【きゃんでぃ】タカヒロ・白猫SSAAスレ1【みなと】at EROG
【きゃんでぃ】タカヒロ・白猫SSAAスレ1【みなと】 - 暇つぶし2ch200:名無しさん@初回限定
07/07/05 15:48:03 Kjux9uzT0
これはGJと言わざるえない。
ただ、誰の台詞かわかりにくいところがあったのが残念。
作者のせいではなく、きみあるのやりこみ度が足らないのだろうなぁ

201:名無しさん@初回限定
07/07/05 16:25:00 mQJwAncjO
>>198
GJ


ねぇねぇマダー(AAry

202:名無しさん@初回限定
07/07/05 20:14:46 xNfzvYMK0
gi
ベニも毛ないの?

203:名無しさん@初回限定
07/07/05 23:21:49 Wwb0d1hu0
>>198
GJ

>>202
μタンみたいに剃られたんじゃね?

204:189
07/07/06 22:27:41 RKic1k4k0
>>191>>193のアドバイスを参考に作ってみた。
今から投下する。

205:ウ○くる?・1
07/07/06 22:30:50 RKic1k4k0
「Trrr…Trrr…」
ガチャ
「はい、キッチン・椰子ですが。」
「あ、私○○テレビのものですが。」
「はい?」
「実はですね……」
「はぁ。分かりました。いいですよ。」
「ありがとうございます。ではまた後日連絡します。」
この電話が俺たちの夢をかなえることになるとは予測できなかった。

俺は今、なごみと結婚し、二人の夢であったレストランを開店した。
名前はキッチン・椰子。小ぢんまりしてる店だが、誰にでも気軽に入れる店だ。
スバルやフカヒレのサイン色紙が飾ってある。あと、村なんとかのも西崎さんと一緒に来たときにサインをしていってくれた。
そんなこんなでちょくちょく人は来てくれてはいるものの、ちょっと満員御礼には遠い。
そんなある日
「えぇ!?フカヒレが松笠を案内して、その中のお気に入りの店として紹介したいだって?」
「そうみたいです。以前……というか、オープンの時にあなたが連絡したじゃないですか。それで、友人であり幼馴染のあなたが経営して
いるこの店を紹介したいっていうフカヒレ先輩の希望らしいですし、幼馴染が出るって事でテレビ的にも面白いだろうって事で。」
「それでその撮影はいつ?」
「来週の日曜日だそうです。」
「分かった。これで、少し客足も伸びるかな。あ、そうだ、友人&幼馴染って事で、久しぶりに竜鳴館の旧生徒会メンバーでも呼んで、撮
影終わった後に宴会でもしないか?何だかんだ言って俺たち卒業してから同窓会とか行ってないし。フカヒレもメジャーデビューしてから
そう簡単にこっちに帰ってこれないだろうしな。」
「……それもいいですね。よし、あたしも当日料理頑張っちゃいます!」
「お、がんばれよ。じゃあ俺はみんなに連絡とって見るかな。」


206:名無しさん@初回限定
07/07/06 22:32:58 t/+dxsrT0
改行

207:ウ○くる?・2
07/07/06 22:33:16 RKic1k4k0
で、当日。撮影は夕方頃ということでちょっと早めに店を閉めて来れるやつらを待っていた。
「で、結局これたのはボク達だけか。」
「ま、仕方ねぇよな。」
「姫と佐藤さんは時間ができたら、乙女さんは出張だとか言ってたけど。こうやって集まるのは本当に久しぶりな気がする。」
「そうだな。何年ぶりだ?でも、今日はフカヒレの事をたてようぜ。何だかんだ言ってもあいつが主役だし。」
「オウヨ!」
「そういうカニが1番心配なんだが。」
「んだと、このココナッツ風情が!」
「あたしはもうココナッツじゃない。間違うなよ『伊達きぬ』さん。」
そういいながらなごみはカニの頬をひっぱる。どこか微笑ましい光景だ。ちなみにスバルとカニは結婚している。そしてお互い伊達姓を名
乗っている。しかし、ずっと呼びなれているためカニと呼んでしまうことが多い。なごみはからかう時だけ使い分けているが、普段は大概
カニだ。二人はお隣さんだ。スバルがマスオさん状態だが……。
「ウガー!!」
微笑ましいが、ちょっと近所迷惑になりかけているので止めに入る。
「なごみ、そのへんでやめとけ。」
「あ、はい。」
ぱっと、手を離す。そこを間髪いれずにスバルが後ろからカニを抑えて(というか抱きしめてるという感じだが)なだめる。
「いい加減にしておけ。きぬ。いちいち突っかかってたら大人気ないぞ。」
「うー。スバルがそういうなら。」
ナイスフォロー、スバル。俺となごみが付き合うようになってからこういう仲裁が日常茶飯事となった。
まぁ、スバルがいない時は俺がどうにかするしかないんだが。それでも、高校時代より仲がいいと思う。この間も二人でどこかに食べに行ったようだ。
「なごみ、料理は大丈夫か?」
「はい。あとはお皿に盛り付けるくらいです。とはいっても、軽く炒めたりもしますが。」
「なら、大丈夫だな。ところで、スバルやカニは予定のほうは大丈夫なのか?」

208:名無しさん@初回限定
07/07/06 22:33:50 PD7ueLaD0
支援

209:ウ○くる?・3
07/07/06 22:35:03 RKic1k4k0
そう、スバルは銅メダリスト、カニはゲームクリエイターとして有名だ。二人ともフカヒレのために時間を割いてくれたみたいだ。
「あぁ、大丈夫だ。まぁ再来週にはちょっとした大会、というかチャリティーみたいなのがあるがな。でも今は比較的暇なほうだ。」
実際、次のオリンピックを狙っているので休む暇など無いと思うが、あえて聞かないことにした。
「ボクはぜんぜん大丈夫だよ。ついこの間手がけてたゲームが仕上がったから今は暇だね。」
「あ、そうだ。俺たちの間だとあいつはフカヒレだけど、一応あいつ芸名はシャークだしな。そこのところ気をつけようぜ。」
「あぁ、そうだな。」
さて、そろそろ準備のためにスタッフが来る頃だ。こっちもちょっと準備しなきゃな。

「すみませーん。○○テレビのスタッフですが、準備に来ました。」
「はーい。」
テキパキと、俺となごみで対応する。
ちょうどそこへトイレにでも行ってたのかスバルがスタッフの前を通る。
「!!?」
「どうかしたんですか?」
「あなたは、もしや、陸上の伊達スバル選手ではないのですか!?」
「はぁ、そうです。」
「本物だ。メダリストが目の前にいる。あとで、サインもらえまs「準備終わったか?」」
そこへディレクターらしき人が来た。
「ちょっと、ディレクターさん、来てくださいよ。本物の伊達選手ですよ!」
「何だって!?それで、なんで、伊達選手がここに?」
「実は…かくかく…しかじか…で。」
「なるほど、幼馴染4人そろってですか。しかし、ちょうどいい。サプライズとして、伊達選手に登場してもらっていいですか?」
「もちろん構いませんよ。こっちはテレビにはだなれてますし、あと、もう一人の幼馴染のきぬさえ出してくれればOKです。」
「こちらとしてはぜんぜん構いませんよ。もともとは、対馬さんだけで話を進めていこうと思ってました。これはとんでもないサプライズ
ですね。視聴者もそう思うはずです。あ、セリフとかは、特定のコーナーのところはありますけど、そのほかは基本的にアドリブですので
。」
「分かりました。」
「では、よろしくお願いします。そろそろスタンバイのほうよろしくおねがいしまーす。」
「はーい。」

210:ウ○くる?・4
07/07/06 22:37:18 RKic1k4k0
「今日最後のお店はシャークさんの幼馴染が経営されてるというレストラン・椰子です。この店はつい最近開店したそうですね。」
「そうです。つい最近できたばかりです。ここのマスターは俺のすっごく小さい頃からの付き合いで。まぁ、料理を作ってるのはあいつの
奥さんだけど、味は保障できますね。開店してすぐとか、高校時代にカレーとか食わせてもらいましたしね。」
「そうですか。それは楽しみです。では入ってみましょう。」
カランカラン
「こんばんは。失礼します。」
挨拶をしてなごみが席に案内し、料理を出す。何で俺が案内しないのかって?
スタッフがうまく俺の悪口をフカヒレに言わせてそこで登場させて少しあたふたさせようって事らしい。
さらに、ディレクターの考えはそこで一緒にスバルを登場させてレポーター(?)も一緒に驚かそうって話らしい。
で、そんなこんなでうまくそっちの方向にレポーターが話を持って行ってくれている。フカヒレも乗りやすいから簡単に言うだろう。

「で、実際に学生時代、ここのマスターに対して思っていたことは?」
「熱くなれば本当に頼りになるやつだけど、普段は簡単なことですぐへこむヘタレ……。」
やっぱり簡単に言った。基本的に調子に乗りやすいやつだからな。
「……あ、レオ。久しぶり。もしかして、全部聞いてた?」
「当たり前のことを言わないでもらおうか。お前に比べたらましだとは思うがな。」
「よう。元気そうで何よりじゃねぇか。」
「……………あなたはもしや伊達選手ですか?」
「そうです。陸上の伊達スバルです。」
「よっ。フカ……じゃなくてシャーク。」
「カニ!何でお前まで!?」
「失礼だね。ボクはもうカニじゃないです。伊達ですよ。」
「えっと、失礼ですが、シャークさん、そちらの方々は?」
「あ、すみません。えっと、順番にここのオーナーの対馬レオ、皆さんご存知の陸上の伊達スバル、ゲームクリエーターの伊達きぬです。
あと、さっき料理を持ってきてくれたのがオーナーの奥さんの対馬なごみです。」
「フカ…じゃなくてシャークてめぇ、さっきはよくも俺のことへタレ呼ばわりしてくれたな。」
「ごめんってば。やめてよ、お姉ちゃ~ん、いくらなんでもそこまで関節は曲がらないよー。」

しばらくお持ちください。


211:名無しさん@初回限定
07/07/06 22:38:42 PD7ueLaD0
四円

212:名無しさん@初回限定
07/07/06 22:38:42 WodHfUn60
シェーン、カンバァーク

213:ウ○くる?・5
07/07/06 22:40:00 RKic1k4k0
「……えっと、シャークさんはどうすれば。」
「あぁ、あいつはすぐに復活しますよ。殺しても死なないやつですからね。」
「……。」
「あいつは、こいつと同じでただ度胸が無いだけですよ。それ以外はいろんな意味ですごいやつです。」
「昔からギターはやってたんですが、竜鳴館に入ってなければ間違いなくこいつはここにはいませんからね。」
「そうそう。あいつは人間失格系のヘタレだけど、やるときはやったね。」
「そうだな。こんな事言ってると竜鳴館時代が懐かしいな。」
「あ、ではその竜鳴館時代のシャークさんについて話してもらえませんか?」
「もちろんです。」
「そうですね……まずは、……。」
「で……、こうでして……。」
「それで……。」
「こうやって聞くといろいろな意味ですごいですね。」
「そうですね。でも、こいつはだめなとこも多かったですけど、音楽関係の仕事に就く道を歩き始めなければ、この店は無かったでしょう
ね。」
「と、言いますと?」
「なごみが料理のことが好きだって思えるようになったのは、俺らが高校2年の時の夏、こいつが路上演奏を始めたからなんですよ。なごみ
曰く『貴重な青春を費やしたくない』とか言ってたらしいですけど、何だかんだ言ってその後路上演奏を始めるようになって、で、ちょう
どその時、学校の体育祭の料理のヘルプを俺が依頼したらしいですけど、こいつの演奏を聞きながら考え事していたら料理が好きだったん
だなって思えるようになったって言ってましたからね。ですからこいつが始めなければここにもいないし、この店も無かったんですよ。」
「なるほど。確かにそうですね。」
「でしょう。ですから、こいつにはそれなりに感謝してるんです。本人の目の前……というか、起きてる前ではいえませんけどね。」
「それはそうですね。」
とみんなで笑ってしまう。


214:ウ○くる?・6
07/07/06 22:43:54 RKic1k4k0
途中でフカヒレが目を覚まし、俺たちの言っていることを否定していたが、何だかんだ言って、楽しんでいた。なんだか竜鳴館で馬鹿やってた時のようだ(乙女さんとか姫とかいないけど)。
時間が過ぎるのはあっという間で、撮影が終わってもそこは宴会場と化していた。
もちろん、料理はなごみの得意料理で軽いものだったけど。

「それでは今日はどうもありがとうございました。色々シャークさんの過去とか知れて楽しかったです。」
「お前らなぁ、テレビの前であれだけの過去バラしやがってぇ。」
「事実だしな。」
「それでも、やっぱりお前らといると楽しくてしかたねぇな。この場所というか、この松笠は俺らの原点だしな。」
「こいつ言うね、フカヒレのくせに。」
「これでも、俺は超有名人なの。それくらいかっこいい事言ったっていいじゃんよぉ。」
「まぁ、楽しかったよ。またこうして遊ぼうな。」
「オウヨ!」
「スタッフのみなさんもありがとうございました。また来て下さいね。」
「ぜひ、そうさせてもらいますよ。」

そして放送日が過ぎた後、店は爆発的に客足を伸ばしていた。フカヒレ&スバル効果凄まじい……。
さらにその後、ここの人気で他のテレビ局からア○街○国とかいう番組で松笠を紹介するのでアンケートをとったらこの店がベスト30に入
ったので取材させてくださいと言ってきた。
もちろん主役はなごみだ。そこでなごみは父に料理を教わったと言えた。これで、さらに人気が出てきた。
「あぁ、ちょっと前までなごみとまったりしてたのが1番幸せだったのに~。」
「クスクス。じゃあ、お互いに夢が叶いましたね。」
「ああ、そうだな。やっぱり、お互いに頑張れたからこれまでやってこれたんだものな。」
「そうですね。でも、これまでではなくて、ずっとですよね。」
「そうだな。もっとずっと頑張ろうな。」
「ハイッ!」

こうして忙しくても、充実した日々を大好きな人と一緒にすごしていく。いつまでも、いつまでも……。

215:名無しさん@初回限定
07/07/06 22:46:28 RKic1k4k0
終わりです。
>>206>>208>>211>>212 支援アリガ㌧。
フカヒレを動かしずらかった。あいつはどう動かすべきかもう少し勉強してみる。
カニとかスバルは結構動かしやすい。
書いてはいますが、まだちょっと、客足が遠い頃のお話です。

216:名無しさん@初回限定
07/07/06 22:58:50 /JwRRM9m0
gj

217:名無しさん@初回限定
07/07/06 23:07:34 PD7ueLaD0
GJ 

テンポ良く読めるように、改行と校正さえしっかりしてくれれば、もっとGJ
読者本位な言葉だが、気に留めておいてくれると嬉しい
話は途中でだれることなく、つよきす後日談好きとして、面白く読めた。

ところで皆さん、味の保障or保証?途中気になったので




218:215
07/07/06 23:16:11 RKic1k4k0
>>217 たぶん保証だ。さっき調べてみたら保証で間違いないと思う。
見直しをしている時は保障だと思ったもんで。
あと、村田に少し触れてますが、あいつは保管庫にあるSSのようにK-1ファイターになったという設定です。

219:名無しさん@初回限定
07/07/06 23:19:37 HM16wCOF0
ほしょう 0 【保証】
(名)スル
(1)まちがいなく大丈夫であるとうけあうこと。

ほしょう ―しやう 0 【保障】
(名)スル
〔「保」は小城、「障」はとりでの意〕
(1)責任をもって、一定の地位や状態を守ること。

どっちでもよさそうだが
強いて言えば保証?

