12/07/20 10:31:23.09 OPV73ULy
赤貧洗うがごとしとはこのことか、と言いたくなるような暮らしの中で、たぶん
生来のものと思われる清潔感と無自覚なユーモアを失っていないフミエ。茂のような
変わった男に寄り添い、身も心も捧げきっている様子は、自分のような部外者にも見て取れた。
(たぶんあのひとは、自分を平凡な女だと思っているだろうが、そうじゃない。)
そもそも夫の茂が非凡な人間なのだが、ひたすら彼を信じ、尽くしているらしいフミエも
また、なんとなく浮世ばなれがしていて、あまりどこにでもいる主婦とは言い切れない。
そんな二人がひっそりと暮らす家を初めて訪ねた時から、豊川はまさに茂の描く不思議な
短編に出てくる、この世ならぬ空間に存在する家に足を踏み入れたような錯覚にとらわれ、
つよく惹きつけられずにはいられなかった。
かの夫婦について、あれこれ考察しているうちに、いつもは駅からずいぶん遠いと
思っている村井家に着いてしまっていた。
「はぁい。・・・あ・・・豊川さん。」
玄関で声をかけると、出てきたのはフミエだった。昨日の今日なので、豊川の顔を見ると
少し顔を赤らめたが、何事もなかったように中へ招きいれ、茂を呼びに行った。その後ろ姿の、
細すぎる腰からすらりとした脚に向かう曲線が、昨日腕に抱いた身体の感触を思い出させる。
(な・・・俺は何を思い出してるんだ・・・。)
豊川は独り者だが、それは思う存分仕事をしたいからであり、別に女に不自由している
わけでも飢えているわけでもない。自分より年上の人妻に、なぜこうも劣情を
かきたてられるのか、自分にもわからなかった。
(この様子だと、特に波風もたたなかったかな・・・。)
フミエはいつものように明るい声で仕事部屋にいる茂を呼び、茶を淹れてすすめた。
夫婦の間に介在する空気はいつもどおり飄々として明るく、豊川はなんとなく拍子抜けした。
「や・・・先生。たびたびお邪魔してすみません。実は昨日、社に戻ってから先生の漫画に
参考になるのではないかと思われる資料を手に入れまして・・・。」
茂と目を合わせる時こそ、ひるんではいけない・・・。今日ここに向かう間中考えていた
とおり、豊川はなんら後ろめたいところのなさそうな涼しい顔で茂に対峙した。
268:遠雷 12
12/07/20 10:32:33.94 OPV73ULy
「ほぉ・・・これはどうも・・・わざわざ。」
「それでですね・・・先生が迷っておられた序盤の部分、少し変えられるのではないかと・・・。」
「ふぅむ・・・。これはええ。これで解決できますな。」
最初、何の用だと言わんばかりだった茂が、豊川の適確な提案にたちまち惹きつけられた。
あとはもう、漫画家と編集者に戻って、仕事の話に没頭した。
「それでは、また締め切りの日にうかがいます。長居してすみませんでした、奥さん。」
「少し暗くなってきましたねえ。降らんとええんですけど。」
玄関先まで送ってくれたフミエが、空を見上げて心配そうな顔をした。
「大丈夫です。折りたたみ傘がありますから・・・。おや?」
かばんをポンと叩いて傘の所在を知らせた豊川が、ふと耳をすませた。
「・・・遠くで雷が鳴ってますね。・・・家に入られていた方がいい。」
「え・・・ぁ。」
豊川の言わんとすることを覚って、フミエが真っ赤になった。激しい夕立が叩きつけ、
雷鳴がとどろいたあの時、ほんの一瞬身体を寄せ合った・・・。あの記憶は、ふたり
だけのもの・・・少しぐらいは、フミエにも覚えておいてほしかった。
「それでは、失礼します。」
想いを断ち切るように、豊川は一礼して向きを変え、帰路についた。ついさっき、彼は
気づいてしまった。ブラウスのフレンチスリーブの袖から垣間見えるフミエの二の腕の
内側に、つけられたばかりの鮮やかな紅い花・・・。
(手ひどく奪い返されたな・・・。)
あの後、いつかは知らないがふたりは愛し合い、茂はフミエの肌に所有のしるしを
残したのだろう。フミエの様子が暗くないことから、その交わりが彼女にとって辛いもの
ではなかったことがわかる。
(まあいいか・・・あのひとが幸せなら。)
またこの家を訪れるのが辛いようなたのしみのような・・・自分でもよくわからない感情を
抱えながら、豊川は足早に駅へと向かった。
269:名無しさん@ピンキー
12/07/20 18:57:08.27 EI90Fbr1
>>257
豊×フミ×ゲゲktkr!
GJです!
皆の萌え語りを素晴らしいSSにしてくれる職人様、大好きです!!
270:名無しさん@ピンキー
12/07/20 19:02:21.26 omZW1sv8
おお!凄いわ、GJ!
271:名無しさん@ピンキー
12/07/20 20:24:41.05 VbLOJqTP
豊川イイネー
それ以上にドSゲゲイイネイイネー!
272:名無しさん@ピンキー
12/07/20 21:11:25.79 JdtHl7i9
いつも投下だんだん!
ゲゲの嫉妬からSモードにスイッチ入ってお仕置き
この流れ大好きですw
貴方の描くフミちゃんは本当に可愛い~
273:名無しさん@ピンキー
12/07/21 22:36:00.43 NHuSyaCF
>>257
GJでした!
大好物にすら手を付けないしげさんの怒りに萌えましたw
274:名無しさん@ピンキー
12/07/23 20:56:36.47 G6pPcuEb
>>257
GJ!
ドSなゲゲさん最高だ
今日の放送分くらいにはもうよっちゃんがお腹に居たんだろうか…
275:名無しさん@ピンキー
12/07/24 12:39:50.65 3jmYj4DN
今日のふみちゃんの「…だれ?」が超可愛かった
ほんっとにふみちゃんはデカ可愛い
276:名無しさん@ピンキー
12/07/25 22:11:17.98 Bttlpv7H
よっちゃん発覚キター!
277:名無しさん@ピンキー
12/07/26 00:26:22.06 JbyQmZn9
アシスタントの若い男たちがひしめき合う前に仕込んでおいて良かったね
あんな環境では子作りできん
278:名無しさん@ピンキー
12/07/26 10:40:24.55 3t01JTRt
フミちゃんは「器量はソコソコ」ってイカルに言われたけど
いかんせん、松下奈緒だし
実際の水木夫人も、とても可愛くて上品、女性としての魅力たっぷりな方なのになあ
あの台詞は今でも疑問だわあw
279:名無しさん@ピンキー
12/07/26 22:18:23.77 I4Rz4RtW
「人並みの容姿」って設定でも実際には美男美女なのは創作物での定番でしょw
280:名無しさん@ピンキー
12/07/27 21:53:33.16 uzwD1LPK
ふみちゃんの妊娠のタイミングは絶妙だなぁ
281:まぼろしの窓 1
12/07/28 15:49:14.30 D41qHWP4
「山茱萸・・・今年も咲いとる。」
ある夜。二階の手洗い所の窓から外を見て、フミエは思わず微笑んだ。
まだ時おり肌さむい日もある春三月。隣りの空き地の山茱萸(さんしゅゆ)の木が
今年もまた黄色い小さな花をいっぱいつけている。フミエが子供の頃からおなじみの
この木は、春もまだ浅いうちから黄色いほわほわとした花を咲かせ、花の後には真っ赤な
実をいっぱいにつける。
嫁いで来て間もない春。見知らぬ土地の殺風景な早春の風景の中で、この花が咲いて
いるのを見つけた時の嬉しさを思い出し、なんだかせつなくなる。
結婚してふた月と経たなかったあの頃。まだケンカするほど打ち解けてさえいなくて、
よくわからない中、手さぐりで心も身体も少しずつ馴染んでいった日々・・・。
葉を落とした木々の中に、春を待ちきれぬ山茱萸が花をつけるたび、フミエはあの
淡い日々を懐かしく思い出すのだった。
(あれから・・・いろんなことがあった・・・。)
この先食べていけるのかいつも不安につきまとわれていた日々。月賦が払えず家を
追い出される危機にみまわれたことも、せっかく藍子がお腹にやどっても手放しで
喜べなかったつらい思い出もあった。そんな中で、フミエは茂の努力を信じ、ふたりは
様々な出来事の中で絆を深めてきた。
(今は、お仕事にも恵まれて、貧乏とは縁が切れたけど・・・。)
雄玄社から振り込まれた『人並みの』金額の原稿料に驚いた日を皮切りに、漫画賞の
受賞、少年ランドでの連載開始、プロダクションの旗揚げ・・・。あれよあれよと言う間に、
貧乏だけれど静かでのんびりしていたふたりの生活は、たくさんの人と、途切れなく
迫り来る締め切りの山によって、忙殺されるようになっていった。
(これから、どげなってしまうんだろう・・・?)
仕事が大きくなればなるほど、雇用主としても作家としてもいろいろな人に対する茂の
責任は重くなるばかりだ。夫の成功を心から喜んでいるけれど、以前とはまったく
違ってしまった生活に戸惑いを覚えずにはいられないフミエだった。
心細い思いを、ふるさとの花に慰められていた頃とはまた違った寂しさを抱きながら、
フミエは黄色い花をみつめた。
282:まぼろしの窓 2
12/07/28 15:50:11.28 D41qHWP4
「・・・あら?あげな所に窓があったかしら?」
山茱萸から横に目を転じたところ、我が家の二階の壁にある窓を、なぜだかフミエは
初めて見た気がした。
漫画の仕事が増えて手狭になった家を改築したのを皮切りに、何度も増改築を
繰り返し、この家は原型をとどめないほど変貌を遂げている。茂の改築熱が生み出した
謎の扉、不思議な階段・・・家の者でさえ全容がつかめない魔改築の家となりはてたのだ。
フミエは精一杯顔を近づけて見たが、窓の外につけられた格子のせいで、斜め横に
位置する窓は、格子のすき間に切れ切れにしか見えない。
「うーん・・・よう見えんけど・・・。」
あそこは、納戸じゃなかったかしら・・・?そう思った時、窓が開いた。
「・・・・・・私?!」
窓から顔を出したのは、フミエ自身だった。浴衣を着て長い髪を下ろしているところを
見ると、寝るところだろうか。
(わた、わたし・・・死ぬんだろうか?)
もうひとりの自分の姿を見た者は近いうちに死ぬ・・・ドッペルゲンガーと言う言葉を、
以前茂に教えられてフミエも知っていた。洋の東西を問わずこの伝承は伝えられていて、
日本の怪異をおさめた本にも載っていると言う。
(そんな・・・まだ子供たちも小さいのに・・・。)
脚がガクガクと震え、心臓がのどから飛び出しそうになる。必死で恐怖と闘いながら、
幻の自分をもっとよく見ようと格子に顔を押しつけた。
(でも・・・なんか違う・・・。)
勇気を振り絞って観察したおかげで、フミエはあることに気づいた。あそこいにる
フミエは、わずかだけれど今のフミエと違う感じがする。髪型、浴衣の柄・・・。それに、
よく見るとその窓は、枠が木製でガラスも傷んだ、改築前の古いものだった。
(あれは、ちょっと昔の私なんじゃ・・・?)
窓辺に寄ったフミエは、よく見ると浴衣を羽織っただけらしくて、あらわになった胸肌が
瑞々しく、遠目にも白く光っている。髪はほつれ、頬は紅潮して、双眸は情事の余韻に
ぼうと霞んでいる。首もとに紅い痕さえ散見されるその姿は、どう見てもさんざん茂に
愛しぬかれた直後である。
283:まぼろしの窓 3
12/07/28 15:50:53.01 D41qHWP4
(や、やだ・・・なして・・・。)
初めて見る事後の自分のしどけない姿に、カッと頬が熱くなる。死の予兆と言われる
怪現象なのに、なぜこの姿なのか・・・。
(あれ、何か話しとる・・・お父ちゃんと?)
