06/11/19 20:56:43 oYQ5hb/i0
乙です
しかし校内で攻撃魔法を堂々と・・・校舎と周囲の学生は無事か!?
まあ、この二人なら何かあっても理事長なり鈴莉さんなりがもみ消すだろうけど・・・
101:温泉の人
06/11/20 21:22:48 LIyohTDp0
では予告どおり、「世の中やっぱり甘くない」の続きで書いてみるテスト。
こっからの話はあくまで私、温泉の人が独自に妄想を働かせたものであり、
「世の中・・・」の作品世界を否定する目的のものではないことを先に申し上げておきます。
あくまで「世の中・・・」のパラレルとして捉えていただけたら幸い。
・・・あと「世の中・・・」は3人称視点でしたが、
こっちは適宜作中の様々な登場人物の視点を交えつつ物語を進めていきたいと思います。
理由? そっちのが俺が書き慣れてるからw
(繰り返しますが「世の中・・・」の作品否定が目的ではありません)
ではどぞ↓
102:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(1/24)
06/11/20 21:23:27 LIyohTDp0
「~~~っ」
机に伏せ、何やら不満気にうなり声を上げている杏璃ちゃん。
私が話しかけても、先生に指名を受けても、その反応は一貫して変わることはない。
……ここ数日、杏璃ちゃんはずっとこうだ。
終始思い詰めるように唸っては、はぁっと諦めたかのように溜め息をつくのを繰り返す有様。
「……」
無論、この私……神坂春姫も例外ではなかった。
非情なまでに唐突に告げられた、雄真くんの中等部編入事件。
これからもうずっと、雄真くんといっしょに魔法を勉強することができない……
たったそれだけのことなのに、私の心は暗く、深く……沈みこんで浮上しない。
(でも駄目。これは雄真くん自身のためなの)
(今まで10年以上、魔法から離れていたのよ? そんな状態では、たちまち落ちこぼれるわね)
(もし破ったら、『雄真くんの母』として考えがあるわよ?)
狭い暗室で鐘が鳴り響くかのように、先生の言葉ががんがんと頭の中を駆け巡る。
何を話しても、先生の態度は変わることはなかった。
いや……私たちのような若輩者の意見で簡単に意見を覆すような人間ではないことくらい、
長いこと先生の下直属で魔法を学んできた私にはわかってる。
だけど、だけど……
こんな仕打ちって、ないよ……先生……!!
103:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(2/24)
06/11/20 21:24:14 LIyohTDp0
「……私の授業中に考え事なんて、いい身分ね。ふたりとも」
「「!!?」」
私たちはほぼ同時に顔を上げ……
そして一瞬だけ……目の前にいる人物を、きっと睨みつけていた。
「……そんな目でいくら見つめても、雄真くんは帰って来ないわよ?」
「……」
「本当にあの子のことを考えるなら、それぞれが与えられたフィールドの中で、
精一杯自分の為すべきことをすべきじゃないかしら?
貴方達がそれじゃ、あの子もこっちの世界に帰ってきた甲斐がないじゃない」
「……」
あくまで毅然とした態度を崩さない先生の姿勢に……
私はそのまま、力なく視線を横に反らすしかできなかった。
「まぁ貴方達はまだ若いから、まだまだ納得するには時間がかかるでしょうけど……
いずれわかるわ。あの時のあの子の決断が、決して間違ってはなかったって……」
「……」
「それと、今の態度はペナルティ1ね。ふたりとも放課後、私の研究室まで来なさい」
「……わかりました」
おなかの中をじんわり締めつけるおのが無力感に。
私は力なく、先生の言葉に従うのだった。
104:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(3/24)
06/11/20 21:25:18 LIyohTDp0
「……本当に、このままでいいの? 春姫……」
放課後……御薙先生の教室へ向かう道中、杏璃ちゃんが私に問いかける。
「そりゃまぁ、先生の言いたいことも理解できなくはないけどさ……
いくら何でもあれじゃ、雄真がちょっとかわいそうじゃない……」
「……うん……」
杏璃ちゃんの言葉に、力なく頷く私。
……本当はできることなら、雄真くんを力づくでもこっちに引き戻したい。
それこそ、今すぐ……中等部の校舎の中に忍び込んででも。
だけどそれが、今の雄真くんにとって……邪魔でしかないのだとしたら……
私にできることなんて、きっと何もない……
「……ちょっと、しっかりしてよね春姫……
あんたがそんなんじゃ、こっちも張り合いないじゃない……」
「……うん……ごめんね、杏璃ちゃん」
私はわずかに顔を上げ、作り笑いを浮かべてみる。
「……」
杏璃ちゃんはそんな私を見て、少しだけ考え込んでいたが。
「……決めた。行くわよ、春姫!!」
「え? 行くって、どこへ……」
「決まってるじゃない。雄真を力づくで取り返しに行くのよ!!」
「え!? でも今から、御薙先生との約束が……」
「あんなわからず屋のことなんか無視無視!! さ、早く行くわよ!!」
「え、ちょ、ちょっと待っ……ひゃあっ!?」
杏璃ちゃんに無理矢理パエリアにまたがらされ、私たちは夕暮れの大空に飛び立って行った。
105:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(4/24)
06/11/20 21:25:59 LIyohTDp0
「うぅ……まだ体いたぁい……」
「もぉ、杏璃ちゃんったら……無茶するんだから……」
杏璃ちゃんの部屋に戻り、擦りむいた杏璃ちゃんの膝の手当てをする私。
いくら何でも、空から無理矢理中等部の校舎に突撃するなんて……
校舎には強力な人よけ結界が張られてるんだから、無理に決まってるじゃない……ι
「あーあ……あたし的にはもうちょっとうまく行くと思ったんだけどなー……」
あの結界を前にそんなことが言えるなんて……やっぱり杏璃ちゃんってすごいのかも。
「こうなったら仕方ないわ。春姫、作戦その2で行くわよ!!」
「作戦……その2?」
きょとんと首を傾ける私に、杏璃ちゃんは意気揚々立ち上がり、クローゼットを開いた。
106:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(5/24)
06/11/20 21:27:32 LIyohTDp0
「さぁて、これで準備完了っ☆」
「あ、杏璃ちゃん……やっぱり無理があるよ……これ……ι」
使い古した中等部の制服に身を包み、中等部の校門の前に立つ私たち。
それもすぐに私たちとバレないよう、微妙にヘアスタイルなど変えながら。
(ちなみに私がツインテールとメガネ、杏璃ちゃんがヘアーバレッタとリボンをつけたロングスタイル)
「だぁいじょうぶだって! これだけきっちり変装してたら、誰もあたしたちだってバレないって。
……まぁ唯一バレる危険があるとすれば、あんたのその中学生離れした胸だけど」
「ちょ、ちょっと……無理言わないでよ杏璃ちゃん……ι」
私だって、好きでおっきくなったわけじゃないもん……ι
「とにかく! 事は一刻を争うんだから、さっそく侵入開始よ!!」
「うん……行こ、杏璃ちゃん……」
杏璃ちゃんの言葉に、私も返事を返した。
手段はどうあれ……雄真くんに会いたいのは、私もいっしょだったから。
あくまで平静を装いつつ、私たちは徐々に校舎の玄関へと近づいてゆく。
「……何だね、キミ達は。下校時間はとうに過ぎとるだろうが」
……当然のことながら、私たちの存在に気づいた中等部の先生が声をかけてきた。
幸いなことに、こちらの素性はまだ割れていないみたいだ。
「え、えっと……あの……その……」
「中等部1年の小日向雄真は、今こちらにおりますか?」
突発的な事態に慌てふためく杏璃ちゃんをかばうように、私は冷静かつはっきりと問いかける。
「あぁ、今月頭からうちに来た、御薙教授のご子息のことか……
して……その小日向くんとキミと、一体何の関係があるのかね?」
「申し遅れてすみません。私……普通科1年の小日向すももと言います。
今日は兄の雄真に……ちょっと、忘れ物を届けに来まして……」
勝手に名前を使っちゃったすももちゃんに、少しだけ心の中で謝る私。
107:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(6/24)
06/11/20 21:29:08 LIyohTDp0
「何と……キミがあの小日向くんの妹さんかね。
噂は聞いておるぞ。御薙教授がご子息を預けた先の娘さんだとか」
「はい……兄がいつもお世話になっております」
「そういうことなら話が早い。さ、こちらに来たまえ。もうすぐ補習も終わるところだろう」
どうやら先生は、私の話をうまく信じてくれたようだ。
こちらに手招きなどしつつ、私たちを校舎の奥へと案内してゆく先生。
(……うまく行ったじゃない、春姫……よくそこまで口が回るものね……)
後ろから杏璃ちゃんが、そっと私に耳打ちする。
(えっと……実はちょっとだけ……ホントにそうだったらいいのにって思ってたんだ)
(なぁるほどねぇ……んふふ……何かもうすっかり恋しちゃってるって感じ?)
(ちょ、ちょっと杏璃ちゃん……こんなトコロでからかうのはやめてよぉ……///)
何やらこぼしつつ、先生の後をついて行こうとしたその時。
「あら、雄真くんにこんな大きな妹さんがいたなんて……初耳だわね」
「!!!!」
後ろから聞こえた嫌に聞き覚えのある声に、私たちは思わず振り返った。
「み……御薙……先生……」
「そもそも雄真くんの妹さんは、今高等部1年だったと記憶してるんだけど……
私の記憶違いだったかしら?」
「……」
御薙先生の言葉に何も返せず、ただ冷や水を浴びせかけられたかの如く凍りつく私たち。
108:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(7/24)
06/11/20 21:29:58 LIyohTDp0
「み、御薙教授? まさかこやつらは……ご子息の妹さんではないと……」
「二宮教授……あなたはまず自身の術師としての観察眼を養うべきね。
これだけの魔力を秘めた人間が普通科を名乗り侵入している地点で、何かおかしいと考えないと」
「はっ……し、失礼致しました……」
御薙先生の凛とした忠告に、二宮教授と呼ばれたその人もまた私たちと同じように凍りつく。
「で? 自覚はしているはずよね……
私との約束を無断で断った挙句、本来立ち入りを制限されているはずの中等部への侵入を図る。
それがどれほど重い罪なのかを」
「……」
言葉こそ穏やかだが、体は明らかに殺気を放っていた。
抗えば、例え教え子とて容赦はしない……
先生の火をも凍てつかさんばかりの威圧に、胸の奥底が徐々に凍りついてゆくのがわかる。
「そもそも私は約束したはずだけど? 転校初日から10日間は会ったらだめだって……
これでも私は精一杯、貴方達の心情を汲んであげたつもりなんだけど……」
「ふぅっ……っ……」
杏璃ちゃんががたがたと震えながら、必死に私の肩にすがりつくのがわかる。
人の奥底に眠る原初の恐怖をおびき出す、先生の冷たい殺気。
並の人間ならその場にいるだけで、我を失い狂ってしまわんばかりの気力……
(これが……御薙先生……)
……今まで私は、先生の実力を侮っていたのかも知れない……
彼女は……初めから……私たちが抗うべき存在ではなかったのだ……!!
こんなこと……もっと早くに知れていたら……どんなにかよかったか……
109:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(8/24)
06/11/20 21:31:34 LIyohTDp0
「仕方ないわね……私もこればっかりは、あまり使いたくなかったんだけど……」
御薙先生は目を閉じ、私の前に陣を展開する。
「エル・アムダルト・リ・エルス……」
涼風が、私たちの全身を吹きぬけた。
よく晴れた冬の朝にも似た、すがすがしくも冷たい風……
「ディジーノ・ラ・アグノシス」
「!!!」
世界が、ぴんと光を放つのを感じた。
一瞬の魔力の奔流の後、あたりは水を打ったように静かになった。
「先生……今一体、何を……」
「簡単な認識阻害魔法よ。たった今から雄真くんは、貴方達のことを一切認識できなくなったわ」
「!!??」
私は頭の中が、さっと白くなるのを感じた。
「これから雄真くんは貴方と会っても、貴方のことを同級生の神坂春姫とは認識できない。
そう……たった今会ったばかりの、どこかの赤の他人としか認識しないでしょうね」
「そんな……先生……嘘……」
「貴方達が悪いのよ? 貴方達が私の言うことをちゃんと聞いてくれないから……
我慢してちょうだい。これも雄真くんと、貴方達のためなのだから」
「嘘……だよね……先生……雄真くん……」
口角が、引きつって動かない。
頭がふらふらして、まともに前に進むことすらままならない……
それでも……それでも。
私は一縷の望みをかけて……雄真くんを求め校舎内を徘徊する。
……やがて私は廊下の向こうに、今しがた教室から出たばかりの雄真くんを発見した。
「雄真……くん……っ!!!」
数日ぶりに会えた、愛しいその姿……
顔も、体も、服装も……全てが大好きな雄真くんの姿……
110:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(9/24)
06/11/20 21:32:15 LIyohTDp0
「久しぶり……だね……雄真くん……」
引きつった笑顔のまま、私は何とか平静を保って雄真くんに挨拶する。
「……?」
「覚えて……る? 私だよ……同じクラスの、神坂春姫だよ……?」
精一杯、雄真くんの声が聞きたくて。
時折遠のきそうになる意識を必死につなぎとめつつ、私は雄真くんに問いかける。
……だけど。
「……キミ、誰……?」
「!!!!!」
……世界が崩れるって、きっとこんな感じなんだろう。
あまりに非情な雄真くんの一言に、私はがくっと力なく膝を落とす。
「悪いけど、俺……急いでるから……じゃ」
廊下を駆け抜けてゆく雄真くんの音すらも、どこか遠く聞こえて……
そこからもう、何も見えなかった。
何も……考えたくなかった。
ただ今は……拭いようのない喪失感に……ひたすら、涙を流すほかなかった。
「……ひどすぎる」
隣に立った杏璃ちゃんが、唇を噛みしめながら言葉をこぼす。
「春姫が一体先生に何をしたって言うのよ!!!
春姫は……春姫はただ……大好きな友達に会いに来ただけじゃない!!!