220:名無しさん@初回限定
07/07/06 23:47:36 5PUlemSO0
なごみエンド後って大抵こうなるよな~
もう少しなんかほしかった

221:名無しさん@初回限定
07/07/07 00:00:58 PD7ueLaD0
>>218
>>219
トン


222:名無しさん@初回限定
07/07/07 00:07:10 bhjK7+6aO
GJ!
俺は好きだぜ!

223:名無しさん@初回限定
07/07/07 00:20:16 1T1CgouU0
普通J

改行

224:名無しさん@初回限定
07/07/07 01:32:12 /oxonDM60
読みやすさって大事だよね。
句読点で改行するだけで全然違うよ。

225:名無しさん@初回限定
07/07/07 02:47:04 E0nCTdJ80
掲示板への投稿は普通に原稿用紙に書くのとはわけが違うもんな
字下げはなくてもいいけど、特殊効果を狙わないなら
句点ごとに改行するのは必須だわな

226:名無しさん@初回限定
07/07/07 09:09:51 I7Cc4ien0
最初の支援が>>206で吹いたw

普通J

227:名無しさん@初回限定
07/07/07 11:44:47 q2XYN1jS0
あれは好ましくないと思うけどね
投下後にいえばいい事

228:名無しさん@初回限定
07/07/07 17:48:38 E0nCTdJ80
>>219「味の保証」で合ってる
折り紙つきの意味で「味の保証書がついている」という言い方に変形できるが
「保障書」という言葉はなく、「味の保障」は間違いだとわかる

229:名無しさん@初回限定
07/07/09 14:52:57 FbbHsK380
 

230:名無しさん@初回限定
07/07/12 22:01:13 JaZrWHby0
 

231:一つの傘で・1
07/07/13 16:10:43 VenRSkQZ0
「なんだか雲行きがあやしくなってきたね」

「うん……夕立でも来るのかな」

ナトセさんと二人、庭の手入れの手を止めて空を見上げる。
ついさっきまでは青空だったのに
今は海の方から押し寄せた雨雲が空を覆っている。

「ベニのやつ、傘持って行ってるかな?」

「どうだろう。買い出しに出かけるときには晴れてたから
 持ってないんじゃないかな……」

なんて言ってるうちに

パラパラ……ザーッ!

「うわ、いきなり!」

猛烈な勢いで降ってきやがった!

「レンくーん、こっちこっちー」

「いつの間に!?」

ちゃっかり玄関ホールに戻っているナトセさんを俺も追いかける。

「ヒドイやナトセさん自分だけ」

「ご、ごめんね、降ってきたと思ったらつい反射的に」

そういえば、スコールの国の出身だった。

232:一つの傘で・2
07/07/13 16:14:04 VenRSkQZ0
玄関で雨がやむのを待っていたが
雨足はいっこうに治まらない。むしろ強くなっているようだ。
ふと傘立てを見ると、見覚えのある赤い傘。

「ベニのやつ、やっぱり傘持っていってないのか」

「レンくん、迎えにいってあげたほうがいいんじゃないかな?」

「……いや、きっとどこかで雨宿りしてますよ。
 必要ならケータイで電話してくるでしょ」

「そう言いながら、落ち着かないね」

「いや、そんなことは……」

「ここはいいから、迎えに行ってあげなよ」

「そうスか?……じゃ、ちょっと……」

ベニの傘も持って、雨の住宅街を歩き出す。
途中で行き違いになるといけないので
ケータイで呼び出してみた。

「もしもし?俺だけど」

『あ、どしたの?』

「傘持ってないだろ。迎えにいくよ。今どこだ?」

『あ、助かるー。今元之町の入り口なのよー』

「わかった、すぐ行くからちょっと待っててくれ」

233:一つの傘で・3
07/07/13 16:18:41 VenRSkQZ0
元之町商店街についたところで
店先で雨宿りでもしてるんだろうと
ベニの姿を探す。と

「あ、おーい、コッチコッチー!」

雨の中、両手で荷物を抱きかかえるようにして
ベニがバシャバシャと水を蹴立てて走ってくる。

「ベニ!?あ~あ~、何やってんだよもう」

あわてて傘を広げ、少しでも濡れないですむようにと
俺も走り寄ってベニに傘をさしのべた。

「いっやー、間に合うかと思ったらいきなり降ってきたわー」

「お前、あとちょっとなんだからあのまま待ってろよ。
 あーあ、ずぶ濡れじゃねえか」

「なんか、アンタが来るのみたらうれしくなっちゃって。
 でも、荷物は濡らさなかったわよ」

得意げに、ホラ、と荷物を掲げる。
掲げられた荷物を一つ受け取って
二人並んで久遠寺家に戻る。
と、さしていた傘を見上げてベニがつぶやいた。

「……あー、そういえばこの傘、壊れてるのよ」

「え、そうだったのか?」

「うん。しょうがないな、そっち入れて」

234:一つの傘で・4
07/07/13 16:35:50 VenRSkQZ0
傘をパチリとたたんで、ベニが俺に寄り添ってきた。

「悪い、気がつかなかった」

「ん……いいのよ、傘立てに入れて置いたのアタシだし」

「お前にしちゃ珍しいポカだな」

「……えへへー」

怒るかと思いきや、ベニはなぜかニコニコと笑っている。

「相合い傘って言うんでしょ、こういうのって。雅よねー♪」

「ひょっとして、憧れてたとか?」

「そうね……ちょっと前までは、どうでもよかったけど
 今はこういうのも、悪くないかなーって」

「……ずいぶん濡れたけど、寒くねえか?」

「……ちょっと、寒いかな」

ベニの肩を抱いてやる。
少し冷えてるけど、すぐに暖めてやれるだろう……


翌日。すっかり雨もあがったので皆の傘を乾かそうとして
壊れているはずのベニの傘がまだ傘立てに入っているのに気がついた。
しょうがねえな、と思いながらも広げてみると……

どこも壊れてはいませんでしたとさ。

235:名無しさん@初回限定
07/07/13 16:41:19 VenRSkQZ0
終わり。
ベニの話を書こうとすると
なぜか可愛いところしか思い浮かばない。

236:名無しさん@初回限定
07/07/13 17:26:23 7gJGjW+T0
ベニ子めちゃめちゃかわいい
謝謝です

237:名無しさん@初回限定
07/07/13 18:45:41 Y8a5WrsH0
>>235
このラブコメ野郎。GJ!

238:名無しさん@初回限定
07/07/13 22:30:51 tDkHJfld0
>>235
GJ!!(゚∀゚)人(゚∀゚)ナカーマGJ!!
可愛さを表現するために、あえて罵詈雑言を多めに吐かせて
対比させてみたりするよな。…どんだけベニ好きなんだよ、とw

ところで、IDがベニRに見えなくもなくもない

239:名無しさん@初回限定
07/07/13 22:52:41 aUuYIAQyO
超GJ!!!
ベニいい!!!

240:名無しさん@初回限定
07/07/13 23:08:26 GU1VBytJ0
>>235
>「そうね……ちょっと前までは、どうでもよかったけど
 今はこういうのも、悪くないかなーって」

レンと付き合うようになっての心境の変化ってことかな。
GJだ。

241:名無しさん@初回限定
07/07/14 04:27:55 baQDPRvk0
>>234原作やってないんだけどベニに惚れてもOK? GJ!

242:名無しさん@初回限定
07/07/14 10:58:05 JEQYb6dP0
いや、原作やれよw

243:名無しさん@初回限定
07/07/14 13:12:04 baQDPRvk0
>>234レンは右手で傘を持ち、左手でベニスの肩を抱き寄せ、真ん中の手で荷物を一個持ってる?

244:名無しさん@初回限定
07/07/14 13:15:29 PEHhxBBL0
>>243
君なに言ってるの?
早く原作やれよ

245:名無しさん@初回限定
07/07/14 13:25:25 XBlRGtyX0
>>243
荷物抱えた手で傘持てばいいと思うよ、普通に

246:名無しさん@初回限定
07/07/14 21:54:13 om/ck74E0
>>235
超GJ

247:名無しさん@初回限定
07/07/16 22:43:11 A8g91uLZ0
 

248:名無しさん@初回限定
07/07/17 05:36:01 69pmhgalO
くそぅ・・・君ある名作SSは
どれもタカヒロが書いたんじゃねぇかと思うくらいのクオリティー高いぜ・・・

ウルトラGJ!!

249:名無しさん@初回限定
07/07/17 07:04:11 xgWF5ow50
オイオイ(笑)

250:名無しさん@初回限定
07/07/18 07:03:49 FZfjf/IrO
保守

251:名無しさん@初回限定
07/07/18 18:03:01 IYB421YM0


252:名無しさん@初回限定
07/07/18 21:24:46 iOdHzKyq0
クソコ

253:名無しさん@初回限定
07/07/20 12:46:18 LK+Fbccs0


254:名無しさん@初回限定
07/07/22 00:51:52 wzYcYEcR0
hosyu

255:名無しさん@初回限定
07/07/22 01:07:06 0odrZgKK0


256:名無しさん@初回限定
07/07/22 03:10:06 NIRt694S0
タイムリープ作品大歓迎
ちゃんと映画でみたけど、ほらお茶の間に出たしね・・

257:名無しさん@初回限定
07/07/22 12:38:43 8SzPn4QY0
つまんねぇよカス市ね

258:名無しさん@初回限定
07/07/23 17:01:47 aWv6k+0Z0
「……こんなもんか」

玄関前の清掃を終え、曲げていた腰を伸ばす。
見上げれば秋晴れの空。いわし雲……あれ、ひつじ雲だっけ?
まあとにかくいい天気なのだ

このところは久遠寺家も平和なものだ。
ナトセさんが旅に出ている間に
遊撃の俺も庭の手入れにだいぶ慣れてきた。

ナトセさん、どうしてるかなぁ。
帰ってきたら、話したいことが山ほどある。
それに……あのしなやかな体を思う存分……

 イカン、たまってるな俺、
鳩ねえはナトセさんがいない間は自分が、何て言ってくれたけど
さすがにそれは不実すぎるので断った。

 しかし、たまっているのもまた事実。
ナトセさん帰ってきたら、思いっきりロマンチックに口説いてみるか。
と、どんな感じがいいかね。
……普段ロマンチックと縁がないとこういうとき困るな。
ん~~~……

「お前が欲しいいいいい!」

は、イカンつい思いのたけを叫んでしまった!誰もいないからいいけど。
ていうか全然ロマンチックじゃ……

「な……な……!」

げぇっ!?九鬼揚羽!?いつの間に!?

259:名無しさん@初回限定
07/07/23 17:05:19 aWv6k+0Z0
「一度ならず、二度までも……!やはりお前……!」

「いや、これはですね?」

「お前の姉に不覚を取って、修行の旅に出ていたが
 帰ってくるなりのこの熱い告白!
 やはりあのときの拒否は、単なる照れくささからだったのだな!」

「いえ、本気でアレは勘違いでですね?」

「我のハートが真っ赤に萌える!」

萌えるのかよ。ていうか人の話聞いちゃいねー。

「幸せつかめと轟き叫ぶ!」

って何かいつの間に俺の手握ってる!?変なポーズ取ってるし!
どこからかスポットライトまで当たってるし!?

「揚羽!ラ~~~~ブラブ!」

いやラブラブじゃないんで!
あと手のひらに光弾ためるのやめてください!
ていうか久遠寺家に向かってませんか射線!?

「天驚ぉけ」「侵入者、排除」

ドス

「うぐぁっ!?……ま、またして……も!?(バタッ)」

やれやれ。鳩ねえのおかげで屋敷にハート型の大穴が開くことは避けられたようだ……

260:名無しさん@初回限定
07/07/23 17:07:44 aWv6k+0Z0
終わり。関智に捧ぐ。

261:名無しさん@初回限定
07/07/23 17:10:42 YwvmJZOV0
| _
|/ 三ヽ
|l从x リ)
||l゚ ー゚ノl|、 乙、我はまだ諦めんぞ
|)介i>
|_|j〉
|ノ
 ̄ ̄ ̄ ̄

262:名無しさん@初回限定
07/07/23 17:39:16 IUUbDCY30
GJ
ていうか天驚拳撃ってどうする揚羽様w

263:名無しさん@初回限定
07/07/23 22:32:51 N5t6ngeV0
>「お前が欲しいいいいい!」
フイタ
GJ!

264:名無しさん@初回限定
07/07/24 00:07:24 N4iOAxeT0
>>258
錬の中の人のキャラメドレーを堪能しました。
GJ!!

265:名無しさん@初回限定
07/07/24 04:07:42 wX6NFnXCO
>>258
君あるは
もしかしたらこういうキャラの広がりを無限に感じさせる作品かもしれんな

GJ!