あちらのフミエが振り返って後ろ、おそらくは茂に話しかけている。茂まで出て来るの
ではないかと身構えたが、フミエはそれからまた外に顔を向けた。そしてふと夜空を見上げ
たかと思うとパッと顔を輝かせ、両手を組み合わせて何事かを祈った。
(・・・知っとる・・・私・・・あれがいつのことか、覚えとる・・・。)
後ろから大きな手が伸びて来て、浴衣のフミエの肩を抱いた。暗くて家の中までは
よく見えないが、手の持ち主はもちろん茂だろう。フミエが微笑みながら後ろを
振り返ると、大きな手が背を抱きしめた。フミエの後頭部が少し後ろに反っている。
ふたりは唇を合わせ、情交の後の幸福感に身を委ねているのだろう・・・。
(あれは・・・3年前の今ごろ・・・。)
仲睦まじいふたりの姿が、涙でぼやけた。
「藍子、寝とるか・・・?」
暗くした寝室のフスマを開け、茂が小声でささやいた。
「ええ。いつも布団に入るとすぐですけん・・・。」
フミエは起き上がって浴衣の乱れを直した。茂は中へ入ってきて藍子の布団の
そばに座ると、寝顔をのぞきこんでにっこり笑った。
「昼間は編集者が見張っとるけん、ロクに子供の顔見ることも出来ん。」
昨年の暮れに雄玄社の漫画賞を受賞して以来、茂のもとには漫画誌からの仕事の依頼が
引きもきらなくなった。その全てを引き受けた茂は、まだアシスタントも確保できないため、
孤軍奮闘を続けている。
茂は藍子の上にかがみこんで顔を鼻を近づけ、鼻いっぱいにその匂いを嗅いだ。
「・・・まだ赤ん坊の匂いがするな、よしよし・・・。」
フミエはそんな茂の子煩悩ぶりをうれしげに見守っていた。
284:まぼろしの窓 4
12/07/28 15:51:37.25 D41qHWP4
「・・・ン・・・ふっ・・・。」
身体を起こした茂が、振り向きざまにいきなりフミエを抱きすくめ、唇を奪った。
舌を深められ、歯列をなぞられ・・・むさぼられる内にたちまち硬く尖った乳首に指を
這わされ、フミエは羞ずかしげに身をよじった。
「ゃ・・・まっ・・・て。おと・・・ちゃ・・・。」
「おかあちゃんは、反応が早くてええ。」
二指でつまんでこりこりと揉まれ、フミエはその手を押さえながら背を丸めて必死で
快感に耐えようとする。
「藍子の寝顔も見たかったんだが、ホントのところは・・・。」
うつむいて身をこわばらせるフミエの耳に熱くささやいた。
「こっちが欲しくて来た・・・脱げ。」
直截なもの言いに、腰が砕ける。興奮に震える指でのろのろと帯を解き、下着をとる。
とうに衣服を脱ぎ捨てた茂が、細い裸身を拉するように抱きすくめ、唇を奪った。
手をとって早くも天を衝いている男性を握らせながら口中を責めていく。手指に、
反り返る分身のたしかな質感と角度を感じて、フミエは茂の口の中で引き攣るような
呼吸をした。
唇を離すと、懇願するような瞳で見あげてくる。フミエはそのまま手にした屹立へと
口唇を寄せて、下腹部に顔を埋めた。咥えやすいように膝立ちしてやると、フミエは
両手をついて身体を支え、口唇だけで中心にそそり立つものをほお張った。
讃美するかのように、角度に沿ってゆっくりとしごきあげる。再び呑みこんで、
唾液にまみれた刀身を、唇をすぼめながらまた吐き出す・・・。数回繰り返したところで、
茂が額に手を当てて押しとどめた。
「もうええけん・・・来い。」
フミエは惜しむようにゆっくりと口から出すと、手の甲で口の端をぬぐった。そのしぐさが
妖婦のようで、早くつらぬきたくてたまらなくなる。
同じように膝立ちさせて向かい合ったフミエをくるりと回転させ、後ろから伸ばした
指で秘部をひらいた。
「・・・ぁ・・・っゃ・・・。」
とろける裂け目に挿し入れられた指が前後にすべり、フミエが四肢を震わせる。
「・・・おねが・・・い・・・はやく・・・。」
フミエが情欲に濡れた目で見返りながら懇願する。立てた片足でフミエの膝を割って
開かせ、待ち焦がれる秘裂に亀頭を突き立てた。
285:まぼろしの窓 5
12/07/28 15:52:36.88 D41qHWP4
「ひぁっ・・・ぁ・・・ぅ・・・。」
膝立ちしていることで、いつもより硬く、抵抗感のつよい肉の扉を、男根でじりじりと
こじ開けていく。
「きついな・・・。」
半分ほどめり込ませたところで、フミエの手をとって結合部に導いた。手指にぬめりを
とらせ、おさまりきっていない肉の柱に塗りつけさせる。
「・・・っや・・・ぁあ・・・!」
指で触れたことで、自分が今呑みこみかけているものの量感と硬度を思い知らされ、
フミエは羞恥と恍惚の入り混じった悲鳴をあげた。
「・・・は・・・ぁあ――!」
いっきに引き下ろされ、奥までつらぬかれる。震える肩に口づけ、唇を首筋にまで
這わせると、フミエが甘い吐息をはいた。大腿を大きく拡げ、茂の両腿の上にぺたりと
くずれた正座をしたかっこうのフミエはなぜか童女のように頑是無く見える。
(可愛い、な・・・。)
思い切り感じさせたくて、すっかり剥きだされたさねに指を押し当てる。
「・・・ゃんっ・・・ぃやっ・・・!」
残酷な指を、なんとかして少しでも核心からずらそうとフミエは身をよじったが、硬い
芯棒を埋め込まれた腰はさほど動かすことができない。
「だめ・・・だっ・・・ぁ・・・んぁあ―――!」
つらぬいたものを動かされもしないのに、フミエはあっけなく達かされてしまった。
ひくひくと自身を締めつける運動から気をそらすように、茂はしなだれる女体を
前に押しやった。
「・・・ふ・・・ぁ・・・まっ・・・。」
とろとろに溶けた蜜の孔を、剛直が勢いよく出入りする。ずるりと引き抜くと、複雑な
襞が逃さぬようにまとわりつき、再び押し入ると肉の壁がきつく押し包んでくる。
「ひぁ・・・ぁ・・・だめっ・・・また・・・。」
「また・・・なんだ?」
フミエに再び襲い来るものを、わかっているくせに茂は言葉にさせようとする。
286:まぼろしの窓 6
12/07/28 15:54:37.80 D41qHWP4
「言えよ・・・ほら。」
フミエの内部が雄弁に物語っているだけでは足りない、とばかりに茂は深くつらぬいて
容赦なく揺すぶった。
「・・・ぃ・・・く・・・ぃくぅぅっ―――!」
身も世もなく到達を訴える声は、鷲づかみにした敷布に吸い込まれ、眼前の白い背中と
臀はしっとりと汗ばんで絶頂に震えていた。
「・・・ぁ・・・。」
真っ白な世界からふと戻ると、いつの間にか仰向けに寝かされていた。やさしく髪を
撫でられ、なんだか泣きそうになる。絶頂をきざまれて、少しの間気を失っていたらしい。
茂の顔が近づいて、唇がかさなる。フミエは両手で茂の頭を抱いて甘く口づけを返した。
「・・・ん・・・っふ・・・。」
ゆっくりと、もう自分のものとも思えないほど痺れている中心をまた満たされる。
フミエは腰を突き上げ、より深い接合をのぞむように茂の臀を両手でつかんで自らに
押しつけた。くるおしげに自らを求めてくれるフミエの、ひとつひとつの仕草が
たまらなくそそる。
「そげに、欲しいか・・・。」
囁かれてフミエは、ぞくぞくと総毛だちながら何度もうなずいた。
「まぁ・・・今度は、ゆっくり達け。」
ねっとりと口づけられ、下唇を噛まれ・・・上から差し出された舌を吸う。舌を吸いあい、
しずかに身体を繋げているだけで、叫びだしたいほど気持ちがいい。
「すごく・・・快いの・・・ぁ・・・。」
下へとおりていった唇が、紅い実をつまんだ。舌で舐めころがされ、唇で吸われ・・・
ふたつの突起から沁みてゆく快楽が、加速度的に下腹にたまっていく。
「も・・・きて・・・あなたも・・・。」
「言われんでも、もう限界だ・・・。」
ゆっくりとうねるような腰使いが、フミエを再びの頂きへと押し上げていった。フミエの
耳元にせつなげな息を吐きながら、茂も種子を爆ぜさせた。
287:まぼろしの窓 7
12/07/28 15:55:29.83 D41qHWP4
ぐったりと折り重なり、息を整えていた茂が身体を離した。今まで密着していた部分が、
汗と体液にまみれて冷やりとする。まだ動けないでいるフミエを満足げに見やり、どさりと
布団の上に大の字になった。
「暑いな・・・。」
「・・・ちょっこし・・・窓、開けましょうか。」
フミエはようやっと起き上がって身をぬぐい、素肌の上に浴衣を羽織った。ゆっくりと
立っていって窓辺に膝をつくと、ぎしぎしときしむ古い窓枠をすべらせた。
「・・・ええ風。」
窓辺に寄りかかり、春の夜風を胸いっぱいに吸いこむ。すみずみまで愉悦をきざまれた身体が
浴衣の中でふわふわと浮かぶような心地で、フミエは窓べりに肘をついて、隣りの
空き地の木に咲く黄色い花に目をやった。
「あ・・・山茱萸咲いとる。・・・また春が来たんですねえ。」
フミエは嬉しそうに後ろを振り返って茂に話しかけた。
「今に紅い実がいっぱい生って・・・鳥が食べに来ますけん。」
その光景を思い浮かべるようにほおづえをついて、フミエはまた窓の外をながめた。
その時、花の向こうの夜空に、星がひとつ流れた。
「あ・・・ながれ星!」
思わず目を閉じて手を合わせ、願いをかける。
「・・・何を祈ったんだ?」
声といっしょに手が伸びて来て、後ろから抱きすくめた。しどけなく乱れた襟の間から
まだ尖っている乳首を圧され、ふたつの突起からはしる刺激に、少し身を震わせながら
振り返る。
「・・・ないしょ、です。」
茂はそれ以上聞かずに唇をかさねた。裸の胸に両の尖りがぶつかり、まだ昂ぶっている
フミエの興奮が感じられる。茂はいっそう力を込めて柔らかい身体を抱きしめた。
(赤ちゃんが、出来ますように・・・って。)
口づけを深めながら、フミエは願い事を思い浮かべていた。種子をそそがれた身体が、
茂の腕の中であたたかく息づくのを感じながら、やがて全てを奪い去られていった。
288:まぼろしの窓 8
12/07/28 15:56:23.72 D41qHWP4
時は経って五月のある日。アシスタント志望者に編集者、果てはテレビプロデューサー
まで、このところ千客万来の村井家に、おいしい匂いを嗅ぎつけたのか浦木までがやって
来ていた。自分もおこぼれに預かろうとしているのに、まずは茂のマンガをくさす、
相変わらずの浦木にうんざりしながら聞いていたフミエは、急にのどにすっぱいものが
こみあげ、必要以上に迫ってきた浦木の顔に向かって、思わず言ってしまった。
「き・・・気持ちわるい!!」
固まる浦木にかまわず、フミエは手で口を押さえて洗面所に駆け込んだ。
「えっ・・・?この顔の・・・ど、どこが気持ち悪いと言うんだ?」
いつも人のことはボロクソに言うくせに、浦木は少し傷ついたような表情で手鏡を
のぞきこんだ。
フミエは洗面所で口をすすぎ、手の甲で濡れた唇をぬぐった。鏡の中に、後を追って
きた茂の心配そうな顔が映っている。
「どげした?・・・なんか悪いもんでも食ったか?」
「・・・もしかして、出来とるのかもしれん・・・。」
「出来とるって・・・えっ!赤ん坊?」
予期せぬ答えに、茂は驚いたが、藍子のときのような悲壮感はなかった。
(きっとそう・・・流れ星にお願いした、あの時の・・・。)
女にしかわからない身体のうつろい・・・そして漠然とではあるが、あの時種子を受け取った
と言う予感のようなものを感じていた。まだふくらんでもいないお腹を撫で、フミエは
幸福な想いを噛みしめた。
(あれから、喜子が生まれて・・・。)
家はすっかりきれいに改築され、今フミエが見ている幻の窓が、あそこのみすぼらしい
小さな寝間にあったことすら忘れ去られていた。茂は自らのプロダクションを立ち上げ、
相変わらず仕事の依頼はいっさい断らず、あの頃より更に忙しく働いている。
(でもこのごろは、お父ちゃんとゆっくり話すこともできんようになってしまった・・・。)
この春小学校へあがる藍子と2才の喜子、境港から引き取った茂の父母の家族六人に加え、
朝早くから夜遅くまで仕事場に詰めているアシスタント達、ひっきりなしに出入りする
編集者や関係者・・・増築したとは言えさほど広くない家の中はいつも人の気配に満ちている。
(思えば、しげぇさんと心からゆっくり出来たのって、あの頃が最後だったかも・・・。)
幻の窓に見えた昔の自分の姿に、幸せな記憶がよみがえり、ちょっと悲しくなる。
289:まぼろしの窓 9
12/07/28 16:04:10.23 yJun0Qp/
「・・・おい!さっさと出てくれ。」
そんな感慨を打ち破るような大声とノックの音。フミエは慌ててドアを開けた。
「なんだ、もう済んどるんなら、早こと出んか!」
「・・・お父ちゃん、なしてわざわざ二階のトイレに?」
「今日はスガちゃんが腹具合が悪いとかで、便所を独占してちっとも出てこんのだ。」
きれいとは言えない話に、フミエは甘い記憶もどこかへ消し飛んでしまったが、ふと
思いついて茂に聞いてみた。
「あなた、あそこ見てください。・・・あの山茱萸のこっち側・・・窓が見えますか?」
「ん・・・なんだ藪から棒に。」
茂はここへ来た目的を忘れたかのように、窓の格子に顔を押しつけて熱心にフミエの
言うとおりの場所を見た。
「・・・ん~?・・・ああ、あの窓か。あれは嵌めごろしだな。」
「はめごろし、ですか?」
「ああ・・・あそこは今納戸になっとるけん、タンスが置いてあって、窓はあっても
開けられん。」
「・・・あそこに、何か見えませんか?」
「・・・?なんにも見えんぞ。見えるわけもないしな。」
自分だけに見えるのだろうか・・・フミエは茂とくっつくようにして窓を覗き込んだ。
「あ・・・もうおらん。」
そこにはもうあの浴衣姿のフミエはいなかった。ばかりか、窓はすっかり近代的な
サッシに変わっていた。
「お前・・・何かあやかしの者でも見たのか?」
「ちょ、ちょっこし・・・女のひとの姿が、あの窓に・・・。」
もうひとりの自分の姿を見た、とは何故か言えなかった。過去の姿、というところが
死の予兆と言われるドッペルゲンガーとは違う気がするし、なぜ過去とわかったか、
と説明しようとすればあの夜のことを話さないわけにはいかないからだ。
290:まぼろしの窓 10
12/07/28 16:04:58.56 yJun0Qp/
「・・・『影女』か!物の怪のおる家には、月夜に障子に女の影が映ると言う・・・。
迷路のような家だけん、そげな怪しの者も出るのかも知れん。こげな風に、見えにくい
ところをわざわざ透かして見ると、この世ならぬものが見えるとか言うしな・・・。」
家に妖怪が出たというのに、茂はなんだか嬉しそうである。
「・・・ン・・・。」
いつになく接近していた顔を寄せて、茂が口づけた。不意討ちをくらって、フミエの
無防備な官能が直撃される。
「ふぁ・・・ん・・・ぅ・・・。」
ただの口づけではない、行為の始まりのような口唇への愛撫・・・。まさかこんな所で
始めるつもりなのかと、じたばたするフミエを壁に押しつけてさらに奪いながら、茂は
パジャマの上からもわかる尖りをつまんでこすった。
「・・・ぁ・・・ゃぁ・・・っは・・・。」
「・・・とかなんとか言って、チューしてほしかっただけじゃないのか?」
たったこれだけのことで、たちまち官能にからめとらてしまうフミエの感じやすさ・・・
わかっていながら茂はわざとそんなことを言ってからかった。
「ち、ちが・・・!」
ふかい口づけと、胸の一点からはしった快感が身体をつらぬき、茂が抱いていて
くれなければ膝がくず折れそうだった。フミエは茂にしがみついて身をふるわせた。
「なんだ・・・怖いのか?・・・本当に何か見たのか?」
フミエは何も言わず胸に顔をうずめた。
「部屋までついてってやるけん・・・用を足す間ちょっこし待っとれよ。」
フミエはあわててドアを閉めて廊下で茂を待った。
「おお、よう寝とる・・・。」
茂は本当に寝室までついて来てくれて、フミエが布団に入るのを見守ってくれた。
それから子供部屋の二段ベッドですやすやと眠る藍子と喜子に目を細め、夫婦の寝室に
戻ってくる。
291:まぼろしの窓 11
12/07/28 16:06:04.55 yJun0Qp/
「お前もええ年齢してこわがりだなあ・・・。」
誤解にしろ、茂がやさしいのが嬉しくて、フミエは布団から手を伸ばして茂の手を
握った。
「いっしょに寝てやりたいけど、今日は仕事せんと間に合わん・・・。」
握ったフミエの手を布団の中に入れると、子供にするように額に口づけた。
「早こと寝ろよ・・・。」
茂はそう言い残し、部屋を出てフスマを閉め、行ってしまった。その姿をすがるように
目で追ったフミエは、力なく目を伏せ、掛け布団を引きかぶった。
(もう・・・どげしてくれるの・・・。)
さっきの口づけで呼び覚まされた官能に、フミエの身体はとろりと内側からとろけている。
フミエの快いところを知り尽くしている指の動きがよみがえり、勃ったままの乳首が
じんじんと疼いた。
「・・・はぁ・・・。」
せつなさに、指を噛んで太いため息を吐いた。寝返りをうって脚を曲げると、女の部分が
熱くぬめっているのがわかる。たったあれだけの愛撫でこうまで高まってしまう自分が
情けない。
(お父ちゃんの、いじわる・・・!)
意地悪なのか鈍感なのか、フミエを昂らせておきながら放ったらかし、さっさと仕事に
戻ってしまった茂がうらめしい。けれど、フミエが怖がっているのだと勘違いして部屋まで
送ってくれた優しさは、ちょっと寂しいこのごろのフミエの心をじんわりと温めてくれた。
(・・・まぁ、ええか・・・。)
こんな時、自分で自分を慰めるのも羞ずかしい。フミエは冷たいシーツに頬をあてた。
中途半端な刺激でかきたてられた熾き火のような欲望は、こんなことで鎮まるようなもの
ではないけれど、今夜はこの火を抱えて寝よう、そう思っていた。この身体に刻まれた、
さまざまな幸せの記憶を思い出しながら・・・。
292:名無しさん@ピンキー
12/07/28 22:42:05.28 Oz5PwQvR
GJ!