それなのに……こんな仕打ちって……ひどすぎるよ……あんまりだよっ!!!!」
「……『友達』と思ってるのは、果たしてどっちの方かしら」
「!!!!」
先生の冷徹な一言に、思わず言葉を詰まらせる杏璃ちゃん。
111:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(10/24)
06/11/20 21:33:04 LIyohTDp0
「今はそれでもいいかも知れない……
だけど時が経てば……彼女はきっと、雄真くんなしでは生きていけなくなる……
それはきっと……互いのために、悪影響しか及ぼさなくなる」
「だけど……だけど……だからって!!!」
「勘違いしないで……私だって本当は、こんな魔法なんて使いたくない……
だけど……仕方ないのよ。これも全部……雄真くんの……みんなのためだから……」
「っ……!!!!」
杏璃ちゃんは一瞬だけ、御薙先生をぎらりと睨みつけ。
未だ自我の戻らない私を肩に抱え、その場を駆け出して行った。
「あたしたちは……絶対……諦めないから!!!
雄真はいつまでも……あたしたちの……友達なんだから!!!!」
「……」
先生は、止めなかった。
ただ……先程までの冷たい空気とは違う……寂しさと憂いを秘めた空気。
先生のその表情が、何を意味しているのか……私たちには、わからなかった。
112:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(11/24)
06/11/20 21:35:59 LIyohTDp0
「……ふぅ」
本日分の文献調査を終え、コーヒーで一服入れる私。
……正直、私は迷っていた。
本来ならば私は親として、息子たちの作るコミュニティを尊重してやるのが理想なのだろう。
そういう意味では、彼女達の意見もあながち間違ってはいないのかも知れない。
第一彼らの年代にとって、4年という月日がどれほど重いものであるかは……
私が一番、よく理解している。
だけど……
(それじゃきっと……雄真は……迫り来る荒波には決して勝てない)
自身、よく知っていた。
魔法学は、ここ数十年の間でにわかに進化を遂げた全く新しい学問体系である。
魔法についてはまだまだ解明されていない部分も多く、教育体系もまだまだ整っていないのが現状だ。
当然……世間の理解も昔よりはよくなっているとはいえ……まだまだその存在を疎んじる声も多い。
中には魔法使いと言うだけで忌み嫌う人間も少なくはないだろう。
そんな中……今のなあなあな人間関係をだらだらと繰り返せば、
いざという時誰も身を護ってはくれなくなる。
そしていずれは……社会から孤立し、切り離され……今よりもっと辛い人生を歩むことになる。
「……」
私は、そうやって何人もの同僚が社会の軋轢に潰されていく様を、ずっと身近で見守ってきた。
いつまでも、ずっと一緒にいたい……
そんな淡い恋心で切り抜けられるほど、ここは甘い世界じゃないのだ……
(そう……全ては雄真のため……雄真をこの世界で立派に生き延びさせるため……)
半ば自分に言い聞かせつつ、私は明日の分の教育カリキュラムに手を伸ばした。
そこへ。
113:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(12/24)
06/11/20 21:36:45 LIyohTDp0
「あらぁすーちゃん……こんな遅くまでお仕事なのぉ?」
凛と静まった空気とは明らかにちぐはぐな声が、扉から聞こえてきた。
「理事長……って、そう呼ぶのも野暮な話ね。どうしたのかしら? ゆずは」
顔を出したのは、学園の理事長にして世界最高の予言術の使い手……高峰ゆずはだった。
「どーもこーもないわよぉ! すーちゃんここんところずーっと難しい顔してるもん」
「ゆずはは相変わらずよね。今日はもう何杯飲んだのかしら?」
「えっと、ひとーつ……ふたーつ……うふっ、たーくさん♪」
「その分だと、さしずめスコッチ1本まるごとってとこかしら?
あなたその調子だと、いつか本当に破産するわよ」
「だーいじょうぶよぉ! その時はまたすーちゃんにおごってもらうから♪」
ほろ酔い気分で底抜けに明るい、ゆずはの表情。
そんな彼女の笑顔を見るにつけ、少しずつ心の中がほぐれてゆくのがわかる。
「……ところでさぁ、すーちゃん……」
「何かしら? ゆずは」
やがてゆずはが私の隣に座り、話題をふり始めた。
「すーちゃんの息子……ほら、ゆーまくん……だっけ?」
「あぁ、雄真のことね……それがどうかしたのかしら?」
「ひどいよねーすーちゃんも。あんなかわいい子を、千尋の谷に突き落とすようなことして」
「あら、人聞きが悪いわねゆずは。あれはちゃんと雄真のことを思って」
「本当に、そうなのかしら?」
「……」
ゆずはの核心に触れるような一言に、私は一瞬黙りこんでしまう。
114:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(13/24)
06/11/20 21:37:23 LIyohTDp0
「すーちゃんたらいっつもそーなんだから。
いっつも二言目には雄真くんのため、雄真くんのためーって……
まるで何だかそう言ってないと、自分のやってることに自信が持てないみたい」
……見透かされてる。
私が雄真に密かに寄せている、様々な野望の数々……
「そもそも中等部に移ったからって、何もかもうまく行くとは限らないんじゃないかなー?
早くも不穏な影が3つも、雄真くんの周りに忍び寄ってるし」
「……多少の障壁は覚悟の上よ。このくらいの試練、彼にもちゃんと超えてもらわなきゃ」
「すーちゃん、また雄真くんって言ってるー」
「……」
私は肩をすくめ、大げさに溜め息をついてみせた。
「……確かにあなたの言うとおりだわ。
私はあの子を、世界に名を残す偉大な魔術師に育て上げたい……
その為になら、あの子たちに一時的に疎まれようがさしたる問題じゃないわ」
「……ふーん」
未だ納得いかないといった目つきで、私のことを見つめるゆずは。
……相変わらず、妙に引っかかるものの言い方するのね……
彼女が半ば私の考えを的確に見透かしてるだけに、私もあまり大きな声が出せない。
115:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(14/24)
06/11/20 21:38:31 LIyohTDp0
「……そーんな顔しないでったらぁ!! ほら、せっかくの美人が台無し!!」
「生憎と私もいろいろと問題抱えていてね。あなたほど気楽には生きられないの」
「こーんな時間までお仕事してるからよぉ! たまにはぱーっと遊ばなきゃ」
そう言いつつ、彼女が袖の下から取り出したのは。
「……雀卓?」
出てきたのは、ごくありふれた携行用麻雀セットだった。
随分使い古されているのか、牌の角などあちこちすり減っている。
「呆れたわね……学校の研究室で雀卓広げる教師なんて、初めて見たわ」
「別に生徒を巻き込んでるわけじゃないんだからいーでしょ?
ほら、私とすーちゃんの仲じゃない」
こんな歳になっても相変わらず天真爛漫な彼女の態度に、ふと私は心の奥がほぐれてゆくのを感じた。
思えば、昔からそうだったわね。
肩肘張って生きようとする私の横を、いつも音羽とゆずはの2人がうまくかき乱してくれて……
「……わかったわ。しかしお互い立場もあるから、掛け金はなしよ」
「わーい☆ じゃあさっそく……」
私はしばし教諭としての立場を捨て置き、ゆずはとの真剣勝負に臨むのだった。
「……それで、ええん? ロンやな~♪」
「……時々あなたが本気で何者なのか、わかんなくなるわ……ι」
116:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(15/24)
06/11/20 21:39:34 LIyohTDp0
トゥルルルルル……トゥルルルルル……
あたしの耳の中で規則的な音を響かせる、あたしの携帯。
彼女の携帯に電話をかけてから、もう20回は響く電子音……
(今日は……)
だがあたしはそれでも、辛抱強く待ち続ける。
(今日こそは……出てくれるわよね……春姫……)
祈るような、すがるような気持ちで……ただひたすら、彼女の応答を待つあたし……
30回……40回……50回……
だがそれでも、彼女からの応答はなく……
「……」
ピッ
あたしは力なしに、その携帯を切る他なかった。
(大丈夫なの……? 春姫……)
嫌な予感が、あたしの胸を支配していた。
あれからもう3日だ。
あれからずっと、あたしは彼女……春姫の声を聞いていない……
……そりゃそうだ。
自分の人生を賭すまでに愛した男の子に、きっぱりと自分の存在を否定されたのだ。
それこそ……今までの普通科での生活など一切なかったかのように。
あたしは初恋もまだまだだから、その気持ちを察するには経験が足りないけど……
それでも……それが彼女にとってどれだけ大きな意味を持つのか……
今の春姫を見れば、嫌というくらいわかる。
(……言わないわよね……)
彼女にとって、あたしにとって……一番最悪なケース……
(魔法、やめるなんて……言わないわよね……)
嫌な胸騒ぎを覚えつつ、あたしは学校へ行く準備を整えるのだった。
117:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(16/24)
06/11/20 21:40:31 LIyohTDp0
(……あれ……)
目を開ける。
早朝にしては妙に明るい光が、カーテン越しに降り注いでくる。
(今、何時……)
私はふと、傍らに置いていた目覚まし時計に目を向けた。
―10時15分。
普通ならば、とっくに2時限目が始まっている時間である。
(……また……寝過ごしちゃったんだ……私……)
別段、後悔もない。
ただ……こんな時間まで無為に寝過ごしてしまった自分に……少しだけ、嫌悪感を覚える。
「……」
私はふと、その携帯を開いて中を検めてみる。
『不在着信 10件』
その内訳は、学校からの連絡が数件と……あとは全部、杏璃ちゃんからのだ。
(杏璃ちゃん……)
杏璃ちゃんが私を気遣って、いっぱい連絡をくれていることは明白だった。
だけど……
それに答える気力は、私には残ってなかった。
118:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(17/24)
06/11/20 21:41:18 LIyohTDp0
「……」
体中、いやにだるい。
胃がめくれて……むかむかと焼けつくような痛みをくれる。
肩も……手足も……まるで自分のものじゃないみたいに、言うことを聞いてくれない……
(何だったんだろう……私って……)
いつもいつも、私は頑張ってきた。
思い出のあの男の子に、少しでも近づきたくて……
私の胸に眠るいっぱいの宝物を、いつまでも大切に輝かせておきたくて……
来る日も来る日も休むことなく、あの呪文を唱え続けた……
「……」
こうなるために、私は頑張ってきたのかな……?
私の追いかけてきた夢って……こんなにも簡単に崩れ去っちゃうものだったのかな……?
「……雄真くん……」
取り出したのは、いつか行ったお花見の時の写真。
ちょっと戸惑いながらもカメラに笑顔を向ける雄真くんと、その隣で微笑む自分自身の絵。
それは本当に穏やかで、胸を締めつけるくらいいっぱいの幸せに満ちていて……
「……ゅぅま……くん……っ」
遠ざかってゆく幸せと、失ったもののあまりの大きさに……
私はまた、ぐっと体を縮こませるのだった。
119:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(18/24)
06/11/20 21:43:43 LIyohTDp0
「……で、神坂は今日も欠席……か」
心底心配そうに溜め息をつく先生。
春姫の欠席騒ぎは、思いの外回りに衝撃を与えたみたいだ。
……無理もない。
瑞穂坂始まって以来の才媛と呼ばれた彼女の、突然の無断欠勤だ。
それも……既に3日も連続で。
これまで風邪だろうが体調不良だろうが1日たりとも遅刻せず出席を続けてた春姫が
これだけ長い間無断で休むのは、さすがに学園側にとっても憂慮すべき事態なのだ。
既に職員室では、連日連夜春姫とその両親にしきりに連絡をとり、
現状把握に勤しむ先生たちの姿が見受けられる。
そして、春姫の一番の親友だったあたしも……何度か先生に事情を尋ねられていた。
……無論、答えられるわけなんてない。
彼女が……春姫が……たったひとりの男の子のせいで再起不能なまでに落ち込んでるって……
言いたくなんてないし、認めたくなんてない。
……そう。彼女はこんなことで負けるような弱い女じゃない。
いつかきっと実習の席に現れて、ムカツクくらい立派な魔法を披露してくれる……
そうでしょ? 春姫?
今のあんたを実力で打ち負かしたって、何の得にもならないじゃない……!!
(……早く帰って来てよ……春姫……!!)
春姫の無事を祈るがあまり、その日の授業は全然耳に入らなかった。
120:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(19/24)
06/11/20 21:44:42 LIyohTDp0
春姫の無断欠席の報は、生徒達の間にも波紋を広げていた。
常に自分たちの先をリードしてきた春姫の突然の欠席に、ある者は失望し、ある者は心配に胸を痛め……
またある者は、この隙に瑞穂坂一の座を我がものにせんと胸を躍らせていた。
(……)
あたしも端から見れば、その胸を躍らす一員に映るのだろう。
そりゃそうだ。
実質実力No.1だった彼女がいなくなれば、
それまで2番手に甘んじてたあたしがトップに躍り出るのは至極自明の理だ。
今まで何度も春姫を打ち破ってトップに躍り出んと公言してたあたしにとって、これ以上のチャンスはない。
……だけど……
あたしはそんなことを望んだんじゃない!!!
いつかちゃんと正々堂々勝負して……そして春姫の実力を認めた上で、あたしがトップに立つの。
それまで……あたしがちゃんと春姫を打ち負かすまで……
春姫は絶対、誰にも負けちゃいけないんだから……!!!!
