SS投稿スレッド@エロネギ板 #11at EROG
SS投稿スレッド@エロネギ板 #11 - 暇つぶし2ch450:名無しさん@初回限定
07/01/18 16:47:38 t7BzDqll0
すみすみのアフターSSwktk

451:名無しさん@初回限定
07/01/18 23:58:07 t7BzDqll0
すみすみのアフターSSwktk

452:名無しさん@初回限定
07/01/19 08:16:36 nAaKil6P0
正直、すみすみのSSならアフターよりもするすみルート改みたいなのを期待したい
なんつーか、全部終わらせたら正直微妙にアレな気分になるルートだし

453:名無しさん@初回限定
07/01/20 00:07:14 sAdGtnR20
すみすみは一番最初にクリアして回想の埋まり方とか吹いた訳だが、色々な意味で一番最初で良かった。
攻略順によっては後味悪かったりネタバレしたりと酷い目に会う所だったが、
すみすみ→みさきち→殿子→しのしの→邑那→みやびー
の順でクリアした俺は勝ち組。

454:かにしの栖香アフターSS「はじめてのラブホ」
07/01/21 10:25:03 BhJDHAxs0
司は最近物足りなさを感じていた。
栖香はかわいい、Hのときも淫語を言わせたりとしてそれなりに興奮し燃えるのだが
安いアパートの部屋ではどうしても栖香はとなりに意識がいって以前の様なことにさせにくくなっていた
(まあそこで大声上げさせるのはそれはそれで燃えるのだが・・・)
 ある意味行為がマンネリ化しつつあるなと自覚があった。
そこで司はふと思った。そう言えばラブホではやったこと無かったな・・・・・
ここで司はある企みが思いついた、資金は予備校の給料が入ったばかりなのでいけそうだった。
今度の休みの日に合う約束があったのでその日に実行することにした。
そしてネットで情報収集してるとあるラブホのHPを見た『冒険者の宿』

・・・・・コレダ!!・・・司はそのHPをむさぼる様に読み計画を練っていった

計画当日、昼に駅で待ち合わせ食事のあと店を回って栖香はてっきりそのあといつもの様にアパートに向かうものとばかり思っていたが・・
栖香「司さん?アパートにいかないんですか??」
方向は司のアパートの方向ではなく怪しいネオンの看板が多くなってるエリアにさしかかっていた
司「今日は久々に気分をかえてみない?」と笑顔で・・
栖香「それはいいのですけど・・・だいじょうぶなんですか??」と表情が曇る
司「たまにはいいだろ?それにアパートだと栖香も隣に気がいってHに集中できないだろうし・・」
栖香「なっ!!・・・・(赤面)司さん・・・・いじわるです・・・」

そしてく少し顔を赤く染めた栖香とうれしそうな司は目的地の、『冒険者の宿』についた。
時間はまだ夕方ではあったが司は迷わず栖香の手を引き入り口にはいっていった
栖香はこう言う施設があることは最近になってようやく知ったが内心動揺は隠しきれなかった。
フロントで鍵をもらって1室にはいると そこは鏡バリの天井と大きなべッド、曇りガラスの壁があってその向こうはどうやら浴室のようだ・・・
栖香「うわあ・・・・・」
中の様子を見て思わず声を出す栖香そして司は入り口を閉め、栖香の背後から抱きしめいつものようにキスをした・・・
栖香「つ、司さん!しゃ、シャワーを浴びさせて・・・ください・・・」と熱っぽく訴えた
司「じゃあ一緒に入ろうか??」





455:かにしの栖香アフターSS「はじめてのラブホ」2
07/01/21 10:56:22 BhJDHAxs0
栖香「は、はい・・・・」消え入るような声で答えた栖香
司は早速服を脱ぎ浴室でお湯を張りその背後では栖香は司に背を向け服を脱ぎつつあった
何度も体を重ねてはいるはこういう恥じらいを忘れない栖香はとてもかわいく、男心をくすぐった
浴槽は広くアパートの風呂とは違い脚が伸ばせるほど広く、洗い場にはエアマット、ボデイソープやいすがあるが広い
浴室それだけでも司のアパートの部屋ほどあった。しばらくしてタオルで前を隠した栖香が入ってきた
栖香「広いですねえ・・・でもなんだか恥ずかしいです・・」
司「とりあえず入らない?」
2人はシャワーを軽く浴びたあと一緒にお風呂に入った司が下でその上に栖香が座るようなかたちになったがそれでもせまいと感じなかった
司「ふ~たまにはこういうのもいいだろ??」
栖香「そうですね・・・」
といったとたんに司は栖香の首筋にキスと同時に胸と股間をまさぐり始めた・・・
栖香「ちょ・・・つ、司さん!」
司「いいから・・・そのまま・・」
栖香「もう・・・司さんのえっち・・・・」
うなじからは栖香の甘い香りが、胸の先は徐々に固くなり始め股間の手は動き始めると栖香の太股がキュッとはさみ込み動きを阻止する。
司「そんなに緊張しないで・・・」
栖香「ここじゃなくてベッドで・・・それに体を洗わないと・・・・」
司「いいから任せて・・」
司は首筋、耳とキスをし下を這わせ耳たぶをしゃぶり刺激する、そのたびに栖香はピクピクと反応を返す
ときおり胸をもんでる指が乳首をこねくると思わず嬌声が出てしまう
栖香「こ・ここではだめ・・」といったあと栖香は右手で司のナニをぎゅっと握った
司「ってて・・・判った、じゃあ洗いっこしようか?」
栖香「はい・・・(にこっ)」
浴槽から出た後栖香は司の背中を流した
栖香「司さんのせなかって大きいです・・・」
司「そう??」
栖香「はい・・」
そして一通り流し終えたあと司は
司「今度は栖香の番だな」といって背中からスポンジでやさしくなで始めた




456:名無しさん@初回限定
07/01/21 11:05:20 QWAW9NJb0
支援

457:かにしの栖香アフターSS「はじめてのラブホ」3
07/01/21 13:38:40 BhJDHAxs0
栖香「司さん・・・・・・気持ちいいです・・・」
栖香は陶然とした声で答えた。
司は首から肩、背中、腰と洗っていってそして栖香の開発されたお尻に標的が・・・・
栖香「つ、つかささん!!」
栖香は声が裏返っていた
司「やっぱここもきれいにしておかないとね~♪」
栖香「そこはもう家できれいにしてあります!!」と思わず叫んだあと「あっ・・・・」といったあとポンと音がするほど顔が赤くなつた。
司 「まあまあ」といいながら泡だらけの指はすでに栖香のお尻の穴の周辺を撫で回し、人差し指が進入しようとしていた
栖香「指が入る~~」
いつものなれた指での愛撫に声が熱を帯びる、
指を1本入れた後椅子に座らせた状態ではやりにくいのでエアマットにうつぶせにし、腰をあげさえた
しばらくして指が2本増えると泡だけでなく腸液のぬめりも手伝ってにゅちゅにゅちゅと音が浴室に反響する
司「なんだかいつもより音が凄いね」
栖香「そ・そんなこと・・・」と消え入る様に答える栖香
そして司は「もう一本入るかな・・」とつぶやいたあと人差し指と中指薬指を束ねてお尻へと進入を開始した
栖香「やっ・・き・きつい・・・・」といったもののいつもの様に深呼吸を繰り返し徐々に飲み込み始める
最初は第一間接までだったが司が手首をひねる様にこじ開けていくと徐々に深く進入するようになり、最後には根元まで飲み込めるようになっていた
司「すごいね、根元まで入ったよ、それに・・・」
といいつつ人差し指と中指薬指を立て一列にしてこね回し
司「すっかり広がったね」とつぶやいた。
そのとき栖香はすでに息絶え絶えになっていた、軽く何度かいっていたのかもしれない、全身が汗でぬめぬめと光り時折お尻と藻もがピクピクと痙攣し
「はあっはあっ」という荒い呼吸音だけが聞こえていた。
司「もう我慢できない、」といってすでに先走りの露をこぼしていた男根を栖香のお尻にあてがい一気に貫いた。
栖香はその衝撃に目をむき嬌声を上げた、十分になれた行為ではあったが指三本で散々にこねくり回された挙句の荒荒しい挿入に栖香は一気に燃えあがっていった
栖香「つ、つかささん、きつい・・・きついのぉぉ」
司「だけどそれがいいんだろ?この変態!!」
栖香「はい!でもつかささんだから・・・つかささんだからいいの!!」


458:かにしの栖香アフターSS「はじめてのラブホ」4
07/01/21 14:15:24 BhJDHAxs0
栖香はいつものように司の漢心を刺激する言葉を叫びつつ頂点へと暴走する。
腰は司に突かれるたびに左右にうねり、快楽をむさぼる
司は司で時には浅く時には深く時には子宮の裏側を刺激する、
栖香は全身が朱に染まり、前からは愛液があふれ司の入ってる肛門もすでにボデイソープの泡はなくなり腸液が「グシュグシュ」と音を立ててあふれてきていた

そして栖香が息を「ヒッ!ヒッ~!!」と切らせ始めそろそろ司も限界が見えてきた・・・
司 「栖香!そろそろ出るぞ!!」
栖香「お願いです早くいってください!!もう何度も来てるんです・・つらいんです」
とすでに半泣き状態だった。
そして司は最後にこれでもかというほどの突き込みを入れてきた
栖香はすでに目から涙があふれ「ダメェ!!もうだめぇ!!」と叫び
そして司の「いくぞ!たっぷりいくぞ!!」といってたっぷりの白濁液を栖香の腸内へ注ぎ込んだ
栖香はその熱いほとばしりを腸内で感じつつ意識が徐々に薄れていった・・

司は栖香から抜きだしたあと栖香を見た。うつぶせの状態で顔は左に向き目は半分あいてるものの焦点はあっておらず全身は汗まみれ肌は上気していておしりと太股はときおり痙攣し
お尻の穴からは注ぎ込んだ白濁が「こぽっ」とあふれていた。
心配になった司は栖香を抱き起こし軽くほほをぺしぺしとたたいて「栖香!!栖香!!」と呼んだしばらくしてようやく栖香の意識が戻ってきたのか
「つ、かささん??」と声をようやく出した後顔が真っ赤になって生きそして恥ずかしそうに目をそらした。

そのあとは体の汗と白濁液を洗い流してベッドへと移るのだが栖香は半分グロッキー状態だった
しかしこれは司の計画のまだほんの1部でしかなかった。
ベッドでタオル一枚の姿で司のわきに寄り添う栖香は複雑な表情を見せていた
うれしい反面あれほど乱暴にされてしまったのに感じてしまったこととが複雑に心に渦巻いていた
栖香「司さん今日はなんか怖かったです・・・」
司「でも悪くは無かったんじゃないか??」
栖香「・・・・・・」
司「でも夜はまだまだこれからだよ(ニヤリ)」
栖香「え‘っ(ギクッな、なんか悪い予感が・・)」
司「それ♪ 」
司はいきなり栖香の唇を奪い舌を侵入させ栖香の舌に絡ませてきた・・・

459:かにしの栖香アフターSS「はじめてのラブホ」5
07/01/21 14:44:29 BhJDHAxs0
栖香も突然で驚きはしたがキスはきらいではなかったのでそのまま受け入れ激しくキスをした
司はタオルを剥ぎ取り胸と股間を愛撫していく、すでに浴室での1戦ですでにからだの準備はできていたので少しの刺激でも反応は早い
すぐさま潤ってきた。
栖香はすでに相当消耗していたが司は何故か元気だったそれはこの「冒険者の宿」というラブホで栖香をとことんまで追い込んでみようという黒い野望があったためだ
そうこの「冒険者の宿」とは恋人達がもう1ランク上の性的な冒険をするための設備、アイテムを取り揃えたラブホだったのだ
栖香はそんな所とはまったく知らず司のキスと愛撫にに翻弄されていた。そして・・・
司は対面座位で栖香を貫いた
栖香「あっ!!ふ、ふかい・・奥まできてる」
と叫んだあと再び司に唇を奪われる
そして司はベッドのスイッチに手を伸ばし・・・
栖香「えっ?うそ!!」
ベッドが振動し、腰が緩やかにバウンドし司のが奥をノックし始めた
司「どう?アパートではとても味わえないでしょ?」
栖香「いや・・奥がコツンコツンてあたる~」
司は振動を利用しつつ突き上げたりこね回したりして栖香はそれにあわせる様にいやらしく腰を使ってきた
栖香「あっ!あん!これすごいよう・・おかしくなっちゃうおかしくなるう~」
司「まだまだこれからだよ(ニヤリ)」
 「これ難だか判る?」
と司は栖香の目の前にピンク色の棒状のものを見せたそれは長さ20CM以上はあろうかといういうバイブだった
栖香「な・・それをどうするんですか??」
司「こうするの♪」
司はそれを栖香の肛門にあてがうと一気にねじり込んだ
栖香「い・イヤッ怖いいやあ~」
栖香は慄いた前には司の男根で子宮口をこね回され、薄皮隔てて肛門には長大なバイブが挿入されてしまい
栖香は混乱していた
栖香「うそ・・・私の中に2本も・・・・いやあこすれる・・・こすれてる・・・」
司「そうこれでめでたく2本差しだね・・でもまだまだこれからなんだ♪」
栖香「えっ??」




460:かにしの栖香アフターSS「はじめてのラブホ」6
07/01/21 15:23:47 BhJDHAxs0
司 「スイッチ・オン レッツダンス♪」
栖香「い・いやああああああお尻で・・お尻で動いてるぅ」
司は肛門に挿入したバイブを弱振動で動かし始めたそれに伴って栖香はバイブの振動から逃れようと激しく腰を動かすが
司がバイブの根元を固定したことによって力の逃げ場を失っていたまた前を司の男根に埋められてるために逃れようと動かしても逃れきれなかった
栖香は今まであげたことの無いような獣じみたヨがり声を上げつつバイブの振動から逃れる様に腰をめちゃくちゃに振っていた。
栖香「うう。おしり・・・お○んこ いい・・溶けちゃう」
司も肛門の刺激で栖香の前は今までにないほどの締め付けをしていたおまけに肛門側のバイブに振動がさらに司を追い込んでいく
そしてとうとう司に限界が訪れる
司「栖香もう出る!出るぞ!!」
栖香「あん、もう許して!感じすぎて怖いのお~」
司「出る!」
その直後司は思いきり栖香を抱き寄せ腰をこれでもかというほど膣内に押し込んだ
それは子宮口を直撃してそこから1回戦に勝るとも劣らない量の精液を噴射した
栖香はなかにあふれる精液の感触を感じて一瞬意識を失ったが再び肛門のバイブによって覚醒させられた
司もいったものの栖香の肛門の刺激によって栖香の括約筋の収縮が止まらずそれによって男根の根元がしぼられ、なえることが無かった
そのまま延長戦に突入し大尉を入れ替え後背位で一回、側位で一回いって終わった
最後の側位ではすっかり力が抜けてしまった栖香は反応が鈍くなっていて司がいった後バイブを抜いたときに失禁してしまった。

