08/01/01 23:33:24 YjaoAtgz
杜の巫女2
週末の学校帰り、今日は授業が半日で終わる。
沙夜の通っている私立は未だに週休二日制を導入していなかった。
バスで何十分も揺られる遠距離通学ですら、そういう学校しかない片田舎なのだ。
季節は夏、沙夜が村外れのバス停で降りると、周りはすさまじい蝉の声であふれていた。
と、まるで意地悪い山の神の作為を感じるかのように、いきなりにわか雨が降り始めた。
山の天気が変わりやすいことは何度となく体験していたが、今日に限って鞄の中に折り畳み傘も入っていない。
「きゃ……ちょ、ちょっとまってよ…」
ツインテールにした艶のある黒髪も、冬服しか換えのない学校の制服もできるだけ濡らしたくはなかった。
雨宿りができる一番近い場所!
沙夜の脳裏に真っ先に浮かんだのは、村外れの洞穴を利用した、例の鎮守の祠(ほこら)だった。
(中まで入らないと雨宿りにならないけど……いいよね、雨を降らしたのは山の神様が悪いんだから!)
傘を忘れた者の責任については言及せず、沙夜は杜の祠へ向けて駆けだした。
杜の木々が少しは雨を防いでくれるとはいえ、終点の祠にたどり着くまで、沙夜の制服は内側が透けるほどに濡らされてしまった。
「ひゃあ……もう散々……」
だがその時、洞穴の入り口の注連縄(しめなわ)から下がっている四手(しで)をかきわけて、中へ飛び込んだ沙夜はドクン、と強烈に胸が高鳴るのを感じた。
「うそ……ここって……」
鍾乳洞や石窟洞、風穴洞などタイプの異なる洞穴が同じ地域にそうまとまるものではない。
そう考えれば偶然の一致とは思えるのだが、目の前の光景は、沙夜がこのところ毎日夢に見ている洞窟に、あまりに酷似していた。