「……しかし意外だよねー……あの神坂さんでも無断欠席とかするんだ」
「まぁ神坂さんも、所詮ひとりの学生だしね……
何だか神坂さんもあたしたちとあんまり変わんないんだって、ちょっと安心したかも」
折りしもあたしの後ろから、同級生の子たちが春姫のことを噂する声が聞こえてくる。
聞き飽きるくらい聞いてきた、自分勝手に捏造された春姫の噂。
今回の話も、どうせろくな話じゃないだろう……
あたしはその話を回避すべく、その場を立ち去ろうとした。
が。
「でもここだけの話……神坂さんの無断欠席って、とある大失恋がきっかけなんだって!」
ピクッ
その言葉に、思わず耳を傾けるあたし。
121:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(20/24)
06/11/20 21:46:25 LIyohTDp0
「えーウソー! あの神坂さんが失恋!? その話すっごく聞きたい!!」
「何でも神坂さんには、子供の時から心に決めてた男の子がいて……
その男の子に巡り会えたのも束の間、その運命の彼には既に好きな人がいたんだって!!」
「それってさー……ひょっとして、こないだひーちゃん達が噂してたあの人のことじゃない?」
「すごいよねー!! あの神坂さんを振れる男の子って、きっとすごいお坊ちゃんだよ」
まるでワイドショーの芸能人でも語るかの如く、好き勝手に噂話にふける彼女たち。
……何も知らないくせに……
春姫の気持ちなんて……これっぽっちもわかってないくせに……
「それにしても、今回ので一番得したのって……やっぱ柊さんじゃない?」
(っ……!!!)
一番聞きたくない言葉が、彼女たちの口から発せられた。
「そーだよねー……ひーちゃんずっと、神坂さんに勝ちたい勝ちたいって言ってたもんねー。
神坂さんが無断欠席になって、今頃飛び跳ねて喜んでたりして!」
違う……
「そーだよねー……柊さん、こんなことでもなきゃなかなかトップに立つなんてできないし」
そんなこと……あたしは……望んでなんか……!!!
「……馬鹿にしないでくれる?」
「!!?」
あたしは思わず、彼女たちにパエリアを突きつけていた。
意外な珍客の登場に、彼女たちも思わず泡を食ったような表情になる。
「ひ、柊さん……聞いてたの? 今の……」
「や、やだぁひーちゃん……今のは冗談に決まってるじゃん……」
122:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(21/24)
06/11/20 21:47:28 LIyohTDp0
……最初は、抑えるつもりだった。
春姫が学校に戻るまで、精一杯大人でいるつもりだった。
だけど……やっぱりダメだった。
春姫のことを……自分自身のことを……ここまで馬鹿にされて黙っていられるほど、私は大人じゃなかった。
「悪いけど……春姫はそこまでプライドのない女じゃないわ。
春姫の永遠のライバルであるあたしが言ってるんだから、間違いないわよ」
「ひ、ひーちゃん……今のはただの噂話じゃん……
神坂さんの本当の欠席の理由なんて、あたしたちじゃわかんないよ」
「だったら憶測でとやかく言わないでくれる?
どうせ春姫の気持ちなんて……あんたたちにはわかんないんだから」
「……柊さん……」「ひーちゃん……」
あたしのあまりに必死な態度に、2人がさっと引いてゆくのがわかる。
……当たり前だ。
彼女の言うとおり、これはただの噂話じゃん……
なのにあたし……何でこんなに必死になってんのよ……
何でこんなに……腹が立って仕方ないのよ……!!
「とにかく……春姫は戻ってくるわ。絶対。
そして帰ってきたら改めて……あたしの実力を証明してやるんだから!!!」
「あ、柊さん……」「ひーちゃん……!!」
2人の制止する声も聞かず、あたしはその場を駆け出して行った。
嘘だよね……春姫……
この程度で魔法諦めちゃうような、弱い女じゃないわよね……!!!
123:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(22/24)
06/11/20 21:48:38 LIyohTDp0
「……オーフェンダムっ!!!!」
高く、あたしの詠唱が響く。
同時に生み出された魔力の弾が、森の地面をえぐって駆け抜ける。
「オーフェンダム……オーフェンダム……オーフェンダムっっ!!!!」
やり切れない気持ちを、何かにぶつけずにはいられずに。
低下する魔力も気にせず、あたしは無我夢中で魔法弾をぶっ放してゆく。
「あぁっ……ぁぁ……はぁ……っ」
やがて一度に出せる魔力の限界を超え、息つくあたし。
森の一部が……見る影もないくらい、無残に破壊しつくされている。
(……春姫……)
あたしはふと、春姫の唱える再生魔法をその光景に重ねていた。
攻撃魔法や戦術の組み立てなど、基礎戦闘能力についても彼女は相応のものを持ってるけど……
一番凄いのは……やっぱり再生魔法だった。
どんなに無残に崩されたものでも、春姫がソプラノを一振りすれば……たちまち元の姿を取り戻しちゃうのだ。
春姫のライバルであるあたしでも……その実力だけは、素直に凄いと思える。
(春姫だったら、きっとこのくらい……簡単に直しちゃうよね)
あたしはその光景に向かって、パエリアを構え……
「オン・エルメサス・ルク・アルサス……」
淡く、青白色に輝く眼前の光景。
「アスターシア・アウク・エル・アムンマルサス……!!」
その光は薄く辺りを覆い、無残にぶち折れた木の幹をふわっと浮き上がらせ……
「!!!」
そのまま、力なくかき消えた。
残ったのは、魔法をかける前と何ら変わらない瓦礫の山……
124:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(23/24)
06/11/20 21:49:24 LIyohTDp0
「……っ……!!!!」
あたしはやるせなくなり、思わず両手で地面を殴りつけていた。
「何で……何でできないのよ……あたし……!!!!」
……自分の無力感が、ひどく悔しかった。
春姫の窮地に何もしてやれない自分が……ひどく腹立たしかった。
このまま……あたしは春姫を失うの……?
そしてあたしは目標を失ったまま、のうのうと瑞穂坂No.1の座に居座ることになるの……!?
(……そして瑞穂坂学園魔法科は、史上屈指の魔力の持ち主だけでなく、才媛二人までも失う訳ね)
脳内に響き渡る先生の言葉。
何が学園側の損失よ……
もう既に嫌って程、損失は被ってるじゃない……!!!!
「……どうすんのよ……これ……」
完膚なきまでに打ち崩された、森の一角……
それがまるで、あたし自身の心をも表してるようで……
切なかった。苦しかった。
自分の力をどこにぶつければいいのか、全然……わからなかった。
と、そこへ。
「……ここにいたか、柊杏璃……!!!」
妙に聞き覚えのある声に、あたしはふと振り返った。
125:名無しさん@初回限定
06/11/20 21:50:12 3BM9wjB50
今更だが支援
126:「世の中やっぱり甘くない」Parallel(24/24)
06/11/20 21:50:50 LIyohTDp0
「式守……伊吹……!?」
「見つけたぞ……柊杏璃……では、さっそく行くぞ!!!」
「え? ちょ、ちょっと待ちなさいよ伊吹!!!」
あの小生意気な伊吹がここまで狼狽してるなんて……一体何があったって言うの?
「てゆーか、いきなりついて来いって言われてもわけわかんないわよ!!!
連れてくならせめて理由くらい言いなさいっての!!!!」
「話は後だ……とにかく、中等部……あそこは危険だ!!!」
「中……等部……?」
伊吹の言葉に、あたしは一瞬戸惑いを隠せなかった。
中等部って……雄真が編入された、あの中等部……?
「まさか……あんたの用事って、雄真のこと?」
「まぁそんなところだ……とにかく行くぞ柊!!!
あの女……明日香の奴を、このまま野放しにしておくわけにはいかぬ!!!」
未だに話は見えてこないけど……
とりあえずわかったことは……今まさに雄真に危機が迫ってるってこと……
「……それなら話は早いわ。どこへ行けばいいの、伊吹!!!」
「中等部の教室だ!!! とにかく、ついて来い柊!!!!」
あたしたちは高まる緊張感を胸に、中等部へと向かうのだった。
127:温泉の人
06/11/20 21:51:34 LIyohTDp0
まず最初に。ごめんなさい皆さんorz
本編がせっかくコメディ路線でやってるのに、何でこんな鬱展開にしてんだ自分;
最近こちらにもすごくレベルの高いはぴねすSS書きが増えて嬉しい限り。
皆さんからのバラエティ溢れるSSの数々、すごく刺激になります!!
私もまだまだ負けてはいられませんねw
てなわけで今回ちょっと鬱ネタに走っちゃったんで、次回はあまあまな話で。
今のところ春姫とUMAとの魔法稽古で、勝った方が負けた方を好きに・・・って話考えてます。
もちろんむふふな展開もあるかも?なので、今しばらくお待ちくださいねノシ
128:名無しさん@初回限定
06/11/20 22:08:34 AaV+EiiG0
乙ですー
うーむ、これはまた鬱シリアスに方向展開しましたな。読む方は結構戸惑ったり。
春姫がえらい目に。
つか、事情はあるにしろ、鈴莉って外から見たら「子供を捨てた親」と言う立場なので
なんかUMAと周辺の対応がちとやりすぎと言うか、がんじがらめと言うか……下手したら
メチャクチャ身勝手な措置では?
人物認識阻害なんて、音羽さんが聞いたらぷんぷん怒りそうな感じ。
129:名無しさん@初回限定
06/11/20 22:26:50 bsSKhXeV0
>温泉の人
>>本編がせっかくコメディ路線でやってるのに、何でこんな鬱展開にしてんだ自分;
てか、麻雀のシーンで何気にネタしてるやんwwww
130:名無しさん@初回限定
06/11/20 23:57:14 Pajlidb+0
GJ。
・・・暗っ!(w そして、御薙先生酷っ!(ww 伊吹相手だったらどうなっていた事やら。
でも、UMAの今回の動機って人を傷付けない為の制御が第一目的で、
追加で人助けが出来たらいいなあぐらいじゃなかったっけ。
進路まで決めているおかーさま空回りしているような。
131:世の中甘くないno
06/11/21 22:02:53 XnjYFwu50
投稿乙です。
上手いです。上手すぎますよ温泉の方。
特に不幸展開がいいですねえ。春姫と杏璃の不幸っぷりに背筋がゾクゾクしますよ。
……でもこれ、やけに気になるところで切れてますね。
続きが気になる。
>>100
100様、有難う御座います。
>校舎と周囲の学生は無事か!?
学生は兎も角、校舎は無事ではありません。秘宝事件冒頭以上の大破壊です。
132:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:04:44 XnjYFwu50
……さて、伊吹と小雪が遭遇する少し前、高等部二年の教室を訪れようとする二つの影があった。
「御免ね、葵ちゃん。わざわざ案内してもらっちゃって」
「いえ、不慣れな方を案内するのは当然のことですから」
雄真と葵である。
実は春姫に会う為に彼女のクラスへ行こうとしたのだが、勝手が分からない為、こうして葵に案内して貰っているのだ。
「雄真さんは、神坂先輩とお知り合いなのですか?」
と、葵。
中等部一年の葵ですらその名を知るほど、春姫は有名人らしい。
「そうだよ。散々お世話になっておきながら、こんなことになっちゃったからね。これから謝りに行くんだ」
雄真は、頭をかきつつ何所かぼやく様な口調で答えた。
とはいえ、一体どんな顔をして会ったら良いものやら見当もつかない。
―取りあえず、謝って謝って謝まりまくるしかないだろうな~
転科前の夏休み、雄真は春姫にさんざんお世話になった。
……そりゃあもう、頭が上がらないほどに。
夏休みの間、春姫は三日とおかず雄真に会い、魔法科での注意事項やら何やら色々教えてくれたものだ。
133:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:06:21 XnjYFwu50
が、貴重な夏休みを割いてまでして教えてくれた情報、その大半は高等部ではなく中等部に転科したことにより、無駄となってしまった。
……本当に、春姫には悪いことをしたと思う。
何しろ、結果として春姫に無駄骨を折らせた上、騙したことにもなるのだから。
故に、お詫びの意味も込め、こうして態々やって来たのである。
「こんにちは~ 春……神坂さんいますか?」
教室の生徒達は、見知らぬ者―それも中等部生―の突然の訪問に一瞬不審の目を向けるが、直ぐに男子生徒の一人がやって来て応対してくれた。
「君達は?」
「あ、中等部一年の小日向雄真と御門葵です。
神坂さんに用事があって」
「ああ、君が小日向雄真くんか」
雄真が名乗った途端、最初の事務的な口調が柔らかく友好的なものへと変化する。
「?」
初対面の相手にやけに親しげな態度を示され、雄真は首を傾げた。
それを察し、男子生徒は苦笑しつつ訳を教えてくれる。
「ああ、失礼。君の話は神坂さんと柊さんから良く聞いてるよ。
だから不思議と初対面の気がしなくてね。
……何せ、クラス中に触れ回っていたからねえ」
134:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:08:38 XnjYFwu50
「はあ……」
雄真も男子生徒同様、苦笑いで応じる。
春姫は兎も角、杏璃はどんな噂を流していたものやら……
「しかし、うちのクラスにこれなくて残念だね。
二人とも、君が来ないと知って大層落ち込んでいたよ?」
「仕方ないですよ。それに、正直中等部でもついていけるかどうか」
雄真は彼の言葉を社交辞令と受け取り、軽く返す。
(実際、葵の魔法を見て早くも先行きを不安視してもいるのだ)
「そんなことないさ! だって君は天才なのだろう?」
「は? 違いますよ!?」
相手の『天才』発言に、雄真は目を白黒させて慌てて否定する。
……本当、魔法科に来てからというもの、今まで縁も縁も無かった称号のオンパレードである。
「しかし、あの二人に認められるとは大したものだよ?
特に柊さんからのライバル認定は優秀さの証、勲章みたいなものさ」
が、男子生徒は大真面目だ。
まあ無理も無い。
春姫は魔法科全体で見ても群を抜く実力者であるし、杏璃とて三位以下をぶっちぎりで引き離して次席の地位を不動のものとしている。
要するに彼女達は、学年では飛びぬけた存在、ということだ。
その二人がああまで褒めるというならば、誰しも『小日向雄真は天才だ』と思うだろう。
135:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:10:36 XnjYFwu50
雄真は、魔法科における二人の存在の大きさをあらためて実感した。
「買い被りですよ。俺にそんな才能は無いです」
が、それとこれとは話が別である。
後で『期待外れ』なんて陰口叩かれたら敵わない。
雄真は、後で二人を小一時間程問い詰めようと心に決めつつ、あらためて自分の才能を否定した。
「それに、君は御薙教授の息子さんなのだろう?」
「! 何故それを!?」
何故だ? 何故ばれた!?