火照った体を持て余すふみちゃんがエロいです
293:名無しさん@ピンキー
12/07/29 19:57:19.86 TY5BDA5E
GJ!
ゲゲの優しい所、フミちゃんの健気な所、良かったです~
294:名無しさん@ピンキー
12/07/30 23:16:19.38 KlbFSnWs
>>281
窓のふしぎな感じも致してるエロさも持て余してるふみちゃんのエロさもGJでした!
295:名無しさん@ピンキー
12/07/31 23:35:26.99 bXlBEILU
「しげぇさん」とノロケキタ━━(゚∀゚)━━ !!
296:名無しさん@ピンキー
12/08/01 08:22:15.85 Gbu5xEMT
頭におむねのあたりそうな肩もみムッハー(;°∀°)=3
ナチュラルないちゃいちゃが多い週でたまりませんな
297:名無しさん@ピンキー
12/08/02 21:46:17.86 pgLZBHrB
今日は良い話だった
肩ポンは燃え的にも萌え的にも最高だった
298:名無しさん@ピンキー
12/08/04 11:15:10.65 myJ8rpKG
車が来るときのゲゲさんがかわいすぎる
火傷した藍子の手を包むふみちゃんの手と動作が美しすぎる
299:名無しさん@ピンキー
12/08/05 17:27:47.41 3ITkmdSm
超暑い中原稿頑張って手が離せないゲゲさんに氷を口移しするふみちゃんを妄想
300:名無しさん@ピンキー
12/08/06 12:17:17.01 CXqH9MnE
鍋蓋で練習をゲゲに見られたふみちゃんかわいい
>>299
せんべい焼く機械の前もきっとすごく暑いと思うんだ
301:名無しさん@ピンキー
12/08/08 08:26:58.00 D8rX2HFW
この時期の夫婦ももちろんたまらんのですけど、回想で新婚時代見るとやっぱり別格だなー
貧乏なのに二人ともキラキラしてる
302:名無しさん@ピンキー
12/08/09 21:11:23.07 DYvgiGKC
「そのつもりですっ」のふみちゃんかわいすぎる
303:名無しさん@ピンキー
12/08/10 23:51:53.41 NeFX5R/I
来週から萌えが減って辛いな…
304:名無しさん@ピンキー
12/08/11 10:06:00.61 0JWqMbdP
>>303
いやいや、冷た~い茂とか、山小屋でキャッキャウフフとか、おかゆアーンとか、
おやおやあららとか、よっちゃんとかよっちゃんとか・・・まだまだ萌えどころ
いっぱいですぞ。
唐突に出てくる新婚時代の回想がすごく輝いて見えるし。
イトツイカルの若い頃も好き。
305:名無しさん@ピンキー
12/08/11 22:18:27.74 kmzhqTmb
>>304
山小屋はロケ記念写真もいいよ
306:名無しさん@ピンキー
12/08/12 00:50:10.30 3hdNUiv7
自分は藍子の就職問題でのゲゲが大好き!
フミパパの案に乗って、勝手に見合い話を進めたり
あれだけ変人なくせに、ただの娘手放したくない父親なところとか
板挟みになって、でもやっぱりゲゲの言いなりになっちゃうフミちゃんも好き
307:名無しさん@ピンキー
12/08/12 18:23:38.26 +0mQ8CHh
冷たいしげーさん良いよねー
藍子にあの手この手で妨害しようとするのもヒドイけどかわいいしw
308:名無しさん@ピンキー
12/08/13 19:13:56.04 YVWWRgvf
書き込みがちょっこし遅くなったけど、
倉田さんといずみも萌えたーw
結末知ってても「再放送では結ばれないか?」と思ってしまう倉田好きであります
309:名無しさん@ピンキー
12/08/14 23:59:29.30 5k+fyESf
今週はまだよっちゃんいじったりおかあちゃんと会話したり余裕があるな
冷たいゲゲさんは萌えるけどやっぱり切ない
310:名無しさん@ピンキー
12/08/16 17:11:44.12 c7Kt0y5b
>>308
くっつかないからこそ切なくて美しい青春萌えなカップルだよね
実話の、何年も後に会った時に抱擁したって話が大好きだ
見たかったなぁ
311:名無しさん@ピンキー
12/08/18 10:52:41.98 VJNGJ2cA
一家で別荘は何度見ても萌え死ねる
姉妹も夫婦も超かわいい
312:名無しさん@ピンキー
12/08/20 11:39:49.73 xlCKXSHv
藍子がおとうちゃんに同意しそうな喜子に何回もしーっ ってやってるのがかわいい
よっちゃんにコロッケ?をあげるおとうちゃんとか、必死で止めようとするふみちゃんとか
村井家が憩いすぎる
313:名無しさん@ピンキー
12/08/21 19:11:15.41 x6ALYS/5
南方ボケでイッちゃってるゲゲさんが好きだ
314:名無しさん@ピンキー
12/08/23 16:46:59.72 beamErJl
南方に行った事で左腕が生き霊としてついてきちゃって
ふみちゃんを誘惑したら萌える
315:名無しさん@ピンキー
12/08/24 21:22:47.61 VQsZGxkE
>>314
ゲゲふみゲゲ…だと…!?
316:名無しさん@ピンキー
12/08/25 23:35:36.84 d6P1BRMA
親子四人線香花火に癒され、予告のお粥で悶えた
お粥楽しみすぎる!
317:名無しさん@ピンキー
12/08/26 19:37:25.50 myEK3D8M
お粥シーンでのフミちゃんのゲゲを見つめる目が
恋する少女のように初々しいー
318:名無しさん@ピンキー
12/08/27 20:18:06.76 DNClNtNF
作中最もドSな時期キター!
319:名無しさん@ピンキー
12/08/29 07:55:26.80 EBmVHJKr
お粥たまらんかった…
萌え死ぬ
320:名無しさん@ピンキー
12/08/30 23:04:22.75 KcshxO8L
>>319
おかゆはほんと、何度見てもすごい萌える!
たかし…。・°・(ノд`)・°・。
321:帰宅 1
12/08/31 21:33:19.93 5ScGMKx4
「・・・私にだって、気持ちはあるんですよ!」
ある夜。とうとう心の中の何かがぷつりと切れて、フミエは夕食後の洗い物を
そのままに、エプロンを外し、つっかけを引っかけて外に飛び出した。
「あ・・・ここ・・・。」
夢中で歩きつづけ、ふと気がつくと深大寺のそばのお堂まで来ていた。ここは、
昔こみち書房のみち子が、店のことも夫婦のことももう終わりだと言って家を出て、
とぼとぼと歩いていたのをみつけた所だった。
お堂の軒下に腰を下ろした時、自転車のライトが近づいて来た。茂が迎えに来て
くれたのかと一瞬だけ思ったけれど、まったく知らない人の乗った自転車は、フミエの
前をすうっと通り過ぎて行った。
(迎えに来てくれるわけない・・・か・・・。)
フミエは膝をかかえてため息をついた。
最近の茂の言動は、フミエには理解できないことだらけだった。ふたことめには
『引っ込んどれ。』『お前は家の事だけやっとればええ。』・・・。
茂は家と仕事場を切り離し、フミエが仕事に関係することを極度に嫌うようになった。
経営上の危機すらもフミエの耳にだけ入れようとしない。心配で聞き出そうとすると
『仕事のことに口をはさむな!』
(なして・・・?ずっと一緒にやってきたのに。今までどおり、少しでもお父ちゃんの
役に立ちたいだけなのに・・・。)
夜、布団の中でふと気がつくと、今日いちにち、一度も茂と視線をかわしていない
という日も少なくなかった。
(いつからこげな風になってしまったんだろう・・・?)
茂の亭主関白は今に始まったことではない。苦しい生活の中で、理不尽なことで
怒鳴られたり、ケンカだっていっぱいした。けれど、あの頃はそれを上回る数の笑いと
温かい気持ちの通いあいがあった。
(前はお父ちゃん、よう笑っとったなぁ。私も楽しいこといっぱい教えてもらった・・・。)
茂が売れっ子になり、仕事漬けの日々を送るようになっても、喜子が生まれた頃くらい
まではまだよかった。茂はテレビ番組の主題歌の歌詞を真っ先にフミエに見せてくれたし、
漫画の手伝いをすることはなくなった代わりに、若いアシスタント達の世話をやくことで
茂の仕事に貢献することもできた。
けれど最近では、アシスタント達の顔ぶれも変わり、以前のように家庭的な雰囲気
ではなくなってきた。お茶も夜食もいらないと言われては、後はもう仕事部屋のそうじ
くらいしかフミエにできることはなかった。
322:帰宅 2
12/08/31 21:34:27.97 5ScGMKx4
あの頃みたいにいつも一緒に笑っていたい。なんとかして茂の役に立ちたい・・・。
(そげ思ったらいけんの・・・?お父ちゃんにはうっとうしいだけなの・・・?)
今の成功は、全て茂自身の努力によるものだ。自分はただそれを側で見て来ただけ。
・・・支えたなんておこがましい事は夢にも思っていない。
茂にはもう、自分なんて必要ないのかもしれない・・・そう考えると、抑えようもない
虚しさと悲しみが湧き上がり、頬を涙がつたった。月のない夜で、街灯の灯すら届かない
小さなお堂の軒下は真っ暗だった。フミエは声を押し殺して泣いた。涙は強い鎮痛薬の
ように憤りや悲しみを痺れさせ、やがてフミエは賽銭箱にもたれて眠り込んでしまった。
「・・・お米は買ってあるし、乾物や缶詰は流しの下に入っとります。あと下着はタンスの
ひきだしの下から二番めです。くつしたは・・・。」
「あーあーあー、もうわかっとる!それより早こと行かんと、汽車に乗り遅れーぞ。」
夢の中で、フミエは初めての里帰りに出発するところだった。藍子を背負い、玄関の
三和土におり立ってもまだ、後に残していく茂の暮らしに心配がつきないフミエを、
茂は笑ってせきたてた。
東京駅から一昼夜の列車の旅。
陽はとっぷりと暮れ、車窓からの景色を珍しそうに見ていた藍子は、今はフミエの
膝を枕にすやすやと眠っている。
「・・・よう寝とる。」
三年半前、この列車に乗った時は、茂と二人きりだった。出会ってからわずか五日で
祝言を挙げたばかりの二人はまだぎこちなかった。なんとか話題をみつけて話をしても
すぐ途切れ、気まずい思いのうちにいつしか眠りに落ちた。ふと目覚めて隣に眠る
ひとに気づき、生涯の伴侶となった男の寝顔を不思議な思いで見つめたあの夜・・・。
そんな二人が東京の片隅で一緒に暮らし始め、厳しい人生の雨風に立ち向かう内、
身も心も深い絆で結ばれていった。・・・そして今、膝に伝わってくるこの小さな
ぬくもりがある。
(お父さん、お母さん・・・私、しげぇさんと二人で、なんとかやっとるよ。
こげに遅うなってしまったけど、もうじき会えるね・・・。)
特急列車は闇を裂いて西へ西へと走って行く。三年半の時を遡るような気持ちで
そんなことを想いながら、フミエもいつしか眠りに落ちて行った。
323:帰宅 3
12/08/31 21:35:41.42 5ScGMKx4
ひさしぶりの実家は、子供たちが少し大きくなったこと以外はそれほど
変わりもなく、昔のままに磨きぬかれた店、にぎやかな食卓・・・調布の我が家とは
まるで違う時間が流れているような大塚の暮らしが繰り返されていた。
だが、変わっていないように見えて、やはり人々の暮らしにはそれぞれ転機が
訪れているものだ。
なかでも一番大きな変化は、弟の貴史に訪れていた。父の源兵衛は、三十歳になる
貴史に、縁談と支店を出すという二つの大きな進路を、家族にも本人にも何の相談もなく
すすめようとしていた。だが、貴史には相愛の恋人がいる。ひとり娘である彼女と結婚
するためには、貴史が婿に行かなければならない。父と恋人の板ばさみとなって、気のいい
弟は家業のために自らの幸せをあきらめようとしていた。
貴史が恋人に別れを告げる場面を見てしまったフミエは、その夜、遅くまで店にいる
弟としみじみと話をした。ふたりで店を手伝っていた頃の思い出話から、今の自分の
暮らしのこと、貧乏しても漫画にうちこんでいる茂のこと、自分も茂には好きな漫画を
描き続けてほしいと思っていること・・・。
「何があっても、いちばん大事と思っとることはあきらめたらいけんよ。」
苦労して続けてきた店を放り出すわけにはいかないと言っていた貴史だが、それを聞いて
何か思うことがあるようだった。
貴史の結婚問題は、一世一代の勇気を振り絞って父の源兵衛と対峙した事で急転直下の
解決を見ることになった。源兵衛が、子供たちもいつまでも子供ではないという、
当たり前のことを悟り、とにもかくにも相手に会ってみると言い出したのには、藍子の
ビー玉事件もひと役かっていた。
(・・・あの時は肝が冷えたけど、お父さんが貴史の話を聞く気になってごしなって
よかった・・・。怪我の功名ってこのことやね。)
調布の家を離れて五日目の夜。藍子を寝かしつけながらフミエはあらためて今度の里帰り
のことを振り返っていた。
(この部屋で寝るのも今夜で最後か・・・。)
娘時代を過ごした部屋は、婚礼の前の晩とほとんど変わらずフミエを迎えてくれた。
姉たちからフミエへと使い継いだ机、ランプ、たんす・・・。とりわけ懐かしいのは、
得意な裁縫で家族じゅうの服を縫ったミシンだった。
324:帰宅 4
12/08/31 21:36:56.10 5ScGMKx4
(ここに住んどった頃は、東京にお嫁に行くなんて思ってもみんだった・・・。)
少女時代の夢、あこがれ、劣等感・・・嫁きおくれと言われる年齢になってからの
(自分は将来、どうなってしまうのか・・・?)と言う焦り、不安・・・。この部屋は
嫁ぐ前のフミエの全てを見て来たと言っても過言ではない。
隣の布団では、小さな藍子がすやすやと眠っている。
(あの頃は、とても思えんだった・・・こげな日が来るなんて。)
女性にしては高過ぎる身長が災いして、最初の縁談を断られてから、なにかケチが
ついたかのようにご縁に恵まれなかった。家業や家事の手伝いにやりがいを見出して
はいたけれど、適齢期はとうに過ぎ、そろそろ限界を感じていた。そんな時、父が
不思議と気に入って勧めてくれたのが茂との縁談だったのだ。
(よかったのかな・・・やっぱり・・・しげぇさんと結婚して。)
初めて会った時の第一印象は、健康そうで、健啖家で、気さくな感じのひと。
ストーブがつかない騒ぎで、うっかり立ち上がって背の高いところを露見させて
しまったフミエに皆が驚く中、茂は泰然自若とストーブをつけてくれた。
結婚してからわかったことだが、茂はおおらかで独創的な言動で、時にその場の
空気を救うことがよくある。本人にそんなつもりはないのかもしれないが、フミエは
茂のそんなところがとても好ましいと思っているのだ。
(会いたいな・・・しげぇさんに。)
ふいに茂の笑顔が浮かんできて、さびしくてたまらなくなる。たった五日、それも
嬉しい里帰りで離れているだけだというのに、もう茂が恋しいなんて、いい年齢して
恥ずかしくなる。
人は誰かを好きになって、その人を守りたいと思った時大人になるのかもしれない。
・・・おとなしい男と思われていた弟の貴史が、好きな女性を守るため、初めて父に
刃向かった。その姿は、二年前の秋、茂をなじった父に立ち向かっていった自分の姿に
重なった。
『何があっても、いちばん大事と思っとることはあきらめたらいけん。』
貴史に諭しながら、図らずも自分の想いを吐露することになったその言葉・・・。いちばん
大事と思っていること、フミエにとってそれは、漫画にうちこんでいる茂のそばに、
ずっと寄り添って生きていきたいということだった。
325:帰宅 5
12/08/31 21:38:20.36 5ScGMKx4
(私も、もう昔の私と違うけん・・・。)
いっしょに生きたい人がいる・・・身も心もひとつに・・・。
娘時代に使っていた、紅い銘仙の布団の下で、女の身体が息づいている。太い吐息を
ついて自分の身体を抱きしめると、浴衣の下で乳首が硬くなり始めているのがわかる。
えりの合わせ目から手を差し入れて、そっと尖りをこする。じわじわと沁みてくる
痺れに、いとしいひとの指の感触を重ねる。快感は電流のような速さで中心へと奔り、
熱と潤いを呼び覚ました。
合わせ目がとろりと割れて、たたえられたぬめりがフミエの指を濡らす。わずかな
刺激にこれほどまで溢れさせている自分に驚きながら、指はさらに奥をさぐっていった。