266:名無しさん@初回限定
07/07/24 16:42:38 Ilv4W78C0
GJ!
俺は読み専だが、だれか本気で揚羽ルート書いてくれないだろうか

267:名無しさん@初回限定
07/07/24 19:04:37 xvWz6QU/0
GJ

アニメだとそれ俺のセリフ!
とかいいそう

アニメというか最近のらき○すただとかな

268:名無しさん@初回限定
07/07/25 20:23:41 RW+16KzZ0
gj

269:名無しさん@初回限定
07/07/27 23:36:57 jwPvhsJk0
 

270:名無しさん@そうだ選挙に行こう
07/07/29 11:17:20 5cE5bff30


271:名無しさん@初回限定
07/07/31 21:44:26 GhyHi+ul0


272:名無しさん@初回限定
07/07/31 22:13:49 pd/KcXyP0
落ち着いたとゆーか・・・
これが過疎化か、さびしいZE☆

273:名無しさん@初回限定
07/08/02 23:48:20 +8vvP2ev0
 

274:名無しさん@初回限定
07/08/04 11:17:19 rPxsev9D0
 

275:名無しさん@初回限定
07/08/08 16:34:04 zR+/G1vK0
 

276:名無しさん@初回限定
07/08/09 21:40:02 eAfwiZVd0
ho

277:名無しさん@初回限定
07/08/10 21:21:05 0WaSFazc0
hosyu

278:名無しさん@初回限定
07/08/12 13:44:58 VHOKl7cu0
投下。

279:名無しさん@初回限定
07/08/12 13:50:04 VHOKl7cu0
買い物に出たナトセさんに頼まれて
遊撃の俺が夢お嬢様を学校までお迎えに。
が、少し早かったのかまだ校門のまわりには人気がない。
この男以外は。

「よ、小十郎、お疲れさん」

「やあレン、久しぶりだな……ん、どうした?
 何か疲れているようだが?」

「そうか?……まあ、ちょっと寝不足ではあるかな」

「いかんな、執事たるものそんなことでは。
 まさか、もう執事稼業の辛さに音をあげたのではあるまいな?」

「そこまでヤワじゃねえよ。ただな……」

「何か、悩みがあるようだな。授業が終わるまでまだ少しある。
 俺でよかったら、話を聞くぜ」

いいヤツだなぁ……同じ男どうし、うちあけてみるか。

「……風呂での仕事が、けっこうつらくてな」

「風呂?なんだ、風呂場の掃除くらいでへこたれていたのか?」

「……なあ小十郎。おまえ、揚羽さんの背中を流したりはしないのか?」

「……は?」

「俺、いまミューさんに専属でついてるんだけど
 風呂でミューさんのお背中を流したりしないとならないんだ」

280:名無しさん@初回限定
07/08/12 13:54:37 VHOKl7cu0
「なあああぁぁにいいいぃぃぃっ!?」

「ぐあ、耳元で大声出すなっ!」

「せ、背中流すって……!い、い、い、一緒に!?風呂入ってるのか!?」

「当たり前だろ。一緒に入らないでどうやって背中流すんだよ」

「ハダカか!?二人ともハダカか!?」

「だから、当たり前だろ風呂なんだから。
 ていうか、いちいち絶叫すんなよ」

「う、いや、あまりに衝撃的だったものでな。
 しかし、それは……ツライな……」

この様子じゃあ、揚羽さんは小十郎に背中を流させたりはしてないんだろうなぁ。
……普通そうだよなぁ、やっぱり。

「それと、ときどき添い寝を命じられるんだけどさ」

「添い寝!?添い寝ってベ、ベ、ベッドに!一緒に入るのか!?」

「ああ。で、寝るときのミューさんて、パンツ一丁でほとんどハダカなんだよ」

「なぁっ!?」

「昨晩も添い寝を命じられて、その……よく眠れなかった」

「……お見かけする印象より大胆なんだな、お前の主は」

281:名無しさん@初回限定
07/08/12 13:59:01 VHOKl7cu0
「大胆というか、おおらかというか、な。
 あちらは何とも思っていらっしゃらないのだろうが
 俺としては、こみあげるものを抑えるのに必死なわけよ。
 で、お前だったらどうする?」

「ん?俺だったら、って?」

「だから、揚羽さんに『風呂で背中を流せ』って命令されたら
 お前はどうする?ってこと」

沈黙。そして絶叫。

「あ……ありえないぃーっ!
 俺のような無骨者にお肌を……お肌をっ!さ、さ、晒されるなどとっ!」

「鼻血出てるぞ」

「なっ!?も、申し訳ありません、揚羽様ぁーっ!」

何を妄想したのか盛大に鼻血を出し
そのことを反省しているのか、近所のコンクリ壁にガンガンと頭を打ちつける小十郎。
壁にヒビが入り始めたので慌てて止める。

「ストップ!わかったからそのへんでやめとけ!
 まあ、仮にそんな命令が来ても、お前ならキッパリ断れるだろうし」

「断る……?いや、揚羽様の命令は絶対……
 だ、だがそれでは揚羽様のお姿を……ならん、それはならんぞ!
 し、しかし、ご命令に逆らうことなどできぬ……!
 うわああぁっ!?お、俺は、どうすればいいのだ上杉ぃっ!?」

「……スマン、俺が悪かった。自分で何とかするわ……」

282:名無しさん@初回限定
07/08/12 14:01:39 VHOKl7cu0
「悩める二人」終了。

283:名無しさん@初回限定
07/08/12 14:52:26 uTfy9JCg0
普通J!

284:名無しさん@初回限定
07/08/12 15:34:52 4KKke9X10
>>282
この後揚羽様が出てくるところまで読みたかった
でもGJ!

285:名無しさん@初回限定
07/08/12 16:50:10 vJivEJ0X0
小十郎君に萌えた!GJ!

286:名無しさん@初回限定
07/08/12 21:44:21 WWpXSk8/0
もう少し続きが読みたかった
でもGJ

287:名無しさん@初回限定
07/08/12 22:32:14 RK9LHiYR0
小十郎が可愛くてGJ!

288:名無しさん@初回限定
07/08/12 23:28:55 k7k6mvwt0
愛い奴め・・・金平糖をやろう、大事にするがよい


289:名無しさん@初回限定
07/08/13 19:36:02 EoWrz1U3O
GJ!!!

290:名無しさん@初回限定
07/08/14 07:46:11 h4CioHxK0
やっと規制が解けたか GJ

291:名無しさん@初回限定
07/08/15 16:27:20 N6zkz+3b0
 

292:名無しさん@初回限定
07/08/17 15:34:36 iwLWoSKD0
 

293:誤解だ!(1)
07/08/18 21:45:49 WjvVzZMR0
「う~…ゲホッゲホッ」
「大丈夫ですかレンちゃん! お姉ちゃんより先に逝ってしまったらだめですー!」
自分の部屋でベッドに横になっている俺。 不覚にも風邪をひいてしまったのだ。
もっとも、原因は庭でナトセさんに水をぶっかけられたことなんだけど。
「ごめんね、レン君。 私のせいで…」
ナトセさんは申し訳なさそうな顔をして言った。
「いいって、ナトセさん。 鳩ねぇもありがとう」
「今日はお姉ちゃんがつきっきりで看病してあげたいところですが、
 ミューちゃんとお買い物に行く約束をしていますし…」
「だったら行ってきなよ、鳩ねぇ。 俺は大丈夫だからさ」
大げさだなぁ、鳩ねぇは。 大したことないのに。
ま、とにかく今日は大佐から一日休んでおけと言われてるし、ゆっくりするとするか。
「ほーれ下男、元気にしとるかー?」
「元気じゃねぇのは見ればわかるだろ」
ベニ公がお粥持って入ってきた。 まだ何も食べてないし、ちょうどいいや。
「まったく、バカのくせに風邪ひくのねぇ、アンタは。 ほれ、体起こしな。 食べさせてやるよ」
「ダメですよー、ベニちゃん。 そんなことをしてレンちゃんをたぶらかそうとするなんて。
 はい、お姉ちゃんがふーふーして食べさせてあげますからねー」
「こんな奴なんか狙うか!」
「あはは、じゃあ私が食べさせてあげるよ」
「いけませんー、弟にお粥を食べさせてあげるのはお姉ちゃんの役目ですー」
みんながワイワイやってるうちに、俺は一人で黙々と食べていましたとさ。

294:誤解だ!(2)
07/08/18 21:48:27 WjvVzZMR0
うーむ、昼飯を食ってからすることがない。 暇で暇でしょうがないな。
まぁ、風邪を引いたときって普通はこんなもんだよな。
小さい時は、鳩ねぇが自分も学校を休んで看病してくれたっけなぁ…

コンコン

「どなたー?」
「レン兄、僕ですよ」
ドアを開けて、手に換えのタオル数枚と氷の入った袋を持ったハルが部屋に入ってきた。
「よいしょっと…ええと、今日はこれから、僕がつきっきりで看病する事になりました」
「つきっきりって…いいよ、そこまでしなくても。 そんなに酷くないし…」
「いいえ、そういうわけにはいきません。
 僕の今日の仕事は終わりましたし、大佐も『男同士なら退屈もしないだろう』と言ってましたから」
ハルが俺のベッドの横にちょこんと座る。
「おでこのタオル、換えますね」
水の入った洗面器に持ってきた氷を入れ、そこに新しいタオルを浸す。
そして俺の額から、熱でぬるくなったタオルを取り上げた。
十分に冷えたタオルを洗面器から取ろうとすると…
「うわっ、冷たい! …うーん、うーん……」
冷たいのを耐えて、力いっぱいタオルを絞るハル。
何とも細い腕に、精一杯力を込めていた。
「ふぅ…はい、冷たいですよー」
ハルが俺に近づいた時、ふわりといい匂いがした。 綺麗な髪を見て、一瞬ドキッとしてしまう。
…って、ちょっと待て。 こいつは男なんだぞ。 女に見えるけど、れっきとした男なんだぞ。
そんなことも気にせず、ハルはタオルを俺の額に乗せた。 冷たいのが何とも気持ちいい。
「おぉ…」
「どうですか? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。 気持ちいいぜ」
「本当ですか? よかったぁ…」

295:誤解だ!(3)
07/08/18 21:52:26 WjvVzZMR0
「ふー、ふー…はい、どうぞ」
「お、おお」
晩飯もハルがつきっきりだった。
現在の状況は、ハルがお粥を息で冷まして俺に食べさせているところ。
ちくしょう、どうしてこいつはこんなに女っぽいんだ。
本当に女だったら、間違いなく誰も放っておかないだろうなぁ。
いっそのこと…
「うがー!!」
「ど、どうしたんですか?」
「い、いや…なんでもない……」
落ち着け、落ち着け上杉錬! お前も知ってるだろ! こいつは限りなく女に近い男なんだぞ!
「もう、レン兄ったら…はい、もう一口どうぞ」
「あむ…ううむ……」
蓮華にお粥をすくい、にっこりと笑って俺の口に運ぶ。
どういうわけかこいつの周りからキラキラという擬音が聞こえてきそうだ。
それぐらい、ハルの笑顔は眩しい。
お、俺は…俺はーーー!!!!!
「レンちゃん、大丈夫ですかー?」
「あ、美鳩さん」
「鳩ねぇ…うん、大丈夫だよ」
危ねぇ…今、マジで危なかった……ありがとう、ナイスタイミングだよ鳩ねぇ。
鳩ねぇは俺に近寄って、ピタリと手を額にあてた。
「うーん、まだもうちょっと熱がありますねー。 今日はお姉ちゃんが一緒に寝てあげますよー」
「い、いいよ。 うつるかもしれないし」
「そうですかー? お姉ちゃんはレンちゃんからの風邪なら、むしろ欲しいぐらいですよー?」
「いや、さすがにそれはちょっと…それよりも鳩ねぇ、ミューさんのほうはいいの?」
鳩ねぇはちらりと部屋の時計を見た。
「あら、そう言えばお風呂の時間でしたね。 それではレンちゃん、早く良くなってくださいねー」
そう言うと、鳩ねぇはそのまま部屋を出て、ミューさんの部屋へと向かった。

296:誤解だ!(4)
07/08/18 21:56:08 WjvVzZMR0
「さぁ、それではレン兄、お薬の時間ですよ」
ハルが薬を持ってきてくれた。 しかし、なぜか水は持ってきていない。
「それじゃレン兄、お尻を出してこっちに向けてください」
「は!? ちょっと待て、俺はそんな趣味は…」
「? やだなぁ、薬ですってば。 座薬ですよ、座薬。 まだ熱がありますからね」
ああ、座薬ね。 なんだそういうことか。
「って何イィィィィィィ!!!!!??????」
「ちゃんとやっとかないと、早く治りませんよ?」
「いや、ちょっと待て。 そういうのは自分でやるもんだ。 そうだろ? な? な?」
俺が必死に抵抗しようとすると、ハルは顔を赤らめた。
「いえ…だって僕は、レン兄の看病を任されてますから…それに……」
「そ、それに?」
「レン兄なら、別に構いませんから…」
「何が構わねぇんだーー!!!! うぐ…こ、こんな時に……」
叫んだら頭がふらっとしてきた。 力も出ない。 やべぇ、このままじゃ…
「レン兄…」
「いや、百歩譲ってやってもらうとしよう! でもな、頼むからそんな顔をしないでくれぇぇぇ!!」
そんなハートにズギュンと来る顔を俺に向けて、ハルは…
「大丈夫、痛くはありませんから…」
ゆっくりと俺のズボンを脱がし…
「うううぅぅ…ハ、ハル…」
そしてパンツも脱がして…
「わ、レン兄のって大きい…でも、それよりも今は薬を……」
俺を四つんばいにして…
「いきますよ…」
俺の尻に薬を…
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

「だー!! うっせーぞ下男!!」
ベニ公が俺の叫びを聞いて怒鳴りにきやがった。
切れた…俺の体の中で何かが切れた…決定的な何かが……

297:誤解だ!(5)
07/08/18 21:59:34 WjvVzZMR0
「あ、アンタ達…」
時が止まった。 この部屋の、この空間の時間が完全に凍りついた。
「そうしたのだ、騒々しいぞ」
「何があったのかしら?」
「何々? 今の叫び声?」
「レンちゃん、どうしたんですかー?」
「どうしたの!? 侵入者!?」
ベニ公に続いて、屋敷の女性全員が駆けつけてきた。
さて、今の俺の状態を確認しておこう。

俺が 下半身むき出しで 四つんばいになって ハルに 尻を 向けている
ハルは その俺の尻に 片手を当てている

しかも見事に、皆の視線から薬は見えないようだった。
「……ま、まぁ誰にでも変わった性癖というものはあるものね」
「ゆ、夢は見ちゃだめだよ!」
「ナ、ナトセさんひっぱらないでよぅ!」
「レンちゃん…よりによってお姉ちゃん離れどころか、男に走るなんて……よよよ…」
「ほほう、これは面白いことだなぁ……ま、呑み直すとするか」
「いや、もうアタシは何も言わないから…そんじゃ」
そして時が動き出し、皆はぞろぞろと部屋を後にするのだった…
「ま、待ってくれ! 誤解だ! 誰か、誰か話を聞いてくれぇぇぇぇぇ!!」

一応ではあるが、俺はその後、必死の弁解をして誤解を解くことに成功する。
そこには幾多もの苦難が待ち受けているのだが、それはまた別の話。
ただ、とりあえずこれだけは言わせてくれ。

俺は、ホモじゃねぇーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!

298:シンイチ
07/08/18 22:03:25 WjvVzZMR0
きみあるSSを書こうとしたら、何故かハルネタ(しかもこんなカンジのばっかり)が思いついてしまいます。
こんな私は病んでいるのでしょうか…?
次は他のキャラのネタで書きたいなぁ。

299:名無しさん@初回限定
07/08/18 22:07:33 pD147Jr90
>>298
若干病んでるけど最高w


300:名無しさん@初回限定
07/08/18 22:07:42 GzVf5gXz0
お~久々の良コテ!
GJ!

301:名無しさん@初回限定
07/08/19 01:11:08 hCYEonWE0
おもろかった。さすがですね。
GJ!

