10/09/01 10:54:43 IjOx15I60
女性ものの服に囲まれ、耕一は正直なところ居心地が悪かった。
「ねえ、耕一さん。こういうの、どうかしら?」
「あ、ああ。……うん」
「じゃあ、こっちは?」
「……ああ」
日曜日の午後。耕一は千鶴さんとともに街中に出ていた。「新しい服が欲しい」という彼女の
言葉に引き摺られて買い物にやって来たのだが、服の良し悪しなどわかりゃしない。
それなのに、必ず意見を求められるので非常に困っていた。
千鶴さんの控え目で、それでいて何か言いたそうな上目遣いな視線も気になっている。
「…………」
ふと、近くに展示してあったマネキンの服飾が目に付いた。特に目立った刺繍などは施されては
いないが、やや細身のデザインで着ると体のラインがきれいに出そうだ。千鶴さんにはこういうのが
似合うんじゃないかな。そんなことを思いつつ何気なく手に取ってみた。
「あっ。そ、そういうのも、いいかな」
途端に千鶴さんがこっちを向く。さっきまで真剣に別の服を見ていたはずなのに、驚くべき反応速度だった。
面喰いながらも耕一は、
「ああ、うん。似合いそう……」
とその服を広げてみる。
「じゃあ、ちょっと着替えてみますねっ」
俄然、千鶴さんが動き出した。他にも色違いのものを数枚手にする。そして店員に促されるまま試着室へと入って行った。
「どうしようかしら。これも一緒に買おうかなあ」
どうやら、決して不快ではない、この居心地の悪さはもうしばらく続きそうである。
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