09/09/05 04:20:15 rWyDkgCG
少し遅れて、晶子さんもやって来ました。広い小笠原邸。その片隅に在る、二人だけの秘密の場所。
部屋の壁に有るランプの灯りがほのかに揺れ、窓越しの星空が綺麗です。
「遅くなって、ごめんなさい。小梅さん」
「晶子さんっ」
そっとドアを開けて現れた、美しく気高さを感じさせる、舶来物のドレス姿。
ううん、それは。ドレスによるものじゃなく、晶子さんがまとっているから… でしょう。
そんな、何時にも増して可憐な晶子さんが、走ってでも来たのか、息を切らせています。
「大丈夫、気にしてません」
私は微笑んで応えます。
「殿方に、捕まってしまって。御花を摘みにと、やっと出てこられましたわ」
「もう」
「?」
不思議そうな顔になる晶子さん。ふくれる私、その理由は。
「あんまり殿方と、仲良くしないで… 私のコトも、構ってくださいよぅ…」
「あらあら」
くすり、と晶子さんが笑います。
「妬いていらっしゃるの? 小梅さん」
「そうですっ」
素直に答えます。
「ふふふ」
「笑わないでくださいよう。私、誰かに晶子さんを取られやしまいかと、不安で、不安で」
必死に訴えると、こう、返されました。
「私達は、夫婦(めおと)じゃないですか」
あ。彼女の言葉にはっとさせられます。
「夫婦の絆は、そんなに脆いものなのかしらん?」
「それは、その」
うつむいてしまう私に、晶子さんは続けて。
「さっきだって」
「?」
「私の声、ちゃんと聴いてくださったじゃないですか」
「ああっ」
思わず顔を上げます。そう。あんなざわめきの中で、確かに私は、晶子さんの内緒の声を聴くことが出来た。
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