302:名無しさん@初回限定
07/08/19 02:10:33 6HP4UsWK0
gj

303:名無しさん@初回限定
07/08/19 08:54:43 9kMXoJtM0
ア――――――!
gj

304:名無しさん@初回限定
07/08/19 14:31:00 NB69zEjL0
ばっかりなら病んでるなw
錬がひどく可哀相だがGjを贈ろう

305:名無しさん@初回限定
07/08/19 16:30:03 OAunOsyAO
gj!!
もういっそのことハルルートも作ってしまえばよかったのにと思った俺は森羅様好き

306:Da Noi①
07/08/19 21:44:40 pmJaEmm60
ベニから妊娠3ヶ月を告げられて早一日。
森羅様たちはわざわざ各々のスケジュールを変更してまで祝いの宴を開いてくれた。
ベニへの負担を気遣ってか、出前を大量に頼んでの豪華絢爛などんちゃん騒ぎ。
本当に感謝してもしきれない。
まあ、たくさん注文したのはナトセさんの存在が大きいんだけど。
「麗羅(れいら)にしろ」
「は?」
「レイラ…とは?」
俺とベニが森羅様に呼ばれるまま傍に行ったら、いきなりそう告げられた。
「名前だ、名前。子供の名前だ。私の誇り高き名を一文字やろう」
「ねぇ」
「甘いわね、姉さん。それは原則的に女の子限定の名前よ。レン、ベニ、有希(ゆき)にしなさい。これなら男女どちらにも使えるわ」
「ねぇ」
「私がこの名と決めたんだぞ? 生まれてくる子も女の子に決まっている」
「何を訳のわからないことを」
「ねぇ」
「その名は私とミューたんとの子に取っておけばいいさ。さっそく今夜から子作りに励もう、ハァハァ…」
「断固拒否するわ!」
「ねぇってばー」
子供の名前について(妙な方向に発展していった気もするけど)言い合う森羅様とミューさんに、夢お嬢様がバタバタと手足を振って自己主張していた。
「んもう、シンお姉ちゃんもミューお姉ちゃんも聞いてよー。夢は我夢(がむ)か明日夢(あすむ)がいいと思うんだ」
誇らしげに胸を張る夢お嬢様。
「いい名前だとは思うけど、特撮から持ってきたわね」
「引用するのが悪いとは言わないが、できる限り悩んでまごころをこめてつけてやるべきだぞ」
「ガーン!!」
お気の毒に。
「よーし、それじゃあ俺様が祝いの歌を歌ってやるぜ!」
デニーロが拡声器を展開する。
「「やめろー!!」」
以心伝心か、俺とベニは同時に叫んでデニーロにスライディングを放った。

307:Da Noi②
07/08/19 21:51:36 pmJaEmm60
ダブルキックを喰らってデニーロが宙を飛ぶ。そして、やがて落下した。
「な、なにすんだよ!」
「アンタの超音波で、もしものことがあったらどうしてくれんの!!」
お腹に手を当ててベニが怒鳴る。
今のスライディングも十分危険だったんじゃないかと思うが、ベニのことだから大丈夫だろう。
「なにぃ…俺様の歌を馬鹿にすんのか! ベニスのくせに生意気だぞ!」
「うるさい、潰すぞ!」
いがみ合うベニとデニーロ、それを優雅に見物する森羅様、呆れて仲裁する気も失せたミューさん、さっきのショックから一転して妄想に浸っている夢お嬢様。
感慨深げに酒を飲む大佐、悔しい悔しいとすすり泣く鳩ねぇ、床に落とした料理の跡を異様な気迫で拭くハル、夢中で料理を食べ続けるナトセさん。
いつもと変わらない、けどかけがえのない光景を眺めて俺は微笑む。
だけど、これは自分の中の不安を隠す為の微笑みだった。


確かに、ベニと付き合ってから俺は今までいない幸せを味わっている。
あの発作的な悪夢も、もう俺を苦しめることはなかった。
でも、不安が消えない。
確かに子供――それも、ベニとの子供ができたと知った時は心底嬉しかった。
もし父親になれたら、子供の頃自分がそうして欲しかったようにめいいっぱいの愛情を注ぎたいと思う。
それは本当に、心からの正直な気持ちだ。
だけど、幸せになればなるほど、時間が経つほど、ベニのお腹の中で子供が育っていると思うほど、不安も大きくなっていった。
『親に虐待された子は、その子供にも虐待を行う』
どこかで聞いたそんな連鎖方程式が、否応なしに頭に浮かび続ける。
仕事に集中している時も、忘れているようでどこかに引っかかっていた。
我ながら情けねぇよ。
人生がようやく輝き始めたと思った矢先にこのザマだ。
「くるっくー。気に病んでますねー」
宴会後、廊下の手すりで黄昏てると後ろから鳩ねぇが声をかけてきた。
誰にも見られないように気を配ってたんだけどな。さすが鳩ねぇだぜ。
って、これは関心することじゃないか。
「何をそんなに悩んでるのかバレバレですよ、レンちゃん」

308:Da Noi③
07/08/19 21:55:26 pmJaEmm60
「……よくわかったね」
「あ、姉をみくびるようになってしまったなんて……そこまでベニちゃんに毒されてしまったんですかー、レンちゃん…」
よよよと泣き始める鳩ねぇを慌てて宥める。
ベニを愛してるけど、鳩ねぇも姉として大事だからな。
「まあ、冗談はさておいて。私はレンちゃんは大丈夫だと信じてますよ。頭でっかちな学者さん達の戯言に当てはまるようなレンちゃんじゃありませんから。その人たちより遥かに頭脳明晰なミューちゃんだってそう断言すると思いますよ」
「うん…だけど、ね」
俺が俺を信じることができない。
怖いんだ、オヤジよりも俺自身が。
こんなことは早く終わらせたい。
だから、ずっと考え抜いてようやく搾り出せた決意を言う。
「明日……ウチに行ってくる」
その言葉に、鳩ねぇが目を見開いた。
「どうすればいいかなんてわかんねぇ……でも、もうあのクソオヤジから逃げたくないんだ。あの野郎をブッ飛ばしてでも何でも、どんな形でもいいからケリつけたいんだ」
わざわざ自分からクモの巣へ飛び込むような行為かもしれない。
あいつと顔を合わせたら、また震えて動けなくなるかもしれない。
それでも、もうあいつの影に怯え続けるのは嫌だ。
いや、俺のこと以上にこれから生まれてくる子供まで巻き込むのが嫌だった。
何も知らずに生まれてくる赤ん坊くらい、何の負い目もなく抱きしめてやりたい。
「お仕事はどうするんです?」
「この後、森羅様に相談してくるよ。ホントはちゃんと休暇を申請したかったんだけど、先延ばしにするみたいで嫌なんだ。このまま何だかんだで理由つけてズルズルと引きずっちまいそうで。そうなってもホッとするのは俺だけで、子供は待ってはくれないから」
「……私も一緒に行きますよ」
優しく微笑んで、俺の肩にもたれ掛かってくる。
この場にいるのは俺だけじゃないと確認させてくれるように、柔らかく手を重ねてくれた。
「ありがと。でも……これは俺が自分一人でやらなくちゃいけない気がするから」
そうしなきゃ、俺は多分――いや、絶対に前に進めない。
「偉いです、レンちゃん。ご褒美に私も妊娠してあげたいですー」
「いや、それはちょっと…」
残念そうに肩をすくめる鳩ねぇ。

309:Da Noi④
07/08/19 21:59:21 pmJaEmm60
でも、ここだけの話。
実は一瞬魅力を感じてしまった……すまん、ベニよ。
「あのさ、ベニには内緒にしてくれる?」
「いいですよー。さっきも色々とベニちゃんを脅かしちゃいましたから、これ以上余計な心配させるとレンちゃんの赤ちゃんに悪いですからね。ベニちゃん自体はどうでもいいんですけど、共生関係ですから仕方ありません」
「え? 脅かしたって?」
「それはこっちの内緒ですー」


「いきなりだな」
「すいません」
森羅様のお部屋で、俺は何度目か忘れるほど頭を下げた。
「最初に言っておく。明日はかーなーりマズい。もっと前に言えば何とかなったものを……何故そうしなかった? 仕事というのはそう甘いものじゃない。わかっていると思ってたのだがな…」
「本当に…すいません」
「ベニもあの身体だ。だからこそ、あいつの負担を減らした分お前に頑張って貰うつもりだったんだぞ? 何故だ?」
「それは……」
「……訳も言えん、か。ベニはなんと言っていた?」
「いえ、ベニはこのことを知りません。知らせたくないんです」
「なに?」
「お願いします、明日一日だけお休みさせてください!!」
俺の反応がただごとではないと察したんだろう。
凛とした瞳で森羅様がじっと見つめてくる。
思わずたじろぎそうになったけど、でも視線は逸らさない。
「……全く」
しばらく黙っていたが、諦めたように森羅様は溜息をついた。
「仕方ないな。諌めても無駄なくらいお前の決意が固いのは目を見ればわかる。明日一日だけ好きにしろ。理由を聞くなんて真似もしないさ。無論、ベニにも黙っておいてやろう」
「ありがとうございます!!」
最大の感謝をこめて、もう一度深々と頭を下げる。

310:名無しさん@初回限定
07/08/19 22:03:12 zjeE+HMf0
超期待age

311:Da Noi⑤
07/08/19 22:10:21 pmJaEmm60
「ただし、当分は休みなしだぞ。いいな?」
「はい!」
何度もお辞儀尾をして、部屋を出て行く。
森羅様、本当にありがとうございます。
あとは、ベニに勘づかれないように仕度をするだけだ。


「やれやれ。似た者同士、悩みごとも最終的には一緒……か。頑張れよ、レン」
パンダのヌイグルミを弄くりながら、ベッドの上で森羅は静かに呟いた。


夜明け前。
早起きが習慣になってるベニよりも先に目を覚まして、彼女を起こさないように気をつけながら着替える。
それでも、部屋を出る際にベニの頬にキスすることだけは欠かさない。
始発電車に飛び乗って七浜から東京へ、東京からさらに乗り換えて数時間。
そしてようやく、俺は生まれ育った町へ着いた。
特に懐かしいとは思わない。
記憶に残るような良い思い出がないからだろうか。
あったとしても、それを上回る数の嫌な思い出があるからだろうか。
そんな事を考えながら家への道を歩いていく。
たまにかつてのご近所さんとすれ違うが、大抵は俺を見て驚いたような困ったような微妙な表情を浮かべていた。
まあ、無理もねぇか。
「……変わってねぇな」
前にそびえるのは、もう何があっても戻れないと思っていた家。
外観は飛び出した頃とあまり変化はないようだ。
ただ、少し寂れたような気もする。
ドアノブに手をかけて回すと、鍵は開いていた。
いるのか、あいつ。
そうでなくちゃ、来た意味がないんだけどな。
意を決して、中へと進んだ。

312:Da Noi⑥
07/08/19 22:14:01 pmJaEmm60
雨戸を締め切っているから真昼間だっていうのに薄暗い。
コンビニ弁当のパックやその他諸々のゴミがあちこちに放置され、残飯には蝿がたかっている。
どれだけ生活能力ないんだ、あの野郎。
下手すると、俺と鳩ねぇが出て行ってから一度も掃除してないのかもしれない。
もしハルが見たら全身全霊で掃除に取り掛かるぞ。
執事としてのクセか汚れ具合をチェックするように各部屋を回っていき、居間を覗きこんだ時だった。
「……ん…」
低くくぐもった呻きが耳に流れてきて、居間の片隅でもぞもぞと何かが蠢いた。
「ん…あぁ……テメェ……」
誰の声かなんて、消去法でわかった。
この家に住むのは一人しかいないから。
「テメェ………レン……か?」
あと少しでも気を緩めていたら、間違いなく目眩を起こしいていただろう。
正直、怖かった。
こいつが怖いんじゃない。
また恐怖で動けなくなることが怖かった。
もしそうなったら、ここに来た意味がなくなっちまう。
俺は、あの地獄のような生活に逆戻りする為に帰ってきたんじゃないんだ。
「ああ、そうだよ。オヤジ」
返事と同時に、忌々しい諸悪の根源を目を凝らして睨む。
そして、愕然とした。
思い出は時間が経つにつれて美化されるというが、俺の場合も当てはまるんだろうか。
尊い記憶でもないのに、目の前のクソオヤジは俺の憶えている姿より貧弱だった。
髪はボサボサで、何日も洗っちゃいないだろう。
顔も土気色で瞳は濁りきっていた。
頬も痩せこけている。
「ようやく戻ってきやがったか……随分と久しぶりだなぁ。嬉しいぜぇ、レンよぉ…このクズ息子が…」
酒の飲みすぎのせいで声も掠れていた。
これが本当に俺をずっと苦しめ続けたクソオヤジなんだろうか。
だとしたら……俺がアホみたいだぜ。

313:Da Noi⑦
07/08/19 22:17:26 pmJaEmm60
「おい…美鳩はどうした?」
「…鳩ねぇはいねぇよ」
そう答えたら、手元にあった缶ビールの空き缶を投げつけてきやがった。
昔の俺ならここで震え上がってマトモに喰らっていただろう。
だが、今は違う。
蚊を叩き落とす要領で弾き飛ばす。
軌道を逸らされた空き缶が、何度か床を跳ねて止まった。
それが試合開始のゴング代わりにでもなったのか、オヤジが飛びかかってくる。
この家にいた時みたいに殴ってくる。
だけど――まるでスローモーションだ。
大佐との闘いで俺が強くなったと自惚れていいのか、それとも不摂生のツケが回って親父が弱くなっただけなのか。
できれば、前者がいいけどな。
余裕で払い退けると、続けざまに第二撃が迫っていた。
それすら顔を逸らせて回避する。
距離だけ見れば紙一重、拳の風圧が頬を掠めた。
でも、避け方は完璧だ。そんな遅いパンチ、当たる訳がねぇ。
何だよ、これならスタンガンを突きつけた時のハルの方が速かったぞ。
「この親不孝者がっ!」
タイミング的に避けられないとわかった拳は右手で掴み取る。
大した事ねぇな、大佐の攻撃の方が何億倍も痛ぇ。
「この…この……この…クソガキ……っ!!」
次々と繰り出してきても全部避けて空振りにさせる。
そうしていると、だんだんとスピードが落ちてきた。
もう息切れしてやがる、ミューさんより体力ないんじゃねぇか。
「ちっ……このっ!!」
息も絶え絶えに蹴りを繰り出してくる。
必死だな。いや、気迫が散漫になっているのが見て取れた。
心のどこかで命中させる事はもう諦めているらしい。
ハングリーさにも欠けてるぜ、ナトセさんを見習えよ。
でも、せっかくだから期待に応えてやるか。

