ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11at EROPARO
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11 - 暇つぶし2ch650:名無しさん@ピンキー
13/06/24 10:28:01.37 7Y6Wbx5B
乙ですの^^
リナさんかわいい

それにしても女様は現代日本でもかなり増長してるが3割という希少価値になればなおさらだね
性善説で、みんないい人ならよいんだが、実際には業と挑発的な格好をして近寄ってきた男にスタンガンをくらわせるようなksが多いからね
ロボットはおろか、人間でも男は女様を批判できない世の中

651:名無しさん@ピンキー
13/06/29 04:11:58.39 Cby6kWa6
乙です!

妄想した。
人間の女にはパートナーロボットは支給されてるのかな? 無いのかな?
もし支給されてるのなら、女性タイプ? 男性タイプ?
と思ったが
・女の代理品を開発することに躍起となった。
・18歳を迎えた男に、一体づつ支給される
とあるから人間の女には
女性タイプは支給されてないし、
多分、男性タイプは開発してない。作らなくても本物がたくさんいるし。
てことはPDAのみか?

でも例えば力仕事の補助はあった方が便利だから
もしかすると自宅用に、女性タイプよりもずっと安く作れる
簡易タイプ(見るからに機械っぽくて男女別がないメカメカしい姿の)
ぐらい置いてるのかもしれない…などw

652:名無しさん@ピンキー
13/07/03 03:34:09.17 WLKr6fb7
今更だけど
>>648の挿絵(のようなもの)

紙袋を抱くリナ
URLリンク(www.pic-loader.net)
スレの賑やかし程度になれば幸いです

>>652
妄想thx
この話も「カーナビがもっと喋ったら」っていう妄想から生まれたので妄想した分だけ世界が広がります

653:名無しさん@ピンキー
13/07/08 13:12:42.49 cTB1obkm
あらステキ

654:名無しさん@ピンキー
13/07/09 21:14:52.27 v5nIFd9N
かわいい
紙袋がうらやましい

655:名無しさん@ピンキー
13/07/11 15:30:03.93 92EzjS9R
紙袋を羨ましがるヤツなんて初めてみたよ

わかる

656:名無しさん@ピンキー
13/07/17 02:17:31.38 ZUnTr1he
今更だがGJ。まとめにも載ったようだしな。

紙袋抱くだけで駆動音が聞こえるくらいなら、
普段の歩行に始まり様々な通常動作、そしてアレするときまで、
主人公が気にしてないだけで実際はかなり響くのかもな。しかも常時。
近距離なら他のロボットからも聞こえそう。

いいな。

657:名無しさん@ピンキー
13/07/17 06:31:13.50 A5q3kRIy
昔居たoldmanさんやこねいたさんが好きでした。

658:名無しさん@ピンキー
13/07/23 00:03:43.36 v9Kb6+o6
チャンス、久しぶりに規制が解けている

659:名無しさん@ピンキー
13/07/23 00:04:21.10 v9Kb6+o6
 鬱蒼と茂る森の小径を歩いていくと、目指す教会が見えてきた。
 無人島に教会とは奇妙だが、この島にもかつては集落があったのだろう。
 もしくは、あれは外観だけが教会で、別の役割を果たす施設なのかもしれない。
 たとえば、帝都を狙う外敵の前進基地とか。
 屋根の上の十字架が通信アンテナだとすれば、なかなか洒落たカムフラージュだ。
 軍の哨戒機に発見されたとしても、こんな教会など怪しむ者はいないだろう。

 そんなことを考えながら歩いていると、ようやく教会の入り口に辿り着いた。
 かなり古い建物で、ヒビだらけの外壁にはツタが生い茂っている。
 ステンドグラスの汚れ具合も普通じゃない。
 どこから見ても、朽ち果てた教会である。
 これが人為的に施されたウェザリングなら大した職人芸だ。
 名のあるモデラーの業に違いない。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
 僕は少々ビビリながら教会の扉を引いた。

 ギギギと火葬場の扉のような軋み音がして、不気味さが嫌でも盛り上がる。
 と、同時にドアの隙間から、気味の悪いオルガンの音が漏れ出てきた。
 ミサで使う賛美歌の曲であろうが、妖しさが満点だ。
 僕とシズカは無言で顔を見合わせる。
「誰が弾いているんだろう」
 僕たちをここへ呼び寄せた人間、即ち都知事暗殺計画の黒幕だろうか。
 だとすればビビっているわけにもいくまい。
 僕は意を決して教会の中に足を踏み入れた。

 聖堂に入ると突き当たりに祭壇があり、その横に据えられた大きな電子オルガンが目に入った。
 一心不乱にそれを弾いているのは、修道服に身を包んだシスターだった。
 こちらからは背中しか見えず、そのため情報が何も入ってこない。
 若いのか、歳をとっているのか。
 美人なのか、そうでないのか。
 さすがに僕みたいに女装している男だとは思えないが。
 なんにせよ、このまま演奏会の聴衆を演じているわけにもいかない。
 こっちは招きに応じてやって来た客なのだ。
 僕はエヘンと咳払いを一つして、シスターの背中に向かって歩を進める。
 木製の長椅子の間を歩き、聖堂の半ばまで来た時、唐突にオルガンの演奏が止んだ。
 やはり僕たちの存在に気付いていたようだ。

 シスターがゆっくり立ち上がり、こちらを振り返る。
 黒いベールと白いフードに覆われて、露出しているのは顔と手首より先だけだった。
 年の頃なら30手前だろうか、もの凄い美人である。
 いや、凄味のある美人という方が正確な表現かも知れない。
 無言で他人を言いなりにできる力─威厳もしくは将器─が、不可視のオーラとして全身から滲み出ている。
 コリーン嬢と似たタイプだが、年を経た分だけこのシスターの方が貫禄がある。
 いったい何者なんだと考えていると、シスターが口を開いた。

「ここに辿り着いたということは、あなたたちが勝ち残り組なのですね?」
 言葉遣いは丁寧だが、もの凄い威圧を伴った声である。
 僕は黙って頷いた。
「では、超一流の証を得たあなたたちと契約することにしましょう。私は今回の仕事の依頼者、マーサ・ホルジオーネ」
 シスターは自己紹介すると優雅に頭を下げた。

660:雲流れる果てに…16 ◆lK4rtSVAfk
13/07/23 00:05:37.71 v9Kb6+o6
 ホルジオーネ?
 どこかで聞いたことがある名前だ。
 そうだ、前に情報屋のヒューガーから聞いたことがあったんだ。
 確かカディバと同じ極東八家の一つで、ティラーノ家に連なるマフィアだと言っていたはず。
 多分だけど、彼らはティラーノの暗部というか、ヤバいことを専門にやる非合法組織なんだろう。
 やはり都知事暗殺の裏にはティラーノグループが絡んでいたのだ。
 帝都を狙う彼らにとっては、あの人気者の都知事は目障りな存在だからな。
 今回の任務の結果、僕とコリーン嬢は完全に敵対関係になってしまうのだろうか。
 そう考えると、少々憂鬱な気持ちになる。

「お聞きの通りです。この一件は彼女たちに依頼することにしますが、異存はありませんね」
 マーサの声が僕を現実に引き戻した。
 何を念押しされたのかと戸惑ったが、マーサが語りかけた相手は無線機だったようだ。
 スピーカーから応答の声が流れ出してきた。
『今さら何だが、本当に大丈夫なのかね?』
『バカ高い金を出して、しくじりました、じゃ目も当てられん』
『それに奴のSPは恐ろしいほど有能なんだからな』
 察するに、どうやら声の主は実際に資金を出すスポンサーたちのようだ。
「ホルジオーネの伝手で集められる限りの超一流を呼んだのです。その全てを退けた彼女たちなら、しくじることなど……」
 何のための実力テストかと、マーサの声は少々怒気を含んでいた。
 あのバトルロイヤルは、スポンサーたちを納得させるためのデモンストレーションでもあったのだ。

『疑っているわけではないが、我々とて失敗するのは怖いのだ』
『あの女のことだから、自分が狙われたと知るとどんな手を打って来るやら……』
『やるのなら確実に息の根を止めてもらわないと、今度はこっちが狙われる番だし』
 声の主が次々と変わるところからすると、白河都知事を亡きものにしたいのは一人や二人ではなさそうだ。
 10人近い政敵が、身銭を切ってまで暗殺者を雇おうとしているらしい。
 マーサは彼らに腕利きの暗殺者を紹介し、中間マージンを取るブローカーってところか。
「では彼女たちに頼むということで、予定の金額が口座に振り込まれ次第、正式に契約することにしましょう」
 振込の確認をもって最終意思決定とすることで合意を取り付けると、マーサは満足したように頷いて無線機を切った。

「聞いての通りです、今回の仕事はあなたたちに依頼することに決定しました」
 こわもてのシスターは冷たい目を僕たちに向けてきた。
 心底では「殺し屋風情が」と蔑んでいるような目だ。
「で……依頼の内容は……?」
 シズカが負けじと冷え切った目でマーサを見詰める。
 こんな恐ろしそうな女が相手でも、シズカは全く動じていないようだ。
「帝都の都知事、白河法子の暗殺です」
 この瞬間、マーサ・ホルジオーネの殺人教唆が成立した。
 言質を取ったものの、このまま検挙に着手するわけにはいかない。
 マーサ自身には知事を殺す動機はなく、単に殺し屋を仲介するだけの立場である。
 彼女に資金を出す連中、都知事を殺したがっている真犯人を確保しなくては意味がない。
 マーサの預金口座の番号を押さえれば、資金を振り込んだ連中も根こそぎにできるんだが。

661:雲流れる果てに…16 ◆lK4rtSVAfk
13/07/23 00:06:25.81 PZA3+kwC
「報酬や期限などの細部事項は、所定の金額が揃ってからの応談で構いませんね?」
「それでいい……ちょっと疲れたから……少し休みたい……」
 シズカが間合いを計りに掛かる。
 今は一気に詰め寄った方がよくはないのか。
「ふむ、無理もありませんね。その階段を上がって突き当たりに部屋を取っています」
 そこで休んでいろとのありがたいお言葉だ。
「契約の用意ができたら人を呼びにやりましょう」
 マーサの声を背中に受けながら、シズカは早くも階段へ向かって歩き始めていた。
 その姿はいつになく焦っているように見える。

 僕は慌ててシズカを追うと、脇に寄り添いながら小声で尋ねた。
「いったいどうしたんだ? 振込元を確認する、絶好のハッキングチャンスなんだぞ」
 無線LANの暗号コードを解析するくらい朝飯前だろうに。
 こんなまたとない機会を棒に振るとは、シズカらしくないじゃないか。
「まずい……蛋白燃料が……ほとんど欠乏して……いる……」
 なんだって、それは確かにマズすぎる。
 それって、ニコライ大尉を倒す時に余計なエネルギーを使いまくったからだろ。
 だから言わんこっちゃない。
 あれだけプラズマキャノン砲をぶっ放せば、蛋白燃料も底を付いて当然だって。
「とにかく……早く……補給を……」

 いくら活動エネルギーに余裕があっても、触媒である蛋白燃料無しではバトルモードに入れない。
 となれば、シズカは精巧に作られた自動ダッチワイフでしかないのだ。
 おまけに蛋白燃料が尽きると、体表を覆っている生体組織も維持できなくなってしまう。
 シズカは人の姿を保っていられなくなるのだ。
 幸いなことに若い僕の体は幾らでも蛋白燃料を製造できる。
 早いとこ二人っきりになって、蛋白燃料を補給してやらなければ。
「一刻も早く……ふたなりっ娘クローディアとの……疑似レズプレイを……」
 うるさい、余計なこと言って嫌な現実を思い出させるな。
 つか、また僕の秘蔵コレクションを無断で読んだだろ。

 あてがわれた部屋に入ると、シズカは早々にメイド服を脱ぎ始めた。
 止める間もなくパンティも脱ぎ捨てる。
 フルヌードになると、やはり胸元の火傷痕が嫌でも目立つ。
 できるだけ早く治してあげたいが、幾らくらい掛かるのだろう。
 それに都の予算が付くかどうかが心配だ。
 このミッションが上手くいけば、都知事が個人的にどうにかしてくれるかも知れない。
 僕のご褒美は返上するから、何としてでもシズカの肌だけは治してあげなくては。

 そんな僕の内心などお構いなしに、シズカはベッドに仰向けに倒れ込む。
 そしてはしたなく大股開きになって待ち受け姿勢をとる。
「シズカ、監視カメラが見張ってるかもしれないじゃないか」
 今さらながら、女装してるとばれるのはキツいものがある。
 ビデオにでも撮られたら末代までの恥だ。
 僕は女子高生のコスプレのままシーツを羽織り、身を隠すようにしてシズカに覆い被さった。

「クローが困れば……嬉しくなるのは……シズカが役に立てるから……」
 その言い訳は前にも聞いた。
「けど……それはウソ……」
 なんだって?
「本当は……エネルギーを使えば……エッチなことしてもらえるのが……嬉しいから……」
 エッチなことって─これは単に蛋白燃料の補給シークエンスだろう。
 君に触媒を添加するためのプロセスをエッチなことと言われても。
 いや、確かに手順はエッチなことそのものなんだけど。
 くそっ、真顔でそんなこと言われると、こっちは何も言えなくなっちゃうだろ。

662:雲流れる果てに…16 ◆lK4rtSVAfk
13/07/23 00:07:13.83 v9Kb6+o6
 シズカが僕の両肩に足を乗せてくる。
 最近のお気に入りの体位だ。
 これだと接続筒の奥までホースが入るから、効率よく蛋白燃料が吸収できるのだとか。
 しかし、よく考えたらこれは不用心だ。
 合体しているところを襲われたら、反撃もままならない。
 そう考えると燃料ホースが勢いを失いそうになる。
「構わない……マーサにとってシズカたちは……大事な手駒……」
 後日はともかく、この時点で危害を加えてくるはずがないとシズカは断言した。
 それはそうかも知れない。
 せっかく見繕った商売道具を、一度も使わずに捨てる持ち主はいないだろう。

 だが、その見通し考えは甘かった。
 事情は僕たちが考えているより、遥かに複雑怪奇であったのだ。
「クロー……」
 シズカが僕に注意を促すと同時に、ガラガラという耳障りな雑音が響いた。
 部屋の四方に鉄格子が降りてきたのだ。
 ガシャンという金属音が上がった時、僕たちは頑丈な檻の中に閉じこめられていた。
「これは何の真似だっ」
 どうして閉じこめられたのか理由が分からない。

「一体どういうつもりだっ」
 地声になるのも構わず怒鳴りちらすが、どこからも返事はない。
 返事の代わりに、正面の鉄格子がこちらに向かって動き始めた。
 僕たちを押し潰そうというのか。
「冗談ではない」
 押し返してやろうと鉄格子に駆け寄ると、後ろからシズカが警告を発した。
「触っちゃダメ……もの凄い高圧電流が通っている……一瞬で黒こげになるから……」
 おわっと、そういうことはもっと早く言ってくれ。
 僕は慌てて手を引っ込めた。
 電流のせいなのか、鉄格子が微振動を起こして羽音のような唸りを発している。
 触れば感電死間違いなしだ。
 これは相当ヤバい図式ではないのか。

