14/12/20 02:37:21.25 4pXE+PMm
* * *
─ってな経緯で、魔界とやら、それもそこで一番の偉いさんである“魔王”のお城まで連れて来られて、さらにそのトップ代理をやってる姫さん(この場合、魔王女とでも呼ぶべきなのかねぇ)と面会させられたわけだ。
なんでも、コロナさんは魔王女さんとは幼馴染みかつ学校時代を通じての親友でもあるらしい。
ちなみに、魔王女さんは人間なら16、7歳位に見える、美人だけどプライドの高そうな、いかにも「お姫様(プリンセス)」って感じの娘だった。
プリンセスと言うと、個人的にはくるくる巻き毛の金髪と青い瞳で豪華なドレスを着てるようなイメージがあるけど、この魔王女さんは黒髪と黒に近い紺色の目で、肌の色も含めてわりかし日本人に近い感じだ。
着ているものもゴスロリ風とは言え、ティアラ以外はそれほど装飾過剰ってわけでなく、スカート丈も膝が隠れるくらいで割と動きやすそうだし。たぶん、角さえ隠せば日本の町中にいても、それほど不自然ではないと思う。
「どう、悪い話ではないと思うのだけど?」
改めてさきほどの提案(限りなく脅迫に近いけど)への回答を迫られる。
(うーん、確かに悪い話ではないんだよな。とりあえず、目の前の存在が約束を守ると仮定したならば、だけど)
そんなオレの思考を読んだのか、コロナさんが言葉を添える。
「心配しなくても、魔族にとって「契約は絶対」よ~。逆に交わした契約も守れないなら、その魔族の信用は一気に地に落ちるわ」
あ、そういう話は確かにどっかで聞いたことがあるかも。
「うっし、男は度胸、お願いするっス! ただし、その契約とやらの内容は日本語できちんと書面にしてほしいっス」
「ふむ、妥当な判断ね。これならしばらく此処を任せても大丈夫かしら」
魔王女さんの表情がちょっとだけ柔らかくなった。
「あ、でも、オレなんかに魔王代理が務まるかは別問題っスよ?」
過剰な期待をされても困るので予防線を張っておく。
83:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)
14/12/20 02:39:09.00 4pXE+PMm
「心配しなくても、立場を交換すると同時に必要な知識は一通りキミも獲得できるわ~。それに、ケイちゃんはあくまで名目上の責任者で、通常業務に関しては宰相さん始め、重臣の方々が手配されているからね」
ああ、なるほど。「君臨せずとも統治せず」などっかの帝みたいなもんか。
その後、魔王女さんは、契約内容を見慣れない厚めの紙(羊皮紙?)に羽ペンでサラサラと書き連ねて、オレに渡してきた。
「えーと、大体は納得できるんですけど、期間は「魔王夫妻が戻ってくるまで」っスか?」
そう言えば、なんで肝心の魔王様がいないのか聞いてなかったな。
「ええ、そうよ。あのノーテンキ夫婦、わたくしがようやく魔界女学院を卒業したからって、「ちょっと遅めのハネムーンに出かけてきまーす!」とか言って、政務を放り出して魔界一周旅行に出かけやがったのですわ!!」
憤慨する魔王女さんの言葉をコロナさんが補足する。
「まぁまぁ、魔王様ご夫妻は、ご結婚なされた若い頃、魔界情勢が複雑で新婚旅行に行けなかったって話でしたから~。以前からちゃんと重臣の方々にも根回しはされてましたし」
「じゃあ、どうしてわたくしには出発する前日にいきなり告げるんですの!?」
「「その方がおもしろそうだから♪」とおっしゃってましたよ~」
どうやら此処の魔王様とやらはなかなかシャレの分かる性格の持ち主のようだ。
「ははは……じゃ、じゃあ期間についても了解です」
プンスカ怒っている魔王女さんをこれ以上刺激しないよう、オレはこの内容で契約することを承知した。
魔王女さんとコロナさんが魔法陣?みたいなものの前で一緒に呪文を唱えると、陣の真ん中に何か黒いモヤみたいなものが現われ、それが消えた時にそこには……。
「お、オレ!?」
「正確には貴方の肉体よ。ほらっ」
84:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)
14/12/20 02:41:10.50 4pXE+PMm