(知らんだった・・・こげに、きついなんて・・・。)
茂を受け入れる場所に指を沈ませて、押し返してくる肉の壁の圧迫感に驚く。初めて
ここを開かれてから、数え切れないほど挿入れられ、馴染まされてきた。子供もひとり
産んでいるというのに、フミエは女体の柔軟さ、不思議さに今さらながら感心した。
熱く柔らかく、それでいてきつく、侵入者を締めつける性の唇・・・。自分の肉体が
いつもこんな感触で茂をもてなしているのかと思うと、たまらなくなって、フミエは
もう片方の手を下着にすべりこませ、花芽に指をからめた。
「・・・ん、ふっ・・・。」
自分でも驚くほどの快感がはしり、思わず唇を噛みしめた。隣りには幼な子が寝ている。
親兄弟の住む家で自らを涜(けが)すことに罪悪感を覚えながら、指を抜くことができない。
「・・・は・・・ぁあ・・・。」
細い指では比べ物にならないけれど、いつもここを満たしてくれる充実を思い浮かべる
だけでまた身体が燃える。いつからだろう・・・自分が心にも身体にも、茂でなければ
満たせない空隙を抱いて生きている、と自覚するようになったのは。娘の頃は小さかった
隙間にいつしか茂が住み着いて、その居場所はずいぶん大きくなってしまった。
いつも与えられる責めに似せて、花蕾をいたぶる指の動きが速まった。
「・・・ァッ・・・・・・!」
来る・・・と思った次の瞬間、しなやかな肉身が断続的に脈打ちながらフミエの指を
食い締めた。ときん、ときん・・・指に刻まれる脈動に、自分の身体がいつもこうして
絶頂の瞬間を、声や表情だけでなく、つながった部分でも茂に直接伝えていることを知った。
(気持ちええと、思ってくれとるのかな・・・。)
ゆっくりと指を抜き去り、やるせない身体を投げ出す。愛し合った後と違って、口づけも
抱擁もない。当たり前のことがたまらなくさびしかった。
326:帰宅 6
12/08/31 21:39:17.99 5ScGMKx4
「ただいま戻りましたー!」
明るい声で帰りを告げると、待ち構えた茂が玄関先で迎えてくれた。一週間たらずの
留守で、これほどこの家が懐かしく感じるとは思ってもみなかった。
「・・・それほど散らかっとりませんねえ。」
脱ぎ散らかした衣類や、溜まりに溜まった皿や茶碗・・・そんなものを想像していた
フミエは、意外とこざっぱりと片付いている室内に、ちょっと拍子抜けしていた。
「留守にしたら、少しは困るかと心配しとったのに・・・。」
心配していたと言いながら、フミエは茂が留守中特に困りもしなかったことに、むしろ
がっかりした様子だった。
「何を言っとる。炊事でも洗濯でも、その気になれば俺は何でもできるんだ。・・・けどな、
ひとりではあんまり笑えんな。せっかくええ音を響かせても、聞く者がおらんでは
おかしくもなんともないわ。」
長いこと独りで暮らしてきて完結していただろう茂の暮らしも、いつしかフミエという
伴侶がいないでは成り立たなくなっていたのだ。茂らしく屁にかこつけてそんな想いを
伝えた後、照れ隠しのように茂は実際にひとつ放ってみせた。
「うーん・・・空に輪をえがく、トンビの声でしょうか?」
「うん、そのとおり!」
フミエの風流な見立てに、茂が満足そうに笑った。
「あ~、やっぱりうちはええなあ・・・の~んびりする・・・。」
「なんだ、実家でのんびりしたんじゃなかったのか?」
「それはそうですけど・・・私のうちは、ここですけん。」
フミエは大きくひとつ伸びをした。フミエにとっても、茂がいるこの家が、今や他の
どこでも代えようがない自分の居場所なのだと改めてつよく感じていた。
「風呂入って早こと寝え。・・・汽車に乗りっぱなしで鼻の穴まで真っ黒だぞ。」
夕食の後、茂はいつものように仕事部屋に引き上げながらそう言った。
「や・・・やだ。本当ですか?」
フミエは思わず鼻を押さえた。茂がしてやったりと言う顔で吹き出す。
「もぉ・・・そげなことばっかり言って。」
かつがれたことに怒ってみせながら、フミエも笑っていた。けれど、胸の中では
『早こと寝え。』という言葉がひっかかっていた。
327:帰宅 7
12/08/31 21:40:44.76 5ScGMKx4
「藍子、寝たか・・・?」
風呂上りのフミエが、藍子を布団に入れて寝かしつけていると、茂がフスマをそっと
開けて部屋に入ってきた。
「ちょっこし見んうちにも大きうなったような気がするなあ・・・。」
見る者の心をひきつけずにはおかない幼子の寝顔・・・ましてやそれがわが娘であって
みれば、茂の視線が一週間ぶりで会う藍子にばかりそそがれるのも無理はない。
「イカルもイトツも骨抜きだったろう・・・?」
「はい・・・それはもう、可愛がってごしなさって。お義父さんが抱こうとされても、
お義母さんが離されんだったんですよ。」
茂は満足げにうなずくと、藍子の額に口づけた。
「さてと・・・。お前も疲れただろう。早よう寝えよ。」
茂は立ち上がってフスマを開けかけた。行ってしまう・・・!平静を装おうとしたのに、
フミエの視線はすがるようにその姿を追ってしまった。
「・・・ん?なんか用か?」
「ぇ・・・い、いえ・・・何でも。」
フミエはハッとして座りなおした。茂のような男が、たとえ『屁を聞かせる相手が
いなくてつまらなかった。』と言う表現にせよフミエの不在を惜しんだ・・・それだけでも
十分なはずなのに、自分はこれ以上何を求めているのだろう?そう思ってもフミエには
もう自分の心がこう叫ぶのを止められなかった。
(離れとる間、自分で自分を慰めるほど寂しかったのは、私だけだったの・・・?)と。
「なんだ・・・?言いたいことがあるんならはっきりせえ。」
茂は戸口に立ったまま、じれたように聞いた。
「・・・あなたは・・・その・・・。」
この場面でこんなことを言ったら、誘っていると思われてもしかたない。頬が燃える
ように熱くなるのが自分でもわかったが、フミエは声を振りしぼった。
328:帰宅 8
12/08/31 21:42:22.99 5ScGMKx4
「・・・さびしく・・・なかったんですか・・・私が、おらんでも・・・?」
茂が口をポカンと開けている。その口が閉じ、いつもの少し意地悪な笑いが浮かんだ。
「シてほしいなら欲しいと、はっきり言うたらええのに。」
相変わらずの身もふたもない言い方に、フミエは真っ赤になった。
「ち、ちがいます・・・ただ・・・。」
「ただ・・・なんだ?」
「あの・・・ちょっこし、くらい・・・。」
「ちょっこしって、どげなことして欲しいんだ?」
茂はいつの間にか布団に戻ってきて、フミエの顔をのぞきこんでいる。
「・・・ンッ・・・は・・・。」
困り果てて横を向いたフミエを抱きすくめて、いきなり唇を奪う。
「・・・ふぅ・・・こげなもんでええか?」
舌と舌が出会い、フミエの細い身体が腕の中で力を失いかける・・・だが茂は絶妙な
間合いで唇を離し、涼しい顔で聞いた。
ちがう・・・そんな風にしてほしいわけじゃないのに・・・。抱きしめられ、口内を舌で
探られただけで早くも身体の芯が溶けかけていても、フミエの心は焦燥にかられた。
「・・・いかないで・・・ここに・・・いてほしいんです・・・。」
茂が破顔し、よく言ったとばかりに今度は息がつまるほど強く抱きしめた。
「疲れとるだろうから、寝かしてやろうと思ったけど・・・。」
身体を離すと、身八ツ口から差し入れた指で乳首をきゅっとつまんだ。
「・・・!」
「・・・覚悟せえよ。」
その言葉と、乳首からはしる電流のような快感が、フミエの身体をつらぬいた。
掛け布団を剥いで表れた真っ白なしとねの上を示されるままに、フミエは全てを
脱いでそこに横たわった。目を閉じて待っていると、茂が衣服を脱ぐ音がする。
無防備な肌に視線を感じてうっすらと目を開けると、猛々しく反り返る男性が目に
入った。解き放たれた雄は茂の中心で揺れながら、フミエを食い尽くす瞬間を
待っている。ふたつの目が欲望に煮えるような心地がして目を閉じると、熱い身体が
覆いかぶさってきた。
329:帰宅 9
12/08/31 21:43:40.22 5ScGMKx4
「・・・ん・・・ふっ・・・。」
唇を結び合わせ、肌を重ねる。腰に押しつけられた硬い感触をいやがうえにも
意識させられざるを得ない。閉じたまぶたの下で、さっき目に焼きついた獰猛な生き物の
残像が熱を発し、早くフミエを食べたいと訴えかけてくる。
「・・・っは・・・ぁあ!」
身の内から煎られるような欲望が、フミエの肌をいつにも増して過敏にさせている。
口づけを解いて下がり始めた唇が首筋を這っただけで、自分でも驚くような色めかしい
声が洩れ、フミエは必死で両手で口をおさえた。
「んふぅ・・・ぁ・・・っや・・・。」
左の乳輪にさわさわと指を這わせながら、右の尖りをやさしく舐める。右手は
次第に乳房全体を揉みしだき、口に含まれた乳首は強く吸われてフミエの下腹部に
叫びだしたいほどの快感を送り込んだ。フミエは瘧(おこり)のように震え、声を
押さえようと口に当てた手の甲を思い切り噛んだ。
「んゃ・・・だめ・・・っっ!!」
胸をなぶっていた舌がだんだんと下がっていき、臍を舐め、腰骨の上の薄い皮膚に
歯をあてた。フミエはぞくぞくと身を震わせ、腰を波打たせた。自然と広がった膝を
つかんで脚を拡げ、濡れそぼつ中心部に口づける。
「・・・はぁっっ・・・や、やめ・・・ぁ・・・やっ・・・。」
狭い口にすべり込ませた指で性の花の全容をあばき出すように持ち上げ、露わになった
襞のあいだを舌が動きまわる。
顔を横に傾けて、感じすぎる核をそっと歯ではさむ。跳ね上がった足が、思わずこの
狼藉者を蹴りそうになり、フミエは必死で手で押さえた。
「我慢できんだったら、そのまんま押さえとけ。」
そう命じると、再び股間に顔を埋めた。さっき歯ではさんだ花芽を、今度は同じ角度で
唇ではさみ込み、つよく吸った。
330:帰宅 10
12/08/31 21:45:17.45 5ScGMKx4
「・・・だめっ・・・だめぇぇ・・・っ!」
両腿を押さえるフミエの指が、白くなるほどつかみしめる。秘裂に沈めた指でなかを
解すようにかき混ぜ、舌で上下左右自在に蕾を舐めてやると、喉から漏れる嬌声は
啜り泣くように尾を引いた。
「・・・っひ・・・あ・・・ぁ・・・ああ―――っ!」
なおも容赦なく責めると、フミエは狂ったように腰をうごめかせ、茂の指を締めつけて
果てた。
指を抜き取って起き直り、ひくひくと震える身体を見下ろす。脚を閉じる気力もない
フミエの膝の裏に手を入れて片脚を寄せてやると、フミエは力の入らない手で身体を
庇いながら横向きになった。その上にかがみ込んで腰の下に手を入れ、身体を返す。
「・・・ゃっ・・・!」
腰を持ち上げられ、足で膝を割られて、フミエはあわてて手で身体を支えた。
「・・・まっ・・・て、まだ・・・ぁあ――!」
休む間もあたえず、すっかりほとびた裂け目を肉塊が埋めていく。
「ぁ・・・っぅ・・・ぅうん・・・。」
繋がった部分を小刻みに揺すぶりながら、二指で乳首をつまんで弄る。甘だるい波が
胸からじわりと拡がり、雄根を呑みこまされた中心と呼応してフミエの全身をつらぬいた。
背で茂を押し返すようにのけぞり、いたずらな手を払いのけようとして、逆に手首を
つかまれる。振り返った唇を食まれ、夢中で舌をからみあわせた。
「・・・んは・・・ん・・・ぁう・・・っ!」
無理な姿勢で少し浅くなった繋がりをぐいっと深められ、フミエは悲鳴をあげて
口づけを振り切った。腰をつかんで引き寄せられ、激しい抽送がはじまる。
「・・・っは・・・ぅ・・・っぁ・・・ぁっ・・・。」
責める腰が、臀の肉にぶつかる音に合わせるように切れぎれの啼き声があがる。より深く
沈め、抉り、揺すぶると、その声はせつなげにかすれ、次第に切迫していった。
「・・・ぁっ・・・ぁーっ・・・ぁぐぅうっ―――!」
腰を抱きしめ、全存在を埋め込むようにひときわ深く突き入れる。鷲づかみにした
敷布に吸われた悲鳴の代わりに、フミエのきつい肉の花が茂自身を絞りあげて到達を
伝えた。
331:帰宅 11
12/08/31 21:46:23.55 5ScGMKx4
引き抜かれ、余韻に震えている身体を返される。やさしい口づけが落ちてくるのと
同時に、また満たされる――。
「ぁあ・・・。」
思わず満足のため息を漏らしてしまう。しがみつく背が汗に濡れているのすら愛しくて、
唇を寄せて肩の汗を吸った。温かい唇の感触に、茂が少し笑ってその唇を奪った。
「一週間離れただけで、そげに寂しかったか?」
夢見るような瞳で、フミエは汗に濡れた茂の髪をかき上げ、いとしげに頬を包んだ。
「・・・ひとりで寂しくて、こげなことでもしたか?」
頬を包む手をとられ、繋がっている場所へと導かれる。
「・・・ぇ・・・。」
何故わかってしまったのだろう・・・茂の言わんとすることを覚って、フミエは真っ赤に
なった。
図星のようだ。カマをかけただけなのに、閨のこととなると相変わらず初心の妻に、
茂は思わず会心の笑みをもらした。覆いかぶさった身体を少し空けて、敏感になりっぱなし
の芽にフミエの指を置く。その手を下腹で押さえつけ、フミエの脚を閉じさせて、膝立ち
した両脚で挟み込んだ。
「・・・ぁン・・・だ・・・め・・・。」
「・・・したのか、せんのか、白状せえ。」
フミエの指をはさんだまま、狭い入り口を剛直が出入りする。
「ぁあっ・・・ゃっ・・・だめ・・・だっ・・・!」
茂に嘘をつくことなんて出来ない。ましてや身体をつなげている時には・・・。
「・・・しま・・・した・・・っあ・・・おねが・・・ぁ・・・!」
身も世もなく悶えながらフミエが告白した。二人の間に挟みこまれたフミエの手が
引き抜かれ、蜜にほとびた指が茂の口に含まれる。
332:帰宅 12
12/08/31 21:48:02.37 5ScGMKx4
「ぁあ・・・っぁ・・・く・・・あ―――!!」
口から指を抜き、口づけを降らせながら茂がのしかかってくる。後はもう、気がとおく
なるほど突かれ、こすられ・・・フミエはまっすぐに伸びた脚をぴんと突っ張らせ、閉じ合わ
された唇の中に何度も甘い絶叫を吐いた。うすれゆく意識の中で、身体の奥にあたたかく
注がれる生の証を感じていた。
「・・・少し間が空いただけで、そげに寂しくなるとは・・・。」
ぐったりと横たわるフミエの胸の尖りを口に含んで舐め転がしながら、茂が言葉で弄る。
「ずいぶんと欲しがりになったもんだな・・・。」
「ゃ・・・めて・・・ちがっ・・・ぁあ・・・っ!」
もう片方の乳首をぎゅっとひねられ、まだ脈打っているような核心まで衝撃がはしる。
フミエはびくびくとと身をよじって嗄れた悲鳴をあげた。
「はぁ~・・・さて・・・これで当分保(も)つか?」
嬲られても、奪いつくされて動けないフミエを満足げに見やると、茂は唇を離し、傍らに
ごろんとひっくり返って大げさにため息をついた。
「・・・また・・・そげなこと言って・・・。」
(私ばっかり欲しがっとるみたいに・・・。)
フミエはにらむ気力さえなくて、涙にうるんだ目でただぼんやりと茂を見ていた。
「腕をなくした後・・・重心がとれんでうまく歩けんようになってな。何度も転びながら
練習して、やっとまっすぐ歩けるようになったんだ。」
茂が唐突な話題をふるのはいつものこと・・・フミエは気怠げに脱ぎ捨てた浴衣を拾い上げ、
裸の身体に引きかけながら聞いていた。
「脚じゃのうて腕なのに歩けんとはおかしな話だと思うだろ?人間は自分じゃ気づかんが、
絶妙なバランスのうえに生きとるんだなあ・・・。」
初めて聞く話に、フミエは思わず茂の顔をみつめた。
「家族いうもんも、独り身の時は別におらんでも構わんと思っとっても、出来てみると
自分の手や足と同じで、あるのが当たり前になる。それがおらんようになると、
やっぱりなんかこう、調子が狂う、言うかな・・・。」
333:帰宅 13
12/08/31 21:49:09.58 5ScGMKx4
茂はそれだけ言うとう~んとひとつ伸びをして、起き上がって服を着はじめた。フミエも
起き直ってそれを手伝ったが、いつもはいやがる茂が今日はされるがままになっていた。
「・・・ほんなら、よう休めよ。」
茂はなぜかそっぽを向いてそう言い残すと、仕事部屋に戻っていった。
フミエはしばらくポカンとしていたが、浴衣をきちんと着なおして布団に横になり、
茂の言葉を反芻してみた。
(い、今・・・わかりにくいけど、なんか私が必要みたいなこと言うたよね・・・?)