 僕が振り返ると、質問を待たずしてシズカが首を振った。
「却下……今のシズカでは……鉄格子を破壊する前に……電流でCPUが狂ってしまう……」
 それではシズカの力を頼りにすることもできない。
 しかし、なんだってマーサがこんなことを。
 この期に及んで最終テストって訳でもあるまい。
 まさか、僕たちが警視庁の捜査員だとばれたのか。
 そういえば、都庁に敵のスパイが潜り込んでいる可能性を考えていなかった。
 スパイは誰なんだ。
 あのキンキン声の眼鏡の秘書か、まさかナースのジョオ・ウィッチってことはあるまい。
 それとも最初から僕たちを消そうという、都知事自身が書いたシナリオだったのか。
 僕たちは都知事のスキャンダルに触れてしまったから。
 いや、あの女がこんな面倒臭いことはするまい。
 色々な思考が脳内を駆け巡る間にも、鉄格子は確実にこちらに迫ってくる。

 直接鉄棒に触れないよう装甲メイド服を巻き付ければ、あるいは鉄格子を破壊できたかもしれない。
 だが、残念なことにメイド服は檻の向こう側に置き去りになっている。
 シズカがはしたなく、部屋に入るなり脱ぎ捨てたからだ。
 生きてこの場を逃れることができたら、タップリと躾てやるのだが。
 ストリップ小屋に修行に出し、恥じらいについて学ばせるのもいいかもしれない。
 こんな時に何を考えているのかと自己嫌悪に陥りかけた途端、脳裏にアイデアが閃いた。
 導線の皮膜を剥がす工具のことをストリッパーという。
 中学の技術の授業でそう習った時、まだ幼かった僕は意味もなく赤面したっけ。

663:雲流れる果てに…16 ◆lK4rtSVAfk
13/07/23 00:07:55.07 v9Kb6+o6
「そうだ、鉄格子に通電している電源ケーブルを破壊すれば……」
 それで少なくとも感電死は免れる。
「それも却下……ケーブルは壁の中……今のシズカには破壊する……手段がない……」
 蛋白燃料が切れかけている現状では、飛び道具やアイアンクローは使用できない。
 膝に仕込んだニーモーターは先月から弾切れで、ドイツからの入荷待ち状態だ。
「申し訳ない……」
 おいっ、諦めるのかよっ。
 諦めたらそこでチェックメイトですよ、シズカさんっ。
 こんな最期ってあるかよ、僕はまだ20歳にもなっていないんだぞ。

「シズカっ、本当にもう手はないのかっ?」
 僕の叫びはほとんど悲鳴になっていた。
 鉄格子はいよいよ迫ってきており、後ずさりするにももう余裕はない。
「ない……と言えばウソになる……と言えなくもないけど……」
 だからどっちなんだよ。
「あるには……あるけど……」
 シズカが意味不明の逡巡をみせた。
「あるなら直ぐにやってくれっ」
 僕の命令を受け、シズカは決心したように表情を引き締めた。

 何をするのかと思いきや、シズカは両手をメロンサイズのオッパイに当て、下からグイと持ち上げた。
 そして乳首が鉄格子に向くように角度を調整する。
「目を閉じて……息を止めてて……」
 シズカが警告したその直後、乳首の先端から霧状の液体が噴射された。
 もの凄い勢いで噴霧された液体が、鉄格子を見る見る腐蝕させていく。

 煮えたぎる強酸を超高圧で噴射する、初見の超兵器アシッドストームだ。
 酸の暴風雨を喰らった鉄棒がボロボロに崩れ落ちていく。
 これは強烈な威力だ。
 大きく穴を開けられ、本来の用を為さなくなった鉄格子が、僕たちに触れることなく虚しく通過していった。
 それを待って、シズカは僕の手を引いて部屋を走り出た。
 もはや僕を抱き上げるパワーも残っていないのか。
 階段を転げ落ちるようにして降り、ようやく僕は呼吸を再開することができた。

「シズカ、あんな凄い武器があるのなら、もうちょっと早く使ってくれよ」
 僕は息を荒げたまま悪態をついた。
「けど……クローがガッカリするから……」
 そう呟くシズカはしょんぼりとうなだれていた。
 シズカは僕が自分の胸に執着していることを知っている。
 だからその胸が凶悪なまでの威力を秘めた兵器であることを隠しておきたかったのだ。
 僕の夢を潰して、ガッカリさせることになるだろうと考えたのである。

「シズカのオッパイ……嫌いになった……?」
 シズカが弱々しい口調で尋ねてくる。
「とんでもない。ますます好きになったよ」
 なにせ僕にとっては命の恩人様だ。
 どうして嫌いになれよう。
「そう……ならいい……」
 単純なシズカはそれだけでご機嫌になった。

664:雲流れる果てに…16 ◆lK4rtSVAfk
13/07/23 00:08:30.82 v9Kb6+o6
「ラブコメ劇場はそろそろ終演でいいのかしら?」
 突然落ち着いた女の声が割り込んできた。
 マーサ・ホルジオーネが冷たい目を僕たちに向けている。
「さすがはアレだけの強者どもを退けただけのことはあるようね。少々見くびっていたわ」
 マーサは改めて僕たちを値踏みするように睨め回した。
「どうして……せっかく集めた手駒を……使いもせずに捨てる……」
 シズカが負けじと上目遣いにマーサを睨む。
「もうどうでもいいからよ。あなたたちの役目は終わったの」
 マーサはシズカの視線など気にせず、腕組みしたまま平然としている。

 もういいってのは、一体どういうことだ。
 都知事を殺したくて、僕たちを雇おうとしたんじゃないのか。
 僕たちを殺したら都知事の暗殺計画は振り出しに戻ってしまう。
 何かの予定が狂って暗殺を中止したのだろうか。
 それで秘密を知った僕たちの口を封じる必要が生じたのだろうか。
 僕が問い質そうとしたところ、横合いから邪魔が入った。
「なら、もう俺っちもお役御免なんだよな」
 そう気怠そうに言いながら教会の扉を開けたのは─。

「ヒゲネズミ?」
 それはバトルロイヤルからとっとと逃げ出した、いや、逃げる姿さえ見せずに消え去った謎のラテン男だった。
「よぉっ」
 ヒゲネズミは僕たちに気付くと、面倒臭そうに片手を上げて挨拶してきた。
 そしてタバコの煙を吐きながら木製のベンチに身を投げ出した。
「あぁ~あ、ダルかったぁ」
 ヒゲネズミは心底億劫そうに背伸びをする。

「あなたという人は、まったく。私が誰のために苦労していると思っているのです」
 マーサは一段と厳しい目になり、ヒゲネズミを睨み付けた。
 なんだ、このネズミは?
 つか、この2人はいったいどういう関係なんだ。
「あなたをもう一度世に出すための策でしょうに。あなたが主導しなくてどうするのです」
「俺っちはそういうの興味ねぇからなぁ。どうしてもってのなら、万事お前が仕切ってくれや。あぁ~あ、面倒くせぇ」
 あんな目で睨まれれば、僕なら竦み上がるところだ。
 なのにヒゲネズミは平然とアクビして受け流している。
 やはり最初に睨んだとおり、余程の大物なのか。

「面倒臭いのは……こっちも同じ……早く説明を……」
 気の短いシズカは置いてけぼりにされて苛立っている。
 僕だって事情を知りたいのは同じだ。
「お黙りなさい、今は夫婦間の問題を話し合っているのです」
 部外者が余計な口出しをするなとマーサがはねつけた。
 なんと、この2人は夫婦なのだ。
 もの凄い威圧感を振りまく美人シスターと、見るからに覇気に欠けるネズミ男が、である。
 世の中分からないものだ。

「プッ……だめんず・うぉ~か~……」
 シズカが吹き出した途端、ヒゲネズミが笑い転げ、マーサの眉が跳ね上がった。
「あなたっ。あなたが笑われているのですよ。怒るなり咎めるなりなさってはどうなのっ」
「あぁ、怒った怒った。なにせホントのこと言われてるんだからなぁ、ギャハハハハァ」
 ヒゲネズミはウケまくっている。
 それがマーサの怒りを倍加させた。

665:雲流れる果てに…16 ◆lK4rtSVAfk
13/07/23 00:09:09.51 v9Kb6+o6
「どうせ処分するつもりだったけど、私が直々に手を下してあげましょう」
 シスターは怒りの矛先をネズミからシズカに向け直した。
 シズカは軽蔑しきった目でシスターを睨み返す。
 あたかも「男の趣味が悪すぎる」というような蔑みの目だ。
 シズカ君、そろそろ止めてくれたまえ。
 元々怖そうなお姉さんを、更に怒らせてどうする。
 今の君は並みの人間同然の力しか出せないんだぞ。
 けど、これらは全て計算づくの演技だったのだ。

「これであの女の怒りは……シズカに向けられる……クローは逃げて……」
 なんと、シズカは僕を逃がすために、わざとマーサを怒らせてたんだ。
 マーサは生身の人間だから、シズカには攻撃できない。
 敢えてマーサに攻め続けさせ、自分がそれに耐えきることで、僕が逃げるための時間を作ろうというのだ。
「バカなことを言うな。そんなことできるわけがないだろ」
 つか、そんなに頭が回るのなら、交渉ごともちゃんとやれよ。

「待ってても……助けは来ないから……2人同時にやられたら……お終い……」
 だからと言って─。
「シズカなら……時間稼ぎはできる……態勢を整えてから……シズカを助けに来て……」
 確かに僕が立ち向かっても瞬殺されるのが落ちだ。
 けど、シズカなら専守防衛に徹しても、僕が逃げる時間くらいは稼げる。
 とにかく逃げきって、どうにかして本土と連絡を取れば、援軍を呼ぶこともできるだろう。
 僕たちが乗ってきたフェリーには、無線機くらい積んであるだろうし。
 船員たちをどうにかしないとダメだが、いざとなったら色仕掛けでもなんでもやってやる……わよっ。

「分かった。きっと迎えにくるから。壊される前に、適当なところで降参しろよ」
 僕が生きて逃げ伸びれば、シズカは大事な人質として温存してもらえるだろう。
「シズカ……拷問されるかも……三角木馬は……ちょっと興味がある……」
 ドSのくせに、受けに回ってどうする。
 AIの思考パターンはいまだに読めない。
 だが、そんな余裕のあるやりとりができたのも、マーサが攻撃態勢を取るまでのことだった。

 修道服の布地を破り、マーサの背中から何かが飛び出してきた。
 ミミズの化け物に見えたそれは、フレキシブルなパイプだった。
 いわゆるメカ触手という奴だ。
 直径5センチほどの金属製の触手が10本、マーサの背中でウネウネと蠢く。
 マーサは厳しい表情のまま腕組みをしている。
 10本の指にはシリコン製のサックがはめられ、その先端から伸びたリード線が袖の中に引き込まれている。
 そしてマーサが指先を屈伸させるたび、連動するように背中の触手が身をうねらせる。

 あの指サックは金属触手のコントローラーか。
 フィンガージェスチャーを駆使することにより、1人で10本の触手を同時に動かせるのだ。
 いやにゆったりした修道服を着てると思ったら、背中にこんなユニットを背負っていたんだ。
 これは厄介だぞ、気をつけろ。

 忠告する間も与えられず、10本の機械触手がシズカに襲いかかった。
 触手は10方向から別々の軌道でシズカを打ち据えようとする。
 シズカは全てを捌くのは不可能と判断し、バックジャンプで軌道外に逃れる。
 ビシッという鋭い音と共に床のタイルが砕け散った。
 あの打撃力は侮れないぞ。
 まる裸のシズカは、防御力が最低レベルに落ちているのだから。

666:雲流れる果てに…16 ◆lK4rtSVAfk
13/07/23 00:09:45.82 v9Kb6+o6
 獲物を捕らえ損なった触手は、身をもたげて再度の攻撃機会を窺っている。
 同時に10本の触手を整然と操るとは、マーサは人間離れした感覚の持ち主のようだ。
 シズカの素早さを知った彼女は、今度は時間差攻撃に出た。
 上中下段、右左と緩急をつけた変幻自在の攻撃だ。
 シズカはダッキングやヘッドスリップを駆使してそれをかわす。
 避けきれない触手はやむなくブロックだ。
 相当のパワーがあるらしく、打たれるたびにシズカのバランスが崩れる。
 それでもシズカは的確に次の触手を払い落とす。

 一方のマーサも恐ろしいまでの集中力を発揮している。
 あれだけの動きをしながら、一度も触手同士が絡まないのは異常だ。
 1本1本の動きを、完璧に自己の管制下においている。
 おまけに格闘センスもなかなかのものがある。
 マーサは触手の内、9本を使ってシズカの上体を集中攻撃してきた。
 シズカには古今東西の格闘家の動きをキャプチャーした格闘ソフトがインストールされている。
 往年の名ボクサー、パーネル・ウィテカーの的確なディフェンス技術を駆使し、シズカは紙一重で触手を捌ききる。
 しかし、上手くいったのもそこまでだった。
 上体を狙った9本全てが、巧妙なフェイントだったのだ。
 本命の1本は、まんまとシズカの右足首に絡み付くことに成功していた。
 触手がグイッと手前に引かれると、シズカはバランスを崩して仰向けに転倒した。
 そこに9本の触手が降り掛かってくる。

 身をよじって逃れようとしたシズカの背中に、お尻に、鋼鉄のムチと化した触手が食い込んだ。
「むぅ……」
 第一撃でシズカの動きが止まった。
 衝撃で電気信号の流れが一瞬途絶えたのだ。
 マーサはチャンスとばかり、シズカの四肢に触手を巻き付ける。
 触手に絡め取られたシズカが宙に持ち上げられ、勢いよく床に叩き付けられる。
 グシャッという嫌な音が響き渡る。
 シズカが人間なら、今のボディスラムで即死していた。

 シズカは更にもう一度持ち上げられ、今度は壁に向かって投げ捨てられた。
 メイドカチューシャを着けた頭がコンクリートを突き破り、腰の辺りまで壁にめり込む。
 ゆでたまごみたくツルリとしたお尻が可愛いが、今は見とれている場合じゃない。
 あの触手のパワーは僕が考えていたよりも遥かに強力らしい。
 これは本格的にヤバくなってきた。

 2本の触手がシズカの足首を捕らえ、壁から強引に引っこ抜く。
 そのままシズカを宙に持ち上げ、恥ずかしい逆さ磔に固定した。
 更に2本の触手がシズカの手首に絡み付き、バンザイスタイルを強いる。
 シズカ自慢の綺麗な腋の下が全開になった。
 残りの触手はムチとなり、シズカの体を徹底的になぶりものにする。
 スパァーンと小気味よい音が立て続けに響き、そのたびシズカは身を反らせて衝撃に耐える。
 なんとか抵抗を試みようと藻掻いていたシズカだが、やがてガクリと力尽きた。
 おいっ、ブレーカーでも落ちたのか。