魔王女さんにトンッと突き飛ばされたオレ(の霊体?)がよろめいて、血だらけの「肉体」の隣りまで来た瞬間、オレ「達」はひとつになっていた。
「ぐぁ……痛てぇ……」
「あぁ、ごめんね~、今治してあげるから」
コロナさんの手から淡い緑色の光が溢れ出し、その光がオレを包み込むと体中の痛みが一気に消えていく。
気がつくと、瀕死の重傷状態から回復したのみならず、あちこち破れ、血に汚れてた服まで元に戻っていた。
「すげぇ、パネェ」
「うふふ~、どういたしまして。ただし、コレはキミが受け取る3つの願い事からの前借りになるからね。服はサービスだけど」
「ええ、もちろんっス!」
その点は契約にもキチンと書き記してあるから問題ない。
むしろ、この分だけでも魔王代理・代理を引きうけても十分お釣りが来る。
「次に、わたくしと貴方の立場を交換しますわ」
で、オレは、魔王様夫妻が戻るまでこの城で魔王代理の務めを果たし、魔王女さんは人間界で一学生としての生活を満喫するという寸法だ。
その立場での常識や家族関係などの基本的な知識は、立場交換すればわかるようになるらしいし、高校進学で環境も一気に変わるから、多少の不自然さは誤魔化せるだろう。
どっちかって言うと、問題はオレの方にありそうだけど……。
「安心して。キミが慣れるまでは、おねーさんがフォローしてあげる~」
コロナさんの有難い申し出があるので、正直助かる。
85:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(前編)
14/12/20 02:43:13.76 4pXE+PMm
「では、始めるわよ?」
魔王女さんが改めて別の魔法陣を床に描き直し、オレと一緒のその中に入ったうえで、今度は紅い宝石のようなものが先端についた杖を手にして長い長い呪文を唱え始めた。
途端に、意識がぼんやりとし始めて、オレは頭をふってその眠気みたいなものを振り払おうとした。
「ダメ! それが立場交換の魔法の効果よ。抗わずに受け入れて!!」
コロナさんが、普段ののんびりしたしゃべり方とは裏腹の鋭い口調でオレを制止する。
(あ、たぶん、こっちがこの女性(ひと)の本性だな)
そう思いつつ、オレは目を閉じ身体から力を抜いて極力リラックスしようと試みる。
たちまち意識が曖昧になり、耳には魔王女さんの唱える呪文しか聞こえなくなる。
「─大いにして平等なる“ガ”よ、我、アムリナ・ケイト・フェレースと、と彼の者、星野計都の立ち位置を入れ替えん……」
今まで聞いたことのない言語で唱えられているのに、その意味が理解できたような気がしたが、それとともにさらに眠気が倍増し、オレはそのまま意識を失っていった。
(つづく)
#年内に完結させられたらいいなと思ってます。
86:名無しさん@ピンキー
14/12/20 19:08:21.58 vAhWD8i0
新しいのキテタ
美味しい部分に突入するのは次回かな?
87:名無しさん@ピンキー
14/12/20 19:36:41.78 I+r/Tbp5
続きに期待
88:名無しさん@ピンキー
14/12/29 15:03:14.58 00X/22DV
#短いけど、男子高校生←→魔界の姫の立場交換物のつづき。ちなみに、魔王女のルックスは、某モバマスの神崎蘭子の衣装を着た渋谷凛っぽい感じだと思ってください。後編は年明けになりそう。
『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)
「─大いにして平等なる“ガ”よ、我、アムリナ・ケイト・フェレースと、と彼の者、星野計都の立ち位置を入れ替えん……」
……
…………
………………
唐突に意識が覚醒する。
「成功ね♪」
「ええ」
聞き覚えのあるこの声は、コロナさんと……魔王女さんかな。
「ふわぁ~あ、その様子だと成功したんですか?」
ぼんやりと目を開けていつの間にか床に倒れていた身体を起こす。
─サラサラッ………ファサッ……
(ん? あれ、なんか顔にまとわりつくような感じが……)
無意識に頭に手をやって、そこに未だかつてない長さの髪の毛があることを感じた瞬間、オレの意識は一気にはっきり覚醒した。
「な、なんだ、こりゃあーー! なんでいきなり髪の毛が……」
伸びてるんだ─って、何、この服!?
