?クールになりたいって。でも、全然クールじゃなかったね…?」
「でも、俺は、俺は…っ。」
「ううん…、いいの…。それが私達の運命だから…でもね。」
「…?」
「…あなたとは、もっといっしょに…、いたかった…。」
彼女はそれきり、二度と動く事はなかった。
436:大切なお知らせ7
07/09/03 12:18:29 t99cQ52XO
翌週、久遠寺家食堂にて。
ミューさんのお使いを済ました俺は、ここに来ていた。
「あれベニ?先週買った冷蔵庫は?」
「あ、下男。実はあれ不良品で全然冷えなかったのよ、頭きたから送り返してやったわ!」
「ああ、クーリングオフってやつか。」
「しかも一昨日から放熱するわ、液漏れするわで大変だったのよ!」
「ふーん。」
「マツシマ電気だから安心して買ったのに、とんだ迷惑よ!」
「テレビでもやってたぜ、『マツシマ電気から大切なお知らせです』ってやつ。」
「もうホント、腹立つわね!」
ヤレヤレ、ベニの癇癪に巻き込まれない内に退散するか。
『マツシマ電気から大切なお知らせです…。』
そこには先程話題に出たCMを神妙な顔?で見ているデニーロがいた。
「よう、デニーロ、随分真剣に見てるんだな?」
「…まぁな、なんたってアイツからの『大切なお知らせ』だからな。」
「?」
437:名無しさん@初回限定
07/09/03 12:24:02 t99cQ52XO
いかがでしたでしょうか?
デニーロ×家電、冷蔵庫編です。
色々無理がありましたが、次は洗濯機編を…は、無理です。
438:名無しさん@初回限定
07/09/03 18:54:53 AbGZumuJ0
メル欄にsageを入れるのがここでのマナーだぜ?
相棒はまだしも戦友とか故郷ってなんだデニーロw
439:名無しさん@初回限定
07/09/03 19:44:34 TsDSNScz0
で、電波小説だ・・・。
デニーロは無機物の言葉がわかるんだな、
一方的なレイパー野郎だという認識が激変した。意外と紳士っぽいじゃんw
440:名無しさん@初回限定
07/09/03 22:33:11 tHt/aAJQ0
携帯だとsage忘れるっていうのもわからなくは無いがスレのルールには従おうぜ
441:名無しさん@初回限定
07/09/03 23:57:14 t99cQ52XO
まったくもってその通り、次から気を付けます。
442:名無しさん@初回限定
07/09/04 09:17:13 WbLw2buR0
>>436GJ
>>440おまいさん、「お店のルールだから入れちゃだめ」とか始終言われつけてるだろw
443:名無しさん@初回限定
07/09/05 03:34:26 bNJw+I0x0
しかし、作品投下時には支援も必要なんで、
今後は投下時に限り、目立つようにageてもいいことにしてもいいんじゃないかな
444:WBC1
07/09/05 07:25:32 wGDxJOAoO
ある暑い夏の日の夜、対馬ファミリーの面々はいつも通り、レオの部屋に集まっていた。
カニはネット、フカヒレは今日買ってきたという怪しいムック本をニヤニヤしながら読み、レオとスバルはカニが持ってきた格闘ゲームをしていた。
「このキャラなかなか使いやすいな、レオのは結構クセがあるだろ?」
「…ん、あぁ。そうだな。」
「?」
「………。」
「何の悩みだ、坊主?」
スバルの言葉にピクリと反応するレオ。
そのあからさまな反応に苦笑しつつ、スバルは続けて言う。
「いいから話してみろよ。どんな話だって俺たちは力になるぜ?」
「スバル…。」
「相談料5千円でいいぜ!」
「カニ…(呆)。」
いつのまにか話を聞いていたカニも口を挟む。
「エヘヘ…かわえぇなぁ…。」
「フカヒレ…(憐)。」
フカヒレは相変わらず読書に夢中だった。
445:WBC2
07/09/05 07:30:33 wGDxJOAoO
「…わかった、スバルがそこまで言ってくれるなら話さなきゃならないな。あとカニ、そんなこと言ってると器まで小さく見えるからやめなさい。」
「他にどこが小さいってんだゴラぁっ!!」
「落ち着けって。で、その悩みってのは?」
「あ、ああ。驚かないで聞いてほしい。」
かなり緊張しているのか、レオはゆっくりとした口調で話し始めた。
「実は…俺、WBCに出るかもしれないんだ。」
「( Д)゜゜」
「( Д)゜゜」
「( Д)゜゜」
その言葉に読書に夢中であったフカヒレでさえ、動きを止めた。
あまつさえムック本を手から落としてしまったほどであった。
446:WBC3
07/09/05 07:33:32 wGDxJOAoO
「…いや、今のは嘘だ。まだ決勝トーナメントに残っただけだ。」
「( Д) ゜゜」
「( Д) ゜゜」
「( Д) ゜゜」
レオの『嘘だ』の言葉に一瞬、その場の緊張が解けたかに見えたが、続く彼の言葉にカニ達三人は更なる衝撃を受けたのである。
「(ま、まさかレオ!この猛暑でイカれちまったのかっ!?)」
「(つか、WBCってどっちだ?)」
「(いや、この場合、どちらであってもマトモじゃない…!)」
「…ん、どした?」
ただ一人、その場の空気を読めぬレオを除き、三人の間には恐るべき緊張感が漂っていた。
一方、
「…む、何だこのイライラする空気は?」
何と驚くべきことに、それは階を隔てた鉄乙女のもとまで届いていた。
「二階からか?まさか、レオの身に何か…?」
447:WBC4
07/09/05 07:40:26 wGDxJOAoO
再び舞台は二階、レオの部屋に戻る。
「………。」
「………。」
「………。」
時間にしてわずか数十秒、しかしレオを除いた三人には、それが永遠のように感じていた。
「…ふ、やっぱり驚いたか。まぁ俺自身が一番驚いてるんだかな。」
レオが自嘲気味に言う。
「ち、ちなみにWBCってのは略語だよな?」
いつまでも要領を得ないレオに対し、ようやくスバルが言葉を返す。
「当然だろ、WBCと言えば万国共通じゃないか?」「ち、ちなみにそれは1対1の試合か?」
「?まぁWBCは個人戦だからな。団体戦もないわけじゃないが、そこまでメジャーではないからな。」
「(万国共通…、個人戦がメイン…、団体戦は非メジャー…、やはりレオは…いや、まだそうと決まったわけじゃねぇっ!!)ち、ちなみに略さないで正式名称だと何て言うんだっけ?」
448:WBC5
07/09/05 07:57:01 wGDxJOAoO
「(スバル…!?)」
「(…それを聞いてしまうのか!?)」
「(スバル…漢だぜ!ボクはスバルを信じるぜ!!)」
「(カニ…)。」
スバル、カニ、フカヒレの間に一気に緊張が走る。
「(さあ答えてくれレオ!俺たちはお前が何て言おうと受け入れるぜ!!)」
そんな三人をよそに、レオはさも当然といった様子で答えた。
「そんなの…『ワールド(W)・ボトルシップ(B)・クラシック(C)』に決まってるだろ。」
「( Д) ゜゜」
「( Д) ゜゜」
「( Д) ゜゜」
三人に、言葉はなかった。