『俺にはお前が必要だ。』なんて間違っても言う男ではないことは、重々承知している
フミエだった。けれど今の唐突な話は、簡潔にまとめるとそういうことではないのか?
こみあげる笑みを抑えるように両手で顔を押し包むと、頬が熱い。
「もっとわかりやすく言うてほしいなあ・・・。けど、ええか・・・。」
腕をのばして茂の布団を撫でる。そっと掛け布団をあげて彼の布団にもぐり込んだ。
(しげぇさん・・・。)
火照った肌にひんやりと冷たい布団に顔を埋め、茂の匂いに包まれる。一昼夜藍子の
守りをしながら汽車に揺られてきた疲れに、愛された後の気だるさと幸福感が加わって、
たちまちまぶたが重くなる。
(なして俺の布団で寝とる・・・って言われるかなあ・・・。)
そう思いながらも、もう眠くて身動きもとれず、フミエは幸せそうに夢の中へと落ちて
いった・・・。
「ぇ~ん・・・ゃだよ~・・・。」
どこかで子供の泣く声がする。フミエはハッと目を覚まして顔をあげた。
「言うこと聞かないと、置いていきますよ。」
「まってぇ・・・おかあちゃ~ん・・・。」
ぐずる幼い女の子と、怒りながら先へ歩いていく母親・・・それはよくある風景だったけれど、
泣いている女の子の姿に喜子がかさなった。
334:帰宅 14
12/08/31 21:50:11.04 5ScGMKx4
「喜子、泣いとるだろうな・・・。藍子も困っとるかもしれん。ふたりの目の前でケンカして
飛び出してきてしもうたりして、どげに心細い思いでいるか・・・。」
フミエは矢も盾もたまらずお堂を出て家の方向へ歩き出した。
(私ったらあげな所で寝込んでしまうなんて・・・。でも、なんかええ夢を見とったような
気がするんだけど・・・。)
子供の泣き声で目を覚ましたため、夢の内容はすっかり忘れてしまっていた。けれど、
フミエの心の中は、何か温かい思いで満たされていた。
「帰ろう・・・私の大切なものは、みんなあの家にあるんだから・・・。」
思い切り泣いてぐっすり眠ったせいか、頭も心もスッキリとして、フミエは夜気の中を
足早に家路をたどった。
「・・・行きましたね。」
さっき泣きながらフミエの前を通り過ぎていった女の子が、物陰でぽん、と男の子の
姿に変じてお堂に戻って来た。一緒に歩いていた母親はどこにもいない。男の子は
祭りでもないのに狐の面をかぶっている。彼は遠ざかってゆくフミエの後ろ姿を見送り
ながら、誰もいないはずのお堂の中に呼びかけた。
「ああ・・・あんなものでよかったのか?あの女の無意識の底に沈んどる記憶のひとつを
適当に選んで見せてやったんだが・・・。」
男の子が話しかけた相手の姿は見えない。ただ厳かな声だけが堂内にひびいた。
「はい・・・。人間なんて気の毒なもんですね。やっと貧乏から抜け出したと思ったら、
忙しすぎて今度は心が離れちまうなんて。いつだってとばっちり喰らうのは子供なのに。
あのひとも、昔のこと思い出して自信を取り戻してくれるといいけど。」」
「ふん・・・親切なことだな。放っておいても、あの女に他に行く所などないだろうに。」
「それでも、早く帰ってやってほしかったんです。あのひとの娘たちがどんなに心細い
思いをしてるかと思うと・・・。」
「ほほぉ・・・。」
「や・・・やだな、そんなんじゃありませんよ。ただ・・・あの娘たちのことは、赤ん坊の頃
から見て来たから・・・。」
もう家に着いただろうか・・・小さな妹をなだめながら、母の帰りを信じて精一杯気づよく
待っているだろう小さな姉娘のことを思いながら、狐面の男の子はいつまでも暗い夜道を
見透かすように目をこらして立ちつくしていた。
335:名無しさん@ピンキー
12/09/01 22:39:39.34 QFmGf1Ww
>>321
GJ!
実家で一人でしちゃうふみちゃんかわいい
最後の不思議な感じもすきです
336:名無しさん@ピンキー
12/09/01 22:42:47.59 jZZ5/GTy
超大作キタ―(゚∀゚)―!!
リアルタイム(再放送だけど)なネタで良いですな
337:名無しさん@ピンキー
12/09/02 06:13:23.30 YpZPoZu9
>>321
茂さんの最後の告白がすっごく素敵~。
GJです!
338:名無しさん@ピンキー
12/09/03 23:01:51.57 Uxi+ydrx
>>321
GJ!
339:名無しさん@ピンキー
12/09/05 23:31:34.79 rheSeq/J
>>321
ふみちゃんは実家でひとりなぐさめちゃうくらい、
ゲゲさんも着替えの手伝いを受け入れちゃうくらい寂しかったのか…!
濃密でかわいい夫婦GJでした!
340:名無しさん@ピンキー
12/09/07 17:08:45.62 1HIWLfFm
熟年ゲゲふみもたまらん
イカルのくれた鰻で…って本スレの書き込みにニヤニヤしてしまったw
341:名無しさん@ピンキー
12/09/08 20:30:16.79 R7kN2lsV
今日の最後の楽園の間でのいちゃつきっぷりがもう
かわいすぎる
342:名無しさん@ピンキー
12/09/09 19:58:43.30 +GdE0RKT
今週のイチャイチャは質の高いイチャイチャだったよね
かわいいけど、かわいいだけじゃない深いものだったと思う
343:名無しさん@ピンキー
12/09/09 22:14:40.37 K/u1luir
前にも書いたかもだけど
(お互いが)結婚した相手に初恋するって凄いな
しかも一途だし
344:名無しさん@ピンキー
12/09/11 17:06:48.39 kqsMFXlU
今朝のイタチの「俺が信用できんのか?(ウロ)」に
ゲゲが「信用できん!」と答えた後ろで大きくうなずくフミちゃんワロタw
かわいいったらないわw
345:名無しさん@ピンキー
12/09/12 17:53:55.03 u+QIoruP
>>344
あれ即答っぷりに笑えるし、頷くふみちゃんかわいいし、良いシーンだよね
今日のおやおやあららとかその後の知らんよとか、夫婦っぷりがたまらん
346:名無しさん@ピンキー
12/09/13 23:08:58.21 MreR01Op
新婚のどぎまぎも熟年の安定感も楽しめる
ゲゲふみは本当に神夫婦だわ
347:名無しさん@ピンキー
12/09/14 23:05:14.70 hwiB+zas
>>345
夫婦っぷりといえば今日の仲人に行く前の二人は最高だった!
ふみちゃんが和服なのもポイント高い
348:名無しさん@ピンキー
12/09/15 22:43:03.57 Fff0Tjb8
イトツとイカル、良かったなぁ
>>347
和服ふみちゃんの美しさは異常
349:名無しさん@ピンキー
12/09/15 23:56:18.72 /MRgx3uq
あんなに美しいフミちゃん見たら…あの晩はやはり…でしょうね
350:名無しさん@ピンキー
12/09/16 14:17:39.47 AQgrWuaz
>>349
しげぇさん、あの時はぐでんぐでんに酔っ払っていたけど
奇跡の復活を果たすんですね、わかりますw
351:名無しさん@ピンキー
12/09/18 09:51:07.09 0mRvrSQ3
かなり前になりますが、2編ほどイトツとイカルの若かりし頃の話を書きました。
一応その続編、になります。
脇キャラに興味のない方はスルーでお願いします。
終盤はつまらない、と言う書き込みを見るたびに「『人生は活動写真のように』が
あるじゃないか!」と思っていたくらい、この週が好きでした。
再放送で、終盤の他の週も十分面白いと思えたけど、やっぱりこの週は特別です。
・・・序盤・中盤が面白すぎるせいで終盤は減速して見えるんでしょうかね。
352:或る夜のできごと 1
12/09/18 09:52:08.73 0mRvrSQ3
「ねえ、お父さんまだ帰って来ないの?」
「・・・さあ。今夜もお仕事の話で遅うなるんでしょ。あんたはさっさと寝なはい。」
ある夜。茂は父の修平の帰りを待っていた。手には毎晩夜遅くまで勉強のべの字も
せず没頭して仕上げた、何十ページにも渡る絵物語が握られている。
「でも、約束したんだよ!絵を見てくれるって。」
「早こと寝んとまた明日寝坊しますよ!それよりあんた、宿題はやったの?」
しまった、母は虫の居所がわるかったらしい。イカルの名のとおりよく怒る母の
こめかみに青筋が立ち始めたのを見て、茂は早々に部屋に引き上げた。
「ちぇっ・・・最近イカルの奴、いっつも機嫌がわるうてかなわん。」
茂は子供部屋に戻って机の上に大作を放り投げた。兄の雄一が何事かと問いかける。
「・・・不景気な面して、どげした?」
「イトツまだ帰って来んのかって、イカルに聞いたら怒られた・・・。」
雄一は布団の上に寝転んだままおかしそうに笑った。
「ははは・・・よりによって一番聞いたらいけんことを聞いたな。」
「イカルは、イトツが大阪から帰って来るとたいてい機嫌がようなるのになあ・・・。」
「帰って来たってちっとも家におらんのだけん、イカルが怒るのも無理ないが。」
「どこで何しとるんだ?・・・イトツは。」
「ふふん・・・まあ子供にはわからんよ。」
「オラァもう子供じゃねえぞ!仲間やちからも将来はガキ大将に推されとる。」
「お前のそういうところが子供だというんだ。・・・まあええ、宿題はやったのか?」
「う・・・。」
雄一も母と同じことを言う。同じようにコロコロと育っても、雄一はさすがに長男だけ
あってやるべきことはやっている。茂と違って遅刻もなく、教師の覚えもめでたくて
旧制中学校への進学を勧められていた。
「お前もなー・・・せめて中学くらいは出とかんと上の学校に行けんぞ。」
「わかっちょーわ!」
353:或る夜のできごと 2
12/09/18 09:53:06.93 0mRvrSQ3
「俺は長男だけん、今からちゃ~んと将来のことを考えとる。・・・今、ウチはイトツが
珍しく仕事が長続きしとるけん余裕があるが、あげに芸者遊びばっかりしとったら、
どうせまたピーピーするじゃろ。兵学校なら学費がいらんけん、俺は海軍兵学校に
行って将校になーだ。」
「兄ちゃん、オラも!オラも海軍さんになる!」
茂は興奮して大声をあげた。茂ぐらいの少年で海軍さんに憧れない者はいない。
「ダラ!お前のような阿呆が兵学校に行けるもんか。だいいち、軍隊は規律がきびしい。
お前みたいな寝ぼすけの屁こき野郎にはとうてい勤まらんわ。」
「な、なんだと?!もういっぺん言ってみれ!」
茂は雄一につかみかかったが、そこは小学校五年生と三年生の違いで、とうてい腕力で
かなうものではなかった。たちまち押さえ込まれ、ぽかりとひとつくらった。
「お前は絵しか取り得がないんだけん、その道に励めばええ。これからの世の中、
それで食っていけるかどうかはわからんがな。」
茂は悔しかったが、兄の言うことにも一理ある。海軍さんにはもちろん憧れるが、
寝坊できないのはたまらないし、絵の道も捨てがたかった。
芸術が好きな父の修平は、茂が勉強ができなくとも一度も怒ったことがなかった。
絵を見せるとうまいうまいと誉めてくれ、絵の道具も買い与えてくれる。茂はそんな
父が大好きだった。
だが、父の修平は、映画館を経営に乗り出すも映写機を盗まれて失敗し、時をほぼ
同じくして勤め先の銀行もクビになって、今は単身大阪に働きに行っていた。母の絹代は
夫の留守を気丈に守っているが、腕白ざかりの三人の男の子を抑え込むためには、イカル
の名のとおり、怒るばかりの毎日にならざるを得なかった。
(イトツがおらんと家が静かだな・・・時計の音がやかましく聞こえるわ。)
誰も口には出さないけれど、父の不在をそれぞれが強く感じていた。けれど、その父は
せっかく境港に帰ってきても、営業だ寄り合いだと言って出かけては遊興し、朝まで
帰って来ない日もしばしばだった。
354:或る夜のできごと 3
12/09/18 09:54:00.44 0mRvrSQ3
(芸者あそび・・・鬼ごっこでもするんだろうか?ええ大人なのに、そげなことして
面白いんかな?)