「あはは、驚いてる驚いてる」
「そりゃ、驚きますよ!」
首や肩どころかほとんど腰のあたりにまで伸びている髪もそうだが、それ以上に平凡なトレーナーとジーパン着てたはずが、いきなり黒いワンピース姿になってるんですから!
……と、抗議しつつ、魔王女さんの方に視線を向けて、思わず絶句する。
そこには、先程までの豪奢なドレス姿とはうって変わり、見覚えのある白と紺のボーダー柄のトレーナーとブラックジーンズというラフな格好の魔王女さんが立ってたんだ。
しかも、長かった髪をバッサリ切って、男の子みたいなショートヘアになってるし。
89:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)
14/12/29 15:04:02.43 00X/22DV
─いや、待てよ。
「もしかして……オレと魔王女さんの格好、入れ替わってる?」
「正解。と言うか、正しくは、髪型や服装だけじゃなくて立場そのものが変化しているのだけれど」
「そう言ったでしょう?」と、ニッコリ笑顔で問い返される。
「いや、確かに、言われましたけどね」
てっきりオレは、周囲に幻術か暗示か何かで、オレが“魔王代理”という立場になってると認識させて、その間、同様の処置でオレの家の方に滞在する「だけ」だと思ってたのだ。
まさかこんな風に、格好まで本格的に取り替えられるとは……。
ん? てことは、もしかしてっ!!
「あ、ちゃんと有る。よかったぁ」
ワンピースのスカートの上から股間に手を押しつけてみたところ、幸いにしてマイサンはキチンとその存在を確認することができた。
“上”の方も、胸板はつるぺたでオッパイみたいな膨らみは皆無だったし。
「入れ替わったのは立場だけよ~、肉体的にはおふたりとも元のままだし」
コロナさんが楽しそうに説明してくれる。
「そ、そうなんだ。でも、それって逆にマズくないスか?」
オレが魔王女さんだと思われてるなら、その姫君の身体が男だと周囲にバレたら大騒動になるんじゃあ……。ほら、お姫様ならメイドに着替えとか風呂とか手伝ってもらったりするんだろうし。
「えぇ、確かに普段のお召替えや入浴のお手伝いは、姫様付きの侍女のお仕事だけど~」
「安心なさい。たとえ、この状態で貴方が全裸になっても、あの子たちが風呂場で貴方の股間に直接触れても、皆は貴方のことを“魔族の女性”だと認識するわ」
因果そのものを歪めてあるから、その点は大丈夫だと、魔王女さんは太鼓判を押してくれた。
「うーむ、了解です。なら、怪しまれないかは、あとはオレの演技力次第ってことっスね」
最低限、日常習慣とかお付きの人とか重臣の人への態度とかは教えてもらわないと……と意気込むオレだったが、あっさり魔王女さん達に一蹴される。
「あまり気負う必要はないわ。ごく自然にしていれば、それが貴方の“普通”として周囲に認識されるから」
「むしろ、ヘンに意識しないで、流れに身を任せるほうが、楽だと思うわよ~」
「そ、そっスか」
話だけ聞いてると何かすごくイージーモードな気がするけど、これ絶対何か落とし穴があるよね?
90:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)
14/12/29 15:04:35.12 00X/22DV
とはいえ、俗に言う「賽は投げられた」状態だし、覚悟を決めるしかないか。
「ええ、その通りよ。それじゃあ、そろそろわたくしは貴方の代わりに人間界に行くわね」
「あたしもご一緒しまーす♪ あ、夜にはこっちに顔出すから、安心してね☆」
部屋の壁際に開いたブラックホールみたいな“孔”に飛び込もうとするふたりを、慌ててオレは呼び止めた。
「待った! 最後にひとつ、魔王女さんの名前を教えてほしいっス!!」
「一応さっきの呪文詠唱時に名乗ったのだけれど……アムリナ・ケイト・フェレースよ。もっとも、今からしばらくは貴方の名前になるのだけれど。
ちなみに、王族に対しては、余程親しい者以外はファーストネームではなくセカンドネームで呼び掛けるから、注意してね」
「いやぁ、奇しくも同じ名前を持つ存在だから、立場交換の術が巧くいくと思ったのよね~、あたしの目に狂いは無かったわ~」
そ、そんな単純な理由?
