12/10/14 15:55:28.00 dfDEOKht
「ねぇ、一条君。 キスしてもいい……?」
今彼女は一体なんと言ったのだろうか。
息がつまり、先程まで声に出していた彼女の名前が途中で止まる。
ついコンクリートの陰に隠れてしまい、息を殺した。
二人のやりとりを伺おうとしている自分に背徳感を抱きながらも口を押さえた。
「え、……」
恋する女の子に突然キスしてもいいかと訊かれ、こちらもやや混乱気味のようで。
心の準備が出来ていたり、あるいは二人ともそういった仲であったのならば即答も出来たのであろうが
突然の事態に楽の頭はついていけない様子だ。
「ちょ、ちょっと待ってな……?」
ゆっくりと深呼吸して、昂る気持ちを必死に抑える。聞き間違いなどではない。
確かに彼女はキスしてもいい?と言ったのだ。しかしなぜそんなことを訊いてきたのか。
この海辺で二人並んで楽しげに会話してた雰囲気に中てられたからなのだろうか? そんなはずはない。
普通に考えたら彼のことを好いているからキスしたくなった、と考えるのが普通だが、楽は好意を寄せていた相手がまさか自分に好意を
寄せているなどということが果たしてあるのだろうかと、釈然としなかった。
しかしここで『なんでそんなことを訊いたの?』と訊き返したならば、なんでもないとはぐらかされるのが落ちだろう。
告白をすっ飛ばしてそんなことを言ってきた彼女にいいよ以外の言葉を返したら、それは間違いなくダメと言っているようなものだ。
しかしどうしたらいいのかと、楽は考える。彼女の真意が知りたい。何を想ってその言葉が口からこぼれたのか。
腹を決めて小咲のほうを向いた瞬間、此方を見つめていた彼女と目が合い、見つめ合ってしまう。
「「…………っ!」」
両者共に耐えられなくなったのか、バッと同時に反対を向いて先程のように黙りこくってしまった。
しかし、そんな空気でも決して居心地が悪いわけではなく、むしろこのむず痒い状況を心地よいと感じていた。
「あのね、一条君。聞いて欲しいの」
「ん……?」