しばらく休んだもののアレほどの激しいSEXをしたおかげで栖香は足腰が立たなくなってしまっていた。
やむなくおんぶしてアパートまで帰ることになった
栖香「う~~~~~司さん酷いです~~~まだ腰が痛いです・・・おしりもジンジンする・・・」
栖香は涙目で腰をさすり司を非難した
司 「いや~でも気持ち良かったでしょ??」
栖香「 うっ・・・でも・・・」
司 「でもこれで益々栖香と深い仲になれたんだと思うとうれしいな(にこっ)」
栖香「 ・・・司さんずるいです・・そんないいかたされたら怒るに怒れないじゃあないですか~」

461:にしの栖香アフターSS「はじめてのラブホ」7
07/01/21 15:29:46 BhJDHAxs0
栖香は心の中で思った「こんなになるまでやっちゃったのはじめて・・・次にはどんなことされちゃうんだろう・・・」
そう思うと再びお尻とあそこがうずいてくるのだった、そしてそれをごまかすべくぎゅっと体を司に押しつけ密着させる栖香だった
司は司で背中に栖香の胸のふくらみを感じつつ「次はどうしてやろうか」と次のラブホでの「性的な冒険』におもいをはせるのだった。

おわっとくw


462:名無しさん@初回限定
07/01/21 22:52:34 ZkwTr23C0
> 司 「スイッチ・オン レッツダンス♪」
アホすぎて吹いたw

463:名無しさん@初回限定
07/01/21 23:15:37 9AsBnq070
『野生を取り戻せっ!』確かに面白いのだが、
梓乃ルートで飼い主である梓乃は思いっきりダンテを『彼』と呼んでいるぞ。

464:『甘くない』の者です
07/01/22 08:32:41 Nn2HCp110
 投稿乙です。

 447様、有難うございます。

>>463
>ダンテ
 ありゃ、そうだってのですか……気付かなかったよ……



465:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 08:33:43 Nn2HCp110
「えー、では授業終了前の10分間を使って小テストを行います。
 あ、小テストは授業終了後、代表者が集めて僕の机の上に置いておいて下さい。ではっ!!」

 言うが早いか、司は教室を後にする。

「あっ、また!?」
「先生、最後までちゃんとやって下さい!」

 一部の生徒からブーイングが出るが、気にしない。
 放課後捕まらない様、距離を稼がねばならないからだ。

「センセ、授業放棄だっ!」
「お前もなー!」

 が、その行く手を美綺が塞ぐ。
 わざわざ授業をサボってまでして、司を捕まえようと待ち構えていたのだろう。実にご苦労なことだ。

「罰だ、あとで授業内容をレポートに十枚以上書いて持ってこい! もちろん手書きだぞ!」
「センセ横暴! 誰のせいでサボったと思ってるんだあ!?」
「はて?」
「そこで首捻るなっ!」

 美綺は叫びつつも、今回のセンセは一味違う、と思わざるえなかった。
 何故だか知らないが、今回の司はマジである。
 ……いや、何時も手を抜いている、と言う訳では無い。何時だって司は本気の人だ。
 が、今回は本気の本気、本気にスーパーチャージャーがかかっているような状態だった。

466:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 08:34:54 Nn2HCp110
 ―う…… ちょっとカッコイイかも。

 ……他人が聞いたら首を捻りそうな評価ではあるが、美綺には格好良く見えるのだから仕方が無い。
 所詮は惚れたものの負け、痘痕も笑窪ということなのだ。

「授業をサボるなんて悪い子だ! 先生は悲しいぞ!」
「ええいっ! この腕章が目に入らぬかあ!」
「げっ! それは『みやび印の腕章』!?」

 『みやび印の腕章』とは、理事長公認で授業を欠席することを許された者のみが付けることを許される腕章である。
 通常は……というか常識から考えて、公欠とか病欠の際に使われるものなのだが……

「理事長! 職権乱用ですよ!」

 しかしどうりで今回、みやびと栖香が大人しく引き下がったわけである。
 おそらく油断を誘う為だったのだろう。

「センセが言うな!」
「くっ! 教室に理事長と仁礼、外に相沢という二段構えの作戦か! ……ん?」

 ならば、同じく欠席した上原も……

「先生、御願いですから止まって下さいっ!」
「やはり!」
「かなっぺ、ナイスタイミング!」
「うう、なんでなんで私まで……」

 半ベソをかきながらも、奏は両手を広げて立ち塞がる。

467:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 08:44:00 Nn2HCp110
「なら!」
「え?」

 司は奏の直前で急に曲がり、近くの部屋へと飛び込んだ。

「よっし! これでセンセは袋の鼠! かなっぺ、ゴー!」
「絶対絶対、無理! 無理だよ!」

 美綺がけしかけるも、奏は断固拒否だ。
 ……何故ならば、司が逃げ込んだのは『男子トイレ』だからだ。

「もー、しょうがないなあ……って、かなっぺ何を!?」
「駄目、駄目だよみさきち! 女の子として、それだけはっ!」

 男子トイレに突入しようとする美綺を、奏が必死で止める。

「いいじゃん、誰も見てないんだからさあ!」
「そういう問題じゃない、問題じゃないよ!」

「上原、さんきゅ!」

 そんなことをやってる間に、司が隙を見て逃げ出す。

「あ―っ!!」
「は、は、は、また会おう明智君!」
「センセの薄情者―!」



「最近、お前はご機嫌ね?」

468:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 08:45:21 Nn2HCp110
 梓乃はダンテの頭を優しく撫でてやる。
 最近、ダンテはとてもご機嫌だ。それに心なしか、少し逞しくなった様にも見える。

「大好きな司に、毎日一杯遊んで貰っているからね」
「先生に?」
「うん」
「みやびさん達を放っておいて、先生はそんなことをなさっていたのですか?」
「……ダンテの半分でも、構ってあげれば良いんだけどね」

 はあ、と殿子は溜息を吐く。
 ダンテのご機嫌ぶりと反比例し、みやび達の機嫌は大幅下落中、連日最安値更新中だ。
 みやびなど、何故かここ最近午後はお腹をクーク-鳴らしながら突っ伏している。
 が、今回ばかりは司も強硬だった。
 授業中は一切の私的な質問を許さないし、授業終了10分前には小テストを渡して逃げてしまう。
 ……教師としてそれはどうだろう、とも思うが。

「本当、強情なんだから」
「でも、殿子ちゃんは止めないのですよね?」
「私は司の味方だからね」

 妹は兄を庇うもの、と殿子は胸を張って答えた。

「まあ」

 そんな殿子を見て、梓乃はくすくすと笑う。
 始めは殿子の変貌振りに慌てた梓乃ではあるが、殿子が『司と私は兄妹』といった以上、それを尊重するするのが親友というものだろうと考え、彼女はそれを受け入れた。

469:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 08:46:53 Nn2HCp110
 そして現在、自分も司を受け入れようと努力している。
 ……たとえ司が『殿子の兄』としておよそ相応しく無い人物であろうが、自分にとっては最も苦手なタイプの人間だろうが、である。



「お~い」
「あ、司」

 そんな二人の傍に、司が駆け寄ってきた。
 今日も無事、追っ手を撒いて来たらしい。

「待たせたな、殿子」
「ううん。 ……でも司、平気なの? 授業終わってからまだ数分だよ?」

 如何考えても授業終了前に抜け出したとしか思えない神速ぶりに、殿子が心配そうに尋ねる。

「大丈夫だ。テストという名目もあるし、こんなことをするのは放課後前だけだからな」

 ……ちなみにHRがある時は、アンケートを行うのだ。

 そんな社会人としては駄目駄目な答えに、殿子は苦笑するしかなかった。

「司、社会人失格だよ」
「何、大事の前の小事だ」

 司は社会人である前に漢だった。

「ところで司? 今日から梓乃も一緒で良い?」

470:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 08:56:47 Nn2HCp110
「……そりゃあ別に構わないが、大丈夫か?」

 司は殿子の背中でふるふると震える梓乃を見て、心配そうに尋ねる。

「だ、だいじょうぶ……です……」

 だ、大丈夫、怖くない。
 殿子ちゃんの『弟』なら、私の弟……

 梓乃は必死に自分に言い聞かせつつ、やっとの思いで答えた。
 それは、今までの彼女から考えれば、信じ難い程の成長振りだった。
(八乙女のじーさんが狂喜したのも無理は無い)

「大丈夫、噛み付かないから」
「そうだぞ、僕は相沢パパとは違うから、噛み付かない」
「……相沢のお父さん、噛むの?」
「ああ、男限定でな。まあ僕は未遂だったが、暁さんは噛まれたらしい」

 が、暁は腕を噛まれただけだったが、司の場合、相沢パパは迷わず喉笛を狙ってきた。殺る気満々だった。
 幸い、相沢ママと美綺のダブル攻撃の御蔭で事無きを得たが、もう絶対相沢邸には近づかない、と司は固く心に決めている。
 ……まあそれ以上に怖かったのは、相沢ママの『先生、ウチの娘泣かしたら沈んでもらいますよ?』とのお言葉だったが。
(冗談めかして言ってはいたが、目が笑っていなかったのを司は見過ごさなかった)

「で、今日はどんな特訓をするの?」
「地獄の千本ノックだ」
「せ、千本ノックですかっ!?」
「大丈夫だよ、梓乃。本当は100本位だろうから」

471:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 08:57:47 Nn2HCp110
 しかも、ボールを取るのはダンテだったりする。

「……え、でもそれって千本ノックじゃ……」
「八乙女、こういうのは雰囲気が大事なんだぞ?」
「そうだよ、梓乃。大事なのは、『特訓した様な気分になる』ってことなんだから」
「そ、そういうものなのですか???」

 それって何か違うんじゃ……

 梓乃の頭に、?マークが次々と現れる。
 正直、この二人の会話について行けなかった。

「……殿子、言う様になったじゃあないか」
「意地悪な兄に、さんざん振り回されたからね」

 ―ああ、私の殿子ちゃんが……どんどん先生に染まっていく……

 なんだかどんどん変な方向に変わっていく殿子を見て、梓乃は内心で滝のような涙を流した。
 ……幸いにも、自分もその『変な方向』とやらに染まりつつある、という事実に、彼女は未だ気付いてはいなかった。



――夕方、談話室。

「「「「…………」」」」

 みやび、栖香、美綺、奏の四人は、談話室で黙りこくって座っていた。
 皆、如何にも機嫌が悪そうであり、その空気の御蔭で他にいるのは通販さん位のものだ。

472:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 08:58:39 Nn2HCp110
「先生、何処で何してるんだろうね……」
「まったく、あいつには教師としての自覚が無さ過ぎる!」
「……私、もしかして飽きられて捨てられたのでしょうか?」

 みやびと美綺の二人が豪くお怒りになっている一方、栖香の落ち込みようは相当なものだった。
 ……そんな彼女を、奏が必死で慰めている。

「えっと! そ、そんなこと無いと思うよ! うん、絶対絶対……」
「でも、最近お食事も御一緒させて貰えませんし、話しかけても禄に返事をして下さいません……お部屋にも入れて下さいません……」
「先生にも、きっときっと何か考えがあるんだよ!」
「それに最近、先生は鷹月さんや八乙女さんと御一緒しているようなのです」
「へっ? それ本当!?」
「はい。遠目からではありますが、間違いありませんでした」
「う~ん。黙ってたけど、実は最近そういう目撃証言が多いんだよねえ」
「何いっ!? 何故それを先に言わない!!」
「いやあ~、だって確証がとれてないし……」

 嘘である。妹の不安を煽るだけなので、黙っていただけだ。

「くっそ~殿子め~っ! とっ捕まえて司の居場所を吐かせてやるっ!!」
「り、理事長、穏便に穏便に……」
「呼んだ?」
「と、殿子!?」

 突然現れた殿子に、みやびが目を丸くする。

「私に、何か用?」
「つ、司さんを返して下さい!」「ウチの司を返せっ!」「私からもお願いします、お願いします、先生を返してあげて下さい!」

473:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 09:29:47 Nn2HCp110
「?」
「あ~、ええ~と…… センセは何時も放課後何処に行っているか、知ってるかにゃあ~?」

 三人の、まるで愛人宅におしかけた本妻とその友人の様な台詞に、流石の美綺もバツが悪そうに尋ねる。

「知ってる」
「どこ!?」
「でも、言えない。口止めされてる」
「そ、そんなあ……」
「大丈夫、司も目的を達したら直ぐに帰ってくる。だから、それまでの辛抱」
「目的?」
「司は、『野生を取り戻す』と言っていた」
「……野生?」
「うん、確か……」

 何だっけ? 鰐、熊、獅子……確か猛獣だった様な気がする。

「狼、だったかな?」

 男が野生に帰る、と言えば狼しかないだろう。うん、そうに違いない。
(悪い兄のせいで、殿子の知識は少し偏っていた)

「え?」

 それ、違うんじゃないかな、と梓乃は思ったが、彼女にそんな突っ込みが出来るはずも無い。ただ沈黙を守るのみだ。

「「「「狼!?」」」」
「『野生』に『狼』って、もしかして……あの幻の予告が真実に!?」

474:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 09:32:21 Nn2HCp110
「そんな……まさか……」
「いやあ! 暁先生助けて~~っ!!」

 分校組の面々は大騒ぎだ。
 が、本校系のみやび達は蚊帳の外である。
 故に、意味不明に盛り上がる分校系の三人を不思議そうに見る。

「……予告編って何だ?」

 説明しよう!