314:Da Noi⑧
07/08/19 22:20:22 pmJaEmm60
蹴りを受け止めて押し返してやる。
「カスがあああああああっ!!」
反動でぐらつきながら殺気を孕んだ眼光をぶつけてくる。
昔はあんなに恐ろしかったのに、森羅様の迫力に比べたら笑っちまうぜ。
「ゴミがっ!! てめぇも美鳩も俺の為だけに生きてりゃいいんだよ!」
随分と自分勝手なこと言ってくれんな。
でも可愛いワガママだ、デニーロの足元にも及ばねぇ。
「言っとくけどな…俺はテメェの為に戻ってきたんじゃねぇよ!」
一気に間合いに入り込み、産まれた時からずっと蓄積してきた怒りをこめて力任せに腹部にパンチをねじ込んだ。
「ぐおおぉっ!!」
鈍い音と共に、オヤジの身体は吹っ飛んで壁に激突した。
そのままズルズルと床に崩れ落ちる。
「……ちっ」
拳に殴った感触が残ってる。
目の前で悶絶し、這いつくばる親父の姿。
ある意味、夢にも等しかった光景なのに――何故か、虚しい上に哀しかった。
「…ホントならこんなもんじゃ済まさねぇ、済ましたくねぇけど……ま、こんなもんか。体調不良な野郎をいたぶる趣味はないからな」
「はっ、よく…言う……ぜ……」
ヨロヨロと上半身を起こして、俺を睨みつけてくる。
「弱りきった……俺を痛めつける為に…戻ってきたって訳か」
「それもいいかもな。けど、違ぇよ」
「じゃあ…何しにきやがった?」
「………子供ができた。鳩ねぇにじゃないぞ、惚れた女に俺の子供ができたんだ」
珍しく押し黙るオヤジ。
かと思ったら、いきなり天井を仰いで意味ありげに薄く笑いやがる。
鼓膜を直接撫でられるような感じがして、酷く耳障りだった。
「へぇ…おめでとう……とでも言って欲しくて帰ってきたのか?」
「勘違いすんな、吹っ切りたかっただけだ。テメェが散々可愛がってくれたおかげでイマイチ子育てに自信持てなくて困ってんだよ、いい迷惑だぜ」
「いや、心から祝福してやるよ。おめでとよ、レン……」
「!?」

315:Da Noi⑨
07/08/19 22:46:32 pmJaEmm60
どうせロクな意味で言ったんじゃないだろう。
わかりきってんだよ、そんなの。
だけど……心の奥底に嬉しがってる自分がいた。
この家に帰ってきたのも、本当はこいつの言うとおり祝福されたかったからなのかもしれない。
「女だろうと男だろうと、きっと憎たらしいほどテメェにそっくりだろうからなぁ」
「……?」
「てめぇのガキ、きっと母親を殺しちまうぜぇ? なんたってテメェの血ぃ引いてんだからな……親子二代で親殺し……く…くく……」
俺のせいじゃない。
俺のせいじゃないんだ。
仕方なかったんだ、母体が持たなくて。
他人に言い聞かせるようにして自分を無理矢理納得させても、罪悪感は消えなかった。
間違いなく一生背負い続けなきゃならない十字架。
今でも俺は母さんという代償に見合う存在なのかわからない。
「せいぜい悲しみな。俺と同じ苦しみ、ゆっくりじっくり味わえ。神様ってのは実に公平だよなぁ。俺だけかと思ってたら、ちゃんとお前にも貧乏クジ用意してくれてたなんてよぉ……」
何かが、弾けた。
身体が熱くなっていく。
堰き止めていた感情が噴出する。
止められねぇ。
気がついた時には、腕を伸ばしてオヤジの胸倉を掴み上げていた。
「だからどうした」
「ガキがぁ…離せ」
「最初から覚悟してんだよ、あいつに先立たれる事なんか」
「なにぃ……?」
「正直、アンタの気持ちもわかんねぇ訳じゃねぇ……いや、ついこの前まではわかんなかった。それ以上にわかりたくもなかったよ」
あいつが、大切になるまでは。
「惚れた相手が死んじまうなんて、それも二回も。そりゃあ悲しかったよな? つらかったよな? 苦しかったよな? 寂しかったよな? けどな、俺はテメェじゃねぇ!! 俺は被害者面も八つ当たりも責めもしねぇ。誰にだってな!」
「偉そうに…ダボがっ」
「不幸面しやがって、甘えんじゃねぇ。いい年して悲劇の主人公気取りやがって」

316:名無しさん@初回限定
07/08/19 22:57:23 Fd/QVgAK0
支援のないときは4分間隔

317:Da Noi⑩
07/08/19 22:59:30 pmJaEmm60
「どうとでも言ってな……どうせテメェもそうなるんだ、血の繋がった俺の息子だからなぁ」
「いや、なんねぇよ。言っただろ、最初から覚悟の上だって。俺はあいつより長生きしなきゃいけねぇからな」
「はっ…どんな理屈だ?」
吐き捨てるように嘲笑いやがって。
それが引き金になった。
服を握る手の力が一層強まる。
「俺が先に死んじまったら、ベニが悲しむだろうが!! だから俺はあいつより1秒でも長く生きてやる! 死ぬ訳にいかねぇんだよ!!」
生まれてから今まで誰にも、ましてオヤジ相手になんて想像さえできなかった大声で叫ぶ。
知らない人間の名前出されて訳わかんねぇだろ。
いいさ、これは俺が俺に言いたくて言ってるんだから。
もう一度、確かめる為に。
俺は母さんと等価なのかはわからないけど、だからこそ。
全てを賭けて、ベニと子供を幸せにしたい――。
癪だけど、この覚悟はテメェのおかげだぜ。
ずっとずっと、一番大事な人が死んじまったら残された奴がどんだけつらいか見せつけられてきたから。
だから、もしその時が来て。
泣き叫んで、みっともなく喚き散らして、頭が真っ白になって、気が狂いそうになっても。
それでも、ベニを悲しませる事だけはしないで済むなら構わない。
「…それに、あいつを泣かせちまったら大佐に殴られるしな」
これはただの冗談。
でも、それが言えるほど俺の心にのしかかっていた何か重いものが少しづつ軽くなっていく。
この家の空気は澱んでいるのに、妙に清々しい気分だった。
気分が軽くなったついでに胸倉を掴んでいた手を離すと、オヤジは無気力に膝を着く。
「どうせ憶えてねぇだろうが………子供の頃キャッチボールしてくれた時、俺は嬉しかったよ。テメェの単なる気まぐれだったとしても、あの時間がいつまでも続けばいい……終わってもまた来て欲しい………本気でそう願ってた」
何でだろうな。
自分でも不思議なくらい、いつのまにか喋り始めていた。
忘れることで否定していた本心を。
「……」
「多分……今だって思ってる」

318:Da Noi⑪
07/08/19 23:06:35 pmJaEmm60
「……」
「……酒やめて真面目に働いて暴力グセ直してせ。ま、望み薄だけどな。でも、何年かかってでもそれができたんなら……」
心の底に押し込んでいた想いをすらすら出せた今ならわかる。
きっと、今日来たのは祝福されたい以上にこの一言を伝えたかったからだろう。
「いつか孫の顔くらい拝ませてやる」
それだけ言って、クソオヤジに背を向けた。
今度こそ本当に今生の別れになるのか、それともまた会う事になるのか。
背中越しに俺を罵倒していたのか、ただ呆然としていたのかもわからない。
でも、今はもうどうでもいいや。
つけたかったケジメは、ちゃんとつけられた気がするから――。


駅に到着した俺は我が目を疑った。
何故だ。
ありえない。
ベニがどうしてここにいるんだよ。
最初は気分爽快になりすぎてハイになってしまったんじゃないかと思ったが、どうも幻覚ではないらしい。
幻覚なんぞがベニをここまでリアルに再現できるかっての。
しかし逆に、それが目の前の彼女は紛れもなく本物なんだと俺に思い知らせた。
「お前…」
何を言っていいかわからず、取り敢えず漠然とした言葉を口から出す。
それさえ遮るように、ベニが駆け寄ってく――。
「このドアホーっ!!」
って、いきなり脳天にチョップかましてきやがった。
しかも、かなり本気で。
「アタシにも内緒で何やってんの!」
「お前、何でここに!?」
「鳩を問い詰めたら自白(ゲロ)したのよ。あとは森羅様にお許し貰って追っかけてきた訳」
「馬鹿な!? 鳩ねぇが口を割るなんて…」
「アタシをなめんな! ここ最近なんか一人でウジウジ悩み抱え込んでたと思ったら、黙って勝手にコソコソ動き回って。そんなの雅じゃないでしょ!!」

319:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:07:45 pVlwqWbW0
支援する
しか~し私はミューさん派の人間だ!!!

320:Da Noi⑫
07/08/19 23:11:58 pmJaEmm60
「だけど」
「鳩にだけ相談しといてアタシは蚊帳の外にしやがって!」
「……ヤキモチ?」
次の瞬間、今度は頭突きが飛んできた。
「うぐっ」
「電車の中じゃキモいメガネザルがコナかけてきて、そいつの連れのぎゃあぎゃあやかましいチビにはケンカ売られるし、散々だったわ!」
「おい、ちょっと待て…どこの馬鹿野郎がお前にコナかけやがった!? ブッ飛ばしてやる!!」
「いや、もういないし。どこのどいつかもわかんねーけど」
騒々しい、それでいて和やかな4人組の一人だったとベニは言った。
本人には分不相応な高級食材の名で呼ばれていたとも。
「でも、それもこれも元はといえば全部アンタのせいでしょ!!」
怒鳴るや否や、ベニは勢いよく突進してくる。
タックルか。
確かに悪いのは俺だし、甘んじて受け入れよう。
そう覚悟した俺の予想を裏切り、衝撃はなかった。
ベニはただ、俺の胸に身体と体重を預けてくる。
彼女の淡い唇から声が漏れた。
「……心配したんだからね」
「!!」
目を伏せ、深く息を吐いて。
その華奢な身体をそっと、だけど強く抱き寄せる。
体温も、吐息も、ベニの全てがこれだけ愛しいと感じた瞬間は今までなかった。
「ごめん……ありがとな」
東京行きの電車の中、俺はベニに全てを語った。
母親が自分を産んだせいで死んだ事も。
オヤジと喧嘩などした事はなく、いつも一方的に痛めつけられてきたのだと。
見栄を張って周りに嘘をついても、家では怯えながら生きてきたその空しい半生を告げた。
最後に、嘘ついたことを謝ったら。
「イチイチ赦すようなことでもないでしょ。ま、どっかの馬鹿がアンタのこと嘘つきって責めに来てもアタシが追っ払ってやるから安心しなさい」
そう言って、彼女は笑った。

321:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:13:12 hCYEonWE0
紫煙

322:Da Noi⑬
07/08/19 23:17:35 pmJaEmm60
その笑顔の眩しい事といったら……。
お前を好きになって、本当に良かったよ。


空に一番星が光る頃、ようやく久遠寺邸の前まで辿りついたら門の所が何やら騒がしかった。
森羅様・ミューさん・夢お嬢様・大佐・鳩ねぇ・ナトセさん・ハル・デニーロの面々。
うわ、見事なまでに全員集合してる。
土壇場の休日申請、しかも森羅様専属である二人ともだ。
いつぞやみたいなお仕置き、覚悟しなきゃな。
子供に万が一があるといけないから、お仕置きは俺が全て引き受けよう。
別に鞭打ちされたい訳じゃないよ? ホントだよ?
「なーに考えてんの。ほれ、行くよ」
ベニが背中を軽く叩く。
ホント、心強い奴だよ。
「すいませんでした!!」
「申し訳ありませんでした、森羅様!!」
まず真っ先に、二人揃って森羅様に頭を下げた。
「まあ、私が許可を出したし仕方ない。だが、レン・ベニ。二度目は無いぞ」
森羅様が厳しい言葉を投げてくる。
ワガママ言ってすいませんでした、この埋め合わせは必ず。
「しかし…何があったかは知らんが、わずか一日でいい面構えになったな小僧」
大佐はヒゲを整えてダンディに決めていた。
色々すっきりしたし、今度こそアンタを越えてやるさ。
「『お片づけ』は済んだようで何よりですー、レンちゃん」
鳩ねぇが微笑んできた。
ありがとう、今までも。これからも。
「でも……姉の前でいちゃつくのはあまり関心しませんねー。そろそろ鳩も鷹に変異する頃合です」
笑顔の裏から漂っている、凍りつくような殺気。
慌てて心当たりを探してみると、いつの間にかベニと腕を組んでいた。
お咎めなしに安堵したせいだろう。

323:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:20:34 hCYEonWE0


324:Da Noi⑭
07/08/19 23:22:16 pmJaEmm60
「少しは場所をわきまえて欲しいわね」
ミューさんは呆れているが問題なし。
いいじゃないですか、これが愛です。
「全く、盛りのついたガキどもめ。始末に負えないぜ」
デニーロが悪態をつく。
お前にだけは言われたくないんだが。
「でも、これはこれで濃いよね。いいなぁ…夢も、夢もいつかバカップルなって濃く……えへへ…」
夢お嬢様が羨望の眼差しで見つめてきた。
あんまりトリップしない方が宜しいかと。
「大丈夫、夢もいつか良い人に巡り逢えるよ!」
ナトセさんはそんな夢お嬢様を励ましていた。
微笑ましいけど、お腹鳴ってますよ。
「う、う、ううう……まだまだ傷は癒えませんー…」
何故かハルは泣いていた。
どうしたんだ、お前。
「さて、お前達。二人も戻ってきたし、そろそろ夕食にしよう。ナトセもそろそろ限界のようだからな」
森羅様の一声でみんなが家へ向かい始める。
子犬のようにはしゃぐナトセさんは、気持ちが先走って早足になっていた。
「ごはん何かな? 楽しみだなー、早く食べたいなー♪」
「ベニちゃんが身勝手にも職場放棄したので、私が自慢の胡麻豆腐や甘鯛の笹巻きを作りましたー」
「おいコラ鳩!」
「次の機会はすぐ来ますから」
「もう来ねぇよ!」
「(無視)その時はおこわ風炊き込みご飯にしますねー」
そう聞いた途端、デニーロが鳩ねぇに近寄って何やら囁いた。
「なあ、美鳩。炊飯器の奴、あんまり酷使しないでくれよ? 薹が立ったら俺様の守備範囲外に……」
「こらぁ、デニーロ!」
「うわぁぁ、地獄耳すぎるぜー!!」
トコトコと、しかし本人は至って全速力で逃げてるつもりのデニーロをミューさんが追いかけていく。
この調子だと、一番着はデニーロになりそうだ。

325:Da Noi⑮
07/08/19 23:26:13 pmJaEmm60
そんなに急ぐ必要も無いし、俺はゆっくりと行こう。
ベニと手を繋いだまま、一歩づつ玄関へ進んでいく。
「ただいま」
ふいに、ポツリとこぼれ出た小さな言葉。
それを耳にしたのは隣のベニだけだった。
ベニは最初はきょとんとしていたが、すぐに微笑む。
「ん、おかえり」
誰よりも何よりも大切な奴の声と笑顔が、改めて実感させてくれた。
帰ってきたんだと――。


