11/03/20 21:04:37.31 vxvls7aC
「ああああ、あたし、帰る!」
「え、ちょっと、」
「しゅ、終電なくなっちゃうし!」
バッグも上着も無造作にひっつかんで。
りなっちの不満げな声も聞かなかったふりをして、部屋のドアノブに手をかける。
「でも、まだでんしゃ、」
背中で彼女の声がしたけれど、どくりどくりと五月蝿い心臓の音でなにも聞こえない。私はなんにも聞こえない!
ひたすらに言い聞かせて、玄関へ。
「じゃあね!りなっち!」
パンプスも半分脱げたような状態で、転がるように外へ飛び出した。
玄関の扉が閉まる直前、部屋から玄関へ続く廊下で、彼女の愛猫がぺしり、と呆れたように尻尾を振ったのが一瞬だけ見えた気がした。
あとから考えればそこまで慌てることもないのに、むしろその方が怪しいのに、その時はもう無我夢中で、その場から逃げることしか頭になかった。
だから、玄関の扉へ消える私の背中に、彼女が呟いた言葉は、私には一つも聞こえていなかった。
「…いくじなし」
おわり
ここまでされたらもう気づけよと思わないでもない。
お目汚し失礼しましたー。