 予告編とは、体験版で語られた『遙かに仰ぎ、麗しの~悪夢の絶望の陵辱の学淫』編のことである。
 鬼畜教師滝沢司による学院総ハーレム化がその内容であるのだが、当然PULL TOPの作風に合う筈も無く、あえなく没となった幻の作品である。
 ……まあ、始めから嘘だった、という説もあるが、そんな細かいことは気にしないで欲しい。

「そんな破廉恥なことを許すかーーっ!!」
「う~ん、流石に学院総ハーレムはねえ…… 女の子としてはやっぱり……
 あたしとすみすみの姉妹丼エンドで手を打ってくれないかにゃあ~」

「姉様! 何を言ってるんですか!?」
「そうだよ~ みさきち、それ良くない良くないよ~」
「いいじゃん、姉妹で仲良く平等にセンセを分かち合えば」
「よくありません! それでは先生と結婚できないじゃあないですか!!
 この国では、重婚は犯罪なのですよ!?」
「そういう問題なのっ!?」

 奏は、ずれまくった栖香の反応に唖然としながらも、『やっぱり二人は姉妹だよ、姉妹だよ』と思わず納得してしまう。

475:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 09:34:36 Nn2HCp110
「あ~そりゃ拙いわ…… あたし一人娘だから婿養子になって貰わないと……」
「私だってそうです! 先生には私と一緒に桜屋敷を継いで貰わないと!」
「正臣くんは、正臣くんは?」
「正臣は桜屋敷の重要性をちっとも理解していません。そんな子に桜屋敷は任せられません」

 彼は『売っちゃえば?』とついうっかり口を滑らせ、栖香の逆鱗に触れたのだ。

「こらっ! あたしを忘れるな!!」
「う~ん、じゃあ交代で結婚する?」
「……誰が最初に結婚するのですか?」
「…………」
「…………」

 二人の間に目に見えない火花が散った。
 ぶっちゃけ、結婚したらこっちのもの、二人とも離婚する気はさらさらない。

「こらあっ! あたしを無視するなあ!!」
「ふう……」

 これでは司が『野生を取り返して、はっきり物を言える様になりたい』と考えるのも無理は無い。
 司の苦労を、殿子はちょっぴり理解出来た様な気がした。



――翌日、教員室。

「おい、司よ。お前最近、理事長達を放置プレイ中だそうじゃないか」
「……暁さん、誤解を招く様な発言は止めてください」
「いやだがな、近頃理事長のご機嫌は非常に悪い。実際、ピリピリしていてとてもじゃないが近寄れない、と苦情が山の様に届いている」

476:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 09:41:20 Nn2HCp110
「……何故、それを僕に?」
「それをお前に伝えろ、と言われてるんだよ。司、何とかして理事長の機嫌を直せ。ついでに相沢と仁礼のもな」
「……具体的にはどうすれば?」
「何、黙って三人のサンドバックになればそれで良い」
「鬼ですか、あんたは!」
「それが嫌なら、それぞれの耳元に優しく愛の言葉を囁いてやるって手もあるぞ?
 ……まあ、こっちは下手したら刺されかねないから、お勧めは出来ないがな」
「お断りします」
「……どうしても駄目か?」
「はい」
「じゃあ、しょうがないよなあ」

 暁は軽く肩をすくめると、司を簀巻きにし始める。

「暁さん、何を!?」
「お~い上原、もう出てきて良いぞ」

 その言葉を合図に、隣の机の下から奏が這い出してきた。
 そして暁に対し、何度もお辞儀をする。

「暁先生、本当に本当にありがとうございました」
「上原!?」
「すまんなあ、司。俺も自分が可愛いんだ。上原にも泣きつかれたしなあ」
「裏切ったな! 僕の気持ちを裏切ったな! あの女と同じに、裏切ったんだ!」
「……よくわからんが、取りあえず『同じネタを二度使うな』と言っておくよ」
「くっ!」

 その言葉は、司にとって大ダメージだった。
 途端に無抵抗になり、大人しく簀巻きにされる。
 簀巻きになった司の前に、奏が仁王立ちした。

477:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 09:42:53 Nn2HCp110
 ……どうやら司に対し、言いたいことがある様だ。

「そんなことより、先生! わたしとってもとっても大変だったんですよ!!」
「へ?」
「日々機嫌が悪くなる一方のみさきちと栖香さんの二人に囲まれて、わたし、お昼もろくに喉に通りませんでした!」

 そう。
 時に、借りだされて司を追いかけさせられたり、
 時に、二人の無言のオーラに当てられたり、
 時に、美綺から愚痴られたり、
 時に、栖香に泣き付られたり、
 止めは、みやびも加わったトリプルオーラすら喰らって……
 とってもとっても大変だったのだ。

「それは気の毒だとは思うが……」
「他人事みたいに言わないで下さい! あの二人をああしたのは先生ですよ!?」
「いやだからな、男しての尊厳を……」
「男なら、責任とれぇぇぇっっ!!」
「……はい」

 こうして司は奏の罠に嵌り、簀巻きにされて連行されていった。



 そして30分後、司は囲まれていた。
 ……なんか、皆メッチャ怖いです。

「さて、何か言い訳でもあるか?」
「お前等、何をそんなに怒っているんだ?」

478:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 09:44:25 Nn2HCp110
 多少怒ってはいるだろうとは思っていたが、想像以上の機嫌の悪さだ。

「センセ、往生際が悪いよ? ネタは上がってるんだから、いい加減白状しなよ」
「白状?」
「そうです。私というものがありながら、学院総ハーレムなど目論むなんて不潔過ぎます!」
「はい~~!?」

 ハーレムって何ですか!?

「待て、ご、誤解だ! お前等絶対何か勘違いしているぞ!?」
「男はね~ こういう時は皆そう言うんだよ~」
「ちょっ、待……うぎゃあ――っ!!!!」

 …………
 …………
 …………

「お前、そんな下らんことで! 御蔭であたしは、ここ数日お昼抜きだったんぞ~~!!」

 ポカッ

 何がタイガー司だ、とみやびに殴られる。
 ……あれから一時間後、全てを白状させられた司は、誤解こそ解けたものの、皆から呆れられた目で見られていた。

「……先生は一体何を考えていらっしゃるのですか?」
「また思い付きで行動するんだから……」
「先生は元からワイルドじゃない、ワイルドじゃないよ」
「ううっ、だって何時も理事長に奢って貰って、ヒモとか飼い犬扱いされたから……」

479:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 09:54:15 Nn2HCp110
 皆の冷たいお言葉に、司は涙ながらに訴える。
 と、その言葉を聞いた途端、急にみやびはご機嫌になった。

「あははは。なあんだ、そんなことを気にしてたのか~」

 そして、何気に爆弾発言をぶちかます。

「お前はもうあたしに飼い馴らされたんだから、大人しく飼われろ。
 なーに、安心しろ。ちゃんと一生面倒見てやるから」
「先生……」
「センセ……」
「先生はやっぱりヒモだよ、ヒモだよ……」
「ああっ! 何故か立場が更に悪化!?」
「リーダ、あたしの部屋に犬小屋造って」
「かしこまりました、御嬢様」
「お願いリーダさん、そこで突っ込んで!?」
「司様、人生……いえ、犬生は諦めが肝心ですよ?」
「ま、待って下さい! 確かに司さんは犬かもしれません、けどまだ飼い犬じゃあありません!
 言わば半野良です! だから私も所有権を主張します!」
「あ、じゃあアタシも」
「私は別にいらないいらないです」
「……仁礼、相沢」

 つーか、もー犬決定ですか。
 ああ、おれの残りの人生は鎖に繋がれて終わるのか……



「司、大丈夫!?」

480:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 09:56:53 Nn2HCp110
 そんな中、殿子が駆け込んできた。
 司が簀巻きで運ばれていったと知り、慌ててやって来たのだ。

「おお、我が麗しの妹よ! へるぷみー!」
「……司、調子良すぎ」

 いつもはもっとぞんざいに呼ぶ癖に、と殿子は苦笑いしつつロープに手をかける。
 それを見たみやびが慌てて止めた。

「駄目だぞ! 殿子には所有権を主張する権利は無いぞ!」
「……何のこと?」
「えっと、えっとですね……」

 …………
 …………
 …………

「……それ、違うと思う」

 奏の説明を黙って聞いていた殿子が口を開いた。

「飼い馴らされたのは、司じゃない。みやび」
「なっ、なんであたしが!?」
「……だってみやび、司がいないからお昼を『お預け』してたのでしょう?」
「は!」

 司が来ると信じ、馬鹿みたいに何日もお昼を抜いていた過去が、みやびの脳裏を過ぎった。

481:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/22 09:57:58 Nn2HCp110
「ち、違う! 違うんだ! ただ、もしかしたら最近司が来ないから、今日こそは来るかと……って!?
 ええい、あたしは何を!?」
「理事長、それ自爆、自爆」

 状況が自分に不利になことに気付き、みやびは慌ててリーダに縋る。

「リーダ、あたしは司に飼い馴らされてなんかいないよね、ね!?」
「……もちろんでございます。御嬢様」
「今の間は何!? ねえリーダ、ちゃんとあたしを見て答えてよ!!」

 微妙に目を逸らすリーダに、みやびは半泣きで詰め寄った。
 が、リーダの態度が何よりも答えを雄弁に物語っている。

「嘘だと言ってよ、リーダ―!!」

 みやびの悲痛な、あまりに悲痛な叫びが、分校内に木霊した。

 ……それから暫くの間、野生を取り戻す、と称してみやびが凶暴化したのはまた別の話である。





 SS投下終了、ついでに野生編完結。


482:名無しさん@初回限定
07/01/22 12:25:35 FSy7CAUk0

面白くてかにしのに少し興味が湧いた。
週末にでも買ってくるかなぁ・・・

483:名無しさん@初回限定
07/01/22 14:06:38 Ic+ex4dm0
乙&GJ!


484:名無しさん@初回限定
07/01/22 20:30:17 uwIHQixp0
>「嘘だと言ってよ、リーダ―!!」
最後はガンダムネタで締めかよ(w

485:名無しさん@初回限定
07/01/23 00:53:22 Q8ZBJ+OA0
GJ!
みやびかわいいよみやび

486:名無しさん@初回限定
07/01/23 19:58:01 P068LJ160
乙。野性化してくれるとwktkしてたのに・・・。

ちなみに梓乃の殿子三人称は「殿ちゃん」、栖香>美綺は「お姉様」な。

あと、女子校には教員用以外に男性トイレは無いです、通常。

487:名無しさん@初回限定
07/01/23 20:01:14 P068LJ160
>>482
このSSのようなノリをゲーム本編に期待するなら、たぶん凄く期待ハズレに終わると思う。
それならかにしのよりもゆのはなをお薦めする。

488:名無しさん@初回限定
07/01/25 12:27:31 lQA80iYs0
>>486
あの学校って、女の先生職員が出てこないなぁ?
メイドさんは出てくるけど…

489:名無しさん@初回限定
07/01/25 22:09:39 pW3SRGN30
>>488
あの分校は『強制収容所』又は厄介な娘を押し込む牢獄
ゆえに万が一に教師と出来てしまえば厄介払いが出来るという計算なんだろう
教師の平均年齢が若いというのもその証左なのでは??

490:名無しさん@初回限定
07/01/26 01:41:27 j+zIzUTk0
鬼いちゃんのSSをかけるようなオタキングSS書きはいないかな?

491:かにしのSS『野生を取り戻せっ!』後編2
07/01/26 08:13:37 S5oKnYqb0
>>482
 482様、有難うございます。

>かにしのに少し興味が湧いた
 かにしのは面白いですよ。お勧めです。

>>483
 483様、有難うございます。

>>484
>ガンダムネタ
 これ、言わせたかったので(笑)

>>485
 485様、有難うございます。

>みやびかわいいよみやび
 うちの作品では、みやびが一番出張っております。
 何せ一番いきが良いので。

>>486
 486様、有難うございます。

>野性化してくれるとwktkしてたのに・・・。
 仮に野生化しても、直ぐに捕獲&調教されてしまいますので。

>ちなみに梓乃の殿子三人称は「殿ちゃん」、栖香>美綺は「お姉様」な。
 毎度毎度御免なさい。
 『お前、本当にかにしのやってるのか?』と突っ込まれてしまいそうです。


492:かにしのSS「結城ちとせの部屋」
07/01/26 22:38:48 T4znOeh40
かにしのスレよりここを紹介されたので挑戦しました結城ちとせ。
第2話終了後の分岐を想定しています。ちなみにえちはないです。ごめんなさい。

>第X話A「抱き枕と美術品」 

学内ソフトボールも無事終了した数日後。僕は職員室で悩んでいた。
先日の一件で理事長に4000万円を支払わねばならない、その算段だった。
通常なら想像しただけで眩暈のする金額ではあるが、幸い手元にある彫刻を売れば一括で払えてしまうら
しい。
回りくどい真似をした理事長は意地っ張りだとは思うが、僕としては彼女の見せた度量に素直に感謝すべ
きだろう。
従って、あまり待たせるのは避けたいところだが、生憎売るにしても僕には適切なつてがない。
そもそも6000万をポンと出せるような知人が、大学を出たての新人教師に居るはずもないわけで。
美術担当の暁先生ならお金持ちの好事家を知らぬとも限らないが、理事長と結城も関わった話を相談する
のは少々躊躇われる。
と、すると。
結局、一番手近で詳しいと思われる関係者に聞くしかあるまい。
正直、本末転倒な気もするのだが……
「というわけで」
「はいはーい?」
「はいは一回だ、結城」
「はーい!」
「……続けていいか?」
「どうぞ」
結城ちとせはくすくすと笑っている。やり取りだけで可笑しいらしい。笑い上戸なのだろうか?
授業の後呼び止めて用件を伝え、使われていない教室で彼女と待ち合わせた。
笑いが止んだのを見計らって用件を切り出す。
「先日から僕の手にある彫刻についてのことなんだが」
「はい。『夕暮れと虹』ですね」
「そうそう。あれを買ってくれそうな人に、心当たりはないかと思って」


493:かにしのSS「結城ちとせの部屋」2
07/01/26 22:40:55 T4znOeh40
「私に、ですか」
「うん。結城なら、お父さんの仕事上、そういう人と付き合いが合ってもおかしくないかな、と」
「せんせ、だから私があの時払うって……ごめん、それはナシだったね、先生」
「いや……確かに君に頼むのは正直申し訳ないとは思うんだがな。それはそれで、どうだろう」
「そーですね……、しょーじき私も、あれからちょっと心配だったんですよぉ。大丈夫かなーって」
「大丈夫とは?」
「あれ、結構有名な品ですから。先生が直接鑑定士に持ち込んだりしたら贋作を疑われたりする可能性も
あるかな、って」
「それは僕が犯罪者に見えるということか?」
「あははー、そじゃなくって、ああいう品は本来名の知れたバイヤーしか扱わないし、扱えないってことです
よ。鑑定書と現物だけでは信用されづらい、信頼できる人の紹介があって、始めて手を出せる品ってことで
す」
「成程。僕もあてが無くて悩んでいたところだったんだが」
「リーダさんに頼んで、紹介してもらったらどうですか?あの方は出入り業者の管理も携わってますし」
「うーん。それも考えたんだが」
理事長をなだめてもらっただけでも充分世話になっているしなあ。
結城はそんな僕をじっと見ていたが、急に真面目な顔になって尋ねる。
「せんせ、私のクマさん、ちゃんと見てる?」
彼女の宝物である熊の抱き枕は今、理事長の品の代わりとして廊下に鎮座ましましている。
最初こそ奇異の目で見られたものの、今ではすでに風景の一部と化していた。
廊下だけに汚れてしまうのを僕は危惧していたのだが、そこは結城も飼い主(?)だけあって気をつけてい
るようだ。
「うん?無論見らいでか。ちゃんと毎日掃除もしてるな。偉いぞ」
「えへへへ……とーぜんだよ。私の一番大事な友達なんだから。毎日ダイソンでホコリとってるし」
掃除機でゴミ吸ってるのか……形が崩れたりはしないのだろうか。
「友達、か」
飼い主より結城の自己評価は下らしい。