芸者という者を茂は見たことがないが、境港にもいる女郎をもう少し高級にしたもの
らしい。髪を高く結い上げてこってりと厚化粧し、びらびらの着物を着た女とイトツが
座敷で追いかけっこをしている光景が目に浮かび、少年はますます怪訝な顔になった。
「なして女なんぞと遊ぶんだろう?弱さが伝染るだけなのに・・・。」
女とは弱くてつまらないものとしか認識していない軍国少年の茂には、芸者あそびなど
という物はまったく理解の外だった。
「早こと帰って来い、イトツ・・・。イカルが機嫌わるうてかなわん。」
茂は乱雑に放り出した絵を拾い上げて丁寧に並べなおした。真っ先に父に見せようと、
懸命に描きあげた絵は、まだ乾ききっていない部分が前のページにくっついてはがれて
しまっていた。茂はため息をついてそのページを描き直しはじめた。
その夜おそく。一滴の酒も入っていないのにご機嫌の修平が、艶っぽい小唄など
歌いながら村井家に帰ってきた。
「お~い、ご帰館だぞ~。」
玄関の鍵をようとして、鍵がかかっているのに気づく。
「おい、開けてくれ・・・誰かおらんのか?おい、絹代・・・雄一!茂か光男でもいい。
誰か開けんか、こら!」
戸をガタガタと鳴らし、妻はおろか子供全員の名を呼ぶが、玄関も窓々も真っ暗で、
誰も起きてくる気配もない。
「あいつらはいったん寝込むと雷が鳴っても起きんからな・・・。おい、ばあやか誰か
おらんのか?」
ぼやきながらしかたなく勝手口にまわるがやはり鍵がかかっており、こんな時間では
通いのばあやもいない。
355:或る夜のできごと 4
12/09/18 09:55:01.38 0mRvrSQ3
「弱ったな・・・。こげなことなら米子に泊まってしまえばよかった。」
単身赴任先の大阪から帰るたび、修平は営業のためだの何だのと理由をつけて、
境港よりも大きな町の米子まで繰り出しては遊んでいた。まだ深い仲ではないものの、
染香という芸者に入れあげて、金はあまりない代わりに持ち前の調子のよさで、
なんとか懇ろになろうとて足しげく通っているのだった。
「だがまあ・・・妓(おんな)に色よい返事ももらえんのにひとりで茶屋に泊まるなぞ
阿呆の骨頂だけんな。・・・掛かりだって高うつくし。」
修平は家の者を起こすのをあきらめて踵を返した。
「この時間では知り合いの家に頼るのも外聞がわるい・・・しかたない、雨露のしのげる
ところへ行くか。」
家の門を出ると、朧月夜にぽつりぽつりと雨が落ちて来た。
「春雨じゃないが、濡れてまいろうか・・・。」
得意のセリフを言いながら歩き始めたものの、雨はみるみる激しくなって、修平は
あわてて走り出した。
「やれやれ・・・えらいこと濡れてしもうた。」
軒下に走りこむと、背広を脱いで水滴を払い、ハンケチを取り出して濡れた頭を拭いた。
修平が着いたたところは、彼が一昨年まで経営していた映画館の建物だった。元々あった
芝居小屋を、芝居の公演のない時だけ借りていたのだが、この不況で田舎廻りの一座も
来ぬ小屋は閑散として、傾いた『境港キネマ』の金文字があわれを誘った。
「カギはあったかな・・・おや、開いとる。無用心だな・・・。」
きしむドアを押して中へ入ると、うら寂れた木戸口に古い映画のチラシが落ちている。
修平はなんの気なしにそれを拾い上げてからホールのドアを開けた。
(ん・・・?灯りがともっとる・・・も、もしやお化け・・・?)
客席の一番前、ステージに近いところにぼんやりと灯りが見える。修平はあわてて
スイングドアを開けて逃げようとして、ドア下部の金属の板にしたたか足をぶつけた。
「痛っ・・・いたたたた・・・!」
「・・・!誰っ・・・?!」
女の声がし、洋燈の光がさしつけられた。
356:或る夜のできごと 5
12/09/18 09:56:02.58 0mRvrSQ3
「あなた・・・?!」
暗くてよくわからないが、声の主はなんと妻の絹代だった。
「な、なしてお前がここにおる・・・。」
まぶしさに顔をしかめ、両手で頭を庇った情けない姿の男は、今の今まで彼女の胸を
悩ませていた夫に他ならなかった。
「お前がおらんけん、家に入れんだったんだぞ。」
恨みがましくそう言う修平に、絹代はぴしゃりと言い返した。
「帰ってくるか来んかわからん人をそげにいつまでも待っとれません!」
「む・・・。それなら家で寝とればええ。こげな時間に女ひとりで、物騒でなーか!」
ちゃらっと音がして、絹代が修平の手に鍵の束を押しつけた。
「勝手口の鍵です・・・あなたは帰って寝てごしない。私は朝までここにおーますけん。」
「そげなわけにいくか・・・!」
「放っといてごしない!私はひとりになりたいの!」
絹代は渾身の力で修平の身体をぐいぐいと出口のほうへ押し戻そうとした。
「何を意地はっとるんだ。一緒に帰ろう。」
小柄だけれど絹代の気性はおそろしく激しい。その気迫にはたじたじとなるけれど、
そこはか弱い女の力、いくら押されても修平は一歩も動くことはなかった。
(俺がよその女にかまけとるけん、ヤキモチ妬いとるのか・・・。)
そう思うとなんだか可愛く思えて、修平は押されるがままになっていた。
「ええけん帰ってごしなさい!家に入れればそれでええでしょ?」
動こうとしない修平に焦れて、絹代はズボンのポケットに無理やり鍵を押しこもうとした。
それを突っぱねようと伸ばした修平の手に握られたチラシがクシャクシャと音をたてた。
「・・・ほれ見い。くしゃくしゃになってしもうた。」
修平はしわになったチラシを膝の上で丁寧に伸ばして、絹代に渡した。
「・・・何ですか?これ・・・。」
絹代が紙片に洋燈の灯りを差しつけ、メガネを直して渡されたものをよく見た。
357:或る夜のできごと 6
12/09/18 09:56:54.78 0mRvrSQ3
「・・・映写機が盗まれる前、最後にかけた映画を覚えとるか?」
「ええ・・・。」
「あれは受けんだったなあ・・・。田舎もんには、まだ洋画は早すぎたかもしれん。」
「でも・・・私は好きでした。」
絹代は先ほどまでの激昂ぶりはどこへやら、座席に座りなおして、洋燈の灯りの下で
懐かしそうにチラシをみつめた。危なっかしい夫が始めた映画館の経営を、文句を
言いながらも手伝っていた絹代だった。口に出しては言わないけれど、絹代にとっても
この映画館は、修平とふたりで築いた大切な思い出なのだ。
「主人公の女がお前そっくりのジャジャ馬だけんな。・・・まあ、俺はこげな狆がクシャミ
したような顔より、お前の方がええけどな。」
修平は絹代の隣りに腰を下ろすと、ネクタイをゆるめながら絹代の顔をのぞき込んだ。
絹代はプイと横を向いた。
「おあいにくさま。私は、あなたがゲヱブルより美え男だなんて言いませんよ。」
「お前はリヤリストだのう。」
「・・・顔で人を好きになるわけだありませんけんね。」
そっぽを向いたままの絹代の顔がみるみる赤くなる。修平はニヤリと笑うと、腕を
伸ばして絹代の肩を抱き寄せた。
「意地っ張りめ・・・。」
修平の手を突き放そうとする手を座席のひじ掛けに縫いとめて唇を奪う。
「ぃや・・・んっ・・・。」
細い手首を押さえつけ、頑なに閉じた唇を舐めると、震えながら開いて修平の舌を
迎え入れる。じたばたと暴れる脚の間に膝を割り込ませてのしかかり、抱きすくめて
口中を責める。ひじ掛けをつかんでいた絹代の両手が、いつしか夢中で修平の背に
回され、つよく抱きしめた。
「は・・・ゃ・・・こげ、な・・・ところで・・・ぁあっ・・・。」
唇をむさぼりつつ、修平は早くも襟元から手を差し込んで柔らかな乳房を揉みしだいた。
深夜、閉館されたとは言え、こんな公共の場所での行為に抵抗を覚えながらも、絹代の
唇からは甘いあえぎが漏れてしまう。
358:或る夜のできごと 7
12/09/18 09:58:25.44 0mRvrSQ3
「いけ、ん・・・やめ・・・てっ・・・!」
修平がもどかしそうに着物の襟をつかんで帯から引っ張り出した。はだけた胸元から
こぼれ出る両の乳房は夜目にも白く、いつぞや修平が与えた香水と入り混じった
絹代の肌の香がたちのぼり、官能の記憶を呼び覚ます。
「は・・・ぁあん・・・ぁっ・・・や・・・。」
紅い実を口に含んで舐め転がしながら、もう片方をこねるように揉みあげてやる。
甘い責め苦からのがれようと次第に座席の上へとずり上がっていく絹代の片脚を、
ひじ掛けに引っかけるようにして裾を開かせると、地味な水色の蹴出しの下の紅い
湯文字がちらりと目を射る。その下の秘所に手を差し込むと、予想どおり豊潤な蜜が
指を濡らした。
「ゃっ・・・こげな、ところで・・・野合なんて・・・いや・・・っ!」
潤いを確かめられ、この後に待っている行為を予測して、絹代が激しく抗った。
「こげに濡らしとるくせして・・・ほんなら、挿入れてほしい言うまでおあずけに
してやらか?」
修平が意地悪く耳に注ぎ込む淫らな言葉が、毒のように絹代の自尊心を蝕む。
「・・・ぃや・・・いや・・・ぁあ・・・。」
絹代の身体を知り尽くしている修平の手管の前には、絹代の意気地も風前の灯だった。
たまにはこんな所で情交に及ぶのもおつなものだ・・・。紳士にあるまじき場所での
行為に劣情を刺激され、修平の中心にも力が漲りわたっていた。
(昼間はおっかないが、こいつもこうなれば可愛いばっかりだけん・・・。)
明治生まれの夫婦としては珍しく、絹代は修平にポンポンものを言い、修平はそれを
甘受していた。絹代の気の強さに辟易し、少しでも隙があればよその女に目が行く修平
ではあるが、彼は彼なりにこの妻を存外愛しているのだ。
娘時代から度外れて気が強く、修平と祝言を挙げてからも結ばれるまでひと悶着
あった絹代だが、閨の中ではうって変わって従順でかわいらしく、修平の思うままに
染められていった。絹代の気性の激しさは、名家の生まれと没落の憂き目という
生い立ちから来る矜持と負けん気によるもので、初めてその堅固な障壁をやぶって
柔らかな内部へと侵入を果たしたのが修平であった。
それから十年あまり、ただでさえ移り気な修平が、絹代に愛想をつかしもせず
三人も子を生したのは、昼間の猛妻ぶりと閨での可愛さの落差のせいかもしれなかった。
359:或る夜のできごと 8
12/09/18 09:59:34.57 0mRvrSQ3
(もう、ひと息だな・・・。)
修平は床に膝をついて絹代の両脚の間に身体を割り込ませた。ひじ掛けに掛けた方の
脚を押さえ、長い指を蜜壷にゆっくりと沈ませる。
「ひぁあっ・・・だめ・・・っだめぇっ・・・!」
絹代は腰をよじって抵抗するが、修平はかまわずに指を折り曲げ、別の指で核心を
やわらかく圧した。
「ゃめ・・・て・・・おねがい・・・。」
よわよわしい声で絹代が懇願する。口ではやめてほしいと言いながら、修平の指を
締めつける肉の花は熱くふくよかに充血して、もっと大きな充足を欲していることを
修平に告げていた。
「ここは欲しい、と言うとるぞ・・・挿入れて、とひとこと言えばええのに。」
「・・・そ、そげなふしだらなこと、言えません!」
「・・・ほうか。ほんなら、おあずけだな。」
修平はつぷり、と指を抜くと、乳首に蜜を塗りつけ、こすり合わせて苛みはじめた。
「・・・は・・・ぁあ・・・ン―――!」
開かされたままの秘口は放ったらかしにされ、ずきずきと疼いて涙をこぼし続けている。
絹代はたまらずに腰をよじりたて、声を漏らすまいと奥歯を噛みしめた。
「そげに歯を食いしばっとると、奥歯がすり減ってしまうぞ。」
修平は絹代の柔らかい頬をつかんで口を開けさせると、唇を舐め、何度もはげしく舌を
出し入れした。淫らな口づけはいやでも他の行為を連想させ、爆発的にせりあがって
くる情欲の前に絹代の自制心はもろくも崩れ去った。
「・・・挿入れて・・・ほしいか?」
先ほどからの絹代の痴態を見るうちに、修平もこれ以上我慢できなくなっていた。
「・・・は・・・ぃ・・・。」
目に涙をいっぱい溜め、荒い息をつきながら絹代が蚊の鳴くような声でこたえた。
「早こと言えばええのに・・・まあ、お前のそういう素直じゃないとこがええんだけどな。」
修平は立ち上がって絹代を見下ろした。映画館という公共の場所で、胸乳をあらわに
髪を乱し、両脚を大きく開いて肌蹴た湯文字の間から秘部をさらしている妻は、何者かに
陵辱された後のようで、修平の劣情を激しくあおった。
360:或る夜のできごと 9
12/09/18 10:00:33.49 0mRvrSQ3
「・・・立てるか?」
ひじ掛けに引っかけられたままの脚を下ろしてやり、肩につかまらせて立たせてやる。
足に力が入らない絹代をなかば抱きかかえるようにしてステージの方を向かせる。
「・・・ぃ、いやです・・・こげな恰好・・・!」
ステージに腹ばいにさせ、裾をまくりあげる。立たせたまま後ろから貫く心づもりと
気づいた絹代が憤慨して振り返る。修平はズボンの前を開けて硬起したものを解放し、
誇示するように突きつけた。
「ええけん、黙って前を向いとれ。」
しとどに濡れた裂け目を、押し当てられた屹立で前後にこすられ、絹代がへなへなと
くず折れそうになる。修平は両手で双の内腿をつかんで拡げ、ずくりと埋め込んだ。
「・・・ぁ・・・ぁあああっ―――!」
焦らされ、充足を切望していた肉身が歓喜に慄える。絹代の両脚は完全に床から離れ、
小柄な肢体がぴんと張りつめた。つかんだ手の中でわななく細い腿が痛々しくて、一瞬
胸を衝かれたが、力をゆるめずにぐい、と押し挿入れる。
「・・・はぁ・・・ぁ・・・やっ・・・ぁあ・・・!」
完全に繋がると、ステージの床に押しつけられた乳房を揉みしだきながら、より深く
えぐった。啼きながら前へと逃れようとする腰をつかんで容赦なく剛直を出し入れする。