秘密にしておこと決めていたことをあっさり暴露され、雄真は狼狽する。
「……いや、柊さんがクラス中に吹聴して回っていたよ?」
「杏璃~!!」
口止め料、とかいって夏休み散々荷物持ちとして連れまわした挙句、ジャンボパフェまで奢らせた癖に!
「今、杏璃は何処に!?」
直ぐに制裁を与えなければならない、と杏璃を探す。
「柊さんなら、君達より前に訪ねて来た中等部の子を、神坂さんと一緒に何処かに『連行』して行ったよ。
確か、君達と同じ一年だと思ったが……」
136:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:12:30 XnjYFwu50
「……『連行』ですか?」
随分穏やかでない表現に、首を傾げる。
「そう表現したほうが、その時の状況を良く表していると思うね」
額に汗を流しつつ男子生徒は答えた。
「杏璃なら分かるけど、春姫が?」
そんな状態の春姫が想像出来ず、さかんに首を捻る。
「……いや、君が驚くのも無理は無い。
僕達もあんな神坂さんは始めて見た」
「…………」
見てはいけないものを見た、という様な表情で話す男子生徒だが、どうも雄真には今ひとつ信じられない。
故に、話半分で聞く。
そして誰か他に知り合いは……と教室を目だけ動かして見渡した。
が、誰も見知った顔がいない。
「そういえば、信哉と沙耶さんは?」
偶然か? と流石に疑問を抱きつつ、取りあえず聞くだけ聞いてみる。
「あれ? そういえば、さっきまでここにいたのだけれど……
おかしいなあ、特に上条くんの方は、とても動ける様な状態じゃあなかったのだが」
……雄真の接近を感知し、慌てて逃げ出したのだ。
137:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:14:16 XnjYFwu50
「? 信哉、どうかしたのですか?」
「一年の式守さんに、重力魔法を喰らったのさ。
……しかし、流石甲種特待生だね。
マジックワンドも使わずに、あれ程の短詠唱であんな高度な魔法を発動するなんて」
感に堪えない、といった表情で話す。
彼は、魔法式理論に優れており、そこを見込まれて一芸入試で入学したのだ。
その彼から見ても、伊吹の魔法式は素晴しく美しいものだった。
「はあ……って! 伊吹も来たのですか!?」
「ああ、君に合いに来たらしい。彼女からも注目されているなんて、凄いな。
君が中等部に転科したと聞いて慌てて駆け出していったから、君のクラスに行けば会えるのではないかな?」
「……そうですね」
もし明日香と一緒になったら……と想像し、背中に冷たいものが流れる。
―あの二人、如何考えても『混ぜるな! 危険!』だよなあ。
巻き込まれたら敵わないので、なるべくギリギリに帰ろうと心に決める。
―クイクイ。
「有難う御座いました。では」
―クイクイ。
「ああ、君も大変だろうが、頑張ってくれ」
138:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:16:33 XnjYFwu50
そう言って、彼は手を差し伸べる。
「貴方も」
雄真と彼は固く握手を交す。
……もし高等部二年に転科していれば、彼とは友情を分かち合えたかもしれないな、と思いながら。
―クイクイ。
「……何かな? 葵ちゃん?」
先程から、何やら盛んに自分の服を引っ張る葵に、雄真は不思議そうに尋ねる。
「ははは、仲が良いなあ」
そんな二人を見て、男子生徒は微笑ましそうに笑った。
「いやあ、クラスメートですから」
「ははは、隠さなくても良いさ! 君は同志なのだろう?」
「……は?」
いきなりの同志認定に首を捻る。
「いやいやいや、言わずとも良いさ。僕にも、普通科に初等部生の恋人がいるからねえ」
「…………」
前言撤回。
139:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:18:19 XnjYFwu50
……どうやら、彼とは永遠に友情を分かち合えそうに無かった。分かち合えてたまるか。
「あの!」
「!? ……ああ、御免御免。で、なんだい?」
思わぬ葵の大声に、雄真は些か驚きながら尋ねる。
「先程から、とても凄い魔力がこの校舎内で連続して発生しています」
「?」
「誰か凄く強力な魔法使いが、校舎内で戦ってるみたいです」
その性質上、魔法科校舎は強力な結界で覆われている。
進入防止、防音、対魔力……様々な結界が幾重にも張り巡らされているのだ。
故に、大概の魔法使いはこの校舎内では手も足も出ない。
が、その強力な結界をもってしても尚、抑えきれない程の魔力が発生している、と葵は訴える。
「逃げないと危険です!」
明日香の暴走時とは比べ物にならない程、緊張した声。
が、男子生徒は『何を馬鹿な』と言った風情で、端から信じていない様だ。
「気のせいじゃあないかい? 僕には何も感じないし、クラスの皆も何も感じていない様だよ?」
「でもっ!」
140:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:20:15 XnjYFwu50
「……俺は葵ちゃんを信じるよ」
この子がこんなに必死になるのだから、本当だろう―雄真はそう判断した。
「雄真さん……」
「いやあ、お熱いなあ。しかし仮に彼女が正しいとしても、大丈夫だよ。
この校舎の魔法結界は相当な強度だからね……おや? まさか!?」
どうやら、他にも異様な魔力に気付く者が出始めた様だ。
彼女達が騒ぎ出したことにより、彼も漸く葵の言葉が真実だということに気付く。
(つまり、葵はこのクラスにいる誰よりも早く察知したことになる。
……主席と次席が不在とはいえ、高等部二年の誰よりも、だ)
「こっちに近づいてきます」
「マジですか!?」
何故、こうもピンポイントで不幸が!?
そう己の不幸を呪った瞬間、目の前の壁が崩れ出した。
「! 危ない、葵ちゃん!」
とっさに葵を抱えて跳躍する。
―ドサッ
141:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:22:30 XnjYFwu50
「あいたた……ん?」
二人分の衝撃に軽く顔を顰めるも、ふと自分の前に人が立っていることに気付き、顔を上げる。
……そこには、険しい顔をした伊吹が立っていた。
「伊吹! もしかして、これはお前がやったのか!?」
「……小日向雄真、貴様何をしている」
―え~と、小日向雄真→小日向の兄→雄真……って感じで友好度アップしてきたのに、いきなり初期状態に逆戻りですか?
どうやら豪くお怒りの様だ。
が、伊吹が何故ここまで怒っているのか、てんで見当がつかない。
……そこに何所からかひょっこり小雪が現れ、一言。
「流石は雄真さんですね~ 転科初日から、もう女の子一人ゲットですか?」
「? ……げっ!?」
指摘されて、初めて雄真は気付いた。
自分が、まるで葵を押し倒しているような体勢であることに。
「ごっごめん!」
「いえ……」
流石の葵も、顔が真っ赤である。
「……貴様には、節操というものがないのか?」
142:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:25:04 XnjYFwu50
「伊吹! それはお前の誤解だ! 葵ちゃんとは別に……」
地獄の底から響く様な伊吹の声に、慌てて雄真は弁解する。
「え~ありますよ~ だってこの子可愛いですもの。ほらっ!」
「御願い、小雪さん黙って!?」
小雪の余計な一言一言に、雄真は寿命が縮む思いだ。
が、彼の必死の願いも小雪には届かず、更なる爆弾が投下される。
「でも良かったですね~伊吹さん?」
「へ?」
一瞬、小雪が援護してくれるのか、と思ってしまった。
……所詮儚い期待に過ぎなかったが。
「だって、雄真さんに『そっちの気』があるなら、伊吹さんにも充分チャンスがある、ってことですよ~」
―ブチッ!
あ、切れた。
その一言が止めとなり、伊吹から溢れんばかりの怒りのオーラが発生する。
そのプレッシャーは、明日香とは比べ物にならない
「貴様等全員……」
「い、伊吹? 話し合おう。暴力からは何も生まれないぞ?」
143:支援
06/11/21 22:26:28 0OeML/hI0
144:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:27:10 XnjYFwu50
多分無理だろうな~と思いつつも、何とか説得を試みる。
……だって、死にたく無いから。
(明日香の時は、流石に死にはしないだろうと踏んでいた)
「問答無用!」
その言葉と共に、魔方陣が空中に出現する。
……それを見て、雄真は葵を抱えて逃げ出した。
「小雪さん! 何とかして下さいよ!?」
雄真は、自分の前を飛んでいる小雪に向かって叫んだ。
が、小雪は膠無く答える。
「無理です」
「何で!? 伊吹に対抗できる人なんて、小雪さん位のものですよ!?」
が、雄真の必死の頼みにも関わらず、小雪は首を縦に振らない。
加えて、どことなく拗ねている様にも見える。
「……雄真さんのせいです」
「?」
「雄真さんが伊吹さんに力を与えちゃったから、私一人では対抗するのが難しいのですよ」
「そんなこと知りませんよ!?」
145:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:29:29 XnjYFwu50
全く身に覚えの無い言葉に、雄真は堪らず悲鳴を上げる。
正直、小雪の冗談に付き合っている様な余力は無いのだ。
「雄真さんは嘘つきです。 ……伊吹さんに、魔力をあげたじゃないですか」
が、小雪は頬を膨らませ、やはり拗ねた様な口調で尚も雄真を責める。
「意地悪しないで下さいよ、小雪さん! 俺、このままじゃあ本気で死にます!」
「……秘宝事件」
「へ……あ!? もしかして!!」
雄真の何かを思い出した様な口調に、小雪は初めて首を縦に振った。
秘宝事件の最終局面において、雄真は魔力回路が焼き付く寸前の伊吹に対し、自分の魔力を大量供給することによりその命を救った。
が、これには伊吹に思わぬ副産物を与えていたのだ。
「その雄真さんの魔力が、伊吹さんの魔力を増幅・補強しているんですよ。
……ほんと、雄真さんは規格外です」
呆れた様に、小雪は解説する。
……いや実際、とんでもないことなのだ。
秘宝事件で雄真が使った魔法は、『一人で大量の魔力供給をしなければならない』こともさることながら、『自分の魔力を相手の魔力と近いものに変換しながら供給しなければならない』というとんでもない神技を要求する。
これだけでも超高難易度魔法だというのに、その上対象者の魔力回路まで強化するとは……
146:名無しさん@初回限定
06/11/21 22:30:45 jhlR2u570
支援
147:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:31:09 XnjYFwu50
「ああ、だから式守先輩の魔法に、別の方の魔力を感じるのですか」
先程から黙りこくっていた葵が、会話に加わる。
葵は、先程から伊吹の発する魔力と魔法に疑問を感じていたのだ。
伊吹の魔力には、『本人以外の魔力』が混ざり合っていた。
その『本人以外の魔力』は、伊吹の魔力の中にまるで血管の様に張り巡らされ、伊吹の魔力を増幅し、おまけに魔法式の穴まで塞ぎ、補強している。
……こんな現象、今まで見たことも聞いたことも無い。
いや、御伽話でならば似たような話しを聞いたことがあるが、しかしそれは……
「良く分かりましたね? 将来有望ですよ」
葵の言葉を小雪は賞賛する。
伊吹の魔力に雄真の魔力を感じたのは、一流の才能であることの証。
そしてただ漠然と感じるのではなく、雄真の魔力が伊吹の魔力に血管の様に張り巡らされていることがはっきり『見える』のは、超一流の証だ。
「さすがは雄真さんです。目が高いですね?」
「って、何故そこで俺の名が!? ……いやそれより今の話が本当だとすれば、今の伊吹は以前の伊吹では無いと?」
例えて言うならば、伊吹・改かはたまた真・伊吹か……
「今の伊吹さんは、エンジンにターボチャージャーを付けた様なものです。
ザクだと思って攻撃したら、緑色のグフB3だった様なものです。騙されました」
「……エンジンは兎も角、最後はいまいち意味不明なのですが」
148:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:33:08 XnjYFwu50
て言うか、ザクって何?
「ぶっちゃけてしまえば、『こんな筈じゃあ無かった』ってことですよ」
「……それって、もしかして『ピンチ』ってことですか?」
「正解です」
魔法攻撃に対抗するには、大きく分けて三つの方法がある。
一つは、相手の魔法の綻び―必ずある―を突いて魔法式を破壊、魔法を無力化する。
一つは、相手の魔法を相殺する。
一つは、相手の魔法を防御魔法で防御する。
今までならば、魔力的にはやや劣っていたものの、小雪は技術的・精神的優越から互角以上に伊吹と渡り合えた。
が、現在の伊吹は雄真によって飛躍的にレベルアップしている。
故に、
魔力の綻びを突こうにも、雄真の魔力が伊吹の魔法を補強することにより難易度が増し、
魔法を相殺したり防ごうとしようにも、雄真の魔力が伊吹の魔力を増強することにより魔力差が広がっている。
……早い話が、『お手上げ』状態なのだ。
故に、こうして防御しつつ逃げている。
「だから、全部雄真さんが悪いのです」
149:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:35:05 XnjYFwu50
「……小雪さん。もしかして、凄く怒ってます?」
さっきから気になっていたことを、恐る恐るぶつけてみる。
「そんなこと無いですよ? 伊吹さんに負けたり、契約がパーになったりしたことなんて、全然全く気にしてません。へっちゃらです。
だから雄真さんは、遠慮なく中等部で女の子を侍らせていてください」
「やっぱり怒ってるじゃないですか! 別に俺は、女の子を侍らせてなんかいないですよ! それに契約って!?」
「知りません。意地悪で嘘つきな雄真さんなんて、伊吹さんにやられちゃえばいいんです」
「死にますって!?」
さり気無くトンデモナイことを仰る小雪さん。
……どうやら伊吹だけでなく、彼女も相当怒っている様だ。
「では雄真さん、さようなら~ もし生きていたら、また御会いしましょう」
「あっ卑怯者! 全てを俺に押し付けて逃げる気ですか!?」
別れを告げると、小雪はスピードを上げて飛んでいってしまった。
後に残るは、雄真と葵の二人だけ。
……そして、後ろからは雨霰と飛んでくる魔法攻撃と、鬼の形相の伊吹。
「待て~!!」
とりあえず雄真に残された手段は、逃げて逃げて逃げまくることだけだった。
150:温泉の人
06/11/21 22:36:39 KPBH67Ua0
私怨ノシ
151:はぴねす!SS06『世の中やっぱり甘くない』その6
06/11/21 22:37:33 XnjYFwu50
「畜生! 何で俺ばっかりこんな目に!?」
その後、葵をお姫様抱っこで抱き抱えながら、伊吹の魔法攻撃から必死に逃げ回る雄真の姿が高等部中で目撃された。
……まあ多くの人間は、とてもそれ所じゃあなかったが。
SS投下終了。
御支援感謝です。ではまた。
152:温泉の人
06/11/21 22:49:49 KPBH67Ua0
つかもうこれ勝てる奴いねーだろwwwwwwww乙です!
