12/07/16 04:34:04.72 ATdx1xL6
「はぁー、七夕だってのに何で大雨が降るのよ」
「天の川が見えないですー」
漆黒と水玉で塗り潰された空を見上げて、私は愚痴をこぼす。星を見たかったけど、この雨じゃ無理よね。
隣には、何だか暗い顔のやよい。七夕パーティーを開くと言って、事務所のみんなを招待したんだけど
みんなお仕事があるとか言って、来てくれたのはやよいだけ。
「仕方無いですよ。イベントシーズンはアイドルの稼ぎ時ですから」
それでも、夜が空いていた私にとって、この日が寂しかったのに変わりは無いわ。
使用人達には休暇が出ているらしく、家はもぬけの空ね。
別に珍しい事では無かったが、こんな時に限っていてくれないのは困るのよ。
それで、一緒に喋る相手が欲しいから、七夕パーティーでワイワイしようと思っていた。
まあ、結果は見ての通り。仕方無い、こうなったら2人だけでも七夕を楽しんでやるわ!
―で、この大雨なわけ。信じらんない! お天道様はロマンチズムを欠片も理解してないじゃないの!
とはいえ、これ以上怒っても仕方が無いし、何より折角来てくれたやよいに申し訳無いわ。
一旦心を落ち着かせなきゃ。
「テレビでも見るわよ」
一旦窓から目を離し、テレビを付ける。春香が、他の出演者達と楽しそうに喋っている。
「で、そこですってーん、と!」
「わははは!はるるんは芸人ですなぁ」
「そんなに笑わなくても……」
「ここでみんなのアイドルまっこまっこりーん!」
「真は空気を読みましょうか」
「ひえええっすいませんでしたー!」
「……」
春香以外も出演してたような気がするのは多分気のせいね。
テレビの向こうでは、楽しそうな会話が流れている。一方の私たちは、ただただ無口。
こんなはずじゃなかった。2人きりなんだから、もっと色んな事、喋り合いたい。
特に話題は無かった。けれども、何か喋りたい。
「ねえ、やよい……」
「伊織ちゃん、あの……」
その後どうするかは考えて無かったけど、逆にやよいが話し掛けて来た。結果オーライ?
それにしても、勿体づけて喋るわね。一体何なのよ?
「今日は、誘ってくれて、ありがとうです」
「何、そんな事? 当ったり前じゃないの。やよ……みんなの為なら何だって出来るわよ」
溜めたかと思えば、こんな些細な事。でも、本当の所は嬉しかった。
「そういう事じゃないです」
「一体何よ」
「その……伊織ちゃんは、私といて、その、楽しくないのかなーって」