494:かにしのSS「結城ちとせの部屋」3
07/01/26 22:42:04 T4znOeh40
「そう!ずっと一緒だったのにこーなっちゃったから三日ぐらい全然眠れなかったんだよ!
おかげで眼のしたにクマできちゃって」
「……」
「アレ、面白くなかった?せんせ。コレはね、熊とクマをかけた」
「解ってる、解ってるから解説はいい!傷を広げるな!」
「まあ最近は眠れるけど。えへへ。そか、そーなんだ、ちゃんと見てくれてるんだね……」
いきなり後ろを向いてしまった。照れてるのか?
「当然だ。僕は君の担任教師だからな」
「―担任、教師。……私の」
言葉をかみ含めるように繰り返してから、彼女は振り返ってにこりと笑った。
あれ?
僕はその時、初めて結城の笑顔を見たような気がした。何故だろう?
今まで、日常でも授業でも、いつも級友と笑っている彼女を見ていたはずなのに。
「……そだね。せっかく、リーダさんより私を頼ってくれたんだし、断るのは失礼だよね。そもそも私が原因な
んだし」
「いや、僕としても無理にとは」
「別に無理じゃないよー?お父さん、私にはだだ甘だから頼むのはへーき。でも」
「でも?」
「お父さんには、私がりじちょーのあれ割っちゃったのヒミツにしといてね」
ふむ、結城としては当然の心配だな。
「むむ、生徒との間に秘密を持ってしまった!僕と言う男は教師失格!」
「あれれ、私の先生がいきなり失格教師になっちゃった……さよーならー!、滝沢先生」
「おまえも意外とノリがいいのな……まあ、当然だ。生徒の秘密は守るぞ」
「えへへ。解った。私も秘密は守る人だよ。それじゃ任せて!」
何故か軍隊式の敬礼をして、結城は去っていった。笑顔の残像を、僕に残して。

僕はずっと後になるまで気づかなかった。
彼女がいつも笑っていた理由に。
彼女が残した言葉の、本当の意味に。
「―私も、秘密は守る人だよ」



495:かにしのSS「結城ちとせの部屋」4
07/01/26 22:44:21 T4znOeh40
>第X話B 「沈黙しない友人」
女性の部屋に入るのは気が引ける。それがたとえ担任の生徒であっても。
いや、教師としてはだからこそ、と言い換えるべきかもしれない。
しかし、僕はその日、入った瞬間にそうした遠慮をすべて忘れていた。
「―なんじゃこりゃ?』
学生用の部屋はけして狭くはない。ないはずだ。
よっぽど散らかしている人間でない限り、本来なら、人を迎えるスペースぐらい確保するのは余裕のはずで
ある。
しかし、結城ちとせの部屋は、僕の想像を絶していた。
汚いわけではない。散らかっているわけでもない。だがしかし。だがしかし!
部屋の壁という壁に。棚に。床に。果ては天井にまで。
あらゆる場所に鎮座するもこもこしてふわふわしてやわらかいものたち。
それは文字通り、空間を埋め尽くしていた。
ベッドまで一本の道がある。そこだけ床が見えた。流しまで、ユニットバスまで、以下同文。
「えへへー、ゴメンね?せんせ。今ちゃぶ台だすから」
よいしょよいしょ、と律儀に一人(?)ずつぬいぐるみをよけて、ちとせは壁に立てかけてあったちゃぶ台を
取り出す。
「なあ、結城……お前、普段この部屋でどう過ごしてるんだ?」
「ええ?ふつーですよ?お茶飲んだりお菓子食べたり本読んだり」
「この……ぬいぐるみたちにこぼしたりしないのか?」
「たまにありますよ?そんなときはお風呂に一緒に入るんですよぉ。ですから乾燥機は自前で持ってるんで
す」
言われて見るとユニットバスのそばに小型の乾燥機があった。……その上にもぬいぐるみがいるが。
「先生はアタマが痛いよ……」
某女流SF作家の部屋がかつてこのようであったと読んだ記憶があるが……この部屋はそれ以上かもしれ
ない。
結城……おそろしい子っ……!
天井を見上げると、どうやら何本も渡したロープ……物干し用のものだろうか?にあるものはくくられ、ある
ものは吊るされ、
またあるものは引っ掛けられたこれまたいくつものぬいぐるみが僕を見下ろしていた。
普通の鳥だのももんがだのはまあ理解できるのだが、中にはかなり名状し難いものもあったりして落ち着
かない。その中の一つをつい凝視すると、なんとなくその眼が光ったような……気が。

496:かにしのSS「結城ちとせの部屋」5
07/01/26 22:45:50 T4znOeh40
「眼があっちゃったよ……いや気の迷いだ!僕は何も見ていない!」
「え?ああ、それはばいあくへーといってですね」
「いや説明はいらないから」
「ちなみにベッドの下にいるのはくとぅるふの落とし子たんといって」
「いらんちゅうに!」
どこで売ってるんだそんなの。僕が欲しいぞ。
「蜂蜜入りのリキュール飲みます?」
「まだそのネタで引っ張るのか!?」
相変わらず結城はくすくすと笑っている。
まあそれはともかく。
ちゃぶ台の上にいつのまにか出てきた紅茶をすすりながら、改めて周囲を見回す。
「コレ、自分で全部何買ったとか覚えてるの?」
ちとせは僕の前に座って……と言うか半ば彼等に溺れた状態でにこにこしている。
「勿論です!名前のない子は全部私が名付け親なんですよ~」
「ほう、例えば?」
「あの怖そうなライオンはリチャード一世」
「ふむふむ、歴史ネタか」
「その隣はチャールズ一世、その横はルイ16世、その隣はコンスタンティヌス11世」
「歴史教師として言わせて貰うが、そのセンスは最低だな!」
全部首にマフラーとかバンダナとか巻いてるし。可哀相だ。
「こっちの棚はもっと面白いですよぉ。この子はベリヤ、この子はハイドリヒ、この子は泰會」
「悪党ばっかりじゃねえか!もっと可哀相だよ!」
……そういえば、あの抱き枕はなんていうんだろう?一番大事と言うんだから、当然名前があるのだろう。
一ヶ月の展示を終え、今は安息の地、彼の居場所であるベッドの上にまします巨大なクマ。
「あの子は、ルドルフ」
「―それにも由来があるのか?」
「わたしが最初にお母様から買ってもらったテディベアの名前なんだ」
ふむ、思い出の品の名前か。ではこの子は二代目と。では初代はどんな人(というかぬいぐるみ)だったの
だろうか。
「ちなみにその子の友達にはラインハルトという子がいて」
「はいはい、で、その子は世界的な歌手になったんだろ?」
あれはいい話だったなあ。

497:かにしのSS「結城ちとせの部屋」6
07/01/26 22:48:29 T4znOeh40
それはそうと。
「―その子は、今は?」
ちとせは首をふる。
「なくしちゃったんだ。だいぶ前に」
あっさり、そう答えた。
「だからあの子は、その代わり。いえ、子どもみたいなものかも」
「でも、だからこそ」
ちとせの声のトーンが、少し低くなった。
「私は……あの子が大事なんだよ」
何かが引っかかる。……代わりの、子ども。
「ボクもちとせのことが大好きさ!」
突然、何処かから声が聞こえた。あれ?今……ジークフリードが喋ったような?
まさかね。でも……声がちとせと全然、違う?
「マイクでも入ってるの?この枕」
「いえ?ただの抱き枕ですよ?」
「腹話術?」
そんな特技があるとは初耳だ。

「違いますよ?彼が喋ってるんです」


「―え?」



498:かにしのSS「結城ちとせの部屋」7
07/01/26 22:49:20 T4znOeh40
―突然。僕の頭の中で警報が鳴った。
これ以上は、聞くべきでは、ない。
教師、滝沢司は。
なのに。聞き返してしまう。
「―どういう、意味?」
彼女は。結城ちとせは。この、僕に。
話し始める。話して、しまう。
「―私が何故、本校から来たか……せんせは知ってる?」
「―ある程度は」
いじめ。無視。孤立。登校拒否。
引継ぎ資料にはそうした理由が記されていた。
しかし。その内容については。
何故、それが起きてしまったのか。
「みんな、おかしいんですよ?」
待て。ちとせは、何を言っている?
「ぬいぐるみが、喋るわけがないって。幻聴だって」
いや。僕は、何を聞いた?何を聞いている?
「私が、おかしいんだ、って―」
彼女は、真っ直ぐに。
「私には、聞こえるのに、さ?」
僕を見て―言った。

「―せんせは、私を、信じてくれる?」




499:名無しさん@初回限定
07/01/26 22:57:52 V1hU8XQC0
支援

500:名無しさん@初回限定
07/01/27 04:02:40 cwM6BlfI0
こんな時間までwktkして待ってしまった、でももう限界。
生殺し状態のまま寝ます……。

501:名無しさん@初回限定
07/01/27 04:32:56 HblcOkeNO
俺はみやび√やりながら待ち続けるぜ

502:名無しさん@初回限定
07/01/27 20:35:17 zlh/Kk8X0
じゃあ俺は書きかけの「かにしのSS」の続きでも書いて待つとしよう

ここでは公開しないけどな!

503:「結城ちとせの部屋」作者
07/01/28 12:21:46 5zgDZ8pM0
えー、半端なとこで終わって申し訳御座いませんでした。
続きはまだ完成してませぬ。皆様が忘れた頃になるかもしれませんが、出来上がったらぼちぼち上げたいと思います。
気に入っていただいた方ありがとうございました。

504:sage
07/01/28 14:13:13 xDzEQVAP0
>「ちなみにその子の友達にはラインハルトという子がいて」

元ネタは川原泉の「笑うミカエル」?

505:名無しさん@初回限定
07/01/28 17:36:45 FkRHU2Gr0
>くとぅるふの落とし子たん
すげぇ欲しいw

506:かにしのSS「結城ちとせの部屋」作者
07/01/28 19:28:31 5zgDZ8pM0
>>504はいです。ぬいぐるみの名前はルドルフで統一しました。
ジーク……は銀英ネタも入れようと迷ってたときの名残ですので忘れてくだちい。
皆様レス有難うございます。一話分投下しますのでまたよろしゅうに。


507:かにしのSS「結城ちとせの部屋」8
07/01/28 19:29:28 5zgDZ8pM0
続きです。よろしこ。
>第X話C「親友」
「―せんせは、私を、信じてくれる?」

あの日より数日後。僕は自室で途方にくれていた。
否定肯定いずれでもなく。何を答えることもできずに、彼女を見返してしまった僕に、彼女は何を見たのだろう。
「そうだよね。変なこと言ったよね、私」
「へへ―せんせ、今のはじょーだんだよ。そうだよね。ぬいぐるみがしゃべるわけないよね?何言ってんだろ」
「だから―忘れてね?」
そう言った彼女の表情に、僕は何を感じた?何を見た?
「糞。僕は―大馬鹿だ」
彼女の諦観を。その失望を―いや、乾いた絶望を見たのではなかったか。
それは信じていたものへの裏切られた感情ですらない。
ああ、やっぱり、という、世界に何も期待しない者の溜息ではなかったか。
あれから、授業中に結城にとりたてて変わった点は見られない。
表面上はあくまで円滑で楽しそうで。でも、けして踏み入らない、立ち入らない人間関係。
いや、むしろ、僕と密接に話していたときのほうが、彼女にとっては「変わっていた」期間なのかもしれない。
「だからって―彼女は、それで、いいのか?」
口に出してみる。それは僕自身への問いかけだ。
お前は、彼女を―結城ちとせをこのままにしておいて、いいのか?
「―いいわけがない」
だがしかし。ならばこの僕、滝沢司に何ができるのか?
彼女に何をしてやれるのか?
「―とりあえず、情報がもっと必要だな」
警察犬のような真似は好きじゃない―生徒のプライバシーに関わることなら尚更だ。
だが、そうしなければ、彼女の心の底にたどりつけないなら。


508:かにしのSS「結城ちとせの部屋」8
07/01/28 19:32:09 5zgDZ8pM0
「成程。それでわたしを探していらっしゃったのですか」
三嶋鏡花は先日設置された生徒互助委員会の委員会室にいた。この時間はもう彼女以外は帰っている。
父母の問題により一時は在籍を危ぶまれた彼女であったが、理事長とリーダさんの温情により卒業までこの学院に在籍できることになった。
とはいえそこは理事長、風祭みやびである。ただでは起きない。
まずコレ幸いと彼女を臨時秘書に任命して事務仕事の一部を委任した。おかげで理事長自身も余裕ができたようだ。
同時に理事長個人と生徒たちの意志の疎通をよりスムーズにすべく、
以前からあった寮委員の権限を強化し新たに本校系分校系の生徒相互が意見交換を図る場を設けさせた。その委員長として三嶋を抜擢したのである。
ちなみに副委員長は分校の仁礼が選ばれた。まあ当然の選出だろう。
もともと寮委員でもあった三嶋にとっては願ってもない仕事だったし、みやびの秘書として働く時間は正規の給与も支払われるという事で、
借金に対する精神的な負担も軽減できる上に将来に向けたスキルも鍛えられるということで文句のあるはずもない。
既に卒業後は学院の職員として、正式にみやびの秘書となることが決まっている、とリーダさんがこっそり教えてくれた。
理事長は相変わらず素直ではないので、三嶋本人には絶対言うな!とかん口令が敷かれているらしいのだが
「バレバレだよね!」
と相沢が笑いながら言っていたのでまあその通りなのだろう。
いずれにせよ、生徒たちの理事長に対する評価も上がったようなのでこの件に関してはめでたしめでたし、だった。
さて、その三嶋に、結城ちとせの事を聞かねばならない。





