12/04/29 22:37:07.19 M4tY5eHt
―見てはならないモノを見てしまった。
ぶわっと額に脂汗を滲ませ、その時相田ケンスケが考えたのは友の心情についてであった。
この事を知ればきっとあいつは傷付く。傷付くに違いない。世の中には知らない方が良い真実があるのだ。
だからケンスケはそうっとノートを閉じ、自分のほんの気まぐれ、悪戯心が発見してしまったその劇薬物を
自分の鞄に仕舞おうとしたのである。
どこぞ人目に付かぬ場所でこのノートは処分してしまうしかない。
相田ケンスケ、掛け値の無しの善意であり、麗しき友情の発露であった。
この世にもし神が仏がいるのであれば、この少年の日頃の不行跡を差し引いてでもこれを称し、
ささやかな加護をもって手助けしても良い場面だったろう。
大盗賊のカンダタにだって蜘蛛の糸は垂らされたのだ。
しかしケンスケの前にお釈迦様のヘルプはもたらされなかった。ただ、誰にとっても不幸な結果しかもたらさないのに違いない
また別の善意、正義感が、彼の気遣いを遮ったのであった。
「あーっ!」
教室の隅でなにやらこそこそとしていたケンスケ。これを見咎め声を上げたのは、クラスでことさら彼に厳しいスタンスをとる
女子の一人だった。
もとより女子の間で評判の悪い彼だ。女子の誰に見咎められようと大差は無かったろうけれど、問題はこれが
周囲の注意を引いてしまったことだった。
「あんた! それマユミのノートじゃないの!?」
皆と共に振り返らせた顔を険しくさせて、金髪のクラスメイト、惣流・アスカ・ラングレーがケンスケの手元に向かって
指を突き付ける。
彼女の声はよく通るのだ。たちまち、放課後になってまだ教室に残っていた全員がケンスケに視線を注ぐ。そして、また
こいつは……と言わんばかりの態度で呆れを表してみせた。
「ち、違うぞっ。これは違うっ。別に変なことを考えたわけじゃなくてだな」
「ケンスケ……」
「違うんだ、シンジ! あああ、誰のためだと思って! そんな顔で俺を見るなよっ!!」
ケンスケと共に3馬鹿トリオとまで呼ばれる仲の碇シンジや鈴原トウジ。彼らも疑うことなくケンスケの有罪を信じて悲しげにし、
ため息をつく。
日頃の行いがものを言う。これは、そういう良い例だった。
そうしてアスカを中心とした女子たちがケンスケを吊し上げにする。その傍ら、事の一方の当人、被害者であるはずの山岸マユミが
何故か一人、こそこそと教室から逃げだそうとしていたのであった。