12/09/18 09:52:08.73 0mRvrSQ3
「ねえ、お父さんまだ帰って来ないの?」
「・・・さあ。今夜もお仕事の話で遅うなるんでしょ。あんたはさっさと寝なはい。」
ある夜。茂は父の修平の帰りを待っていた。手には毎晩夜遅くまで勉強のべの字も
せず没頭して仕上げた、何十ページにも渡る絵物語が握られている。
「でも、約束したんだよ!絵を見てくれるって。」
「早こと寝んとまた明日寝坊しますよ!それよりあんた、宿題はやったの?」
しまった、母は虫の居所がわるかったらしい。イカルの名のとおりよく怒る母の
こめかみに青筋が立ち始めたのを見て、茂は早々に部屋に引き上げた。
「ちぇっ・・・最近イカルの奴、いっつも機嫌がわるうてかなわん。」
茂は子供部屋に戻って机の上に大作を放り投げた。兄の雄一が何事かと問いかける。
「・・・不景気な面して、どげした?」
「イトツまだ帰って来んのかって、イカルに聞いたら怒られた・・・。」
雄一は布団の上に寝転んだままおかしそうに笑った。
「ははは・・・よりによって一番聞いたらいけんことを聞いたな。」
「イカルは、イトツが大阪から帰って来るとたいてい機嫌がようなるのになあ・・・。」
「帰って来たってちっとも家におらんのだけん、イカルが怒るのも無理ないが。」
「どこで何しとるんだ?・・・イトツは。」
「ふふん・・・まあ子供にはわからんよ。」
「オラァもう子供じゃねえぞ!仲間やちからも将来はガキ大将に推されとる。」
「お前のそういうところが子供だというんだ。・・・まあええ、宿題はやったのか?」
「う・・・。」
雄一も母と同じことを言う。同じようにコロコロと育っても、雄一はさすがに長男だけ
あってやるべきことはやっている。茂と違って遅刻もなく、教師の覚えもめでたくて
旧制中学校への進学を勧められていた。
「お前もなー・・・せめて中学くらいは出とかんと上の学校に行けんぞ。」
「わかっちょーわ!」