509:かにしのSS「結城ちとせの部屋」10
07/01/28 19:33:49 5zgDZ8pM0
「結城さんの、本校にいたころのお話ですわね」
寮委員のひとりでもある結城とは表面上は一番親しいはずの彼女。転入時期は三嶋のほうが先だが、一年以上は一緒にいたはずだ。
「わたし、向こうでは違うクラスだったので、お顔を知っている程度でした。ですから―何があったのか詳しくはないのですけど」
「彼女には他人の聞こえないものが聞こえるのだとか、あるいは彼女の家のぬいぐるみには、幽霊が取り付いていて喋るのだとか。
彼女はそれを聞いて、人の秘密を知るのだとか、そういった噂は当時からありました。ちょっとした占い師扱いですね」
―秘密を、守る、人。幽霊。ぬいぐるみ。表面は、合っているようではある。しかし。
「直接の原因は?」
「あまり伝聞と憶測で発言したくはないのですが―」
「憶測でもいい。情報が足りないんだ」
三嶋はふう、と嘆息して続けた。
「先生にならば、教えないわけにもいきませんわね。まあ、話自体はこの世界ではよくあることです」
「本校生には卒業後直ぐ婚約されるような箱入り娘も何人かいますが、その中の一人が結城さんの噂を聞いて言ったのだそうです―わたしが将来婚約する人がどんな人か、教えてもらえるか、と」
「?」
「引っ掛けだったそうです。彼女は実のところ既に婚約予定が決まっていました。
名家の御曹司―と言う以外にとりえのない方だったようですけど、彼女としては悪くない人だと思っていたそうなのですよ」
「彼女としては、とんちんかんな答えが返ってくるのを笑うつもりだったのかもしれませんわね―」
「―結果は、違ったんだな」


510:かにしのSS「結城ちとせの部屋」11
07/01/28 19:34:41 5zgDZ8pM0
三嶋は頷く。
「結城さんは放課後、ロッカーからクマの巨大なぬいぐるみを連れてきて彼女の目の前でぬいぐるみに聞いていったそうです。」
……ロッカーにいたのか、ルドルフ。
「まあ、彼女としてはそれだけで驚いたでしょうね。ですが、本当に驚くのはそれからでした。
話していいのですか、と、結城さんは彼女に確認したそうです。聞きたくない話だと思いますよ、と』
「彼女は、それでも聞いたわけか」
「ええ―結果は明らかでした。御曹司の生年月日から趣味嗜好まで全てが彼女の知るそれと一致したそうです。
ですが、話はそれで終わりませんでした。彼女の知らない部分まで、彼女が聞きたくなかったような部分まで―結城さんは、話してしまったのだそうです」
「知らない部分、か」
「はい。彼女はかなり酷く結城さんを罵倒したようです。嘘つき、と。
立ち会っていた人は居なかったので、これは廊下からの盗み聞き程度の確度しかありませんが』
「だが―嘘ではなかったんだな」
「結局、彼女の不安は拭えず、帰ってから親に再調査を依頼しました。結果はお察しの通りです。
婚約は解消、御曹司はその後麻薬の販売及び使用で逮捕されました。当の彼女は―自殺未遂の後、転校したそうです」
「結城さんに対する虐めが始まったのは、それからだったと聞きました」


511:かにしのSS「結城ちとせの部屋」12
07/01/28 19:35:47 5zgDZ8pM0
―ふう、と今度は僕が息をつく。
「今は?ぬいぐるみのことで―三嶋にそういう話をすることはあるか?」
「結城さんが、それに類する話をわたしにしたことはございません。一度も。当然、わたしからもありません」
きっぱりと三嶋は答えた。
「たしかに、わたしも根っこの部分では信用されていないのか、と悲しくなることもございますけど」
口調こそ一抹の寂しさを湛えていたが、そこに結城を恨むようなトーンはない。
「でも、彼女も私の父母のことは聞きませんでしたし、わたしがこうなる前も、こうなってからも変わらず接してくれますし」
親しくても、親しいからこそ、聞くべきでないこともある。
「わたしにとっては、とても大切な友人です。風祭さんや鷹月さん、八乙女さんと同じく―或いは、それ以上に」
「何故?無論みな大切だろうが―結城は、君にとってどう特別なんだ?」
「日頃から接していれば判ります。結城さんは、自分で信じていない嘘をつけるような方ではありませんもの」
「ですから、彼女がそう思っていた以上、当時の結城さんにはそれが真実だったのでしょう。それを私は信じます」
信頼。それは個々の出来事についてではない。結城ちとせという人間に対する信頼だ。
―なんだ、当然のことじゃないか。
「それに―彼女は、こちらに来た最初の日に」
転入してきた初日。彼女は、どれだけ心細かったろうか。また、受け入れられないことへの恐怖や諦めは、なかったのだろうか。
「寮を案内するわたしに、お友達になりましょうと言ってくれたんですのよ。他の誰よりも先に、わたしに」


512:かにしのSS「結城ちとせの部屋」13
07/01/28 19:39:12 5zgDZ8pM0
「あの時、彼女はとても心細かったはずです。その時に最初に頼ってくれたのが私だったのですから」
「わたしは、彼女が信頼してくれた自分を信じます。だから、彼女の気持ちがどう揺れようと、わたしは彼女を信頼しますわ」
「あなたは―わたしを信じてくれたあなたは、正しいと」
自分の下す判断に迷いはなく、恐れることもない。それが三嶋鏡花という少女を支える新たな柱なのだろう。
自分の足で自分を支えなければ、立ち続けることはできないという事を、彼女は級友より早く知った。
そしてだからこそ、同じ環境にある理事長を支えることもできるのだという事も、今の彼女は知っている。
だからこそ、変わらないことで、親友を支えたいのだと。
「三嶋」
「なんでしょう?」
「お前みたいな友人が結城にいるというだけで、僕は嬉しいよ」
「相変わらずお上手ですね、先生?」
三嶋はくすくすと笑った。
「ありがとう。おかげで僕のスタンスが見えた」
「どうなさるおつもりですか?」
「君が信じたように、僕も彼女を信じるよ」
「では、行動開始ですわね。ご武運を、とでもいうべきでしょうか?」
「いいね。クマといえば金太郎、坂田金時かな。まず、ルドルフ君と相撲でもとってみるさ」
「相撲だと行司が必要ですわね。今から理事長にお願いしておきましょうか?」
理事長ならむしろ自分で相撲をとりたがりそうだ。クマと相撲を本当に取れたら驚喜するだろう。
つぶれちゃいそうだけど。
「こないだリーダさんに塩まかれちゃったからなあ」
「では熊のあとはリーダさんですわね」
「それは絶対勝てる気がしないなあ!」
二人で笑いあった。
そうだ。結城。信じてもらえないと諦めるには、まだ早すぎる。
お前には、こんなに素晴らしい友人がいるんだから。

>>今日はここまででつ。読んでいただいた方に感謝感激。8がふたつできちゃったよorz



513:名無しさん@初回限定
07/01/28 22:50:28 mWBHy21F0
>>512
いいねー、いいねー、すんごく楽しめました。GJ!
ゲーム中のお気楽結城とのギャップが良い感じです。
次は是非、三嶋のSSを~♪

514:かにしのSS「結城ちとせの部屋」13
07/01/28 23:17:49 5zgDZ8pM0
>>513
がんばりまつ……今回の書いてて三嶋もやっぱりいいなあ、と思いましたね。
ちとせを上手くオチするにはあと最低二話は必要な感じです。気長にお待ち下さいませ。

515:名無しさん@初回限定
07/01/29 01:17:42 CDYpj5oU0
GJ!
なんてことだ、ますますサブ女子キャラたちの立ち絵&ルートが欲しくなっちゃったじゃないかっ!


さぁみんなPULL TOP本社の方角に向かってファンディスク制作祈願の電波を発信しようぜ。
いあいあ…

516:名無しさん@初回限定
07/01/30 00:26:16 s3EEjxb20
恋姫†無双の2週目で関羽(愛紗)を無視しまくりごめんなさい。
そんなわけで偽END風味SS書いてみた。

条件1・愛紗を1回も選択しない
  2・他キャラ全員最低1回選択しておく
  3・最後の拠点、最後の選択で愛紗を選ぶ

517:関羽ENDの外史
07/01/30 00:27:17 s3EEjxb20
擁いてはいけなかったのだ。
常に自分を律し続ける。
それが武人として、そして人としての高みに上がるための方法だと信じていた。
だから、このような想いは擁いてはいけなかったのだ。
その瞬間から、私は醜い獣となってしまったのだから。


「全く………ご主人様は一体何処に居られるのだ?」

今日何回目かの呟きは誰もいない廊下の奥へと吸い込まれていった。
昼過ぎに虫の知らせを感じたので部屋へと様子を見に行ってみれば案の定そこはもぬけのから。
ついでに鈴々も調練に来なかったので2人して市にでも行っているのだろう。

「あのお方ももう少し、ご自分の立場というものを御自覚していただきたいものだ………」

鈴々はまだ良い。
あれは強い。そこらの奴らでは触れることも叶わぬだろう。
だが、ご主人様は違う………
天の世界ではいざ知らず、刃に毒でも塗ってあれば一掠りで死に至る。
いくら鈴々が強いといっても絶対などということは無い。
ご主人様が死んでしまう………………ッ!

「おいっ!星は何処だ!?私はご主人様を向かえに行く!調練は任せたぞ!」

518:関羽ENDの外史
07/01/30 00:28:22 s3EEjxb20
「んっんっんぐ。美味いのだー!美味しすぎて鈴々のほっぺたが落ちないかどうか心配なのだー!」
「こっちの財布の中身も心配してくれよ………」

見つけた!
まったく、私の気苦労も知らずに買い食いなど、毒が入っていたら………はさすがに無いか。
いやいや、ご主人様が買い食いが好きだとばれたら行商に化けた白装束共がやってきて毒を………!
くっ、やはりここは私がご主人様の食事を用意するしか無いのか?うん、無いな。

「あれ?愛紗が居るのだ」
「え?マジ?うお!本当にいた!」
「うお!とは失敬な。こんな所にいて申し訳ありません」
「愛紗………怒ってる?」
「怒ってません。ただ護衛も連れずに歩き回る主の悪癖をどうすれば良いのか悩んでいるのです」
「それが怒っていると………」
「何か?」
「いえ、何も」

本当にこの人は………
…………………………………私の気も知らずに

519:関羽ENDの外史
07/01/30 00:29:12 s3EEjxb20
「いや、勝手に市に行ったのは本当に悪かったと思っているよ」

私のすぐ後ろには罰の悪そうなご主人様と鈴々の姿。
鈴々は何も言わず、逆にご主人様は積極的に謝罪の言葉を吐いている。
だがしかし、やはりご主人様は私の気持ちを分かってくれていない………

「ご主人様?私は何も市に行くのが悪いと言っているのではありません」
「え?じゃあ、何で愛紗怒っている………いえ、何でもありません」
「私はただ、護衛を連れずに出かけたことを怒っているのです。せめて2人、万全を期するならば最低5人は欲しい」
「いや、それじゃ堅苦しくて楽しめないと言いますか、その」
「それが無理なら………せめて鈴々だけでなく、私も連れて行ってください」
「いやー、愛紗は仕事が忙しそうだったからさ。こっちの我が儘に付き合ってもらうのも悪いと思ってさ」
「あー、それって鈴々が暇そうだったってことー?」
「いや、その、ノーコメントで」

分かってくれていない。
仕事なんか後でどうとでもなるというのに。
鈴々とも朱里とも翠とも星とも紫苑とも、さらには敵国だった捕虜とも出かけているというのに………
そんなはずは無い。主を疑うな。疑心を持つな。


私が避けられているなど。

520:関羽ENDの外史
07/01/30 00:30:35 s3EEjxb20
日は夜の闇に包まれ、月が輝く空の下で私は溜息をついていた。
そういえば主が言っていたな。溜息をつくと幸せが逃げると。
なるほど、最近の私は溜息ばっかりついている気がする。
そんな時でも、考えるのは主に関する事ばかり………

「思えば、遠くまで来たものだな………」

始めはたった3人だけだった。
すぐに朱里が加わり4人になった。
それからしばらくは、その4人で頑張ってきたのだったな。
そして次々に仲間が蜀にやってきた。
それも女ばかりが。
そして………そして、主は次々に関係を持った…………………

「何故、私は」

最近、何かが分からなくなっている。

「何故、私は」

思い出せない。思いつかない。

「何故、私は」

主しか想えない。

「人々のために闘うと決めたのだ」

分からない。

521:関羽ENDの外史
07/01/30 00:31:10 s3EEjxb20
会いたいと思った。
気がつけば主の部屋の前にいた。
やれやれ、無意識にここまで来てしまうとは鈴々を笑えんではないか。
………主はまだ起きているのか?

「………ぃ……………ぇ」

………声?
主の部屋の中から?

「お兄ちゃん!あっ!そこっ、らめなのだ!」
「ご主人様、の、あつ、や!」
「2人とも、すごく、気持ちいいよ。最高だ!」

………ああ、『今夜も』。
『昨夜も』、『その前も』。
主は誰かと交わっていた。
蜀の皆と、魏の者と、呉の者と、董卓の者と。
ずっと一緒にいたのに。
最初から一緒にいたのに。
これからも一緒にいたいのに。
………部屋に帰ろう。
そして自分を慰めるのだ。
『今夜も』。


522:関羽ENDの外史
07/01/30 00:35:12 s3EEjxb20
「ご主人様。起きてください、ご主人様」
「ん、んー。………ぅ、ん?あ、愛紗!?」
「おはようございます、ご主人様」

どうしても話がしたかった。
聞きたかった。
でも、やめておけばよかった。
そうすれば、そのままでいられたのに。

「あの、ご主人様。少し、聞きたい事がありまして」
「ん?何?」

懐に忍び込ませた小刀。

「え?愛紗のこと?んー、そうだな」

それは研ぎ澄まされた牙。

「世話になってばかりだね。誇りに思うぐらいだ」

それは想いを伝える文。

「ああ、そうさ。愛紗は頼りになる『部下』だよ。最も、おれ自身は『仲間』って思ってるけどさ」

それはまるで今の私。

523:関羽ENDの外史
07/01/30 00:36:03 s3EEjxb20
「ご主人様、少し聞いてくれますか?」
「ああ、良いよ」
「私は、常に立派に生きようと思っていました」
「うん。愛紗は立派だよ。俺なんか全然駄目なのに」
「私は、武人として、人として誇れる生き方を送ろうと思っていました」
「う、うん。………それで?」
「でも、それで私が『部下』でしか、『仲間』でしかいられないのなら」

牙を。
衝きたてた。

「獣で構わない」
「………愛、しゃ………………?」
「もう、それでいいのです。我が主」

膝が折れ、体重が私にかかってくる。
心地よい。久しく触れていなかった重みだ。
この重みは、もう私だけの物。

「お傍にいます。私がお傍にいます。
 いつまでもお傍にいます。他の誰でなく、私がお傍にいます。」

そして私は、自らの牙を、心の臓に、衝きたてた。

524:関羽ENDの外史
07/01/30 00:37:57 s3EEjxb20
実際のゲーム内では愛紗はめっちゃ忠犬です。
こんな怖い子ではありません。


愛紗BAD END「ヤンデレ愛紗」


これで終わります。

525:名無しさん@初回限定
07/01/30 13:34:37 72weaDRk0
うむ!GJだ!
でも「なんかこれに似たキャラを知ってるなぁ」と思ったらアニメ版シャッフルの楓に似てるんだな
こう、一歩間違えばこれと似たEDになってもおかしくないと思う
それはともかくGJだぜ!