 マーサはシズカが抵抗力を失ったと見ると、触手を操って足を大きく拡げに掛かった。
 逆さになったシズカが足と体でYの字を描き出し、やがて180度の開脚を強いられるとTの形へと変貌した。
 マッパだから股間のすべてが丸見えになった。
 剥き出しになった部分に、触手がウネウネと群がっていく。
「な、何をする気なんだ」
 その部分には装甲がないから、攻撃されると危険だ。
 内部から攻められたら、精密で重要なシステムをズタズタにされてしまう。
 しかし、マーサの狙いは別にあったのだ。

667:雲流れる果てに…16 ◆lK4rtSVAfk
13/07/23 00:10:28.19 v9Kb6+o6
「ウーシュタイプは女の部分が蛋白燃料の注入口。そして後ろの穴はエネルギーのアウトプットディバイスになっているの」
 シズカのアヌスが非常用コンセントだなんてのは初耳だ。
 そんな便利なお尻をしてるのなら、キャンプに連れていけば大活躍できる。
 と言って、この西洋尼さんは電源を欲しがっているわけではなさそうだ。
「だから、こうしてあげる」
 マーサは冷酷そうに唇を歪めると、お尻の割れ目に触手を這わしてシズカのアヌスを強引に開きにかかる。
「くっ……くぅぅっ……」
 シズカはアヌスを窄め、触手から逃れようと腰をよじる。
 しかし下腹に一撃をくらい、あっさりと抵抗を諦める。
 半開きとなったったアヌスは完全に無防備だ。
 別の触手が真上に忍び寄り、狙いを定めて―一気に貫き通した。
 ドリルの攻撃をも受け付けなかったアヌスが、遂に異物の侵入を許してしまったのだ。

「はあぅ……うぅぅ……」
 シズカの口から苦痛とも歓喜ともつかない呻き声が漏れる。
 そこへの責めは僕もまだだから、シズカにとっては初めての体験となる。
 しかし、いやらしく腰をくねらせているところを見ると、シズカは明らかにクロックアップしている。
 機械触手は生物のように身をよじらせ、シズカの奥へ奥へと侵入していく。
「この辺りだったかしら」
 マーサは右手の人差し指を小刻みに動かし、触手を使ってシズカの直腸部をまさぐっている。
 シズカはもはや一切の抵抗を止め、触手のもたらす快感に身を委ねきっているようだ。
「ソ……ソコはぁ……」
 やがて目当ての出力ディバイスを探り当てると、触手の先端を接続する。
 そうしておいて、シズカが体内に蓄積していた電気エネルギーを吸い上げ始めた。

 シズカは体内に極秘の動力源を内蔵しており、活動に必要な電気エネルギーを生み出している。
 発生した電気エネルギーはコンデンサーに蓄えられ、演算処理や身体運動のために消費される。
 あるいは蛋白燃料を触媒に、スーパーパワーとして一気に解き放つこともできる。
 まさにシズカにとって命の源そのものであり、マーサはそれを全部吸い取ろうとしているのだ。
 僕はそれを止めることができなかった。
 ひたすら怖かったのは勿論だが、何よりスカートの下でナニがフル勃起してしまって動くに動けなかったのだ。
 こんな時に僕は何をやってるんだ。
 そのうち全ての電力を吸い取られたのだろう、シズカのピアスは光を失ってしまった。
 それを確認するや、触手はシズカの足を放した。

 ガシャンと音を立て、無力化されたシズカが床に転がった。
 シズカはおかしな角度に手足の関節を曲げたまま、完全に沈黙してピクリとも動かない。
 アイカメラの絞りが全開状態になったのか、いわゆるレイプ目になってしまっている。
 こうなっては正義のスーパーアンドロイド美少女もオナホ以下だ。
 鑑賞して楽しむための対象、等身大のフィギュア同然の存在でしかない。

 シズカとコンビを組んで数ヶ月、僕たちにとって最大の危機が訪れた。

668:名無しさん@ピンキー
13/07/23 00:11:48.72 v9Kb6+o6
今宵はここまでにしとうございます
また直ぐに長い規制に入っちゃうのかな

669:名無しさん@ピンキー
13/07/23 02:14:55.26 hrO5jwqa
新作来てたー!
早速作業に移ります!

670:名無しさん@ピンキー
13/07/23 06:00:05.12 1rsQZPsv
久しぶりに壊れ描写!
いいですね

671:名無しさん@ピンキー
13/07/23 11:04:00.80 cuRj3GvN
つ、次は補給シーンを!
できればメカバレ状態で!

672:名無しさん@ピンキー
13/07/24 00:11:06.06 TQ+Ug8yB
うわ出遅れた
しかし今回も最高ですな!
おっぱいウェポンヒャッハー!

673:名無しさん@ピンキー
13/08/01 03:28:47.89 mJlyf9Yy
命の恩人のおっぱいは最高です♪
しかし、大変なことになりましたね。
触手、おそろしや・・・

674:名無しさん@ピンキー
13/08/03 02:35:32.96 +dhZnEVH
5レス分投下します

675:名無しさん@ピンキー
13/08/03 02:42:54.68 +dhZnEVH
……と言いましたが申し訳ありません
ガラケーからだと何故か1024の文字制限が入って投下できませんでした
スレ汚し大変失礼しました、SSは近日中になんとか
うぅ、規制が恨めしい

676:名無しさん@ピンキー
13/08/03 02:59:46.37 SfKv9RIW
楽しみにまってるよ!

677:名無しさん@ピンキー
13/08/06 20:42:43.84 efzflCTn
5レス分程投下します 規制解けてるヤッター

678:ツギハギ3 ◆/HAScOfk16
13/08/06 20:52:39.69 efzflCTn
蝉がけたたましい鳴き声を撒き散らしている頃、宗一は萌黄色のトランクに明日の旅行の荷物を詰め込んでいた。
…が、ある時を境に宗一の作業は止まってしまった。じとりとした脂汗が手首を纏うまで、彼の思考は何かに奪われていたのだ。
冷房で冷えきった室内で、汗が滲む手に緊張感を与えていたのは、小さく纏められた衣類に埋もれた白いランジェリーだった。

妹のいる宗一にとって、女物の下着はそこまで見慣れないものでもない。
だが、レースがふんだんにあしらわれた純白の"布い切れ"は宗一の知る一般的なそれとは随分異なって見えた。
(……こんな掌に収まる様な物体に何が隠れるんだ?)
宗一は一瞬、その先を妄想しそうになって首を振ると、黙々と─下着程度で取り乱す自分に虚しくなりながら、作業を続けた。
だが宗一も一人の男であった。
視界に入れないようすればするほど頭の中は散り散りになり、我慢の限界と遂にそれに手が伸びた時、ドアを叩く音が彼を現実に引き戻した。
ややもすれば空調の風音に掻き消されそうなノックであったが、宗一はそれに即座に反応すると、焦りと共にトランクを乱暴に叩き閉じる。
その時、留め具が激しくぶつかり合う音が轟いたが、それよりも雷鳴のような鼓動が頭の芯を揺らしていた。
「あぁ、リナ、どうした?」
情無く上ずった声を投げかけると、扉がゆっくりと開く。
少しだけ開いたドアからリナがひょっこりと顔を出していたが、どうも先ほどの轟音にすっかり萎縮しているようだった。
「あの、宗一(そういち)様、冷たい麦茶を入れましたので少しご休憩を、と思ったのですが……」
リナは心配そうな表情を浮かべては視線を泳がすと、散らばった衣類と揺れるトランクに気づき、しゅんとして黙ってしまった。

「いや、違うんだリナ。これは、その……」
部屋の冷気よりずっと冷たい汗が背中を掠めた宗一は、まだ微かに揺れていたトランクを慌てて抑えた。
「申し訳ありません宗一様。私がもっと荷物を持てればこんなイライラしませんでしたのに……」
どうやら苛立ちの原因を勘違いしているのか、リナはおずおずと宗一の機嫌を伺うばかりだ。
頼りない足取りで服の散らばった部屋にリナが入ると、プラスティックの盆に乗った麦茶が漣(さざなみ)を立ててグラスの縁を撫でる。
小さな飛沫が床に染みを作り、それに気づいたリナは慌てて歩みを止めた。
「そ、宗一様、あの、その……進めません」

「家政補助自動人形(ヘルパー)」が使う日用品は全て、専用の不可視性ARタグが付随しており、彼女達はそれを認識して行動するのが一般的だった。
そして、日用品群は彼女達が持てる重量で設計されており、その重量はリナが持つ盆と麦茶の入ったグラス程度で「仕様」上の限界間近だ。
その上、宗一の衣服がばら撒かれた部屋を渡るなど、石塊を抱えたまま針の筵を渡るに等しいだろう。
彼女達は基本的に歩く事に精一杯で、まして重い荷物など持てず、想定外の荷重はすぐに脆弱な関節群を痛めてしまう。
先ほど、宗一がリナの衣服の入ったトランクに自分の衣装を押し込んでいたのはそんな理由からであった。

「べ、別にイライラしてた訳じゃないよ。だから心配ない、それより休憩しよう、ほら」
話題を逸らすかのように、少し俯いたリナの頭を優しく撫でると、宗一は盆をすっと持ち、リビングに向かっていく。
「荷物はまだまだ入るから安心しな、おみやげだって沢山入る……と思う」
自室から遠ざかるにつれて収まる鼓動を隠しながら、宗一は平常を装った。
「おみやげ、ですか?……それは楽しみです」
えへらっと笑顔を浮かべると、軽くなった歩調で宗一の横にぴたりとくっついて歩いていく。
「でも、あの、どうしてあんなにトランクを勢いよく閉じたんですか? 何か不具合でも……?」
宗一は一瞬ぎくりとして足を止めたが、数瞬の間を持って、薄っぺらい平常心をさらに上塗りして答えた。
「あ、あぁ、トランクの耐久テストだよ。ほら、二人の大切な荷物だから、少し試してみたくなって」
言った本人が危うく吹き出しかける程の酷い言い訳であったが、リナははっとした表情を浮かべて驚く。
「流石です、宗一さま!」
目をキラキラと輝かせるリナに、すっかり毒気を抜かれた宗一は思わず吹き出してしまった。
「そうだろう? さぁ、休憩したらしっかり荷物を詰めて明日に備えるか」
「はい! 明日は本当に楽しみです、宗一さんのお友達とも合うのは初めてですし」
「俺もアイツの片割れと合うのは初めてだ、リナも良い友達なれるといいな」

679:ツギハギ3 ◆/HAScOfk16
13/08/06 20:56:16.64 efzflCTn
水滴を纏った麦茶のグラスを見て、宗一はふと明日の旅行先は硝子細工が名産だったな、と思い出していた。
トランクに詰められた色とりどりの割れ物を想像してまた鼓動が早くなるのを感じる。
その時だけは、この旅行の話を持ちかけた友人のことなどすっかり忘れていたのだ。

* * *

翌日、友人が懸賞で当てたという「温泉宿一泊二日の旅」は非の打ち所の無い猛暑日に打ち当たった。
陽炎で景色が揺らぐ中、やっとの思いで駅のホームに辿り着い宗一達を待ち受けていたのは友人だけではない。
暇を持て余した老若男女が一斉に避暑を求めて集まってきたものだから、電車の中まで人とロボットとその荷物が車内を圧迫していたのだ。

「なぁ雨宮(あまみや)、電車の中まで熱いとはどんな了見だ?」
「俺に言うなよ……だがこれが夏だぜ宗一クンよぉ!」
宗一の向かいに座る、雨宮と呼ばれた男が額の汗を拭ってニヤリと笑った。
彼は宗一と同じく文学部の人間で腐れ縁な、軟派な姿がよく似合う金髪の色男である。
「やめてくださいな、お二人共。ますます暑くなりますわ」
そう言うものの、涼しそうな表情を崩さない女は「家政補助自動人形」であるアイシャだ。
濡れた様な黒髪を滝の様に燻らせる彼女は、どうやらすっかり雨宮の心を捉えて離さないらしく、黒のロンググローブにはプラチナの指輪が光っている。
確かに、中東系の切れ長で妖艶な瞳は、初な男など燃え上がらせて余りある威力を秘めていたし
服の上からでも薫る優美なボディラインは、彫刻を思わせる完璧な体躯で、製作者の執念すら感じられる程であった。

「宗一さん、大丈夫ですか? ……私は大丈夫ですか?」
一方、ぼうっとした口調のリナは早くも寿司詰めの様な車内と暑さに疲弊して、隣に座る宗一にもたれ掛かっていた。
「俺は大丈夫だからリナは少し休みな、電車に乗るのもこれが初めてなんだから」
「はい……でも、折角の電車ですのに」
知識として知っていても経験は専ら薄い物であったリナにとって、この旅行は初めて知ることの連続だ。
それでも、旅の出発点がこんな状態では気の毒で、宗一は項垂れた頭を撫でてやることしか出来なかった。

「あら、リナちゃん、機械酔い? そんな時は一度センサーを落として対象を絞るといいわよ」
ふらふらと焦点の合わないリナを見かねてか、向かいに座るアイシャがずいっと身を乗り出す。
彼女が言うに、”機械酔い”とは揺れる車内と多すぎる対象物が処理要領を超えると発生する、ロボット特有の乗り物酔いらしい。
リナはそのアドバイスをふへっと聞いていたが、アイシャがリナの眼前にプラチナを嵌めた指を立てると、揺れる瞳はそれをじっと見つめ始めた。
「そう、その調子よ、そのまま指に集中して……」
黒いロンググローブに包まれた指がゆっくりと左右に振られると、それに合わせて翡翠色の瞳が泳ぐ。
単なる乗り物酔いの施術が、怪しげな催眠術の様に見えてくるのは、色っぽいアイシャと幼げなリナが向かい合っているからだろうか。
「あっ……。本当だ、平気になってきました」
「うんうん、こういう場所ではじっと集中して、揺れに身を任せるといいわよ」
そう言うとアイシャは立てた指をそっと唇に当て、「以上、お姉さんのアドバイスでした」といって手を戻した。

「リナ、もう平気?」
怪しい儀式を固唾を飲んで見つめていた宗一は内心気が気でなかった。
ありえないと分かっていても、なんだか本当に怪しい術にでも掛かっているのではないかと心配していたのだ。
「はい。もう大丈夫です。……今からじっと見つめていますので」
そう言うとリナは宗一の顔を真っ直ぐに見据える。どうやら本当に呪ないにかかっていたらしい。
「お、おう。頑張ってくれ」
リナは僅かに頬を紅潮させて頷いた。ロボットといえども愛らしさを表現する事に抜かりはない。
宗一もまんざらでは無かったが、些か恥ずかしさが勝った

「おー暑い暑い、見せつけちゃてぇお二人とも」
雨宮がニヤニヤと二人の様子を眺めていた。ありふれた光景であったが、それが友人となるとその興味も別らしい。
「あら、陽祐(ようすけ)さん。私はいつも貴方の事を見ていますわ」
悪戯っぽい笑みは獲物を狙う猛禽類の様な危うさを伴っていたが、陽祐と呼ばれた男は完膚なきまでに骨抜きで上機嫌であった。

