09/07/27 04:31:21 ldl+AB1T
「風呂、入って行くか?」
それはいきなりな申し出だった。発言の主は月映巴。そして言われたのは鈴川小梅だ。
「は、い?」
ちょっと戸惑う。
男子がすなる野球なる代物。必要な人数が揃い、その練習を始めて幾日目だったか。
放課後。
練習を終え、野球道具を所定の場所に片付けていた、おかっぱ髪に赤味の残る頬が幼く可愛らしい少女、小梅。
女学生らしい袴姿の彼女は、唐突な台詞に返事を困らせた。
その傍らに立つ、すらりと背が高く細身で美形な、やや長い流れるようなショートヘアの少女が、巴だ。
「風呂だよ。ふーろー」
そう言いつつセーラー服(これがまた似合っている)の巴は、自分よりもずっと小柄な小梅に右腕でヘッドロックをかませる。
周りの皆はと言うと、道具を片付けたり軽くお喋りしたり、自分の役目を終えた者は早々に戻っていたり。てんでばらばらだ。
まだ、ちいむ、としての結束は弱い様に見受けられた。
そんな中、巴は左の拳で軽く小梅のおかっぱ頭をぐりぐり。
「あー、かーいーなー(愛)」
「はうう、い、痛いってか、こそばゆいです…」
じゃれあう、いやじゃれているのは片方だけか。ともかくそんな姿を、グローブ片手にじっと睨むものが居た。
巴の双子の妹、静だ。
こちらは小梅と同じく、いかにも大正の女学生と言う袴姿を見事に着こなし、練習後にもかかわらず衣装には塵一つ付いていない。
それだけ立居振舞いが見事、というコトだろう。艶のある長い黒髪を襟足より下辺りで結い、白蛇の(失礼)如くじとりと見つめている。
対して小梅は、割りと小汚く… あ、いや、埃っぽくなってしまっていた。
だからか。
「風呂。入っていきなよ。そのまま帰るよりさっぱりしていいよ? お店の手伝いもあるんだろ。だからささっと、さ」
「でも、お風呂なんて」
「あるんだなこれが。寮ーに」
そう言い、巴は悪戯っぽく笑った。夕映えが、その整った横顔を美しく照らしていた。
今宵は此処まで