響き渡る遥かな潮騒。
それに負けない軽快な音が、七浜公園に木霊した。
「いい球投げるじゃねえか、よしもういっちょ! へっへへ、今度は取れるかな?」
天高く投げられたボールが、極端な放物線を描いて落下する。
幼い子供はそれを捕ろうと慌てて駆け出す。
しかし間に合わず、それどころか勢いがあまって激しく横転してしまった。
「やべぇ、大丈夫か!?」
父親が慌てて駆け寄ろうとする。
だが、それまで傍で見物していた母親が制止した。
父親に代わって我が子へ歩み寄り、しゃがみこんで視線を同じ高さに合わせる。
その際、怪我がないか確認する事も忘れない。
「痛い? つらい? もうやめる?」
痛みに顔を歪ませているものの、子供は首を何度も横に振った。
「上等!」
母親はニッと笑い、子の髪をくしゃくしゃと撫でる。
「まだまだねー、相手のレベルちゃんと考慮しないと。ほら、ちょっち貸してみ」
「あいよ」
母親が父親からグローブとボールを受け取り、子供と距離を取った。
「フライってのは……こうすんの!」

326:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:29:17 pVlwqWbW0
シ○ン

327:Da Noi⑯
07/08/19 23:30:29 pmJaEmm60
母親が放った球は、絶妙な速度と角度で子供が掲げたグローブに収まった。
間髪入れず、子供がそれを一生懸命投げ返す。
コントロールはまだまだ未熟で無茶苦茶な軌道だったが、母親はそれを難なくキャッチする。
「腕、落ちてねぇな」
「はん、あったりまえでしょ。オラ、もういっちょ行くよー!」
両親それぞれが交代しつつキャッチボールの応酬は続く。
転ぶ事もしばしばではあったが、それでも根をあげずに頑張る息子をキャッチボールが終わった瞬間に両親は抱きしめた。
汗と汚れをタオルで拭った後は、芝生に広げたシートの上で三人寄り添いながらの昼食タイム。
「母さん、昔草野球チームに入ってたからな」
食事の最中も母の野球の腕前に感心し続ける息子に父親が言った。
「まだ現役いけるわよ。アンタがもうちょっと大きくなったらソフトボールにでも入ろうかしらね。アンタもアタシ達の息子だけあってけっこー筋いいから、これからもビシバシ鍛えてやるわよ。覚悟いい?」
「おいおい、本人の意志を尊重せにゃならんだろ」
「アタシとアンタの子よ? 野球好きに決まってんじゃない」
自家製ピザソースを薄塗りしたサンドウィッチを子供の口に運びながら、母親が笑って言った。
子供も料理の美味しさと褒められた嬉しさが混ざり合い、朗らかに笑う。
「無邪気に笑ってんなぁ。意味わかってんのかね?」
「まあ、無理強いするつもりなんて勿論ないわよ」
「誰よりもわかってるよ、お前はそんな事しない」
母親の頬が彼女の名前どおり朱に染まる。
そんな様子が相変わらず可笑しく、そして愛しい。
「野球が好きでも嫌いでも、どうにでもなるさ……これからも、ずっと一緒だからな」
「そうね、レン」
自分達を優しく包み込むように通り過ぎる心地よい潮風を味わいながら、錬はそっと静かに目を閉じた。
七浜に来てから今日までの日々を、心の中で反芻する。
姉と共に大道芸で生計を立て、未有を助けた事が縁となり久遠寺家に拾われた事を。
森羅の専属従者となり、朱子と常に諍いを繰り返した事を。
罰ゲームで彼女と共に大佐のナルシスト本を売りさばく羽目になった事を。
彼女と行った野球観戦が白熱して楽しかった事を。
山の中で彼女の優しさを知った事を。

328:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:36:25 P7sVnovc0
支援

329:Da Noi⑰
07/08/19 23:37:56 pmJaEmm60
大佐に彼女の過酷な幼少時代を聞いた事を。
彼女の誕生日に結ばれた事を。
そして、家族になった事を。
愛する人たちと共に過ごし、これからも歩んでいくに違いない燦然たる軌跡を――。
「おーい、眠いんか?」
眠りの淵から自分を引き上げる声に、錬は瞼を開けた。
「ああ、いい天気だしな」
「そんじゃ、みんなで昼寝したら帰ろうか」

「我が家へ」

330:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:42:55 pmJaEmm60
『Da Noi』、これにておしまいです。

初めての投稿だったので色々と手間取ってしまいましたが、支援して下さった方々ありがとうございました。
今後、相互補完話も書く予定です。

331:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:43:56 P7sVnovc0
>>330
超乙&超GJ

332:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:45:12 zjeE+HMf0
タカ○ロ降臨ktkr
本編に入ってたら確実に泣いたシナリオだと思いました
親父の不摂生ぶりを久遠寺ファミリーと対比させているのがツボでした
(わざとだと思うけど)でも夢を忘れているよ?w
DA NOIっていうのはどういう意味ですか?
とりあえず、乙でした!


333:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:45:42 Fd/QVgAK0
>>330
乙。
題材や流れの持っていき方はベネ。
読みやすい位置で改行を入れることと
内容をもっと絞るとよくなるよ。gj。

334:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:47:48 wPpvSBoc0
>>330
ちょっと無駄が多いのが残念だがGJ

335:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:48:20 pmJaEmm60
『Da Noi』というのは、イタリア語で「我が家」という意味です。

お察しの通り、夢を忘れているのはわざとだったり(笑)

336:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:49:41 kXEYhnOk0
GJ! オヤジさんカワイソス

337:名無しさん@初回限定
07/08/19 23:51:25 pmJaEmm60
333・334>ご指摘して下さってどうもありがとうございます。
今後、精進していきたい所。

338:名無しさん@初回限定
07/08/20 01:14:24 aA6sQ2O60
乙&GJ
とりあえずいいSSだったw
次はギャグにも挑戦だ

339:名無しさん@初回限定
07/08/20 06:31:11 emRQDJ2F0
えがった。
GJ

340:名無しさん@初回限定
07/08/20 13:44:45 BeY1dje10
GJ!
ベニは最高。

341:名無しさん@初回限定
07/08/20 17:14:00 a/rSfmDoO
GJ!超GJ!

342:名無しさん@初回限定
07/08/20 18:42:48 oeTUnZuc0
GJ!!
てか、フカヒレ自重www

343:名無しさん@初回限定
07/08/20 20:19:34 5vXHwVwl0
レンの家庭環境ってスバルとかぶってしまうと感じるのは俺だけ?

344:名無しさん@初回限定
07/08/20 21:11:29 X+8N024q0
自分も同じです。



345:名無しさん@初回限定
07/08/20 21:31:45 jGIpVi8yO
中の人更新乙

346:名無しさん@初回限定
07/08/20 22:23:16 emRQDJ2F0
中の人乙
しかしこうして見るときみあるSSもだいぶ増えたね
善哉善哉

347:名無しさん@初回限定
07/08/21 11:32:05 iL5Bnm3o0
>>330にコンペイトウをやるのがマイブーム

348:名無しさん@初回限定
07/08/23 05:56:00 WmHcMdB80
gj

349:記憶(1)
07/08/24 22:28:27 zWqEBPT40
それは突然やってくる。 最近はなかったのに。 もう解放されたと思ったのに。
どれだけ一日が楽しく過ぎても、何の予告もなしにやってきては、僕の心を蝕んでいく。
あの頃の忌まわしい記憶だ。
薄暗い部屋でたった一人、すすり泣いている僕がいた。
まだ小さい時だったけど、あそこで育った事は絶対に忘れる事ができない。
そして今日も、僕はあの頃の夢を見てしまうんだ。
「さぁ、千春君。 今日も私とお勉強の時間だよ」
「あ…ああ……こ、来ないで…」
小さい時の僕が、ものすごく脅えた目をして、あの忌々しい男を見ていた。
逃げようとしてもここは部屋の中、逃げ場なんてどこにもない。
「何を言ってるんだ、千春君。 ああ…可愛いなぁ……」
そう言って男は、小さい僕を捕まえて、ゆっくりと服を脱がしていく。
「や…や……やめて!」
払いのけようとした手が、男の頬を叩いた。
「…テメェ、何しやがる!」
そして小さい僕を何度も殴りつけた。
一通りの暴力が終わると、ぜぇぜぇと男は息を切らして言った。
「ああ、すまないねぇ、千春君。 でも、君がいけないんだよ? 私を叩いたりしたらダメじゃないか」
そして、男はおもむろに下着を脱いでいく。
「さぁ、今日もお勉強をしようじゃないか…」

「うあぁぁぁぁぁ!! はぁ、はぁ……」
そこで目が覚めた。 あれ以上見続けるなんて、おぞましいにもほどがある。
全身は嫌な汗でびっしょり。 寝ていたはずなのに、ものすごい疲労感が全身を覆う。
「また…あの夢か……」
どうしてなんだろう。
もうあそこには誰もいないはずなのに。
もう過ぎ去ったことなのに。
どうして思い出してしまうんだろう…

350:名無しさん@初回限定
07/08/24 22:29:00 ajcDbdAL0
期待age

351:記憶(2)
07/08/24 22:31:02 zWqEBPT40
ベニ公のやかましいドラの音で目が覚めた。 今日の天気もよさそうだ。
いつものように執事服に着替え、身だしなみを整えてから1階に集合した。
「ん? おい、ハル。 朝から元気がないな」
皆が気合の入った顔をしている中、ハルは何だか憔悴した顔をしていた。
昨日はあんまり寝れなかったのかな?
「え? い、いやぁそんなことないですよ」
腕をブンブン振り回して元気のよさをアピールしていたが、やはりどことなく元気がなさそうだ。
俺と鳩ねぇも新参者とはいえ、皆のちょっとした雰囲気の違いとかはわかる。
今日のハルはまさにそれだ。
ん? そういえば…ハルって昔は一体何をして、どこに住んでたんだ?
本人も話そうとしないし、屋敷中の誰も話そうとしていないしなぁ。
まぁ、余計な詮索はしないほうがいいとは思うけど…
朝食の時に、それとなくベニ公とナトセさんに聞いてみることにした。
「なぁ、ベニ公とナトセさん。 ハルの奴、やっぱ様子がおかしいよな?」
「んー、そうね。 ま、たまにあることよ。 そういや、アンタ達が来てからなかったわね」
「そういえばそうだね。 何だか、夜中にうなされてるみたいだったよ」
「つーことは、嫌な夢でも見たってことか」
「ま、そーいうことね。 そんなに気にすることじゃないわよ」
うーむ、やっぱりそんなもんなのかな?
やっぱ俺としては、アイツも俺を頼っている事だし、何とか力になってやりたいけどなぁ。
ちらりとハルのほうを見たが、やっぱり元気がない。
「おい、ハル。 手が止まってるぞ。 食わねぇと力が出ないぞ」
「へ? あ、いやぁ、その…ちょっと食欲がなくて。 あははは……」
やっぱり気になる…どうかしたのかな?

352:記憶(3)
07/08/24 22:33:27 zWqEBPT40
元気のなかったハルだが、いざ仕事となればいつもの通りに戻っていた。
今日も元気に、汚れを見つけては超がつくほど念入りに落としていた。
やっぱり俺の勘違いなのだろうか?
昼飯の時もベニ公にからかわれてピーピー言ってるし。
一日、ハルのことをそれとなく見ていたが、結局どうということはなかった。
そして、晩飯が終わって…
「さーて、風呂にでもするか」

ガチャリ

「また来やがったな、このボケナス!」
ベニ公が着替え中で、ドアを開けた俺に鉄拳パンチ! しかし、俺もただのバカじゃないぜ!
「見切った!」
「なにィ!?」
屈んでパンチをかわした。 しかし、体勢を低くしすぎたのか…
「!?!?!?!?」
ベニ公の股に俺の顔がモロにくっついた。
「…さ、さて、そんじゃ俺はお祈りに行く時間だから失礼するぜ」
さすがの俺も今回だけは、何とかごまかして逃げようとしたが…
「い…い……いっぺん死ねーーーー!!!!!!!」

ボグシャーン!!

近くにあった予備の桶で思いっきり殴られた。
さすがの俺も今回は、意識が遠のいていくような感覚に見舞われた。
ああ…この世で最後に見たものがベニ公の股だったなんて…
どうせなら…は、鳩ねぇの…ほうが……

353:記憶(4)
07/08/24 22:36:39 zWqEBPT40
「う、うう…」
「あ、気がついたみたいですよ、ナトセさん」
「本当だ。 大丈夫、レン君?」
「こ、ここは…?」
辺りを見回したが、どうやらここは俺の部屋らしい。
「びっくりしたよ。 ベニのすごい怒鳴り声がして何かと思ったら、レン君が廊下で倒れてたから」
「で、レン兄の部屋に運んだというわけです」
「そうだったのか…あれ、鳩ねぇは?」
「今、ベニと一緒にお風呂に入るって言ってたよ」
ナトセさんがやれやれといった表情で言った。
「あれこそまさしく、鳩が鷹になる瞬間なんですね…」
何だかハルはガクガクと震えていた。

「や、やめ…こら、ハト!」
「ベニちゃんはイケナイ子ですねー。 レンちゃんをたぶらかそうとするなんて…」
「アホか! 仕掛けてきたのは下男のほうだっつーの!」
「そんなベニちゃんには、私も性的なおしおきをしないといけませんねー?」
「ひゃうっ! そ、そこは…森羅様にしか…触られたことない…のに……」
「うふふ、こうしてみるとベニちゃんもなかなか可愛いですねー。
 もちろん、レンちゃんには負けますけどねー」
「や、や、やーめーろー!! あ、ああぁ……ん…」

「まぁ、ゆっくり寝ておきなよ。 それじゃ、私は部屋に戻るから」
「うん、ありがとう。 ハルも行けよ。 俺はもう大丈夫だからさ」
「そうですか? それじゃレン兄、おやすみなさい」
ナトセさんとハルは、そう言って俺の部屋を後にした。

354:記憶(5)
07/08/24 22:40:29 zWqEBPT40
「うーん…寝苦しいなぁ……」
夜中の2時だってのに、目が覚めてしまった。 よく考えたら、俺って風呂に入ってないじゃん。
さわってみると、体のあちこちがベタベタする。
「仕方ない、ちょっと汗を流すか…」
部屋を出て、風呂場へと向かう。 ドアを開けるときに注意したが、やっぱりベニ公はいない。
しかし、どうやら先客がいるようだった。
「これは…ハルか?」
男物の服が床のあちこちにちらばっていた。 サイズが小さいから大佐でないのは確かだ。
となると、もうハルしか該当する奴はいない。
「おーい、ハル。 入ってるのかー?」
ドアの外から呼びかけてみる。 だが返事はない。
まさか湯船の中で寝てるってことはないよな? だとしたら、アイツ何時間風呂に入ってるんだ?
「おい、ハル!」
心配になって、勢いよくドアを開けた。
中にいたハルは…シャワーを浴びながら小さくうずくまって震えていた。
これは明らかに様子がおかしい。 何かの発作か?
「ハル! ハルってば、おい!」
小さく顔を上げたハルの目の下にはくまができて、目も真っ赤になっていた。
「あ…レ、レン兄……み、見ないで!」
ハルはそう言うと、俺に背中を向けてしまった。 しかし良く見ると、ハルの背中には無数の傷跡が…
「お前…その傷は……」
「うっ! そ、その…ご、ごめんなさい!!」
ハルはびしょ濡れのまま、風呂場を飛び出していってしまった。
ちらばっている自分の服もそのままにして。
「どうしたってんだ、アイツ…」
心配になったので、ハルの部屋まで行ってドアをノックしてみた。
「ハル? おい…」
「ご、ごめんなさい…レン兄……一人にしてください…」
ドアの向こうから涙まじりの弱々しい声が返ってきた。