680:ツギハギ3 ◆/HAScOfk16
13/08/06 20:57:59.02 efzflCTn
「家政補助自動人形」とは言え、その全てがリナの様に純情無垢で儚げな乙女という訳では無い。
薄暗いヴェールを身に纏い、研ぎ澄まされた色気で男を狂わす黒い薔薇─そんな個体も根強い需要を誇っていた。
そもそも、彼女たちは「日照りの八年間」の間に培われた"健全"な男達の妄想の産物だ。
第二次性徴を迎えるより早く、男女との関係を断ち切られた彼らの理想と妄執が多少歪んでいたとして、いったい誰が責められようか。

「お暑いのはどっちだか」
そう言って宗一は肩を軽く竦めたが、向かいに座る男は
「ふほほふほ」
と今朝方仲良く作ったであろうサンドイッチを頬張っていた。

山岳部を経由して目的地に向かう列車は、カーブの度に軋む車体を揺らして目的地へと向う。
車窓からの景観は山深い緑色に染まり、時折海を挟んでは車内を木漏れ日で瞬かせると、いよいよ旅先といった情景に他の乗客を色めき立たせた
×
「わぁ!宗一さん、海も凄いですね!」
幾分減ってきた人波と、電車の乗り方に慣れてきたリナはやっと窓の外を眺める余裕が出来たらしい。
それでも、暫く窓を眺めて驚嘆をあげ、また宗一の顔を照れながら眺めるという事を繰り返していたので
その度、忙しそうにシルバーブロンドのポニーテールが揺れていた。

窓の外を一面に広がる自然は、街住まいのリナにとって新鮮な物であった。
他の座席に座る夏期休暇中の学生身分達も、きっとリナの様に眼前に現れる全てを楽しんでいるのだろう。
宗一はふと、果たして生身の女とでもそんな光景は見られるのだろうかと思ったが、その考えは流れる景色と共に一瞬で霧散していった。

「ふふ、微笑ましいですわ、本当に」
「あぁ、なんだか懐かしいよなぁ、アイシャも初めての時はすご─って?」
そんな猥談一歩手前の会話を止めたのは、二人の異変だった。アイシャとリナは氷つき、表情はみるみる生気を失い、虚ろな瞳は空を捉えた。
ただ、雨宮のしこりの残る"初めて"の言い方に場が冷えた訳ではない。
その証拠にそこかしこで聞こえていた男女の談笑もピタリと止まってしまったのだ。

「リナ、どうした、おい!」
不意に訪れた事態に宗一はただ狼狽えた。
リナの華奢な肩を揺らすと、口を半開きにしたままの身体がぐらりと宗一に倒れかかる。それはずしりとした、空虚で重たい「物」の感覚を味あわせた。
しんと鎮まり返った列車が不穏なざわめきだけを残して、トンネルの闇に飲まれていく。

「あー、落ち着け宗一。事前に言わなかった俺も悪かった。大丈夫だから心配するな」
口を開いたのは雨宮だった。先ほどまでのおどけた表情も口調も消え、薄明かりに照らされた顔は酷く冷静に見えた。
「アイシャ、接続状況、説明」
一昔前の検索サイトを思わせる単語の羅列だったが、アイシャはぐらりと頭を動かして答える。
「現在オフライン状態です。対人コマンドは基本レベルです。電波の届く範囲まで移動してください」
口も動かさずに出た機械音声は、艶っぽさの欠片も感じられない無機質なものだった。
「つまり……?」
「この辺り、トンネルの入口から出口までネット接続不可ってことだな。
 まぁ仕様書にも小さく書いてあるけど、普通は圏外の場所なんてないし。とにかくすぐ戻る」
雨宮の言うとおり、トンネルを抜けるとアイシャはぼうっとした顔を浮かべては、ぐっと背を伸ばす。
寝起きの人間がするように、妙な色っぽさを伴う吐息を漏らしながら。
「んー、二人の事に夢中になってて忘れてたわ。この辺りネット繋がってないのよ。
 ……何度やっても慣れないわね、自分が無くなるみたいで。ところでリナちゃん大丈夫?」

「リナ、リナ、大丈夫か!?」
宗一に抱きかかえられたリナは肩を揺すられても無反応であったが、暫くして宗一の耳にだけ小さな駆動音が聞こえ始める。
その音もやがて収まって、リナは未だに焦点の合わない目をこすっては宗一の胸でもぞもぞと動いた。
「うぅん、宗一さぁん? ……おはようございます。どうしま─ふぎゃ!」
自分の置かれた状況をやっと理解したリナは、慌てて身を引いて、その勢いのままに後頭部を窓にぶつけてしまった。
宗一も聞いたことの無いような声を上げては頭を抱え、髪を飾るフリルのリボンはへしゃげて戻りそうにない。

681:ツギハギ3 ◆/HAScOfk16
13/08/06 20:59:41.11 efzflCTn
「そ……宗一さん、見てましたよね?」
「あ、あぁ、大丈夫か、リナ」
宗一はさっきも勿論心配したが、この一連の流れに笑いを堪えるのにも精一杯だ。
リナの不釣合いな剣幕と顔を真っ赤にして肩を震わせる姿など旅の記念に写真に収めたい程でもあった。
「うぅ、まさか再起動するなんて……。恥ずかしくて死にそう」
後の言葉は列車の機動音に掻き消されて、宗一の耳には届かなかった。
「え、リナちゃん再起動してたの?」
顎に手を添えた雨宮の質問は恐らく単なる知的好奇心だったが、それはあまりに無遠慮で、ますますリナを赤面させた。
「えっ、え……?」
もうすっかり混乱の極みに達したリナはあわあわと両の手を顔の前に握っては視点を泳がせるだけだ。
「はいはい、大丈夫よリナちゃん。再起動を見られるのは恥ずかしいから良く分かるわ。ネットが切断されて再起動しただけだから、ローカルデータが多いとなるみたいよ?」
「ネット……? 非接続地域だったんですか?」
「そうそう」
助け舟に落ち着きを取り戻したリナであったが、アイシャが耳元でそっと何かを囁くと、リナは耳まで真っ赤に染めて席から立ち上がり叫んだ。
「ち、違いますっ! そんな動画ばっかり保存してたんじゃありませんー!」
そんな似つかわしくない叫声に男二人は身を縮めて、ただただ目を白黒させてリナを見つめるだけであった。
アイシャもくすくすと笑って「いいことじゃない」と言うだけで、二人の間に如何様な密談が行われたのかは結局分からず終いだった。

トンネルを抜ければ目的地はもう直ぐだ。

*  *  *

宗一は目眩を覚えた。
まず駅名が旅館の名前だという事に驚いたし、トンネルまでもがその為に掘られたと知って半ば呆れるまでに至った。
そして何より、様々なレジャー施設を内包した広大な土地、それはもはや旅館などという生易しいものでは到底なく、小さな街と見紛う程であった。
中央の宿泊施設から放射状に延びた各ブロックには様々な店舗が軒を連ねて、それらを結ぶ路面電車さえ走らせる徹底ぶりだ。
観光街は数あれど、観光の為だけの街などここを除いて他にはないだろう。

「なんだか、凄いな……」
「凄いですね……」
都会育ちの宗一にとっても、その並外れた出鱈目さに感覚が麻痺してしまった。
そんな状態だったので、今更駅からバスに乗ってホテルまで二十分もかかったことは実に些細なことに思えた。
「まぁ男手が余ってるから仕方がない」
ショルダーバッグから招待券を探しながら雨宮はそう言った。

というのも、こんな一大企業がでっち上げた様な泡沫的な計画も、直ぐに国が公共事業へと変貌させ、多数の働き手が雇われるのが常であった。
そして、男ばかりが産まれ、男の"特定"の権利が吹けば飛ぶほどの軽さになっていた昨今、労働はある種の昇華行為とも見受けられた。
大規模な計画ほど国からの補助金も多く出され、管理も企業に任される事から、この様な街に定住する者も少なくない。
企業主体の街、それは"超"男性社会の中に生まれた新しい自治区であった。

「お、あったあった。受付は……えっ」
招待券を片手に持った雨宮は何かに気づくと、「すまん」と言い残してトイレに駆け込んでいった。
「どうされたんでしょうか?」
「さぁ、限界だったんじゃないか」
苦笑混じりに宗一は答えると、雨宮が押し付けてきた二組分の招待券に目を落とす。
招待券は、この華美な施設に対してシンプルで、「特別」と書かれた赤い拌が押されており、それ以外に招待券と記す証はない。
本物なのかと宗一は鼻白むだが、カフスグローブを付けた受付嬢にそれを見せるとすんなり四枚のカードキーが手渡された。
尤も、「受付は私にお任せ下さい」と、リナが全て済ましてしまったので、宗一は四人分の荷物が詰まったトランクを黙々と押すだけであったが。

「おー、すまんすまん、受付大丈夫だった?」
雨宮が合流したのは三人がガラス張りのエレベーターを待っている時だった。
「あぁ、重い以外は何も問題なかったぞ」
「それと『お連れの方は?』とも聞かれましたわ」
「……ええと、本物でしたね!」
三者三様の非難に晒されながらも、雨宮はわざとらしい咳払いでその場を切り抜けると、蛇腹状のパンフレットを指さしながら施設の説明を始める。
「さて皆様、今日は緑柱街、もとい複合レジャーシティ「ベリル・フロント」にようこそいらっしゃいました!」
仰々しい気取った物言いと、広げたパンフレットを両手に掲げる姿はあまりにミスマッチであった。
「お前はここの支配人か」
「そうなんですか?
「違うわよ、リナちゃん」

682:ツギハギ3 ◆/HAScOfk16
13/08/06 21:02:22.48 efzflCTn
そうこうしてる内に到着したエレベーターには、階数の書かれたボタンが殆ど無かった。
あるのはレストランやテラスに通じる階がまばらに表示されるだけで、その間には空白を埋めるように乳白色のドットが埋め込まれている。
「……ボタンが無いぞ?」
「あぁ、それは、ここにカードキーをぶすっとな」
開閉ボタンの上にあるスリットにカードキーを差し込むと、エレベーターはぐんっと上昇を始める。
「なるほど、カードを失くしたら事だな」
「そういう事、まぁ俺らが泊まるのは一般客室だから階段でも頑張れるぜ?」
「元陸上部を舐めるなよ、……頑張る必要もない」
だが、宗一はそんな発言を直ぐ撤回する羽目になった。
窓下を一望できる高速エレベーターは徐々にその速度を早め、足元に見える秩序だった街並みが点と線になっっていく。
明らかに一般客室の高さを通り越して、一通り場内の四人を不安に駆らせた後、ようやく硝子の箱は動きを緩め、間の抜けたチャイムが到着を知らせた。
「す、すごい高さですね、宗一さん……怖いです」
高度を上げる毎に宗一に身体を寄せていったリナは遂にぴたりとくっついてしまっていた
「あぁ、流石にこの高さは……無理だな」

エレベーターは最上階より一つ下の階になってようやく停止した後、スライド式のドアを軽やかに開いた。
宗一達が辿り着いたのはこのホテルで最も高級で、最も広いスイート・ルームだった。
一山幾らの学生身分などでは逆立ちしても決して届かない、地平線の果てまで見渡せる五十三階の玄関ホールで四人は釘付けになっていた。

「あら、ま」
「雨宮、……どういうことだ?」
「お、俺が知るかよ!?」
廊下に取り付けられた監視カメラが威嚇するかの様に首を往復させ、エレベーターはもう既に遥か階下へ降りてここには無い。
本当に宗一達が招かれざる客だったなら、袋の鼠よろしく、この優に十人は入れる四角い空間から逃げ出すことなど出来ないだろう。
「とりあえず中に内線があるだろうから聞いてみる。皆は待っててくれ。
 あー、こんなとき疑われるのは少ない方がいいだろうし?」
雨宮は少し早口に言い切ると、すんなり開いた玄関から中に入っていった。

「随分高級な一般客室だな」
僅かに開いたドアの隙間から、大理石張りの床板が見える。
玄関に漏れ出た明かりがシャンデリアから照らされ、三人の淡い影を形作った。
「私達どうなっちゃうんでしょうか?」
小首を傾げたリナが宗一を見つめる。
「わからん。逃げ道が無いのは確かだな」
「そ、そんなぁ……」
「宗一さん、あんまり可愛い妹分を虐めないでくださいまし」
口元に朗らかな笑みを浮かべるアイシャは、孤児院のシスターの様で、悪戯をした子供を窘(たしな)めるような柔らかな口振りだった。
宗一は彼女がリナの"六ヶ月"歳上だということを含め良く知っていたが、その印象は雨宮から聞いていた惚気話とは随分違う。
それでもやはり、肢体を覆う蔦(つた)のような色香(いろか)は「家政補助自動人形」の本質……なのだろうか。

683:ツギハギ3 ◆/HAScOfk16
13/08/06 21:04:03.82 efzflCTn
「冗談だって、最悪雨宮をいけに─」
宗一の半分本気の冗談は、この空間に似つかないドタドタとした足音に掻き消された。
「ただいまぁぁぁ!」
「ひぇっ!?」
勢い良く扉を開け放つ雨宮、そこは玄関だ。
「あー、どう、だった?」
宗一は酷く悪い予感がした。この男は調子に乗っていると止まらない。
そして雨宮は良くも悪くも、期待に答える男だった。
「ここで間違いないとさ。スイートだぜ、スイィィト・ルゥゥム!」
「そうか、わかっ─」
雨宮の耳にはもう誰の声も届かないだろう。
マイク(パンフレット)を力強く握り、その勢いは更に加速していく。
金髪の姿も相まってか、それは今や絶滅危惧種のホストの様だ。
「聞いて驚け!
 地上二百六十メートルからのオーシャンピュー、調度品は十八世紀のアンティーク、料理は一流シェフのフルコース
 フロバス露天風呂完備、部屋数八部屋、そしてキングサイズベッド完備の寝室は二つだぁー!」
ピースサインの拳をゆっくりと頭上まで掲げて、雨宮の独壇場はやっと終わった。

「あ、あぁ……、確認ご苦労。リナ、行くぞ。刺激しないように慎重にな」
まだポーズを決めたままの雨宮の横をトランクを押しながらゆっくりと通り過ぎる。
その後ろをリナが「フロバスロテンブロ……?」と顎に指を乗せ、データーベースにない言葉を唱えながら付いて行った。
「陽祐さん、素敵でしたわ。あ、トランクお願い致しますわね」
クスクスと笑いながら一応の世辞を言い、そそくさと部屋に向かうアイシャがいなくなると、終ぞトランクと西日を浴びて輝く金髪だけが残った。

「あれ、皆どこいった?って、おい冗談だって!宗一、頼む、開けてくれ!」
カードキーで扉を開けられる事に気づくまでたっぷり三十秒、雨宮は喉が枯れるまで叫んだ。
その哀れな姿を、監視カメラだけが脇目もふらずにじっと見つめていた。
それは自分が防犯の為に置かれたことを忘れたかのように、ただ雨宮だけをそのレンズに映して。

─後半につづく─

684:名無しさん@ピンキー
13/08/06 21:12:48.55 efzflCTn
投下終了です。
今回、使っているエディタと2chの書き込み文字制限にズレがあったみたいで話とレスの区切りが無茶苦茶です。ごめんなさい
それと3レス目の文中の×マークに意味はありません、誤字です。重ねてお詫び申し上げます

685:名無しさん@ピンキー
13/08/07 07:52:07.30 uNcIya06


686:名無しさん@ピンキー
13/08/08 20:09:04.95 IGJGTtKB
GJ

687:名無しさん@ピンキー
13/08/09 01:41:38.85 YbCNEpqP
続きが気になるぜー

688:名無しさん@ピンキー
13/08/27 21:28:47.26 l0f0aunx
>>669
規制のせいで出遅れたけど一応言っとく

尼将軍キタァァァァァーッ?