526:かにしのSS「結城ちとせの部屋」14
07/01/30 23:26:26 iQasyV6x0
再開ですー。やや長いですがよろしく。
>第X話D「みんなのへや」
クリスマスも近づいたある日の夜。
僕は作戦を決行した。
扉の前で、左右を確認。人影はない。オールグリーン。
覚悟を決めて、ノックする。
「はいはーい」
いつもの彼女の声がする。
「滝沢だ。話があるんだが」
「……え?せんせ?ちょちょっと待って待って!」
慌てふためく結城。当然だ。不意打ちを狙ったのだから。
扉が細く開けられ、結城の顔が覗く。もう寝間着に着替えていたらしい。上にドテラを羽織っている当たり、以外と庶民的だ。
「どしたのせんせ?こんな時間に」
「良かったら、入れてくれないか?大事な話なんだ」
「……わたしはいいですけど、せんせ、ちょっとモンダイじゃない?坂水先生とかに見つかったらヤバイよ?」
「そう思ったらここをもう少し開けてくれ」
「―どうぞ」
眼をぱちくりさせた後、彼女は諦めて僕を部屋に入れた。
「緑茶しかないですけどいいですか?珍しいよね。せんせが私の部屋に来るなんて」
彼女は前回と同じくちゃぶ台を掘り出してその前に僕を導くと、湯のみを二つおいた。
「ありがとう。そうだな、あの時以来だ」
―結城は無言だ。笑っているとも、忌避しているともつかない、微妙な表情。
さて、戦闘開始だ。……僕は、踏み込む。
「結城、卒院後の進路は決まっているか?」
「え?わたし?うーん、お父さんの仕事手伝おうかなって……漠然とですけど。それが?」
「結城。真面目な話だが」
「はい?」

「僕 と 結 婚 し て く れ」


527:かにしのSS「結城ちとせの部屋」15
07/01/30 23:27:19 iQasyV6x0
「…………はい?」
文字通り、目が点。
「ええええええええええええええええええ!!」
絶叫は部屋の防音限界を試すかのごとき音量で響いた。
「マジですかマジですかせんせ……あたま大丈夫?何言ってるかわかってる?」
「僕は本気だ。卒院したらすぐ結婚しよう。本当なら今すぐ結婚したいぐらいだ」
「ええええ……あ……」
両手を挙げて固まっていた結城は、ややあって手を降ろし、溜息をついた。
「―あのね、せんせ?」
上目遣いに、僕を見やる。
何か、可哀相な人と思われてるっぽい……
まあそうだよなあ。
いきなり教師に求婚されたらそりゃ引くよなあ。
しかし、これは策略の一環なのだ。
「一時の気の迷いで、人生最大の決定を簡単に決めちゃってはいけないとわたしは思うんだ」
「迷いではない」
そう。迷いはない。彼女のためにできることを考えたとき。
今、こうする必要があった。
「でもでも、わたしもまだ未成年だし、せんせは学院の教師だしその」
「だから、君の保護者とも話させて欲しい」
「せんせ私の話聞いてるのかな!大体……その……突然すぎるし」
結城は茶に口をつけた後やや荒くちゃぶ台に置いた。だいぶ呆れた口調だが……ハナから嫌というわけでもないらしい。
嬉しいような申し訳ないような。
「保護者といっても……お父さんは忙しいし、お母さんはずっと海外だし」
それでも話についてきてはくれる所が彼女のいいところだな。
しかしながら、僕はここで彼女に爆弾を投下しなくてはいけない。
そう―彼女の秘密を砕く爆弾を。
「違う。君にはもう一人いるだろう。ずっと君を見守ってきた、保護者が」
「―せんせ?」
「―ルドルフと、話させてほしい」


528:かにしのSS「結城ちとせの部屋」16
07/01/30 23:28:37 iQasyV6x0
……その瞬間、結城ちとせの眼は、僕の眼を正面から捉えた。
同時に僕も、彼女の眼を―そしてその内に隠された綻びを捕捉した。
「―何、いってるの?せんせ。私言ったじゃない?ぬいぐるみが話すわけないじゃない、って」
結城の声は、わずかに震えていた。
僕や三嶋でなければ、分からない程度に……しかし確実に。
「その前に、君は僕に言ったはずだ。『私を、信じてくれるよね』と。あのとき、告げられなかった返事を今しよう」
「僕は、君を信じる。だから、きみの知るルドルフと、話をさせてくれ」
結城は、一瞬きつい眼で僕を睨むと、がたんと席を立った。
無言でベッドから、ルドルフを抱き上げる。
そして口を引き結んだまま、ルドルフ君をちゃぶ台の自分のいたところに連れてきて鎮座させると、
自分はそのままベッドに入ってしまった。
「……私はふて寝してるから、彼とは勝手に話してください」
毛布を頭からかぶって、ごろりと壁のほうを向いてしまう。
自分でふて寝っていうなよ。
しかし。ここからが本当の勝負だ。
向き直り……僕が何か言おうとしたとき、それは始まった。
「―正式に挨拶するのは初めてだな。ルドルフ・シュミットだ。お見知りおきを」
既に相手は土俵に上っていた。
タイミング的にも何もかも完璧に、目の前のぬいぐるみが喋っているようにしか聞こえなかった。
声質に、結城ちとせを思わせるものは何処にもない。完全な成人男子の声だ。
僕はベッドのちとせを見る。
彼女はこちらに顔を向けない。すでに眠ってしまったのかどうかもわからない。
分からないがしかし、なんというか……彼女が喋っている、という気配は一切なかった。しかし……それでも。
「ボイスチェンジャーや録音ではないよ。私が話すときは、あくまでちとせの声帯を借りている」
……やはり、そうなのか。
「ただし、彼女はそれを認識していない。故に、外見からは彼女は一切喋っているように見えないはずだ」
「……どういうことだい?」
「私が彼女の声などを借りているとき、彼女の認識においては時間は停止している。
知覚はブランクなく次の時間に引き継がれる」



529:かにしのSS「結城ちとせの部屋」16
07/01/30 23:31:27 iQasyV6x0
「時間が停止しているが故に、彼女の心が『わたしが肉体に与える信号』に反応することはない。
彼女の行動があくまで自然なのはそのせいだ」
「―君は、何処に居るんだ?千歳の中なのか」
「そうともいえるし、そうでないともいえる。滝沢司先生、貴方は数論には詳しいか?」
「歴史がらみの事件なら多少は」
数学の発展史は人類の進歩に密接に結びついているから、ある程度の知識は僕も持っているが。
「『ヒルベルトのホテル』という概念を知っているかね?」
「―確か、無限に部屋の存在するホテルを考えたとき、どのように客を泊めたらいいか、
みたいな命題を扱ったものだったと記憶してるけどな」
「大枠で結構。命題にあまり意味はない。しごく大雑把に表現するなら、ちとせも私もそのホテルの一部屋の住人だということだ。
ただし、住人同士が顔を合わせる事はけしてない。なぜなら、個々の住まう部屋はそれぞれ無限に離れているからだ。
故に、ちとせはホテルのオーナーでもありながら、わたしが同じホテルの住人であることには気づかない
……精神科医に言わせれば、『気づこうとしない』というところだろうがね」
「個々といったな。君以外にも……いるのか?」
「先日ちとせと貴方の前で無粋な叫びをあげたのは私の名を騙った別のぬいぐるみだ。
おしゃべりの愉快犯、わたしとは相性のよくないウッドペッカーのシェイマス。
今はオーナーの怒りを買って奥に押し込められているがね」
「……道理で、口調が違うと思ったよ。だが、愉快犯というのは?」
「ガス抜きのために自分の尻に火をつける馬鹿な奴と言ってもいい。我らがオーナーは、たまに露悪的になるのだよ。
貴方に秘密を語ってしまった時、彼女の中にはいくつかの感情が渦巻いていた。
ぶっちゃけてしまいたい気持ち、隠しておきたい気持ち。認めて欲しい気持ち。否定して欲しい気持ち。
彼女自身が口に出すことなく、あるいは気づくことすらない感情を、私やシェイマスのような存在は代弁してしまう。自動的にね」
「彼女はあの時、君の言葉だと認識していたようだが」


530:かにしのSS「結城ちとせの部屋」18
07/01/30 23:32:25 iQasyV6x0
「彼女自身も、シェイマスが出てきてしまったことにあの時は混乱していた。
なぜ今しゃべる!空気読め!と後でシェイマスが罵られていたのは……おっと、これを言ってしまったのは彼女には秘密だよ」
「今も、実は聞こえているんじゃないのか?彼女は……」
「さて、それは私の口からは言えないね。あとで彼女に聞くといい。私に聞きたいのは、別のことだろう?」
「ああ……結城の、過去のことだ。君が知る、全ての原因を」
わずかな沈黙の後。ルドルフは語り始めた。
「結城家の家族仲は、けして悪くはなかった。一人娘を父は溺愛していたし、キャリアウーマンの母も同様だ。多忙ゆえ夫婦が全員そろって過ごす時間はけして多くはなかったが、幼いちとせも、それを受け入れるだけの強さは持っていた」
「だが、だからと言って、たまに帰ってきた母親と過ごす時間が嬉しくないはずはない」
「そして、母が仕事に急いで出るからと焦っていたときでも、それを見送ることに躊躇いもあろうはずがない」
そうだろう?とルドルフは同意を求める。
「―それゆえに、周りが見えなくなることも。焦って、玄関から飛び出すことも、責められることではない。そうだろう?」
再び、同意。しかし、とルドルフは続けた。
「しかし、そう……発進させようとした車の前に、ぬいぐるみを抱えた娘がいきなり飛び出してきたら、
母親がパニックになるのも無理はない。これも、責められはしない。―そうだろう?」
「―それは」
「―母は、ブレーキを踏んだつもりだったそうだ。新品の履きなれない靴だったのも災いしたらしい。アクセルを踏んでしまって……さらにパニックに陥った」
「ぬいぐるみが飛び散るのを見て、ようやく我に返ったそうだ―その時に『死んだ』のが、初代ルドルフというわけだよ」

531:かにしのSS「結城ちとせの部屋」19
07/01/30 23:34:50 iQasyV6x0
「それで?彼女は……ちとせは?」
「幸い、彼女にたいした怪我はなかった。頭をやや強く打っていたがね。ゆえに彼女は思ってしまった」
「ルドルフが、身代わりになってくれた、守ってくれた、とね―我が前任者ながら大したものだと思うよ」
皮肉に聞こえた。
「新たに母が買い与えたのがこの私……私としてはルドルフ2世というところだな。ちとせの中ではどうもあまり区別がないようだが」
しかし、ちとせの傷は直ったが、それを境に父と母の間に入った亀裂は直らなかった。
事故当時、父はかなり酷く母に当たったらしい。娘に対する溺愛の裏返しではあったのだろうが、
おかげでただでさえ罪悪感に苛まれていた母親はすっかり参ってしまったのだそうだ。
ノイローゼで入院してしまい、離婚寸前までいったらしいが最終的には別居という事に落ち着いた。
「海外を飛び回る美術商という仕事上、いずれにしても彼等は離れて暮らすことが多かった。
表面上は今までと変わりない、仲睦まじい夫婦のままだが―ここ数年、家族が一堂に会したことはない」
さて、とルドルフは続ける。あくまで淡々と、自らの主人を、そして保護者として見守ってきた対象を。
「ちとせは思ってしまった……自分の不注意が、家族を壊してしまった、とね」
さて、そこで―ナニがあったか、私が語るのは難しい。気がついたら、最初に私が、そしてぬいぐるみが増えるごとに別の存在が―例えばシェイマスのような、が生まれていた」


532:かにしのSS「結城ちとせの部屋」19
07/01/30 23:36:02 iQasyV6x0
「精密検査では、脳には一切異常が無かった。ちとせが密かに自分で検査を受けた結果だ。しかし」
「恐らく、事故の際脳に衝撃を受けたことで、何らかのスイッチが入ったのだろうと、我々は考えている」
「千歳自身は、どう感じているんだ?その―君たちが次々に現れたことについて」
「―解っては、居るのだと思う。「ぬいぐるみ」は喋らない、ということはね」
「しかし、彼女は、それを自分の狂気と捕らえるのではなく―ありのままを受容することを選んだ」
「仕方ないともいえる。よくある多重人格と違い、彼女は我々の思考を一切把握していない。無意識のうちに、彼女の意志が我々に影響を与えているのは間違いないが、彼女自身はそれを知らないし制御もできない」
「―君たちは、本当の意味で、そこに住んでいるんだな」
「少なくとも私は、そう考えている。一つの人格の重なり合った別形態ではなく、独立した意思として私は結城ちとせのヒルベルト・ホテルに住んでいるのだよ」
「その―虐めの原因になったという占いについてだが」
「簡単なことさ。意思の中に詮索好きが多かったというだけの話だ。本校時代なら、ネットでも探偵でも使えば情報収集など難しくはない。ちとせが知らない間に、ホテルの住人の一人が、予めクラスメイトの情報集めをしていたということだよ」
「―しかし」
確かに、御曹司のスキャンダルは、興信所が再調査すればばれる程度のことだったわけで。
「私が考えるに―占いをちとせがはじめた時点で、そうした防御的な行動が既に始まっていたのではないかと思う」
「ホテルの住人が、ちとせが占いで失敗するのを避けようと―自発的に情報収集した、と?」
「それが結果的に裏目に出たのだから皮肉としか言いようがないがね。
最も、こちらに来てからはちとせは占いに手を出していない。まあ、ネット環境もないこの寮では、
我らが住人もサポート出来ないだろうから結果的には幸いというところだね」
そう結んで最後に、ルドルフ2世は結論を僕に告げた。
「まあ、そういうわけで、ちとせの認識に関する限り、彼女は嘘はついていないのさ。医者はまた違った事を言うだろうがね」
「それで僕にとっては充分だ」