絹代の指が、すがるものを求めて木の床に爪を立てた。
「よせ・・・爪が剥がれるが。」
修平が手をつかんで上から指をからませてやると、震えながら握り締めてくる小さな手に、
いたいけなさと同時に嗜虐心をあおられる。そのまま後ろから口づけながら結合部を
揺すぶると、絹代は小さくてかたちのよい臀をよじらせ、もう身も世もなく嗚咽した。
「もぅ・・・も・・・達きます・・・け・・・。」
修平の脚に藤蔓のようにからまった脚が更にきつくからみついてくる。ステージの縁に
つかまらせてやった手の甲を噛んで嬌声をこらえた分、絹代の秘唇はよりつよく修平を
締めつけて絶頂をつたえた。
361:或る夜のできごと 10
12/09/18 10:01:37.89 0mRvrSQ3
「ぁ・・・っあ・・・ぁあ・・・。」
まだうち慄えている身体からぐいと引き抜く。がくりと膝をつきそうになった小さな
身体を支えて、ひょいと抱き上げた。
「ひゃっ・・・や、やめて・・・。」
ほんの二、三歩・・・絹代を抱いたまま歩いて、座席に腰を下ろした。
「二回戦だが・・・。」
こちらを向かせて自分の上にまたがらせると、有無を言わさず男と女の部分をつき合わせ、
絹代の腰をつかんで押し下げる。
「だっ・・・だめぇっ・・・んぁ―――!」
今さっきまでぴったりと一つになっていた雌雄は、いとも簡単に再び溶け合った。
「く・・・。」
修平も眉根を寄せ、小さく声を漏らして強い快感をやり過ごした。雨に濡れた髪が額に
垂れて、端正な顔に男の色気を添えている。絹代は涙にかすむ目をうすく開け、自分を
貫いている男の官能的な表情をいとおしげに見つめた。
「なぁ・・・知っとるか・・・?」
ゆっくりとひとつ、深い口づけをくれてから修平が尋ねた。ただ繋がっているだけで
ずくずくと湧きあがる快感に苛まれる絹代は返事をすることもできない。
「・・・おい、聞いとるのか・・・?」
息も絶え絶えに涙に咽んでいる絹代に、答える余裕などないことをわかっていながら
修平は、意地悪く下からつきあげて返事を催促した。
「ひぁっ・・・な・・・にを?・・・ぁあっ・・・!」
何の問いかわからぬままに責められて、絹代はのけぞった。辛うじて修平の腕をつかみ、
身体を支えて荒い息をついている絹代の乳首を、ぎゅっとひねってやる。強い快楽に
支配された身体には、痛いくらいの刺激ががちょうど良い。
もう片方の乳首も捻り上げ、絹代が苦痛にも似た快感に身悶える様を満足げに観察
しながら、修平はいつもの薀蓄ばなしのような調子で唐突に話し出した。
「・・・くろうとの女はな、客は取っても唇はゆるさんと言う。間夫(まぶ)ともなれば
話は別だが。別に客もそんなことは望んでおらんしな・・・。」
362:或る夜のできごと 11
12/09/18 10:02:49.26 0mRvrSQ3
「・・・・・・?」
あえぎ果て、啼きつかれた絹代はわけが分からず呆然としている。激しい行為のために
はずれかけて曲がっている絹代のメガネを、修平がすっと取って隣の座席へ置いた。
涙に濡れた頬を両手でそっと包んでやさしく口づける。
「ふぁ・・・ぅ・・・。」
「・・・口を吸いあうのは本気の相手だけ、いうことだ。」
ぴくり、と絹代の小づくりな肢体がふるえた。ざわざわと総毛だつような感覚に見舞われ、
修平の胸に顔をうずめて必死で耐える。
「ふ・・・お前は、ここは素直なんだなあ。」
「・・・な・・・にが、です・・・?」
「嬉しいことを言われて、なかがきゅうっと締まったが。」
「そ・・・そげなこと・・・!」
羞ずかしさに、絹代はキッと顔をあげて怒りの眼で修平を見返した。
「ほぅ・・・そげな威勢が残っとったか。」
修平は絹代のぷっくりとした下唇を歯ではさみ、何度も甘く噛んだ。
「・・・ぁ・・・ン・・・っは・・・。」
たちまち快感に蕩けてくる舌をもとらえて噛み吸ってやると、絹代の手ははもう修平の
腕をつかむ力も失くしてだらりと垂れ下がった。
「・・・ぁあ・・・もぅ・・・達く・・・あなた・・・。」
ぐったりと身体をもたせかけた絹代の双丘をつかんで己が腰に引きつけ、小刻みに揺すぶる。
絹代は修平の肩に顔を押しつけ、せつない声で耳に到達を囁きつづけた。
「そげな小声でのうて、もっとええ声で啼け。」
絹代の腋に腕を入れて起こし、二度三度と強腰で下から突き上げる。
「ぁっ・・・ゃあっ・・・だめぇっ・・・あ――っ!」
修平の腕の中で痛々しいほど背を反らせ、絹代ががくがくと全身をけいれんさせた。
「外に・・・出すか?」
つよい射精感をこらえながら、修平が尋ねた。
「・・・・・・なか・・・に・・・。」
ふるえて掠れる声で、絹代が答えた。
「子が出来ても、ええのか・・・?」
「・・・はい・・・。」
佳境にさまよいながら、絹代がしあわせそうに微笑んだ。次の瞬間、勢いよく迸る種子を
最奥に浴びせかけられ、幸福感の中で絹代の意識が遠のいた。
363:或る夜のできごと 12
12/09/18 10:04:01.45 0mRvrSQ3
ふと気づくと、絹代は座席にひとり座らせられていた。そばでは修平が立って
ネクタイを結んでいる。絹代を抱く間も、修平はワイシャツと、サスペンダーで吊った
ズボンを身に着けたままだった。こんな場所で自分をさいなみ、なかば気を失うほど蹂躙
しておいて、自分だけさっさと紳士の装いを取り戻している夫を勝手な男だと思いながら、
その姿から目を離すことが出来ない。
(・・・芸者に会いに行くからって、あげにお洒落して・・・。)
ぴんと糊のきいた白いシャツにネクタイ、仕立てのよい背広に、伊達なサスペンダーで
吊ったズボンの折り線にはピシッと火のしが当てられている・・・。お目当ての妓のところへ
行くとて修平がするこうしたお洒落も、結局のところ絹代が用意したものなのだ。
(たまに優しうしてくれても、また他の女の所へ行ってしまうんだろうか・・・。)
ひさしぶりに濃密に愛され、嬉しいことを囁かれた幸福感が、すぅっと醒めていく。
重だるい腕で散らされつくした我が身を庇いながら、絹代は甘い夢から覚めた物哀しさに
身をゆだねていた。
「外で待っとるけん、ゆっくりでええぞ。」
まだ身動きできぬまま、あられもない姿をさらす絹代の襟と裾をあわせてやり、襟の間に
懐紙をしのばせてやる。洋燈を残し、真っ暗な中をホールから出て行く修平を、絹代は
座席の背に身体をもたげたままぼんやりと見送った。
(ゆっくりでええなんて言うて、せっかちのくせに・・・。)
待たされることが嫌いな修平のために、絹代は重い身体を引き起こして身支度にかかった。
帯を解いてしまうと面倒なので、引っ張り出された襟と裾をなんとか帯に押し込んで直す。
髪の乱れを撫でつけてメガネをかけると、落ちていたチラシを拾い上げて大事そうに帯に
しまい、洋燈を手に外へ出た。
「あなた・・・?」
映画館の入り口に、タバコを吸っている男のシルエットが見える。雨上がりの空は雲が
切れて月が顔を出し、つよい光を修平に射しつけていた。
「・・・おう。」
修平が気がついてこちらを振り向いた。ちょっとまぶしげに目を伏せ、ゆっくりと近づいて
来る絹代は、心なしか足取りが覚束なく、いつものきびきびとした彼女とも思えなかった。
(・・・ちょっこし、苛めすぎたかな・・・?)
自らの男の力に征服されつくして弱っている女というものは、いやがうえにも男の自尊心を
くすぐるものだ。
364:或る夜のできごと 13
12/09/18 10:05:31.67 0mRvrSQ3
「・・・おぶってやらか。」
修平はタバコを映画館の足つきの灰皿にこすりつけて消すと、背広を脱いで絹代に渡し、
しゃがんで背を向けた。
「え・・・ええですよ。ちゃんと・・・歩けますけん。」
情交の名残でうまく歩を運べないと思われるのが羞ずかしく、絹代はことわった。
「ええけん、おぶされと言うんだ。」
修平は強引に絹代を背負いあげると、月明かりの中を歩き始めた。
外はかまびすしいほど虫が鳴きすだいている。
「もぉ・・・鞄より重いもの持ったこともないくせに・・・。」
絹代はそう言ったけれど、いつも『静養第一』で、身体を使う仕事など決してしない
修平でもさすがに男だけあって、広い背中の乗り心地は悪くなかった。
「・・・これが、美女を盗み出して嬉しい道行(みちゆき)とかならええんだがな・・・。」
「また芝居の話ですか・・・ええかげんにしてごしない。」
「芝居じゃあない。伊勢物語だ。・・・お前はほんに情趣を解さん女だのう。」
「ほんなら私は鬼に喰われるんですか・・・。私だって物語は好きだけど、あなたのように
情趣だの風流だの言うとる余裕がなーだけですが。」
修平はすこし胸が痛んだ。絹代は少女の頃才媛であったと聞くが、家の没落が彼女に
女学校以上の教育を許さなかったのだ。今でも本や物語が好きではあるが、三人の
育ち盛りの男の子の世話や、決して豊かではない家政の切り盛りに追われ、絹代には
修平のように芸術をたのしむ暇などないのだった。
「物語といえば・・・茂は今夜ずっとあなたのお帰りを待っとったんですよ。お父さんに
絵物語を見てもらうんだ、言うて・・・。」
「おお、忘れとった・・・茂に悪いことしたなあ。」
「茂だけじゃあーませんよ。雄一だって光男だって、あなたが大阪に行かれとると、
時計の音ばっかり響いて家の中が静かでつまらんって・・・。」
「・・・これからは、なるべくあいつらと遊んでやるかな。」
365:或る夜のできごと 14
12/09/18 10:06:35.78 0mRvrSQ3
「ええ・・・大阪から帰っていらした時くらい、よそへはいらっしゃらないで・・・。」
修平がいなくて一番寂しいのは自分なのだけれど、絹代は子供にかこつけて修平が
境港にいる間、紅燈の巷へと浮かれ出ることを禁じたのだ。
「お・・・おう。わかった。」
絹代の声に混じる、必死な想いにほだされ、修平はついそう答えてしまった。
「本当に・・・?約束ですよ。」
絹代が、自分の脚を支える修平の手をさぐって、小指に指をからませた。
(南無三・・・染香ともこれまでか・・・。まあええ、脈があるようでもなかったしな。)
修平は少し残念に思ったが、日頃離れて暮らしているのに、帰って来た時まで遊び
歩いて妻子を放ったらかしにしていた自分を反省する気持ちにもなった。
立ち止まり、安心させるように絹代の小指をぎゅっと握ってやってから肩へ戻して、
修平はまた歩き続けた。
温かくて広い背中に身をゆだねているうち、幸福感と愛された疲れで眠くなって
しまったらしく、肩につかまる絹代の手の力がゆるんだ。
「・・・こら、寝るな!寝ると重くなるけんな。」
「きゃあ!」
揺すり上げられ、絹代は悲鳴をあげて修平の肩にしがみついた。ワイシャツの肩に
食い込む細い指の感触に、修平はふと微笑んだ。このちょっと変わった、けれど
可愛い女と歩んできた人生と、二人の間に生した子供たちがいとおしくてならない。
「茂の奴はほんに絵が好きだなあ・・・。死んだ昇三おじさんの生まれ変わりかもしれん。
絵だけでのうて、それに物語をつけるのも得意だな。そこは俺に似とる。」
「そげですねえ・・・。勉強はちーっともしませんが。」
「まあ、嫌いなもんは無理にやらんでもええ。好きな道で生きられたら、それが
一番しあわせだが。」
「・・・そげに上手くいきますかねえ。」
「絵と物語両方の才能が生かせる仕事・・・そげなものがあるとええがなあ。」
ふたりはいつになく穏やかに子供たちのことを話しつづけた。背負い背負われた
身体の重なりから、情を交わしたばかりのお互いの肌のぬくみが伝わってくる。
いろいろ悩みはつきないけれど、ふたりでひとつの影は、今はこのうえない幸せに
浸りながら月夜の道を歩いていった。
366:名無しさん@ピンキー
12/09/19 21:03:49.17 uk+0Z+HG
>>352
イトツとイカル!GJ!
思い出の、でも朽ちかけてる劇場で…というのがたまらんでした!
367:名無しさん@ピンキー
12/09/20 23:43:49.06 JpOX13ct
おかあちゃんをいじめるなに萌え転がった
>>352
イトツのSさがゲゲさんに通じるものでなんかいいなと思ってしまったw
GJでした!
368:名無しさん@ピンキー
12/09/22 21:24:02.64 miFcXkx7
>>367
あのセリフはヤバイ
さらっと言ってるのがより妄想を掻き立てる
369:名無しさん@ピンキー
12/09/22 23:14:40.08 Lk3oDLf6
妄想
「おかあちゃんをいじめていいのは俺だけだ」とか?
370:名無しさん@ピンキー
12/09/23 20:03:51.34 G2h1Vh8f
静かに言ってるのが無意識な独占欲の表れみたいでなんかいいよね!
熟年期のデレは濃くて深くて、リアル夫婦の今のデレにつながってる感じで良いよね
371:名無しさん@ピンキー
12/09/24 18:36:32.51 rceDmw5a
うん
ゲゲはフミちゃんに対して独占欲強いと思う
貧乏どん底でも働きに出さなかったし
基本的には自分の仕事にも関わらせたくないタイプ
フミちゃんには自分の奥さんって部分だけでいて欲しかったんじゃないかな
ある意味、男らしいんだけどねw
372:名無しさん@ピンキー
12/09/26 19:31:57.10 cXREiyBR
もう今週で終わりとか信じられない…
再放送でもがっつり萌えさせてもらった
373:名無しさん@ピンキー
12/09/27 23:10:11.04 ymOBekE/
「着物作れ」からの「お、ええな」
そして明日の最大のデレ
ほんともう!ゲゲふみかわいい!