689:名無しさん@ピンキー
13/08/28 09:20:41.16 FJxr78W6
備品女教師はよ

690:名無しさん@ピンキー
13/08/28 11:01:43.48 Un7XrCdk
北条政子か

691: ヒロインの壊れとかメカ見せとかは出てくるのかなあ 楽しみ



692:名無しさん@ピンキー
13/10/09 22:25:27.61 UHRLqiaQ
何話かあるよ

693:名無しさん@ピンキー
13/10/23 21:18:30.21 rQQT0f0b
二人のミリィはパーツ交換というか何というべきかw

694:名無しさん@ピンキー
13/10/23 23:22:21.22 1BnUP3Cu
パーツ交換したらスール?(難聴

695:名無しさん@ピンキー
13/11/08 02:52:54.82 M/80nyvv
ゴティックメードはエルガイム以来のムーバブルフレームを完全に捨て去ったのか…
ファティマもガイノイドキャラが一般的になりすぎたので
意識して一見して人間じゃないシルエットに変えた感じ

696:名無しさん@ピンキー
13/11/08 15:43:51.98 CJfyUcxj
古いファンをごっそり斬り捨ててまでナカツがやりたかった事がイマイチわからない。

697:名無しさん@ピンキー
13/11/08 22:45:51.35 eeUboHmD
自己満足以上に何かがあるとでも?w

698:名無しさん@ピンキー
13/11/09 10:17:30.16 rSUU11q7
アレだけの路線変更でも喜んでついてく奴が居るからな。
本当によく訓練された信者だよ。

699:名無しさん@ピンキー
13/11/15 13:09:08.48 hZ99DyXe
空気を読んでないけど
URLリンク(news.mynavi.jp)
3人のうち誰が好み?

700: 忍法帖【Lv=7,xxxP】(1+0:8)
13/11/19 21:10:21.40 2mQuZfvZ
-rほす

701:名無しさん@ピンキー
13/12/01 01:49:54.71 jjYOCbBD
ロボット、アンドロイド12月、月次保守
消耗品交換
冷却・潤滑油補充

702:名無しさん@ピンキー
13/12/01 07:35:43.62 dG1TS9Mb
書き手を消耗品とか交換とかって失礼すぎ
そりゃ書き手に飛ばれる訳だわ

703:名無しさん@ピンキー
14/01/12 01:52:14.45 mXW9wjWv
そんなわけで、1月保守

>>705
おまえもチェンジだ

704:名無しさん@ピンキー
14/01/13 17:31:15.20 Uo0PtEtw
投下します

705:雲流れる果てに…17 ◆lK4rtSVAfk
14/01/13 17:32:15.31 Uo0PtEtw
 どこをどうやって逃げてきたのか、自分でもよく覚えていない。
 気がつけば森の中で仰向けに倒れていた。
 完全に息が上がり、カラカラに乾いた喉の奥から苦いものが込み上げてくる。
「ゴホッ、ゴホッ……」
 胃液にむせて咳き込んでしまう。
 呼吸が止まり、余りの苦しさに涙が滲んでくる。

 しばらく耐えていると、荒かった息もようやく鎮まってきた。
 だが、涙は止まるどころか、かえって溢れてくる。
 落ち着くにつれて、悔しさが蘇ってきたのだ。
 目の前で相棒が陵辱されているのに、何もできなかった自分が不甲斐ない。
 それどころか、触手に犯されているシズカを見てカチンカチンにさせるなんて、ぶざますぎて死にたくなるくらいだ。
 いや、当のシズカもアヌスを責められて、いやらしく腰をくねらせていたから、少しは相殺されるかもしれないが。

 それはそうと、今頃シズカはどんな目にあっているのか。
 どうやって彼女を連中の手から救出するか。
 今後の傾向と対策のため、僕が逃げてくるまでの状況を反芻してみる。



 活動に必要なエネルギーを吸い取られたシズカは、完全に沈黙して行動不能に陥った。
 もはや彼女の戦闘力を頼ることはできない。
 今のシズカは自力で直立できない分、人形としてはマネキンにも劣るだろう。
 旧型のダッチワイフとしてなら機能するだろうけど、電源が落ちているから安物のオナホにも劣る。
 役立たずになったその部分を見て、ヒゲネズミはマーサに向かって言った。
「これ、まだ使えるぜ。なあ、俺っちが貰っていいだろ?」
 どれだけ好きなんだ、あのオッサンは。

 マーサは夫の無思慮な発言に対し、あからさまに不快感を示した。
「何を言っているのです。そんなことをしたらウーシュタイプは再起動して、我々の手に負えなくなるでしょうに」
 アウトプットディバイスの件もそうだったけど、マーサはウーシュ型バトルドロイドについて詳しいらしい。
 精漿に含まれるプロスタグランジンが、シズカの添加剤であることをよく知っている。

「けどよぉ……」
 ヒゲネズミは諦めきれずに物欲しそうな視線をシズカに送った。
「お黙りなさいっ。あなたという人は、まだ懲りていないのですか」
 どうやらヒゲネズミは無類の女好きで、前にも女で失敗したことがあるようだ。
「まったく、油断や隙だけでなく見境もないのだから。いつものようにこうしておきます」
 マーサは用具庫から革と鎖でできた貞操帯を取り出すと、転がっているシズカの股間に装着してしまった。

 察するに、どうやらこのスケベオヤジは、捕虜にした女に手を出す癖があるらしい。
 妻としては貞操帯の一つも着けたくなるのだろう。
 しかし、これでシズカを再起動させ、スーパーパワーを回復させるのが一段と困難になった。

「あぁ~ああ、勿体ねぇの」
 ヒゲネズミは未練たらしそうにシズカを見下ろしていたが、その視線を僕の方に向けてきた。
 背筋に悪寒が走った僕は、思わず両手でお尻を覆い隠していた。

706:雲流れる果てに…17 ◆lK4rtSVAfk
14/01/13 17:32:59.39 Uo0PtEtw
 そこから先はよく覚えていない。
 とにかく無我夢中で教会を飛び出し、森の中を全力で走った。
 背後を確認する余裕などなかった。
 警察学校の教練の時間でも、ここまで頑張った記憶はない。
 限界を遥かに超えた、我ながら見事な走りっぷりだった。
 そしてとうとう力尽き、この場所に倒れ込んでしまったというわけだ。



 さて、泣いていても事態は改善されない。
 シズカを取り戻すため、僕は反撃に転じなければならないのだ。
 だが、どうやって戦うのか。
 僕個人の戦闘力などたかが知れている。
 手持ちの武器もないし、助けてくれる味方もいない。
 それに、どう考えてもあの触手武器には勝てそうにない。
 やはり無線を使って、警視庁に助けを求めるしか手はなさそうだ。

 この島で無線機がある場所となれば、教会を除けばあのフェリーだけだろう。
 と言って、ホルジオーネの手下が、自由に無線を使わせてくれるとは思えない。
 もう僕のことは手配されてるだろうし。
 こっそり忍び込んで無断拝借しようにも、無線室には交替勤務の当番が詰めている。
 となれば、やはり色仕掛けしかない。
 僕は男なのに、女の武器を使わなければならないのか。
 屈辱的だが、シズカは僕を逃がすために、もっと恥ずかしい責めを受けたんだ。
 彼女を救い出すためなら、少しくらいの恥は我慢しなければならない。

 しかし色仕掛けって言ったって、何をどうすればいいのか。
 僕が使える武器は、ウッフンポーズとパンチラくらいしかないのだ。
 漫画じゃあるまいし、そんなもので大の男をどうにかできるものでもないだろう。
 手コキはまだしも、リップサービスなど死んでも御免だ。
 つか、死ぬ気になったとしても、する方は勿論、される方も未経験の僕には技術的な問題もあるし。

 ひとり悶々としながら森の道を歩いていると、次なる不幸が襲いかかってきた。
 こんな時に、よりによって一番会いたくなかった相手とバッタリ出くわしたのだ。
「片割れでゴザルッ」
「ゴザルッ」
 茂みを掻き分けて現れたのは、シズカに半殺しにされたサイボーグのクノイチ姉妹だった。
 その時の記憶が蘇ったのか、シュガー姉妹は驚愕の表情を浮かべて固まった。
 そして、我に返るや10メートルを一気に飛び下がる。
 ねじりフンドシが食い込んだヒップが丸見えになるのもお構いなしだ。

 なるほど、女の武器ってのは、こういう風に使うのか。
 さり気なく、かつ大胆に。
 大ピンチを迎えているにも関わらず、僕の目はかくも見事に釘付けにされている。

 踵を返して逃げかけたシュガー姉妹だったが、はたとある事実に気付いて立ち止まった。
「メイドがロボットだということは……」
「……スクールガールは生身でゴザル」
 いったん顔を見合わせてから、再度僕の方に向き直る。
 その動作がピッタリとシンクロしているのが、双子のアイドルタレントっぽい。
 ああ、一番気づいてもらいたくなかったことに気づかれてしまった。

707:雲流れる果てに…17 ◆lK4rtSVAfk
14/01/13 17:33:36.20 Uo0PtEtw
 僕が扮している“マリオネット”は、殺人ロボットを操る幻の暗殺者として、この世界で名を馳せているのだ。
 余りにも有名な事実らしくて、既に幻でも秘密でもなくなっているような気もするが。
 ともかく僕が生身の人間であることが、姉妹にバレてしまったようだ。
「今のうちにマスターを始末してしまえば……」
「残るメイドは人形も同じでゴザル」
 そこに勝機を見出したシュガー姉妹は、目を爛々と輝かせて僕に近寄ってきた。
 そして太ももに巻いた革ベルトから、鉛筆みたいな棒手裏剣を何本も抜き取る。

「ちょっと待って、もうこの勝負は終わったんだ。誰が勝とうが意味はないんだ」
 僕は両手を振ってシュガー姉妹を止めにかかる。
 理由は知らないが、雇い主様は都知事の暗殺を中止したらしい。
 だから募集していた殺し屋は、もう間に合ってらっしゃるようなのだ。
 それどころか、僕たちが黒幕から消されそうになったことを伝え、なんとかシュガー姉妹を止めようとした。

「それは、単にお前たちが先方の意にそぐわなかっただけでゴザル」
「実力不足の未熟者にゴザル」
 せっかく忠告してあげているのに、自信過剰な若い暗殺者たちは聞く耳を持たない。
 シズカが失格だと言うのなら、彼女に負けた自分たちの評価はどんなものか。
 少し考えれば分かりそうなものなのに。
 こいつらって、かなり自己中な性格らしい。
 って、これが中華思想というものか。

「うひゃっ」
 銀色の輝きが光の筋と化して飛んできた。
 反射的に身を投げ出すと、今まで背もたれにしていた木の幹にドス、ドス、ドスっと棒手裏剣が食い込んだ。
 鉛筆ほどもある手裏剣の、根元近くまでが幹にめり込んでいる。
 冗談ではない、こんなもの喰らったら確実にあの世行きだ。
 僕は脱兎の如く逃げ出した。
 もうこれ以上は走りたくないと思っていたところだったが、これは嫌でも走らざるを得ない。

「我らからは逃げられぬでゴザルッ」
「あきらめて待つでゴザルッ」
 死にたくないから嫌でゴザル。
 必死で逃げる僕の耳元を、風切り音をたてて手裏剣が掠めていく。
 恐ろしさ満点だが、それでもギリギリで当たらない。
 僕の姿が茂みに見え隠れして、シュガー姉妹は照準を付けきれないでいるようだ。

 そのうち手裏剣が切れてくれるのを祈りたいが、こういう場面では何故か弾切れは望めない。
 太もものベルトに差し込まれていたのは、左右それぞれ5本ずつだったように見えたが─。
 理不尽にも、もうその倍は体を掠めている。
 いったいどこに隠し持っているのか尋ねてみたいが、今はそんな雰囲気ではない。
 などと余計なことを考えているうちに、僕はとうとう追い込まれてしまった。
 目の前に切り立った崖が立ち塞がったのだ。

708:雲流れる果てに…17 ◆lK4rtSVAfk
14/01/13 17:34:18.27 Uo0PtEtw
 高さは約10メートル。
 ゴツゴツとした岩肌が剥き出しになっているから、頑張ればよじ登ることは可能だ。
 その間、シュガー姉妹が待っていてくれればの話であるが。
 おそらく半ばまで登らないうちに、僕の背中はハリネズミみたいになってしまうだろう。
「観念するでゴザルッ」
「ゴザルッ」
 僕が躊躇している間に、茂みを掻き分けてシュガー姉妹が姿を現せた。
 いよいよ絶体絶命だ。
 逃げようにも足がすくんで動かず、助けを乞おうにも声が出ない。
 悔しいが、奇跡でも起きない限りどうにもならないようだ。
 シュガー姉妹は棒手裏剣を構え直すと、勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべる。
 そして右腕をしならせて必殺の一撃を放った。

「死んだぁっ」
 僕は身をすくめて目を固く閉じる。
 ほぼ同時に鼻先でカキンという鋭い金属音が─。
「痛ぅっ」
 頬にチクッとする傷みが走った。
 痛いことは痛いが、想像していたより遥かに弱い、というか比べものにならない程度のものだった。
「あれっ……もしかして死んでない……?」
 どういうわけか、シュガー姉妹の手裏剣は僕に当たらなかったのだ。

 おそるおそる目を開けてみると、クノイチ姉妹が防御を固めるように身構えていた。
 その顔からは最前までの笑みは消えている。
 そして、彼女らの視線は僕の頭上に向けられていた。
 誰かいるのか?
 と思うや否や、崖の上から直径1メートルはあろうかというボールが落ちてきた。
 続いて、ボヨヨンと弾むボールの上に、持ち主と思われる人物が降り立った。

 ピエロだ。
 僕たちと一緒にフェリーに乗ってきた、あの殺人ピエロだ。
 原色に彩られた衣装を着たピエロが、玉乗りをしながらナイフをジャグリングしている。
 目にも止まらない速さで、ナイフが何本あるのかすら分からない。
 シュールといえばあまりにシュールな光景だった。

