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●15
もう画面は見えない。はるかの汗が浮いた肌も、引き攣ったり緩んだりを繰り返す肢体も。
でも見えてしまう。影送りの影のように、視界に焼き付いて、目を閉じても映ったまま。
意識が朦朧としてくる。脚を捩ると、自分の下腹部に意識が行ってしまう。
音で抜き差しを感じる。その度に、はるかとボク自身がリンクしたかような、そんな錯覚が立ち上ってくる。
おかしな話。でも、抜き差しの折々に、はるかが息を飲むのを察すると、ボクの息も詰まりそうになる。
もう頭の中なんて、とっくのとうにぐちゃぐちゃになってるんだろう。
頭を大事な右腕に乗せたまま、商売道具の右腕が痺れてくるぐらいなのに。
脳髄が渦を巻いて、ぐるぐる回って―あの気まぐれな浜風みたいに―目を開けるのも億劫になる。
―やめてよ、はるか、もう、息も絶え絶えじゃないか。
嬌声で叫び過ぎたのか、はるかの声が、ハスキーになってる。
変な唾が出てくる。喉がぎこちない。ムリヤリ唾を飲み込む。
きっと身体も、奥まで、何度も、何度も、突かれて、ばらばらになりそうなぐらい。
―やだ、いやだ、こんなの、ボクじゃ、ない、こんなの。
ずくん、ずくんが、だんだん重たくなる。
身体を前に倒したっきり、戻せないまま。臍あたりに鈍い熱さが溜まっていく。
くるしい。あつい。身体が、感覚だけ残して、どこかに溶けていきそう、
『達する、ということを、どう表したら良いのかは、私もよく分からない。
どうしたらいいか、というのも、アドバイスはできない。身体的には、楽ではないと思う』
やめて、本当に、こんなの、やだ。おねがい、はるか、もう、やめて。ボクの、中に、入って、こないで。
『体の中を、容赦無く掻き回されてるから、当然といえばそうなんだけど。
でもね、幸せよ。何も、考えられなくなるくらい』
そんなの、うそ。
―何で、はるかは、
だって、ボクは、ひとりで、こんなに、苦しくて、切ないのに。
―そんな、幸せそうな顔、してるの。
ボクの意識は、そこで途切れた。
「あおいちゃーん。どうしちゃったの。風邪なんか引いちゃって。シーズンオフだから、まだそんなうるさく言われないけど」
「ごめんね……その、友達に借りた……え、映画がね、面白くて、つい夜更かししちゃって」
ねぇ、はるか。せっかく身体を張って、お手本を見せてもらったんだけど。
「ふーん。あおいちゃんが、映画にそんな熱中するなんてね。俺もちょっと興味湧いてきたな」
「ぜ、ぜったいダメ! み、見せるのぜったいダメだからっ!」
「あ、ほら、風邪治ってないのに大声出しちゃいけないよ」
それを活かすのは、少し先になりそうだよ。
(おしまい)
>>1乙です。