355:名無しさん@初回限定
07/08/24 22:41:52 ajcDbdAL0
支援

356:記憶(6)
07/08/24 22:43:20 zWqEBPT40
やっぱり今日もハルは元気がなかった。 せっかくの日曜日だってのに。
ちなみに、ベニ公も元気がなかった。
「ハ、ハトに…陵辱された……」
みたいなことをブツブツ言っていた。
そんなことより、ハルが心配になって話を聞いてみようとしたが、ハルは俺を避けるかのような行動をとっていた。
「これは心配だ…夢お嬢様の専属なんだし、夢お嬢様なら何か知ってるかもしれないな」
俺は夢お嬢様の部屋へと行ってみた。 中では何やら妄想にふけっているお嬢様がいた。
本人から『ぽわーん』という擬音が聞こえてきそうだ。
「えへへ…舐めるように綺麗にするんだよ…舐めるように……」
「おーい、お嬢様ー?」
「わうっ! な、なんだぁ…脅かさないでよぅ。 何か用事なのかな?」
「ええ、実はハルのことで…かくかくしかじか」
「ほうほう、なるほど…」
しかし、お嬢様は困った顔をして見せた。
「残念だけど、私からは何も言えないよ。 ハル君って、自分のことを話そうとしないんだよ。
 ナトセさんや朱子さんのことなら知ってるけど、ハル君はちょっと…わかんないや」
うーむ、ご主人様である夢お嬢様にすら話していないとはな。
だとしたら、後は…

「それで私の元に尋ねにきたと言うわけか、小僧」
「ああ。 大佐なら何か知ってるだろうと思って。
 いくらこの屋敷で働いてるのがワケありばかりとは言え、一応事情は聞いてるんだろ?」
「まあな。 ふむ…教えてやらんでもない」
「本当か!?」
「だがな、小僧。 あ奴のことを思うのであれば、あ奴本人から聞くことだな」
「え?」
「悲しい過去を乗り越えねばならん。 それは人が成長する過程で最も大切な事の一つだと私は考えている。
 これは試練だと、本人に受け止めさせなくてはならんのだ」
ハル自身の口から、か…

357:記憶(7)
07/08/24 22:46:24 zWqEBPT40
夜、風呂からベニ公とナトセさんが出て行ったのを確認してから、俺はハルの部屋を訪れた。
「おい、ハル。 お前、風呂まだか?」
「え? ええ、まぁ…」
「よし、じゃあ一緒に入るか」
「え、ええ!? い、いいですよ。 僕は一人で…」
「いいから来いっての!」
嫌がるハルを部屋からズルズルと引きずり出し、風呂場まで引っ張ってきた。
「ふー、今日はよく動いたからなぁ。 ホレ、お前も脱げよ。 俺がお前の背中を流してやる」
「で、でも…」
「いいから!」
俺は無理矢理ハルを脱がした。 男の服を脱がせる趣味はないが、今は我慢しよう。
やはりハルの体には、無数の傷や火傷の跡のようなものがあった。 とりあえず俺はハルを背中を向けて座らせた。
「レン兄…その…」
「何も言うな。 黙って背中向けとけ」
お湯をかけて、石鹸を擦りつけたタオルでハルの背中を擦っていく。
ハルは何も言わない。 俺も何も言わない。 風呂場は完全に静まり返っていた。
「よし、お湯かけるぞ」
ざばっと桶のお湯をかけ、そして今度は俺がハルに背中を向けた。
「そんじゃ次は、ハルが背中を流してくれよ」
「レン兄…し、失礼します」
今度はハルが俺の背中を擦りはじめた。 俺は何も言わなかったが、ハルはゆっくりと、その口を開いた。
「レン兄…驚かないんですか?」
「何が?」
「だって、僕の体の傷のこと…」
「聞かねーよ。 それに、俺だって傷だらけだもんな。 ただ、お前から話すってんなら別だけどな」
「え…」
「ま、一応言っておくなら、誰かに話すことで楽になるってことはあると思うぞ」
「レン兄、やさしいんですね……僕…うっ、うっ……」
俺の背中を擦ったまま、ハルは涙を流した。 何だか俺もつらい。
もらい泣きをしてしまいそうだった。

358:記憶(8)
07/08/24 22:50:18 zWqEBPT40
そんな日が何日か続いた。
俺はハルから話すのをじっと待って、夜は必ず一緒に風呂に入るようにした。
裸同士の付き合いなら、ハルも腹を割って話してくれるのではと思ったのだ。
そしてある日の夜、ハルが俺の背中を流している時、とうとう言ってくれた。
「あの…お話、してもいいでしょうか? 僕の昔のこと…」
「ああ。 聞いてやるよ」
ついにハルの口から、その言葉が出てきた。 その言葉をどれほど待っただろうか。
俺とハルは湯船につかった。
「僕は捨て子だったんです。 それでずっと、教会で育てられました。
 そこの神父さんは捨て子を見ていられないということで、僕を含めて何人かの子供が一緒に住んでいました」
ハルは自分の昔のことをゆっくりと語り始めた。
「神父さんはとってもいい人でした……あくまで表面上では、ですが」
「何?」
湯船のお湯を手ですくい、自分の顔にかけるハル。
「その神父さんには特殊な性癖がありました。 その…子供に対して……」
「マジかよ…」
「はい。 夜な夜な子供を部屋に連れては、そこで……
 抵抗しようとしたりすると、容赦なく暴力でねじ伏せるんです。 ほら、僕の体も……」
そう言うと、ハルは左肩の火傷の跡を見せた。
「これは、火のついたままのタバコを押し当てられたんです。
 お腹や背中にも、いっぱい殴られたりした跡が…」
「ハル…」
ハルは肩の傷を手で擦った。
「とれないんです…いくら家の汚れを落としたって、僕の沢山の傷は落ちないんです…」
ハルの目からは涙が出てきた。
「特に神父さんは僕のことがお気に入りでした。 神父さんの部屋で、何度も何度も…
 そのたびに僕は、何度も死のうと思いました。 だけど、僕は生きたかったんです。
 生きていれば必ずいいことがあるって本で読んだことがあって、ずっとそれを自分に言い聞かせてました。
 今はこんな人間らしい生活なんてできなくったって、きっといつかは…」
自分の涙をぬぐうと、さらに話を続けた。

359:記憶(9)
07/08/24 22:53:12 zWqEBPT40
「やがて、僕と同じ目にあっていたある子がついに行動を起こしました。
 神父さんに呼び出されたとき、隙をみて神父さんを包丁で刺したんです」
「!?」
「そしてその子は、部屋のいたるところに灯油をまいて火をつけました。
 でも、その子は死にかけの神父さんに道連れにされて…
 その一件で、僕達は一瞬で住む場所を無くしました。 教会も何もかも、全部灰になっちゃいましたから。
 みんな離れ離れになって、僕もボロボロになって途方にくれていたところを、大佐に拾われたんです」
「そうだったのか…おっと、のぼせちゃいけないな。 出るか」
俺とハルは湯船から出て、体をふいていた。 そして、長い沈黙の後、ハルはまた話し始めた。
「…これでわかったでしょう。 僕は汚れてるんです。 多分、この屋敷の中で誰よりも一番……」
ハルはそう言うとうつむいてしまった。 俺はそのハルの顔を無理矢理あげさせて…
「お前…ていっ!」
ハルの頬を叩いた。 パシンッ!といい音が響いた。
「い、痛い! レン兄…」
「お前な…バカだよ……ここの人達は、いい人だってわかってるだろ?
 ベニ公やナトセさんだって、辛い過去があっても、森羅様達がしっかりと面倒見てくれてるだろうが。
 そんな過去を持ってるぐらいで、へこんでるんじゃねぇよ。 俺だってな…」
「…レン兄?」
「とにかくだ、お前のことはよくわかった。 辛いのもわかる。 だからって、ウジウジするなよ。
 どうしても辛くて仕方がない時は…俺が胸かしてやるさ。 思いっきり泣けよ。 な?」
「レン…兄……ぼ、僕…うわぁぁぁぁん!!」
ハルは俺の胸に飛び込んで泣いた。 これでもかと言うぐらいに。 今までの辛さを全部洗い流すように。
「わぁぁあぁあぁぁぁ…」
「今まで…つらかったろうな……」
そのまま俺がハルの頭をなでている時に…

360:記憶(10)
07/08/24 22:56:38 zWqEBPT40
「歯磨き忘れてたわー。 アタシとしたことが、雅じゃないわねー」

ガチャリ

「ア、アンタ達、何で裸で抱き合ってんの…?」
「あ、朱子さん…その……」
「いや、それはだな…これには深い事情があって……は、ははは…」
「……邪魔してゴメン。 そんじゃ」

バタン

「うわー! 待て! 誤解だって!!」
「そ、それはないですよ朱子さぁん!」
「あー! あー! あー! アタシは知らない! 何も知らない!」
そのままベニ公は部屋まで大急ぎで戻っていった。
俺もそれを必死で追いかける。
「誤解だって! まずは落ち着いて俺の話を…」
ベニ公の部屋の前まで到着し、そのままドアを開けた途端、腰に巻いていたタオルがはらりと落ちた。
「だからさぁ、あ……」
俺の息子がベニ公に向かってこんにちわをしてしまった。
「ちょっと! ハルとヤれなかったからって、今度はアタシか!?」
「ま、待て! 俺の話を…」
「近づいてくんな! つーか出てけー!!」

ボクシャーン!!

その後、気絶した俺はまたもやナトセさんとハルに部屋まで運ばれた。
「レン兄、本当にありがとうございました。 なんだかもう、あの夢にうなされないような気がします」
目が覚める直前、そんな声が聞こえたような気がした。
ハルのことをちょっとだけわかってやることができた、そんな夜だった。

361:シンイチ
07/08/24 22:59:31 zWqEBPT40
ハルふたたび。 ってまたかよ!
いや、でもね、やっぱりハルはかわいいですよ、うん。
次こそは、次こそは別のキャラで…とか言いながらハルになりそうな気がする。

362:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:00:04 UiSoGx980
ちゃんとオチたかw
面白かった GJ!

363:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:11:57 sFnT4NgN0
最初元気がなかった理由がわからんがgj

364:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:14:25 qG65kXP+0
おもろいww とても素人の作品とは思えんw
これくらいのレベルのを10本集めて挿絵と
マンガを入れたら350円くらいで売れそうだな

365:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:19:36 wLaEf6Dw0
>>363
久しぶりに昔の夢を見たからだろ

ただなんで昔の夢を、というのが抜けてるが
比較的似た境遇のレンが現れたことで思い出した

と脳内で補完しつつgj

366:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:21:24 wLaEf6Dw0
>>361
(3)とか(4)のギャグはギャグ単体ではおもろいが
流れ的にはいらないんじゃね?

367:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:25:49 UiSoGx980
>>366
オチの伏線だろ?

368:名無しさん@初回限定
07/08/24 23:31:03 qG65kXP+0
>>363>>365
どっちかというと、落ち込むハルよりも落ち込むハルをそこまで気にかけるレンのほうが若干不自然なんだが
もう一行、レンがハルの姿に昔の自分を見て・・・というのが入ってればよかったと思う
まあ、全体としては、十分GJだろう

369:名無しさん@初回限定
07/08/25 15:30:26 QisJu7X/0
368に同意しつつGJ&乙を贈ろう!

連荘だしハル(男)から離れたいな次は。
この際ヒロインじゃなくても大佐でもデニーロでもいい。

370:名無しさん@初回限定
07/08/25 20:30:26 LAGyQ2W10
大佐の修行時代やデニーロの製作秘話が読みたい

371:名無しさん@初回限定
07/08/25 22:57:27 PuMgWvQxO
>>115

372:名無しさん@初回限定
07/08/26 00:29:03 EOOvajtcO
>>318

373:名無しさん@初回限定
07/08/26 00:37:56 EOOvajtcO
>>364

374:名無しさん@初回限定
07/08/27 22:15:11 Rz0+Bttn0
鳩ねぇの小説も読んでみたいな。

でも好きなのを書いてください。どんな話でもありがたいのです…。

375:君が対馬でエリカが俺で
07/08/29 08:14:37 Lg9VjeKPO
朝、目を覚ますと姫になっていた。
隣にはスヤスヤと心地よさげに眠る俺がいる…恐らく今は姫の意識が入っているのだろう。
そう思うと自分の間抜け面も愛おしく思えてくる。

俺(姫?)を起こさないよう、ゆっくりとベッドから身を起こす。
そうすると、目の前にある姿見-姫が持ってきた-に自分の身体が映る。
昨日も一戦…六戦くらい交えた後、お互いそのまま眠ったので、当然のことながら全裸だ。
何度も見ている筈なのに、いつもいつもドキドキさせられる。
何度も見ている筈なのに、いつもいつもドキドキさせられる。
「(う…やば、少し興奮してきた)。」
と、本来なら愛息がエレクチオンする筈なのだが、悲しいかな現在、そこは金色の野に咲く一輪の華しかない。

376:君が対馬でエリカが俺で2
07/08/29 08:17:06 Lg9VjeKPO
「(…つーか、さっきまで俺がここをいじったり、舐めたり、挿れたりしてたんだよなぁ)。」
そう思いながら、後ろを見やる。そこにはまだ深い眠りにある俺本来の肉体が…て、あれ?いない?
「お嬢様ナイトスクープっ!!」
「うおっ!?」
いきなり、ぐわしと胸掴まれ思わず姫らしくない言葉をだしてしまう。
案の定、どこに潜んでいたのか、俺(IN姫)が俺の胸を揉みしだき出す。
「うーん、やっぱり自分で揉むのと他人として揉むのとでは感覚が違うのね!これは大発見ね!」
「ちょ、姫ぇっ!?」


377:君が対馬でエリカが俺で3
07/08/29 08:27:55 Lg9VjeKPO
「私、前から自分の肉体には自信があったんだけど、やっぱり素晴らしいわ!特にこの胸!!嗚呼、理想のおっぱいを探して早幾年、まさかこんな近くに答えがあるなんて、正に幸運の青い鳥は庭にいましたって感じね!?」
ダメだ、完全にトリップしている。しかも俺の声のせいか、なにげにムカついてくる。くそう、そのおっぱいは俺のなのに!…いや、現在揉んでるのは俺(IN姫)なんだから、俺なのか?そもそも俺とは…、
「あ、乳首勃ってきた。うわー、コリコリしてるー。」
「ちょ、姫自重を!」
「いいから、いいから、自分の身体は、自分が一番よく知ってるし。損はさせなうから。」
「そーいう問題じゃ…あんっ!」


378:名無しさん@初回限定
07/08/29 08:29:00 ehrRyTy50


379:君が対馬でエリカが俺で4
07/08/29 08:33:02 Lg9VjeKPO
「ホラホラ、対馬くんもせっかく女の子になったんだから、もっと楽しみなさいっ。えいっ!」
「あおっ!?」
突然の下半身への衝撃に、またもや姫らしくない声を上げてしまう。
「うーん、やっぱ私ってお尻が弱点なのか…ちょいショック。」
「ひ、姫ナニヲ…?」
「いや、対馬君よくお尻いじってくるから。たまには自分でもやってみようかと。」
「ちょ!ん!あん!」
やば、だんだん頭がボンヤリ…。
「うわっ、少しいじっただけなのに、こんなに濡れてきた!複雑な心境だわ…。」
「だ…、だめ…んんっ!!」
「うわっ!?」


380:君が対馬でエリカが俺で5
07/08/29 08:38:14 Lg9VjeKPO
全身に稲妻が走るような感覚の後、俺の意識はそこで途絶えた。
消えゆく意識の中、「潮」とか「失禁」とか聞こえたが、最早何もできない。
以前誰かが女性の絶頂は、男性とは比べものにならないほど強いらしい。
つーか、お尻いじられただけで達するとは、やはり姫はソコなのか…。
つか、これからどうすりゃいいんだ…?