「何者でゴザルッ」
「ゴザルッ」
 シュガー姉妹は正体不明の敵を前にし、慎重に距離を取る。
 その距離、20メートルほど。
「邪魔するなでゴザルッ」
 クノイチたちはシンクロした動きで、手にした棒手裏剣を投擲する。
 と、ピエロは宙に浮いていたナイフ2本を無造作に摘み、両手のスナップを利かせて投げつけた。
 カキンという金属音が連続し、虚空の2箇所で激しい火花が散る。
 ピエロはクノイチ姉妹が放った手裏剣を、投げナイフで叩き落としたのだ。

 同時に、僕が先ほど頬に感じた痛みは、あの火花を浴びたものだったと理解する。
 察するに、あの一投目はギリギリのタイミングだったのだろう。
 今更ながらにヒヤッとする。
 人間業とは思えない妙技を見せたのにも関わらず、ピエロはニコニコ微笑んだままジャグリングを続けていた。

 どれだけ凄いんだ。
 シュガー姉妹の手裏剣ですら、僕の目には捉えられない。
 その手裏剣が投げられた一瞬の間に、弾道を見切った上で正確にナイフを投げて迎撃する。
 それも、同時に2本を。
 シズカが見切った通り、やはりこのピエロも生身の人間じゃなかったのだ。

709:雲流れる果てに…17 ◆lK4rtSVAfk
14/01/13 17:34:52.72 Uo0PtEtw
 しかし分からないことが一つ。
 なんだってこのピエロは僕を助けてくれるんだ。
 僕はサーカスに知り合いはいないし、スカウトされるほど運動神経もよくない。
 そんなことを考えている間にも鋭い金属音が連続し、虚空に幾つもの火花が散る。
 クノイチたちが手裏剣を投げるたび、ピエロは投げナイフで迎撃してしまうのだ。
 パーフェクトなディフェンスに、シュガー姉妹は焦れ始めた。

「なんで邪魔するでゴザルかっ」
 リンかレイか分からないが、クノイチが激怒する。
 無理もあるまい。
 必殺のはずの手裏剣を、あたかもゲームの道具であるように利用されているのだ。
 そう、ピエロにとって、これは自分の能力を誇示するためのゲームなのだ。
 クノイチを倒すのが目的なら、手裏剣を打ち落とす必要などあるまい。
 その技量をもって、投げてる本人を狙えば事足りる。
 相手の技量を無効化してみせることで、ピエロは自分の能力を誇っているのである。
 余裕というか、稚気というか、敵をおちょくってキレさせるのも計算の内なのかも知れない。

 コケにされて激昂するクノイチであったが、そこはさすが忍びの者。
 怒りが自分のスペックを低下させることを思い出した。
 冷静さを取り戻した姉妹がとった手段は─。
「これでも迎撃できるでゴザルかな?」
 姉妹はそれぞれ両手に手裏剣を持ち、見せつけるように高々と掲げた。
 ピエロがしてる両手投げを、自分たちも採用したのである。
「都合4本でゴザル。2本は防げても……」
「残る2本が、背後のスクールガールを貫くでゴザル」
 シュガー姉妹が僕の方を一瞥し、にっこりと笑う。

 4-2=2って単純な引き算ならその通りなんだけど─大丈夫っすよね、ピエロの旦那。
 手裏剣の4本程度、迎撃するのは朝飯前でござんしょ?
 頼まれもしないのに、他人のピンチに駆け付けるような奇特なお方なんだし。
 余程の自信がなければ、こういう場面でしゃしゃり出て来やしないだろう。
 僕はそう信じて疑わなかった。
 しかし、ピエロはずっと続けていた玉乗りを止めて、地面に降り立ったではないか。
 えぇっ、これって遊んでる余裕がなくなったって解釈でよろしいのですか?
 さっきからニコニコ笑ってらっしゃるように見えるのは、単にメイクによる目の錯覚だったんでしょうか?

 ピエロは宙を舞っていたナイフから4本を選び取り、両手の人差し指、中指、そして薬指の間に刃体を挟み込む。
 彼は一度に4本のナイフを投げて、同数の手裏剣を弾き落とそうというのだ。
 確かに数では同じだが、果たしてそんな離れ業が可能なのか。
 シュガー姉妹も半信半疑なのか、なかなか投擲のタイミングを掴めないでいる。
 初めて会うピエロの技量を図りきれないのだ。

 それに、もしピエロが赤の他人の僕を見捨て、狙いをクノイチたちに変えるとしたら。
 ピエロのナイフが手裏剣を迎撃せず、クノイチたちの心臓に向かうとしたら。
 姉妹にすれば、ピエロが僕を助ける動機が分からない。
 ピエロの次の行動を保証するものは何もないのだ。
 それが分かっているからシュガー姉妹は両手を振りかぶったまま、次の行動に移れないでいた。

710:雲流れる果てに…17 ◆lK4rtSVAfk
14/01/13 17:36:01.52 Uo0PtEtw
 膠着状態を破ったのは一発の銃声だった。
 同時に金属音がして、クノイチの手から棒手裏剣が弾き飛ばされる。
「何奴でゴザルッ」
 返事の代わりに銃声が続けざまに上がり、残る3本の棒手裏剣が宙を舞う。
「飛び道具とは卑怯でゴザル」
 シュガー姉妹が非難の声を上げる。
「いやぁ、手裏剣も立派な飛び道具だと思うぜ」
 もっともな正論を吐きながら薮を割って現れたのは─。

「ダブルオー」
 それは僕たちと同じくバトルロイヤルに参加した、元英国情報部員の肩書きを持つスパイ崩れだった。
 如何にも軽薄そうな男は、ワルターの銃口から立ち上る煙をフッと吹き飛ばして見せた。
「投げた後ならともかく、手にあるうちなら僕にでもどうにかなるからね」
 いやいや、大したものだ。
 50メートル離れたところから、鉛筆大の的を連続で撃ち抜くなんてのは人間業じゃない。

「やっぱりバカでゴザル」
「我らを撃てる唯一のチャンスでゴザったのに」
 シュガー姉妹が憎まれ口を叩く。
 いや、むしろダブルオーは、君たちに当たらないよう細心の注意を払ったと思うのだが。
 それを理解しているからか、シュガー姉妹も毒気を抜かれたようになった。
「こんなバカを相手にしている暇はないでゴザル」
「我らの優勢勝ちにゴザル」
 姉妹は自分勝手な判定を下すと、煙玉の炸裂に紛れて姿を消した。
 多分、バトルロイヤル優勝者を自認して、あの教会に向かうのだろう。
 マーサに対面してどんな結果になるか知らないが、僕は一応忠告しておいたから。

「遅くなって申し訳ない」
 いつの間にか近づいてきてきたダブルオーが、僕の手を取って甲にキスをする。
 こいつはいつだってこの調子なんだ。
「言っとくけど……」
「全て承知のことさ」
 ダブルオーがさわやかにウインクしてみせる。
「相手が他人からレディとして見られることを望んでいる限り、レディとして扱うのが僕の流儀なんでね」
 いや、僕はそんなことこれっぽっちも望んでいない。
 しかし、この格好でそんなこと言ってみても、まったくもって説得力ないなあ。
 まあ、レディとして扱われている限りは安全、と考えれば得しているのかもしれないが。

「えっと、クロー様……ですよね?」
 そんなタイミングで、いきなり本名を呼ばれたんで、僕はびびって飛び上がった。
 ピエロがニコニコ顔で僕を見ている。
 メイクと衣装のせいで素顔もボディラインも分からないが、声は若い女のものだ。
「ど、どうして……」
 僕の上擦った声が、自動的に相手の質問を肯定していた。
「あなたのことはコリーン様から……私、ティラーノ宗家の総本部に所属する親衛隊員なんです」
 ピエロは自分の身分を明かし、ジィナ・アノワールと名乗った。
「そんな扮装をしてらっしゃるからクロー様とは気付きませんでしたが、お連れ様に覚えがありましたので」

 ああ、シズカのことか。
 そういやシズカには変装させていなかったが、ちょっと迂闊だったかも。
 彼女は警視庁初のロボコップだし、そこそこ顔が売れてても不思議じゃない。
 ちょくちょく市街戦をやらかして、新聞ネタにもなってるし。

711:雲流れる果てに…17 ◆lK4rtSVAfk
14/01/13 17:36:57.04 Uo0PtEtw
「いえ、私はコリーン様から直接お聞きしていましたから。私はお嬢さまのボディーガードと侍女を兼任していますの」
 ならば、ティラーノ版のシズカってところか。
 あのクノイチ姉妹を一人であしらうくらいだから、戦闘サイボーグとしても一級品なんだろうな。
 もしかしてシズカみたいに超高性能アンドロイドなのかも。
 いや待てっ、侍女兼任ってことは、コリーン嬢のそばにあって、話し相手にもなるのか。
 改めて自分がミニスカ女学生になっていることを思い出す。

「お願いだから、コリーンには黙っててっ」
 僕は両手を合わせて拝みこんだ。
 ただでさえロリコン容疑が掛かってるんだから、これ以上嫌われるネタを与えたくない。
「い、言えるわけないでしょうがっ。こんなこと知ったら、コリーン様が悲しまれますっ」
 ジィナ嬢は白い目で僕を見て、厳しい口調で非難した。
「あぁ、嘆かわしい。これと見込んだ男友達が、実は女装癖の持ち主だったなんて……コリーン様が余りにも不憫です。
あなたに危害が及べば、お嬢さまがお嘆きになると思えばこそ助けたのですよっ。ああもうっ、止めておけばよかった」
 ジィナ嬢は好き勝手に僕を罵った。
 散々な言われようだけど、嘆きたいのはこっちだって。
 こんな情けない目にあったと知れば、あの嘘つき都知事もさぞかし大満足するだろう。

「助けてもらっておいてなんだけど、これってティラーノの計画に対する造反じゃないの?」
 僕は非力だが、一応は全力で都知事暗殺計画を阻止するために派遣されてるんだから。
 後でジィナ嬢が上役から怒られることになったら気まずくなる。
「計画って? ティラーノグループはそんな計画など立てていませんよ」
 ジィナ嬢は何を言ってるんだと訝しがった。
「首謀者のホルジオーネ一家って、ティラーノの戦闘部隊なんでしょ? 宗家が考えた計画を奴らが実行してるんじゃ?」
 そのくらいの知識は僕にだってある。

「いや、それは違うな」
 黙って成り行きを見守っていたダブルオーが割り込んできた。
「ホルジオーネは確かにティラーノ一族の傍流だけど、宗家から独立しているマフィア集団だからね」
 そういえば、コリーン嬢もそんなこと言ってたかも。
 既に両者は袂を分かち、何の友誼もないとか。
 今をときめく国際貴族がマフィアと同根なんてのは、確かに洒落にもならないだろう。
「今じゃ、むしろ敵対関係に近くなってるんじゃないかな。ねぇ、君」
 ダブルオーに尋ねられ、ジィナ嬢は頷いた。
 それを見て、僕は少しホッとした。
 今回の任務が元で、コリーン嬢と敵味方の関係になってしまうことを危惧していたのだ。
 どうやら、それは避けられたようだ。

「実は先だって、うちの情報部が白河都知事の暗殺計画を掴んだのです」
 そりゃ大々的に殺し屋を募集していたのだから、噂として情報も入ってくるだろう。
「その計画を主導しているのが、どうもホルジオーネらしいということで、現地調査のため私が派遣されたのです」
 バトルロイヤルの時、ジィナ嬢の姿が見えなかったのは、その任務があったからなのか。
 僕たちの戦闘を尻目に、彼女はあの教会に向かっていたのだ。

712:雲流れる果てに…17 ◆lK4rtSVAfk
14/01/13 17:40:09.20 Uo0PtEtw
「あなたがマーサから都知事暗殺を請け負うところをこの目で確認しました。彼女は“有罪”です」
 マーサの名を口にする時、ジィナ嬢の表情がはっきりと険しくなった。
「僕は当の都知事の命令で動いてるんだからね。本当に暗殺を引き受けたわけじゃない」
 こんなことで僕まで有罪にされたらたまったもんじゃない。
 つか、このピエロはあの時、教会のどこかに潜んで僕たちを監視していたのか。
 邪魔が入らなければ、ロボメイドとやってるところを見られているところだった。
 ああ、今回はどれだけ恥ずかしい目をすれば許してもらえるんだ。

「ともかく、我々としてはホルジオーネに都知事を殺させるわけにはいかないのです。直ぐに情報を送らないと」
 帝都の覇権を狙うティラーノにしても、白河都知事の圧倒的な支持率は無視できない。
 手早く帝都をものにするには、むしろ都知事の人気を利用した方がいいに決まってる。
 連中は彼女の地位はそのままにして、実権だけを奪ってしまおうという腹なのだ。
 だからホルジオーネがやろうとしていることは、ティラーノにとって許し難い敵対行為に他ならない。
 事実確認が済めば、直ぐにでも強烈な鉄槌を下してやろうと準備していたのだろう。
 これは、近くに機動歩兵の大部隊を待機させていると考えた方がいいかもしれない。

「けど、どんな法的根拠で? ここはお嬢さんの本国じゃないんだぜ」
 ダブルオーがいいことを言った。
 この島でティラーノの私設軍隊が武力行使をすれば、間違いなく国際法規違反になる。
 コリーン嬢が町中で二丁拳銃をぶっ放すのとは規模が違いすぎて、幾ら彼らでも誤魔化しようがない。
「それより、僕に協力してシズカを奪還する方が上策だよ。警視庁職員の僕に協力することで大義名分も立つし」
 僕はシズカを取り返せるし、ジィナ嬢は暗殺計画阻止の手柄を独り占めできる。
 双方にとって悪い話じゃないだろう。
 だが、予想に反してジィナ嬢は賛同してくれなかった。
 ただ、フッと唇の端を歪めただけであったのだ。
「クロー様。お嬢さまのためにも、死なないよう努力してくださいね」
 それだけ言うと、ジィナ嬢はくるりと踵を返した。

「連中にとっては、むしろこの国に兵力を持ち込む絶好の機会だってことじゃないのかな」
 ダブルオーは、去っていくジィナ嬢の背中に向けてそっと呟いた。
「天下御免のティラーノグループなんだし。人道上の理由とかなんとか理屈をこねて、自分たちを正当化してしまうよ」
 確かにそうだ。
 都知事の暗殺計画を未然に防ぎました、時間的余裕がなかったので自分たちが直接やりました、なんて言われれば─。
 都民から感謝されることはあっても、非難されることはないだろう。

「それを機に、帝都にある支局防衛のためとか理由をつけて、都内に兵力を常駐させるつもりなのかもしれないね」
 しかも、自作自演の爆破テロを行って、どんどん兵力を増強させるつもりだとすれば。
 そんなことを許せば、都知事や議会の発言権は低下し、帝都はティラーノグループに乗っ取られてしまう。

 相手の狙いが分かった以上、好きにさせとくわけにはいかない。
 なんとかジィナ嬢が仲間を連れて戻ってくる前にシズカを取り戻し、黒幕たちを逮捕するのだ。
 もはや援軍を待っている時間はない。
 今から応援要請しても、ティラーノの私設軍隊が先に上陸してしまう。

 果たして、僕はこの未曾有の危機をどうやって乗り越えればいいのか。      

713:名無しさん@ピンキー
14/01/13 17:44:07.68 Uo0PtEtw
投下終了
構想は最終回まで出来ているのですが、休みが全く取れなくて書く暇がありませんでした
ようやく正月休みを貰えたので、どうにか続きを書けました
またよろしくお願いします

714:名無しさん@ピンキー
14/01/13 20:29:41.92 jE+PYHGY
キテタ━━(゚∀゚)━━!!!!

