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通された場所は、京の屋敷とも、迷宮とも違う所だった。
京の屋敷と同じ穏やかな木々の香りが漂う空間。だが、屋敷とは違い、木材がそのままの形で張り巡らされており、ごつごつとした表面が露わになっている。
その無骨な空間に、見た事がない鮮やかな植物が敷物や装飾として飾られている。
何より、所狭しと飾られた武具の数々。そのどれもが意思を持っているかのように存在していた。
その空間に男女が向かい合って座っている。
女の方は、まだ元服をして間もない、幼さを残した少女。だが、煌煌と輝く朱い瞳には鋭い刃のような力強さが宿っていた。
「此度、交神の儀によりこちらに参った火乃(かの)と申す。こういった事は不慣れであるが、どうかよろしく頼む」
娘―火乃は恭しく頭を下げる。その姿は至って平静であり、とても儀式の前とは思えない程普段と変わらない面持ちであった。
もちろん、これから行う事の意味を理解していない訳では無い。だが、火乃の思いはこれから行われる事柄よりも、目の前の相手に集中していた。
「ハンダキ、ボボイスタメーレ!」
火乃の挨拶に、奇抜な被り物を身に付けた男神―梵ピン将軍は歓喜とも狂乱ともつかぬ珍妙な声を上げた。
一族において、交神の儀を行う神は交神を行う本人が選ばなければならないという決まりがある。
元々は親になる者としての決意や自覚を促す為であるが、それは、短命の一族が数少ない我儘を押し通せる場所でもあった。
子孫を残すというただそれだけの制度。だが、その行為によって一族は確かな愛に満たされ、その愛は神の方にも確かに存在していた。
とは言え、普通の男女の付き合いのように相手の人柄で選ぶというのは困難だ。神の情報は世話係であるイツ花か、姿絵屋の絵画でしか確認する事は出来ない。
その為、交神の儀において相手を選ぶ基準は見事にバラバラだった。顔であったり、遺伝情報であったり、時には触り心地が良さそうという理由で選んだ者もいる。
どんな理由があれ、基本的に交神の儀の相手は希望通りになる事が多い。だが、火乃の場合は一族全員に満場一致で難色を示された珍しい例であった。
「その、梵ピン殿とお呼びして良いか?」
「ンダキ」
「……それは肯定の意と捉えてよろしいだろうか?」
「ンダキ、ンダキ!」
「そうか、良かった。私の事は好きに呼んでくれ」