「あら~、魔族にとって名前ってすごく大事な要素よ? それに、魔術の根本原理のひとつに「似ているものは同一のものとして扱う」、っていうのもあるしね~」
「興味があるなら、そちらの本棚に魔術の基礎を記した本があるから読んでみなさいな」
じゃあねー、とヒラヒラ手を振り、今度こそふたりは孔へと消えていった。
* * *
「あぁ、行っちゃったぁ」
ほどなく“孔”が消え、ひとり魔王女の部屋に取り残された計都─いや、「ケイト」は、今更ながらに自分が大変なことを引き受けたのだと実感して、早くも後悔し始めていた。
「いくら命がかかってたからって、もうちょっと考えるべきだったかなぁ」
とはいえ、引き受けなければあのまま死んでいただろうから、選択の余地は実質なかったとも言えるが。
91:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)
14/12/29 15:06:37.55 00X/22DV
「それにしたって、こんな見知らぬ場所で、オレにどうしろって……」
落ち着かなげに辺りをキョロキョロ見回……したはずなのだが、なぜか「ケイト」は奇妙な感覚に襲われていた。
ありていに言えば「見覚えがある」のだ。それも、一度や二度見たというレベルではなく、それこそ毎日そこで過ごしてきた馴染み深い自室と言えるレベルで。
(あれ………なんで?)
試しに本棚の前に歩み寄り、先程言われた本─『賢者ジルレインによる初等魔法読本』を取ろうとすると、あっけないほど簡単にそれは見つかった。そう、まるで「どこにその本があるのか知っていた」かのように。
さらに言えば、本人は気付いていないが、教えられていなかったはずの本の題名も「わかっていた」し、そもそも、これまで目にしたことすらないはずの魔界の文字の読み書きが当り前のようにできている時点で、およそあり得ない話なのだが。
(これが、「立場を交換する」魔術の効果なのかな?)
そう言えば、事前に「必要な知識は一通り獲得できる」と聞かされていた。計都である「ケイト」が此処で王女として暮らしていくためには、確かに日常関連の身の回りの記憶は必要だろう。
リラックスしたような、落ち着かないような、不思議な気分で暖炉の前のソファに腰掛ける「ケイト」。
その際も、ごく自然にスカートの裾を軽く整えつつ、(ケイトの)お気に入りのクッションの上に座り、黒いニーハイストッキングに覆われた両脚を綺麗に揃えて横座りのような姿勢でくつろいでいる。
どうやら、因果律の改変とやらは、無意識レベルの日常的な動作にまで影響するらしい。
(まぁ、あまり深く悩んでも無意味か。むしろ、原理や原因より、これからのことを考えたほうがいいかな)
割り切りが早いのは、数少ない計都の長所で、幸い立場交換してもその特徴は本人から失われなかったらしい。
92:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(中編)
14/12/29 15:08:44.57 00X/22DV
と、その時。
─コン、コン……
「失礼します。ケイト様、ご夕食の準備が整いましたが」
ノックの音とともに、ドアの向こうから聞こえてきたメイド(?)の声に、反射的に「ケイト」は答えを返していた。
「わかりました。あと3分程したら、食堂へ向かいます、わ」
「本物」の口調に倣って、ぎこちないながらも語尾に「わ」を付け足す。
ドアの前の気配が消えたことを確認してから、ゆるやかに溜め息を吐く。
「ふぁあ~緊張したぁ。いよいよ身代わり生活の開始なワケだけど……大丈夫かなぁ」
ふと、今の自分の姿を見ていなかったことを思い出し、身だしなみのチェックも兼ねて、部屋の隅の大きな化粧台の前へと足を運ぶ。
高さ2メートルほどの鏡を覗き込むと、そこには、黒を基調にところどころを真紅のリボンやレースで飾られた、長袖&膝丈のゴスロリ風ドレスに身を包んだ「魔王女」が映し出されていた。
顔立ち自体は本来の計都と変わっていないはずなのに、体の線が隠れる衣装と長く伸びた髪、そしてコントラストの利いた白塗りメイクを施されているおかげで、案外普通に女の子に見える。よく見れば、眉も切り揃えられ睫毛も軽くカールされているようだ。