381:名無しさん@初回限定
07/08/29 08:39:06 ehrRyTy50


382:名無しさん@初回限定
07/08/29 08:47:14 Lg9VjeKPO
初めての書いてみたのですが、いかがでしたでしょうか?
次は逆襲に走るレオ(姫IN)を書いてみたいです。

383:名無しさん@初回限定
07/08/29 08:58:44 ehrRyTy50
携帯から乙 もうちょっと読みたかったけどGJ

384:名無しさん@初回限定
07/08/29 11:15:22 LbiBTjnz0
GJ

385:名無しさん@初回限定
07/08/29 14:54:51 qIJ6F+qd0
GJ☆
だが少し短めなのが残念、
このシチュなら外出するだけで良いネタになりそうなのに

386:名無しさん@初回限定
07/08/29 15:25:48 FIgCkPX50
面白いけどなんで入れ替わったのかワカラン

387:紅の道①
07/08/29 17:58:51 EFhAjhaQ0
もはや二人の部屋同然になってるレンの部屋。
大切な熊のぬいぐるみと栄冠のトロフィーが横に飾られたベッドの上で、
弱体化した月光に照らされて青みがかるレンとアタシ。
「レン…」
「ん、起きたのか?」
毛布の中で手と手を絡めて柔らかく握り合う。
言っとくけど、エッチはしてない。
「あのね……赤ん坊、できたわ」
「…………What?」
ビックリするのはわかってたけど、これ程とはね。
「あ、あの、ベニスさん。もう一度言って頂けますかね?」
「ハルみたいな口調になってんぞ。だーかーらー、妊娠したって言ってんの」
「マジか!?」
「マジ。今日の病院ではっきりと」
最初に妙だと思ったのは数週間前から。
レモンとかすっぱいもの無性に食べたくなったのがキッカケ。
後は吐き気と倦怠感が時々訪れるようになった。
すぐレンには見抜かれて休むように言われ、森羅様に進言されちゃしょうがない。
それでも、鳩に台所を占領されるのが嫌で今日は全快を装って働いていたけど。
挙句の果てに台所で倒れそうになった。
鳩に助けられてしまうなんて一生の不覚。
あいつの事だから、この先きっと恩着せがましくネチネチ言ってくるに違いない。
そんなこんなで、レン付き添いのもと病院に行かされて医者から病名を聞いた。
結果は、まごうことなき妊娠。
「道理で調子悪かった訳だ。大事な事なんだから、病院帰りに言ってくれよ」
「月明かりの下、手を繋ぎながら告白した方が雅でしょ」
レンや森羅様たちが心配して原因を聞いてきても、
疲れたから眠ると言って答えを先延ばしにしていた。
鳩とデニーロ以外には後でちゃんと謝ろう。
「そこまで拘るんか」
「それがアタシだから。それに、アンタに一番最初に伝えたかったし」

388:紅の道②
07/08/29 18:02:12 EFhAjhaQ0
そりゃあアタシも最初は戸惑ったわ。
けど、それ以上に嬉しかった。
だって、アンタとの間にできた命だから。
アンタも喜んでくれると確信してる。
「お前、間違ってんぞ」
「え……?」
「さっき言ってくれた方が、みんなで一斉に喜べてより雅だったろ?
 何より、俺がもっと早く聞けた」
そう言って、微笑んでくれた。
本当に喜んでくれてるのはわかる。
でも、同時にどっかで苦しんでいるのもわかった――。

そんなこんなで開かれた祝いの宴。
森羅様たちに色々と名前の提案を頂いたけど、こればっかりは産まれてからでないとね。
「くるっくー。叔母さんになるんですね、私」
デニーロに打ち勝ったところで鳩が話しかけてきたけど、適当にあしらおう。
「そうなるわな」
「ところで、他愛ない話をおひとつ。女の人が妊娠してる時って、
 男性は浮気しやすいんですよ。知ってましたかー? 知らないですよねー」
「何が言いてぇんだよ!」
「憐れですねー、惨めですねー、可哀想ですねー」
「やかましいわ!!」
マジで腹が立つわ、コンチクショウ。
レンはアホゥだから、そんな事しないっての。
今だって夢っちやナトセと話してて、姉の悪行に気づいてないし。
「よせんか、お前達。宴でいらん騒ぎを起こすのは無粋だぞ。デニーロとの一件もそうだ」
「た、大佐…すみません」
「すみませんでした。ベニちゃんもこの通り反省してますから勘弁してあげてください」
「鳩……テ、テ、テメェ……」
いかんいかん、ストレス溜めると子供に良くないっていうし。
後でハルをいじめてスカッとしよう。
とばっちりだけど、ウチの子の為だから光栄に思いなさい。

389:紅の道③
07/08/29 18:06:00 EFhAjhaQ0
「まあ飲め」
大佐と話していたら、森羅様が不意にビンを差し出してきた。
レンはさっきの報復とばかりに理不尽ないちゃもんをつけるデニーロに絡まれながら、
ミューさんたちと盛り上がっている。
「あの、森羅様。お酒はちょっと……」
「わかっているさ。これはジュースだ」
「それなら喜んで頂戴します」
グラスに注がれたジュースは口当たりが良く、喉を滑らかに滑っていく。
「しばらくお前と酒を交わせないのが残念でならん。まあ、その分レンに頑張ってもらおう」
「……エールを送っておきます」
「ところで明日の確認だが、今日来日した我が師が川神市のコンサートで指揮する」
そうだった。ピロシキ大好きという爺さんを空港まで迎えに行く予定だったのを、わざわざ
中止してまでこの宴を開いてくださってたんだ。
打ち合わせとか色々あった筈なのに……。
『コンサトート大成功の前祝いも兼ねるから丁度いい』
そう自信たっぷりに笑ってくださっていたけど、本当にありがとうございます。
「私も第二部で指揮を執るから大佐も連れて行くつもりだ。ハルも恒例のセミナーだし、
 その分家が手薄になってしまうが……」
「小僧がおりますから大丈夫でしょう」
「ふふ、大佐も随分とレンを買うようになった」
「そうでなくては、この先困りますからな」
「確かに。大黒柱は屈強でなくては。なぁ、ベニよ」
「ええ、まあ…」
レン、さっきの愛想笑いといいどうも昨日から様子がおかしい。
あんな大根演技で隠してるつもりかしら。
具合悪いって訳じゃないんだろうけど、思いつめたみたいで。
一体何をそんなにウジウジしてんのよ。
アタシにも言えないのか。話せないのか。
もし心配かけないようにしてるんなら大間違い。
アンタが相手なら心配しないより心配する方が断然マシだわ。
何を抱え込んでるか知んないけどさ、相談しなさいっての。

390:紅の道④
07/08/29 18:10:03 EFhAjhaQ0
「それはお前にも言えるだろう、ベニ」
「はい?」
「思ってる事が丸わかりだ、レン共々腹芸のできん奴め。だがそれがいい」
「…別にご相談する程の事でもないと思ってたんですけどね」
「お前にとってもたいした事ではないだろうがな。私の目は節穴ではないぞ」
流石は森羅様、ご慧眼恐れ入ります。
「案ずるな、ベニ。お前はお前のままでいい」
「と、仰りますと?」
「それが、お前の悩みにとって最善の策という事だ。そのままでいけ。だが、レンに正面きって
 告げるべきだろう。全てを分かち合うのが恋人……いや、家族だからな。どんな悩みでも
 包み隠さず話し合え」
その時、ミューさんがチラリとこっちを意味深に見てきた。
すぐに顔を戻して誤魔化していたけど。
「それだけだ。ベニはベニのままでいろ、それがお前だけの雅だ。仮面を被るのは許さん」
「森羅様……」
「そうだ、それがいい。それが一番だ」
大佐も頷く。
「ベニにベニだけの雅があるように、私にも私の……久遠寺森羅だけの音色がある。
 明日はそれをもって、これまでの私のイメージを粉砕して大喝采を浴びてやるさ。
 何人たりども否定などさせん」
「流石です、森羅様ぁ」
だけど、大佐が神妙な顔つきで森羅様を見てる。
それに対してか、森羅様は不敵に微笑んだ。
「別に気負ってなどいない……ただ、何も知らず、何も期待せず。それでいて私を
 奮い立たせてくれる者がいるだけだ。産まれた暁には偉大な久遠寺森羅を
 見せてやろう、と。それが楽しみでならんのさ」
そっと、アタシのお腹に手を触れて。
「新たなる私の第一歩を麗羅(れいら)に捧げよう」
もうその名前で完全に決定ですか。

391:紅の道⑤
07/08/29 18:14:09 EFhAjhaQ0
宴会が終わってみんなが部屋に戻った後もアタシはナトセとアタシ本来の部屋で一緒だった。
「ベニ、さっきまで元気なかったけど何を悩んでたの?」
ベッドの上で恒例の膝枕をしながら、ナトセが言ってくる。
「アンタまでお見通しってか。悩みって程じゃないけどさ……アタシゃ、子育ての事なんて
 よくわかんないからね。なんつーか、子供にどういう事したらいいのか…」
両親は早くに死んだから顔も愛情も憶えてない(そもそも、愛なんてあったか微妙だし)
叔父と叔母はアタシを引き取ってすぐに売り飛ばしてくれたし。
働かされてた店の亭主だって、親代わりというには論外すぎる。
「普段どおり接してあげればいいと思うな。素のままのベニが一番いいって、
 レン君も言ってくれたんでしょ?」
以前、馴れ初めを白状させられてしまった時の話を引っ張り出された。
さっきも森羅様に言われたし。あの時は酒も手伝ってちょとノロケてしまったと今でも反省してる。
『レンの奴も随分と味な事を言う。だが、真理か』
そう呟いて、森羅様は何故か自嘲気味に笑っていたけど。
「赤ちゃんも同じだよ。必要なのは、飾らないお父さんとお母さんの愛情だけ」
「養育費も必要じゃない?」
「ま、まぁ、それもそうだけどね」
「でも、言いたい事は…何となくわかる気がするわ」
レンを引き合いに出されたら、納得するしかないじゃない。
「大丈夫、ベニはきっといいお母さんになるよ」
「根拠ないなー。ま、努力はするけど」
「ファイトだよ、ベニ」
ナトセがお腹に顔を密着させてくる。
「ちょっと。まだ聞こえないわよ」
「うん。でも…少しこうさせて」
弟が母のお腹にいた時もこうしたと、淋しく笑った。
「大事にしてあげてね。守ってあげてね、ベニ……私は………守れなかったから……」
搾り出すような小さな声。
膝に垂れた水滴は、左目だけからこぼれた涙。
それが、どれだけ重い意味を持つかアタシは知ってる。
でも、だからこそ言ってやらないと。

392:名無しさん@初回限定
07/08/29 18:16:10 ehrRyTy50
 

393:紅の道⑥
07/08/29 18:19:23 EFhAjhaQ0
「はっ、何言ってんの。ナトセ、アンタ神様? 主人公補正かかったスーパーヒーロー?」
「……違うよ…」
「でしょ? そんなら、アンタにできる事なんてたかが知れてるでしょうが」
「でも、私は守り……たかった…」
「アンタ、クソ真面目な上に……優しすぎんのよ」
優しすぎて、自分で自分の傷が癒えるのを許さない程に。
「今すぐは無理でもさ…アンタもいい加減自分を赦してやんなさい。でないと、
 あの世なんてもんがあるならアンタの家族いつまでたってもそっちで悲しんでるでしょうね。
 アタシも夢っちも、久遠寺のみんなも…鳩の奴はどうか知らんけど。アンタのそんな姿見るのは
 正直、悲しいわ。わかる? アンタがアタシらを悲しませてんのよ」
「私の……せい…?」
「そうよ、アンタのせい。だから責任取んなさい」
涙でグシャグシャになってる顔を、上から真っ直ぐ覗いて。
「大事な奴を守りたい、今度こそ守るって言うなら…アタシらをそんな悲しみから守ってみせて」
目を見開くナトセに、一気に畳み掛ける。拒否させない為に。
「アンタはただ、いつもみたいにドジしまくって飯食いまくって花の手入れとかして
 夢っちと仲良くしてればそれでいいの。それで、この子可愛がってくれれば言う事ないわ」
「ベニ……」
「まだ男か女かもわかんないけどさ、アンタさえその気があるなら……姉貴分になってやって」
「……いいの…こんな……私で……?」
「今だって、アンタはアタシの子供みたいなもんでしょーが。躾にてこずるったらありゃしない」
自分で言って初めて気づいた。
そっか、ナトセで予行練習できてたんだ。なら、この調子でいいのかも。
「アンタの家族にダブらせるのはご法度。この子はこの子として、よ?鳩みたいな姉も却下。
 あとは、変に一途にならないで思いつめない事。この条件さえ守れるなら、
 いくらだって可愛がってやって。甘やかさない程度にね」
そう言って、咽び泣くナトセをかき抱いてやる。
「ったく、辛気臭い話は嫌いだってのに。腹の前でメソメソ泣かれると、この子まで泣き虫になるでしょ」
「……ごめんね…ベニ……」
「次謝ったら、一週間おやつ抜くわよ」
「…それは……やだなぁ…」


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