11/06/22 22:20:09.62 WP2EShHR
「よぉ見なよ。さっそく>>1が始まったぞ」
「まったく、いつもご苦労なことね」
ほむらが小さな爪やすりで手先をケアしてる最中、杏子は手にしたケータイで匿名掲示板を閲覧していた。
といってもそれはまともなケータイではなく、魔力で作った模造品なので、パケット代も電池もない。
住所不定の魔法少女には、持てるケータイなどはきわめて限られているのだ。
「毎度毎度あいつらもよく飽きないよな。いったいなにが楽しくてあんなスレを見てるんだか」
「そういう貴方はどうなのかしら。わざわざ貴重な魔力を使ってまで、そこを見るべき価値を感じているの?」
足下に落ちた五.四五ミリの弾丸をライフルのマガジンに装弾しながら、私はIpodの再生ボタンを押した。
外付けの小さなスピーカーセットから、ホワイトノイズの混じった音声――まどマギBD3巻特典のドラマCDが流れ出す。
「べ、別にあたしは好きで見てるわけじゃないさ。ただ、さやかのやつがあそこで変な目に遭ってないか心配で――」
「さやかが心配で、『百合スレ』を毎日閲覧してるの?貴方も相当な物好きだわ」
「う、うるせーぞ!公式で変態ストーカー扱いされたほむらは黙ってろ!」
「あなたこそ、公式でさやかとケンカップルっぷりを発揮した上に、巴さんのヒモだからといって調子に乗っているんじゃないの?」
「へん!べつにいーんだよ、あたしは。マミだってあたしがいなきゃ、
あのバカ猫扱いされた宇宙人ぐらいしか友達がいないんだからな」
そう言って杏子は足下に転がしたハンドバッグをまさぐると、なかなか黄色い弁当箱を取り出した。
「ティロ☆フィナーレ弁当ー」
「そういうことを言っていると巴さんに言いつけるわよ」
「あんただって本心じゃださいって思ってるくせに」
「私はもうこういうキャラで定着したもの」
「言ってろー。それにもう杏マミは公式同然だろ。明日から亭主関白で気ままに暮らすんだから、
明日のことなんて心配する必要なんてないのさ」
杏子が弁当箱を開けると、そこには――どこかで見た山盛りのパスタがあった。
「……………………やるわね、巴さん」
それは、有り体に言ってどう見ても夕飯の残りものである。
一応、彩りとしてパセリやなにやらが上に乗っかってはいるものの、
やはり、弁当の中身としては手抜き感は否めない――
「おおー。やっぱ手作りの飯は美味そうだよなあー」
のだが。杏子はそれを見て目を輝かせて先割れスプーンを手にしている。
残り物に喜ぶ亭主と、平然とそれを亭主に出す嫁。
二人の今後は容易に想像できる、なんとも微妙な光景だった。
「……貴方は貴方で、人生を楽しんでいるようね」
「そりゃそうさ。飯食って、ゲーセン行って、百合スレみて、それ以上にどういう楽しみが必要だってんだ」
それもそうだと思い、ほむらは手元のスピーカーから流れ出るまどかの声に対し、再度耳を傾け始めた。
見滝原郊外にあるビルの屋上。そこから眺める夕焼け空。実に綺麗だ。
出来れば見る相手は杏子じゃなくて、まどかであることが望ましかったのだが。
「早く一仕事終わらせて、巴さんの家でまたまどかとお茶が飲みたいわ」
「百合スレでいちゃいちゃしたSSが読みたいの間違いじゃねーの?」
「それもあるわ」
ほむらはマガジンに最後の弾薬を詰め終えると、がちゃりと音を立ててコッキングする。
そうとも。まずは一仕事。そうして家でまどかと一服。そして、2chで百合妄想。それは素晴らしい一日になるだろう。
「でさぁ」
「なにかしら」
杏子はもりもりとスパゲティをたいらげながら、ふとスプーンでスチール製の手すり、その向こうを指さした。
「……どうやって帰るんだよ?」
そこにいたのは、山のようにひしめく魔獣の群れだ。
どうやって帰る?決まっている。
「突っ込んで。全部倒して。それからタクシーを拾ってゆっくり帰るわ」
「ああ。それさんせー。たまにはあたしも楽がしたい」
杏子は弁当箱の隅に残ったパセリを摘み上げ、それを口へと放り込むと、その手に深紅の槍を呼び出した。
「さーて行くかー。おっとそうだ。その前に一つ忘れてたぜ」
「ええ。そういえばそうね。その前に一つ」
2chのスレには魔獣が住む。頼れる仲間はみんなガチレズ。
魔法少女にかけた青春。でも、みんなガチレズ。そんな救いようのないスレだけど。
ここはまどかが。私といちゃつくためのスレだから。私とまどかのエッチなSSが投下されることをただ信じて。
「「>>1乙」」