374:名無しさん@ピンキー
12/09/28 13:53:00.55 zPq6HkrN
>>373
花束を渡す動のデレと、涙をながしてるところへの肩ポンの静のデレ
二度美味しかったね
375:名無しさん@ピンキー
12/09/28 18:43:55.35 q4Ng7w6r
手がふれ合うところが萌えすぎてヤバかった
376:名無しさん@ピンキー
12/09/29 22:12:32.04 wtUWMJlW
ああ終わっちゃった…
ありがとうゲゲふみ
377:名無しさん@ピンキー
12/09/30 19:25:36.07 OFhEtIfU
次の朝ドラ、キスシーンがあるらしい
その上、宣伝ポスターはヒロインが相手役に思いっきり抱きついてる写真だた…
何故ゲゲふみはないのかと・・・
378:名無しさん@ピンキー
12/10/02 20:36:12.40 YGRz2xJ0
>>377
抱きあうくらいは見たかったかもなぁ
ゲゲふみがだめならゆうあや…!
379:名無しさん@ピンキー
12/10/04 22:05:16.65 kGskPJNs
本スレのいろんな考察にじたばたごろごろしたくなる
ゲゲさんやっぱふみちゃん大好きなんだな!
380:名無しさん@ピンキー
12/10/05 11:20:18.70 jjsi322o
>>379
再放送になっていちだんと考察が深くなって感心することしきり>本スレ
本当に愛されているんだな…
フミちゃんの定員は1名って、なんかエロいww
381:名無しさん@ピンキー
12/10/06 23:29:11.57 q/w12qSA
定員一名も萌えたけど、
目玉には魂が、魂がこもってるものは宝物
だからふみちゃんは宝物ってのが、もう
382:名無しさん@ピンキー
12/10/09 16:02:21.41 81A0jmp7
うんうん、今ごろつなげてきたかって感じw
リアル先生の発言で
「出雲の人は誠実で品がよくて特別の感じがする。」
「家内は出雲の出」
と言う発言もあります。どうせならつなげて言ってあげてごしないw
383:名無しさん@ピンキー
12/10/12 01:00:35.00 wkgx2zMB
水木プロの某つぶやきサイトでの投稿にたまーに奥さんネタが出てくるんだけど
ドラマ夫婦で変換しては妄想している…
ゲゲさんに桃をむいてあげるふみちゃんとかおいしすぎる
384:名無しさん@ピンキー
12/10/14 16:45:12.44 8EuhmcF6
本スレの天井舐めの流れ見てたら、
天井を見たくないと怖がるふみちゃんに騎乗位にしたらいいと提案するゲゲさん
という妄想がとまらなくてやばい
385:名無しさん@ピンキー
12/10/14 17:49:12.28 oqdvcWhP
職人さんの投下が最近なくて寂しい
自分は妄想あっても文才ないからなあ
386:名無しさん@ピンキー
12/10/17 19:51:00.29 ldcnTFCa
自分も妄想しかできないw
けど何回かここのネタを職人さんが昇華させてるのが微笑ましくて嬉しくて
しがない妄想をたまに書き込んでる
387:名無しさん@ピンキー
12/10/21 21:24:20.21 VZK7JT3a
ハチミツぺろぺろプレイするなら是非ふみちゃんに自分の身体に垂らさせる羞恥プレイ込みを…と
本スレを見て思う
388:名無しさん@ピンキー
12/10/22 11:20:10.18 y+MipeZ5
夫婦共演はないですかね?
篤姫、龍馬、シャルウイダンスやら映画やCMで再共演してるけど
389:名無しさん@ピンキー
12/10/25 10:48:38.80 dnQ+tmY/
他のを準備中でしたが、>>384さんのレス見たらなんだか放っておけなくてww
結婚した年の秋、音松親方が現れる少し前くらいの話と思ってごしない。
390:常世の国 1
12/10/25 10:49:47.38 dnQ+tmY/
ぽとん。畳の上に、一滴の水が落ちてきて吸い込まれた。
「・・・あれ?なんの水だろ・・・?」
ちゃぶ台で家計簿をつけていたフミエは思わず上を見上げた。
ぽとん、ぽとん・・・天井の羽目板に出来た水のシミからぶら下がった水滴がみるみる
膨らんで、つぎつぎに落ちてくる。
「やだ・・・雨漏り?」
あわてて新聞紙と茶碗を持ってきて、畳に水染みをつくり始めた水滴の下にあてがった。
夕方から吹き始めた風がいつの間にか雨を連れて来て、枯れ葉まじりの時雨が
窓ガラスを叩いている。
たかが一滴の水なのに、ぴちょん、ぴちょんという水音は静かな家の中にけっこう
大きく響く。フミエは今つけていた家計簿と、雨漏りを交互にながめてため息をついた。
「いつか来るかもしれんとは思っとったけど・・・。」
茂には悪いが安普請のこの家で、雨漏りがしても不思議はないのだが、梅雨どきも
台風の季節も乗り切ったこの時期に来るとは・・・やっぱりちょっと心が沈んだ。
(修繕するお金なんてないしなあ・・・。)
安来の家も古いから、雨漏りは珍しいことではなかったが、すぐさま出入りの大工が
呼ばれて直してくれたものだ。雨漏りを放置しておいて家全体が傷んでは、ご先祖に
申し訳がたたないというのが父の源兵衛の口ぐせだった。
「ああ・・・また出とる・・・。」
フミエは上目遣いに眼球だけを動かして天井のシミを見た。それは以前からフミエが
(人の顔みたい・・・。)と不気味に思っていたものだ。
男とも女ともつかない不気味な顔が、空洞のような目でフミエをみつめ、ぽっかりと
黒く開いた口から呪いの言葉を吐いているように見えるそのシミが目に入らないよう、
フミエは普段からあまり天井を見上げないようにしていた。
391:常世の国 2
12/10/25 10:50:31.59 dnQ+tmY/
水分を得たシミはくっきりと輪郭を際立たせ、心なしか前よりも活き活きとして
さえ見える。
「あのひと・・・どげしたんだろう?もうこげに暗いのに。」
戌井の家を訪ねると言って午後から出かけた茂は、そろそろ夕食どきと言うのに
まだ帰って来ない。窓に映ったフミエの心細げな顔に雨粒が吹きつけ、ガラスが
ガタガタと鳴った。
「しげぇさん・・・早く帰ってきて・・・!」
フミエは急に寒気を覚え、両手で自分の肩を抱いた。
「ああ・・・雨漏りか。ボロ家だけんしかたないな。」
急に雨が降ってきたので戌井のところで待たせてもらったとかで、茂は八時を
まわってからようやく帰ってきた。フミエの訴えを聞いて天井を見上げたが、茂は
慣れっこという感じで特に深刻にとらえる様子もなかった。
「木目が顔に見えるのは、ようあることだ。・・・障子を張り替えても張り替えても
同じ場所に現れる顔、と言うのなら怪談だけどな。」
江戸時代の怖い話の聞き書き集にあるとかで、茂は夕食を食べながら嬉しそうに
その怪異についてこと細かに教えてくれた。
(聞かんだったらよかった・・・ますます怖くなってしもうた。)
茂に妖怪の相談をしたのは失敗だった。ますます怖い気持ちがふくらんでしまって、
フミエは泣きたくなる。
「また読み返してみたくなったな。・・・戌井さんとこで思いついた話もあるし、
これ食ったらさっそく仕事だ。」
雨宿りの間、戌井と漫画談義に花が咲いて新しい着想を得たらしく、南瓜の
煮たのと大根漬けでモリモリとご飯をたいらげると、茂はさっさと仕事部屋に
こもってしまった。
392:常世の国 3
12/10/25 10:51:19.06 dnQ+tmY/
その日の夜。布団に入ってからずいぶん時間が経っても、フミエはなかなか
寝つけないでいた。天井を見ないようにしていても、目を閉じるとまな裏に
あの顔が浮かんでくる。茂に聞いた怖い話も思い出されて、眠るどころでは
なくなってしまったのだ。
宵のうちの時雨はとうに止み、顔を出した月の光が差し込んで部屋はうす明るい。
相変わらず風はつよく、雲がどんどん流れて不気味な陰を部屋の中に投げかけている。
つめたく湿った布団の中で、フミエはまんじりとも出来ずに、無理やり目をつぶって
怖いのを我慢していた。
深夜になって、茂が仕事部屋のフスマを開けて部屋に入ってきた。フミエは
心からホッとして、思わず起き上がってしまった。
「・・・なんだ、あんたまだ寝とらんだったのか?」
寝巻きに着替えながら、茂が驚いたように聞いた。
「眠れんようになってしもうて・・・あなたが怖い話されるけん。」
「怖い話・・・?そげなもんしたっけか?」
茂はさっきの話などすっかり忘れてしまったようで、さっさと自分の布団に
もぐり込んだ。
「うう、布団がつめたい・・・。ちょっこしあっためてごせ。」
ようやく少しだけ温まってきたフミエの布団に、茂の冷たい身体が入ってくる。
広げられた腕の中に包み込まれ、フミエはホッと安堵のため息をついた。
(あったかい・・・。)
同じように冷たい身体なのに、ふたり寄り添うとなぜ温かくなるのだろう・・・
フミエは今度こそ眠れそうな気がして、茂の胸に顔をうずめた。
「そう言えば、シミがどうとか言うとったな・・・。天井のシミは天井舐めと言う
妖怪が舐めた痕だと言うが、妖怪いうのは舐めるのが好きだなあ・・・。」
よせばいいのに、茂がまた怖い話を始める。
「もぉ・・・やめてください!・・・せっかく眠れそうなのに・・・。」
「なんだ・・・あんたも、夜更かししとるとお化けが足の裏べろ~んと舐めーぞ、
とおばばに脅かされた言うとったじゃなーか。」
茂がふざけて足の指でフミエの足の裏をすぅっと引っかいた。
393:常世の国 4
12/10/25 10:52:07.78 dnQ+tmY/
「ひゃっ・・・!!」
ぞくっとして反射的に足を引っ込め、フミエは思わず茂にぎゅっと抱きついた。
「こ、こら・・・そげにしがみつかれたら、別のところが起きてしまうが・・・。」
「え・・・?」
ふと力をゆるめたフミエの下腹に、覚えのある硬さが押しつけられる。息をのんだ
フミエの唇を、茂の唇が押しつつんだ。
「ン・・・んん・・・っふ・・・ぅ・・・。」
自分を欲している証しをつきつけられながら、口中を激しく責められる。フミエの
はだかの脚を、茂の足先がからかうように何度もこすり上げる。いつしか大きく
拡げられた脚のあいだが、とろとろに蕩けていくのがわかった。
「・・・あんた、こげしてほしくて、怖い怖い言うとるんじゃないのか?」
唇を離した茂が、少し息をはずませながらからかった。
「ち・・・ちがいます!」
「なんだ・・・違うのか。」
「え・・・?」
ちょっとがっかりしたような言い方にきょとんとしたフミエの唇が、また塞がれる。
「・・・ン・・・はぁ・・・ぁ・・・っん・・・。」
唇と唇が溶け合い、冷えていた肌に茂の大きな手が這わされる。さらしあった素肌と
素肌のふれ合いがたまらなく心地よくて、フミエは幸せそうに茂の背に腕をまわし、
甘い声であえぎ続けた。
「ぁあ・・・ぁん・・・っん・・・ぁあ・・・!」
胸乳を舐め吸いながら、潤いを確かめた手が膝を押し上げた。いつもより性急な
ことの運びが、茂につよく欲されていることを実感させて、歓びがじわりと拡がる。
394:常世の国 5
12/10/25 10:53:09.61 dnQ+tmY/
快をこらえながら少しずつ身を沈めていく時の、ちょっと苦しげないとしい顔を
少しだけ垣間見たくて、フミエはうっすらと目を開けた・・・そのとたん、茂の肩ごしに
あの天井のシミが目に入った。
「ぃ、いや・・・!こわい・・・。」
フミエは天井を見たくなくて、茂の胸に顔をうずめた。
「ん・・・?どげした。・・・今さら『こわい。』って・・・。」
結婚してから1年たらずとは言え、もう数え切れないほど抱き合って、身も心も
馴染んでいるはずのフミエの言葉に、茂は一瞬勘違いをして手を止めた。
「だ、だって・・・見とる・・・。」
フミエの指さす方を見ると、さっき見せられた天井のシミがフミエを見下ろしている。
「ははは・・・子供みたいだな、あんたは。」
「だって・・・目が合ってしまうんですもん。」
フミエは抱きついた胸から顔も上げずに、くぐもった声で反論した。
「ふーーーん・・・俺が一生懸命はげんどる時にも、あんたは天井見て『あのシミ、
人の顔に見える・・・。』とか考えとる余裕があるんだな・・・。」
茂は今にも貫こうとしていた体勢を元に戻し、わざと傷ついたような声で言った。
「・・・えっ・・・そ、そげなことありません!」
思っても見ない茂の反応に、フミエは驚いて胸から顔をあげた。
愛される時、フミエに周りの景色を気にしている余裕などほとんどなかった。
ただひとつ、超至近距離にある茂の端正な顔が、汗を浮かべ、快感に歪み、
のどぼとけがゴクリと動く・・・そんな官能的な表情に目を奪われることはあっても・・・。
「あげにひいひい言うとったのは、芝居だったんかな・・・。」
舌に指に、そして茂自身に・・・蕩かされ、占められ、奪いつくされる時のフミエの、
啼き声、涙、蜜、内部の収縮・・・それらが演技などではないことは、茂が一番よく
知っているはずなのに・・・。
395:常世の国 6
12/10/25 10:53:57.75 dnQ+tmY/
「・・・そげな・・・芝居・・・だなんて、私・・・。」
「本当に、よがっとるふりをしとるんじゃないんだな?」
言葉でなぶりながら、指は紅く色づいた実をつまんでこじっている。フミエは
もじもじと身体をうごめかせてなんとか逃れようとするが、重い身体に押さえつけ
られていて動けず、息を荒くして目に涙をため、震える声で答えた。
「・・・ぁ、ゃめっ・・・ほ・・・ほんと・・・ですけん・・・っ!」
「まあ・・・あんたにそげな演技力があるとも思えんが・・・。」
「だ、だけん・・・ほんとに・・・!」
乳首からじんじんと送り込まれる痺れが、フミエの思考能力を奪い去る。信じて
ほしいあまり何かすごく羞ずかしいことを口ばしりそうになって言いよどむ。
「わかった、わかった・・・。ほんなら、もっと見せてみれ。」
頭を撫でられてホッとしたのも束の間、さらけ出されたままの、蜜にまみれた花を
指でなぞられ、悲鳴をあげて身悶えた。
「・・・ひぁああっ・・・だめっ・・・だめぇ・・・。」
指で、言葉で・・・弄られ、責められて、ずきずき疼いている女陰から、情けないほど
温かい水があふれてきてしまう。
「まあ、演技じゃこげにぐしょぐしょには出来んだろうな・・・。」
引き抜いた指をわざと灯りにすかして、淫らに糸をひく粘液をフミエに見せつける。
「んっ・・・ぐ・・・ぅ・・・。」
蜜に濡れた指を口に挿し入れられ、舌や口蓋をくすぐられる。フミエはその手を
両手でつかみ、なぶる指に舌をからめて夢中で舐め吸った。
「だが・・・シミと目が合うと気が散るかもしれん・・・。」
フミエは頭がぼうっとして、もうシミのことなどさほど気にならなくなっていた。
けれど茂は、うるんだ瞳を霞ませて溶けた身体を横たえているフミエを見下ろし、
「ほんなら今日は、あんたが上になれ。」
と言った。
「・・・え・・・?」
「上を見んようにすれば、怖くないだろ?」
ごろんと横になると、フミエの手をぐいと引っぱった。