こんな洒落にならん事態においてもなおいじらしい乙女心発揮する先輩(;´Д`)ハァハァ
遅ればせながらレス↓
>>128 >>130
実際「やっぱり甘くない」第1話の冒頭で感じたのがそういう鈴莉の身勝手さでしたね。
口ではもっともなこと言って春姫や杏璃説き伏せてるけど、じゃあ自分は何なのかって。
ただ認識阻害はやりすぎたかなとw まぁ後悔はしてません。
>>129
ちゃんと気づいてくれた人がいたとはwwwwwwww
これだけのためにわざわざまつりさん使って積み込みロンで台詞確認しましたw
>>131(「甘くない」の方)
「甘くない」の方こそ、毎回話への引き込み方がうまくてびっくりですよーw
何か気になる展開で切っちゃいましたが、この話は続き書くつもりはないです。
放置するなり続き補完するなり、そこは読者の皆様にお任せするってことで。
ではではノシ
153:名無しさん@初回限定
06/11/21 22:53:23 Umhx8QWo0
GJ
>そういえば、信哉と沙耶さんは?
ヤる前は上条さん、ヤった後は沙耶ちゃん、FDで沙耶ちゃん→沙耶
154:名無しさん@初回限定
06/11/21 23:11:05 8P2Zrovh0
乙~
パラレルが混じって、シリアスやらコメディやら何が何やら(笑
いやもう、伊吹にUMAの魔力加わってしまったら誰にも止められんでしょ。校舎穴だらけ(w
>その後、葵をお姫様抱っこで抱き抱えながら、伊吹の魔法攻撃から必死に
>逃げ回る雄真の姿が高等部中で目撃された。
ただでさえ有名だったUMAが、自分の知らないところでどんどん有名人に。しかも、ロリ付き(w
にしても、緑色のグフってまた分かり難い例えを(ww
155:ポレ
06/11/21 23:39:33 /cl+sY6q0
流れぶった切ってスマソがパルフェとショコラを一気にクリアした
勢いでSS書いてみた。話やネタがガイシュツだったらスマソ
パルフェの玲愛Trueエンディングの話からです
156:パルフェSS「或る夜の出来事」その1
06/11/21 23:42:22 /cl+sY6q0
火曜の夜、翌日はファミーユの定休日。本来ならかりそめの開放感に包まれるはずのこの日、
高村 仁は甚だ憂鬱であった―そう、今宵は悪夢の饗宴が待ち受けているから・・・
電車をおり目的地へと急ぐ二人、高村 仁と花鳥 玲愛はやや憂鬱そうに寄り添い歩いている。
どちらかというと仁のほうがより憂鬱な表情で玲愛のほうはそれほどでもない。
玲愛が何かと話しかけてくるが、仁はうわの空な返事ばかり返してきた。
「・・・仁、ねぇ聞いてる?」
「あ、ああ・・・」
「もうすぐキュリオに着くわね・・・」
「な、なぁ・・やっぱ俺は部外者みたいなもんだし参加しないという方向で・・・」
「 な ん か 言 っ た ??」
有無を言わさぬ玲愛の口調に圧倒される。
「まさか今更関係ないとか言わないわよね・・・まさかあの野獣の群れに私を一人置き去りにして
自分は一人のうのうと惰眠をむさぼるとか、わ・た・しの仁はそんなこと考えないわよね」
「は、はい・・・」
「 よ ろ し い 」と玲愛が小悪魔のような視線を向ける。
結局逆らえそうもない。もはやこの過酷な運命を受け入れるしかないと仁は悟った。
157:パルフェSS「或る夜の出来事」その2
06/11/21 23:43:59 /cl+sY6q0
「お帰りなさいませ、旦那様、奥様・・・お待ちしてたんですよ、フフフフ♪」
彼ら二人の処刑場、キュリオ本店。意を決し扉を開いた仁たちを待ち受けていたのは、玲愛とは
一味違ったツインテールが印象的なメイドさんであった。
「こ、こんばんは・・・」
「ご、ご無沙汰してます・・・美里さん」
「やだ~玲愛ちゃん、そんな他人行儀な~。あっ、高村さん、遠路はるばるお越しいただき
ありがとうございます。今夜は楽しんでいってくださいね♪」
「は、はぁ・・・」
向こうは楽しめるだろうが、こちらは楽しめそうもないよなぁと仁はまたもや暗澹たる気持ちに
させられた。そもそも送別会なのに楽しめというのも変な話ではあるが・・・
「あーっ、やっときたか~早く中に入りなよ」
活発できびきびとした動作が印象的な女性が声をかける。彼女は以前見覚えがある。
いつもの彼女には似合わず、今日はにやけ顔がとまらない様子だ。
―それも無理はない。仁は先日この女性の前でとんでもない失態を演じてしまったのだ。
(帰ろっかな・・・)
仁はますます憂鬱になってきたが、ここまできたからには覚悟を決めるしかない。
158:パルフェSS「或る夜の出来事」その3
06/11/21 23:44:59 /cl+sY6q0
「あっ、玲愛、高村さん、お疲れ様~」
今日の最大の要注意人物、川端 瑞菜。ここに来るまでにどうやって彼女を押さえ込むか玲愛と
何度も話し合ったものだ。そして出た結論―いちおう釘は刺しておくが最終的にはあきらめるしかない。
彼女の性格からあることないこといろいろと吹聴しそうだが、今更どうしようもない。
ただ、二人は瑞奈という名の北風から身を守り続けるしかない哀れな旅人でしかないのだ。
それはまるで禅の修業かと思われるような苦行となることは目に見えていた・・・
「あっ、瑞奈お疲れ。・・・ちょ、ちょっと話があるんだけどいい?」
「はいはい、お二人様ごあんな~い♪さぁとっとと行った行った!」
瑞奈に釘を刺そうとした玲愛であったが、その企みは目の前の女性 ― 大村 翠にあっさりと
阻まれる。
「あっ、ちょ、ちょっと大村さん・・・」
仁は無駄な抵抗を試みる傍らの愛しき女性を見ながらため息をついた。
さあ地獄の饗宴の始まりだ。長い長い夜になりそうだ・・・
「みなさん、たいへん長らくおまたせいたしました!それではこれから花鳥 玲愛ちゃんの送別会を
はじめまーす」
そう、今日は玲愛の送別会。高村 仁とかいうどこぞの馬の骨に無理やり?引き抜かれた玲愛
との別れを惜しむ・・・という大義名分とはうらはらに実態は楽しく熱々のカップルを冷やかす会である。
ただでさえキュリオの老練な先輩方からみるといじりやすいキャラの玲愛に加え、キュリオ本店に
殴りこんで「玲愛をください!」となぜかバラさんに宣言してしまった伝説を持つ高村 仁との
黄金コンビは端からみるにあまりにもおいしすぎた。二人をからかうのが楽しみで仕方がないらしく、
キュリオ本店の精鋭スタッフ達はこの集まりに異様なまでの情熱と期待を傾けているようだった。
159:パルフェSS「或る夜の出来事」その4
06/11/21 23:45:44 /cl+sY6q0
最初、仁はなぜ自分まで招待されたのかわからず、当然ながら一応部外者ということで固辞した。
しかし、百戦錬磨のキュリオ本店スタッフが獲物を逃すはずなどない。キュリオ2号店の結城 大介
とかいう店長から「どういう形であれ、うちのファミリーを引き抜くんだからきっちり落とし前つけにこいや!
来ないと認めん!!」
などという有難い手紙を受け取り(なぜか女性が書いたような字だったのが気にかかるが)、これまでの
経緯上出席せざるを得ないような雰囲気になってしまった。
また玲愛からも 「はぁ・・・どうせ散々からかわれるんだろうなぁ・・・。まさか私がこんなことになるだ
なんて誰も思ってもみなかっただろうから・・・あっ、そうだ!私一人よりも二人でからかわれるほうが
対象が分散していいわよね♪せっかくだし一緒に行きましょうよ。それとも、まさか私一人を生贄に
する気?仁はそんな事しないわよね?ちゃんと責任とってくれるよね」
などと脅しをかけられ、身から出た錆とはいえ「行かない」という選択肢を選ぶことはもはや不可能な
状況に陥ってしまったのだった。
さて、そんなこんなで無事始まった玲愛の送別会だが、こうしたことには驚異的なまでの情熱を
傾けるキュリオ本店の精鋭スタッフがよりによりをかけてセッティングしただけあって、本来しめやかな
はずの送別会にしては妙に華やかで、奇妙な会場となっている。正面の垂れ幕には
「高村 仁さん 花鳥 玲愛さん お幸せに」
などとまるで結婚式場みたいな文言が掲げられており、ますます異空間の装いを深めている。
160:パルフェSS「或る夜の出来事」その5
06/11/21 23:46:48 /cl+sY6q0
そして当然ながら、宴?の主賓たる二人に対し、強豪店キュリオの猛攻はとどまるところをしらない―
「くーーっ、昔はあんなにツンツンしてた朴念仁の玲愛がまさかこんなことになるとはね・・・
かわいい顔してあ・な・た、やるもんだねと♪このこの~♪」
いつもは頼れる先輩の大村 翠が激しく絡んでくる。今日は彼女にしては珍しく相当酒のまわりが早い。
採用時から何かと目をかけてきて自分の後継者(いろんな意味で)と見込んできた玲愛の門出(しかも自分よりも早く)
ということで感慨もひとしおなのだろう。
「お、大村さん・・・ペース早いですね・・・」
さっきから玲愛と仁は圧倒されっぱなしだ。
「玲愛さんには先をこされちゃいましたねぇ~。一番意外な人に先を越されちゃいました」
とおっとり刀で桜井 真子が言う。なんだか彼女と話しているとこちらまでほんわかした気分に
なってくる。
「ほんとだよ・・・あ~あ、うちも向かいにライバル店でもできないかなぁ。そうすればあたしにもなんか
ロマンスでも起きるかもしれないのになぁ」
と翠がニヤニヤと2人を横目でみながらからかう。
「あーあ、大介さんも高村さんみたいに私のこと奪いに来てくれないかなぁ・・・玲愛ちゃんいいなぁ」
などと真名井 美里もからかってるんだか本気なんだかよくわからないことを言い出し、玲愛はまるで
熟したトマトの様に真っ赤な顔であれこれと抗弁する。一方仁の方といえばハハハ・・・と乾いた笑いを
浮かべるしかできないでいた。
キュリオの女性陣の直接攻撃にたじたじの仁であったが、間接攻撃もまた油断のならないものがあった。
最大の要注意人物、川端瑞奈が仁たちとは少し離れた席で酔った勢いも手伝い、あることないこと
流言飛語を放つからだ。同じく要注意人物である3号店店長、板橋氏が多忙のため来られなかったのは
不幸中の幸いではあったのだが・・・
161:パルフェSS「或る夜の出来事」その6
06/11/21 23:47:46 /cl+sY6q0
「それで~、イブの夜、チャイムの音やら物音やらうるさくて廊下にでてみたらですね」
「わくわく」
「そわそわ」
瑞奈の話に、他の店員よりはかなり幼く見える女性と眼鏡がチャーミングな女性が熱心に聞き入る。
結城 すずと橘 さやかだ。
「玲愛と高村さんが廊下でチューしててですね。私もうホント困りました。しかも玲愛ったら私に気づいても
やめようとしないんです♪まるで見せ付けるかのように」
「はぁ。玲愛ちゃん大胆です・・・お、同い年なのに・・・」
「は、はわわ・・・そ、それからそれから?」
「ちょ、ちょっと瑞奈(///) な、何あることないこと言ってるのよ!す、すずさんも橘さんも鵜呑みにしない!」
「あっ、玲愛・・・ごめん、つい口が滑って・・・でも安心して。私は事実しか言ってないわよ~」
「うむ、誠に興味深い話だな。川端君続けてくれたまえ」
女性陣の中にグループの総帥、結城 誠介氏もにこやかに交じる。
「ゆ、結城店長!か、勘弁してください・・・ちょ、ちょっと瑞奈~」
「瑞奈~、玲愛はあたしが抑えとくから、早く続き続き~♪」
「ちょ・・大村さん、離して~~~~」
玲愛の悲鳴が響き、夜は更けていく・・・
162:パルフェSS「或る夜の出来事」その7
06/11/21 23:48:45 /cl+sY6q0
玲愛の悲鳴をよそに、新郎こと高村 仁は一応安息の場所を見つけていた。
それは壁際。大介店長、榊原ら男性陣の集まり。そこでは驚くほど穏やかに時が進行している。
最初は例の手紙の文面などからキュリオ2号店の大介店長を怖い人だと思っておっかなびっくり
だった仁であるが、実際話してみると気さくで何でも話せる頼れる兄貴のような人だった。
今は亡き仁の実兄とは全然ちがったタイプではあるが。
「うーん、そんな手紙出した覚えないんだけどな・・・おおかた翠の仕業かな。もしかしてこんな字
じゃなかったか?」
「あっ、そうそうそんな字です!」
「やっぱ翠の字だな。あいつ昔俺の筆跡をまねて俺名義の手紙を偽造したことがあってな。
あいつの字も特徴的だからすぐわかる。まったくあの野郎・・・」
「なんだ、偽物ですか・・・とほほ」
「ははは、それにしてもバラさんから聞いたよ。玲愛ちゃんのためにうちに殴りこみに来たときの話。
いいなぁ、俺そういうの大好きだよ。まるで映画みたいだな」
「う、うう・・・ち、違うんです。ちょっとセリフを間違えただけなんです・・・」
「私の人生でも3番目に驚いた出来事でしたな。よもや店長に間違えられるとは・・・」
バラさんこと榊原氏がぼそりと語る。今日のご馳走は彼が腕によりをかけて作ったものだという。
以前義姉と食べに行ったトリトンホテルのディナーを凌駕するその味に、彼の凄みを感じる。
そして、なぜこんな人が、最近有名になったとはいえ、街の一喫茶店で働いているのか仁には
不思議でならなかった。
163:パルフェSS「或る夜の出来事」その8
06/11/21 23:49:42 /cl+sY6q0
「まぁバラさんならここの店長みたいなもんだ。あながち間違いでもない」
「ぼっちゃん、何をおっしゃいますやら・・」
「ははは、それより、高村さん。あんたは確か大学休学中の21歳と聞いたが。」
「ええ、そうですが・・・」
「凄いな・・俺なんかそれぐらいの年のころはせいぜい親父のスネかじってたのが関のヤマ
だったのに、あんたはその年で起業し、自分の店を繁盛させてるんだからな。」
「いえ、そんな・・・皆ファミーユの仲間達のおかげです。俺一人では全然だめでした」
「いえ、そんなに謙遜しなくてもいいと思いますよ。人徳もまた店長の資質の一つですからな。
それよりも、高村さんはまだ大学生だそうですが、ファミーユも軌道に乗った今、これからどうする
おつもりですか。また大学生活に戻るのですかな?」
「・・・俺にはまだ夢がありまして」
玲愛以外には照れくさくてあまり話しにくい夢だが、なぜかこの二人の前では素直に話す
ことができた。玲愛と共に焼け落ちてしまったかってのファミーユを取り戻す夢を。
これからの彼の行き先を。
「そうか、高村さんもいろいろ苦労してるんだな・・・だからそんなにも強いのか。うん、俺は
応援するぜ!なんか困ったことがあったらいつでも俺に相談してくれ。できるだけ協力するぜ。
それと、玲愛ちゃんの事よろしく頼むわ。俺たちのファミリーだからな。
ま、あんたならきっと幸せにしてくれると思うけどな」
「結城さん・・・ありがとうございます」
「う、ううっ、お兄ちゃんと高村さんがなんか熱い会話を交わしてる。なんだか近寄れない・・・
高村さんと話したことないから話してみたかったのにな・・・」
「ううっ、からかいたいのにからかえない・・・く、悔しい・・・」
男たちの真剣な会話にいつもと違った壁を感じるすずと瑞奈であったとさ。
164:名無しさん@初回限定
06/11/21 23:50:19 2NPeDbpr0
sien
165:パルフェSS「或る夜の出来事」その9(一応完結)
06/11/21 23:52:37 /cl+sY6q0
そして、夜も更けていき・・・永遠かと思える宴もいつかは終焉のときを迎えるわけで・・・
なんだかんだいって今日は来てよかったなぁと仁が思っていると、そのときは唐突にやってきた。
「さて、宴もたけなわですが」
司会進行役の美里が、もはや当初の目的から激しく逸脱したこの送別会の終焉を伝える。
微妙どころじゃなく言葉の使いどころを間違えているのも天然ボケの美里らしい。
「そろそろ時間も時間ですので最後に新郎新婦に誓いのキスをしていただいて、お開きに
させていただきたいと思います。それでは高村さん、玲愛ちゃんよろしくお願いしまーす♪」
美里が悪戯っぽく非情なる宣告を行う。場は大いに盛り上がり、「キ・ー・ス!、キ・-・ス!」
などと大合唱が沸き起こり、キュリオの組織力の強固さをみせつける。
「ちょ、ちょっとみんな冗談でしょ・・・ね、ねぇ大村さん目が座ってるんですけど・・・あっ、板垣店長!