533:かにしのSS「結城ちとせの部屋」21
07/01/30 23:38:25 iQasyV6x0
そう。彼女が先に進むためには。
ルドルフがこれを僕に語ったということ自体が、彼女の無意識を、僕に示してくれているのだから。
「さて、私が質問する番だ」
「保護者として問おう―君は、結城ちとせのどこに惹かれたというのかね?教え子に懸想するとは教師失格だとは思わないかね」
「ふむ、教師失格といわれれば甘んじて受けよう。……だが、そうだな。
簡単に言えば―彼女が自分を信じていないように見えたから、かな」
「ふむ?」
「僕は彼女を信じたかった。彼女に自分を嘘つきなんて卑下してもらいたくはなかった。
信じて欲しいことがあるなら、それを受け止めてやりたかった」
「彼女が君にそれを望んでいると思うのかね?」
「僕じゃなくても出来るかもしれない。誰かがいつか彼女の心を開いてくれるのかもしれない。でも、僕は今ここにいて」
彼女のために、何か出来ないかと考えている。
「ならば、する事はひとつだろう?教師であっても、ただの男でも、だ」
―ぬいぐるみであるルドルフのの顔が、わずかに笑ったように見えたのは錯覚だろうか?
「―私が言うのもなんだが、難しい子ではある。君に好感を持っているのはまあ疑いないとしてもね。
これを私が言うのも奇妙ではあるが、だとしてもすぐ結婚というのは現実的ではないと思わないかね?」
「それは大丈夫だ」
「―なぜ?」
「ぶっちゃけると、ちとせと今結婚させてくれ、というのは嘘だ」


534:かにしのSS「結城ちとせの部屋」22
07/01/30 23:39:18 iQasyV6x0
「なん?」
「君を引っ張りださなきゃいけなかったので、一番インパクトのある台詞を選んだ。ちとせ本人が呆れるくらいのね」
「……成程。は、はは……これはおかしい!あの時以来、こんなのは初めてだ……はははっ!」
―ぬいぐるみが、笑っている。(ように見える……僕もだいぶやられているらしい)
「ならば、私は一旦去ろう。オーナーが、大層君に言いたいことがあるようだからな!先に聞きたいかね?」
「君に聞くのはフェアじゃない。ちとせの口から、直接聞くさ」
「良かろう。せいぜい罵倒されることだ!―滝沢司」
幻聴か。
―君は最高に楽しい男だよ。
と、最後にルドルフが言ったような気がした。
三嶋よ。
どうやら、難敵との相撲に勝てたようだ。相手は自ら土俵を降りた。
後は、お姫様だけだ。さて―


「嘘なのかよ!」
同時にちとせが飛び起きた。



535:かにしのSS「結城ちとせの部屋」23
07/01/30 23:40:41 iQasyV6x0
>第X話E「ふたりの部屋」

「ふふふ……いい度胸だよね先生!乙女を弄んでさ」
びし、と司に指をつきつける。その眼は怒りか悲しみか羞恥か、いずれとも知れぬ感情に彩られていた。
「弄んでなんかないぞ」
僕が反論すると指差していた手があっさりと力なく下がった。溜息をついて彼女は続ける。
「ふう……分かったでしょせんせ?私、嘘つきなんだよ?」
「なぜそう言い切る?」
吐き捨てるように、結城は答えた。
「自分に、嘘をついてる。どうせそう思ってるでしょ。病気なのを、ごまかしてるだけだって」
最初のきっかけはルドルフが言ったとおり。事故の後の、父母の喧嘩。それが引金になったのだという。
―お母さんとお父さんが私のせいで、喧嘩してる。
悪かったのは、私なのに。
不注意だった私が、悪いのに。
自分で、私の家族を壊してしまったのに。
「私は、ルドルフに言ったの。誰か、私の懺悔を、後悔を、聞いてください、って。
私の泣き言を、憎しみを―嬉しいことを、聞いてください、って」
―そしたらみんなが現れてくれた。聞いてくれた。そういうこと」
「でも―それは嘘だよね?お医者さんはたぶん言うよ。わたしは多重人格です、って」
「説明できる心のヤマイ、だって」
そこにいるのは……泣いているお姫様。
だが―幸いにも僕は、彼女を泣き止ませる言葉を知っている。
だから躊躇わず踏み込もう。最後の一歩を。
「結城。君はこういったね。『私は嘘つきです』先生から質問だ。これは正しいか、それとも嘘か?」
「せんせ……?」
「これは嘘つきのパラドックスといってね。答えは……そんなことは、証明できやしない、だ」
「どうして?」
「だってそうだろう?正しいなら、君は嘘をついている。故に嘘つきというのは嘘だということになる。
嘘なら、『私』は嘘つきではないことになる。だけど最初に嘘としたのなら、『私』は嘘をついたのでなければならないはずだ。
つまり、結果として、私は嘘つきです、と言う人が嘘つきか正しいかなんてのは、解らないってことさ」


536:かにしのSS「結城ちとせの部屋」24
07/01/30 23:41:35 iQasyV6x0
「―でも、でも」
「人は君の本当も嘘も、どちらも正しく信じることができる。だから、精神科医はけして現実に勝てない」
「だから、僕は君を信じる。君がありたいと願う現実を。そうなりたいと願う未来を」
ルドルフが何処に住んでいようと関係ない。
「僕は君と話す。ルドルフと話した。それで君を信じるには十分だ」
だから結城、お前は。何に怯えることもない。何を恐れることもない。何を後悔することもない。
君が父と母を愛している。それだけで、君は最初から許されているんだから。
「私は……母さんを壊したり、してないの?自殺を図った彼女を……壊さなかったの?」
「壊れたのは君だけのせいじゃない。君の手が何かをなしたとしても、君はもう報いを充分に受けた」
「そんなの……そんなの楽天的すぎるよ」
「―人が犯す罪の全てが永遠に許されないのなら、世界は一日ごとに滅んでなきゃいけないはずだ」
「僕が、君を許す。君を認める。君を信じる。それじゃ足りないか」
「―せんせ」
「今すぐ結婚したい、と言うのは嘘だ。だが、君が卒院してから以降は嘘にする気はないぞ」
「……なんで、そこまでするの?何で、私なの?」
「男が可愛い女の子に惚れるのに理由がいるか」
「……聞きたいよ、わたしは」
「そうだな。結城ちとせは……可愛い嘘つきだから、かな」
「―滝沢先生は、嘘つきだよ」
「証明できるか?」
「さっきの話だと、できないんだよね。……じゃあ」
結城の眼が悪戯っぽく光った。だいぶ、いつもの彼女に戻ってきたような気がする。


537:かにしのSS「結城ちとせの部屋」25
07/01/30 23:42:44 iQasyV6x0
「せんせが、自分で嘘つきでないって証明して」
「―どうすれば、君は納得する?」
「そだね」
くすり、と、笑って。
やっと、笑って、言った。
「―私が眼を閉じている間に、せんせがすること。それが気に入ったら、納得するかも」
「僕が出来ることは、一つしかないぞ」
「―それで、いいよ」

そうして。
僕、滝沢司と結城ちとせは。
初めてのキスを、交したのだった。


P.S.
「ルドルフとは毎日キスしてたけど」
そうなのか。
なんとなく落ち込む僕。
「でもでも」
あわあわ、と手を振ってから。
僕の首に彼女はそっと手を回す。
「あったかいキスは……初めてだよ」
結城は、ちとせは、僕を見上げて、
「せんせぇ」
「何だ?」
「大好き」


538:かにしのSS「結城ちとせの部屋」作者
07/01/30 23:52:01 iQasyV6x0
めでたしめでたし……というところで如何でしたでしょうか。
都合五話お付き合いいただき有難うございました。
結城ちとせは情報が少ない分、自分で補完していく楽しさがありましたが
皆様のイメージと乖離してなければ非常に嬉しいですね。
とりあえずPULLTOP様に立ち絵ぷりーずな感じです。

もし気に入って頂いた方で転載等ご希望の方はご自由に再利用して下さいませ。
作者名:紅茶奴隷と端っこにでも書いておいて頂ければ幸いですです。


539:名無しさん@初回限定
07/01/31 01:03:17 N7keWlf30
あなたがかみか。
よし、今すぐPULLTOPに就職して下さい。
ファンディスクかにしの特別編シナリオ、よろしくお願いしますね?

540:かにしのSS「結城ちとせの部屋」作者
07/01/31 01:09:36 JBAP7lJd0
>>539そういってくれるだけでSS書きとしては作者冥利に尽きますね。有難う御座います。
健速氏の描写した「頼れる教師」司のイメージを大事にしてみましたが
……言葉で人を説得するのって難しいですね。改めて実感。

541:名無しさん@初回限定
07/01/31 07:23:36 eg4lkMuwO
ちとせのSS上手すぎるよ・・・
GJ!!

542:名無しさん@初回限定
07/02/02 22:35:05 gZIZHyZR0
ここに恋姫†無双のSSが投下されていたので
私も投下してみます。

注意点
・これにはもろネタばれを含みます。本編のEND辺りからの開始になります。
・作者はど素人であり、内容も表記も電波ばっかりです。
・前半部は本編と同じような表現が使われていますが勘弁してください。

543:恋姫†無双外史・翠END?
07/02/02 22:39:56 gZIZHyZR0
 その時、俺は……

  皆の事を思い浮かべた
 >翠の事を思い浮かべた

 淡い光を放ち始める鏡。
 その光はこの物語の突端に放たれた光。
 白色の光に包まれながら、俺はこの世界との別離を悟る。
自分という存在を形作る想念。
その想念が薄れていく事を感じながら、それでも俺は心の中に愛しき人を思い描く。


544:恋姫†無双外史・翠END?
07/02/02 22:41:58 gZIZHyZR0
 翠――。
 ずっと側にいてくれた意地っ張りな少女。この戦いの物語の中でずっと俺を支え、時には励まし、そして時には導いてくれた大切な半身。
 その少女との別離の刻が迫っていく。
 自分という存在の境界があやふやになっていく恐怖の中で、ただ俺はその少女の事を思う。
 このまま消えたくない。約束したじゃないか。
 翠の前から消えるなんて、絶対したくない!
 この世界から切り離されていく感覚。その運命の中で、愛しき人に手を伸ばす。
 ただ、側にいたい、彼女の笑顔を見たいと願う一心に。
翠「ご主人様!」
 薄れていく意識の中、耳朶を叩く愛しき人の声が俺の心を奮い立たせる。

一刀「すい……」
 物語の終演を告げる運命の光。
 決して逃げることの出来ないその光から、必死に手を伸ばした。
一刀「す…い……」
 ただ、会いたい。ただ、声を聞きたい。そして、ただ一緒に居たい。
 いつまでも、続くと思っていた2人がいる楽しい日々。
 それをただこれからも続けていきたいと心の底から求める。
 いつまでも、いつまでも。
 共に過ごした時間
 共に過ごした記憶
 それらが、水滴となって地面へと落ちて、そして弾けていく。けど、それに抗うかのように俺はそれを受け止めようとする。
 翠と俺が楽しいと感じた思い出は忘れたくない。
 絶対に、例え運命であったとしても。
 決して逃れられぬものだとしても。
 俺にとって、彼女との思い出は何よりも大切なものなのだから。
一刀「す…い……」
 それなら、どんな流れでさえも足掻いてみせる!


545:恋姫†無双外史・翠END?
07/02/02 22:43:10 gZIZHyZR0
翠「ご主人様!」
白い光がご主人様の姿を消していこうとする。
翠「待ってくれよ、お願いだから!」
精一杯叫んでも、届いていると信じていても、その光が止まることはない。
言ったのに。
ずっと、あたしを楽しませてくれるって言ったのに。
翠「居なくなったら一生恨むって言っただろ!」
 もう、誰か大切な人が居なくなるなんて嫌なんだよ。
翠「あたしを1人にしないでくれよ!」
 あの幸せを感じられる日々が終わるなんて考えられない。
一刀「翠……」
翠「ご主人様!」
 父上が死んだ時、あたしはもう楽しいって感じられないって思っていた。
 でも、ご主人様はそれでも楽しいって思えるようにしてくれた。
翠「やだよ……あたしはやだよ!」
 そのご主人様が消えたら、あたしはどうすれば良いんだよ。
 もう、終わりなんて、絶対嫌だ。
翠「離れてたまるかよーーーーー!」

546:恋姫†無双外史・翠END?
07/02/02 22:45:05 gZIZHyZR0

左慈「ふっ……そんなに奴が好きなら、一緒に死ねば良いんだよ!」
 彼等に向かい駆けようとする左慈。
鈴々「とりゃーーーー!」
左慈「くそっ!」
 しかし、それは3人の影より阻まれてしまう。
鈴々「翠の所には絶対に行かせないのだ」
 巨大な蛇矛を持つ鈴々
星「2人の恋路を邪魔するのは野暮というものであろう」
 槍を構える星。
紫苑「求め合う2人を邪魔するなんて、決して私たちは許しはしないわ」
 弓で射抜かんとする紫苑。
 3人は左慈の前に立ちはだかり、一歩も通すことさえ許しはしない
左慈「この傀儡風情が……」
星「傀儡であろうとなかろうと、私たちは自らの誇りにかけて仲間を守るだけだ」
紫苑「たとえ、私たちが消え去る存在だとしても、それが変わることは決してないわ」
鈴々「そうなのだ。鈴々達は翠を見捨てるなんて絶対にしないのだ」
左慈「ふん、なるほど。これが定められた役割というものか。良いだろう。最後まで相手をしてやるよ」
鈴々「いっくのだーーーーーーーー!!」


547:恋姫†無双外史・翠END?
07/02/02 22:46:38 gZIZHyZR0
 背後には、俺達を守ってくれる仲間がいる。自らの全てを投げ打っても守ってくれる仲間が。
 だったら、俺は目の前の愛しい人に向かう事にためらう事はない。
翠「絶対に……絶対に離れたりしねぇからな!」
 決して縮むはずのない距離を、少女は必死に無くそうと懸命に手を伸ばす。
 変わらぬ日々を、楽しい日々を、あの愛し合った日々を続けるために。
翠「ご主人様―――!」
一刀「翠―――!」
 決して離れないという二人の胸の中の熱い思いは、
 その溶けるはずのないその運命という名の氷壁を溶かしていく。
 ただ、相手の温もりを、そして、温かな変わらぬ日々を求めるために。
一刀「翠―――!」
翠「ご主人様――!」
 相手の想いは自分の手を、自分の想いは相手の手を求める。
 そして――