「これなら、たぶん大丈夫……かなぁ」
悩んでいても仕方ない。
極力平静を装いつつ、「ケイト」は晩餐が用意されているであろう城の大食堂へと向かうのだった。
-つづく-
93:名無しさん@ピンキー
14/12/31 17:55:23.77 Rrxar9Qv
すごくよいです
94:名無しさん@ピンキー
14/12/31 21:54:09.55 AK0emn/v
続き期待
95:名無しさん@ピンキー
15/01/04 14:36:02.81 +y+ps5uD
#魔王姫←→高校生の立場交換物の後編。 ただし、エピローグ部分は次回に持ち越しです。正月のうちには、なんとか……。
『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)
「─それでは、今日はこれで休みますわ」
入浴のあと、ケイト姫の私室(寝室と書斎兼研究室が直接ドアで繋がれてるんだ)に戻ってきたところで、だいぶ滑らかにしゃべれるようになってきた取り澄ましたお嬢様口調で、王女付侍女のイェッタとパルセッタにそう告げる。
「はい。では、明日は平常通りの時間に朝のお支度のお手伝いにうかがえばよろしいでしょうか?」
イェッタの問いに、ちょっとだけ考えるフリをして、大きく頷いた。
「そうね、それでお願い」
「畏まりました。それでは、ケイト様、佳き眠りを」
「ええ、貴女たちも」
深々と一礼して退出していく侍女たちを、にこやかに見守った後、付近に誰の気配もなくなったことを確認してから、ワタクシ─いや、オレは溜め息をつきながら天蓋付きベッドにガックリと腰かけた。
「ふぅ~、何とかなったかぁ。あー、緊張したぁ」
夕食は、まぁいい。正式な晩餐会とかパーティーならまた違うのだろうけど、王族とは言え、普段の食事はテーブルマナーとかに気をつけてさえいれば、それほど難しいことはない。
幸い、立場交換の術の影響で、そういう魔界の王侯貴族的礼儀作法も一通り頭にインプットされていたから、見た事もない豪勢な料理の数々も、戸惑うことなく優雅な手つきで食べることができた。
(まぁ、その反面、初めてのはずの料理に新鮮味を感じられなかったのが残念と言えば残念だけど)
ところで、食事してる時に気付いたんだけど、王女としての知識・経験を必要とする場面を迎えるか、あるいは王女が知っているであろう事柄について意識的に思考を向けると、この術の効果が発揮されるみたいだ。
おかげで、SFマンガとかによくある「一気に知識の奔流が流れ込んできて、脳がパンクして廃人になる」とかいう事態は回避できそうなのは助かる。
そこまでいかなくても、あまり一度に沢山の記憶を詰め込まれたら、知恵熱が出そうだし。
96:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)
15/01/04 14:38:25.15 +y+ps5uD
それに、知識や仕草・癖については多少「ケイト姫」らしくなったとは言え、自我というか意識の中核の部分は、まだまだしがない男子高校生・星野計都のままなんだ。
ええ、地味に夕食の後に控えていた一大イベントがツラかったですとも。
そう、入浴。パッと見、中世欧州風の世界だから油断してたんだけど、王族や貴族ともなると、毎日お風呂に入って体を綺麗にするみたい。
ケイト姫としての知識を探ると、さすがに中流以下の庶民階級だと、風呂なんて3~4日に一度くらいしか入らないものらしい。いや、そのレベルでも入れる……と言うか蒸し風呂でも岩風呂でもなく、ちゃんと湯船式の公衆浴場がある事に驚くべきかも。
ともあれ、「レディの身だしなみ」の一環として、王宮の一角に設置された王族専用風呂に入らないといけなかったんだ。
複雑な服を脱がせるのはお付きのイェッタとパルセッタがやってくれたから悩むことはなかったんだけど……。
さすがにドレスを脱いでメイクも落としちゃうと、髪が長いことを除いて自分の目から見たら完全に男のままなんだよ。それまで割とノリノリ(っていうのもナンだけど)で「王女様」やってたのが、急に現実に引き戻されたようで、なんか凹む。