なぜここに・・」
「フフ・・・期待しているよ。君達の絆を見せてくれたまえ」
なぜか板垣店長も輪に加わり包囲を強める。仁と玲愛は完全に罠にはめられたことを悟った。
もはやこの場から無傷で逃れることは不可能。
「こ、これがキュリオ本店の真の恐ろしさか・・・」
仁はつぶやく。もはや退路はなく、道は前方にあるのみ・・・
「やっぱ・・来るんじゃなかったかな・・・」
後日、「ねぇねぇ、仁さん玲愛ちゃんの送別会どうだった?キュリオの人とうまくやれた?」と無邪気に
聞いてくる悠飛の言葉に何も答えず、黙々と半熟オムライスを作り続ける仁の姿があったのは
言うまでもない。
~Fin~
166:名無しさん@初回限定
06/11/22 00:49:08 42MVx6ht0
神降臨レベルでGJ!!!!
だっただけに最後の「悠飛」が惜しまれる……
167:名無しさん@初回限定
06/11/22 17:30:48 ixcUqne50
つか「悠飛」って誰の事を言おうとしたんだ
家庭用のオリキャラかと思ったけどそれも違うみたいだし
仁をさん付けで呼ぶのっていたっけ?
168:『世の中甘くない』の者です
06/11/22 17:32:46 TsH5xpf00
ポレ様、投稿乙です。
思わず本編やりたくなりましたよ。
>>162
温泉の人様、有難う御座います。
>実際「やっぱり甘くない」第1話の冒頭で感じたのがそういう鈴莉の身勝手さでしたね。
この世界の鈴莉さんにとって、雄真は未だ10年以上も昔の子供のままなのですよ。
この鈴莉さんの思考(妄執とも言う)と、雄真の『力』がこのお話の柱です。多分、きっと。
……けど、シリアス路線やると話が暗くなり過ぎるので、コメディにしました。
>>163
163様、有難う御座います。
>ヤる前は上条さん、ヤった後は沙耶ちゃん、FDで沙耶ちゃん→沙耶
情報有難う御座います。呼び方は難しい。
この世界の沙耶は雄真を『小日向様』と呼んでいます。
ちなみに以前は『小日向さん』でした。何故かと言えば……
>>164
164様、有難う御座います。
>いやもう、伊吹にUMAの魔力加わってしまったら誰にも止められんでしょ。校舎穴だらけ(w
伊吹は沸騰し易い上、沸騰すると魔法式が荒くなりますから、そこを他ヒロイン三人がかりで突けばなんとかなる……かな?
>校舎穴だらけ
ニヤリ(意味不明)
169:名無しさん@初回限定
06/11/22 20:42:55 7Lus39P50
>>155
GJ!
大介も仁も熱い男だよなー
>>167
由飛じゃね?
ルート外の時ってこの呼び方じゃなかったっけ?覚えていないが
170:ポレ
06/11/23 22:22:23 jG1TDxKh0
>>166>>167
うはwwwヤバスwwwwと思って調べてみたら由飛の間違えですた_| ̄|○
勢いで書いてすぐ投稿したからその辺爪が甘かったかもしれない
>>168
出来の良さの割にはそれほど売れてない作品なのでぜひともやってみてくださいな
>>169
よく考えたら玲愛trueだと由飛は「仁~」って呼び捨てになってるんだよな・・・(´・ω・`)ショボーン
それはさておきみなさん愚作にわざわざレスありが㌧
171:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:26:53 rteN4Azm0
崩壊寸前の魔法科高等部校舎の前で、御薙鈴莉は呆然としていた。
「これは……夢? ……そうよ、これはきっと悪い夢……目が覚めればきっと……」
「すーちゃん、現実逃避はよくないわよー」
鈴莉に突っ込みを入れたのは『高峰ゆずは』だ。
瑞穂坂学園の理事長にして魔法使いの名門高峰家の当主であり、当代随一の予言術の使い手としても名高い。
……傍目には、とてもそうは見えなかったが。
(ちなみに鈴莉の学園における立場は、学園理事兼大学部魔法科学部長である。
要するに、全魔法科の総元締めであり経営陣の一員でもあるということだ。
ゆずはも同様だが、鈴莉はこの他にも幾つもの肩書きを持つ魔法使い界の重鎮なのだ)
「でも、見事に壊れちゃったわねー。伊吹ちゃん凄~い」
前回―秘宝事件における損傷―の反省から、高等部校舎は改装時に結界を格段に強化している。
……にも関わらず、このざまである。
しかも損害は前回の比ではない。
「本当にパワーアップしたのねー。小雪ちゃんから聞いたときは半信半疑だったけど、ゆーまくんの魔法は凄いわねー」
ゆずはしきりに感心する。
……が、鈴莉は全く聞いちゃあいなかった。
―そんな……これから10日間、母子水入らずの生活だったのに。
この10日間、雄真は鈴莉の研究室に泊まり、鈴莉の集中講義を受けることになっている。
172:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:28:06 rteN4Azm0
無論、これはあくまで口実であり、これを機会に雄真との親密度をUPしようという魂胆だ。
―この10日間、雄真くんと少しでも長く過ごすために、一生懸命仕事を片付けたのに。
全てパー、である。
鈴莉は魔法科の最高責任者として、高等部校舎復旧の指揮に当たらねばならないのだ。
「くっ! 雄真くんと一緒に御飯を食べて、雄真くんと一緒にお風呂に入って、雄真くんを抱き枕にして寝るという私の計画が!?」
「それ、後半の二つはどの未来軸でも適わないから、安心していいわよー?」
「『未来は無限の可能性を秘めている』って言ったのは、ゆずはでしょう!?」
「……そーだっけ? でも、年頃の男の子は、母親とそんなことしないと思うわよー?」
「ふっ」
突然、鈴莉は勝ち誇るかの様に笑う。
「ゆずはは知らないかも知れないけどね、雄真くんは本当はとっても寂しがり屋さんなのよ」
そう言うと、得意気に話し出した。
曰く、雄真はとても寂しがり屋のお母さんっ子であり、自分がいなくなると直ぐベソをかいた。
曰く、雄真は鈴莉がいない間、鈴莉の毛布を被って震えていた。
173:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:30:07 rteN4Azm0
「雄真くんはとっても良い子だから、私がどうしても出かけなければいけない時は、ちゃんと笑って見送ってくれたのよ?
でも、私が帰るまで私の毛布を頭から被って震えているの。でも泣かないのよ? 偉いでしょう!
……で、私が帰ると『お母さ~ん』って飛びつくのよ♪」
何て可愛いでしょう! と胸を張る鈴莉。
「……それ、他の人には言わない方が良いと思うわよー?」
今の本人が知れば、七転八倒ものだろう。
……が、これで納得がいった。
鈴莉にとって、雄真は未だ毛布を被って泣く幼子なのだ。
彼女の余りに強引な手法は、全てはそのためだろう。
ゆずはは、内心溜息を吐いた。
―妄執……ね。でも、多分言っても聞き入れないでしょう。
現在の鈴莉を否定することは、彼女の10年以上の歳月を否定することでもあるのだ。
友人として、それは出来ない。
自分が出来ることは、彼女の傍にいて助けること位だ。
「へへー」
「……ゆずは、どうしたの?」
突然ニヤニヤと笑い出したゆずはに、鈴莉は幾分引き気味だ。
「わたし、もしかしてとっても格好良いー?」
174:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:36:02 rteN4Azm0
「はあ?」
持つべきものは友達―全くの打算抜きの―である、ということだ。
「でも、伊吹ちゃんの魔力回路を修復しただけでも凄いのに、魔力強化までしちゃうなんてー
ゆーまくん、一体どんな魔法使ったのー?」
ゆずはは首を捻る。
そんな大魔法、少なくとも現代魔術では聞いたことが無い。
……やはり古代魔術の類だろうか?
が、素人の雄真に、そんな代物を本当に使いこなせるのだろうか?
「私も迂闊だったわ…… 魔力回路を修復しただけと思って、魔力強化までしてたなんて考えてもいなかったわよ……」
「それはしょうがないと思うわよー 魔力回路の修復だけでも神業なのよー?
ましてや魔力回路そのものを『強化する』なんて……」
―不可能よ。
口にこそ出さなかったが、表情が雄弁に物語っていた。
魔力を強化すること自体は、不可能なことではない。
例えば、周りの人間や物質から魔力を借りたり、魔法具による魔力を増幅したりすることにより、魔力を強化することが出来る。
が、これ等は外部から力を借りる一時的な魔力上昇に過ぎず、本人そのものの魔力が上がる訳では無い。
175:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:38:03 rteN4Azm0
伊吹の場合とは、根本的に異なるのだ。
「冷静に考えてみれば、その可能性についても充分ありえることだったのに…… 本当、迂闊だったわ……」
「すーちゃんが、魔法式を解読しきれなかったなんてねー」
魔法式とは、魔力を魔法に返還する術式のことである。
魔力は不安定かつ無属性のため、魔法式により己が望む現象を引き出せる様に再構成しなければならない。
故に魔法式を理解する能力は、魔法使いにとって必要不可欠なのだ
(魔法式には様々な系統―流派のようなもの―がある)
「魔法式? ……そんなものは必要ないわよ。雄真くんには、ね」
鈴莉は苦笑しつつ、『あの時のこと』を回想した。
伊吹の魔力回路はズタズタだった。
出力以上の魔力を、秘宝によって大量に引き出されたためだ。
そして壊れかけた魔力回路からは、秘宝が鎮まっても尚魔力を垂れ流し続け、傷を広げていく。
……このままでいけば、伊吹は死んでしまうだろう。
「雄真くんの魔力を伊吹さんに分け与えれば、助かるはずよ」
この時点で、鈴莉は伊吹が助かる可能性は五分五分と見ていた。
また、仮に助かったとしても、とても以前のようには魔力を発揮できないだろうとも。
176:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:40:06 rteN4Azm0
伊吹と同じ魔力を大量に与えれば、確かに魔力の放出は止まり、伊吹は助かるだろう。
が、壊れた魔力回路については、基本的に自然回復を待つしか無い。
が、ここまで破壊された魔力回路が、一体どの程度回復することやら……
―まあいいとこ半分以下ね…… でも、自業自得よ。
「……シアン・セム!」
呪文と共に、雄真が魔力を放出させる。
魔法式こそ唱えているが、そんなものはまやかしだ。
そんなもの、雄真には必要無い。
放出された魔力は、伊吹の体内へと入り込んでいく。
その瞬間、雄真と伊吹の意識が繋がった。
雄真の魔力が、『雄真が望んだ様に』伊吹と同じ魔力に変化したのだ。
大量の魔力が投与されたことにより飽和状態になったため、伊吹の魔力回路からの魔力流失は停止した。
伊吹は助かったのだ。
が、それで終わりではない。
伊吹の魔力回路を満たした雄真の魔力は、『雄真が望んだ様に』伊吹の魔力回路を修復する。
瞬く間に、伊吹の魔力回路は修復されていく。
―そんな! まさか完全修復を!?