2人の絆は結びついた。




548:恋姫†無双外史・翠END?
07/02/02 22:48:13 gZIZHyZR0
一刀「ん……んん……」
 ゆっくりと意識が覚醒していく。だが、俺の頭は未だにぼんやりとした靄に包まれている。
翠「おい……ご主人様!ご主人様!」
 耳の側で聞こえる少女の声。その声に俺は聞き覚えがあった。
一刀「す……い?」
翠「良かった……無事だったんだな」
 視界が正常になれば、そこにいるのは安心しきっている翠の姿がある。
一刀「ここは?」
翠「分からない。ただ、貂蝉の言ってた別の世界ってやつだと思う」
 恐らく彼女も出来事を正確に理解できていないのだろう。いや、たぶん朱里でも理解できないような内容だから、翠には絶対無理だろうな。
翠「ご主人様、今、すっごい失礼な事考えなかった?」
一刀「いや、そんな事は……あれ?」
 翠の言葉を耳に入れながら、周りを良く見てみると、そこには懐かしい風景が広がっている。
翠「?どうした?」
一刀「ここは……聖フランチェスカ?」
翠「何だ?その『せいふらんちぇすか』ってのは?」
一刀「ああっ、俺が以前いた学校の事だよ」
 そう、ここが以前、俺が翠達と出会うまでいた世界。
翠「えっ……て、ことは、ここは天上の世界なのか?」
一刀「分からない」
 その問いには、単純に頷く事が出来なかった。貂蝉の言っていた事、
『新しい外史を作る事が出来る』
 つまり、ここは俺が以前いた外史でも、翠達がいた外史でもない、全く新しい外史なのだろう。
一刀「新しい外史か……」
翠「ええっと……つまり、鈴々達がいない世界って事なのか?」
一刀「多分な……」
 だが、それは一つの可能性も同時に示される。
翠「……もしかして、みんな消えちまったのか?」
 愛紗や鈴々、朱里や星、紫苑。一緒にあの世界で過ごしたみんなが。
 だが、俺は、

549:恋姫†無双外史・翠END?
07/02/02 22:49:43 gZIZHyZR0
一刀「いや、違うと思う。みんな、違う外史で生きてると思う。愛紗も鈴々も他のみんなも……」
 俺達には感じる事のできない、また別の世界。そこで、彼女達は存在していると思う。
翠「そうだな。星なんかはひょっこりそこら辺から出てきそうだしな」
 同時に、少しだけ翠の笑顔が戻った。うん、やっぱり翠には笑顔が似合ってると思う。
一刀「でも……これからどうしような」
 2人だけになってしまったこの世界で、どうすれば良いのか。
翠「大丈夫だって、ご主人様がいれば……」
一刀「はっ?……ってうわっ!」
 唐突に腕に重みとぬくもりを感じる。それは翠のものだとすぐに分かった。
一刀「翠?」
翠「ご主人様はさ、あんな時のあたしでも、楽しいって感じさせてくれた。だから、今度も大丈夫だと思う」
 恐らく、彼女が言っているのは、初めて2人きりで話をした川での出来事。まだ、彼女が父親の死を引き摺っていた時の事。
翠「きっと、ご主人様は楽しい日々にしてくれると思う」
 その、翠らしからぬゆっくりした口調。その重みに俺が気付く事になるのはいつになるのだろうか?
一刀「……そうだな。楽しい毎日にしていこう」
 そして、俺は彼女両肩にそっと手を添える。
翠「なっ!」
 途端に翠の顔が赤に染まる。そう、ここにいるのは、ずっと側にいてくれた翠なんだ。
一刀「だから、一緒に行こうか」
 少し顔を俯ける翠。だが、その後に、確かにその返事は聞こえていた。
翠「うん……」
 頬を真っ赤に染めた顔に、俺はゆっくりと唇を……



550:恋姫†無双外史・翠END?
07/02/02 22:50:58 gZIZHyZR0

??「ほぉ……主も意外に大胆なお方だな」
一刀&翠「●×△★※……!」
 唐突に茂みから聞こえた聞き覚えのある声。同時に、ガサリという音が茂みから漏れてくる。
??「いや……翠も大胆になったものだ」
 そう。この独特の雰囲気の声。確かに聞き覚えがある。そして、その声の主はゆっくりと姿を現す。
一刀「星!」
星「ふむ……そう驚かれても心外だな。私が居てはいけないのか?」
 そこから出てきたのは普段と変わらない、昇り竜こと趙子竜その人だ。
翠「ななななな……何で星がここにいるんだよ!」
 おお、久しぶりにこの翠の慌て様。やっぱりこういうところが可愛い……じゃなくて!
一刀「星……お前もこの世界に来てたのか?」
星「私だけではないぞ。ほれ……」
 すると、星が指し示した方向から次々と声が上がると同時に次々と姿を現していく。
愛紗「ご主人様!」
 何故か慌てている愛紗
鈴々「む~、翠だけずるいのだ~」
 拗ねた様に頬っぺたを膨らましている鈴々。
朱里「はわわ~~~」
 いつもの口調で慌てる朱里。
紫苑「あらあら……」
 そして、何故か微笑んでいる紫苑。良く見れば彼女の背中には瑠々ちゃんまで……。
翠「……な……何で……」
 北郷軍全員集合!とタイトルが付けられそうな集合ぶり……翠は何故か口を開けたまま立ってるし。
星「私たちにも良く分からん。たまたま、気が付いたらここにいたのだ」
一刀「何で……」


551:恋姫†無双外史・翠END?
07/02/02 22:52:14 gZIZHyZR0
 しかし、俺はそこで一つの可能性が浮かび上がった。
 変わらぬ日々。俺が望んだ、そして翠のために望んだ事……なら。
一刀「もしかして、これからも続けられるのか?」
翠「へっ?」
一刀「いや、翠が望んでた変わらない日々ってやつを、この世界でも……」
翠「あっ……」
 みんなと一緒にいられる、翠の笑顔が見られるこの日々を続けたいと願うなら。
鈴々「あー!翠とお兄ちゃんだけ何か知ってるのだ!」
星「ほぅ……それは興味深いな」
 どうやら、2人は何か気付いたらしい。このままだとくどくどと文句を言われるのは目に見えてる。

一刀「んじゃ、行きますか!もしかしたら、他のみんなもいるかもしれないからな!」
 そうされる前に、俺は翠の手を握って走り出していた。
翠「お…おい、待てよ!」
 少しだけ、焦りながらも、彼女は笑いながら答えてくれる。そう思えば、これからの不安なんてないだろう。


 だって、翠の笑顔がいつでも見られるのだから。
 




552:名無しさん@初回限定
07/02/02 22:59:21 gZIZHyZR0
>>543-551
とりあえず、馬鹿でごめんなさい……orz
やりたかっただけなんです。感覚的に言えば、
『カッとなってやった。反省はしているが、後悔はもっとしている』です。

 ちなみに、前半543-547までは、本編どおり曲の流れる部分という事を意識したので……本当にごめんなさい。

とりあえず、こんなSSにもならない駄文でも楽しんでいただけたら幸いです。

553:名無しさん@初回限定
07/02/03 00:14:30 V+5dSyLm0
やっぱ星達の最後スルーっぷりは哀れだったからね。
ちゃんと一緒になれてよかった・・・
あとやっぱばちょうかわいいよばちょう

554:名無しさん@初回限定
07/02/03 01:07:44 6xp85CrA0
>>547
馬超の最後は「一刀様――!」になるんじゃね?
確か、関羽も張飛も孔明も最後だけ「ご主人様」じゃなかった気がする。
というか、「翠エンド」じゃなくて「ほぼ真エンド」なのなwww

555:名無しさん@初回限定
07/02/03 01:22:20 Qy+ZytxjO
何故だろう…
『ドッキリ大成功』と書いたブラカードをいそいそ準備する
華蝶仮面1号2号が脳裏から離れてくれないw

ゲームの時はちっともそんな気しなかったんだがww

556:かにしの人気投票支援SS「受け継がれるもの」
07/02/03 16:33:42 szkNRdQ70
人気投票支援SSです。今回の主人公は三嶋鏡花ともう一人。
お楽しみ頂ければ幸いです。例によってえちはないです。ごめんなさい。

「受け継がれるもの」

一月も半ばの、ある晴れた午後。
三時のお茶にはまだ早い、そんな狭間の時間。
少女は温室の扉を開けた。
花々の間をゆっくりと歩んでいた女性が振り返る。
「―あら。いらっしゃいませ、三嶋さん」
榛葉邑那がそこにいた。午後の光を浴びたその髪はさながら金色の滝のようだ。
「……っ」
一瞬眩暈を感じたのは、外と温室の温度差ゆえか。それとも眼前の光景ゆえか。
ただそこに居るだけで彼女はその閉じた空間全てを占有し支配する。
温室という王国の女王。ある人が彼女をそう呼んだという。三嶋鏡花は実感する。
それは皮肉でも誇張でもないと。いや、彼女自身、前から薄々は気づいていた。
―この人は、此処に居ながらにして別の遠い場所にいる存在だと。
「……お邪魔ではなかったでしょうか?」
「―お客様はいつでも大歓迎ですよ。お茶でよろしかったですか?」
「頂きますわ」
ほそくしろいゆびが傾ける小さなポットから、
琥珀色の紅茶が注がれていく。


557:かにしの人気投票支援SS「受け継がれるもの」2
07/02/03 16:34:14 szkNRdQ70
辺りを見回すと、若干雰囲気が変わったような気がする。
以前はどことなく息苦しい感じを覚えることもあったこの空間が、
今は……何と言うか、そう、暖かい。
「―花がいくつか変わったような気がしますが」
「そうですね。今お友達にいくつか世話をお任せしているので」
その人が持っている別の小型温室に移したものがあるという。
「冬はどうしても、維持が大変なものもありますし」
「整理しているということですの?」
「―そんなところでしょうか」
改めて、邑那の顔を見やる。穏かな微笑みを浮かべたその顔は変わらない。
「わたくし、卒業とともに、理事長の秘書として仕えることになりましたの」
「おめでとうございます。三嶋さんならきっと立派におやりになりますわ」
「―学院を去られると、お聞きしました」
一瞬、自分に茶を注ぐ彼女の手が止まったが
「―暁先生ですか」
口調は平静のまま、そう答えた。返事を期待した言葉ではない。
漏れる場所はそこしかないと知っているが故の確認。
「わたくしが鎌をかけました。先生が自分から話したわけではありません」
「先生は責めませんよ。あの方の任務上、風祭に情報が流れるのは既定事項ですから」
自分の分をついで、ふわりと鏡花の前に座る。
「三嶋さんは何かわたしに、聞きたいことがあったのでしょうか?」
限りなく無表情に近い微笑み。


558:かにしの人気投票支援SS「受け継がれるもの」3
07/02/03 16:34:50 szkNRdQ70
相談はシンプルなものだった。
風祭の、後継者の一人の秘書となれば、綺麗な話ばかりを聞いているわけにはいかない。
あのあまりにも真っ直ぐすぎる理事長の耳に入る前に決済せねばならない事項も多かろう。
例えば、手を汚す作業。裏の、影の、闇に対処するための作業。
自分が、彼女たちが望もうと望むまいと。風祭の中で生きていくには。
自分たちの場所を手に入れるには全てを避けては通れない。
そもそも、対処法を知らなくては避けることすらできまい。
「理事長もリーダさんも、そうした作業に向いた方ではないと。三嶋さんはそうお考えなのですね」
「僭越ながら、そう思いますの。ならば、補佐すべき立場のものが……
その、そういう部分に慣れておかねば、と思いまして」
「あなたが―それを引き受けると?頼りになる男性陣もいらっしゃるでしょうに」
「―わたしは、理事長と学友たちにこの身を救われました。既に気にかけるような係累もおりません。
理事長とこの学院のためなら、全てを引き受けるのはわたくしであるべきだと思います」
一瞬、邑那の眼が眼鏡の奥で細められ―また普段どおりに戻る。
「三嶋さんの決意は理解しましたが―なぜ、わたしのところに?」
「榛葉さんと李燕玲が通ってきた過程において……何を考え、何を考えなかったのか。
それをお聞きしたかったのですわ」
「わたしたちの手が、どれだけ紅く染まっているかはご承知の上で、なお聞きたいと?」
「―ええ。だからこそ、ですわ。だからこそ」
いざその時。きっと自分は揺らいでしまう。今の自分では。
「自分は知っていなくてはならない―そう思いますの」
だから。それを乗り越えてきた人に、聞きたかった。
どうあるべきなのかを。どうあるべきでないのか、を。
「全てご存知の上で、そう仰るのですね―」
二杯目のお茶を二人に注いだ後。
何かに納得したように一人頷くと、邑那はゆっくりと語り始めた。
鏡花に向き合いつつも、何処か遠くの一点を見つめながら。
それはまるで過去の自分を覗き込むかのように。


559:かにしの人気投票支援SS「受け継がれるもの」4
07/02/03 16:37:37 szkNRdQ70
「―井の中の蛙大海を知らず、されど空の蒼さを知る」
語句の異同はあれど、よく知られたそんな言葉がある。
人によってはそこから実に様々な意味を読み取る文章でもある。
「私たちは幼き日に、井戸の中にいながら大海を知る術を得ました」
陽道グループ。いや、蘆部源八郎と言う名の深く暗い井戸。
そして大海を泳ぐ術を与えた彼女の友、李燕玲。
「―ですが、その代わりに空を見上げる術を忘れてしまいました」
月日を経て体は大きく、力は強くなり、その眼も手も遠くまで届くようにはなったけれど。
「そのままであれば、私たちは例え大海に泳ぎだそうと、いかに巨大になろうと
それはやはり一匹の蛙にすぎなかったでしょう」
でも、と邑那は続ける。
「ある人が、わたしに空をもう一度見ることを教えてくれました。
悔しいから本人には教えてあげませんけど、わたしは本当に感謝しているんですよ」
彼女は言葉を紡いでいく。何の影も束縛もない笑顔を浮かべつつ。
―ああ。彼女は、榛葉邑那は、こんな風にも笑える人なのか。
「わたしも貴方も、世界という巨大な井戸の中にいます。
わたしたちの足掻きは、所詮水面に波を起こす程度にすぎません」
それでも。泳いで居なければ。わたしたちは沈んでしまうから。
空を見れなくなってしまうから。
とても、綺麗な。
「空を見ることを忘れなければ」
遥かに仰ぐ空を。
「わたしたちは―やっていけるのだと思います」
恥じることもなく。後悔もなく。……いや、違う、と三嶋鏡花は理解する。
恥じても。後悔しても。それでも。自分と、友と、大事なもののために。
―必要なのは足掻いて、足掻いて。それでも深淵ではなく、空を見続けることだと。
何のために行うのか。誰のために行うのか。
深淵と空は「何のため」でも「誰のため」でもありうる。状況によって変わる。
だけど大切なのは深淵ではなく、空を選ぶという―その意思。



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