それなのに、侍女ふたりは「いつ見てもケイト様のお身体でお綺麗ですわね」ってお世辞言ってくるし─フクザツな気分。そりゃ、周囲の者には、因果の歪曲とやらで、「魔王女にふさわしい高貴な美少女」に見えてるのかもしれないけどさ。
ツルペタ(当り前だけど)の胸を押さえて「ワタクシとしてはもっと胸が欲しいのだけれど」とかあえて嘆いてみせたんだけど、「多少控えめでも形は整ってらっしゃいますし、乳首や乳輪の色も朱鷺色で素敵です」とか、大真面目に返されちゃった。
そう言えば、確かに本物の魔王女も親友のコロナさんとかと比べると、あんまし大きい方ではなかったな、うん。
いっそ「クリトリスが大きいのが悩みの種なのよ?」とか言ってチ●チン見せてやろうかと思ったけど、さすがにセクハラは自重した─「こんなくらい全然普通ですよ!」とか言われたら、因果歪曲の効果とは言え立ち直れそうにないし。
そう言えば、入浴の手伝いのために侍女ふたりも半裸って言うか湯浴み着とかいう丈の短い浴衣みたいなのを着て、一緒に風呂場に入って来たんだけど……。
あんまり動揺しなかったんだよなぁ。自分の裸見られても、イェッタたちの剥き出しの足とか胸の谷間とか見ても。
さすがに体をスポンジみたいなので丹念に洗われた時は多少は照れくさかったし、くすぐったかったけど、それだけ。長い髪を洗ってもらうのとかも、ごく自然にお任せにしたおかげで楽チンだったし。
こういう細かな部分の違和感……いや、「違和感がないこと」が、立場交換の儀式魔法─“チャンゲクス”の効果なんだろうな。
97:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)
15/01/04 14:39:07.20 +y+ps5uD
風呂から上がったあと、バスタオル(?)みたいな大判の手ぬぐいで髪や体を拭いてもらい、ドライヤー代わりの“微風”の魔法で乾かしてもらう。
たぶんスパイダーシルク製とおぼしき白いナイトドレスを着せてもらい、その上にミスコン優勝者みたいな真紅のガウンを羽織らされた状態で、さっきこの部屋─寝室にまで戻ってきた、ってワケ。
ちなみに、ナイトドレスの下には下着は何も着けてない、すっぽんぽん状態。最初はどうかと思ったけど、解放感があって意外に悪くない感じだった。元に戻ったらパジャマの下はノーパンにしてみようかな。
「ん~、でも男物のパジャマだと、ごわごわしてあんまり気持ちよくないと思うわよ~」
ああ、そういう問題もあったか。
でも、さすがに女物の寝間着を買うのは抵抗感あるしなぁ……って!
「い、いきなり声をかけないでくださいよ、コロナさん!」
そう、いつの間にか、部屋の片隅に本物の王女の親友の魔物娘、コロナさんが立っていた。
「て言うか、なんで警戒が厳重なはずのこの魔王の城の最深部に、あっさり忍び込んでるんスか!?」
王女としての知識によれば、この城全体に転移(テレポート)を始めとする移動系魔術を阻止する結界が張られているはずなのに。
「ああ、あたし、この部屋に直接転移するために裏コードを教えてもらってるの」
それでいいのか、魔王城のセキュリティ!?
「大丈夫よぉ、今時、魔王城に忍び込もうなんて不逞の輩が、そこらに転がってるワケないし~」
いや、ほら、たとえば……勇者パーティとか。
「くすくす……RPGのやり過ぎよぉ」
─うん、自分でも「それはない」と思った。
「簡単に言うと、魔界(ウチ)は地上界─あなたたちの住むのとは別の人間界と、休戦条約を結んでるの。休戦って言っても、もう500年以上続いているから、実質平和条約と変わらないわね~。国家使節の交換や民間商人の行き来も普通にあるし」
へぇ、そんなことが……って、意識を向けたら、確かにそういう知識が流れ込んできた。王女だけあって、さすがにケイト姫はよく勉強してるな。
「その顔は、王女としての知識が補填されたみたいね♪ ま、そういうことだから、魔王討伐の勇者が突貫してくるなんて事態の心配は無用よ~」
へぇ、道理で第一王女であるはずのケイト姫の身辺警護とかが緩いような気がしたんだ。
「とは言っても、やっぱり一国の王族ともなると、色々窮屈なコトも多いのよ~」
で、羽を伸ばすために、異世界の庶民と立場を交換するって?