鈴莉は、目の前で起きている現象が信じられなかった。
彼女の『眼』は、雄真の魔力が伊吹の魔力回路を恐ろしい勢いで修復しているのが見て取れたのだ。
177:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:46:04 rteN4Azm0
確かに鈴莉は、雄真ならば魔力回路をある程度直せるだろう―それだって法外だ―と踏んでいた。
が、まさか…… これ程とは……
―結界を張っておいて、正解だったわ。
そう心底ほっとする。
予め張った眼晦ましの結界により、雄真の魔力展開は自分以外には『見えない』。
彼女達には、雄真が魔力を大量放出したこと位しか分からないだろう。
外部の人間には尚更、だ。
……が、鈴莉は見落としていた。
伊吹の魔力回路を修復した雄真の魔力は、未だ雄真から供給され続けている魔力を使い、今度は『雄真が望んだ様に』伊吹の魔力回路を強化し始めたのだ。
(おそらく、雄真が『伊吹は秘宝に負けない位強い』と強く念じたのが原因だろう。雄真の魔力は、雄真の意思を忠実に実行しただけだ)
「雄真くんの魔法は、魔法であって魔法ではないわ。
私達の様に、理論立てられた術式によって発動される魔法とは根本的に違う。
いわば、『意志の力』によって発動されるものよ」
まあ術式でも発動するでしょうけどね、と鈴莉。
「凄いわねー ……でも、そんな大事なこと、わたしに教えちゃってよかったのー?」
178:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:48:25 rteN4Azm0
そんな重要なこと教えてもらって、友達冥利に尽きるけど~ とゆずはは首を傾げる。
「……もう、大体は見当つけていたでしょう?」
「小雪ちゃんが、だけどねー?」
「まああの子なら、遅かれ早かれ気付いたでしょうね」
小雪は、魔法科では一番の実力者だ。
……前回、伊吹との戦いで『戦略的転進』を行ったが。
「小雪ちゃん、拗ねてたわよー? 『雄真さんが伊吹さんに力を貸したせいで、負けちゃいました』って~」
どうやら、雄真がそこまで伊吹のことを大事に思っていたらしいことがショックだったらしい。
故に、現在まんじゅうの自棄食い中である。
乙女心は繊細なのだ。
「でもー 修復・再構成から一ヶ月やそこらで、ここまで出力を発揮できるかしらー?」
ゆずはは崩壊寸前の校舎を横目で見ながら、意味ありげに問う。
「……何を言いたいのかしら? ゆずは?」
「もしかしたらーだけど、ゆーまくんと伊吹ちゃん『雄真くんは清純派よ』……そんなすーちゃん、今時清純派なんて言葉……」
尚も何か言いかけるが、鈴莉の顔を見て沈黙する。
……実に賢明な選択である。
179:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:50:22 rteN4Azm0
「で、校舎の再建のことだけどー」
ゆずはは、賢明にも話題を元に戻した。
「……分かってるわよ。ちゃんと再建の指揮は執ります」
ふてくされた様に答える鈴莉。
「校舎の再建は、例の10日過ぎからで良いわよー」
「本当!?」
「どうせ一から建て直すのだものー 10日やそこら遅れたって構わないわよー
けど、崩壊した校舎に対する対応はやってねー?」
「有難う、ゆずは! この恩は忘れないわ!」
ゆずはの手を取り、心底感謝する。
「やあねえー わたし達は友達じゃあないのー
……でもどうしてもというなら、うちの小雪ちゃんにゆーまくん頂戴ー」
「雄真くんに、そういう話はまだ早いわ」
高峰雄真って、式守雄真より響きが良いと思わないー? と笑うゆずはに、鈴莉は真っ向から拒否した。
「でもー、ゆーまくんももう17『中一よ』……いじわるー!?」
…………
…………
180:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 14:53:06 rteN4Azm0
…………
「はあー、はあー、今日はー、この位で退いてあげるわー」
「な、何度でも、お、同じ、ことよ……」
暫し壮絶な議論―議題は敢えて伏せるが―が続いたが、最終的には両者引き分けで幕を閉じるで合意した。
そして、何事も無かったかの様に本題に入る。
「あと、肝心の再建費用なんだけどー」
「考えたくないわね……」
鈴莉は顔を顰める。
校舎そのものを建て直す上、魔法関連の書物や道具まで買い直さなければならない。
その額たるや……
(とはいえ不幸中の幸いにも、以前の秘宝事件の際に改修したため、書物や道具の大部分は中等部や初等部校舎に移動したままになっており、高等部校舎にあるのは必要最低限に過ぎない)
「うち(高峰家)とー、伊吹ちゃんとこ(式守家)とー」
「まあ、妥当ね」
壊した張本人とその原因なのだから。
「あと、すーちゃん」
181:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 15:00:26 rteN4Azm0
「何でよ!?」
「だってー 二人が争った原因は『ゆーまくん』よー
……嫌なら、小日向家に請求するけどー」
「払う、払うわよ!!」
ウン十億も払う羽目になり、鈴莉は半泣きだ。
……とはいえ、心の中に『母親として雄真くんの不始末の責任をとらされている』と喜ぶ自分がいるのが、ちょっぴり悲しい。
「でねー 御門さんちも『払う』ってー」
「はあ? 何故、御門家が?」
雄真くんの話では、葵さんはたまたま傍にいて巻き込まれただけだと……
「一応、『娘の不始末だから』だそうよー?」
……魔法科では、一部の生徒達の間で以下のような噂が流れている。
『雄真を巡って小雪と伊吹が大喧嘩。が、当の雄真は葵とよろしくやっていた。それを見た伊吹が大激怒……』―というものだ。
「馬鹿馬鹿しい。噂を肯定する様なものよ?」
鈴莉は、吐き捨てる様に言う。
「それが目的かもよー?」
「まさか! 彼女はまだ子供よ? 第一、雄真くんと彼女は……」
ありえない、と鈴莉。
182:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 15:02:36 rteN4Azm0
「うーん、じゃあ『全くの善意』とか」
「……『全くの善意』で、こんな大金払う物好きがいると思う?」
「まあ、『全く無い』とは言えないのじゃないかなー?
それにすーちゃんと、御門さんちは……」
「何れにせよ駄目よ。お断りしなさい」
「うーん、流石に寄付を断るのはねー 理事長としてはー」
ピシャリと撥ね付ける鈴莉に対し、ゆずは未練がありありだった。
「……その分は私が払うから」
「すーちゃん、お金持ちー」
おお、と拍手するゆずは。
それに対し、鈴莉は渋い顔だ。
(そりゃあそうだ)
「……ゆずはの方が、お金持ちでしょう」
「わたしはねー あんまりお金使わせて貰えないのよー?
死んだおとーさんやおかーさんが、『お前はアレだから』うちの人にお金の管理を任せるってー」
「賢明な判断ね」
「……わたしたち、友達よねー?」
あまりにもあっさりと亡き父母の言葉を肯定され、ゆずははちょっぴり友情に疑問を抱いてしまった。
183:はぴねす!SS『世の中やっぱり甘くない』その7
06/11/24 15:04:47 rteN4Azm0
「事実を言ったまでよ。ゆずはにお金の管理を任せたら、全部酒になっちゃうじゃない」
大学時代のこと、忘れたとは言わせないわよ? と鈴莉。
「ははは…… あー、もう放課後ねー ゆーまくんが帰ってくるわよー?」
「わざとらしい。 ……でもまあ良いわ。乗せられてあげる」
「うんうん、今日は私がやっておくからー 今夜は母子水入らずでー」
「じゃあ、お言葉に甘えるわね?」
翌日、余計ややこしくなった後始末の前に、鈴莉は頭を抱えることになる。
……が、たとえこの未来を予知していたとしても、鈴莉は帰宅を選択した筈だ。
この10日間は、鈴莉にとって宝石の如く貴重な時間なのだから。
SS投下終了
184:名無しさん@初回限定
06/11/24 15:19:12 +BynkeT40
/ ̄ ̄ ̄フ\ _ ノ^)
// ̄フ / \ .//\ ./ /
// ∠/ ___\___ __// \ / (___
// ̄ ̄ ̄フ /_ .//_ //_ / \./ (_(__)
// ̄フ / ̄//////////// | (_(__)
/∠_/./ ./∠///∠///∠// ∧ ∧ /) (_(__)
∠___,,,__/ .∠__/∠__/∠__/ (´ー` ( ( (_(___)
\ \ \/ ̄ ̄ ̄フ\ \ \_ \ _ /⌒ `´ 人___ソ
\ \ \フ / ̄\ \ .//\ //\ / 人 l 彡ノ \
\ _ \//___\/∠_ // < Y ヽ ヽ (. \
//\///_ //_ /// 人├'" ヽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
// //.////////∠/ ヽ-i ヽ__ ヽ
/∠_//./∠///∠// .\\ `リノ ヽ |\ ヽ
∠____/.∠__/∠__/∠フ\.\\ c;_,;....ノ ヾノヽ__ノ
やっぱり伊吹とやってたのかw
それにしても鈴莉がいい具合に壊れてるな、いっその事FDみたいに親子で犯(ry
185:温泉の人
06/11/24 20:43:50 Z9Af+Xh30
あのEDでそんなすげぇことやってたのかUMAw<伊吹の魔力回路完全修復&強化
しかしまぁ壊れまくってますな鈴莉さん。
これはもしやぱちねすWかーさん丼の再来なるか? なんてw
ともあれ、毎度乙です~
186:名無しさん@初回限定
06/11/26 12:28:21 j5+KAVGX0
gj
187:『世の中甘くない』の者です
06/11/26 12:53:47 XJlYDBPn0
>>184>>185>>186
皆様、有難う御座います。
もはや『どの辺がはぴねす?』と化したSS書いてる者です。
「なあKUROさんや、雄真の実の父親って不明じゃないよ?」
「へ? 誰?」
「小日向の父さん」
「はあ? 雄真は貰われっ子だろ?」
「ちゃうちゃう。小日向の父さんは鈴莉さんと雄真こさえた後、音羽さんと結婚したの」
「へ? じゃあすももは腹違いの妹?」
「んにゃ、音羽さんの連れ子」
「……そんな設定、本編中にあったっけ?」
「TV」
「知るかアッ!?」
ということで、ますますオリ設定となりましたorz
>やっぱり伊吹とやってたのかw
それについては否定も肯定もしません。皆様の解釈にお任せいたします。
……いえ、そうすれば話が二通りになり、SS書く上で選択肢が広がりますから。
>あのEDでそんなすげぇことやってたのかUMAw<伊吹の魔力回路完全修復&強化
まあ独自解釈であります。
ただ、うちの雄真はへたれ気味なので、肝心の意志力が……
>しかしまぁ壊れまくってますな鈴莉さん。
こうしないとブラックなので(笑)
188:名無しさん@初回限定
06/11/26 18:44:46 3PRzN5Zi0 BE:178308454-2BP(512)
>187 UMAの親子関係設定はほぼそれで公式だったはず……。
189:名無しさん@初回限定
06/11/26 21:27:08 S+mRQfK50
>>187
SSGJですよ。原作設定との違いについては、特に気にしないでも良いかと。
自分も二次創作SSにトライしてみたいが、ここまで作り込まれてるのを見て
レベルの違いに愕然。
190:温泉の人
06/11/26 21:30:43 ul1cDgSF0
何気にしももの実父(=音羽の前夫)って詳細一切不明なんだよね。
どんだけ複雑なんだよあの家庭はwwwwwww
191:名無しさん@初回限定
06/11/27 18:16:40 gkHxCFm10
>>187
小日向一家の家族構成関連(雄真の父親とか)については、TVじゃなくてVFBが初出。
公式設定のはずだよ。
消息不明というか、名前など詳細不明なのは音羽の前夫(すももの実父)だね。
雄真の父はたしか小日向大義(たいぎ)って名前。
でもまあゲーム本編じゃ一切出てこないし、そんな設定無視してもオッケーだと思うけどw
192:名無しさん@初回限定
06/11/27 18:19:39 gkHxCFm10
追記。
大義はゲーム期間中は長期出張中で不在、って設定だったかと。
193:『世の中甘くない』の者です
06/11/29 20:10:49 rsQR+vY10
>>188、191、192
情報提供有難う御座います。
しかし……豪く複雑な家庭だよなあ……
凄いよ、親父さん。
>>189
有難う御座います。
>ここまで作り込まれてる
設定厨とも言えます(笑)
最初に有る程度核となる世界観を造らないと、自分の場合書けないのですよ。
どうでもよい所が気になっちゃって……
>>190
>何気にしももの実父(=音羽の前夫)って詳細一切不明
何か怖い想像してしまった。
194:名無しさん@初回限定
06/11/30 00:00:15 O0HI1/eK0
本スレでも書いたたけど、UMA父は鈴莉かーさん(最低でも一回はしてる)
と音羽かーさん(まさか手付かずってことはないよね…)との味比べが出来る
今のところ唯一の人
凄いというか、かーさん’Sスキーな漏れにとっては一番はぴねす!な人だと思ってます
>>UMA父
しもも父…確かに謎ですね…
195:名無しさん@初回限定
06/11/30 09:02:15 +p131Tss0
夜明け前より瑠璃色なSS『お酒は禁物!?』
明け瑠璃の麻衣ED後日談SSです。
一応、主人公視点となっております。初投稿で色々稚拙な部分も
あるかと思われますが、何とぞご容赦を。
196:夜明け前より瑠璃色なSS『お酒は禁物!?』(1/6)
06/11/30 09:04:01 +p131Tss0
8月下旬のある日。
懸案の王立博物館の展示会も無事終わり、片付けや後始末も一段落したので、
今日は左門で久しぶりにみんな揃っての夕食会にしよう、ということになった。
夏いっぱいで月へ戻ってしまうフィーナやミアとの一緒に食事をできる貴重な時間でもある。
俺自身、準備に参加するつもりだったが、なぜか菜月から「7時になるまで来ちゃダメ」と
釘をさされてしまった。
姉さん、フィーナ、ミアは博物館に行っていたので今、家にいるのは俺と麻衣の2人きり。
「ふ~ん、来ちゃダメって言われてるんだ」
俺の隣に座っている麻衣がちょっと難しそうな顔で考え込んでいた。
「え、お兄ちゃん?何でこっちをじっと見てるの?」
気がつくと、俺は麻衣の顔をじっと見ていた。
「うん、考え込んでる麻衣の顔も悪くないなって、ね」
夏の麻衣とのあの出来事以来、俺はすっかり麻衣に魅了されてしまった。
麻衣の一挙一動全てが可愛らしく見えてしまう。恋は盲目ってやつかな?