毎度乙です

715:名無しさん@ピンキー
14/01/13 22:16:37.39 lDDkj0Di
毎度ながら乙です。
ところで登場人物には全部元ネタというかモデルがあるんでしょうか?
古典とか詳しくないので弁慶や静御前くらいしか分かりません。

716:名無しさん@ピンキー
14/01/13 23:25:55.43 9LgB3/ye
乙ざんす
今回も面白い…けどスレ的にはシズカの復活が待たれます

717:名無しさん@ピンキー
14/01/13 23:39:45.08 alfCzeWd
シズカのエッチなシーンを期待してたのに残念すぎる!!


続き楽しみ

718:名無しさん@ピンキー
14/01/14 00:25:29.35 ls879JYv
乙ですッ!
タメが長いほどカタルシスも増すってもんよ皆さん、お待ちしてます!

719:名無しさん@ピンキー
14/01/14 02:57:57.10 ydkdZpB2
ピエロさん(ジィナ嬢)、かっこい~♪
シズカさんが他人(マーサ夫)に使われなくてよかった
あとは、がんばってプロスタグランジンをたっぷり注入して大活躍ですね♪

720:名無しさん@ピンキー
14/01/26 06:50:26.65 OGJlAOgZ
ファービー処刑リンクタグを見ながらファービーをロボ娘だと脳内変換すれば萌える

721:名無しさん@ピンキー
14/01/30 23:10:59.17 sov7bI1N
スマートフォンやPCの不具合にもときめくようになってしまった

このスレでもメカバレ不足が深刻な問題となっている

722:名無しさん@ピンキー
14/01/31 00:28:28.27 OwakCDVk
マジで飢えてんなww

723:名無しさん@ピンキー
14/01/31 01:17:16.42 zQNZbe6o
>>724
先日愛車のカーナビがバグって
「300m先右方向です」
「300m先右方向です」
「300m先(ry」と繰り返していた。
その時の俺の興奮を、お前にも分けてやりたい。残念だ。

724:名無しさん@ピンキー
14/04/13 11:08:29.95 WLUyUUPw
保守

725:名無しさん@ピンキー
14/04/13 20:51:05.61 kRs45Fet
俺のは高速を走ってるといきなり側道に降りてICに乗り直す道を探してくれる
その仕事は早いんだがなあ

726:名無しさん@ピンキー
14/04/14 08:19:56.46 yZcpqghP
こんなかんじ?
JR北海道の車内放送が狂った!?: URLリンク(youtu.be)

727:名無しさん@ピンキー
14/04/14 09:22:17.74 ew/luE2i
>>729
すごくいい!
女性だったらもっと良かったけど

728:名無しさん@ピンキー
14/04/22 21:16:42.52 9t1YT/tw
キューティーハニーもこのスレいいか?
wikiを見て女性型半生体アンドロイドと知ったんだが

729:名無しさん@ピンキー
14/04/23 13:06:47.19 pVPGd7DW
あの頃の永井豪って『何処までが人間か?』って部分を楽しんでたよなw

730:Ms. 忍法帖【Lv=2,xxxP】(2+0:8) さん@ピンキー
14/04/26 15:33:08.99 D/DAq/cT
この子はどうですか?
http:/
/togetter.com/li/607736

731:名無しさん@ピンキー
14/04/29 15:21:34.60 s6QqhGsU
最初のキューティーハニー最終回、内部透視図は完全にメカだったんだぜ。

732:名無しさん@ピンキー
14/04/29 17:04:26.87 +O6f5dMB
新キューティーハニーとハニーTheLiveも
完全機械式だよ
あと基本、豪ちゃんとケンイシカワが描くハニーも少なくとも中身は機械
逆に生身確定はFとRe:

733:名無しさん@ピンキー
14/04/29 23:15:20.90 PvwYZu2h
女性型アンドロイド(?)が自分自身をAIじゃないか?
と疑って掛かるのは様式美だからなぁ
ちょっと自暴自棄気味なのがまた良いんだよな

734:名無しさん@ピンキー
14/04/30 11:15:26.69 0MKXuu+/
最終兵器彼女 の ちせ
はどの扱い?

ガンスリンガーガール
はどの辺り?

人間に機械を入れてますが?
ちせの場合、多分、機械が肉体を、内側から削って機械に置き換えていっているみたいでしたけど?テレビアニメでは

735:名無しさん@ピンキー
14/04/30 13:44:37.46 pS6eiCRT
アンドロイドとサイボーグの区別くらいつけような

736:名無しさん@ピンキー
14/04/30 14:07:57.20 5GJI/zeq
>>737
その辺りは本人の意思と関係なく改造された系統の女版でしかないでしょ
本家は仮面ライダーだったりハカイダーだったりして国産の始祖はエイトマン辺りか?

いずれにせよ、強制改造はちょっと違う

737:名無しさん@ピンキー
14/04/30 23:59:37.66 FdVeOID4
アニメの生体アンドロイドのはしりは妖怪人間ベムか
薬品を混ぜてベラそっくりのホムンクルスを作るエピソードがあったな
オリジナルの妖怪人間もああやって作られたのかも

738:名無しさん@ピンキー
14/05/01 01:53:06.62 5Pis/wcQ
えーと
安藤まほろ や 流河 濤 はこのスレ対象だけど
安藤ななみ や 安藤みなわ は対象外
って事ですか?

739:名無しさん@ピンキー
14/05/18 19:15:46.74 fdR6GpMF
性格はどんなのが受ける?
文字通り論理的で疲れ知らずで的確なのかむしろプログラムのせいで逆に芝居がかってるようなタイプか

740:名無しさん@ピンキー
14/05/19 00:16:18.17 psSRNx88
その二択だと後者だな

個性的に見せながらも三原則でガッチガチに縛られてたり管理者権限で突然機能停止したりすると尚良し

741:名無しさん@ピンキー
14/05/19 15:11:05.51 J3b/EFph
境ホラの自動人形 「浅草さん」を題材にしたSS
完全な機械人形なんでサイボーグSSスレではなくこちらに投稿。
アンドロイド&サイボーグスレでネタで書いた奴を
テキトーに加筆したやつなんで酷い文章ですがご容赦くださいましー
原作知らない人はチンプンカンプンかも。

忍者レベル足りて無いのでPDFで貼っておきます。
URLリンク(ux.getuploader.com)

742:名無しさん@ピンキー
14/05/20 07:29:09.47 FvRvVuIz
PDFの表示がおかしかったので修正
URLリンク(ux.getuploader.com)

743:名無しさん@ピンキー
14/05/21 02:31:14.70 2Qz9mDW1
なかなか良かったでござるよ

744:名無しさん@ピンキー
14/05/21 19:31:53.82 EbZRPhGE
>>746
ありがとう
忍者もげろ

745:名無しさん@ピンキー
14/05/26 00:03:51.74 rXJOGTkB
久々に投下します

746:雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk
14/05/26 00:05:22.15 rXJOGTkB
 教会を見下ろす丘の上で、僕は腹這いになって偵察をしていた。
 僕を取り逃がしたのにも関わらず、ホルジオーネ側に動きはないようだ。
 普通なら歩哨を立てたりして、少しは警戒するだろうに。
 僕一人くらい、取るに足りない存在だと思われてるってことか。
 当たっているだけに腹は立たないが、男として少し複雑な気分にもなる。
「相手の姿が見えないからって、監視を怠ってると決めて掛からない方がいいな」
 同じく腹這いになったダブルオーが、自然な動きで僕の肩を抱いてきた。
 その手の甲をピシャリと平手打ちしてやる。
 くっ、今の動きはちょっと女の子っぽくなってしまったかも。
「ごめん、ごめん。つい、いつもの癖で」
 ダブルオーは嬉しそうにニヤニヤ笑いながら、はたかれた手の甲をさする。
 僕はムッとした顔でスパイ崩れを睨み、距離を取るため肘と膝を使って横移動する。

「で、どうして僕を助けてくれるの?」
 僕を助けることで、ダブルオーに何のメリットがあるのか。
 彼は国際手配されている殺し屋で、僕は官憲側の人間である。
 本来なら、僕は彼に助けてもらうどころか、とっくに消されてても不思議ではない。
 まさか本当に僕の体が目的じゃないだろうな。
 そりゃ、絶体絶命のピンチを助けてもらった時、ちょっとだけ胸がキュンとしたのは事実だけど。
 だからと言って、抱かれてもいいなんて思ったわけじゃない。
 ああ、こんなナリをしているのが全ての元凶だ。
 早くケリをつけて男の格好に戻らないと、このままじゃ本当におかしくなってしまう。

「言っとくけど、『君みたいなレディが困っているのを……』なんてのは要らないから」
 できるだけ冷たく、かつツンデレっぽくならないように努力する。
「うん、それもあるんだけど。このままだと帰りの足がないからねぇ。雇用主はあてにできなくなったようだし」
 確かに、マーサのところに出向いて、「用がないなら帰る。家まで送ってくれ」と言ったところで無駄だろう。
 バトルロイヤルを制し、契約寸前までいってた僕とシズカでさえ、理由もなく殺されかけたんだ。
 予選敗退した連中なんかは、問答無用で口封じされるに決まってる。
「生きて帰るには君のメイドを取り返し、島にいる敵を一掃しなくちゃ。あの娘の戦闘力、なかなか強烈だからなあ」
 性格はもっと強烈だけどね。

 ところでホルジオーネは、どの程度の戦力を島内に備蓄しているのか。
 この島が帝都を占領するための秘密基地だとすると、相当の戦力を隠していると考えられる。
「とにかく戦力を大幅にアップさせないと、この島に永住することになっちゃうぜ。まあ……」
「『君となら、それも悪くないかも』とかのお上手は、聞く耳もたないから」
 機先を制してやると、ダブルオーはやれやれという風に首を振って見せた。
「さて、そろそろ行くか。あのピエロちゃんに戻ってこられたらまずいんだろ」
 確かに、彼の言うとおりなのだ。
 このまま無駄に時間を費やせば、ジィナ嬢がティラーノの私設軍隊を率いて攻め込んでくる。
 そして、連中にホルジオーネ討伐の手柄を立てさせれば、帝都にティラーノの軍勢を常駐させる口実を与えてしまう。
 それを回避するためにも、どうしてもシズカに再起動してもらわねばならない。

「じゃあ、僕が正面から陽動を仕掛けるから、クーちゃんは搦め手から侵入して、メイドを奪い返してくれ」
 ダブルオーはタキシードの内ポケットから、銀色に輝くシガーケースを取り出した。
 蓋を開くと、時限信管と強烈な威力を秘めた爆薬がぎっしりと詰まっていた。
「こいつで大騒ぎを起こすから、その間にメイドの方を頼むよ」
 スパイ崩れはさわやかに笑うと、身を屈めた姿勢で丘を降りていった。
 どんな魂胆があるのか本音は分からないけど、助けてくれるってのなら利用させてもらおう。
 借りるとなれば、猫の手よりは遥かに頼りになるのは確かだし。

747:雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk
14/05/26 00:05:59.71 rXJOGTkB
 僕はダブルオーとは逆方向に丘を駆け下りた。
 教会の裏手へ迂回して、侵入口を見つけるのだ。
 途中から鬱蒼とした茂みをかき分けて先へ進む。
 教会の裏手はほとんど手入れが行き届いておらず、原生林並みに草木が茂っている。
 周囲からの目隠しにはなるが、進行速度は極端に遅くなった。
 足元が全く見えないので、ブービートラップでも仕掛けられてたら一巻の終わりだ。
 おそるおそる進むものだから、歩みは更に遅くなる。

 小枝とかに引っ掻き傷をつけられながら前進していると、ようやく教会の勝手口に辿り着いた。
 頑丈そうなオーク材のドアは、体当たりしようものならこっちがぶっ壊れそうだ。
 鍵が掛かっていたなら、そこでゲームセットになってしまう。
 そっとドアノブを回してみると、幸いなことに施錠はされていなかった。
 直ぐにでも忍び込みたいが、ここはダブルオーの支援を待つのが得策だ。

 待つことしばし、もの凄い轟音と共に地響きが伝わってきた。
 ダブルオーの陽動作戦が開始されたのだ。
 地響きが静まると、今度は腹に響くマシンガンの銃声が聞こえてきた。
 続いて、聞き覚えのあるワルターの甲高い銃声が交錯する。
 どうしたものかと躊躇していると、やがて銃声がボリュームダウンしてきた。
 射手たちが遠くへ移動を開始したのだ。
 僕が潜入しやすくなるよう、ダブルオーは敵を教会から引き離してくれている。
 今がチャンスとばかり、僕は教会内部へと突入した。

 食器や調理器具が散乱する厨房を駆け抜け、照明の落ちた廊下を突っ切る。
 再奥のドアを開けると、見覚えのある階段が目に入った。
 ここは礼拝堂の裏に当たる。
 僕はマーサとシズカが戦ったホールへと戻ってきたのだ。
 さて、シズカはどこに囚われているのか。
 マーサたちが戻ってくるまでに探し出し、蛋白燃料を注入してあげなければ。

 まずは2階からガサを掛けることにして、ギシギシ鳴る階段を駆け上がる。
 突き当たりにある客室のドアを開けるが、そこには誰もいなかった。
 それは想定内のことであり、ここへ来たのはシズカのメイド服を回収するのが目的だ。
 これを着用させれば、彼女の防御力は格段に向上する。
 たとえ戦車砲の直撃を喰らっても、へっちゃらなんだから。
 ちょっと着てみたい誘惑に駆られるが、僕の体では着弾の衝撃までは受けきれないから無意味だろう。
 仕方なく、メイド服を手にしたまま、廊下に面したドアを次々に開けていく。
 だが、全ての部屋を回っても、シズカの姿はなかった。

 もしかして屋根の十字架に磔にされているのではと窓から身を乗り出すが、残念ながらそんな嬉しい光景は見られなかった。
 やはり一階なのかと思って隈なく確かめるが、厨房とホールの他はフロアの全てが礼拝堂になっている。
 となると、どこかに地下へと続く通路があるはずだ。
 焦りながら隠し扉を捜していると、天井からいきなり声が降ってきた。

『ウォーニング……ウォーニング……』
 飛び上がるほど驚いたが、それはスピーカーから流れ出た合成音声だった。
 嫌がらせのようなタイミングに憤ってみたが、本当に驚くのはここからだった。
『処理モードへ移行。地下処理施設は10分後に作動します……作業員は速やかに退去してください……』
 抑揚のない警告音声が、僕を死ぬほど驚かせた。
 続いて足元から微かな振動が伝わってくる。
 地下施設があるという僕の予測は的中したのだが、それを喜んでいる場合ではない。
 奴らは地下の処理施設で何かを処分しようとしている。
 どう考えても嫌な予感しかしない。

748:雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk
14/05/26 00:06:57.89 rXJOGTkB
 鳴り続けている警告ブザーが耳障りで、危機感は嫌でも盛り上がる。
「ちくしょう、どこだっ。どこかに地下への入り口があるはずだ」
 頭をフル回転させて考えてみるが、僕の頭に詰まっているのはコミックとかサブカルとかのくだらない知識だけだ。
 その中から教会に関する知識、しかもシリアスな傾向に絞って思考を巡らせる。
 すると今まで見えなかったものが見えてきた。
 こういうときに怪しいのは懺悔室だ。
 外部から隔絶された密室性は、秘密を隠匿するにはもってこいなのだ。

 僕は懺悔室のドアを蹴り開け、中へと飛び込んだ。
 怪しげなカーテンを剥ぎ取ると、そこに通信機が隠されていた。
 マーサはこれを通じてスポンサーたちと話をしていたのだ。
 こうなったら誰でもいいから、助けてくれる人にすがるしかない。
 助力を得られるのなら、先っぽくらいは入れさせてあげても─よくないっ。
「誰かっ、誰か聞こえますかっ?」
 僕は無線機のスイッチを入れ、取り敢えず誰でもいいから助けを呼ぶことにした。
 すると、当たり前だがホルジオーネ側に傍受されてしまった。
 連中の使ってる周波数に固定したままだったのだから、これは当然の失態だわ。

『あら、あなたなの?』
 モニターに写ったのは、醒めた目をしたマーサの顔だった。
『そんなところにいたのね。別に捜してたわけじゃないけど』
 やっぱり、僕なんかヤブ蚊ほどにも危険視されてなかったんだ。
 分かってたけど傷つくなあ。
『この島に向かってくる飛行物体をレーダーが捉えたの。そちらの対応が優先事項だから』
 それはジィナ嬢が率いる、ティラーノの空挺部隊に違いない。
 マーサは僕よりも、そちらを危険と判断したのだ。
 教会がこうも見事に無人なのは、ダブルオーの陽動のお陰だけじゃなかったんだ。

「シズカはどこだ。彼女を返せっ」
 僕はビビりそうになるのを必死でこらえ、モニターの中のマーサを睨み付けた。
『残念だけど、あなたのお友達は処分させてもらうわ』
 じゃあねと無線を切ろうとするマーサに必死で食い下がる。
「どうしてそんなことを。シズカが何をしたっての? こっちはアンタに望まれてやって来たんじゃないか」
 都知事を暗殺する殺し屋を募集しておいて、応募したら処刑するなんてのは納得できない。
 辻褄の合う理由を聞かないことには、報告書も書けないじゃないか。
『都知事を殺せと言われ、軽々しく請け負うような手合いは危険なの。そういう危険因子は排除しておくに限るわ』
 そりゃ確かにおっしゃるとおりなんだけど、それは僕みたいな官憲側の台詞だろ。
 都知事を殺せって、軽々しく命じるような危険人物には使ってもらいたくない。

『どうでもいいわ、そろそろ処理施設が稼働するころだから。煮えたぎる超酸のプールに浸かればウーシュだってお終いよ』
 なんだって。
『あなたもこれで目が覚めるでしょうから、普通の女の子として生きることね。素敵な恋をしなさい』
「おいっ、ちょっと待てぃ」
 いろいろ突っ込みを入れようとした途端、モニターは途切れてしまった。
 同時に鳴り続けている警告ブザーがオクターブを上げ、僕の焦燥感を煽り立てる。

 強烈な酸に漬け込まれたら、さすがにシズカも無事では済まない。
 生体表皮はアッと言う間に溶け落ち、剥き出しになった装甲とて耐え切れまい。
 シズカは溶けて、この世から完全に消滅してしまうのだ。
 ダメだ、画を想像するだけでトラウマになりそうだ。
 一刻の猶予もなくなったので、手当たり次第にその辺のスイッチを押しまくる。
 すると、どれが当たりだったのか分からないが、大きなオルガンがスライドを始めた。
 ぽっかり空いた空洞に飛び込むと、地下へと続く階段があった。
「シズカ、待ってろよ」

749:雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk
14/05/26 00:07:43.35 rXJOGTkB
 転げるように駆け下りると、そこはディスポーザーの制御室になっていた。
 メーカーの開発部なんかが使っている、大型廃棄物を処理する施設だ。
 新製品の機密を産業スパイから守るため、試作品とかを処分するのに用いられている。
 おそらく、この床の下に処理プールがあるのだろう。
 そこに廃棄物を収容し、高温のフッ酸を満たして撹拌するのだ。
 メーカーの処理施設は、大型のエアカーすら数十分で跡形もなく消し去ることができるという。
 シズカ程度の大きさなら、アッと言う間に溶けきってしまうだろう。
 とにかく、急いで酸の注入を止めなければならない。

 制御板を出鱈目に押してみるが、2度目のラッキーはなかった。
 産業スパイ対策で、一度スタートすると強制終了できない仕様になっているのかもしれない。
「そうだ、フッ酸の注入用パイプを……」
 タンクから通じているパイプのバルブを閉めれば、手動で止められるかもしれない。
 そこらのパネルとか、開きそうなところは片っ端から開けてみる。
 だが、それっぽいバルブやスイッチは見つからない。
 続いて床を這いずり回り、継ぎ目らしいものを捜す。
 すると、埋め込み式の取っ手が見つかった。
「これだっ」
 ボタンを押すと取っ手がせり上がり、それを握って力一杯持ち上げる。
 僕がそこに見たものは─

「シズカァーっ」
 僕の眼下、5メートルほど下の床に、貞操帯のみを身につけたシズカが横たわっていた。
 直ぐに飛び降りようとしたが、無情にも3本の鉄格子が邪魔して抜けられない。
 太さ3センチはあろうかという鉄格子は、腐食防止のテフロン加工が施されている。
 もちろん僕の力ではどうにもならない。
「シズカっ、起きろっ」
 僕の呼びかけにも、シズカは反応を示さない。
 硬直してピクリとも動かないその姿は、輪姦の挙げ句に惨殺された死体を思い起こさせた。
 お尻にねじ込まれたコードが、傍らに置かれたコンデンサに繋がっている。
 アレのせいで、シズカは活動に必要なエネルギーを蓄えることができないのだ。

「頼むっ、シズカ。頼むから目を醒ましてくれっ。もう時間がないんだっ」
 僕にできることは必死で呼び掛けることだけだ。
 鉄格子を握り締め、力一杯揺すってみる。
 この時ほど、自分の非力を恨めしく思ったことはない。
 警告ブザーのトーンが今一度変わり、絶望感がのし掛かってくる。
 同時にツンとした臭いが、鼻孔の奥を刺激し始めた。
 プールの四隅に開けられた注入口から、フッ化水素酸の溶液が噴き出してきたのだ。
 このままではシズカが溶けてしまう。

 幾度となく僕の窮地を救ってくれた命の恩人。
 押し付けられた無理難題を、一緒になって遂行する、頼りになる相棒。
 そして、肉親がいない僕にとって、この世でたった1人の家族。
 そんな大事な存在が、目の前で消え去ろうとしている。
 手を伸ばせば届きそうなところにいるのに。

 フッ化水素が眼球の水分と結合し、僕の目を灼く。
 涙が溢れかえり、前が見えなくなった。
 自分が非力なため、掛け替えのないパートナーを失ってしまうのだ。
 鉄格子を握り締め、今一度渾身の力を込めた。
「こんなの嫌だぁーっ」
 僕が絶叫した時だった、奇跡が起きたのは。

750:雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk
14/05/26 00:09:11.20 rXJOGTkB
 たった今までビクともしなかった鉄格子が、熱せられた飴細工のようにひん曲がった。
「…………?」
 僕は自分の両手を目の前にかざして凝視した。
 自分の起こした奇跡が信じられず、僕はしばし思考停止した。
 嘘みたいなできごとであるが、これは紛れもない現実だ。
「そうだ……シズカっ」
 火事場の馬鹿力でも、夢でも嘘でも構わない。
 たとえ何かの罠であっても関係ない。
 僕はねじ曲がった鉄格子の隙間から、処理プールへ向かって身を躍らせた。

 5メートルの落差があったのにも関わらず、足首と膝の関節が上手く機能してほとんどショックを感じない。
 シズカに駆け寄り、貞操帯の鎖を引きちぎる。
 そして、電気エネルギーを横領しているコードをアヌスから引き抜いてやる。
 ボディを抱き上げると、間一髪でフッ酸の溶液がテフロン製の床を舐め埋め尽くした。
 僕が履いているシンセレザーのローファーがブスブスと煙を上げる。
 この靴ではそう長いこと保たないようだ。

「ふぅ……」
 深い溜息をついて首を振ったら、嫌なものが視界に入ってきた。
 壁に埋め込み式の檻があり、中に双子のチャイニーズニンジャが囚われていたのだ。
 だから言わんこっちゃない。
 彼女たちはマーサの触手に敗北し、シズカと一緒に処分されることになったのだろう。
 姉妹は無言のまま、恐れと憎しみと、そして期待の籠もった目で僕を凝視している。
 助けを乞わないところを見ると、自分たちが僕に何をしたのかくらいは覚えているようだ。
 こんな連中を助ける謂われはないし、助けてもまた襲ってくるおそれがある。
 けど─やっぱり、女の子がこんな残酷な方法で殺されるのを黙って見逃すわけにはいかない。

 気が付くと、僕はコンパネをぶん殴り、分厚い水密扉ごと中にある開閉ボタンを押していた。
 鉄格子がせり上がったが、シュガー姉妹は信じられないものを見たように硬直していた。
 驚いたのはハンマーパンチにか、お人好しな行為の方にか。
 それとも両方になのか。
「来いっ」
 僕が身を屈めて急かしてやると、シュガー姉妹はようやく我に返った。
 2人は檻から飛び出すと、僕の肩をジャンプ台にして天井の穴から脱出する。
 さすがはクノイチ、鮮やかな身のこなしだった。

 僕はシズカを背中に担ぎ直すと、膝を畳んで天井を睨み付ける。
 何故だか知らないが、今の僕ならあそこまで飛べると確信していた。
 理屈じゃない、体そのものがそう語っていた。
「タッ」
 掛け声とともに膝のバネを開放した次の瞬間、僕はシズカを背負ったまま制御室に飛び込んでいた。

 薄情にもシュガー姉妹の姿は既に消えていた。
 否、最大のチャンスにも関わらず、襲ってこなかっただけでもよしとするか。
「よし。シズカ、逃げるぞ」
 僕はシズカを横抱きにしたまま階段を駆け上がった。
 一階へと戻った僕は礼拝堂から厨房へ抜け、そのまま教会裏の茂みへと飛び込んだ。
 茂みを突っ切り、ダブルオーと別れた丘の上まで一気に走る。
 ここまで来れば取り敢えず安心だろう。

 何とか助かったらしい。
 ホッと溜息を漏らした途端、急にシズカが重くなってきた。
 これは、こなきじじいにおぶさられた気分だ。
 いや、シズカが重くなったんじゃなく、僕の力がなくなってきたのだ。
 たまらず、その場につんのめってしまう。
「なんて重いんだ、君は」
 大の字になってハァハァ言ってると、ジワジワと笑いが込み上げてきた。
 安堵感と達成感が混じり合い、僕の感情は笑いの形を取るしかなかったのだろう。
 他に選択肢があるものか。

751:雲流れる果てに…18 ◆lK4rtSVAfk
14/05/26 00:12:04.84 rXJOGTkB
 しばらくゲラゲラ笑っていると、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
 さあ、そろそろお待ちかね、蛋白燃料の補給シークェンスに移行するか。
 ジィナ嬢が率いる空挺部隊が到着する前に、ホルジオーネの兵力を壊滅させておかないと。
 ティラーノに帝都防衛の手柄を与えてなるものか。
「シズカ、するぞ」
 シズカはまだ起動していないが、蛋白燃料を先行補給することにより再起動と同時にフルパワーを発揮することができる。
 紳士としては不当な振る舞いになるが、今は不必要な感情移入をしている場合ではない。
 ただ彼女の中に放出すればいいという、準強姦に相当する睡姦プレイになるのも仕方がない。

 僕はスカートの裾をたくし上げ、パンティをずり下げて男の証を露出させた。
 次いでシズカの両足首を持ち、左右に大きく広げさせる。
 無抵抗の関節がグニャリとした感触を伝えてくる。
 うわ、検死で遺体を取り扱ってる時の気分だわ。
 シズカがピクリとも反応してくれないのもよくない。

「た……勃起たない……?」
 こんな肝心なときに、補給ホースが言うことを聞いてくれない。
 まさか女装が過ぎて、ナニが役に立たなくなったんじゃないだろうな。
「冗談じゃない」
 必死で扱いてみるが、分身はウンともスンとも反応しない。
 シズカの股間に顔を寄せ、蛋白燃料の補給口をVの字にした指で割ってみる。
 まじまじとガン見してやるが、如何にも作り物じみた感じがして余計に萎えてきた。
 ウーシュタイプのそこは、グロさを軽減するためディフォルメを施されている。
 そんなファンタジー設計が、今は仇になっている。

 くっ、こうなったらとにかく突っ込んで、無理やりにでも発射するしかない。
「シズカ、ゴメンな」
 僕はシズカの股の間に割り込み、萎えたホースを注入口にあてがう。
 そして柳腰に手を回し、強引に貫こうと抱きしめる。
 ダメだ、血の通っていないヤワなモノじゃどうにもならない。
「おいっ、シズカ。いい加減で起きてくれ」
 僕は必死で呼び掛けてみるが、シズカは薄目を開けたまま無表情で硬直している。
 こりゃ、いよいよ変死体だ。

「くそっ、これは死体なんかじゃない、ただのダッチワイフと思えばいいんだ」
 自分に言い聞かせようとした途端、僕は気付いてしまった。
 あまりにもシズカを人間として見てきたせいで、彼女を物として扱うことに心理的な抵抗を感じているのだ。
 彼女に対してダッチワイフじみた行為をすることに、自然にストップが掛けられているのだ。
 なんてデリケートにできてるんだ、僕のハートは。

 頭を抱えて自己嫌悪する僕を我に返らせたのは、いきなり轟いた爆発音だった。
 僕はパンティをはき直し、身を屈めたまま丘の頂へと這い寄る。
 慎重に向こう側を見下ろすと、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
 無骨な二足歩行型の自動歩兵が20体、整然と隊列をなして行進している。
 見たことのない機種だが、あれはホルジオーネのオリジナルマシンなのだろうか。
 体高は5メートルほどで、右手にガトリングガン、左手にミニカノン砲を装備している。
 先程の爆発音は、あのカノン砲の炸裂音だったようだ。
 今まさに先頭の1体が、左腕を振りかざして砲撃態勢に入っている。
 その砲身の先には、必死で逃げていくダブルオーの後ろ姿があった。


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