「あはは~、だいたい合ってる、かな?」
ま、そのおかげで命が助かったんだから、文句は言うまい。
「寝る時に痛まないよう髪の毛編んであげるね~」とベッドに並んで腰掛けたコロナさんが、お尻近くまである黒髪を、ざっくりとひとつに編んでリボンで束ねてくれる。
こんなグラマラスな美人さんがすぐそばにいるのに、まるでセクシャルな気分にならないのは、オレ─ワタクシが「魔界の王女」で彼女の親友という立場になっているからなのだろう。
98:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)
15/01/04 14:40:45.97 +y+ps5uD
風呂から上がったあと、バスタオル(?)みたいな大判の手ぬぐいで髪や体を拭いてもらい、ドライヤー代わりの“微風”の魔法で乾かしてもらう。
たぶんスパイダーシルク製とおぼしき白いナイトドレスを着せてもらい、その上にミスコン優勝者みたいな真紅のガウンを羽織らされた状態で、さっきこの部屋─寝室にまで戻ってきた、ってワケ。
ちなみに、ナイトドレスの下には下着は何も着けてない、すっぽんぽん状態。最初はどうかと思ったけど、解放感があって意外に悪くない感じだった。元に戻ったらパジャマの下はノーパンにしてみようかな。
「ん~、でも男物のパジャマだと、ごわごわしてあんまり気持ちよくないと思うわよ~」
ああ、そういう問題もあったか。
でも、さすがに女物の寝間着を買うのは抵抗感あるしなぁ……って!
「い、いきなり声をかけないでくださいよ、コロナさん!」
そう、いつの間にか、部屋の片隅に本物の王女の親友の魔物娘、コロナさんが立っていた。
「て言うか、なんで警戒が厳重なはずのこの魔王の城の最深部に、あっさり忍び込んでるんスか!?」
王女としての知識によれば、この城全体に転移(テレポート)を始めとする移動系魔術を阻止する結界が張られているはずなのに。
「ああ、あたし、この部屋に直接転移するために裏コードを教えてもらってるの」
それでいいのか、魔王城のセキュリティ!?
「大丈夫よぉ、今時、魔王城に忍び込もうなんて不逞の輩が、そこらに転がってるワケないし~」
いや、ほら、たとえば……勇者パーティとか。
「くすくす……RPGのやり過ぎよぉ」
─うん、自分でも「それはない」と思った。
「簡単に言うと、魔界(ウチ)は地上界─あなたたちの住むのとは別の人間界と、休戦条約を結んでるの。休戦って言っても、もう500年以上続いているから、実質平和条約と変わらないわね~。国家使節の交換や民間商人の行き来も普通にあるし」
へぇ、そんなことが……って、意識を向けたら、確かにそういう知識が流れ込んできた。王女だけあって、さすがにケイト姫はよく勉強してるな。
「その顔は、王女としての知識が補填されたみたいね♪ ま、そういうことだから、魔王討伐の勇者が突貫してくるなんて事態の心配は無用よ~」
へぇ、道理で第一王女であるはずのケイト姫の身辺警護とかが緩いような気がしたんだ。
「とは言っても、やっぱり一国の王族ともなると、色々窮屈なコトも多いのよ~」
で、羽を伸ばすために、異世界の庶民と立場を交換するって?
「あはは~、だいたい合ってる、かな?」
ま、そのおかげで命が助かったんだから、文句は言うまい。
「寝る時に痛まないよう髪の毛編んであげるね~」とベッドに並んで腰掛けたコロナさんが、お尻近くまである黒髪を、ざっくりとひとつに編んでリボンで束ねてくれる。
こんなグラマラスな美人さんがすぐそばにいるのに、まるでセクシャルな気分にならないのは、オレ─ワタクシが「魔界の王女」で彼女の親友という立場になっているからなのだろう。
99:『魔王代理は素敵な職業(たちば)!?』(後編)
15/01/04 14:42:21.13 +y+ps5uD
あ、そう言えば……。
「ケイト王女を始め今の王家は双角鬼(デーモン)族みたいスけど、コロナさんの種族って何ですか?」
「ん? あたしは小翼鬼(インプ)よん。祖母が吸精女(サキュバス)で、その血が結構濃く出てるけどね~」
ああ、なるほど。確かにインプなら、成人しても身長はせいぜい小学生並で、体型もツルペタなはず─って王族の知識が教えてくれた。逆にサキュバスは、長身でグラマーな女性種族だから、いい感じにブレンドされてるのね。
「で、あたしのことはともかく、計都くん─ううん、「ケイト」ちゃんの方は困ってることはない?」
って言っても、今日は公休日で、しかも入れ替わったのが夕方でしたし、お夕飯いただいて、お風呂に入っただけですからね。取り立ててトラブルとかは……。あ、そうだわ!