「もう…/// 恥ずかしくなるからやめてよ…」
「はは、ますます可愛くなった」
「うう…ほ、ほら話を戻すよ。さっきの話の続きなんだけど…」
あんまりイジめるのも麻衣がかわいそうなのでこの辺で切り上げておくか。
「それって、サプライズパーティーみたいだよね」
「でも、サプライズされるのはパーティーの主賓のはずだろ?
今日は姉さんの慰労会も兼ねてるんだから、主役は姉さんのはずなんだけど…」
「それじゃ、わたしたちが主役ってことなのかな?」
そう言われると何か嫌な予感がした。
197:夜明け前より瑠璃色なSS『お酒は禁物!?』(2/6)
06/11/30 09:05:23 +p131Tss0
夜明け前より瑠璃色なSS『お酒は禁物!?』(2/6)
7時になった。姉さんたちはまだ帰ってこない。どうしよう、と2人で悩んでいると
携帯電話のバイブが振動した。菜月からのメールだった。
「さやかさんたちを含めてみんな来てるよ。準備も完了したから早く来てね」
微妙に解説チックな文章。
「そうなんだ。もうみんな来てるんだ」
メールを見せると麻衣も少しばかり訝った。何かあると思いつつも2人で左門に向かう。
左門はこれまたなぜか真っ暗で中が見えなかった。
「お兄ちゃん、不気味な感じがするよ」
そう言って腕に絡み付いてくる。もう店の前まで来てしまった。引き返すのも後味が悪い。
「早く入ってきて」
またメールが来た。こうなったら行くしかない。
「よ、よし行くぞ」
麻衣を半ば引っ張るようにして中へ入っていくと…
198:夜明け前より瑠璃色なSS『お酒は禁物!?』(3/6)
06/11/30 09:09:33 +p131Tss0
ピカッ
パァ~ン!
中の照明がついたと思う間もなく、クラッカーの音が鳴り響く。
「2人とも、カップル公認おめでと~!」
クラッカーを片手に、菜月が声をかけてきた。いや、菜月だけじゃなく
みんなが勢ぞろいして俺たちを迎えてくれていた。しかもカレンさんまで…
「で、これってどういうことですか?」
「決まってるでしょ。あんたたちが公認カップルになったんだから、そのお祝いよ」
菜月が楽しそうに答える。首謀者はコイツだな。
「結婚…おめでとう…お幸せに…」
リースまで来ていた。しかも微妙に勘違いしてるぞ。
「はぅぅぅ…恥ずかしいよぅ…」
すっかり顔を真っ赤にした麻衣が俺の背中で小さくなっている。
「あらぁ、恋人同士になるんだったら、これくらいのことは覚悟しなきゃ。
そんなことも考えないで付き合ってたのかな~?」
菜月は俺たちをイジめる気満々だ。
こうして、ある意味、悪夢のような夕食が始まった…
199:夜明け前より瑠璃色なSS『お酒は禁物!?』(4/6)
06/11/30 09:12:50 +p131Tss0
30分後…
夕食会のはずが、祝い酒としてビールが出てきて、そこから恐ろしい方向へと進みだした。
食事の最中はまだ大丈夫だったのに、どうやら食後になってアルコールが回ってきたらしい。
「でさぁ、2人ともすごいのよ」
お酒の入った菜月が話を明らかにアブナイ方向へと持っていっていた。
とはいえ、おやっさんと仁さんが後始末に厨房へ戻っていったのを見て切り出すなど
微妙に心配りを忘れていない。
「私の部屋って達哉のと隣みたいなもんでしょ。だからさぁ、聞こえちゃうのよね~」
「…///」
何のことかすぐに分かった俺と麻衣は二人して真っ赤になる。
「お、お願いだから止めてくれ」
「だ~め。確か1週間くらい前のことかしらねぇ。達哉の部屋のカーテンが少し開いてたから、
声をかけようとしたら、何と二人が抱き合ってたのよ。それでね、こうやって…」
ま、待てよ。その先って…
菜月がどこからともなく、バナナを取り出すとじっとそれを見つめる。
『お兄ちゃんの…おっきい…』
『麻衣のそういう顔もすごく可愛いよ』
あの時の麻衣と俺の声を忠実に再現している。
「わぁーっ、わぁーっ!」
何とか妨害しようとするも間に合わない。
「全くアツアツよねぇ。困ったものだわ」
姉さんは酔いながらも、そっち系の話題にはあまり触れないでくれている。本当にありがとう。
「それが男女の営みというのね。随分と激しそう」
お酒が入っているせいか、フィーナは対照的に興味津々といった様子だ。
頼む、酔いが覚めるとともに忘れて欲しい。
「??男の人の何を舐めてるんでしょうか?…ってええっそんなのを舐めるんですかぁ?」
ミアはまだそういったことの知識がないらしい。リースも何だか分からないといった表情。助かった。
「ふむふむ、そのようにすると男性に喜んでもらえるのですね」
カレンさんはこの聴衆の中で一番熱心に聴いていた。うわ、メモまでとってるよ。
お酒が入ると人はここまで変わってしまうものなのだろうか。
200:夜明け前より瑠璃色なSS『お酒は禁物!?』(5/6)
06/11/30 09:16:36 +p131Tss0
一方、麻衣はというと…
お酒はほとんど飲んでいないが顔を俯けたまま、動こうとしない。何とかしてあげたいんだけど…
「ほら、麻衣。あなたも飲みなさい。主役がしょぼんとしてるとつまらないぞ~」
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
麻衣の制止も聞かず、余っていたビールを麻衣のコップに入れる。
「お、おい」
「まぁまぁ、達哉くん。女の子はこうやってお酒に強くなっていくものなのよ~」
姉さんが俺に絡みついて、俺の動きを阻止した。
「う、うぃ~~」
菜月の強気に押され、飲んでしまったたしい。あ、二杯目まで…
「達哉も飲みなさいよ~」
菜月がこちらにやってきた。強引にビールを注がれ、飲まされる羽目になる。
「飲まないと。もっと話を続けるぞ~」
飲むしかない。何とか飲み干すと二杯目、そして三杯目まで来た。
「ほらほら、麻衣は二杯飲んだんだから達哉はその倍は飲みなさいよ~」
もうダメだ。こっちの意識が飛ぶまで飲まされるだろう…と絶望していると。
「こらぁ~~菜月ちゃん、何してるの~」
真っ赤な顔にしかめっ面の麻衣が、こちらに割り込んできた。
「お兄ちゃんに手を出しちゃ、だ~め~」
「あ~、麻衣ったらヤキモチ妬いてる~。かわいい~」
全くその通りだ。酔っ払ってしかもヤキモチまで妬いてくれてる麻衣は可愛いぞ。
菜月と麻衣が乱闘(?)を始めたスキを突いて姉さんが隣にやってきた。
「そういえば、達哉くんと飲んだことってなかったわよねぇ~」
姉さんがこちらに身体を預けてくる。何だかすごく色っぽい。ドキドキしてきた。
「あ~っ、お姉ちゃんまで~!お兄ちゃんも嬉しそうな顔しないの!」
姉さんの身体を強引に引き離そうとする。
「もう~、私たち家族なんだからこのくらいいいじゃな~い?」
姉さん、性格が豹変してるよ。
「でもこういうのが認められるのは恋人同士だけなんだからぁ~」
もうどうしようもないな。酔いが覚めるのを待つしかない…
201:夜明け前より瑠璃色なSS『お酒は禁物!?』(6/6)
06/11/30 09:19:53 +p131Tss0
こうして、地球側女性陣がすっかり酔っ払っている様子を、フィーナ、ミア、カレンら
月側女性陣は苦笑しながら見ている。リースは初めてのお酒で寝てしまったみたいだ。
1時間後、男性陣と月側女性陣が協力して、眠り込んでしまった女性陣と会場の後片付けを行い、
ようやくお開きになった。
その後、俺が夜は必ず、部屋の窓とカーテンをきっちり閉めるようになったのはいうまでも無い。
(続く?)
初投稿であります。グダグダな展開の上、ストーリー性も無いに等しいですが、
勢いだけで書いてしまいました。何とかシリーズものにしてきたいところです。
しかし、改めて見返してみると、このスレのSS職人さんたちのレベルの高いこと高いこと。
そして、何て初心者な自分の文章…
202:名無しさん@初回限定
06/11/30 14:40:12 rgjdqah80
>>195
乙!
余計なお世話かも知れないが、専用スレに投下した方が受けは良いぞw
スレリンク(eroparo板)
スレリンク(eroparo板)
203:温泉の人
06/12/01 20:32:50 UCGpg3s+0
>>195乙
>『お兄ちゃんの…おっきい…』
>『麻衣のそういう顔もすごく可愛いよ』
ちょっくら光速で原作確認してくる(と言いつつ原作まだ1周もしてない私)
204:195
06/12/01 21:35:15 lQ+pficq0
>>203
すんません、そんなシーンは原作にはなく、自分の妄想です(ォィ
>>202
八月系SSスレの存在自体は知ってたけど、両スレに投下されるSSはエロエロな
ものばかりだったんで、非エロ路線な自分のSSはここが適所かと思ってました。
…が、しかし。>>1を見たらこのスレ自体18禁モノOKなんですね。
このスレの雰囲気が好きなんで、後ろ髪引かれるけど明け瑠璃SSスレに行こうと思います。
205:『世の中甘くない』の者です
06/12/02 10:52:39 PTJ95yR50
遥かに仰ぎ、麗しのSS『凰華女学院分校の日常』
「だりゃぁぁぁっ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
静まり返った凰華女学院分校の敷地に、掛け声と悲鳴が一組になって響き渡る。
掛け声は兎も角、悲鳴の方は切羽詰ったかの様な悲痛な声だ。
……が、誰も気に留める者はいない。
用のある者は仕事を続け、用の無い者も、『ああ今日もか』とばかりに無関心を決め込んでいる。
この悲鳴、どうやら凰華女学院分校の『日常の一部』と化しつつある様だった。
「おおっと!? みやび選手のパロ・スペシャルが華麗に決まった!
司選手、堪らず悲鳴を上げています!!」
「あわわ…… 先生、がんばってがんばって」
ここ校庭では現在、風祭みやび vs. 滝沢司の無制限一本勝負が行われていた。
両者の戦いは、時と場所を選ばず行われる正に『なんでもアリ』の勝負である。
……まあ大概は、司がみやびにいらんこと言って襲いかかられる、といったパターンが大半だが。
「ほらほら! 止めて欲しかったら、大人しく『申し訳ありませんでしたみやび様』と言うんだあ!」
206:『世の中甘くない』の者です
06/12/02 10:54:19 PTJ95yR50
「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
みやびがギブアップを要求するが、司はとてもそれどころではない。
先程から、両腕両足の間接が何かミシミシと嫌な音を立てっぱなしだ。おまけに滅茶苦茶痛い。
司は風祭の権力にも財力にも屈しない馬鹿……もとい漢である。
が、所詮は貧弱な坊やであるため、みやび個人の暴力の前に屈する羽目になっていた。
「……きゅう」
暫し司はじたばたと暴れていたが、やがて失神、勝負はみやびの勝利で幕を閉じた。
「見たか! これが風祭の力だっ!」
「お見事で御座いました、御嬢様」
勝ち誇るみやびを、侍女のリーダが称える。
「うむ、これで99戦全勝だな!」
「その通りで御座います、御嬢様」
「勝負の内容は、しっかり記録してあるな?」
「もちろんでございます、御嬢様」
と、リーダは片手に持ったハンディカムをポンと叩いた。
……どうやら、一部始終が撮影されているらしかった。
207:『世の中甘くない』の者です
06/12/02 10:56:24 PTJ95yR50
「よし! 100戦全焼したら、その記念に今までの全試合の記録を編集し、校内で放映しよう! もちろん全員参加だ!」
良い思いつきだ、と言わんばかりにはしゃぐみやび。
その顔は実にさっぱりとしており、司がちょっかいを出す直前のピリピリした様な雰囲気は霧散していた。
(司でストレス発散したのだろう)
リーダは、そんな彼女に微笑みながら一礼する。
「かしこまりました、御嬢様」
「ではいくぞ!」
「はい、御嬢様。それでは皆様失礼します。
司様も、これにこりず御嬢様の御相手を御願いいたしますね」
意気揚々とみやびは去っていった。
……しかし、全試合撮影してたんですか……
「先生! 無事です……きゃああっ! せっ先生!?」
みやびとリーダが去って直ぐ、今度は仁礼栖香がやって来た。
どうやら司とみやびの対潜を聞きつけ、慌ててやって来たらしい。
で、ぐったりしている司に驚いた、という訳だ。