「立場交換の期限は魔王夫妻が戻られるまでってことですけど、それっておおよそどれくらいなんでしょうか?」
魔界(こっち)の暦は一月が30日かつ一年は2カ月、さらに一日も地球とほとんど大差ない約24時間(もっとも、こっちは12等分して表してるけど)だから、時間感覚的には人間界にいたころとほぼ変わらない感じで過ごせる。
ただ、いつ頃までこの暮らしが続くのか知っておかないと、公務への対応も色々変わってくると思いますしね。
「うーーん、ごく一般的な魔界の貴族の新婚旅行なら、普通は1ヵ月弱くらいなんだけど……」
そうですね。ワタクシの知識にも、そうあります。
「前も言ったと思うけど、魔王様って、ここ数年色々お忙しくて、あまり十分な休暇もとられてなかったみたいなのよね~。王妃様は、そんな魔王様のご様子を心配してらしたみたいだし、いい機会だから結構長めに休養とられるんじゃないかしら?」
と言うことは、つまり……。
「短くても2カ月、長いと下手したら季節が変わる頃まで帰って来られないってこともあり得るかも~」
!
「そ、そんなに長くですか?」
「オレ」としては、せいぜい2、3週間だと思ってましたから、最長3ヵ月というのはさすがに予想外でした。
「“下手したら”、よぉ。気まぐれな方だから、逆にひと月そこそこで旅行を切り上げて帰って来られることもあり得るわけだし~」
た、確かに、魔王(おとう)様は、公務面はともかくプライベートでは結構気分屋な面のある方でしたね。
「はぁ……わかりました。いずれにせよ、最長それくらいはかかるという覚悟で魔王代理の役目をしっかり務めさせていただきます。その代わり、「計都」さんの方も、高校生として恥ずかしくない日常を過ごすよう、伝えておいてください」
「うんうん、りょーかい。あたしは星野家の隣りの天川さん家に娘として住み込んで、幼馴染としてお目付け役することになったから、安心してね~」
あまり安心できない気が……いえ、よしましょう。どの道、賽は投げられたのですから。
「じゃ、次は来週末、人間界が土曜日の夜になったら、様子見にくるわね~、チャオ♪」
「あ……」
投げキスひとつ投げて、転移呪文で出て行こうとするコロナを、思わず引き止めるように手を伸ばしかけて、かろうじて思いとどまる。
(何を言うつもりだったんだ、オレは……)
「いつも」みたいに朝まで一緒ーのベッドに並んで寝て、眠くなるまでおしゃべりする?
─それはオレじゃなくワタクシ、いや「本物のケイト王女」の「日常(いつも)」だ。
(大丈夫だと思ってたけど、意外と今の立場に付随する思考習慣に流されてるみたいね……じゃなくて、みたいだな)
この術のおかげで今の立場を大過なく務められるのだろうけど、お父様達が戻って来られるまで、「魔王女」としての立場に染まりきらずに、ワタクシは「オレ」としての自我を保てるのでしょうか?
一抹の不安を覚えつつ、ワタクシはベッドに入ったのでした。
-つづく-
#重複しちゃった>>98は飛ばして読んでください
100:名無しさん@ピンキー
15/01/04 20:52:41.99 DBth3Chm
ろくでなし子は置いといて↓
あけおめ!お正月早々にとんでもないことやらかした結果
奇跡が起きた!
ワイルドだろぉ
dakk(感&&激)un.ne★t/c11/0104yukari.jpg
(感&&激)と★をワイルドに消し去る
101:名無しさん@ピンキー
15/01/05 01:28:42.52 eGjQTIzB
GJ
>「魔王女」としての立場に染まりきらずに、ワタクシは「オレ」としての自我を保てるのでしょうか?
もうコロナの会話前後だけで侵食が進んじゃってるくらいだし無理じゃないか?www
頑張って抗って欲しいなあ(棒
102:名無しさん@ピンキー
15/01/05 02:45:55.10 RXFDPtiq
続き期待